ぶらり湯けむりとネズミ退治

    作者:御剣鋼

    ●噂は岐阜県の温泉街にも
    「下呂温泉のイフリートからも、同じような依頼が舞い込んでくるかと思いまして♪」
     と、皇樹・桜(家族を守る剣・d06215)が、何人かのエクスブレインに尋ねたところ。
    「ふふ、桜さんが私の所へ訪れたのと丁度同じ頃、イフリートからの石版が届きました」
     桜の話を引き継いだのは、五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)。
     ――ダークネスからの依頼に、抵抗が無い訳でもない。
     けれど、武蔵坂学園にとっても事件の情報を早めに入手でき、イフリート達が自ら解決に赴いた時の被害を防止することにもなるので、対応にあたっているのが現状だ。
     また、今はクロキバ一派との繋がりを平和的に保ちたいという意見も少なくはない。
    「皆さんに解決をお願いしたいのは『岐阜県・下呂温泉(げろおんせん)』の近辺に隠れ棲む、イフリート達からの依頼です」
     と、姫子は教室の壁に立てかけられている石版を指し示す。
     深緑の中に仄かな湯の香りが交じる不思議な手紙。一同はゆっくり目を通していく。
     
     ――ヤマアイノ スミカノチカクニ オオキナネズミ タクサンイタ。
     ――ガリガリカジラレルノ オレタチ イヤ ヒトモ キット イヤ。
     ――サクット カイケツ キタイシテイル。

    「いやいや、カジられる云々よりもさ、先にネズミの方が燃えてしまうだろおがああ!!」
    「たしかに、ネズミを見て良い気分をする人は、少ないと思うけど……」
     妙な理不尽さに荒れる者がいれば、悟りきったような遠い眼差しを浮かべる者もいたり。
     そんな一同に姫子も小さく微笑を返しながらも、説明を続けていく。
    「私の方でも詳しく解析してみたのですが、温泉街と山の境にある廃屋に、ネズミバルカンの群れが隠れ棲んでいるようです」
     今は人の気配はあまり多くないという、森の片隅にある小さな廃屋。
     本格的に夏を迎えたら、肝試しで周辺や内部を散策する者が出て来るかもしれない、が。
     好奇心のまま足を踏み入れてしまったら最後、力無きモノはただ死を迎えるだけ。
     それも、生きたまま、喰われるという、絶望の中で……だ。
    「隠れている、ネズミバルカンの数は、8体になります」
     統率するような固体もなく、8体とも『ガトリングガン 』に似たサイキックを使うのみ。
     けれどその数は多く、灯りや足元が不安定な廃屋内での戦いでは、油断ならないだろう。
    「ダークネスと戦うわけではありませんので、危険なことにはならないと思いますが……」
     ……万が一、逃がしたり放置してしまった場合。
     眷属と遭遇してしまったイフリートが弾みで暴れ、人里に危害を及ぼす事も考えられる。
     イフリートや灼滅者には容易でも、人々にとってははぐれ眷属すら驚異に等しい存在だ。
    「今回はアウェーか、それでも準備万端で攻めれば、決して苦戦する相手ではないな」
    「はぐれ眷属とはいえ、しっかり倒しておきたいよね!」
     決意を新たにする灼滅者達に、姫子も嬉しそうに微笑を浮かべて。
    「折角の機会ですし旅館の予約も取ってあります、倒せたらのんびりしてきて下さいね」
    「「な、なんだってえええ?!」」
     戦闘後に旅館でくつろげる、嗚呼なんて歓喜な響きッ!!!
     また、下呂温泉街を突っ切るように流れる益田川の河原に、下呂温泉のシンボルとも呼べる『噴泉池』と言う露天風呂があるという。
    「旅館の温泉も素敵だと思いますが、河原の露天風呂というのも楽しそうですね」
     にこっと微笑む、姫子。
     夏を迎えた濃厚な山の息吹と共に、河原で味わう湯の香りは格別に違いない。


    参加者
    シオン・ハークレー(小学生エクソシスト・d01975)
    ヴェルグ・エクダル(逆焔・d02760)
    風見・孤影(夜霧に溶けし虚影・d04902)
    皇樹・桜(家族を守る剣・d06215)
    明鏡・止水(中学生シャドウハンター・d07017)
    靴司田・蕪郎(靴下は死んでも手放しません・d14752)
    空本・朔羅(中学生ご当地ヒーロー・d17395)
    七代・エニエ(吾輩は猫である・d17974)

