あおぞらミュージカル

    作者:南七実

     郊外にある、大きな公園。
     敷地の奥にある野外ステージで、毎日のように歌と踊りの練習をしている少女がいた。
    「ららら~、るらららららら~♪」
     明るく澄んだその声は人々を魅了し、可愛らしい彼女の容姿は、異性はもちろん同性までをも惹きつける魅力があった。
     彼女の名は、椋鳥ミレイ。ラブリンスター配下の淫魔である。
     とろけるような微笑みを浮かべて歌う少女の姿を見て、幾人もの通行人が足を止めている。
    (「うふふ。みんなわたしの声に聞き惚れているわ」)
     歌の上達には観客の存在が不可欠。通りすがりの人に見て、聴いて、楽しんでもらって、わたしはどんどん輝いていくのよ♪と彼女は目を輝かせていた。
    「ラブリンお姉様みたいな素敵なアイドルになりたいんだもん。わたしがんばるっ」
     そんな、ある日のこと。
     いつものようにステージで声を張り上げていたミレイは、あらっと声を上げた。異様な殺意を放っている暑苦しい黒装束の男達に、いつの間にか包囲されていたからだ。
    「貴方達、誰? わたしのファンの人……じゃないよね」
    「貴様は判っている筈だ。我等が主の仇を討ちに来た事を――」
    「え、ええええ? 何の話?」
    「問答無用」
    「!?」
     状況がまったく飲み込めないまま黒装束集団に襲いかかられたミレイは、情熱のステップで果敢に応戦する。
    「ミレイちゃーん、がんばって」
     即興のショーでも始まったのかと勘違いして、周囲にいたギャラリーが歓声を上げた。
    「えっと、襲われる理由がよくわかんないんだけど……そう簡単にわたしをどうにかできるなんて、思わないでよねっ!」
     襲いかかってきた男達は格段強い訳でもなく。こんな雑魚相手になら自分一人でも楽勝よ、と不敵に微笑むミレイ。しかし――敵の後方から飛来してきた魔法の矢に胸を射抜かれた彼女は、自身が不利な状況に置かれている事に遅まきながら気づく。
    「覚悟しろ、薄汚い裏切り者め」
    (「え、やだ。これってまずいかも……」)
     雑魚の中に一人、強敵がいる。そう気づいた時にはもう、彼女の退路は完全に塞がれていた。
     
    ●悪魔の復讐
    「最近立て続けに起きている、ソロモンの悪魔による淫魔襲撃事件……既にご存じの方も多いかと思います」
     これからお話する事件もその一つですと言って、五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)はアイドルを目指す淫魔の少女ミレイが襲撃される未来の事件を語った。
    「この事件で動いているのは、ソロモンの悪魔・アモン勢力の残党です。どうやら彼等は、ずっと以前から武蔵坂学園とラブリンスターが協力関係にあったのだと決めつけて、不死王戦争でソロモンの悪魔側が破れアモンが戦死したのは、実はラブリンスターが裏で手を回していたからだ……と曲解したようなんです」
     勿論、そんな事実はない訳だが――確かに現在ラブリンスター一派と武蔵坂学園は一応の友好関係にあるし、暗い復讐心に凝り固まっている彼等には何を言っても通じないだろう。
    「襲撃は白昼堂々、公園の野外ステージで行われます。最悪の場合、通行人が戦いに巻き込まれてしまう可能性もありますし、放置してはおけません。これはダークネス同士の戦いですが、アモン勢力の残党を仕留めるチャンスでもありますし……皆さん、急ぎ現場へと向かっていただけますか?」
     
     灼滅者達が現場へ到着するのは、ミレイがソロモンの悪魔側に包囲された直後となる。
     襲撃者はソロモンの悪魔と、配下の強化一般人4名。魔法使いのサイキックを駆使するソロモンの悪魔はそれなりに強いが、配下はそれほどでもない。ミレイは単身、サウンドソルジャーのサイキックを使いこなして応戦するが、5対1では多勢に無勢。救いの手がなければどうにもならず、その場で力尽きる事になる。
    「お伝えしたように、ステージ周囲には一般の方が少なからず存在します。ミレイさんの練習を見物に来ている人が大半のようですね」
     ソロモンの悪魔側は人目など全く気にせず、戦いの巻き添えになろうがなるまいが頓着しない。むしろ邪魔だと感じたら一般人など躊躇無く薙ぎ払ってしまうだろう。一方、ミレイは自分のファンが傷つくのは嫌だと思ってはいるが、一人では身を守るのが精一杯なので彼等を助ける行動には出られない。
    「戦闘が始まっても、一般の方はミレイさん達の凝ったパフォーマンスだと判断してしまいますので、緊張感は皆無です。自発的に逃げてくれるのを期待するのは難しいでしょうね。彼等が巻き添えにならないよう配慮して頂けるようお願いします」
     どうやら、現場はかなり面倒かつ厄介な状況のようだ。
     しかし、考えるべき事は他にもあって。
    「皆さんは、どのような立場で参戦するかを考えておく必要があります」
     何もせず傍観した場合、ソロモン側の集中攻撃によってミレイは死亡する。
     ダークネスである彼女を救うか、見捨てるか、共闘を申し出るか――それとも両者が消耗したところを潰してしまうか。どのタイミングで戦いに介入するかは、灼滅者の判断に委ねられる事になるが、その結果によってラブリンスター一派との今後の関係にも影響が出てくるかも知れない。
    「どうされるかは、皆さん次第。できる事なら最善の選択を……どうぞ、よろしくお願いしますね」
     そう言って微笑み、姫子は説明を終えた。


