ヒヒイロカネ銀虎の矜持と焦燥

    作者:篁みゆ

    ●リーダーの危機
     閉館後の劇場の前。一心不乱に踊る一人の女性がいた。街灯に照らしだされたその姿はまるでスポットライトを浴びているようにも見える。
     女――ヒヒイロカネ銀虎は頭の中に流れるラブリンスター様の曲に合わせてステップを踏んでいた。
     カルマクィーンのリーダーである銀虎は他のカルマクィーン達を統率し、導く立場にある。ラブリンスター様のバックダンサーとしての振り付けも誰よりも早く、誰よりも完璧に覚える必要があった。
    (「最近みんなやる気を出していて、上達も早いからね。私が遅れを取っちゃまずい。皆の手本にならなきゃね」)
     ラブリンスター様のバックダンサーであることに並々ならぬ誇りを持っている彼女は、毎夜のように自主練を重ねている。カルマクィーンのリーダーとして、ラブリンスター様のバックダンサーとして恥ずかしくないようにと。
     ザッ、ザッ……。
     踊ることに夢中になっていた彼女に近づいてくるいくつかの影。この辺りは酔っ払いも多い。声をかけられることもままあった。だから最初はそのたぐいだと思っていたが……どうも違うらしいと銀虎が気がついたのは、包囲されているような気がしたからだ。
    「ただの酔っぱらい……じゃなさそうだね」
    「見つけた……裏切り者のラブリンスター一派……ヒヒイロカネ銀虎」
    「裏切り者? 何の話だい?」
     目深にフードをかぶった人物がぼそぼそと声を発した。声から男であることがわかった。
    「しらを、切るつもり……だね?」
    「言ってる意味がわからないんだから、白を切ることなんてできないさ」
     話の通じないやつだ、とため息をついた銀虎。だが相手は銀虎を裏切り者だと決めつけて譲らないようだ。
    「問答、無用……!」
     フードの男が片手を上げると、銀虎を遠巻きに囲んでいた男達が一斉に攻撃を始めた。
    「くっ……」
     銀虎も応戦するが、これは多勢に無勢。
    「死、ね」
     フードの男の喚んだ雷に打たれ、銀虎の身体は痙攣した。ぱたり、アスファルトの上に倒れ伏す。
    「ラブ……ター、ま……」
     伸ばされた手は無慈悲に踏みにじられ、彼女はそのまま動かなくなった。

    「……不死王戦争を覚えているかい?」
     教室を訪れた灼滅者達に神童・瀞真(高校生エクスブレイン・dn0069)が問う。灼滅者達のなかには向坂・ユリア(つきのおと・dn0041)の姿もあった。
    「あの時に灼滅したソロモンの悪魔、アモンの軍勢がまた事件を起こすようだよ」
     彼らはラブリンスター配下の淫魔に対して攻撃を仕掛けようとしている。不死王戦争では共闘していたラブリンスターが武蔵坂学園と接触したことを裏切りと取ったのかもしれない。あるいは不死王戦争の前からラブリンスターと武蔵坂学園が繋がっており、不死王戦争の敗北はラブリンスターの策略であったとでも思ったのかもしれない。
    「ダークネス同士の戦いだけれど、アモン残党の悪魔を倒す好機でもあるからね……」
     瀞真は複雑そうな表情で説明を続ける。
    「今回狙われているのは、不死王戦争でも戦ったヒヒイロカネ銀虎――彼女だよ。彼女が一人で踊りを練習している深夜の劇場前に、アルビンというソロモンの悪魔が強化一般人5名を連れて現れる」
     アルビンと強化一般人は、ヒヒイロカネ銀虎を守りながら戦おうとすれば互角。銀虎が倒されてから消耗しているところを狙ったり、銀虎と共闘したりすれば、戦いの難易度は変わってくるだろう。
     アルビンは魔法使いと同等のサイキックにマテリアルロッドのサイキックを使ってくる。強化一般人五名は契約の指輪のサイキックを使って攻撃してくる。
    「ヒヒイロカネ銀虎君はサウンドソルジャー相当のサイキックに加え、バトルオーラのサイキックを使用するよ。強さは今の灼滅者一人分くらい……かな」
     場所は深夜の劇場前。近くの通りに飲み屋の屋台がたくさん出ているらしく、酔っぱらいが多い。間違えて酔っぱらいが巻き込まれないよう注意が必要だろう。
    「接触タイミングが重要そうですね」
    「今回は『銀虎を守ってアルビンと戦う』『銀虎と協力してアルビンと戦う』『銀虎が敗北してから、消耗したアルビンと戦う』という選択ができる。どのタイミングを選ぶか、決めておいてほしい」
     ユリアの言葉に瀞真は頷いて続ける。
    「今回の任務はアルビン達の撃破だよ。それは忘れないでほしい」
     頼んだよ、瀞真は微笑んだ。