    ■リプレイ

    ●窮鼠炎を噛む?
    「不意を突けば、ネズミでもひとかじりはできるよな」
     眼前の廃屋を、明鏡・止水(中学生シャドウハンター・d07017)は何処か微睡みを帯びた眼差しで見つめていて。
    「人払いは必要なさそうっすね!」
     空本・朔羅(中学生ご当地ヒーロー・d17395)も、周囲に人の気配がないか見回す。
     テンション高めの朔羅と反対に、七代・エニエ(吾輩は猫である・d17974)は淡々とヘッドライトを付けている、が。
    「鼠捕りは猫の本業だ。吾輩の猫魂は大量の獲物の気配に喜び沸き立っておる」
     エニエの表情は至って変わらず、けれど何処か楽しそうな雰囲気を醸し出している。
    「イフリートでもネズミが苦手なのか?」
     反ネズミな風見・孤影(夜霧に溶けし虚影・d04902)は、炎獣達の手紙に妙な親近感を抱きながらも、鋭く廃屋を見据える。
     次に捉えたのは、生地の薄い靴下に明かりを入れている靴司田・蕪郎(靴下は死んでも手放しません・d14752)でした。
    「それは、なんだ」
    「これを首に巻いて明かりを確保するのです」
    「腰に下げてる靴下からは、妙な臭いがするが」
    「ブルーチーズが入っておりマァス、これでネズミを誘き寄せるのです」
     全裸にムタンガ。頭には靴下を被り、足に靴下という不思議な出立ちの蕪郎。
     眉間を抑える孤影に、ヴェルグ・エクダル(逆焔・d02760)も苦笑を零してしまう。
    「……まあ、さっさと終わらせてのんびりしよう」
     宿敵ではあれど、恨みは無い。
     しかしイフリートからの依頼に対しては、ヴェルグも少し複雑な面持ちでいて。
     携帯式ランプと手持ちランプに明かりを灯すと、携帯式の方を腰に下げた。
    「またイフリートからの依頼だって、怒られそう……」
     2度目の温泉は、ネズミ退治。
     初めて戦う眷属相手に、皇樹・桜(家族を守る剣・d06215)は臆する素振りもなく。
     桜にとっては、同じ部活に所属する師匠の方が、気になるのだろう。
    「暴れないだけいいのかな?」
     このままずっと大人しくしててくれれば、争わずに済むかもしれないのに。
     不思議なモノを感じていたのは、シオン・ハークレー(小学生エクソシスト・d01975)も同じだけど。
    「やっぱり、むずかしいかな」
     呟きを静かに流したシオンは明かりを掲げ、そっと室内を照らす。
     一見すると只の廃墟だが、色濃くした闇に紛れた殺意を見逃す者はここにいない。
    「よっしゃ! もふもふイフリートが齧られる前にいっちょ頑張るっすよ!」
    「齧っても消し炭だろうけど」
     やる気満々にヘッドライトを付ける朔羅、止水も柔らかな笑みを返す。
     戦いの刻が近付いたことを悟ったのか、僅かに双眸を研ぎ澄ませた。
    「さあ、狩りの時間だ!」
     桜のスレイヤーカードが鳴動すると同時に、左手に現れるは漆黒の直刀型の野太刀。
     ヘッドライトが闇に満ちた屋内を照らすと、幾つもの殺気が剥けられる!