    参加者
    叢雲・宗嗣(贖罪の殺人鬼・d01779)
    嵯神・松庵(星の銀貨・d03055)
    ピアット・ベルティン(リトルバヨネット・d04427)
    百枝・菊里(アーケインワーズ・d04586)
    月原・煌介(月梟の夜・d07908)
    小鳥遊・亜樹(幼き魔女・d11768)
    シャルロッテ・クラウン(残念な海賊きゃぷてんくらうん・d12345)
    望月・若葉(月蝕の華・d14798)

    ■リプレイ

    ●第一幕
     夏本番の青空の下。公園の野外ステージで高らかに歌う可愛らしい少女が、得体の知れない黒装束集団に包囲されている光景から物語は始まる。
    「おやおや」
     孫を連れた老夫婦が足を止め、歌唱に夢中になっている少女を眩しそうに眺めた。
    「ミレイちゃんは相変わらず良い声ね」
    「今日は人が多いな。芝居の練習か?」
    「あの黒い人達、凄く暑そうだね~」
     幼子の無邪気な一言にうんうんと同意して、暑い中あんな衣装で倒れないのかなぁと好奇の視線を黒衣男達に投げかける周囲の人々。
    「あらっ?」
     遅ればせながら自分を取り囲む存在に気づいて首を傾げたミレイに、黒装束集団が蔑みの目を向ける。
    「貴様は判っている筈だ。我等が主の仇を討ちに来た事を」
    「え、ええええ? 何の話?」
    「問答無用」
     ギラリと光る刃物を持った男達が少女に襲いかかろうとした刹那――嵯神・松庵(星の銀貨・d03055)の制止が辺りに響き渡った。
    「待てぃ!」
     飛来した魔法の矢が刃物を持つ男の足元に突き刺さる。
    「そこまでだよ!」
     虚を突かれた黒装束集団とミレイが上を向いたのと同時に、箒に乗って空を駆け抜けてきた灼滅者達が、一斉にステージの上へ飛び降りてきた。
     わあっ凄いイリュージョン、とどよめくギャラリー。
    「ヒーローは遅れてやってくるものなの! 悪い悪魔は退治される時間だから、覚悟するといいの!」
     ビシッと槍を構えたピアット・ベルティン(リトルバヨネット・d04427)が、黒い男達に鋭い瞳を向ける。何が起こったのかと戸惑うミレイに近づいた百枝・菊里(アーケインワーズ・d04586)は、自分達が武蔵坂学園の者だという事を早口で告げて共闘を申し出た。
    「武蔵坂の人? どうして」
    「あなたのファンのためにできることをやって、ミレイ」
     出端を挫かれた男達が、黒いフードを目深に被った主人――ソロモンの悪魔へ、どうしますかと指示を仰いでいる。
    「灼滅者か。淫魔、貴様が呼んだのだな」
     表情は見えずとも、相手が激しく憤っている事は伝わってくる。だがミレイは、自分が標的になっている理由が未だに判らない。
    「だから、何なのもうっ」
    「黙れ裏切り者。死ね!」
     物凄い殺気と共に撃ち出された魔法の矢がミレイの胸を貫いた。ソロモンの悪魔の怒りは、当然ながら灼滅者達にも向けられる。
    「奴等を皆殺しにしろ!」
    「はっ!」
     主の命令に従い突撃してきた配下を横殴りにしたシャルロッテ・クラウン(残念な海賊きゃぷてんくらうん・d12345)が、胸の内で燻っていた感情を爆発させた。
    「てめーのいうこた、どーでもいい! おんなひとりによってたかって、つーのがきにいらねーんだ、あたいは!」
     いたたと胸を押さえて前屈みになったミレイを支えた小鳥遊・亜樹(幼き魔女・d11768)が襲撃者達を睨みつけ、マジックミサイルで応戦する。
    「ぼくたちは、このソロモンの悪魔を追って来たんだ。倒すのに協力してくれないかな?」
    「…手を貸してやる。アレを殺すために、な」
     ソロモンの悪魔から視線を逸らさず、果敢に配下を迎え撃つ叢雲・宗嗣(贖罪の殺人鬼・d01779)。ここへきてようやくミレイも状況を把握したらしい。
    「そっか。ソロモンの人、わたし達が武蔵坂の人と仲良くなったのが気に入らないのね」
    「つーわけだ! ねーちゃん、たすけてやるぜ!」
     シャルロッテが白い歯を見せて不敵に微笑む。蠱惑的に笑い返したミレイは、突っ込んできた配下に強烈な死の旋律を浴びせかけながら前へ飛び出して、大事なファンに呼びかけた。
    「皆、黒い人達は殺し合いに来たの。危ないから離れてくれる?」
     途端、わはははと笑い声が湧き起こった。どうやら客を巻き込む芝居の一環だと思われてしまったらしく、ギャラリー達は全く動こうとしない。まぁ当然の反応であった。
    「あ、あれれ?」
     咄嗟に上手い嘘がつけないタチなのだろうかと思いつつ、月原・煌介(月梟の夜・d07908)がミレイに淡々と話しかける。
    「一般人は俺達でどうにかするから、後は任せて、戦って……敵の狙いは君ぽいから」
     しかし彼が「危険だから離れて」と繰り返し声をかけても、人々は見向きもしない。
    「警備達が来てる、演出じゃない」
     いくらプラチナチケットでミレイの関係者を装っても、不思議現象を見せられて興奮している観客を動かすには、少々説得力が不足していたのだ。
    「やっぱり実力行使しかないのかしラ。楽しんでるとこ悪いケド、ちょっと離れてもらうわヨ」
     望月・若葉(月蝕の華・d14798)が殺気を放った途端、ギャラリー達は落ち着きのない表情になり、逃げるようにステージから離れ始めた。
    「若葉、感謝。大丈夫……あちらへ」
     しっかり避難させるべく煌介が観客達を誘導し、旅人の外套を纏った菊里がフォローの為に空を飛んで人々の後を追う。若葉はホッと息をついた。
    「なんとか上手くいきそうネ」
     勿論、一般人対策をしている間にも戦いは続行中。
    「我等の怨みを思い知れ!」
    「やめてファンの人に当たるじゃない~♪ そもそもコレって逆恨みじゃないの~♪」
     神秘的な旋律と魔法の矢をぶつけ合うダークネス達を後目に、松庵は影の触手を伸ばし、ミレイにやられて瀕死状態だった配下にトドメを刺した。
    「きみたち、ソロモンの悪魔は許せないんだ。覚悟してね」
     魔法の矢で配下を狙い撃ちにする亜樹の瞳には、強い敵意が秘められている。アモンに対する憤りに突き動かされるかのような苛烈な一撃で敵を切り裂いた宗嗣が、低い声で呟くように言った。
    「黄泉路への土産だ、一凶馳走してやる…」
    「灼滅者如きが生意気な!」
    「逆恨みで襲撃とか、ほとほと呆れるの。きっちり返り討ちにしてあげるの!」
     螺旋の捻りを加えたピアットの槍が、逆上して突っ込んできた配下の喉元を貫く。ぐうぅと呻いた男に躍りかかったシャルロッテの影縛りが、相手を締め上げてその息の根を止めた。
    「このままいっきにけちらそーぜ!」

