ただ真っ直ぐに

    作者:陵かなめ

    「ここから真っ直ぐ進めば富士急ハイランドか」
     黒い柔道着を身に纏った男が山の麓に下り立った。その手には、地図が握りしめられている。どうやら富士急ハイランドを目指しているようだが、男の立つ場所からはまだ相当遠いようだ。
     男が地図を見た。
    「うん。とにかく、真っ直ぐだな」
     地図には男の立つ山から富士急ハイランドまで、真っ直ぐな線が引かれている。最短距離を測る時に引く直線にも見えるが……。
     男は地図を懐にしまい込み、両足に力を込めた。
    「日々是鍛錬だ。少し距離があるが、走っていくとするか」
     言うなり、走りはじめる。力強い走りだった。
     地図を見たのだから間違いない、と男は思う。
     だから、男は、ただ真っ直ぐ走った。彼はある意味とても素直でまっすぐな男だった。
     木があればなぎ倒し、民家が目の前に現れても、行く手を阻む邪魔なモノとして走りながら破壊する。
     とにかく、道など関係なくまっすぐに走るのだ。
     結果として、男の走った後には破壊された残骸が山積みになった。
     
    ●依頼
     園川・槙奈(高校生エクスブレイン・dn0053)が説明を始めた。
    「富士急ハイランドに、不安定なブレイズゲートが現れたらいいんです」
     このブレイズゲートは、突然現れたり探索後に消滅するといった不思議な特性がある。ご当地怪人選手権で集められたサイキックエナジーが関係あるかどうかは、不明だそうだ。
    「このブレイズゲートの探索も必要なんですが、実は、ここにアンブレイカブルが向かっているようなんです」
     一直線・進と名乗るアンブレイカブルは、純粋に修行のためにブレイズゲートに来るようだ。しかし、観光客で賑わう富士急ハイランドにアンブレイカブルが来ると、どんな事故が起こるかわからない。
    「ですから、あの……、富士急ハイランドに入る前に、撃退して欲しいんです」
     更に槙奈は説明を続ける。
    「彼はずっと走ってくるのですが、一度国道で立ち止まります。多分、ハイランドの見える場所まで来たので、位置の確認をするためだと思います。戦いを仕掛けるのなら、このタイミングでお願いします」
     彼が立ち止まるのは第二入園口そばの国道だ。
     近くには大型の駐車場があり、戦うのならここが良いだろう。アンブレイカブルの到着する時間は真夜中だ。一般人の心配をする必要はない。
    「アンブレイカブルは修行のために来ています。なので、手合わせをお願いして場所替えを提案すれば、きっと駐車場までついてきてくれます」
     アンブレイカブルの戦闘能力は高い。
     戦いになればストリートファイター相当の強力なサイキックを繰り出してくるだろう。
     最後に、槙奈は集まった仲間達を見ながら、こう語った。
    「今回のアンブレイカブル一直線・進さんは、もし『自分の修行が足りない』ということに納得したら、出直してくる潔さがあります」
     と言う事は、灼滅せず撤退させることも可能だということか。
    「灼滅か撤退かは、皆さんの判断にお任せします。そこはよく話し合って決めて下さい。皆さん、あの、どうかお気をつけて、頑張ってください」
     最後にペコリと頭を下げ、槙奈は説明を終えた。


    参加者
    風間・薫(似て非なる愚沌・d01068)
    真榮城・結弦(中学生ファイアブラッド・d01731)
    篠原・朱梨(闇華・d01868)
    西道・桐馬(陣風・d03635)
    計屋・時空(時と大地の守護者・d06513)
    雨宮・悠(夜の風・d07038)
    フェリス・ソムニアリス(夢に棲む旅猫・d09828)
    白木・衛(高校生ストリートファイター・d10440)

