彼女は放課後、いつも一人で音楽室に閉じこもっていた。人前に出ると少し恥じらった様子で、気が弱そうな少女である。
しかしひとたびピアノの前に座ると、人が変わったように積極的になる。柔らかくも力強い歌声、感情の波を表すピアノの音色。
ピアノと歌声を聞く為に、こっそりとやってくる学生も居る程であった。
そっとピアノの鍵盤に手を添え、彼女は椅子腰掛ける。
「よかった……今日は静かだね」
友のように、彼女はピアノに話しかける。
いつもは外に人の気配があるが、今日は静かだ。これで、心置きなく練習をする事が出来るだろう。
「そろそろ人前に出て歌ってみなさいって、ラブリンスター様も仰っていたよね。大丈夫……かな」
不安と期待の入り交じる声で、彼女は呟く。
コツ、と靴音が響いたのは、今まさにピアノを弾こうとしていた時であった。楽譜を取り落とし、彼女は扉の方を振り返る。
すでにこの時間は校門も閉じられ、管理人も教師も居ないはずである。廊下の灯りは落ちており、その向こうに何が潜むのか知る事は出来ない。
反射的に、彼女は戦う姿勢を取った。
「…………遊ぼうか」
若い男性の声が、扉の向こうから聞こえた。
びくりと肩をふるわせ、少女は後ずさりをする。しかし扉がすうっと開き始めると、彼女は反対の扉から飛び出した。
闇の向こうに、三人の影が見える。
「鬼ごっこするの?」
「僕たちが鬼なんだね」
「可愛い淫魔と鬼ごっこ、最初に捕まえるのだーれだ」
くすくすと笑い、追いかける。
そこに居るのが人ではないと、彼女は察していた。
何故?
どうして同じダークネスが、私を襲うの?
疑問を感じながら、彼女は中庭に飛び出す。コの字型の校舎の、端の音楽室から向かい側の科学室まで、一気に駆け抜けた。
ふ、と見た玄関のあたりに、また一つ灯りが点っているのがみえる。
「何人……? 6人、8人? もっと多いの?」
科学室の前の窓を開けた時、後ろから髪を捕まれた。強引に引きずり倒され、地面に転がった彼女の目に闇のような色の空と、うっすら笑った男が見える。
「捕まえた」
彼女の痛ましい悲鳴は、誰も居ない校舎に響き渡った。
ちょうど、祁答院・在処(放蕩にして報答の・d09913)がその写真を手に入れたのは、アモンの残党がラブリンスターの配下を襲撃して回っている、という話しを聞いた時だった。
一枚の写真には、夜の音楽室でピアノを弾く少女が映し出されている。おそらく望遠レンズで、開いたドアの向こうの音楽室を盗撮したものであろう。
「とある高校に在籍している少女だが、ラブリンスターの配下ではないかという疑惑があるようだ。相良の方で調べてもらえればいいが」
在処が写真を手渡すと、相良・隼人(高校生エクスブレイン・dn0022)は写真を受け取ってじっと見つめた。
ここ最近の事件からして、彼女も狙われる可能性が高い。隼人が調べてみると、たしかに近日中、彼女が襲撃される事が分かった。
教室の椅子を一つ引いて座ると、隼人は改めて写真を出した。写真を受け取ったのは、クロム・アイゼン(高校生殺人鬼・dn0145)である。
何も言わず、嬉しそうにじっと写真を見ているので隼人はさっさと話しを進めることにした。
「お前の言う通り、こいつは放課後の学校で歌の練習をしている淫魔だ。近いうちに、ソロモンの残党に襲われて倒される運命にある。助けに行くとするか」
隼人が言うと、在処はうなずいてうっすら笑った。
話しを持ち込んだのは、俺なのだからと返す。それに、放ってもおけない状況であった。
「戦場は、夜の校舎。コの字型をしていて、到着時はちょうどこの子……ああ、名前はキヨという。そのキヨちゃんは音楽室で出くわした所だ。廊下には三人、強化人間がいる。……それとは別に、ちょうどコの字型の右中央にあたる玄関の方に、四人控えている」
最初に遭遇した三人の所に四人が合流するのは、自体に気づいてしばらくしてから……ちょうど五分ほど経った頃であろうか。
ちらりと顔を上げ、クロムが口を開く。
「それって、各個撃破してもいいってこと?」
「戦力的にはどうなんだ」
在処が聞くと、隼人は九人で互角……ちょい厳しい位。あの淫魔に手助けしてもらえるなら、楽になる程度だと話した。
どちらを取るかは、こちら次第であろう。
しかしどうせなら、一つずつ倒して追い詰める方が楽しいとクロムは言った。在処は黙って聞いている。
