【御子を探して】突破せよ、蜘蛛の道

    作者:泰月

    ●羅刹の村を目指して
     摩利矢と共に羅刹の村を目指す事になった灼滅者達。
    「でも、どうやって潜入するのかな?」
     この星瞑の疑問に「村へ通じる抜け道があるよ」と答えた摩利矢の案内で、山中を進む。
     やがて辿り着いたのは、山の木々にひっそりと隠された洞窟だった。
     彼女はこの抜け道に向かう途中で、他の羅刹に見つかり追い詰められてしまったらしい。
    「此処まで来れば、他の羅刹は来ないはずよ」
     勿論、摩利矢がここまで自信を持って言うのには理由があった。
    「だってこの抜け道、むさぼり蜘蛛の巣窟だから」

    ●抜け道は蜘蛛ダンジョン
     むさぼり蜘蛛。
     その名の通り、巨大化した蜘蛛の眷属だ。腹部にある大きな口で獲物をむさぼる事からそう呼ばれている、のだが。
    「巣窟って……何匹いるんだ?」
    「とても多いとしか判らないわ。20や30じゃ済まないのは確かね」
     つまりうじゃうじゃいるようだ。聞いた渡里も、思わず言葉を失う。
    「あと、女王むさぼり蜘蛛もいるよ」
    「えっと……女王むさぼり蜘蛛って?」
     しれっと言われた、聞き慣れない言葉を聞き返す菜月。
    「此処のむさぼり蜘蛛の女王よ。女王むさぼり蜘蛛がいるから、誰も通れない道、とされてるの」
    「誰も通れないって……通れるの?」
    「大丈夫よ。私と一緒にいれば、襲われないから」
     思わず菜々花を抱きしめたマリーゴールドに、摩利矢は事も無げに言う。
     どうやら、御子の加護がある摩利矢ならば、女王むさぼり蜘蛛に襲われる事は無いのだそうだ。
     一緒にいれば、灼滅者達も襲われずに済むだろうとの事である。
    「女王以外のむさぼり蜘蛛は、野良眷属化してるから襲って来ると思うけどね」
    「あはは……大丈夫って言えるのかな」
     緋織が若干乾いた笑いになるのも無理はない。
     どうやら羅刹の村の前に、かなりの難所を一つ超えなければならない様だ。
    「皆さん、作戦を詰めてから突入しましょう」
     扇子で口元を隠し、小次郎が言う。この提案に、頷かない者はいなかった。
     約一名、なんで? と言う顔をした摩利矢を除いては。

    「まず全部倒すのは無理そうね。なるべく戦闘は避けるべきかな」
    「そうですね。遭遇したら最速で倒して進んで行きましょう」
     緋織の言葉に頷いて、御理が言う。
    「周囲の警戒も必要ですね。倒す前に増援が現れた場合の対処も考えておきましょう」
    「いきなり囲まれても対処出来る隊列にした方が良さそうですね」
     静菜と小次郎も、気づいた点を挙げていく。
    「勿論、私も戦うからね」
     話し合う灼滅者達に、摩利矢が告げる。
    「ありがとう。摩利矢さんってどのくらい強いの?」
     礼を言って、マリーゴールドが尋ねる。
    「……そうね。あの時の、赤羅。彼が相手だと正面から戦ったら勝てるかわからない」
    「ふむ。あの時の力は今も使えるのか? 前に俺達の仲間と戦った時に傷を治した」
     この渡里の問いには、摩利矢は首を横に振った。
    「出そうとして出せる力じゃないの」
     どうやら自分で出しているわけでは無いので、自分でも良く判らないそうだ。
     とは言え、共に戦ってくれるのはありがたい。
    「突破した後の事も考えておきましょうか」
     静菜の言葉に、全員が頷く。
    「御子さんの説得が必要になったりもするかな?」
    「バベルの鎖で見た予兆の事もありますし、考えておいてもいいかもしれません」
     星瞑の予想に、見えた予兆を思い出して頷く御理。
     いずれにせよ、目指すのは御子の救出と言う事は決まっている。
     ならば抜け道を突破してからどう動くか相談するより、今の内に予定は立てておいた方が良いだろう。
    「絶対に御子さんを助けようね、摩利矢さん」
     菜月の言葉に、強く頷く摩利矢。
     そして相談を終えた一行は、むさぼり蜘蛛の巣窟へと足を踏み入れる。