    参加者
    風野・さゆみ(自称魔女っ娘・d00974)
    高宮・琥太郎(ロジカライズ・d01463)
    龍餓崎・沙耶(告死無葬・d01745)
    アリス・クインハート(灼滅者の国のアリス・d03765)
    狗洞・転寝(風雷鬼・d04005)
    式守・太郎(ニュートラル・d04726)
    行本・月華(愛守りの射手・d18410)
    石見・鈴莉(雛の炎・d18988)

    ■リプレイ

    ●それぞれの思い
     カルマクイーンのリーダーの一人、ヒヒイロカネ銀虎が練習を行なっていて、更にソロモンの悪魔アルビン達に襲われるという。灼滅者達はその劇場前へと急いだ。
    (「暴走するアモン残党はここで掃討します。それに学園と友好関係にある一派のリーダー格を失う訳にはいかないので」)
    (「ラブリンスターさんの同盟関係のことは正直よくわかってないのですが~とにかく、ソロモンの悪魔は許すまじなのです~」)
     式守・太郎(ニュートラル・d04726)とその横を行く風野・さゆみ(自称魔女っ娘・d00974)。どちらもアモン残党への強い想いが感じられる。
    (「そもそも裏切っただなんだって勝手に考えて暴走するなんて、これだからソロモンの悪魔は信用ならないのです~……」)
     特にソロモンの悪魔を宿敵とするさゆみはぶつぶつと心中でこぼし続けている。
    (「自分達が戦争に負けたのを、ラブリンスターさん達のせいにして八つ当たりするなんてひどいです……」)
     アルビン達のしていることが道理に反しているということは幼いアリス・クインハート(灼滅者の国のアリス・d03765)にだってわかる。
    (「ラブリンスターさん達とは友好関係にありますし、銀虎さんをお護りします」)
     他の灼滅者達に遅れを取らぬようにと必死に手足を動かすアリス。そんな彼女と歩調を合わせるようにして行本・月華(愛守りの射手・d18410)は歩いてゆく。
    (「デモノイドはアモンが生み出したものらしい。その残党が相手……ある意味因縁の相手なのかな? お兄ちゃんを襲ってしまったこと未だに私は後悔してるけど……そういう人たちを何人も作ったことは、許せない」)
     彼女には彼女の思いがあって。若干険しい表情をしている。
    (「ラブリンスターとは同盟関係なんだ。私は最近救われたからよくわからないけど、考えを共有できるダークネスもいるのかな?」)
     少なくとも今回銀虎を襲いに来るアモン残党のソロモンの悪魔とは違うようだ、それはわかる。少し前を行く石見・鈴莉(雛の炎・d18988)は同盟相手が攻撃されているなら守らないと、と拳を握り締める。
     まさに思いは人それぞれで、高宮・琥太郎(ロジカライズ・d01463)はかつての不死王戦争で対峙した時の事を気にしていた。
    (「不死王戦争で銀虎に死の宿命を付与したとき、ちょっと勘違いしたコト言っちゃったんスよねぇ……ライブで会った時も名乗れたけど謝り損ねたし。まぁ、今回守りきれたら貸し借りチャラってコトで」)
     ダークネスであろうと女性を数でどうこうしようというのも気に入らない。それに折角出来た縁をヘンな形で失いたくない、琥太郎は先頭を駆ける。
    (「少なくとも、あちらが友好的でいてくれる限り……仲良くしていきたいよ、オレは」)
     だから、できるかぎり急いで向かいたい、急く気持ちが琥太郎の足を動かす。
    (「たわいもない日常が好きなんだ。皆がまったりのんびりできる日常がね。だから戦うよ、ダークネスと」)
     さあ行こうか――真っ直ぐ前を見据えて狗洞・転寝(風雷鬼・d04005)も琥太郎に続いていた。その転寝をすっと龍餓崎・沙耶(告死無葬・d01745)が追い越す。彼女には彼女なりの思いがあるのだった。
    「あそこね……あら」
