鮮血のアイドル淫魔

    作者:刀道信三

    ●赤いアイドル淫魔と青いソロモンの悪魔
    「なに、アナタたち? 今日はオフだからサインは受けつけてないわよ? アタシ、これから日課のバスタイムのために子リスを狩らないといけないから忙しいの。アイドルにとってお肌の手入れは必須科目、オフだからって忙しいの。邪魔するならサクッと殺すわよ?」
     外出中のアイドル淫魔をソロモンの悪魔と強化一般人達が取り囲んでいた。
    「貴様、ラブリンスター配下の淫魔か?」
     青い竜の仮面を被った大柄なソロモンの悪魔が低い声でそう尋ねる。
    「ブタかと思ったらスキャンダルを嗅ぎ回るネズミ? 面倒くさいけど仕方ないわね、これもアイドルの宿命。そうよ。今はラブリンスターの下に甘んじているけど、この馬鳥エリカいずれはトップスターに輝くアイドル。覚えておきなさい!」
     赤いアイドル淫魔はマイクスタンドを模したような凶悪な槍でビシィとソロモンの悪魔達を指した。
    「おのれこの裏切り者め。アモン様の仇討たせてもらう」
     アイドル淫魔がラブリンスター配下であることを確認したソロモンの悪魔達の目に殺意が溢れ、ジワジワとアイドル淫魔への包囲の輪を縮める。
    「ああもう、何を言ってるかわからないわ! アタシにわかる言葉で話しなさいよ。そもそもブタがアタシの美しさを称える以外のことで勝手に鳴くなんて許せない。ウルサイ、ウルサイ、ウルサイ! 頭痛がするわ。消えて、消えろ、消えなさい!」
     アイドル淫魔はソロモンの悪魔達の殺気に反応したわけでもなく、突然癇癪を起こして頭を掻き毟り、臨戦態勢にあったソロモンの悪魔達より先に襲い掛かった。
     一対一であれば或いはアイドル淫魔がソロモンの悪魔を返り討ちにする可能性もあったかもしれない。
     しかし強化一般人達を従えたソロモンの悪魔が相手では多勢に無勢、手下達と連携したソロモンの悪魔にアイドル淫魔は徐々に押され、最後には倒されるのであった。

    ●姫子さんの未来予測教室
    「ふふ、皆さん揃ってますね? では説明を始めます」
     教室に集まった灼滅者達を確認してから五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は口を開いた。
    「不死王戦争で灼滅した、ソロモンの悪魔・アモン勢力の残党が、また事件を起こそうとしているようです」
     彼らは、ラブリンスター配下の淫魔に対して攻撃をしかけようとしている。
    「先日ラブリンスターが武蔵坂学園と接触した事を、裏切りと取ったのかもしれませんし、不死王戦争の前から、ラブリンスターと武蔵坂学園が繋がっていて、不死王戦争の敗北はラブリンスターの策略と考えたのかもしれません」
     理由はどうあれ、普段はあまり表に出てこないソロモンの悪魔が、この行動によって未来予測に引っ掛かった。
     ダークネス同士の戦いではあるが、アモン残党のソロモンの悪魔を灼滅する絶好の機会である。
    「ソロモンの悪魔達が淫魔を襲撃するのは河原の土手で、戦闘をするには十分な広さもあり、幸い未来予測では一般人が巻き込まれている様子は見えませんでした」
     またソロモンの悪魔は5人の強化一般人を連れており、彼らは心身ともにソロモンの悪魔に捧げた従順な配下であり、比較的強い力を与えられているため油断は禁物だ。
    「私が予知できたのは淫魔が襲撃されるところからでした。事前に戦場で待ち伏せるのは避けて、遠くから様子を見てから戦いを仕掛けるようにして下さい」
     未来予測から外れた行動を取れば、ダークネス達のバベルの鎖に察知されてしまうかもしれない。
    「ソロモンの悪魔の戦力は、皆さんが8人掛かりで戦った場合にほぼ互角、淫魔を倒して消耗したところを狙えば有利に、もし淫魔と共闘することができれば楽に灼滅することができるでしょう」
     未来予測では倒されてしまう淫魔も、ダークネスである以上は強い力を持っている。
    「どのようにしてソロモンの悪魔と戦うかは、現場の皆さんの判断におまかせしますが、一歩間違えればダークネス2体を敵に回してしまう危険な戦いです。どうか慎重によく考えて行動を選んで下さいね。皆さんが無事に帰って来てくれることを待っています」


