狙われた清純派アイドル淫魔

    作者:相原あきと

     つややかな黒髪を海風にゆらし、サンダルを片手に白いワンピース姿の少女は浜辺の波打ち際を歩く。
     ときどき波が足下へ寄せ、そのつど少女は「きゃっ」と可愛らしくほほえむ。
     すでに日は暮れ、海に太陽が沈もうとしていた。
    「あ……」
     少女は思わずその光景に見惚れてしまう……。
     彼女の名前は初花(ういか)と言う。
     自称清純派アイドルの淫魔だった。
    「ラブリンスター一派の淫魔だな」
     アイドルらしく沈む夕日を切ない表情で見ていたからだろう、初花が声を掛けられ我に返った時には、黒ローブの男達に取り囲まれていた。
    「あ、はい、まだ駆け出しですけど、いつかはラブリンスター様のようなアイドルになれたらなって思ってます」
     ローブ達の輪の外から、筋骨隆々岩肌の禿頭男が現れる。眉すら剃り落したその顔は威圧的であった。
    「我らがアモン様を裏切った大淫魔どもは……皆殺しだ」
     問答無用とばかりに武器を構える黒ローブたちと禿リーダー。
    「え、え?」
     状況がわからない初花が1歩、2歩と後ずさる。
     だが、半円状に囲まれ後ろは海、ザザーと波がくるぶしまでを濡らす。
    「問答無用。裏切り者には死を! ソロモンの悪魔たる我らを裏切ったこと、あの世で後悔するがいい」
     黒ローブの中から2人ほどが初花に突貫するが、淫魔の少女が「いやー!」と叫ぶと同時にその2人が吹っ飛ぶ。
    「腐っても淫魔か……」
    「あ、あの……私、清純派で売ってるんで……その、男の人とかとプライベートで会話するのはNGなんです、それに、一緒にいる所を週刊誌に取られたらと思うと……ごめんなさい」
     なぜか直角に謝る初花。
     ソロモンの悪魔は禿頭に青筋を浮かべると、立ち上がった2人を加えた8人の配下たちに命令を下す。
    「後ろから蜂の巣にしろ、近距離での相手は……我、ガロンがしてやる」

    「みんな、ソロモンの悪魔アモンのことは覚えてる?」
     エクスブレインの鈴懸・珠希(中学生エクスブレイン・dn0064)がみなを見回しながら質問する。
    「不死王戦争で灼滅されたダークネスだけど、そのアモン一派の残党が、ラブリンスターの配下を襲おうとしているみたいなの」
     珠希の説明によれば、アモン一派の悪魔達が、自分たちが負けたのはラブリンスターたちが裏切ったからに違いない、そう考えて行動に出ているらしい。とはいえ、ダークネス同士の潰し合いに介入できる、どちらに転んでもダークネスを灼滅するチャンスだ。
    「ソロモンの悪魔はガロンって言って、岩みたいな肌をしたマッチョで禿で眉毛無しよ! 配下は黒ローブ姿の配下を8人連れているわ」
     ガロンは魔法使いと龍砕斧に似たサイキックを使い、防御優先な戦い方をするらしい。
     配下達はどれも魔法使いに似たサイキックしか使わないが、後ろから弱そうな相手を集中的に狙い撃ちしてくるらしい。
    「場所はとある町の浜辺よ、地元でもマイナーな浜辺だから幸い人はいないし、戦ってる最中に誰かやってくることも無いから安心して」
     時刻は夕暮れ時らしいが、周囲に明かりもあるのでライトを準備する必要はなさそうだ。
    「淫魔の方は初花って言うらしいの、こっちは見えない障壁の力と歌の力で戦うみたい」
     サウンドソルジャーとWOKシールドに似たサイキックが近いだろうか。
     両者が戦闘になれば初花は黒ローブを数人と多少なりともガロンにダメージを与えるが、結果的にはガロンに負けて倒されるらしい。
    「みんな、今回の依頼にはいくつか選択肢があるの」
     珠希は言う。