     目的の劇場前。街灯が点々としている中に目的の人物の姿があった。一心不乱に踊っているようにみえる。沙耶はその姿を捉え、そして闇の中から彼女、銀虎にじわじわと近づいている存在に気がついた。
    「急がないと!」
    「ユリアくん、頼んだよ」
     琥太郎が速度を上げる。転寝は振り返り、向坂・ユリア(つきのおと・dn0041)へと声をかけた。
    「はい!」
     頷いて、ユリアは役目を再確認する。
    「行こう!」
     鈴莉が加速したのと同時に他の灼滅者達も、銀虎に接近いしつつある敵の合間を縫って銀虎との距離を詰める。
    「なっ……お前ら!?」
     ダンスの練習に夢中になっていた銀虎は、突如現れた若者達の中に見知った顔を見つけ、武蔵坂学園の者だとわかったのだろう、踊りをやめて身構えたのは一瞬だった。
    「お久しぶりッス。お元気ー……って聞いてる場合じゃないッスね」
    「いきなりなん――」
    「裏切り者が、仲間を呼んだ……」
     問おうとした銀虎は何かに気がついたように口をつむぐ。街灯の明かりで目指できる範囲まで、目深にフードを被った男とその手下が近づいてきていた。
    「裏切り者のラブリンスター一味……殺す」
    「裏切り者? 何を言っているのかわからないね」
    「詳しい説明は、後でします、この場は、ユリアさんと逃げてください……!」
    「いや、狙われているのは私だろ? 他人に後を任せて逃げる訳にはいかない」
     アリスが懸命に告げる。しかし銀虎は状況を把握しきれていないなりに思うところがあるようだ。月華とさゆみが銀虎の背中を守るように立ち、琥太郎が銀虎を庇うように前へ出る。
    「女性を守るってのは男のロマンってコトで、守らせてくれないッスかね」
    「そういう問題か?」
    「守ったら尚更誤解されちゃうって? いいんじゃない? それでもさ。何故って? 可愛い女の子を守るのに理由なんか必要ないでしょ?」
     にこりと笑った転寝は銀虎の横に立つ。その反対側に経った太郎は冷静に告げる。
    「ここは俺達に任せ、退避をお願いします」
    「だからっ……」
    「リーダーとして何を優先すべきか見誤らないで下さい」
     渋る銀虎は太郎の告げた言葉にハッと目を見開いて。
    「銀虎さん」
    「ああ、お前等の気持ち、受け取らせてもらうよ」
     鈴莉が呼びかけると、銀虎は息をついて頷いた。
    「内緒話、済んだ……?」
    「もうすぐ済みますので少し黙っててください」
     余裕があるのか声を掛けてきてロッドを振り上げようとしたアルビンに沙耶が接敵し、槍を振るって牽制の一撃を放つ。
     銀虎はこちらへ、と促すユリア共に包囲を突破しようとする。だが簡単には通してくれまい。そこで動いたのは白マフラーを靡かせた太郎と、助力に訪れた面々だった。
    「やり方が気に食わないので邪魔させて貰います。それに俺達も復讐の対象でしょう」
     一番手薄そうな手下に『深淵の手』を刃に変えて放つ。ローゼマリー、ミルフィ、アンリエル達が太郎が狙った手下の隣にいる敵へ攻撃を放つ。その瞬間、攻撃を受けた手下と手下の間に道ができた。
    「こっちだぜ!」
     静樹の上げた声を頼りにユリアは銀虎を連れて駈け出した。銀虎を守るようにハリーやセカイ、良太や琉希は彼女の後ろにつく。待て、と手下が叫んだのが聞こえた気がした。飛んでくる攻撃も、身を挺して防ぐ所存ではある。
     辺りでは酔っぱらいの退避が行われていて。
    「オラおっさん、とっとと家帰れや!」
     錠はガンを飛ばしまくり、最初は優しく誘導していたミルミは最終的に泥酔者をお姫様抱っこして運んだ。
    「ここから先は立ち入り禁止ですよ。どうかお引き取り願えますか?」
     摩那斗や他の者達の発動させた殺界形成により、酔っ払い達は怯えるように逃げていく。この場に集った者それぞれ様々な思いを抱えているだろうが、今は銀虎を助けてアルビンを倒すことを目標としていた。

