夏のフルーツドリンクを

    作者:陵かなめ

    「もうすぐ夏だよね。夏といえば、アレだと思うのよ」
     空色・紺子(高校生魔法使い・dn0105)が真剣な表情で語りはじめた。
    「まず、これを見て欲しいの。そう、ミキサーね。あ、ジューサーもあるよ。でさ、どんなジュースが美味しいと思う?」
     紺子の話は、こうだ。
     夏は喉が渇く。水分補給は重大な課題だ。どうせなら、おいしいジュースが飲みたい。そこで、今年の夏はどんなジュースがいいだろうか。ちょっと、試作してみたい、と。
    「基本的に、好きなフルーツとはちみつをミキサーにかけたら良いと思うよ。いくつかフルーツを混ぜてミックスジュースにしてもいいと思うし、牛乳かヨーグルトを入れてまろやかテイストにするのも有りだと思うんだ」
     紺子はいつになく熱い口調で、身を乗り出して語り続ける。
     本気だ。
     本気で、おいしいジュースを飲みたいと思っているのだ。
    「ねぇ、一緒に夏のジュースを考えてみない? 家庭科室を借りてさ!」


    ■リプレイ

    ●すっぱいのも
     吉沢・昴は蜂蜜レモンドリンクを作る。
     蜂蜜漬けレモンをミキサーにかけていると、真心がひょいとレモンを口に運ぶ。
    「ぉぉ……すっぱい。コレがジュースになるんだねー」
     楽しみだね、九条ちゃん、と真心。
     有栖が作っているのは、林檎ジュースとオレンジジュースだ。
     林檎の方は悪くない。次にオレンジジュースを手に取る。……これは、恐ろしい味がする。材料配分を間違えたと思う、間違いなく。
     口直しがほしい。
    「あ、吉沢さん、そのレモンジュース試飲させてー!」
     昴が炭酸水を入れたところだった。
    「しゅわしゅわしてるのきれい。飲んでみてもいい?」
     真心も出来上がったジュースに手を伸ばす。
    「……うん、ちょっと酸っぱいけど良い味ね」
    「……え、酸っぱい?」
     有栖の言葉に昴も試飲する。なるほど、たしかに少しエグみがある。蜂蜜と砂糖で味を整えようと思う。
    「ニノマエちゃんにはちょっときついかも、だけどね」
     二人が真心を見る。真心の顔が、すっぱい顔になっていた。
     口直しも兼ねて、昴がバナナ牛乳のスムージーにとりかかる。
    「わ、九条ちゃんのもおいしそー……」
     ふと、真心が有栖のジュースを指さした。
    「あ、これこれ。林檎ジュース」
     さっぱりとしていいわよーと林檎ジュースを手渡し、オレンジジュースは隠した。
     真心は持参した冷凍マンゴーを使ってマンゴーシェーキを作る。
    「夏だねー! いただきまーす」
     出来上がったジュースを交換した。
    「さあ、夏らしく、冷たく冷えた、美味しいジュースを作りましょう」
     紅緋が持ってきたのは、オレンジ、グレープフルーツに夏みかんだ。果汁を搾って混ぜ合わせ、レモンを一滴加える。
     桐は蜂蜜、牛乳、イチゴをジューサーに投入していた。
    「後で桐のと交換しようね!」
     二人、頷き合う。
    「酸っぱさ限界突破。シトラスミックスジュース『サンバースト』完成ですよ」
    「完成だ! 混ぜ合わせるとピンク色になるのが可愛いね!」
     紅緋のシトラスミックスジュースに桐のいちごミルクが完成した。
    「夏は、冷房の効いた部屋で冷たいジュースを飲みながら過ごしたいな」
     紅緋の言葉に、桐がにっこり頷いた。
     【ながればし】のメンバーは、学祭企画で必要なジュースの試作をしていた。
    「トマトとグレープフルーツと蜂蜜で、さっぱり系の夏野菜ジュースとかどうかしら」
     春陽の提案に梛が考え始める。
    「野菜ジュースは普段飲まないから選択肢になかったなー」
    「果物のジュースも良いわよね」
     春陽は言いながら果物ジュースを七海に渡した。味も大切だが、見た目や香りも整えたい。
    「トロピカル系は七海好きそうな。定番だし、美味そう」
     自分もと梛が手を伸ばす。
    『ヨーグルトの酸味は、甘いフルーツに合いそう?』
     トロピカルジュースを見ていた七海は、そう伝え、ジュースをヨーグルトで割って飲んだ。
     ちなみに野菜ジュースは、
    『蜂蜜は少しでいいかも、甘さが強いから』
     とのこと。
     梛はバナナシェイクを作った。
    「チョコ入れたらチョコバナナっぽくなりそう」
     バナナの代わりに苺もいいかもと、春陽。
    『ん。このままで出せそうな味?』
     と、七海。
     さらに意外性のある組み合わせとして梛が提案する。
    「あ。梅干しとかどうよ。梅干し使うの」
     砂糖と水で煮出し作業をする梛を見つめ、半信半疑で春陽がコップを受け取った。
    「何か、凄く酸っぱそうなんだけど……あ、コレ美味しい」
     春陽は七海にも梅干しジュースを勧め、自分もおかわりを要求する。
    『(・×・) でも……なんか懐かしい味。昔、おばあちゃんが作ってた』
    「すっぱかったか」
     七海の表情を見て、梛がケラリと笑う。
     気づけばお腹もいっぱいだ。七海は自分で作った抹茶ヨーグルトをどうしようか思案していた。
    「腹一杯なら俺飲むぜ。抹茶とヨーグルトかこれ」
     梛が手を伸ばす。
    「あ、美味い」
     定番から意外なものまで、どれも美味しくできた。