     1、両者の決着が付いた後(淫魔が倒された後)に乱入
     2、両者が戦闘を開始する瞬間に乱入
     3、2と同じタイミングで乱入&淫魔を説得して共闘する

    「どの選択を選ぶかは、みんなに任せるわ。どれが正解の未来なのかは私にもわからないから……」
     珠希は最後に、思い出したように淫魔・初花の性格を補足する。
    「そうそう、その初花って淫魔なんだけど、どうも男性の言うことには耳を傾けないみたい。敵視してる節もあるから、依頼のメンバーによっては放っておけば無害というわけでもないと思うわ。行くみんなは、その辺も気をつけて! それじゃあ、よろしくね!」


    参加者
    襟裳・岬(にゃるらとほてぷ・d00930)
    椎那・紗里亜(魔法使いの中学生・d02051)
    神田・由香(ワイルドハンズ・d03540)
    高坂・月影(粗暴な黒兎・d06525)
    氷野宮・三根(神隠しの傷跡・d13353)
    鳳・紅介(ブラッディエッジ・d15371)
    三榊・社(再生の一手・d15871)
    三澤・風香(森と大地を歩く娘・d18458)

    ■リプレイ


    「や、やめてくださいっ!」
     か弱そうな仕草でイヤイヤする少女。
    「黙れ! 貴――っ!?」
     何か言おうとした瞬間、ガロンはその気配を察して少女、淫魔である初花の手を離して配下の黒ローブ達の元へと一気に跳躍。直後、先ほどまでガロンがいた場所へ一本の槍が突き刺さる。
    「か弱い女の子になんてことしてるんです!」
     怒気も露わに椎那・紗里亜(魔法使いの中学生・d02051)が黒ローブたちの頭上を飛び越え、初花を守るように着地し槍を引き抜き構える。
     初花に紗里亜は「もう大丈夫ですよ。私たちが力になります」と言うが、初花はキョトンとしていた。
    「何者だ」
     太く低くガロンが恫喝してくる。
    「通りすがりの灼滅者よ。覚えておきなさい」
     波打ち際を走ってくる襟裳・岬(にゃるらとほてぷ・d00930)と灼滅者たち。ガロンが視線で合図し、黒ローブ達が初花と現れた灼滅者たちから距離を取るような陣形へと移動を開始する。
    「え、えっと……灼滅者さん、ですか?」
    「初花ちゃんを助けに来たの。戦う意思は無いわよー」
     初花はいまいちピンと来てないようだが、なにやら自分のために集まってくれた感じは悪くない。
    「初花ちゃんの代わりに私達が戦うから、その間に逃げても良いよ。でも、一緒に戦ってくれると嬉しいし……」
     目をパチリとする初花。
    「その後で一緒にゴハンなんか行けちゃうと、もっと嬉しいんだけど……ダメ?」
    「そ、それは……あの……」
     どう答えようかと初花が迷うも、すぐに岬達と一緒にいる男性たちへと目がいき――。
    「あ! 私、清純派アイドルなんで、その、男の人とかとプライベートで一緒にいると……週刊誌に取られたら大変ですし……」
     とって付けたようにオドオドしだす初花。
    「ああ、そこの男子達も私達の仲間だから。攻撃するのだけは堪えて! お願い!」
     すでに攻撃モーションに移ろうとしていた初花が思わずストップ。
    「えっと、お仲間さんなんですか? なら帰ってくれるよう言ってくれますか?」
     別にピンチでもなんでも無い今、初花にとっては助っ人の女性は別に構わないが、男性はただ邪魔なだけである。
    「えっと……」
     それ以上説得の言葉が見つからない岬。
     その時だった。

     ――バシュッ!