    参加者
    加藤・蝶胡蘭(ラヴファイター・d00151)
    久遠・翔(悲しい運命に抗う者・d00621)
    北田・舞那(ダーティエンジェルズ・d04818)
    北田・瀬那(ダーティエンジェルズ・d06216)
    天地・玲仁(哀歌奏でし・d13424)
    三条院・榛(どんなに苦しくてもやり遂げる・d14583)
    アイリス・アレイオン(光の魔法使い・d18724)

    ■リプレイ


     灼滅者達は現場となる河原が眺められる場所で未来予測の示した時間を待っていた。
    「ラブリンスター勢力には恩を売っておきたいしな。それに馬鳥さんは少々口は悪いが、自信溢れる態度と高みを目指す志は好感が持てる。何より女子に向かって多勢に無勢な奴らが気に食わん!」
     堂々とした立ち姿で加藤・蝶胡蘭(ラヴファイター・d00151)は河原を見据える。
    「さて、と……女一人に大人数でかかる不届き者を退治しますかね」
     久遠・翔(悲しい運命に抗う者・d00621)も眼鏡をかけ直しながら、今回の敵となるソロモンの悪魔に対する心持ちを言葉にした。
    「数を頼んでレディに暴力とは、見下げた奴だな。自分が弱いと認めているようなものではないか。ソロモンの悪魔は狡猾と聞いていたが、実際は愚かなのだな」
    「ダークネス相手とは言え……卑怯なやり方は放っておけませんからね」
    「ダークネス同士のいざこざは詳しく知らないけど、基本大勢で亀さんをいじめてはいけないと思うよ」
     天地・玲仁(哀歌奏でし・d13424)、コルネリア・レーヴェンタール(幼き魔女・d08110)、アイリス・アレイオン(光の魔法使い・d18724)も淫魔を多勢に無勢で襲おうとしているソロモンの悪魔に反感を持っている。
    「ラブリンとはアイドルとして共同ライブしようと約束した身、困ったときはお互い様! だからその配下は助けるよ!」
     ラブリンスターのライブの時に一緒にライブをしたいと申し出ていた北田・舞那(ダーティエンジェルズ・d04818)は、ソロモンの悪魔の行動に憤る以上にラブリンスターに対する親しみが今回の事件に臨む動機となっていた。
    「ええ、アモン残党もこの機会につぶしてやる! 『私の音楽は世界を救う』!」
     舞那の姉である北田・瀬那(ダーティエンジェルズ・d06216)は解除コードを唱えてスレイヤーカードから殲術道具を取り出す。
     アイドル淫魔とソロモンの悪魔が出会うまで、刻一刻と時間は迫っていた。


