もういいかい

    作者:佐和

    『……昔、小学校の中庭でかくれんぼをした子供達がいた。
     ある男の子が鬼の時、ちょっとした悪戯心で、その子を置いて友達は全員帰ってしまった。
     何も知らない男の子はただ1人、日が暮れても、暗くなっても、もういいかい、と声をかけ続けて。
     そのまま行方不明となった。
     それ以降、夜、中庭に人がいると、その男の子の声が聞こえるのだという。
     そして、もういいよ、と答えた相手を、男の子は自分が居るところへ連れて行ってしまうと……』
     
     数年前に廃校となった小学校。
     夜闇の中、その校門を乗り越える幾つもの影があった。
    「うっひゃ~。雰囲気出まくり」
    「これぞきもだめし、って感じだよな」
     懐中電灯の明かりと共に聞こえるのは、怖がるような面白がるような声。
     この学校の卒業生である彼らは、かつて通った道を校舎へと向かって行く。
     目的は言葉の通りのきもだめし。
     暗く誰も居ない学校、というだけで充分ではあるが、彼らはそれ以上の条件を知っていた。
     それは、学校にはつきものの怪談話……学校の七不思議。
     その中の1つ、校舎と体育館の間にある中庭のもの。
     まあ、単純に、校舎内には入れなかったので、外の話に的を絞っただけなのだが。
     わいわいと彼らは中庭へ向かって、辿り着いたそこで足を止めた。
     誰からともなく口を噤み、辺りに静寂が訪れる。
     しばし、無音の時間が流れて。
    「あーあ。やっぱ作り話かよ」
    「まあ、そんなもんだよなー」
     がっかりしたような、それすら楽しむような笑いが起こった。
     そのまま中庭を通り抜けて帰ろうと、誰からともなく歩き出して。
    『もういいかい』
    「……え?」
     再び、静寂が戻る。
     彼らは、歩き続けながらも引きつった顔を見合わせて、
    「今の……誰だよ?」
    「何、お前、ビビってんの?」
    「答えたらアレだろ? 皆でからかおうって魂胆だろ?
     誰が答えるかよ、もういいよ~、なんてよ!」
    「答えてんじゃねぇかよ!」
    「やっぱイチはばかだー」
     笑い声が彼らを包む。それは無理矢理なものもあったのだが。
     ゴッ……びちゃっ。
     明るく振舞おうとしながら中庭を進む彼らの声に、その音は小さく混じっていた。
    「で? 誰が言ったんだ?」
    「俺見ながら言うな! 冤罪だーっ!」
    「じゃ、俺、弁護士やってやる。罪が軽くなるようにな」
    「俺ら傍聴席にいるぜ。なー? イチ……」
     ずごっ……どさっ……ぐちょっ、ぐちょっ。
     音は段々大きくなっていく。
     いや。
    「有罪は確定!? 味方ゼロ!?」
    「真摯な態度を見せれば、情状酌量の余地があるぞ」
    「あれ? ニケ、お前何しゃがんで……」
     ゴリッ……びちゃっ……ずるっ。
     対比していた彼らの声が段々少なくなっていたから、音が大きく聞こえるようになっただけで。
    「真犯人はこの中にいるー!」
    「おい、ミキ。この煩いのどうにかし……」
     ばきょっ……ぐちょっ……びちゃびちゃびちゃっ。
    「……って、放置するなよ! 1人でこんなことやっても寂しいだろ!?」
     最後の1人が振り返って見たものは。
     首を、胸を、頭を割られて、ぴくりとも動かない友達の姿と。
     無言で血まみれの斧を振り上げた、大きな鬼の姿、だった。
     
