想い、囚われて

    作者:篁みゆ

    ●小さな、けれども強い想い
    (「どうしても、秋良君と『こいびとどうし』になりたいの」)
     体育の授業の後、水飲み場で顔を洗っている少年をナターリヤはじっと見つめていた。
     ナターリヤが転校してきた時に、色々と心配して世話を焼いてくれた優しい彼。頭のいい彼は、中学受験をするのだという。週に何回も、塾に通っているらしい。
     このままでは、卒業したら離れ離れになってしまう、そんなの嫌だった。ナターリヤはもっと彼と話したかったし、彼に近づきたかった。ただのクラスメイトの女子の一人ではなくて、彼の特別になりたかった。おねえちゃんが、彼氏の特別になっているみたいに。
     何が切っ掛けだったのかはわからないいけど、黒いものが体の中を渦巻いて、そしてナターリヤに語りかけた気がした。ソウルボードをいじって、自分に恋させてしまえ、と。
     ある日の秋良はとても眠そうだった。夜遅くまで塾の宿題をやっていたらしい。ナターリヤは運が良かった。帰り道にちょっと寄り道した公園の、あまり人が近寄らない奥の方のベンチで、秋良がうたた寝しているのを見つけたのだ。
     今だ、と身体の中で何かが叫んだ気がした。

    「来てくれてありがとう」
     教室にて微笑みを向けてきたのは、神童・瀞真(高校生エクスブレイン・dn0069)だった。灼滅者たちが腰を掛けたのを確認すると、和綴じのノートを繰る。
    「一般人が闇堕ちしてシャドウになってしまう事件があるよ」
     通常ならば闇堕ちしたダークネスからはすぐさま人間の意識は掻き消える。しかし今回のケースは元の人間としての意識を残したままで、ダークネスの力を持ちながらダークネスには成りきっていないのだ。
    「彼女が灼滅者の素質を持つようであれば、闇堕ちから救い出して欲しいんだ。ただ、完全なダークネスになってしまうようならば、その前に灼滅をお願いしたい」
     彼女が灼滅者の素質を持っているならば、手遅れになる前にKOすることで闇堕ちから救い出すことができる。また、心に響く説得をすれば、その力を減じることもできるかもしれない。
    「彼女の名前は久我・ナターリヤ。お父さんが日本人、お母さんがロシア人のハーフの女の子。小学校6年生だね」
     3年生の時に今の学校に転校してきた彼女。彼女はその時優しくしてくれた秋良(あきら)という少年に想いを寄せている。だが6年生になって、秋良が私立中学の受験の準備をしていることを知ってしまった。
    「このままでは卒業したら離ればなれになってしまう、そう思ったんだろうね。秋良君と恋人同士になりたい、そう願って……彼の特別になりたいと願って、辿り着いた結論が彼のソウルボードをいじって自分に恋心をいだかせるということだったんだ」
     勿論、それは良い手段ではない。しかしナターリヤはそれしか方法がないと思い込んでいる。
    「彼女はある日、公園の奥のベンチで眠っている秋良君にソウルアクセスを試みる。君たちは事前に公園に潜むこともできるけど……ナターリヤ君はソウルアクセスする前に秋良君の眠っているベンチに腰を掛けて彼の顔をじっと見つめる。その時が一番、接触するのにいい瞬間だよ」
     そのままそこで彼女と対峙してもよし、ソウルアクセスを許し、ソウルボードの中で戦うのもよし。ソウルボードの中で戦う場合は、ナターリヤは少し弱くなる代わりにクラスメイトの姿を模した配下を二人連れている。
    「ナターリヤ君はシャドウハンターのサイキックに加えて影業のサイキックを使うよ。配下はシャドウハンターのサイキックだけだね」
     小さな恋。けれども強い想いが行き過ぎた行動を呼んでしまう。彼女は、ソウルボードを書き換えたあとは幸せしか訪れないと思っているだろう。
    「子どもの恋だからといって、馬鹿にしてはいけないね。想いの強さに年は関係ないと思う。君たちならば上手く立ちまわってくれると信じているよ」
     瀞真は微笑んで灼滅者達を送り出した。