「最初のパーティーを速攻倒して、その別班が”あいつらに何があったんだ”と思ってる所倒す方がいいじゃん。俺、四人組が合流しないように囮になってもいいぜ。驚かす? 倒した血まみれの仲間を見せて怖がらせる? ホラー映画みたいに一人ずつ片付ける?」
「……お前は鬼ごっこがしたいだけじゃないのか」
在処が言うと、クロムは嬉しそうに笑った。
しばらく引きつけるくらいなら、大丈夫だとクロムは言う。
「いずれにしても、相手の狙いはキヨだ。キヨを戦場に出すにしても保護するにしても、怪我のないように戦わねばならん。……クロム、お前は在処たちの言う事をしっかり聞いて行ってこいよ」
まるでお母さんのような口調で、隼人はクロムに言い聞かせた。
参加者 | |
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苑城寺・蛍(月光シンドローム・d01663) |
桜倉・南守(忘却の鞘苦楽・d02146) |
森田・供助(月桂杖・d03292) |
祁答院・在処(放蕩にして報答の・d09913) |
サフィ・パール(ホーリーテラー・d10067) |
撫桐・娑婆蔵(鷹の眼を持つ斬込隊長・d10859) |
柴・観月(別れのユーレカ・d12748) |
片倉・純也(ソウク・d16862) |
締め切ったカーテンの向こうに、影が落ちていた。ピアノをそっと撫で、まるで友達のように語りかける声が漏れ聞こえる。
小鳥の歌声は、夜風とともに流れる……はずであった。
コツンと、靴音が廊下に響く。
楽譜を取り落とした少女は、廊下の方を振り返った。楽譜に書かれたメロディのように、筋書き通りの彼女の行動は、突如として崩れる。
うっすらと笑いを浮かべて廊下に、三つの影が落ちたその時、廊下の端から扉を開けて飛び込んだ者があった。
最初に飛び込んだのは、すうっと刀の柄に手を添えた撫桐・娑婆蔵(鷹の眼を持つ斬込隊長・d10859)。すり足で音もなく廊下に侵入した娑婆蔵は、するりと懐に飛び込む。
とっさに飛び退いた彼らの背後は、更に激しい音とともにふさがれた。ガラスを割った森田・供助(月桂杖・d03292)が、仲間を中へと誘導する。
在処が飛び込み、観月と南守が廊下を駆けると最後に自分も乗り越えた。ガラスが割れる音は聞こえなかっただろうかと、ちらりと玄関の方を振り返る。
何かあった時の為、外にはまだ猫化した辻堂・璃耶(アニュスデイを導くもの・d01096)達が控えていた。
何かあった時、彼女達が知らせてくれる事を祈るばかりだ。
「名乗りもせずに申し訳ありやせんが、撫で斬りにさせて頂きやす」
抜きざまに、目にも止まらぬ速さで娑婆蔵は刀を切り込んだ。切り裂かれた腕が辛うじて皮一枚で繋がったまま、残った腕で彼はナイフを抜き放つ。
痛みなのか、それとも悔しさなのか表情は険しい。娑婆蔵の更なる追撃を躱し、男は奥へと飛び込んだ。
娑婆蔵の横を抜けて突破する気なのであろうか。
傍にいた片倉・純也(ソウク・d16862)が、腕に仕込んだ刃を下から削るように切り上げて男へと叩き込む。巨大な刃が唸りを上げて男の半身を削り、壁へ叩きつけた。
すうっと見下ろす純也の目は、静かで冷たい。音楽室の扉から見える淫魔の少女は、恐怖に打ち震えていた。
今なら届く距離。
だがその間は、苑城寺・蛍(月光シンドローム・d01663)が阻んでいた。
キヨを室内へと押し込み、こちらを睨み付けている。
「あんたは下がってて」
「……あの、あなた達は……」
キヨの問いかけに答えようとした蛍を、純也がちらりと見る。背を向けたままの純也は、少しキヨと距離を空けているようにも見える。
彼らの前で身の上を明かさないように、という純也の意志は蛍にも伝わっているようだ。それ以上の話は、むろん彼らに聞かれる事はない。
サフィ・パール(ホーリーテラー・d10067)に従う霊犬がのど元に食いつくと、ゆっくり傍にしゃがみ込んだクロム・アイゼン(高校生殺人鬼・dn0145)がナイフを翳した。それを見せびらかすような仕草で、サクリと頭部を抉る。
「あと二人?」
「は、はい」
小さな声でクロムに答えると、サフィは一歩下がって蛍の方へと身を寄せた。廊下には残りのうち、一人が桜倉・南守(忘却の鞘苦楽・d02146)の三七式歩兵銃で蜂の巣にされていた。