    「学校にあった、かくれんぼの七不思議。それが本当になったらしいんだよ」
     教室の前方にある机に腰掛けて、ミケ・ドール(凍れる白雪・d00803)が冷たいソプラノボイスでそう切り出した。
     隣の机では、こちらは椅子に座って、八鳩・秋羽(小学生エクスブレイン・dn0089)がゼリーをもぐもぐ食べている。
    「この前、あっちむいてホイをしたがる都市伝説、ってゆー理解不能なやつを倒したんだけど、他の子供の遊び……かくれんぼなんかは大丈夫かな、って思ってちょっと見てもらったんだよねぇ」
     そうしたら、本当に被害に遭う人達が予知できたのだと言う。
     外れてくれた方がよかったんだけど、とミケは深々とため息1つ。
    「てことで、先回りしてきもだめしに来た男の子達を追い払ってから、七不思議を倒す、ってワケ」
     きもだめしに来るのは、男子高校生5人組。いずれもその学校の卒業生。
     怖いもの見たさ、というよりは、たまに集まってバカをやろう、といった感じで、本当に何か怖いものが見れるとは欠片も思っていないようだ。
     だからこそ、誰かに見つかったり、本当に怖いコトがあったりすれば、一目散に逃げていくだろう。
     こちらはさほど難しいことではない。
     難しいのは、その後だ。
    「七不思議は、かくれんぼの鬼として出てくるんだけど……
     本当に鬼の姿なんだ。斧持ってて、人間食べそうなカンジの」
     鬼は、七不思議の話と同じように、中庭に現れた相手に『もういいかい』と声をかけ、『もういいよ』と答えた直後に、話の中で鬼役の男の子がいた中庭の隅に現れて、そこからかくれんぼを開始する。
     そして、見つけた人間を片っ端から斧で割り殺し、中庭を血の海にしてしまうという。
     まるで、地獄絵図の血の池を、中庭に再現するかのように。
    「でも、見つからなければ攻撃されないんだな」
     まさしく、かくれんぼ。
     中庭は、中央部分は広く見通しがいいが、屋根つきの渡り廊下や水飲み場、小さな道具倉庫に生垣などがある。
     かくれんぼの場所に選ばれるだけのものはある、というわけだ。
     まあ、全員で1ヶ所に隠れるのはさすがに無理だし、油断してると見つかって不意打ちを喰らうこともあるけれども、作戦の一手としては使える、かもしれない。
    「ちなみに、鬼が使うのは、龍砕斧と、羅刹……つまりは神薙使いと似たサイキックみたいだ。
     回復よりは攻撃を優先してくるみたいで、その一撃は結構キツいようだよ」
     クラッシャーとでも思っておけばいいのかもしれない、とミケは言い添える。
     厄介な相手だが、相手が1体だけなのが幸いと言うべきか。
    「そういえば、この鬼は都市伝説なのかい?」
     足を組み替えながら隣に聞くミケに、秋羽は口に運ぼうとしたスプーンを止めて首を横に振った。
    「……違う、かも……眷属? ……よく、分からない……」
     そう、と呟いて、ミケは再び灼滅者達に向き直る。
     正体不明とはいえ、犠牲者が出るなら放っておくわけにはいかない。
     ミケは集まった灼滅者達へと視線を戻して、彼らを見回す。
    「ちょっと危ないかくれんぼだけど、よろしく頼むよ」
     人形のように可憐に微笑むミケの横で、空のゼリーカップとスプーンを手に秋羽も頷いた。


    参加者
    田所・一平(赤鬼・d00748)
    ミケ・ドール(凍れる白雪・d00803)
    左藤・四生(覡・d02658)
    神崎・摩耶(断崖の白百合・d05262)
    千景・七緒(揺らぐ影炎・d07209)
    斉藤・歩(炎の輝光子・d08996)
    出雲・淳志(魔縁薙・d09853)
    御風・七海(夜啼き翡翠・d17870)