    「死になさい。さっさと逝かせてあげる!」
     ソロモンの悪魔達より先に飛び出した馬鳥エリカの槍が雷のような速度でソロモンの悪魔に迫るが、咄嗟に身を挺してソロモンの悪魔を守った強化一般人の体に深々と突き刺さる。
     強化一般人は攻撃に対して構えていたにもかかわらず、シールドはガラスのように砕かれ、明らかに致命傷を負っていた。
    「馬鹿め!」
     強化一般人に槍を突き刺して一瞬動きを止めたエリカの首を狙って、ソロモンの悪魔は得物である斧を振り被る。
    「味方であればレディは守る。紳士たる者、当然の心得だ」
     ソロモンの悪魔の凶器がエリカの首を落とす直前、二人の間に走り込んだ玲仁の黒いマイクスタンド型のマテリアルロッドがソロモンの悪魔の斧を受け止めた。
    「アナタ、何者?」
     エリカは強化一般人の死体を振り払うように槍を振るいながら、得物の間合いでの接近戦の最中であるのに、乱入者に興味が移ったのか、悠々とした態度で問いかける。
     強化一般人の死体は放り捨てられ、軽々と何メートルも飛ぶと地面に激突して血を撒き散らした。
    「麗しき可憐な人よ。何やら貴方に無礼を働く不届き者がおられる様子、不肖な我が身ですがぜひとも貴方の盾となる事をお許し願いたい」
     エリカの問いに対して、翔は恭しく一礼してから答える。
    「なかなかよく教育された子ブタ、貴き者に対する態度を弁えているようね。いいわ。このハエ共を蹴散らす間、特別にアタシのボディーガードをさせてあげる」
    「周りにいる者達はあなたの1ファン達にございます。貴方を傷つける輩を見逃せないと貴方様の手足になるべく来た者たちです。どうか我らを手足のようにお使いください」
    「ファンサービスもアイドルの務めよね。アタシと同じステージに立てることを光栄に思いなさい」
     翔の態度が気に入ったのか、エリカは直前までの癇癪とは一転して機嫌良さそうに翔の申し出を受け入れた。
    「それじゃ、話もまとまったようやし、助太刀させてもらうで!」
     突然現れた灼滅者達に浮き足立っていた強化一般人に対して、三条院・榛(どんなに苦しくてもやり遂げる・d14583)は上段に構えた無敵斬艦刀を一直線に振り下ろし、その質量でシールドごと強化一般人を地面に打ち転がす。
    「突然で済まないが助太刀させていただくぞ。美しい女性に多勢に無勢な輩を見逃していたら女がすたるからな!」
     倒れた強化一般人を、シールドを持ったもう一人の強化一般人がかばうより早く蝶胡蘭のロケットハンマーが押し潰し、二人目の強化一般人が動かなくなった。
    「さあ、いきますよ、ふぃーばー! この竜巻から、逃れられますか……?」
     コルネリアはナノナノのふぃーばーのたつまきと連携してヴォルテックスを強化一般人に放つ。
     二つの竜巻に飲み込まれた強化一般人は身動きできないままボロボロに切り刻まれた。
    「アンタら、男が大勢集まって、こんな可愛い女の子一人を寄って集って襲おうだなんて恥ずかしくないの?」
     コルネリア達の竜巻に捕らわれていた強化一般人を、アイリスのマテリアルロッドのフルスイングからの魔力爆発が、強化一般人に直撃して吹き飛ばす。
    「その人を襲うなんて赦せない! 私の演奏でしょうてんしなさーい!」
     瀬那と舞那が、エリカに背中を預けるように前に出て、瀬那のディーヴァズメロディが吹き飛んでいく強化一般人を追撃した。
    「助けに来たよ、エリカ! 一緒に戦おう!」
     姉の瀬那に重ねた舞那の歌声が残ったディフェンダーの強化一般人にトドメを刺す。
    「たまらない鳴き声よ、子ブタ&子リス! 全開でいくから置いて行かれないようについて来なさい!」
     再びソロモンの悪魔の前へ躍り出たエリカは、突然現れたアイアンメイデンでソロモンの悪魔を串刺しにしようとした。
    「ぐぬぬ、やはり灼滅者共と繋がっていたか。小癪な淫魔め!」
     ソロモンの悪魔は寸でのところで蓋が閉まり切るのを押さえるが、アイアンメイデンの内側にビッシリと敷き詰められた針が押さえるのに使った腕に無数の穴を穿っている。


    「灼滅者風情の数を揃えたところで勝った気になるなよ!」
     ソロモンの悪魔は斧を構えると高速で灼滅者達の間を駆け抜け次々と薙ぎ払った。
    「その言葉そっくりそのまま返すで」
     玲仁が庇ったことでソロモンの悪魔の疾走によって体勢を崩さずに済んだ榛がオーラキャノンでソロモンの悪魔の後ろに控えている強化一般人を攻撃する。
    「そこです」
     榛のオーラキャノンが命中した強化一般人を杖の先でポイントすると、コルネリアの轟雷が直撃して強化一般人が倒れた。
    「さて、あと一人」
     ソロモンの悪魔の脇を抜けてアイリスの放ったマジックミサイルが強化一般人に殺到する。
    「舞那、もう一回合わせるよ!」
    「了解、姉さん!」
     瀬那と舞那の息の合ったギルティクロスの赤い逆十字が、アイリスのマジックミサイルで地に足を縫いつけられていた強化一般人を八等分に切り裂いて倒した。
    「さあ、もう後がないぞ」
     ソロモンの悪魔の懐に踏み込んだ蝶胡蘭はロケットハンマーでソロモンの悪魔の斧を押さえつけながら、左拳で閃光百裂拳を叩き込む。
    「状況が逆転したな。頼みの綱の兵はもういないぞ?」
     反対側から玲仁が鬼神変で異形化した腕で殴りかかるが、斧を振り回すことでソロモンの悪魔は間一髪でそれを弾いた。
    「くっ、俺の作戦に間違いはなかったはずだ……どうしてこんなことに!?」
    「因果応報やな。往生せいや」
     玲仁の攻撃を弾くために斧を振り切ったところを狙って、榛の拳が何度も何度もソロモンの悪魔の体を打つ。
    「エリカ様、今です!」
     翔は炎を宿した無敵斬艦刀でソロモンの悪魔の斧と打ち合って鍔迫り合いをすることで、その動きを抑え込んだ。
    「オッケー、ラストナンバーよ。盛大に魅せてあげる!」
     エリカは槍を地面に突き刺すと、大きく息を吸い込み、最大の声量でソロモンの悪魔に向かって歌う。
     殺傷力どころか破壊兵器レベルまで増幅された音は、衝撃波をともなってエリカからソロモンの悪魔までの直線上の大地を抉り、音波の通り過ぎた後にはソロモンの悪魔の姿は塵ひとつ残らなかった。