総員総攻撃は、玄関の四人が来る前に片付ける為である。それに気がついた強化一般人は、自分もナイフを抜いて斬りかかった。
銃の照準の為下がった南守に迫り、叩き込むように男はナイフを振る。とっさに身を半身引いたが、ナイフは南守の肩を抉った。
「一人の女の子に大勢で暴力奮うとか、男として最低だっての」
「……大勢でボコってるあんた達はどうなんだよ」
血まみれの顔で、じっと南守を見上げて問いかける。
杖の先を鼻先に向けたまま、供助が背後を取った。
「鬼ごっこの鬼だろ」
むろん、正義の味方だなどと供助は言うつもりはない。鬼だと告げると、供助は握りしめた拳を叩き込んだ。
大きく呼吸をすると、後ろを振り返る。
残り一人は、祁答院・在処(放蕩にして報答の・d09913)と柴・観月(別れのユーレカ・d12748)が倒してしまっていた。
廊下に倒れている三人が動かないのを見て、蛍がふっと笑う。
「よし、これでダイジョーブ。……キヨちゃん、あたし達はあんたを助けに来たの」
蛍の言動は、やや距離感近く映ったようである。キヨは最初警戒していたようであったが、蛍があまり気にせず話しかけるとキヨも少し気を緩めたようである。
手短であるが、蛍は状況を説明する事にした。
観月が廊下に立ち、一人二人と強化一般人の体を抱えて音楽室へと入る。それを横目にちらりと見ると、蛍は気にしないようにとキヨに言った。
彼らは次の戦いに向けて、準備しているだけである。
「擬死化粧は後でいいよね。……そういえば、血痕を遺すんだったか」
観月が振り返ると、クロムが廊下から観月を振り返った。先ほどの戦いにより、血痕は十分廊下に散っている。
更に、クロムが少しだけ体を切って血痕を音楽室に遺した。
「お前、ヒトの体切るのに抵抗ないのな」
供助がまじまじと見ながら、呟く。
切るのも切られるのも。
そう答えたクロムに、供助はけらりと笑った。
後ろでクロムがそうしていても、観月は構わず運び続け、音楽室の机の奥へとみんなまとめて投げ込んだ。
あとは机を少しだけ寄せて、見えないようにする。
黙々と作業をしていれば、あの淫魔と関わらずに済むのだ。観月はあまり口を利かず……もっとも、元からそれほどよく喋る方ではなかったが、ともかくも作業に没頭したのだった。
残り時間もあまり無い。
外側の窓から、瑠璃垣・恢(キラーチューン・d03192)がそっと在処の傍に寄って声をかけた。
「そろそろ動きそうだけど、引きつけておく?」
「さて……どうするかな」
在処が廊下から玄関の方を見ながら、声を返した。戦闘が終わり、すでにサウンドシャッターの効果はない為、彼らが近づいて来ると物音を聞かれてしまうだろう。
クロムが誘導に出てもいいが、それだとせっかくの作戦が無駄になってしまうのが残念である。
サフィはすうっと皆を見まわすと、キヨの方へと駆け寄った。
「私達が守る、だから、少しだけ力貸してほしいです」
サフィがそっとキヨの手を取ると、蛍が背中を押して机の後ろに隠れるように言った。まるで隠れん坊でもするように、蛍は軽い口調で言う。
そんな態度に、ほっと笑顔を見せるキヨ。
蛍は、時間が迫りながらも話を続けた。
「このままだと、アモンの残党に殺されちゃうし。ね、あたし達は今ラブリン様と事を構えるつもりはないんだから。……敵の敵は味方、ってことでどーお?」
「あの……分かりました。信用、します」
不安はあるだろうが、少なくともサフィも蛍も自分の事を傷つけようとしているようには見えない。
サフィはこくりと頷き、キヨをピアノの近くに連れて行き、影に隠れさせた。淫魔とは戦うべき相手であるが、今ここに居るキヨを倒す理由も薄い。
エルを撫でつけると、サフィは小さな声で囁いた。
キヨさんを守ってくれるように、と。
小さなヨークシャテリアがじっと見上げて、意志を返す。だが、すぐに入り口の方へ、ぴくりと耳を向けた。
何かが、やってくる。
足音が複数。
多分、玄関の増援が来たのである。
エルがしっかりとキヨの傍に着いたのを見ると、サフィはリングスラッシャーを抱え込んだ。
五分経っても、少女が悲鳴を上げて飛び出して来る気配もない。
五分たっても、何も変化が見られない。追い詰める声も聞こえてこない。
黒服の男が、時計を見た。
「何か微かに物音が聞こえたな」
そうでしょうか……?