    ■リプレイ

    ●かつての学び舎、今はなく
     静まりかえった廃校に、笑い声と話し声、そして足音が近づいてくる。
     人通りのない夜道を、迷わず校門前へと辿り着いたのは、5つの人影。
     夜闇の中、佇む校舎の影を見上げた彼らの声に、懐かしさが混じって。
     そのうち、1人が校門を閉ざす柵へと手をかけ、乗り越えようと足に力を込めた。
     その時。
    「こんな時間に、何をしているんですか?」
     割り込んだ声に、5人の身体が揃ってびくっと震える。
     慌てて振り向くと、道の反対側から来たのだろうか、左藤・四生(覡・d02658)が立ち止まったところだった。
     訝しげな視線を向け、携帯電話を取り出した四生を見て、5人に動揺の気配が広がる。
    「まあまあ、穏やかに行こうぜ」
     そんな四生の後ろから現れたのは斉藤・歩(炎の輝光子・d08996)。
     四生に歩み寄り、にこやかにその肩を叩きながら、歩は5人に向き直ると、
    「お前ら、今日のとこは俺達に譲っとけ。
     そうすれば、明日にはもっと楽しくなってるぜ?」
     にかっと笑いかければ、5人は戸惑いながら互いに顔を見合わせる。
    「……おい、どうする?」
    「べ、別に警察とかじゃねぇし、大丈夫じゃね?」
    「てか、誰だよあいつら」
     ぼそぼそと仲間内の会議を開いていた、そこに。
    「命惜しくば引き返すがいい」
     出雲・淳志(魔縁薙・d09853)が仰々しい言葉と共に姿を現す。
     しかも淳志は部分鎧をつけた和服姿。鞘に収めたままとはいえ日本刀を携えていて。
    「ここのところ余所者が騒がしい」
     眼鏡越しの目つきも冷ややかに告げると、その古風な雰囲気が、暗闇の中、時代錯誤な不可思議な感覚を生み出した。
     5人は言葉もなく、無意識に1歩後ろへ下がる。
     じとり、と冷や汗が頬を伝っていく不快な感触を感じて。
     同時に耳に小さな音が届いてくる。
     ……くすくすくす。
     小さく響くそれは少女の笑い声。
     つ、と視線を反らした1人は、電柱の影に立つ人形を目にして息を呑んだ。
    「駄目だよ……」
     ぼんやりと闇の中に浮かび上がるような、等身大のピスクドールの唇が小さく動く。
    「鬼が出るんだよ。キミ達、死んじゃうよ……」
     くすくす、という笑い声と、物騒な単語と共に、その整った顔が楽しそうに笑みを浮かべて。
    「うわぁぁぁっ!!」
     母校にきもだめしに来た5人組は、予想外の恐怖を抱えたまま逃げ出した。
    「またなー」
     その背に歩が笑顔で手を振ると、淳志、そして、電柱から身を離した人形……に見える容姿のミケ・ドール(凍れる白雪・d00803)が集まって。
     そして、校門の内側に隠れていた仲間達も姿を現す。
    「あらま。一目散ね」
     田所・一平(赤鬼・d00748)は、振り返りもしない背中を遠く見つめ、仲間の成果に苦笑した。
    「七緒、よろしく」
     その横では、神崎・摩耶(断崖の白百合・d05262)の合図に頷いて、千景・七緒(揺らぐ影炎・d07209)が殺気を放ち、決して5人が戻ってこないようにする。
    (「友達同士でバカやって……いいなぁ」)
     もう闇に紛れて見えなくなった背中を、ちょっとだけ羨みながら。
     そして、校門の外にいた4人が軽く柵を乗り越えて、灼滅者達は一同に会すと、
    「さて、次に行きますか」
     歩の声に中庭へと向かって歩き出した。
     きもだめしの次はかくれんぼ、だ。
     仲間の一番後ろを、とてとてとついていった御風・七海(夜啼き翡翠・d17870)は、ふと足を止め、振り返る。
    (「ああいう人達の心が、都市伝説を生むのかな? 何だか不思議」)
     無表情のまま、柵の向こうの夜闇を、少しだけ眺めて。
     踵を返して、仲間の背を、追った。