    ●戦
    「裏切り者……逃がさない、追って」
    「そうはさせない!」
     琥太郎がどす黒い殺気を放ち、手下たちを侵食していく。銀虎の後を追おうとした手下のうち一人にさゆみは接近し、オーラを纏った拳を叩きこむ!
    「蔵王権現真言……オン バキリュ ソワカ!」
     封印を解除した転寝は『愛染』を繰り、アルビンへ心惑わせる符を放つ。霊犬のクロは射撃で手下達を襲う。二刀のように武器を持ったアリスの背中には翼のような形をしたオーラが広がっている。そんな彼女が発現させたのは逆十字。赤きオーラで出来たそれは銀虎を追おうとしたもう一体の手下を切り裂く。
    「ほんと……邪魔」
     アルビンがロッドを掲げ、喚んだのは雷。晴れた夜に雷が落ちる。轟音を立ててそれはさゆみの身体を痺れさせる。
    「きゃぁぁぁぁぁっ!」
    「風野さん!」
     鈴莉はさゆみを視界に収める。それでも彼女が立っているから、信じて高速移動で手下達をなぎ払っていく。その速さは龍の翼のよう。
    「大丈夫ですか? すぐに治療しますよ!」
     月華は矢に癒しの力を込め、さゆみへと放つ。ナノナノのオトトもふわふわハートで治療だ。
    「邪魔だ!」
     命令に従おうとした手下達が邪魔をする灼滅者達に魔法の矢を飛ばして反撃を試みてきた。矢は中衛と後衛を中心に飛来したが、強化一般人の放つ攻撃である、傷は負ったがダークネスであるアルビンの攻撃ほど深くない。ただ、この攻撃を一度に一人が浴びたらそれなりの傷になってしまうだろう。攻撃がバラけたのは吉だ。
    「その通りだ。こちらを倒さねば彼女を追うことは出来ない」
     沙耶は笑顔を浮かべたまま淡々と告げた。元々銀虎が十分に離れるまでは注意をこちらに向けたいと思っていたのだ。上段の構えから繰り出した一撃で、一番弱っていた手下を切り捨てた。太郎もまた、弱っている手下を見極め、裁きの光条を放つ。手下の数を早く減らしておきたい。
    「彼女をどうこうしたいならオレを倒してからいけ! ……って、一回言ってみたいセリフッスよねぇ」
     繰り出した槍を倒れ行く手下から引き抜きながら、琥太郎はアルビンを見やる。彼の表情はフードに隠れていて窺えそうになかったが、次々と手下が倒れていくからか、口元がわずかに震えているように見えた。
    「裏切りは自分で確かめたのですか~? 唆されただけではないですか~?」
     さゆみがロッドを振り上げ、手下へ魔力を叩きこむ。ふらついた手下は何も答えられないが、少しでも銀虎への敵視が減るならばそれで満足だった。
    「濡れ衣で女の子を襲うだなんて、そういうのを下種っていうんじゃない?」
    「……裏切り者への粛清に下種も何も、ない……よ」
    「愛染明王真言……オン・マカラギャ!」
     転寝の放つ符の梵字が光り輝く。符を受けたアルビンは一瞬震えたが、それだけだった。クロはそっと転寝の傷を回復させる。
     アリスは『ヴォーパルソード』を構成する光を爆発させ、残った手下達へと傷を負わせた。その時、前衛に立つ一同は足元から襲い来る酷い寒気を覚えた。それは容赦なく彼らの体温を奪っていこうとする。アルビンが放った魔法だ、そう思った時にはもう、身体中が凍りつきそうなほど冷えきっていた。さすがに手下の魔法とは威力が違う。
    「っ……」
     鈴莉は凍える手で武器を振り落とさないように注意しながら斧に眠る龍因子を開放して自身の傷を癒し、守りを固める。月華は立ち上がる力をもたらす旋律をかき鳴らし、前衛を鼓舞する。オトトは手下によって受けた沙耶の傷を癒した。
     傷を負いながらもまだ倒れない配下は一体が自身の傷を癒し、残りが死の魔法を放つ。だがその魔法はアルビンの物に比べれば――。
     沙耶が死の魔法を放った一体を斬り伏せる。太郎が影で斬り裂いた相手を琥太郎が地に伏させた。さゆみのオーラを纏った拳が残り一体となった手下を襲う。
    「おとなしく、眠って、ください……!」
     アリスは『クイーンオブハートキー』を手に手下に接近し、それを突き立てて魔力を流し込む。まるで鍵を差し込み、開錠するような動作だ。
    「く……」
     アルビンが漏らした声を聞いた転寝は符を投げて挑発とも言える言葉を放つ。