    参加者
    陽瀬・すずめ(パッセロ・d01665)
    ミゼ・レーレ(救憐の渇望者・d02314)
    アイリス・シャノン(春色アンダンテ・d02408)
    水瀬・瑞樹(マリクの娘・d02532)
    日野森・沙希(劫火の巫女・d03306)
    月詠・千尋(ソウルダイバー・d04249)
    杉凪・宥氣(疾風朧月・d13015)
    玉越・雪波(偽りのスペード・d16013)

    ■リプレイ

    ●寄り添って
     少しばかり日差しが強い午後の時間。公園のベンチは日陰となっている場所は盛況だった。ただし遊具からも離れた、公園の入口から奥まった所、少しばかり伸びきった草花に遮られた先のベンチは普段はあまり使われていないようだった。しかし今日は違う。黒いランドセルを足元に置き、一人の少年が眠りへと落ちていた。その少年に近づくのは、水色のランドセルを背負った少女。
     少女――ナターリヤは嬉しそうな微笑みを浮かべて眠っている少年、秋良へと近づいていく。その様子をさり気なくチェックしているのは灼滅者達だ。
     制服姿で問題のベンチが見える木陰に座っている月詠・千尋(ソウルダイバー・d04249)はその手に恋愛小説を持っている。それを読んでいるふりをしながら、視線はベンチの方へ。
    (「『恋は盲目』……使い古された言葉だけど、現代もなお人は恋に振り回され続けてる……人間ってDNAの底から恋愛の虜なのかもね」)
     読んでいた本でも、目の前でも、人間は恋愛の虜となっている。
    (「淡き恋心、か。己の言葉で伝える事が苦手だからこそ、この行動なのかも知れない。賛同こそ出来ぬが、私は彼女を責める事は出来ん」)
     仲間達と共に物陰に隠れて様子をうかがうミゼ・レーレ(救憐の渇望者・d02314)は思う。彼女の領域に踏み込む事はある種の冒涜なのかもしれないが、危険を覚悟で挑むしかない、と。
    (「正直私は恋愛とかした事ないからよくわからないんだ。でもこんな手段に出るくらい苦しくて必死で……本気なんだろうな」)
     ぼんやりと思うのは陽瀬・すずめ(パッセロ・d01665)。いつか自分もそういう気持ちになるのかなと思いつつも、恋愛って楽しいものだって思ってたけど、なんだか違うみたい? などと小首を傾げざるを得ない。
     反対に、真っ向からナターリヤを否定する強い想いを持っているのは彼女と同じ年令の玉越・雪波(偽りのスペード・d16013)だ。
    (「このやり方は間違ってると思います! 私も同じ小6ですけど、今の彼氏には自分からダイレクトに言いましたもん!」)
     同じ寮だった相手の部屋に突撃したという雪波は、今にも飛び出したくてウズウズしている。
    (「恋人になりたいならずるせずに正面から言っちゃうのが一番早いです!」)
     たしかにその通りではある。誰もが雪波みたいに告白できる勇気を持っていれば。
    「悲しい恋で終わらせたりなんかしないのよっ」
     ナターリヤが秋良の隣りに座った時、とても穏やかな表情をしていたから……思わずアイリス・シャノン(春色アンダンテ・d02408)は拳を握りしめて呟いた。願いと希望を。
    「きっと、気がついてくれるはずだよう」
     答えるように日野森・沙希(劫火の巫女・d03306)も呟き返した。本当に自分の求めるものは何か。自分の取った行動の過ちに。
    (「恋する気持ちは判るけど、そうまでする気持ちは判らない。それって成就するって言うのかな」)
     ゆらり、ナターリヤ達の真上の枝の上で尻尾を揺らしたのは、猫変身した水瀬・瑞樹(マリクの娘・d02532)。ナターリヤは彼女に気がついていないようだ。
    (「私だったら、私だけに向ける偽りの笑顔より、皆に向けるほんとの笑顔を見たいよ。……それに『あきらさん』はきっとそんな事望まないから」)
     彼女の真下でナターリヤは秋良へと手を伸ばす。そしてそのまま彼のソウルボードへとアクセスし、彼女の身体は秋良の身体へと寄りかかった。
     タッ……瑞樹が枝から飛び降りて、人の姿へと戻る。読んでいた本を閉じて甘いお菓子を取り出した杉凪・宥氣(疾風朧月・d13015)はそれを咀嚼して、仲間達に告げる。
    「行こう」
    「救い出してみせるさ、必ず……」
     パタン、千尋は本を閉じて立ち上がった。
     寄り添って眠っているふたりは、そのままならば可愛い恋人たちのように見えるのに。けれどもこれは間違ったステップの一つ。それを知っている灼滅者達はいくら眠る二人が微笑ましくても、そのままにしておくわけにはいかないのだった。