    ●かくれんぼは、まだ続き
     中庭へと近づいた灼滅者達は、事前の情報と目の前に見える中庭の風景とを当てはめて鬼の出現する場所を特定してから、それぞれ思い思いの場所へと向かった。
     大きな布を手にして上を見上げていた歩は、とんっと地を蹴り、壁に足をつけて。
     四生は中庭と渡り廊下を遮る衝立の、渡り廊下側へ身を潜める。
     道具倉庫の影に隠れたミケは、携帯電話を取り出した。
     淳志も水飲み場の裏へ回ってから、メール画面を起動。
     七緒と七海は、それぞれ別方向を警戒しながら生垣にしゃがみこむ。
     メールを打つ七緒の後ろで、七海は息を潜めて、
    (「隠れ鬼、どんな風に出て来るのだろう……?」)
     緊張と興奮、そんなドキドキが酷く耳に響いた。
     そんな仲間達からのメールを受け取ったのは、摩耶。
     一平と2人、鬼の出現場所の前へと進み出て、堂々とその身を晒す。
    『もういいかい』
     聞こえてきた声に、一平の口元に笑みが浮かんだ。
    「アタシさぁ、昔はやんちゃしてて赤鬼とか呼ばれたわけよ」
     携帯電話の画面を確認している摩耶に話しているようでも、独り言のようでもある口調。
    「つまりこれって、鬼対鬼、になるのね。
     いいじゃない? 燃えてくるわね」
     1人笑みを深める一平の横で、摩耶は隠れている6人へメールを送る。
     ……用意はいいか?
     すぐさま舞い込んでくるメール群を見てから、摩耶は一平の後ろへと回り込んだ。
     一平は鬼が出現するはずの場所を真正面に見ている。つまり。
    「鬼の後ろに隠れるってまた斬新よね。
     ま、これくらいさせて貰うわよ」
     笑みを含んだ元赤鬼の声に答える代わりに、頼もしい大きな背中に自らの背を預けて。
    『もういいかい』
     手を上げながら、すぅ、と摩耶は息を吸い込んだ。
    「もういいよ」
     凛、とした声が中庭に響き渡る。
     一平が真っ直ぐに、残る仲間がこっそり伺うように見つめる中庭の隅で。
     亡、と鬼の後姿が現れた。
     鬼はくるぅりと振り返り……次の瞬間、一平の前に立って斧を叩き下ろしてきた。
     とっさにかざした左腕を深く抉られ、一平は僅かに顔を顰める。
     衝撃を背中で感じた摩耶は、ガードを固めつつ一平の後ろから飛び出して。
     その目の前に、上から爆炎の弾丸が降り注いだ。
     鬼を襲った銃弾に遅れて、摩耶の横に歩が着地する。
     歩は校舎の壁を歩いて鬼の上を取り、隠れ身の術のように壁と同じ色の布で身を隠していたのだ。
     銃撃に一歩下がった鬼へと、歩が手放した布がふわりと覆いかぶさるように落ちてきて。
     そこに、生垣から飛び出した七緒と、道具倉庫から駆け寄ったミケの拳が突き刺さる。
     渡り廊下から四生が風の刃を撃ち放つと、布と共に鬼の身体が切り刻まれて。
    「惑え虚ろより出でし鬼。汝が敵は汝自身なり」
     視界を取り戻した鬼を、水飲み場側から淳志の放った護符が惑わす。
     七緒の後を追うように生垣から出てきた七海は、さっと戦場を見回した。
     バラバラに隠れていたおかげで、鬼を囲い込むような布陣。
     囮役の一平と摩耶以外は攻撃を終えて、それぞれがポジションに応じて鬼に向かい、または、鬼から距離を取っている。
     初撃がディフェンダーに向くように仕向けたからこその、回復後回しの全員攻撃。
     策の効果と現状をしっかりと確認してから。
     七海はその影で鋭い刃を形作り、鬼を切り裂いた。
     そして後方へと下がりながら、
    (「カミ、前衛は大変だけど頑張って」)
     七海の思いに応えて、霊犬・カミが鬼へと飛びかかる。
    「鬼、か……」
     そんな中、淳志が呟くように言った。
    「都市伝説とも眷属ともつかない不可思議な相手だが危険な事に変わりはない。
     全力で排除させてもらおう」
     かくれんぼの次は、鬼退治。