    ●第二幕
     乱戦となったステージの中央で、ダークネス同士の激しい攻防が続いている。
    「薄汚い淫魔め、砕け散れ!」
     フォースブレイクの苛烈な一撃を食らったミレイがくるりと一回転してポーズを取り、高らかに歌い上げる。
    「毎日入浴してるもん~汚くなんかないわ~♪ 貴方こそ汗まみれでちょっとニオうみたい~♪」
     彼女の奏でる旋律は確かに敵へダメージを与えているのだが、いかんせん歌詞がサイテーだ。作詞センスがないなと思いつつ日本刀を振り上げた松庵が、突撃してくる配下のナイフをものともせず、上段の構えから重い斬撃を繰り出した。
    (「それにしても……悪魔の癖して力に訴えすぎだろう、こいつら」)
     冷静な判断力を失うほど淫魔への怒りに支配されている、という事なのだろうか。
    「知略の悪魔が……情けない宿敵だ」
     一般人の避難を完了させて戻ってきた煌介が、シールドを広げて前衛陣の守りを強化する。
    「お待たせ! あなたのファンは安全圏内よ、ミレイ」
    「不意打ちなんてスマートじゃないわネェ。絶対死守させて貰うわヨ」
     ステージに舞い降りてきた菊里と、後方に立つ若葉の繰り出した凍てつく死の魔法が、黒衣集団を瞬く間に氷漬けにする。ミレイは相好を崩して「ありがとっ」とウインクした。
    「調子に乗るな、雑魚が!」
     配下達の放ったマジックミサイルが宗嗣と煌介を強かに貫く。追撃がもたらす激痛を堪えつつ鞭剣を高速回転させて敵群を切り刻んだ宗嗣は、凄惨に笑いながら相手を睨みつけた。
    「それは此方の台詞だ。あまり俺の邪魔をするなよ…楽に逝きたかったらな…!」
    「雑魚に雑魚って言われたくないなぁ」
     辛辣な一言と共に螺穿槍を繰り出す亜樹。更にピアットのフォースブレイクを食らった配下が涙目になっているように見えたのは気のせいか。
    「みんなそろったな。こっから…てかげんぬきだ!」
     シャルロッテの展開した霧が仲間を包み、その戦意をぐんと向上させる。
    「っ……させないよっ!」
     咄嗟に動いたのは、ソロモンの悪魔の動向に注意を払っていた亜樹。
     いくら強いとはいえ、敵の攻撃を受け続けていればいずれ力尽きる――危機感を抱いた彼はぶつかり合うダークネスの間に危険を承知で飛び込み、ソロモンの悪魔の一撃からミレイを庇ったのだ。
    「ららら~わたしには見える~無様に力尽きる悪魔の姿が~♪」
     歌詞は相変わらず下らなかったが、ミレイのドラマティックな歌は確実にソロモンの悪魔の体力を削っていた。
    「大丈夫か、小鳥遊!」
     すかさず裁きの光条を呼び起こして亜樹の傷を癒す松庵。同時に、音もなく動いた煌介が槍の強撃で三人目の配下を葬り去った。
    「貴様等ァァッ!」
     次々と仲間を屠られて怒り狂った配下の、憎しみを込めた魔法の矢が戦場を飛来する。
     ズシュッ。腕を撃ち抜かれたまま敵の死角へと回り込んだ宗嗣は『無銘蒼・禍月』を巧みに操り、鮮血を散らしながら相手の急所を断ち切った。
    「邪魔をするなと言った筈だ」
    「いくよっ」
    「全力でぶっ飛ばすの!」
     怯んだ配下へ飛び掛かった亜樹とピアットが、左右から凄まじい拳の連打を叩き込んだ。追い討ちをかけるべく放たれた冷気の氷柱が、最後の配下の命を貫いて地に沈める。
    「残るは、あなただけよ。ソロモンの悪魔さん?」
     魔法陣を描くように魔槍をくるんと回転させた菊里が、そう言ってソロモンの悪魔へ挑戦的な瞳を向けた。
    「何だと……全員仕留められたというのか!?」