    「いやぁ見事な手際で、出来るアイドルは違いますなぁ」
    「ふふん、あのていどのブタを駆除するくらいアタシにとって造作もないことよ」
     エリカは榛に持ち上げられても、さも当然という調子であったが、ソロモンの悪魔達とのやり取りを考えると、基本褒めていないと癇癪を起こすのかもしれない。
    「エリカ様、申し送れましたが私はこのような者です」
     エリカのサイキックの射線から間一髪で抜け出していた翔が、それを一切表情に出すことなく柔らかい物腰で名刺を差し出した。
    「武蔵坂学園? 聞いたことがあるわ。確かラブリンスターが興味を持っていた?」
    「ああ。最近エリカさんだけではなく、ラブリンスターの勢力がソロモンの悪魔一派に狙われているみたいなんだ。必要な時は私達学園の力を貸したいと思っている」
     蝶胡蘭が状況を説明し、助力を申し出るが、それを聞くエリカの表情はどこか他人事のように関心が薄い。
    「もしよろしければ貴方の警護を私は続けたいのですが……ご迷惑でしょうか?」
    「子ブタ、アナタは見所があると思うわ。他の子ブタ&子リス達も、今日は少し役に立ったし褒めてあげる。ただ残念だけど、灼滅者の一人二人いてもいなくても変わらないの」
     続けて身辺警護を買って出ようとした翔のことをエリカは断った。
    「そうね……調度マネージャーがほしかったし、もし子ブタがダークネスになったら、アタシの身の回りの世話をさせてあげないこともないわ。事務所の方には話を通しておいてあげるから、気が向いたら言ってちょうだい」
     しかしエリカは明日の天気を話すような自然さで翔にそう提案する。
    「なあ、俺はある淫魔を探しているんだが……」
    「ストップ、アタシ自分の美しさ以外に興味がないの。モットーはアタシ以外のヒットチャートは皆殺しよ。他の淫魔の話なんて聞きたくないわ。子ブタが鳴く時はまずアタシの美しさを褒めなさい」
     臨戦態勢というほどではないが、口を開きかけた玲仁を睨むエリカの視線には殺気がこもっていた。
    「アイドルって、歌ったり踊ったりするんですよね? 是非聴かせてくれませんか?」
     悪くなった空気を何とかしようというのもあったが、コルネリアはおだてるわけではなく、純粋にアイドル淫魔であるエリカの歌を聴いてみたいと思っている。
    「……いいわ。今日はオフだし、こんなサービス滅多にしないけど、子ブタ&子リス達にご褒美をあげる。感動にむせび泣いてもいいのよ。むしろ鳴きなさい。それじゃ、いくわよ、ミュージックスタート!」
     灼滅者達はひとつ勘違いをしていた。
     ソロモンの悪魔にトドメを刺した一撃は、音に破壊力を与えるために可能な限り大声を出すための歌唱だったのではないかと。
     サイキックとしてではなく、普通に歌っているので灼滅者達にダメージが入ることはなかったが、実際には河原で爆弾でも爆発したかのような爆音が響き渡った。
     しかもそれがセンスの欠片もない歌詞で、絶妙に神経を逆撫でするような音程のズレで歌い上げられる。
    「……なんて悲しいアイドルなんだ」
     アイリスのそんな呟きもかき消しながら、地獄のリサイタルは丸々一曲分の時間続くのだった。

    作者:刀道信三 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年7月15日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 8
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