    ●廃屋の戦い
     廃屋内に踏み入れると纏わりつくような暑さと湿気でむせ返る。
     人間には居心地が悪くても、ネズミバルカンにとっては快適なのだろう。
     予期せぬ侵入者に我慢ならず、金切り声をあげて飛び出して来た。
    「手前に5体、奥に3体か」
     ヴェルグが手持ちランプを遠くに投げると、闇の奥が瞬時に晴れる。
     手前の数体が明かりに気を取られた、その刹那。
    「――今だ!」
     強くガレキを蹴って駆け出すや否や、前線の敵を蹴散らすように槍を旋回させる。
     怨念が塗り込められた魔槍の軌跡に合わせて、仲間が滑り込んだ。
    「逃がさないよう惹きつけマァス」
     蕪郎が踊るのは眷属だけでなく味方も怯ませるような、熱い情熱を秘めたダンス♪
     歌う態勢を整えるようにポーズを決めた蕪郎が何処か輝いてみえた、その隙に。
     孤影が手持ちのランプを出入口付近に置いて、視界の通りを確保していて。
    「今からここで、お前たちを処刑する!」
     刀の鯉口を切ると満月を思わせる銀の刃が煌めき、足元の影がうごめく。
     影は、視界に照らされた眷属達を覆い尽くさんと、漆黒の殺気を無尽蔵に放出した。
    「端よりも中央の方が戦いやすそうだな」
     止水も視界が確保されると、素早く足下を見回して危険な場所を確認する。
     天真爛漫な素振りから一変し、好戦的になった桜も少しでも動きを止めようと、霊的因子を強制停止させる結界を構築した。
    「何時逃走されるかも分からぬ。窓にも警戒しておこう」
    「端の方は特に足元に気をつけてね」
     集中放火を避けようと狭めの場所に位置取ろうとするエニエに、シオンが注意を促す。
     不定形な斬撃に合わせて、シオンも動きに制約を与える神秘の弾を撃ち込んだ。
    「援護するっす!」
     ――1体も逃がさない!
     出入り口を塞ぐように布陣していたキャスターの朔羅も元気良く敵の元へ疾走する。
     首を掴んで高く持ち上げた刹那、高めたご当地パワーと共に勢い良く地面に叩きつけて。
     レモン色の爆発が轟くと同時に横に飛ぶと、直ぐに無数の弾丸が降り注いだ。
    「――っ」
     眷属が背負うガトリングガンから吐き出されるのは弾丸の雨だけでない。
     時折飛んで来る炎弾を、桜は縛霊手を纏った右手を盾代わりに前に突き出していく。
    「ネズミはネズミらしく、前歯で攻撃しろってーの」
     ――残り6体。
     止水は溜息混じりに軽く息を整えると、影を宿した鋼糸で鋭く斬りつける。
     トラウマを引き摺り出された眷属が怯むような素振りをみせた、その時だった。
    「手前の敵は俺が引きつける!」
     出入り口を背にしたヴェルグは半歩踏み出すと、素早く穂先に炎を乗せる。
     槍術の応用で鋭く突き出した一閃は疲労を濃くした1体の脳天を砕き、炎が飲み込んだ。
    「私も拘束系サイキック中心で回ろう」
     この後には温泉、それを満喫するためには最後まで油断出来ない。
     孤影の足元から霧のような影が伸び、状態異常が蓄積された眷属を絡めとる。
     残った眷属達が一斉砲火を仕掛ける中、即座に味方の傷を癒すのは――。
    「たっぷりと癒されてくだサァイ」
     天使を思わせる歌声で治癒を届けていたのは、蕪郎の靴下の歌♪
     靴下を愛する歌声に重ねて、ナノナノのみずむしちゃんも厚い癒しを施してくれマァス。
    「必要ならボクも回復に回るね」
     視界と足元には要注意だが、幸い眷属自体の能力は大したことはない。
     シオンも攻撃が見切られないよう、ヴェルグが乗せた炎に影を伸ばしていく。
    「私も気魄のサイキックで全体に制限を掛けていくか」
     基本は状態異常を付けながら1体づつ撃破していく作戦。
     しかし、味方が術式に偏っていたのもあり、桜は要所に気魄系を織り交ぜていて。
    「一体ずつ確実に数を減らそうぞ」
     複数で襲って来る相手には、エニエが鞭剣を高速でしならせて一群を斬り刻む。
     列攻撃で倒れる眷属はいなかったが、付与した状態異常は着実に敵の体力を削っていた。
    「いくっすよ!」
     朔羅も仲間と連携するように、ご当地の力を宿した必殺ビームで各個撃破を狙う。
     敵を蝕む漆黒の弾丸を形成した止水も疲労を濃くした個体に闇を撃ち出した。