     ミレイを襲う事にのみ集中していたソロモンの悪魔は、配下の全滅に驚愕し、カッと目を見開いた。その隙をシャルロッテは逃さない。
    「てめー、さめのえさな!」
     刹那、鮫の形状を象ったシャルロッテの影が標的をばっくりと飲み込んだ。
     逃亡を阻止するべく、じわじわとソロモンの悪魔を取り囲んでゆく灼滅者達。
    「回復は徹底するわヨ」
     治癒の力を秘めた温かな光を灯した若葉が、宗嗣の怪我を緩やかに癒してゆく。
     人には聞かせられないようなあらゆる罵詈雑言を吐き散らしながら、ソロモンの悪魔がミレイへ躍りかかってきた。
    「よくもやってくれたな小娘がァ!」
    「ええ~全部わたしのせいなの~? そんな後ろ向きな性格じゃ女の子にモテないわよ~♪」
     悪魔的な形状の魔法杖に強打されたミレイが、少しふらつきながら反撃を続ける。
    「おっと。強いと聞いてはいたが、さすがに放置はまずいな」
     仲間の総意はミレイを死なせない方向で一致している。ダークネスと共闘する事に対し迷いがなかった訳ではないが、松庵は躊躇いもせず裁きの光条でミレイを癒した。
     若葉もまたスッと腕を掲げ、淫魔の少女へ回復の手を差し伸べる。
    「安心して、誰も倒させたりはしないかラ」
     灼滅者から回復のサイキックを受けたミレイは少し意外そうな表情になったが、敵から目を離す事はせずに、次の攻撃に備えて身構えた。
     淫魔も『悪』だと煌介は思う。
    (「けど、人が抑え過ぎる心をぶつけてくるところ……少しだけ嫌いじゃない」)
     しなやかなステップを踏みながら敵との間合いを詰めた煌介の螺穿槍が、舞うように相手を刺し貫く。
    「きみたちの親玉、アモンくんを倒したぼくたち灼滅者をなめないでよね」
     亜樹のマテリアルロッドが唸りを上げて敵を打つ。アモンを引き合いに出されて更に激昂する悪魔の頭部に、ピアットのフォースブレイクが炸裂した。
    「ぐ……はッ」
     反動で黒フードが外れ、蛇のように邪悪な悪魔の素顔が露わになる。
    「ああっ、いかにも『ワル』って顔だったのね!」
     顔で判断したらいけないとは思うけどと舌を出すピアットの脇をすり抜けるようにして、宗嗣がソロモンの悪魔に突撃し、強烈な斬撃を浴びせかけた。
    「ぬおっ」
    「アモンに連なるものは須らく殺す。それが俺の借りの返し方だ…」
     宗嗣に遅れを取るまいとばかりに灼滅者達の攻撃が四方八方から襲いかかる。さすがの悪魔もだいぶ疲弊してきていた。
     淫魔の小娘を仕留めるどころか、見下していた灼滅者に追い詰められるという屈辱的な状況――だがソロモンの悪魔は、この事実を認めるつもりは一切なく、ましてやこの場から逃げ出すつもりもなかった。
     引っ込みがつかないとは、まさにこの事。
    「お……の…れ」
     突如戦場に発生した魔法の竜巻が、前衛を担う者達を巻き込み横切っていった。ミレイの歌が風に乗って悪魔を包み込むのと同時にシャルロッテが高く跳躍し、緋色のオーラを宿した巨大なマストで標的を一閃。
    「うばうのがかいぞくりゅー、ってな!」
     松庵の足元から伸びた影の触手に絡め取られたソロモンの悪魔へ降り注ぐ、灼滅者達の一斉攻撃。強力なダークネスといえど、最早為す術もなかった。
    「ぐわぁ! バカ……な」
    「……灼滅者だからと甘く見過ぎなのよ」
     菊里の言葉が聞こえたのかどうか。ソロモンの悪魔は敢えなく力尽き、跡形もなく消滅した。
     かくして事件は、醜い悪役の退場によって幕を閉じたのである。