    ●もっと近づきたい
     秋良のソウルボードは一面に国語の説明文や算数の問題文、式、歴史の年号など勉強に関するものが散らばっていた。精一杯勉強している、その証なのだろう。
    「秋良君はどこだろう?」
     宥氣が辺りを見回したのに倣って、他の灼滅者達も秋良を探す。だが最初に見つかったのは、ナターリヤの後ろ姿だった。
    「あそこにいます! 何を見ているんでしょう?」
     雪波の指した方角にいるナターリヤは、立ち止まって何かを見ているようだった。よく見てみれば彼女が見ている場所は淡く光を発している。そっと近づいてみると、その部分は勉強ではなく学校の友達の姿が投影されていた。淡い光の中で秋良は友達とサッカーをして遊んでいる。ナターリヤは少し離れた位置からそれをじっと見つめていた。もしかするといつもそうしているのかもしれない。
     そんな彼女が一歩、踏み出した。その意味に気がついて、沙希が叫んだ。
    「だめだよ!」
     すずめと千尋がいち早く駈け出して、ナターリヤの行く手を遮る。他の灼滅者達も彼女の視界から秋良を保護するかのように二人の間に割って入った。
    「なにするの?」
     ナターリヤの小さな口から不満の色をした声が漏れた。明らかに不機嫌そうに、彼女は灼滅者達を睨みつける。
    「貴女が何をしようとしているか知ってるよ。そうやって好きになってもらって意味があるのかな? それは本当に貴女が好きになった秋良君なの?」
    「何を言ってるの?」
     瑞樹の言葉に首を傾げる彼女。自分がしようとしていることがもたらす結果を想像できていないのだろう。
    「あなたは秋良君をお人形にしておままごとごっこがしたいの? 自分の都合のいい操り人形と恋がしたいの? それは本当に貴女が好きになった秋良さんなの?」
     沙希はそんな彼女の間違いを正したくて、声を上げる。
    「貴方のお姉さんは、自分の都合のいいお人形さんと恋人ごっこしてるの? それをあなたは羨ましいと思ったの?」
    「ちがっ……」
    「貴女が好きになったのは誰? 好きになって欲しいのは誰? そうして手に入れた秋良君。それは貴女が望むままのただの人形じゃない」
     沙希と同じ思いを抱く瑞樹は、言葉を重ねる。なによ、と唇を噛んだナターリヤは瞳に涙を浮かべた。
    「自然のままの気持ちじゃない彼と恋愛ごっこして楽しいと思う? それって恋愛って言うより、お人形遊びみたいなもんじゃない? それが君の望んでる関係なの?」
    「なによなによ、なんなのよっ! 好きだから、好きだから……」
    「女の子ってやっぱり怖いなー」
     突然責め立てられてヒステリーを起こしかけているナターリヤを見て、宥氣は小さな声でぽそり、漏らした。運良く他の女子には聞こえていなかったようである。
    「責めはせぬ。私達は貴方が胸の内に抱く煩悶を知らぬのだから。だが一つ……『過ちを犯している』とだけ、私は思う」
     涙をぽろぽろ零して拳を握りしめたナターリヤを見て、ミゼは静かに告げる。
    「だからこそ、我等は此処に来た。その想いを道化で終わらせぬ為に」
    「間違ってるって、こと?」
    「間違っていると思います!」
     大きな声で雪波は答えた。そして続けるのは自らの実体験。転校してすぐ迷子だった所で出会い、軽く案内されてその時点で一目惚れした。同じクラブに入ったり挙句には同じ寮にまで入った。
    「GWに決着をつけようと思って、手紙を渡して彼の部屋で告白しました。正面から告白したんです」
    「そんな……無理だわ、わたしは……わたしは……」
     少しばかり羨ましそうに雪波を見たナターリヤはぶるっと身体を震わせて、自分の体を抱きしめた。そのままプルプルと震える彼女。様子がおかしい。
    「決め付けないでください! 私、あなたのこと応援しているから!」
     雪波が叫ぶ。一瞬視線を上げたナターリヤだったが、次の瞬間その瞳は昏い闇に飲まれていた。彼女の背後から、彼女と同じ年頃の少女の配下が2体現れた。
    「さて姫は舞台から降りて貰いますか」
     あくびを一つして本を仕舞い、宥氣は首と指の骨をポキポキと鳴らした。アイリスはそっと背後を振り返る。異変に気がついたのか、遊びをやめた秋良がこちらを見ていた。
    「暫くこのまま私達の後ろにいてね」
     彼が頷き返したのを見て、アイリスは向き直る。
    「キミの気持ち、少しだけ分かる気がするよ」
     昏いモノに囚われた彼女を見つめて千尋は告げる。
    「でもね、方法は間違ってる。愛は人を殺すモノじゃない、人を繋ぐモノだ」
     それが戦闘開始の合図となった。