    ●様々に
     片隅では、悠が気怠げに試飲している。
     さて、在雛は。
    「ふっふっふ……。さぁて、どんなジュースを作ってみようかな」
     不敵な笑いを浮かべ、色々準備している。
    「ねえ。三つの箱から1枚ずつ、くじを引いて欲しいんだ」
    「はい?」
     答えたのは千草だ。
     在雛がクジを見て材料を揃える。黒酢、抹茶オレ、紅茶。在雛はミックスジュース(?)を作り始めた。
    「皆さん一心不乱に試飲をくり返しているご様子で……」
     皆の様子を眺め、千草が呟く。
    「できたよ。召し上がれ!」
     その時、在雛のジュースが完成した。振り向いた在雛が見たものは。
    「一握りつかみ出し、握り潰し、啜る」
     果物を素手でぎっちりと絞り倒す千草の姿だった。果物を絞る手っ取り早い方法だと。
    「……戯れが過ぎました。視線が痛くございます」
     クスクスと笑う。千草は、在雛の差し出したジュースを目に止めた。
    「それでは、頂戴いたします」
     コメントし辛い色合いのジュースを千草が口に含む。
    「ゴメンなさーい!!」
     反応が返る前に、在雛はダッシュで逃げ出した。
    「五臓六腑に魂を呼び戻す栄養素界の影番……それが生鮮食品にのみ含まれる”消化酵素”! 青果や生野菜でのみ摂取できる、吸収・代謝のスーパーアシストっすな」
     言いながら、真心が作るのはミックスジュースだ。キウイ、イチゴ、生のパイナップルにバナナ。更にヨーグルトと氷をミキサーに入れる。レモンと蜂蜜を必要最小限加え、撹拌した。
    「美味しそうな匂いだねー」
     甘い匂いに誘われるように、紺子が現れる。
    「ドリンク状態のヨーグルトもレモンで凝固するんすかね……?」
    「さぁ、どうなんだろ? あ、美味しい」
     ともあれ、おいしいジュースが出来たようだ。