    ●カーテンコール
    「奴の首、確かに貰い受けた。感謝する…」
     武器を収めた宗嗣の言葉に、ミレイはよく判らないといった様子で首を傾げた。
    「ところでみんなは、どうしてここに?」
     この問いに対する松庵の答えは決まっていて。
    「それは、アモン一派の動きを俺達が常に追っていたからだ」
     疑いもせず納得したらしいミレイは、メイド服事件について何か心当たりはないかという菊里の質問に「メイド? あはは」と笑ってみせた。
     そっとミレイに近づいた煌介が、「ラブリンスターと握手した、よ」と囁きかける。
    「俺の目…哀しい色に見えるって。君もそう見える? 彼女だけが、瞳に何か見える…?」
    「うーん、ラブリンお姉様に何が見えているかは、わたしには判らないな」
    「今日はミュージカルみたいで楽しかったの。また歌ってくれる?」
     改めて今ここで歌と踊りを見せて欲しいと願うピアットと松庵に、ミレイははにかんだ笑顔を向けた。
    「ごめんね、もう歌いすぎて疲れちゃった。また、そのうちにね」
     そっかぁと残念がるピアットの肩を励ますようにぽんと叩いた若葉が、判ったワと頷いた。
    「アンタが舞台に立つ時ハ、見に行かせて貰うわネ。約束ヨ」
     彼女が言い終えるよりも早く、ステージから飛び降りてバイバイと手を振るミレイ。
    「あれ? ねーちゃん、かえっちゃうのか?」
     シャルロッテの問いかけにミレイはにっこりと微笑んで、くるりと踵を返した。
     止める間もなく走り去ってゆく淫魔の少女。
    「まったく……自由奔放で気まぐれな子なのね。自己紹介もさせて貰えなかったわ」
     菊里が苦笑いをして、呆れたように肩をすくめる。
    「また会えるかなぁ」
     別のソロモンの悪魔に狙われなければ良いんだけど――と、少し心配そうにミレイの背を見送りながら、亜樹はそっと呟いた。
     これからも仲良くできるといいね、と。
     

    作者:南七実 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年7月16日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