    参加者
    夕永・緋織(風晶琳・d02007)
    李白・御理(外殻修繕者・d02346)
    結島・静菜(清濁のそよぎ・d02781)
    刻野・渡里(高校生殺人鬼・d02814)
    謝華・星瞑(紅蓮童子・d03075)
    浅凪・菜月(ほのかな光を描く風の歌・d03403)
    マリーゴールド・スクラロース(小学生ファイアブラッド・d04680)
    丹下・小次郎(神算鬼謀のうっかり軍師・d15614)

    ■リプレイ

    ●晴時々むさぼり蜘蛛
     少し薄暗くなったな。
     そう夕永・緋織(風晶琳・d02007)が感じた次の瞬間。
     彼女の目の前には、カサカサ動いている黄色と黒の縞々の足があった。
     洞窟天井にいくつも空いている縦穴から降りてきた、一匹のむさぼり蜘蛛の足だ。
    「――~~っ!」
     喉まで出かかった悲鳴を必死の思いで押し殺し、反射的に動いた緋織の手から放たれた風の刃がむさぼり蜘蛛の足を何本か斬り飛ばす。
    「いきなりですね!」
     丹下・小次郎(神算鬼謀のうっかり軍師・d15614)がだんびらの柄に手をかける。
     しかし彼が刃を抜くよりも早く、横から叩き込まれた鬼の拳がむさぼり蜘蛛を叩き潰した。
    「巣窟だって言ったじゃない」
     けろりと言ってのける、羅刹の摩利矢。
     手負いの野良眷属をあっさりと仕留めた攻撃力は、流石にダークネスと言った所か。
    「大丈夫ですか?」
    「ああ、一匹だけだ。オレ達の出る幕なく片付いた」
     不意の遭遇を凌いだ直後、先に進んでいた3人が戻ってきた。結島・静菜(清濁のそよぎ・d02781)の問いに、刻野・渡里(高校生殺人鬼・d02814)が答える。
     3人ずつ3列で進んでいた一行だが、1列目と2列目の間隔が少し開いた丁度その時に、上から一匹ご登場されたのだ。
     とは言え、抜け道の洞窟は起伏のない平坦な道とはいかない。隙間が開いてしまったのもやむを得ない事だろう。
    「穴の中、判りにくいな。もっと気をつけないと」
     謝華・星瞑(紅蓮童子・d03075)が、蜘蛛の出てきた頭上の縦穴を見上げる。光の差し込む縦穴は下から見上げると、逆光になる。じっと動かずにいられたら、蜘蛛か岩かを瞬時に判別するのは難しい。
    「……だ、だだい、だいじょぶ」
     やや舌がもつれながら答える緋織。
     よりにもよって、最初の一匹が虫全般が本能レベルで苦手な彼女の目の前に降りて来たのは、不運としか言い様がない。
    「でも、早く抜けよう、ね……」
     いつもは肝が据わっている緋織も、苦手を前では思わず本音が漏れる。その背中を李白・御理(外殻修繕者・d02346)がぽんぽんと軽く叩く。
    「頑張って早く抜けましょう。そこの角の先に2匹、いますけど」
     どうやら別のむさぼり蜘蛛に遭遇しかかった為、一旦戻ってきたようだ。
    「2匹。なら一気にかかれば時間はかけずに済みそうですね」
     小次郎の言葉に頷く仲間達。
     向こうから襲って来ずとも、障害になるなら倒すより他にない。
    「後ろは来てないよ。私達で警戒おくね」
    「菜々花、上から来るかもしれないし、注意しててね」
    「ナノ!」
     浅凪・菜月(ほのかな光を描く風の歌・d03403)とナノナノを頭に乗っけたマリーゴールド・スクラロース(小学生ファイアブラッド・d04680)が後ろと頭上にも気を配っている。
     先程の様に上から来られても、数が多くなければ3列目の仲間で対処出来るだろう。
    「今です!」
     合図で一気に飛び出す。先頭に出たのは静菜と、案の定と言うか何と言うか、摩利矢だ。
    「摩利矢さんは左を!」
     そう呼びかけて、自身は三日月を貫いたかの様な愛用の十字槍で捻りを加えて右の蜘蛛を貫く。そこに、御理が鋼鉄の獣を支配した杖を、続けて星瞑がマテリアルロッドを蜘蛛に軽く当てる。
    「1、2、3――爆砕!」
     星瞑のカウントで、2人が流し込んだ魔力に内側から蜘蛛を砕くのと同時、摩利矢の一撃で口を潰された蜘蛛の胴を、小次郎の刃が斬り裂いていた。