    「後もうちょっとで倒せそうなの」
     戦闘が長引けば、逃走の機会を与えてしまうかもしれない。
     シオンは回復を蕪郎に任せ、弱った眷属中心に恐るべき死の魔法を唱える。
    「正真正銘の袋のネズミになれ!」
     場が凍てついた刹那、死角から迫る孤影の斬撃が怯んだ1体を葬る。
     エニエが背を向けると足元の影が揺らめき、もう1体へと伸びた。
    「鼠捕りは捕る前、捕った後、二回も楽しめる。ふ、ふ……おっと、つい猫の本性が」
     表情は変わらなくても、何故かエニエの鼻息が荒い。
     捕縛させてじっくりといたぶる様子は、何処か楽しそうでもあった。
    「 ……ん、半数切ったか」
     止水は背に現れた十字架から無数の光線を打ち出すと同時に、周囲を見やる。
     壊れた窓や壁の隙間からの逃走を警戒していたヴェルグは窓際へ距離を狭めていて。
     壁や床を破壊されることも考慮し、ポールアックスに似た槍を縦に鋭く突き刺していた。
    「こっちは大丈夫っすよ、他の人を優先して欲しいっす!」
     主に足元に視線を感じた朔羅は元気よく応えるように、光輪で守りを固めてみせて。
     音速で気を持ち直した蕪郎も、即座に妨害能力を高める霧で前線を癒しに取り掛かる。
     絶えず届く癒しの力に、味方が攻撃に専念出来ていたのは、事実だから……。
    「同じ属性が重ならないようにして行こう」
     桜の足元から伸びた影が弱っていた眷属の動きを瞬時に絡めとる。
     止水も属性が連続しないように糸の結界を張り巡らせ、反撃を抑制しつつあった。
    「逃がさん!」
     黄色にも見える金の双眸を細め、ヴェルグは逸早く前に立ち塞がる。
     槍柄を軽くしならせた刹那、螺旋の如く捻りを穂先に加えて一気に突き刺す。
     残った眷属が苦し紛れに止水へ銃口を向けるが、止水は鋼糸を横に張って耐え凌いだ。
    「はいそこまで」
     孤影が振った銀閃が、冴え冴えとした月の如き衝撃に変わったのが合図となって。
    「一気にとどめを刺しまショウ」
     攻撃に転じた蕪郎が解き放った竜巻が残り2体を飲み込んでいく。
     続けざまにシオンが撃ち出した魔法の矢が、一筋の閃光を描いた。
    「不定形、正体不明の一閃!」
     寄生体に取り込ませたエニエの武器が巨大な刀と化し、1体を2つに両断する。
     同時に。桜の死角からの斬撃に斬り捨てられた1体も、塵と化して消えていった。

    「お疲れ様っした! お怪我は大丈夫っすか?」
     辺りに静寂が戻ったことを確認した朔羅は、直ぐに仲間へ駆け寄る。
     傷は浅く、戦場の荒れ具合も元々が廃屋だけあって、気にならないレベルだ。
    「目立った怪我もないし、噴泉池に向かおうぜ」
     若干、砕けた口調のヴェルグに張り詰めた空気も軽やかになって。
    「たしか……川辺にある温泉だったか」
    「折角なんだから行ってみようか」
     今の季節だと気持ちよさそうだと、止水が和やかに微笑む。
     噴泉池に少し興味があった孤影も、快く快諾してくれた。
    「その後は旅館でゆっくり過ごそうー♪」
    「今度はどんなとこなんだろ、とってもわくわくするの」
     旅館も楽しみだと桜ははしゃぎ、シオンも嬉しそう。
    「鼠捕りに運動し、その疲労を風呂で癒す。至高の極である」
     自分を猫と主張するエニエにとっても、実に甘美な響きだった。

    ●噴泉池
    「ぶおぉぉ! 河原にお湯が出てるっすよ! すごいっすね~!」
    「ほほう、確かに、温泉が噴水のように湧き出している」
     始めて味わう噴泉池にスクール水着姿の朔羅は、ハイテンョンッ!
     水着に着替えた孤影も少しだけ興味津々な面持ちで体を浸していて。
    「噴泉池って、下呂温泉の名物なんだよね?」
     温泉の入り方はこの前習ったからバッチリとシオンは足を入れていく。
     温泉の種類がこれまでとは少し違うみたいだけど、きっと大丈夫♪
    「元来猫は水が苦手と言われている。が、風呂は別である」
    「沈まないと思いたいが……わからないな」
     学園支給のスクール水着に着替えたエニエも黙々と湯に浸かっていて。
     止水に至っては、そのままウトウト寝落ちしそうだけど……。
    「脱衣所が無いから、着替えは迅速にな」
     噴泉池に姿を見せていない仲間に、ヴェルグが呼び掛ける。
     何処か不安げな眼差しは、たった1人に向けられていた。
    「……そういや靴下、要るのか? 替えは用意してあるとのことだが」
    「希望があれば、皆さんにプレゼントしマァス」
    「いらないです、着替えは用意してきましたから♪」
     蕪郎の提案を速攻で拒否ってみせた、桜でした。