    ●届け
    「繊細な恋心に浸け込んで踏み躙る、万死に値するね!」
     大きく舞うように配下に接近した千尋が、槍撃に捻りを加えて突き刺す。追うようにしてミゼが漆黒の弾丸を放った。まずは数を減らすことが先決。
    「誰かに恋焦がれる事に罪はない。だがその心を影にて囚えてしまう事は大きな過ちと言えよう」
     ミゼの言葉が戦場へ響く。瑞樹はナイフに込められた呪いを毒の風に変えて配下達を包み込むみつつ言葉を紡ぐ。
    「想いを伝えたいなら自分の言葉で伝えなきゃ。例え手段が手紙でも、自身の言葉で綴る事に意味がありそして想いが宿るんだ」
    「貴方が本当に欲しかったのはそんなおままごとじゃないはず。それを手にする方法は、まず自分の言葉で秋良さんに想いを伝える必要があるんじゃない?」
     瑞樹の言葉に合わせるように、沙希は投げかける。皆を守るという気持ちを込めて盾を広げた。すずめは盾を振りかぶり、ナターリアを殴りつけた後キッと彼女を見て。
    「自分の気持ち、伝える前から諦めちゃうの? ほら、正気に戻ってちゃーんと伝えに行こうっ」
     きっと大丈夫だから、囁けば、昏く染まった彼女の瞳が少し揺れたように見えた。宥氣は刀に炎を纏わせ、傷の深い配下を斬りつける。宥氣の重い攻撃にどろり、配下の身体は溶けるように崩れて、そして消え去った。宥氣は視線をナターリヤに移す。
    「秋良くんの事が好きなんでしょ。だったらこんな事せずにまずは告白しなきゃ」
    「秋良……許してくれる? 怖い……」
     絞りだされたナターリヤの心。受け止めるように宥氣は微笑んで。
    「大丈夫だよ。秋良くんにちゃんと謝れば許してくれるよ」
     言葉とは裏腹に彼女の身体が動く。相手を蝕む漆黒の弾丸は千尋に撃ち込まれた。
    「よくも月詠さんを!!」
     自分より他人が傷つくことを厭う沙希が声を上げる。激情に駆られそうになるも、これ以上に被害を出さないようにと考えることで冷静さを取り戻そうとする。
    「大好きだから沢山悩んだのね。でもね、無理矢理叶えた恋はきっと中身が空っぽなの。ナターリヤちゃんはそれで良いの?」
     アイリスの優しい声が戦場の空気を震わせた。笑顔を添えてゆっくりと紡がれる言葉は、石化をもたらす呪いと共にナターリアへと飛んでゆく。
    「……きっとね、寂しいの。だからね、思い切って言葉で伝えてみるの。想いの籠った言葉にはね、大きなパワーが宿るのよ」
    「つた、える……」
     霊犬のもちは残った配下に攻撃を放ち、雪波は凄まじいモーター音を上げる剣で配下を切り裂く。
    「まずは邪魔な配下から!」
     ナノナノのローリエがそれを追った。配下が影を纏わせた手で宥氣を狙う。だが今度こそとばかりに沙希がその間に入り、代わりに攻撃を受けた。
    「ボクも同じさ。今の関係が壊れそうで怖くて、だけど“特別”になりたくて……」
     千尋は高速で『暗器・緋の五線譜』を操る。
    「キミに言いながらボクは、自分に言ってるだけなのかもね」
     糸に絡め取られた配下は苦しそうに体を傾けて。ミゼは死角に入り、『紫翼婪鴉の紅嘴』にて配下を斬り捨てた。
    「想いは伝えねば、相手には解らないし知る由も無い。言葉で伝える事に煩悶を抱いているのならば、それを破るのは今。至難とは重々承知。だが一言、一言で良い」
     身体ごとナターリアと向かい合い、ミゼは続ける。
    「外にて、秋良少年の耳に届く言葉で『好き』と」
     瑞樹は炎宿したナイフを手に彼女に接近し、沙希は攻撃を全て受けるつもりで盾を振りかざす。
    「失敗したっていい。自分の本当の心を伝えて。秋良さんの特別にならないと意味がない! お人形さんには特別はないんだから!」
     彼女の名を呼び、すずめも盾を振るう。宥氣の放った影が彼女を包み込んだ。ナターリヤは影を放とうとしたが、上手く当たらない。
    「あなたなら、大丈夫。だって、そんなにも大好きって想ってるんだもの!」
     アイリスが放った弾丸を追うようにしてもちが攻撃を放つ。
    「これで万全な状態でナターリヤさんと戦える!」
     雪波は再び剣で切りつけ、ローリエがそれに合わせて攻撃をする。千尋の重い攻撃がナターリヤの腹部に突き刺さった。ミゼが影を纏った鎌を振り上げる。
    「嫌っ……」
     声を上げたのは彼女の中のシャドウだろうか。その声を最後に彼女は動かなくなった。