    ●幕間
    「これは……」
    「蜘蛛の糸だらけですね」
     奥に進むにつれて次第に増えてきた、行く手を阻む大きな蜘蛛の巣。御理と静菜が思わず顔を見合わせる。
    「近くにいるのね……」
     巣があるという事は、むさぼり蜘蛛もいると言う事。緋織の目が若干遠くなる。
     可能な限りむさぼり蜘蛛との戦闘を回避しようと、蜘蛛の糸の隙間を縫って進もうとする灼滅者達。
    「この糸、邪魔ね」
    「摩利矢さん、ここ、この隙間を抜けられますから。切らずに行きましょう」
    「戦力の消耗を避けるためだよ、摩利矢殿」
     摩利矢の掌中で風が渦巻き出したのに気づいて、小次郎と星瞑が慌てて止めに入る。
     彼女が突っ走らないよう、布陣の中央にいて貰ってもこれだ。
     少し前には、止める間もなく風を放って蜘蛛の巣をバッサリ切って、3匹のむさぼり蜘蛛に気づかれる羽目になったのだ。
     その時、むさぼり蜘蛛にかぷっとやられたのが、小次郎と星瞑の2人という訳だったりする。
    「つい、切った方が早いと思うのよね。君達、むさぼり蜘蛛に負けてないし」
     当の摩利矢に、先の(半ば彼女が原因で発生した)戦闘を気にした様子はない。
    (「……この、つい考えずに動くってのは、羅刹全体の特性なんだろうかね?」)
     渡里は、思わず胸中でぼやく。
     現実的な問題として、これ以上大きな蜘蛛の巣があれば糸に触れずに進むのは不可能になる。故に、いずれは蜘蛛の巣を切り開いて進まざるを得なくなるだろう。
     だが、先程の様に『つい』で動かれて、やり過ごせたかもしれない戦闘に突入するのでは堪らない。
     尤も摩利矢がむさぼり蜘蛛との戦いを躊躇していないのは、灼滅者達を戦力的にも信頼している証と言えるだろう。
    「……あの、嫌じゃなかったら、後で手を繋いでもいいかな?」
     そんな中、摩利矢と手を繋ぎたいと菜月が告げる。
     蜘蛛の巣を縫って進みいつ戦闘になるともしれない今は、妨げになりかねないが後でなら。
    「そのくらいなら。まあ嫌じゃないけど」
     少し不思議そうながら、菜月に頷く摩利矢。
    「ねぇ、摩利矢さん」
     マリーゴールドにも1つ、伝えておきたい事があった。
    「さっきの質問の答え、人間は必要って。人間はダークネスの家畜なのかな?」
     数を増やすのに必要なだけ。そう言う事ならば、それは家畜の様な立場だ。
    「私は魔利矢さんの家畜じゃなくて、友達になりたい。だから今回の事も頑張りますね」
     支配される、支配する。そういった関係ではなく、ただ友達になりたいのだと。
    「ナノナノ!」
     頭の上から、奈々花も自分もだと言わんばかりに一声。
    「家畜とは思ってないよ?」
     2人の言葉を黙って聞いていた摩利矢は、そう口を開く。
    「そんな風に思っていたら、定食屋でアルバイトなんかしないよ」
     あの定食屋に居着いたのが、追っ手の目を誤魔化す為。それだけなら、ましてや人間を家畜のように思っているのなら、アルバイトとして働いて人目につく立場になる意味はないのだ。
    「君達のことは嫌いじゃないけどね」
     摩利矢はマリーゴールドを見やり、続ける。
    「今は御子ちゃんを助ける事で頭の中いっぱい。だから、その、後で考える」
     この摩利矢の返答は、状況を理由にした先送りとも言えるものだ。
     だが、友達になりたいと言うマリーゴールドの意志が否定される事もなかった。
     摩利矢とこうして言葉を交わし、目的を同じくするようになってから、まだ短いが、いつかは手を繋いで、友達だと言える関係になれる未来があるかもしれない。
    「でもね。組長達は、そんな考え方かもしれない」
    「その組長ってのが――」
    「うん。君達がバベルの鎖で見たって言う、御子ちゃんに何かをさせようとしてた羅刹で、間違いないと思う」
     渡里の問いに、頷く摩利矢。
     灼滅者達が予兆で見たのは、御子と呼ばれる幼い少女が地獄絵図に力を注ぐよう、壮年の羅刹に言われている光景。
     恐らく、その少女が摩利矢の言う『御子ちゃん』と同一人物で、壮年の羅刹が、対立している組長。
     確証こそないものの、その見解は灼滅者と摩利矢の間で一致していた。
    「此処を抜けたら、御子さんがどんな人か教えて下さい」
     ラグナロクと言う言葉に眩む事がないよう、人としての彼女を知っておきたい。
     御理のこの言葉には、摩利矢は素直に頷いた。