     川のせせらぎを近くで聞きながら味わう温泉に緩やかに瞳を細める、孤影。
     ヴェルグものんびりくつろごうとした刹那、2人は1点を凝視し絶句する!
     無理も無い、蕪郎の方をチラリと見れば逆立ち状態で浸かっています、どうします?
    「ここは公衆の場所なんだからな」
     辛うじて見える靴下には『水着はきちんと着用しております』の札がついている。
    「水着というか、何も変わってない気が」
     温泉に入っても靴下を脱がない主義を貫く蕪郎、呆然とする野郎の素敵絵図、完成。
    「あ、湯船にレモン浮かべたら怒られるっすかね?」
     広島はレモンの生産量日本一っ!!
     朔羅もちゃっかり自分の出身地、広島レモンの宣伝をし始めていて。
     羽目を外す仲間に孤影は眉間を抑えながらも、とりあえずツッコミだけは入れていく。
    「結構疲れたな……夜の料理も楽しみに……グゥ」
     あまりの心地良さに船を漕ぎつつあった止水はそのまま眠りに――いや、沈んでいる!?
    「あれも温泉の入り方なの?」
    「……俺に聞くな」
     衛生兵と声高らかに叫ぶ孤影を見つめ、シオンは不思議そうに首を傾げる。
     ヴェルグは理性的であろうと努力しつつ、遠い眼差しを浮かべるだけで精一杯。
    「成る程、世界は広し。いとおかし」
     そんな仲間達をエニエは湯の片隅で、じーっと観察していて。
     蕪郎の靴下愛や、朔羅のレモン愛に興味が注がれたように、青色の瞳をゆるりと細めた。
    「皆さんも楽しんでますね♪」
     男性陣から少し離れたところで透明色の湯に浸っていたのは、桜。
     白色のビキニタイプの水着に、腰には桜模様のパレオを巻いている。
     色白の肌にスタイル抜群の桜は、そこにいるだけで花が咲いているようで美しい。
    「私なんて、つるぺったんで色気なんてカケラもないっすよ!」
    「人が自ら毛皮を脱ぐ機会など滅多にあらず。これまた良き機会」
     しょんぼりと肩を落とす、朔羅。
     エニエだけが何事もなかったかのように頷くのでした。

    ●旅館にて
    「お泊まりだから、着替えを持ってきたよ♪」
     桜が抱えていた上品な包みに、エニエは興味深そうに見つめていて。
    「前にも1回依頼で行ったことあるけど、こういうことがないとボクじゃ泊まれないね」
     少し落ち着きない素振りでキョロキョロしていたのは、シオン。
     真面目でしっかり者の少年も、今は年相応の子供らしい反応を見せていた。
    「あ、レモン水飲むっすか? 疲れた時にはいいっすよ!」
    「頂こう」
     ロビーで朔羅が差し出したレモン水を、ヴェルグは快く受け取る。
     ぶっきらぼうな対応を取っているが、基本的にはお人好しなのかもしれない。
    「夏休みの前に旅行にいけちゃうなんて、なんだかすごいよね」
     シオンはレモン水でゆっくり喉を潤しながら再びロビーを見回す。
     老舗旅館は古きモノと新しいモノが混在していて、飽きることはなく。
     部屋から夜景が見れると聞いて鍵を受け取った、その時だった。
    「あとで靴下にお返事を書いて置いていくのでございます」
    「それ、燃えないか?」
     炎獣達に報告をと告げる蕪郎に、さらりと鋭い指摘をする孤影。
     脱水症状避けにスポーツドリンクを飲んでいた止水も柔らかく口元を弛めて。
    「これからも自重しないだろうな、きっと」
     少年少女達は川岸に沿って彩られる夜景を堪能しようと足早に客室へ向かう。
     その足取りは軽やかで、とても楽しそうに――。

    作者:御剣鋼 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年7月21日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 10
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