    「ダークネスには絶対に負けられないよ。アモンの手下なら尚更かな。皆を守りたいからね」
     クロが必死に回復を行なっているのを横目に見て、アルビンは竜巻を引き起こした。鋭い風が前衛を襲い、服や肌を切り裂いていく。
    「負けないよ!」
     鈴莉はシールドを手に手下へと迫り、思い切り殴りつける! すると手下は膝から崩れ落ち、動かなくなった。
    「皆さん、残るはアルビンだけです!」
     鼓舞するように月華がギターを鳴らす。オトトが治療を手伝い、数の上では圧倒的有利となったことで灼滅者達の瞳が尚更輝く。
     沙耶の中段の構えからの攻撃に合わせるように、太郎はアルビンの死角に入り、『灼滅刀』で斬り上げる。
    「デモノイドを生み出したあなた方を許す訳にはいきません。決着を付けましょう」
    「……お前達なんかに、やられない、よ」
    「余裕なんだねぇ」
     その余裕をぶち壊すように琥太郎がオーラを纏った拳を叩きこむ。身体を二つに折るようにして、アルビンは少し後ずさって。
    「逃げたりなんてしませんよねぇ~」
     追うようにしてさゆみも己の拳を叩きこんで問う。アリスは緋色の逆十字で攻め立てた。
    「降三世明王真言、オン・ソンバ・ニソンバ!」
     転寝は己の片腕を異形化させて物凄い力で殴りつける。その衝撃にアルビンがたたらを踏んだ。クロがその隙にと攻撃を放つ。アルビンは魔法の矢を作り出し、転寝へと撃ち出した。
    「くっ……」
     肩口に刺さった矢を見て口元を歪める転寝。その敵とばかりに鈴莉は飛び出し、盾でアルビンを殴りつける。
    「狗洞さん!」
     月華が癒しの矢を放ち、オトトがハートを飛ばす。その間に沙耶が魔法の矢を放った。その矢はアルビンの首筋を抉っていった。
    「狗洞先輩!」
     転寝の傷が深いとみた太郎は光条を放って傷を癒す手助けとして。琥太郎がロッドでアルビンを殴りつけ、さゆみが後を追う。アリスもそれに合わせて、更には転寝の攻撃。息をつく間もない連携でアルビンを責め立てる。アルビンが反撃にと放った矢は明後日の方向へと飛んでいった。
    「止めを!」
     誰かが叫んだその声に従って鈴莉と月華が動く。鈴莉の盾での一撃で身体を傾けたアルビンに、月華の放った彗星の如き矢が深々と突き刺さる。
    「……!」
     倒れる前にアルビンのフードが外れ、一瞬だけ顔が見えたが、彼はそのまま空気に溶けるように消えていった。

    ●休息
     アルビンを倒した後、灼滅者達は逃げた銀虎達の元へと向かった。事情を説明すればなるほどと銀虎は頷いた。
    「当面はカルマクイーンで集まって練習することをお勧めします。それと、ラブリンスターへの報告を」
    「ああ」
     太郎の言葉に頷く銀虎。そんな彼女に鈴莉はバベルの鎖で予知ができなかったのかと尋ねたが、バベルの鎖は万能ではなく、予知できるものと出来ないものがあると答えが返ってきた。どうやらその「予知できなかった」ものが事件となって、エクスブレインの予知として出てくるようだ。中には襲撃を予知して逃れた淫魔もいるのだろう。
    「もし良かったら、ラブリンスターさんともご一緒に、学園祭にも遊びに来て頂けると、嬉しいです……」
     アリスがちょこんとお辞儀をして告げると、銀虎はびっくりしたような表情を浮かべた。
    「学園祭か……今からでは都合がつかないかもしれないが、ラブリンスター様に伝えてはおくよ。今晩の件と合わせて」
     銀虎の無事な姿を見て心の中でホッとした灼滅者達。細かい気遣いのおかげで彼女の矜持も守れたことだろう。

    作者:篁みゆ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年7月12日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 14/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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