    ●一歩
    「彼に思いを伝えた後でいい、もしその力を正しく使いたいなら、訪ねてきて」
     瞳を開けたナターリヤに沙希が学園についてや彼女の身に起こっていることを説明する。笑んで誘えば不安そうだった彼女の表情が和らいだ。
    「これからはこんな事せずちゃんと想いを伝えなよ」
    「誰かを好きになるって幸せなことだけじゃないから、辛くなる事もあるけど……私もそうだったの。でも、それも含めて全部大事なの。その想い、大切に育てていってね」
     宥氣が優しく頭をなで、アイリスが抱きしめる。その様子を見て安心した雪波は、一足先に帰途につくことにした。彼氏の元へ。
    「皆さんさようなら!」

    「秋良少年は間もなく起きるだろう」
    「僕達は退散して、お茶でも飲みに行きましょう」
     ミゼと宥氣の言葉に戸惑うように視線を動かすナターリヤ。千尋はそんな彼女にそっと耳打ち。
    「恋は盲目、それ故に女の子は強い。一度でダメなら二度三度、恋愛は度胸さ!」
    (「この気持ち、忘れないうちにボクも……なんてね」)
     表情を明るくしたナターリヤと仲間達に軽く手を振って、千尋はその場を後にした。他の灼滅者達はナターリヤに激励の言葉を送り、その場を後にする。ふたりのその後は気になるが、首を突っ込みすぎても良くない。今日のところは喫茶店で恋バナでもしようか。
    「宥氣さんが恋バナ披露してくれるのよね?」
    「え……?」
     瑞樹の言葉に宥氣は真っ赤になる。自分は聞き役に徹するつもりなのだが……。
    「私も聞きたい!」
    「私も」
     すずめとアイリスまで、宥氣の話に興味津々の様子だ。
     ナターリヤの恋の結末がどうであれ、いつか彼女とも恋バナができるといい、そんな思いを抱くのは帰途につく者も喫茶店へ向かう者も同じであった。

    作者:篁みゆ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年7月9日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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