    ●女王蜘蛛の間を抜けて
     しばし続いた、むさぼり蜘蛛の出ない穏やかな時間。だが、それも長くは続かなかった。
     それからしばらく経った今、灼滅者と摩利矢一行は、結構な数のむさぼり蜘蛛に追われて洞窟の中を全力疾走していた。
    「後ろから何匹来てますか!」
    「さぁな! ぱっと見で5匹以上!」
     御理と渡里が、前後で状況を叫び合い確認する。この状況では、気づかれないように声を潜める必要もない。
     こうなった最初の原因は、少し前に起きた遭遇戦。
     前後の縦穴から同時に2匹ずつむさぼり蜘蛛が現れたのだ。
     計4匹。摩利矢もいるし、戦って勝てない数ではなかったが、一行は前方の2匹のみを撃破し逃げる事を優先して、先を急いだ。
     しかし、むさぼり蜘蛛もそう簡単に見逃してはくれず、一行を追いかけて来たのだ。
     後ろから追われた状態では、前方に新たな蜘蛛の巣が現れても、注意深く隙間を縫って進む程の余裕は流石にない。自然と、巣を斬って進まざるを得なくなる。
     足を止めて追ってくるむさぼり蜘蛛を倒した所で、巣の主に気づかれれば結果はあまり変わらない。故に、この選択は間違いではない。
     が、それを繰り返している内に、他のむさぼり蜘蛛にも気づかれたのだろう。
     いつしか、2匹だった追っ手は倍以上の数になっていた。
     幸い、追ってくる蜘蛛との距離はかなりある。散発的に糸が飛んで来るものの、敵の数の割に被害は少ない。
    「菜々花、シャボン玉!」
    「ナノ!」
     マリーゴールドが走りながら爆炎の弾丸を放ち、頭の上のナノナノがシャボン玉を飛ばす。
    「サフィア!」
     渡里の声で霊犬が六文銭をむさぼり蜘蛛の群れに向かって放つ。彼自身も、瞬時に鋼の糸を張り巡らせる。
     攻撃の当たった音はしたが、蜘蛛の数はあまり減ったように見えない。
    「あれ? 前の方、なんか広くなってるみたい?」
     その時、最前列を行く星瞑が気づいた。視線の先で、天井が途切れている事に。
    「出口ではなさそうですが……?」
    「いいの。そのまま行って!」
     訝しむ静菜に、摩利矢が進めと告げる。
     果たして、その先に飛び込んでみれば、天井は途切れていたのではなかった。
     急に天井が高くなっていただけだ。
    「これは……」
    「ここの天井にいるのが女王蜘蛛よ」
     指差した摩利矢に釣られて見上げて見れば、遥か頭上に巨大な蜘蛛。視線を感じる様な気はするが、確かに動く気配は無い。
    「ねぇ。周りからカサカサ音が聞こえるの、私の気のせいかな?」
     緋織が気づいたのは蜘蛛の足音。姿は見えないが、この広い空間に女王以外のむさぼり蜘蛛もいるようだ。
    「先を急いだ方がいいな。後ろからまだ来てる」
     渡里が後ろを振り返り先を促す。女王蜘蛛に手は出さないと決めているが、もし此処で戦闘になり流れ弾でも当たったら、今は大人しい女王蜘蛛もどうなるか。
    「足を止めてる暇はないですね。摩利矢さん、出口は?」
    「出口に通じてる横穴は一つよ。付いて来て!」
     小次郎が尋ねれば、言うが早いか、先頭に飛び出す摩利矢。
    「通してくれてありがとうなんだよ♪」
     摩利矢の背中を追いながら、頭上の女王蜘蛛に礼を言う菜月。
    「意思のある蜘蛛さんなんでしょうか?」
    「協力してくれたことには変わらないもん」
     少し首を傾げる御理に、笑顔で告げる菜月。協力、とは違うと思うがそれを確かめる術も時間もない。
     しつこく追いかけてきたむさぼり蜘蛛が、姿を現した。
    「こっちよ!」
     摩利矢の示した横穴に、灼滅者達は迷わず飛び込んだ。