     初花の前で光がはじける。
     見れば初花の前には、チン……と日本刀を鞘に戻す神田・由香(ワイルドハンズ・d03540)がいた。
     会話中にガロンが魔法の矢を遠慮なく撃って来たのを、神速の居合いで斬り払ったのだ。
    「ダークネス同士の争い……本来ならば関わらずとも良いのだろうが……困っているのだろう、手を貸そう」
     ちらりと初花を見ると再びガロンへ向き直り。
    「心形刀流、神田由香……まいる!」
     刃を鞘に納めたままガロン達へと駆け、その横を由香のライドキャリバーが併走する。
     同時に突貫したのは由香だけではない。
     配下たちへと向かった由香を牽制しようとしたガロンが、咄嗟の殺気に腕を払う。ガキンと鈍い音がして鳳・紅介(ブラッディエッジ・d15371)の螺旋状に突きだした槍が堅い岩肌に止められる。
    「お邪魔するよ……って断る必要もないかな。好き勝手をしに来たんだからさ」
    「灼滅者か。いいだろう、貴様らもアモン様の仇だ。ここで全員皆殺しだ」
    「へぇ」
    「何がおかしい!」
     思わずにっこり笑った紅介に、ガロンが目を見開いて語気を強める。
    「いや、別に?」
     ガロンの剛腕が紅介へと振りかぶられるが、背中にオーラの塊をぶつけられ思わず前のめりに倒れそうになり足を出して踏ん張る。さらに前屈みになった顎を真下から雷のアッパーがかち上げる。
     オーラを放った三榊・社(再生の一手・d15871)と、バリバリと拳に雷を纏わせた高坂・月影(粗暴な黒兎・d06525)が、紅介の横に並ぶ。
    「次から次へと……」
     ガロンが僅かに血の出た口を拭って男3人を睨みつけた。
     一方、初花の説得には女性陣が当たっていたのだが、仲間なら男性達に帰ってくれと伝えて欲しいと言われて正直困っていた。
    「初花ちゃんは清純派アイドルですから、男の人との接触を避けたいのですよね?」
     氷野宮・三根(神隠しの傷跡・d13353)が聞くと、こくこくと頷く初花。
    「う、うーん……あ、ちなみに僕みたいなのはどうなんでしょうか?」
    「え、別に撮られても大丈夫ですけど? どうしてですか?」
     小首を傾げて聞き返してくる初花。
     三根は「あ、気にしないで下さい」と誤魔化す。
     バレていないならわざとバラす必要も無いだろう。いつもしている女装が今回ばかりはナチュラルに作戦に合致したと言える。
    「そうそう、パパラッチさんたちが近づかないよう、彼らじゃ耐えられない殺気を振りまいていますので安心して下さい」
    「それじゃあ安し……い、いえいえ、ダメですよ! そういう油断がフォーカスに繋がるんです! アイドルたる者、いついかなる時も気を抜いちゃダメなんです!」
     明らかに殺界形成を理解してるっぽいが、どうしてもアイドルの「てい」にこだわるらしい。
    「だからあの男の人たちを……うーん、別に力づくでも良いかなぁ」
     小さな顎に白魚のような人差し指を乗せ、恐ろしいことを言う初花。
    「おい! 間違えて貰っちゃ困るぜ?」
     そんな初花に声を駆けたのはガロンと戦っていた月影だ。
    「俺はアイドルの護衛を依頼されたボディーガードだ、週刊誌に撮られたってなんともねー、居ないもんだと思いな」
     良く見れば、確かに月影はブラックスーツにサングラスといかにもな格好だった。
     初花はハッと息を飲むと。
    「あ、ありがとうございます! 初花をスキャンダルから護って下さい」
     ペコリとお辞儀をする。
     月影も「任せとけ!」とサムズアップ。
    「私たちは女の子が傷つくのを見過ごせないだけなんです。男の方もその気持ちは一緒ですから、味方だと思って貰えますか?」
     月影が肯定されたタイミングで、三澤・風香(森と大地を歩く娘・d18458)が畳みかける。だが――。
    「ありがとうございます。でも、やっぱり男性と一緒にいるのはまずいので、帰って貰えないなら退場して貰おうと思うんです!」
     紅介と社の2人を指差す。
    「でも、彼らは王子様に――」
     風香が必死にフォローしようとするが。
    「私にとって恋人はファンの方々です。だから王子様なんていりませんよ?」
    「う……」
     これ以上の説得は不可能であった。