と、灰服の男が答える。
事前の打ち合わせでは、少女を中庭まで追い詰めるようになっていた。少女を探しに行った三名からの連絡は無かったし、玄関まで戻って来る様子も無い。
コツ……と、黒服の男は歩き出した。
何かがあったのは間違いあるまい。
暗い廊下を、懐中電灯を頼りに歩いて行くと、ライトに濡れた廊下が映し出された。それらはまだ乾ききってはおらず、赤黒く光っている。
窓を見ると、外側から内側に向かって割れていた。ここから少女が逃げたのだとすると、内側から外に割れて居なければならないはずだった。
「……」
侵入者。
可能性は、それ一つであった。
「……居るな」
ぽつりと声を挙げると、奥から光が差して目元を照らした。
気付かれた。
そう、黒服の男の発言から察すると、サフィはライトを黒服の男へと向けた。手を翳した黒服の男目がけて、供助が盾を手に飛び出す。
闇の中にいた供助には気付いていなかったはずだが、黒服の男はとっさに供助の突撃を残った左手で受け止めた。
強烈な一撃であったはずだが、黒服の男は動じる様子は無い。
躱された供助も動じる事はなく、むしろ笑っているように見える。
「ガラスなんか割るもんじゃなかったな。校舎の備品は大事にしろ、ってね」
「それは惜しかったな」
黒服の男がライフルを構えると、供助目がけて乱射した。
南守からの援護射撃を受けながら、供助が距離を空けて体勢を整える。残り二人の男が黒服を守るように前へと出ると、南守のターゲットは彼らへと移った。
シールドを受けた黒服の男が、今度は後衛の南守たちを狙ってライフルから火を吹いた。次々と炎が後方に炸裂し、サフィは心配そうにちらりと後ろを振り返る。
「大丈夫……です」
キヨは炎に撒かれながら声を返すと、息を吸い込んだ。
ゆるりと流れた歌声に、南守が顔を上げる。ああ、それはとても優しくて心に染み渡る歌声だ。南守は歌が聴けた事に、満足そうに目を細めた。
ならば、また一曲聴かせてもらう為に何としても守らねば。
「パール、まだ立てるか」
「……はい」
歌声に合わせるように、サティはまず南守へシールドを付与した。それから、キヨに。
……自分は最後。
まるでキヨの歌声が有り難うと言ってくれているようで、サティは少し元気が出ていた。灰服の男の行動を弾丸で沮止している南守を守る為、キヨが黒服の男の攻撃から治癒し続ける。
「後ろから狙う、卑怯です」
「全く同意だ」
南守の弾丸が灰服の男の足を打ち抜くと、その体に影の蔦が絡んでいるのが見えた。前に立った蛍が、南守を振り返ってウインクしてみせる。
黒服の攻撃は厳しいが、灰服の男に回復されないうちに戦力を減らさねばならない。観月が飛び出し、男の一人を後ろから杖で首を締め上げた。
「動くなよ」
「少し左かな」
純也に答えると、男の体を貫通した刃が観月の脇で光る。放した観月は返す刀で、もう一人の男へ杖を叩き込んだ。
残りは、二人。
そう呟いた後、観月はふと口を開いて……首を振った。何かが口をついて出そうになったのである。
その歌が、自分の背後から聞こえて来ていると察したからであった。
振り切るように、観月は黒服の男へと向かって行く。降り注ぐ弾雨を一身に受け、観月は背後の在処と娑婆蔵を黒服の弾丸から守り続けた。
体を叩く弾でさえ、体に刻まれるリズムのよう。
ほんとうに、心を揺さぶってくれる……!