    ●光の先へ
    「前方に3匹。このまま突破します!」
     御理が伸縮する刃を振り回し、道を遮る蜘蛛の巣ごと、前方にいる3体のむさぼり蜘蛛をまとめて薙ぎ払う。
    「やらせるかよ! アガティーラ、ビィィィム!!」
     ガチガチと腹部の牙を鳴らし、飛びかかろうとしたむさぼり蜘蛛を、星瞑がビームで撃ち落とす。
    「仲間と一緒に洞窟攻略も、楽しいものですね」
     愛用の槍を振り回し、むさぼり蜘蛛を一匹貫いた静菜はどこか楽しげ。見かけによらない、戦乙女の本性を垣間見せる。
    「スマートな攻略にはなりませんでしたけど、ね!」
    「最初からこの方が早かったんじゃない?」
     小次郎がむさぼり蜘蛛の牙をだんびらの刃で阻めば、摩利矢の放った風がその蜘蛛を両断した。
     戦闘は最小限に。こうして2匹倒した事で、隙間が空いたならば、全員でそこを一気に駆け抜ける。
    「い、いま、何か柔らかいの踏んだ気が!」
     時には何かを踏んづけて駆け抜ける。何かってまあ、地面の穴から這い出てきたむさぼり蜘蛛だろうけど。
    「気にしたらダメです!」
     ちょっと怯みそうになった緋織を激励して、マリーゴールドが炎を纏わせたウロボロスブレイドを一閃。
     後方、新たに天井から降りて来つつあったむさぼり蜘蛛を斬り裂き燃やす。
    「次から次へと、しつこい連中だ」
     真下に潜り込んだ渡里が鋼の糸を振るう。高速を伴う殺人技巧。むさぼり蜘蛛が切られた、と思った時にはもうそこに渡里はいない。
     天井スレスレから羽の軌跡を描いて飛来した白い矢が、むさぼり蜘蛛に止めを差した。
     更に、後ろの蜘蛛もまとめて数体、矢に貫かれている。放ったのは、風精を模した白い弓を構えた緋織。苦手な虫に乱れそうになる心を意識して抑え、平静を保ち撃つ。
     こうして後ろの3人が走りながらも攻撃しているのだが、倒さずに突破した何匹かは追っ手に加わったのだろう。あまり数は減ったように見えない。
    「まだ、出口につかないのかな?」
     優しい風を招いて絡みついた蜘蛛の糸を払う菜月。
     彼女が仲間を癒すことに専念している事で負傷は最小限に抑えられているが、ずっと追われ続けるというのは、精神的にも疲れるものだ。
     上から前から後ろから、迫るむさぼり蜘蛛を倒し、駆け抜け更に走り続ける事、数分。
    「見えた、出口です!」
     遂に、前を行く静菜が、縦穴からの光とは違う、前方から差し込んでくる強い光に気づいた。
     その間に、また一匹のむさぼり蜘蛛が出てくるが――。
    「邪魔です!」
    「ぶっ飛べぇぇぇ!」
     間に出てきたむさぼり蜘蛛は、御理が鬼と変じた拳で殴りつけ、星瞑が巨大なハンマーで壁に叩き付け、あっさりと沈黙させる。
     もう、道を遮るものはない。全員で、一気に駆け抜ける。
     そして。
     彼らの視界に飛び込んできた、森の緑と空の青。
     後ろを振り返れば、あれほどおって来たむさぼり蜘蛛は洞窟の外に出ようとせず、引き返していく。
     抜けたのだ。蜘蛛の道を。
     いよいよ、羅刹の村は目前。しばしの休息の後、灼滅者達は3手に分かれて行動を開始した。

    作者:泰月 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年7月6日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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