    ●嘆きか悔いか、鬼となり
    「回復は任せて下さい! 皆さんはなるべく攻撃に専念を!」
     仲間達に叫びながら、四生は治癒の光を一平へ向ける。
    (「作戦通り防御を削いで、皆を回復、と」)
     同じメディックの七海も、割り振られた役目を反芻しながら、
    (「私、弱いから……弱いけど、できることはあるから……」)
     状況を見誤らないようにとしっかり戦場を見据える。
     そんな2人の支援と、盾となるべく構えた一平と摩耶のガードを受けながら、残る4人と1匹は鬼への攻撃を続けていった。
    「かくれんぼはおしまい。今度は僕と鬼ごっこはどう?」
     ふっと笑みを浮かべながら冷たい声で囁いた七緒の動きを追い、鬼が横を振り向いて。
     一瞬視界から外れた隙に、銃をホルスターに戻した歩が鬼へ接近する。
     その足首をしっかと握り締めると、にやりと笑みを浮かべ、
    「ボール遊びは得意か? 俺はピッチングが好きだ」
     軽口をたたきながら、鬼の身体を校舎の壁へと投げ飛ばした。
     そこにミケが手を叩きながら踊り出る。
    「鬼さん、鬼さん、こちらにおいで」
    「鬼さん、今度はこっちだよ」
     合わせて七緒も声をかけると、起き上がった鬼が、七緒に向かって駆け出そうと足に力を込める。
     鬼が飛び出す直前に、ミケはその側面へとしなやかに回り込んで、
    「遊びに本気になるなんて、駄目だなぁ」
     くすりと笑みを浮かべながら、その剣を振り抜いた。
     深々と足を切り裂かれた鬼は膝をつき。
     だが、横に振った手から激しく渦巻く風の刃を生み出して七緒へと撃ち放つ。
     前衛の負担を減らすべく、それこそを狙っていた七緒は、冷静に風を見極め避けていくが、さすがに腕に足に、傷跡は刻まれて。
    「もう、無茶して……」
     とっさに飛び込んだ一平が、七緒を抱えて飛び下がった。
     七緒は、ありがと、と言いながらもにこにこ笑って、
    「ファイアブラッドは怪我してナンボだよ」
     言いながら、血にまみれた自分の腕を見下ろす。
    「でも、酷いことするなぁ……」
     流血から生まれるのは、炎。
     それはあっという間に刀を覆いつくし、七緒の剣線から、鬼へも燃え移った。
     苦笑しながら一平も、その拳を構えて鬼へと飛び込んでいく。
    「御風さん、千景さんの回復をお願いします」
     その後ろでは、四生の指示に頷いて、七海が七緒を癒しのオーラで包み込む。
     振り下ろされた斧を、その勢いに煽られた木の葉のように摩耶がひらりと交わすと、叩きつけられたそれは地面に突き刺さって。
    「……はっ!」
     動きが止まったその隙にと、淳志の刀が一直線に斧を握る手を狙い。
     走り込んだ歩がその勢いも加えて斧を足場に飛び上がり、鬼の顎を拳で掬い上げる。
    「ねぇ、キミ、本当に1人ぼっちにされた子なの?」
     凄まじいモーター音が響く中、ミケの囁きが、のこぎり状の駆動刃と共に鬼を抉り。
    「でもアンタがその子だとしても、話の中だけの存在でしょ?
     ダークネスとか、元人ってやつじゃないのなら……」
     後ろへ回り込んだ一平が、鬼の腹部を切り裂き、笑う。
    「心置きなくぶっ潰せるわね」
     傷だらけの鬼は、それでも尚、斧を振るい続ける。
     人間を追いかけ、求めるかのように。
    (「鬼さん、こちら。終わりの方へ」)
     心の中で呼びかけながら、七海が影の刃で鬼を刻めば、カミがその傷へと飛びかかって。
     七緒の斬艦刀が鬼を叩き潰す勢いで振り下ろされた。
     満身創痍な鬼の姿に、四生も雷を引き起こし、後ろに下がった巨体を追いかけ撃ち込む。
    「闇は闇に、塵は塵に返れ!」
     雷に足の止まった鬼の懐に入った摩耶は、拳の連打を叩き込んで。
    「ノウマク・サンマンダ・バザラダン・カン……」
     その後ろから、淳志が真言を唱えつつ鬼に接近する。
    「燃え盛れ火界の焔!」
     鬼から離れる摩耶と逆側へ、横を通り抜けるように駆け込んで、通りがかりのついでのように手にした符を鬼へ貼り付けると、そこから炎が吹き上がった。
     そこに、地を蹴り宙へと飛び上がった歩が、炎を右足に集中させての飛び蹴りを放つ。
     身を屈め、低い位置から鬼の死角へと回り込んでいたミケは、ふと、空を見上げ。
     月光の中に佇む大きな影と、舞い降りるかのように通り行く歩の影を見つめて、
    「もうおやすみ……」
     ミケは、静かにその刃を突き出した。
     ゆっくりと。
     鬼が地に倒れ伏して。
     月明かりの下、その姿が消えていく。
    「鬼退治成功だ。お前との戦い、楽しかったぜ」
     着地した歩が振り返り、鬼の消えた中庭へ、そう語りかけた。

    ●友と共に、今帰る
    (「どんな思いで、ここに待ってたのだろう。
     もういいよって言ってもらえるまで、ずっと独りぼっちで……」)
     静かになった中庭で、やっと終わったかくれんぼを思って、七海はぼうっと考える。
     独りぼっちの寂しさは、七海も知っているから。
    「ねぇ、みんなでかくれんぼ、やってかない?」
     そこに七緒の少し楽しそうな声が響く。
    (「家族以外とかくれんぼしたのなんて、幼稚園以来かな……」)
     もう今はやらなくなったかくれんぼ。
     だけど、ちょっと昔が懐かしくなっての提案。だったのだが。
     そういえば、と四生が呟いて。
    「かくれんぼって、怖い怪談の由来になってる事が多いんですよね」
    「きもだめしかぁ……いいねぇ、夏だねぇ……」
     ミケがくすくすと笑い出す。
    「ミケちゃんがそうやってると、本当に洒落にならないわ……」
     少し引きつった顔をした一平が、ぶるっと身体を震わせて。
    「かくれんぼなのか? きもだめしなのか?」
     摩耶がこくんと首を傾げる。
     予想外の話の流れ。かくれんぼはできそうにない雰囲気になってきた。
     けれども、皆の様子を眺めながら七緒はふわりと笑みを浮かべる。
     仲間と一緒なら、かくれんぼでもきもだめしでも、何でもいいのかもしれない。
    「さて。小腹も空いたし、おにぎりでも買って帰るか」
    「そうだな」
     伸びをしながら言う歩に、淳志が頷き、歩き出す。
     他の皆も帰路へと足を踏み出して。
     遊びを終えた後のような楽しい声は、次第に、中庭から遠ざかっていった。
     

    作者:佐和 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年7月18日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 11/キャラが大事にされていた 1
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