     初花の説得は完璧と言い難かったが、ガロン達の戦術を読み切ったという意味では完璧だった。初手で一斉にエンチャントを行った黒ローブ達に対して由香と月影がまとめてブレイク。さらに囮としてわざと指示の無かったライドキャリバーが集中砲火で破壊される頃には、灼滅者側も黒ローブを3人倒していた。
     そして次に狙われたのは……。
    「風香ちゃん!」
     岬が闇の契約で風香の傷を癒す。
     さらに風香も自らに癒しの矢を放ち治癒を行った。
     自分が狙われると予想していた風香の対処は早く、大ダメージも即座に回復される。
    「反応が早い」
     その様子をチラ見していたガロンが呟く。
    「頑張って……ますから」
     傷を癒すも血の汚れまでは消えない。だが、気丈に立ち上がる風香にガロンが舌打ちする。――これ以上こいつを狙っても……。
    「よそ見ですか」
     ガロンが声と共に顔を腕でガードする。叩きつけられる弾丸。
     社だった。
    「ガロン殿、お相手ならば私たちがいたしますよ」
    「良いだろう。まずは貴様らからだ」
     ガロンが巨体から想像もつかない速さで社に接敵し、その両腕で周囲の灼滅者たちをまとめて薙ぎ倒す。だが――。
    「これを止めるか」
     傷のある左腕でガロンの拳をガードする社。さらにガロンの腕を巻き込むように空いている右手でホールドする。
    「そのまま離さないでよ?」
     ガロンの頭上から紅介の声が響く。
     上空からの殺気に慌ててガロンが身を捻るが、その槍が脇腹と太股を掠めて抉る。
    「くっ……貴様!」
     ガロンが社ごと紅介を殴りつけようとし、咄嗟に腕を放した社と飛び退いた紅介がガロンから距離を取って並ぶ。
    「今のは……なかなか痛かったぞ」
    「簡単に倒させてはくれないよね……やっぱり」
     ガロンの睨みにマイペースに返す紅介。
     だが、社と紅介の戦い方を見たガロンはある事に気が付き、配下へ命令を下す。
    「お前達、あの槍の男を狙え。左手に傷のある方が護り役だ、槍の方は防御が薄い」
     黒ローブたちの眼前に小さな魔法陣が描きだされ、そこから魔法の矢が一斉に紅介へと放たれる。
     即座に社や月影が庇うが全てを庇い切れず、また岬が回復を行うが、その傷は決して浅くは無い。
     カウンター気味に黒ローブの1人を倒した紗里亜が、後ろでオロオロしている感じの動作を繰り返す初花に向かって言う。
    「敵は強いです。初花さん、私たちのために歌ってくれませんか? あなたの声援はきっと私たちに力をくれると思うんです」
    「私……ですか? で、でも私はただの清純派アイドルですし、男のボディーガードさんもいますし……」
    「初花さん、いつだって女の子は強いものでしょ? 守られるだけなわけはないですよね?」
     三根が紗里亜に続くように声をかける。
    「……わかりました! 私は『純情可憐な清純派淫魔アイドル』初花です。みなさん、宜しくお願いします!」
     エアマイクを持つポーズで劣情を刺激するような声で歌い始める初花。
     ガロンと黒ローブたちが後頭部を殴り付けられたような刺激を受け、ぐらりとよろめく。
     さらにその歌声は、紅介と社にも襲いかかる。
    「来ると思ってましたよ」
     淫魔からの攻撃が自分に来るだろうと予測していた社が、咄嗟に気合と共にオーラで身を守る。
     だが、仲間が説得すると信じていた紅介にとって、その攻撃は不意打ち以外の何ものでも無かった。しかし――。
    「大丈夫か?」
     気が付けば月影が立っていた。
    「ったく、自称清純派アイドルってのも面倒なもんだな」
    「悪いね」
    「いや、てめぇは攻撃に専念しな。それがお互い、役目を果たすってもんだ」
     兄貴分のように月影が紅介に言うと、紅介も不敵に笑みを浮かべて頷き返す。