    ●交換
     燐音は大量の果物をゴロゴロとテーブルに取り出す。それに加え、牛乳に炭酸だ。
    「って百合先輩も凄い量……まあ美味しいのをって目指すなら妥協いくないですし」
    「手がびりびりするぞ……これも美味い物の為だと思えばこそ、だな!」
     真顔の燐音に、百合がうんうんと答えた。
     すももと、杏も旬だろうか。いっそ未加工で……。百合がふらふらとフルーツに手を伸ばす。
    「そのまま食べちゃ駄目ーっ?!」
     燐音が声を上げ制止する。だが。
    「少しだけ、少しだけだ……っ! ……駄目、か……?」
    「……美味しさ確かめる程度ですからね?」
     切実な眼差しに、許可を出してしまう。
     フルーツポンチを作るべく燐音が手際よく作業する。百合はその手伝いだ。
    「作ってるだけで頬が緩んでいくぞ……早く食いたい!」
     炭酸ジュースを取り出してくると、百合がそわそわと燐音の後を行ったり来たり。
     一緒に来てくれてありがとう。できたジュースは二人で仲良く飲んだ。
     錠が用意したのは混ぜて愉しむドリンクだ。
     コリンズグラスの底にパッションフルーツのジュレ。土台にバナナスムージー。お好みでアサイーとブルーベリーのジャムをのせる。
     仁恵も作業中だ。
     蒸かして潰してあるジャガイモに生クリームと牛乳とコンソメスープだ。まとめて撹拌し、最後に味見。塩コショウで味を整えれば立派な……あれ?
     けれど、ジュースと言えどみんな同じような仕上がりになるのはしょっぺーですからね?
    「んむ……美味しければいいですよね?」
    「お姉さんはどんなドリンク作ったんだ? 交換しようぜ」
     二人は作ったものを交換しあう。
    「すごいです、なんですかこれ! パフェみたいになってんじゃねーですか……!」
     仁恵はベリージャムをたっぷりとのせ感嘆の声を上げる。
     その反応に錠は笑顔を浮かべた。どんなのが喜んでもらえるか、夜な夜な練習したのは内緒だ。
     忘れられない味になった。
     知り合ったキッカケは偶然だけれど、今はもう話さない時が無いくらい。そんな不思議な関係は。
    「大事にしたい、そんな、感謝とこれからもヨロシクな気持ちをこのドリンクにありったけ込めちゃう!」
     道家が作るのは『For れうクン☆』。
     スカイブルーのようなサイダーをベースに、生クリーム、板チョコ、スライスオレンジ。そしてミッチー☆ の付け鼻をイメージした小さな丸いアイスをカラフルに配置する。グラスは凍らせひんやりと。仕上げに小さな花火をトッピング。
    「いつも楽しく、明るい気持ちにさせて下さる、とっても素敵なピエロさん。感謝の気持ちをこめて、美味しいジュースを作りましょう♪」
     れうがほわりと微笑む。作るのは『納涼れうれうスペシャル!』。
     氷砂糖を縁に付けたグラス。シャルドネを使った甘い薄琥珀色のサイダーに、五色のグラデーションになったかき氷を沈める。小さなバニラアイスの玉入りだ。ピエロの鼻をイメージした、赤い葡萄を包んだ氷を浮かばせ、完成!
     交換し、夏を味わった。
     与四郎と庚は手分けして材料を持ってきた。
     まず与四郎がバナナと桃、牛乳と氷をフローズン風に仕上げる。忘れず、味見も。
    「ってかフローズンてキンキンだろ? 一気飲みしたらやばくねーか」
     庚の言葉は、遅く……。
    「~~っ」
     頭にキーンと来た。
    「ったく、何やってんだか」
     そう言う庚は絞ったレモンと蜂蜜を炭酸水で割る。
    「庚も美味しそうなの、作るんだろな……美味しいんだろな……」
     あ。涎が出そうと与四郎。
    「俺のを差し上げるので、飲ませてください」
     お互いジュースを交換する。
     皆はどんな飲み物を作っているのだろう。ちょうど近くの風花と目があった。
     風花が作ったのは、冷凍みかんと桃にヨーグルトを加えたドリンクだ。
    「あ、梓奥武さんの美味しそうだ。もらっちゃっていいかな?」
    「俺も飲んでみてーな」
     思い切って与四郎が声をかけて、庚が続く。
     風花は黙ってこくと頷いた。
    「美味しいかしら……」
     ドリンクを無表情で差し出し、風花がドキドキと二人を見る。
    「爽やか、飲みやすいね」
    「なかなかイケるぜ」
     お礼に、与四郎のフローズンを進呈した。
     風花はやはり無表情で、しかし内心ワクワクしながらフローズンを口にする。
    「こういうの、初めてですし。楽しみにしていたんです」
     風花の言葉に与四郎と庚が微笑んだ。
     並んだ材料を千李が見ていた。林檎、蜜柑、バナナ。沖縄土産のドラゴンフルーツ、スターフルーツ。
    「ん、なんか混ざってる……?」
     最後に取り出したのはハバネロ! 絶対に入れないと思った。
    「千李、これ切っといてくれるかー?」
     蓮が千李に頼んだが。
    「分かった……斬、る……」
     至極まじめに構えた日本刀が、キラリと光る。
    「……ん? ……おぃおぃっ!? それ違うから!! 日本刀じゃなくて、包丁だってのっ!」
     慌てて蓮が止めに入る。そうかと千李は包丁に持ち替え、上段の構えを取った。
    「……お、おぃいいいっ!!!? 何で、包丁なのに刀持ちになってんだっ!!!?」
     など、多少の(?)事件はあったものの、お互い作ったジュースを交換し合った。
    「お、ウマいじゃんこれっ」
     ニッと笑い蓮が千李を見る。
    「これは甘いな。うん、美味しい」
     答えるように千李が微笑んだ。