「早く、頼む」
少し苛立ったような顔で、観月が言った。
在処は分かった、と低い声で答えて娑婆蔵を呼ぶ。
「行くか」
「しっかり兄貴に合わせてご覧に入れやしょう」
息を合わせて黒服の男に飛び込むと、男は炎を吐いた。炎が周囲を焼き焦がすが、観月……そして純也がそれを阻んだ。
無言の純也と、少し揺れるような観月の顔と。
その背後から、炎を割るようにして在処と娑婆蔵が飛び出す。まず一撃、娑婆蔵の刀が切り裂くと在処はボウナイフで闇の中の黒服を切り取った。
「……鬼はこちら、だったな」
ずるりと崩れ落ちた黒服の男に、在処が声を掛ける。
ちらりと視線を動かすと、ぽつんと残った灰服の男にクロムがナイフを突き立てていた。一瞬後、その体を南守のバスタービームが貫通する。
そっと背後から南守が背を押すと、灰色の服は声もなく床に倒れ込んだ。
キヨの怪我の具合を見ながら、蛍はぎゅうっとハンカチで火傷をした部分を縛り付けた。あちこち火傷だらけで、多分放っておいても治ってしまうのだろうが、何となく放っておけない。
蛍の可愛いハンカチを、きょとんとキヨは見つめていた。
「ほーんと、何か調子狂うじゃんキヨちゃんて」
「はい……」
はい、じゃない。蛍は言い返すと、溜息をついた。
「それで、ラブリン様って元気なの?」
「はい、お元気です。でも、少なからず今回の件には心を痛めておいでだと思います」
キヨにも、ラブリンスターが今どこで何をしているのか分からないようであった。しかし、自らの配下が襲われる事態を憂慮してはいるのだろう。
チラリと娑婆蔵がドキドキ☆ハートLOVEを見せると、あっと声を上げてキヨが手を伸ばした。嬉しそうに見つめているキヨに、娑婆蔵はぽんと肩を叩いて景気を付ける。
「お前さんも、いつかCDを出しなせえ」
それをいつか聞けるように、と娑婆蔵は励ましの声を掛ける。戦闘で聞こえた歌を思い返しながら、そう願った娑婆蔵の思いは蛍も、南守も同じであった。
供助はぽりぽりと頭を掻き、言葉を探すように視線を泳がせた。それから、キヨに視線を合わせて口を開く。
「まあ、戦闘中歌には助けられた。……悪くなかったぜ」
それだけ伝えると、供助は遺体の処理に向かった在処達を手伝いに向かった。擬死化粧を施している在処が、供助をちらりと振り返る。
全部で七人、黒服の男など何人かは消滅してしまったが幾人が残ってしまった。純也は残った彼らの遺体を探ったが、何も出ては来なかった。
携帯電話をクロムが見ているが、特に怪しいものは残っていない。
「情報を持っているヤツは跡形もなく消えた、か」
純也の声は、口惜しそうに夜空に響いた。携帯を放り出し、クロムが音楽室を振り返る。気付いて在処が、ああと声をあげた。
「歌か」
しばし聞き惚れ、在処は観月とサティがいない事に気付く。少し離れた所で、サティの背が見えていた。その背に向かって、観月が歩いて行く。
特にサティに用があったのではない。
ただ、あの歌があまり聞こえない所に行きたかった。
「何を見ているんだ?」
観月が聞くと、サティは少し視線を落とした。
ぎゅっと服を掴み、じっと黙っていたが……視線が校舎に向けられると、観月もそちらを見た。夜の月に照らされた校舎が、美しく映えている。
「綺麗だな」
観月が言うと、サティはこくりと頷いた。
「夜の校舎、また違った姿みたいです」
夜の校舎に響く歌に、サティは耳を澄ます。
美しい歌だ。
……美しく、そして儚い。
作者:立川司郎 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年7月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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