     初花が参戦後も戦いは続く。戦場こそ混沌としていたが、当初の作戦通り灼滅者たちは黒ローブたちを全員倒しきる事に成功する。
     しかし、灼滅者側も無事では無い。ディフェンダー陣はボロボロで、凌駕しているメンバーも多い。ガロンからの攻撃だけでなく初花から2人が攻撃されるため、それも庇う必要があったからだ。
     風香がガロンを倒すことを優先し影を伸ばせば、三根が風香の影に追随すうように渦巻く風をとき放った。
     影と風を跳躍して回避したガロンを、今度は着地点で紅介の影が飲み込む。
     ガロンが紅介の影を内側から爆発させるように脱出すると、狙い澄ましたかのタイミングで社の漆黒の弾丸が撃ち込まれ、その弾丸を何とか腕でガードすれば、死角から紗里亜が飛び込んできてガロンの腹へ光りの拳を乱打する。
    「おおおおおおお!!!」
     咆哮とも呼べる叫び声をあげ、ガロンは全身から魔力を漲らせる。
    「ちっ、しぶとい野郎だぜ」
     舌打ちする月影を睨み。
    「それが取り柄でな」
     壮絶に笑うガロン。
    「けっ、悪ぃがガロン、俺はてめぇが気にくわねぇ。女相手に9人がかり? ガタイの割にちっせー野郎じゃねーか!」
    「そう思いたければ思えば良い。だが! 最後に立っているのは我1人だ!」
     ガロンが思いもよらぬ速さで灼滅者たちへと突撃して来る。
     最初に狙われたのは風香。
    「油断も隙もないですね」
     だが、即座に大柄な褐色の肌が風香の視界を塞ぐ――社だった。
     風香を庇い右手で薙ぎ払われ吹き飛ぶ社。
    「ぐ……」
     さらに左手が紅介を吹き飛ばす。
     初花の攻撃を警戒していた分、なんとか致命傷を避けた社だが、これ以上戦うのは無理そうだった。そして紅介は攻撃を優先していた分、社よりも被ダメージは激しい……まさに重傷状態で倒れ伏す。
     ガロンの突撃は止まらない。暴風雨のように腕が振り回される。
     すでに凌駕している紗里亜と由香を三根と月影が庇うが、庇った2人は魂の力で起き上がるしかなかった。
    「……どうやら、あと1撃で半数以上が落ちそうだな」
     ガロンが突撃を止め、灼滅者たちを振りかえる。
    「ああ、そのようだ……」
     由香が冷静にガロンへと告げる。
    「貴様らでは我に勝てんぞ。諦めたらどうだ」
     ガロンが笑う。
     しかし、その時……戦場に悪魔のような歌声が響き渡る。
    「これは……」
    「初花さん!?」
     灼滅者たちの傷を癒した初花が、歌い終わって微笑む。
    「男の方はガロンさんという方だけです。私1人でも帰って貰えると思いますが……私の歌を待っててくれるファンを、私は誰一人倒させはしません!」
     岬が、紗里亜が、風香が、三根が、戦いながらも説得を続けていた意味が身を結ぶ。
    「ガロン、知っているか?」
     居合いの構えのまま由香が言う。
    「野球は9回2アウトからが本番なのさ……!」


    「おのれ! 貴様!」
     ガロンが憎悪を込めて初花に向かって叫ぶ。
     だが、初花の前にはブラックスーツの月影が立ち塞がる。
    「アポ無し突撃は、ボディーガードの俺が通させねーぜ?」
     ガロンが睨みつつも目標を変える。ほぼ傷の無い初花より、まずは頭数を減らす事を優先するべきだ。
    「あの、ボディーガードさん……ダ、ダメですよ? 私、清純派なんで、お付き合いとかは……」
     なんとなく雰囲気で勘違いする初花。
    「安心しろ、俺はただボディーガードだ。妙な誤解なんてコッチも御断りだぜ」
     彼女もいるしな……と内心で呟く月影。
    「さぁさぁ、悪役さんにはそうそうに立ち去っていただきましょうか、行きますよ?」
     三根がその着物の袖を破らんとする勢いで膨れ上がり鬼化した腕で、ガロンを殴り付ける。
    「ぐはっ……くっ、せ、せめて道連れに!」
     即座に振り下ろされる剛腕は、何度も狙われ続けていた風香へと。

     ――ガッ!

     岩そのもののような巨大な腕が、細身の鞘一本が受け止める。
     由香だった。
    「そう簡単に点はやれんよ……三澤、行け」
     即座に風香が動く。
     ガロンに手の平を向けると、一気に悪魔の周辺の熱が消失して行く。
    「そん……な……」
     急激に熱を失ったガロンが、一瞬で凍りつき……短い言葉と共に、砕け散った。
     そして――。
     倒れた仲間を介抱する中、紗里亜が初花へと話しかける。
    「初花さん、私はアイドルや歌手を何人も知っているのですが、みんな本気で頑張っていて、そして何より歌が大好きです。初花さんも、そんなアイドルの一人であって欲しいと……」
    「もちろんです!」
     みなまで言わせず笑顔で頷く初花。
     その後、初花を岬が食事に誘い、女子たち&三根で行くことに……。
     ファミレスで初花と無意味な会話を弾ませた灼滅者たちだったが、はたしてこれが正解だったのか……。
     今はまだ、わからない。

    作者:相原あきと 重傷:鳳・紅介(ブラッディエッジ・d15371) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年7月10日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 9
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