    ●幼なじみ
     稔がパッションフルーツを処理している。
    「わり、太洋、お前これ切れるか? なんか滑ってうまく切れねーんだけど」
     太洋が振り返る。
    「押さえに布巾つかうといいぞ。こんな感じ……っと」
     手際よくアドバイス。その後から、ひょいと顔を出したのは芳春だ。
    「オ、オレは今日タイヨーくんに誘われて来ただけなんだからっ」
     ひのとに向けて、ちょっぴり言い訳。
    「俺が来るイベントにオートで着いて来る仕様かよ……いいけど」
     ひのとは皆を一眺めした。
    「お前らレモン汁入れろよ、色悪くなんぞ」
    「さっすがひのと、気が利いてんな!」
     稔が早速レモン汁に手を伸ばす。
    「ほら、芳春さんもひのとの隣に並んで並んで。お、レイアうまいじゃん。その調子」
     太洋に誉められレイアが顔を上げる。せっかくなので南国風のトロピカルフローズンドリンクを作るつもりだ。
     大和は材料をつまみ食いしつつ。
    「ほらカゲ、スイッチ押して。蓋きちんと抑えとけよ、爆発するから」
    「ん、分かった。蓋押さえとけばいいんだな」
     言われるまま、弌影が蓋を押さえる。
    「レモン汁いれた方がいいならひの、こっちにも」
     どうやら順調のようだ。大和は頷き。
    「カゲは面倒見なくても平気か。じゃー一番心配な怪獣……レイア」
    「うっさいわね! アンタなんかよりずっとマシよ!」
     レイアが唇を尖らせた。
     大河内・昴は桃を持ってきた。こっそりゴーヤも。久しぶりに安心して賑やかなところで遊べるのは楽しみだ。
    「……ん? なんか少し青くさいぞ。昴、なに後ろに隠した?」
     ゴーヤを太洋が見咎める。
    「ちょ、見せなさい。すー、こら。罰ゲームじゃないんだからゴーヤはないだろ……!」
     あっさりと取り上げられた。
     しかし、それは一つ目。
     大和が作業に戻ると、こっそりもう一つのゴーヤを仕込んでみた。
     それを横目で見ていたのは弌影だ。いやまぁ、案外美味しいかもね。
     さて、ジュースが出来上がり。
    「これ、飲みなさいよ」
     レイアが稔の前へコップを置いた。昴のゴーヤ入ジュースは完全に八つ当たりだ。
    「……え、レイア何これ。誰が作ったやつだよ……」
     稔が口に含む。
    「……まっず!!!」
     さっと大和へスライドさせた。とんだとばっちりだ。
     それを飲んだのは一人ではなく。
    「苦ッ……何だこれ青汁!? 誰だよゴーヤ入れたの! 甘いのと苦いのと中途半端でまっず……大和にやるわ」
     ひのとも顔をしかめグラスを大和へ渡す。
     遠くから南無と弌影が手を合わせた。
    「ああ……大和さん……いい人だったよ……」
     太洋も、そっと涙を拭く。ちなみに昴は素知らぬ顔。関係ない風を装ってます。
    「死んでねー!」
     吠える大和を尻目に、太洋がざくざくと食感を残したジュースを手に持つ。
    「ひのと、俺にもストローちょうだい」
    「おー、ストロー一人一本な。ハル、それ何味?」
     ストローを配りながら、ひのとが返事を待たず一口味見をした。
    「……や、えーと……ストロー……」
     不意のことに芳春が赤面する。これは、間接キス?!
    「……何だよ、変な顔して。勝手に飲んだの怒ってんならこっちやるって!」
     ひのとは不思議そうに芳春を見て、自分が飲んでいたものを差し出す。またもや間接キス!!
    「カゲたんのは、どんな味なの?」
    「ってレイちゃんそれまだ一口も飲んでないんですけど……。まぁいいか」
     レイアが弌影のジュースを味見した。
     弌影は芳春のジュースを指さし、あちらのほうが美味しそうだと話を向ける。
     レイアの目が光るが。
    「このジュースオレのだからね! とっちゃダメ!!」
     ひのとから貰ったものだし。絶対死守の構え。
     最後に一番美味しくできたものをレイアから大和に。
    「あげるわよ、ありがたく飲みなさいよね……!」
    「味は悪くねえだろうな?」
     おいしいジュースを召し上がれ。楽しい休日でした。

    作者:陵かなめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年7月12日
    難度:簡単
    参加:33人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 8
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