    ■リプレイ

    ●近づく暴音
     足元から吹いてくる風を感じた。生暖かい風だ。
     風にのって音が聞こえてくる。遠くから、色々なものを破壊して進んでくる、暴風のような音だ。
     風間・薫(似て非なる愚沌・d01068)はその音を確かに聞きながら、ため息を付いた。
    「考え直してくれはるんやったらそれにこした事はないんやけどねぇ」
     真っ直ぐな男は嫌いではないけれど、今回のアンブレイカブルは少し真っ直ぐすぎてはた迷惑な人だと思う。
    「目的に一途なのはいい事だけど、色んなものを壊しながら進むなんて言語道断なのですっ」
     篠原・朱梨(闇華・d01868)が破壊の件について眉を上げると、西道・桐馬(陣風・d03635)が静かに頷いた。
    「真直ぐ過ぎるのも、考えものだな。信念を曲げず己が道を貫く、という点では同意もするが――」
     破壊の音は、なお近づいてくる。木をなぎ倒し、おそらく何かの柱を粉砕し、ただ真っ直ぐ、富士急ハイランドを目指している。
    「まっすぐ行ってぶん殴る。シンプルなのは嫌いやないけどね。ちょっとやり過ぎと違うかな?」
     白木・衛(高校生ストリートファイター・d10440)が遠くを見るように額に手を当て苦笑を浮かべた。
    「あー折角なら女の子と来たかったー!」
     背後には富士急ハイランド。衛のぼやく気持ちもわかる。
     だが。
    「犠牲が伴うとなれば、話は別。力なき者まで挫いて我を通す等、許し難い。此処で必ず、食い止める」
     桐馬の言葉に仲間達は頷きあう。
    「不謹慎だけど、夜でよかったヨ。お日様が出てる下で戦うのは遠慮したいからねェ」
     フェリス・ソムニアリス(夢に棲む旅猫・d09828)が辺りをぐるりと見渡した。
     辺りは真っ暗で、人影はない。自分達以外は、誰もいない。
     音は段々と近づいてきて、おそらくもうすぐ姿が見えると思う。修行にしてはちょっと派手すぎる。アンブレイカブル、一直線・進を懲らしめに行こうかと、立ち上がった。
     国道の脇に立つ電柱の薄明かりと各々が持ち寄った光源で、暗い夜でも状況は把握できる。
     一つ大きく、何かが倒れる音がした。
    「もう、見えてきそうだね」
     計屋・時空(時と大地の守護者・d06513)が見たのは、真っ二つに引き裂かれた大木だった。
    「悪いけど、真っ直ぐじゃなくてちょっと寄り道をしてもらうよ」
     国道から富士急ハイランドを塞ぐように時空のライドキャリバー・クラーク博士が道を塞ぐ。
     かなり近くで、力強く地面を蹴る音。
     ガードレールを飛び越え現れたのは、巨大な体躯の男だった。黒い柔道着を身に纏い、悠然と国道のど真ん中に降り立つ。
     男は、小さく一つ息を吐きだし……、灼滅達に目を向けた。
    「深夜も鍛錬おつかれさま♪ で、鍛錬ついでにちょっとそこまで付き合ってもらえるかな?」
     雨宮・悠(夜の風・d07038)が片手を上げて声をかける。
     目的地を目指して、ただ真っ直ぐに進む。どんな障害があっても、退かず、避けず打ち砕き乗り越えて――。それはそれで、真っ直ぐな生き方なのだと思う。正直、憧れる部分もなくはない。
     けれど、そこで蹴散らされる存在は放っては置けない。
     だから、と、悠は男に言う。
    「このまま進むのなら……あなたの道は、ここで行き止まりだよ」
     男――一直線・進は、一人ずつ順に灼滅達を見た。それは、こちらを値踏みしているようにも、こちらの意図がつかめないようにも見えた。
    「これ以上進むのはちょっと待ってネー。アタシ達も腕に自信があるんだけど、手合わせでもどうかにゃ?」
    「修行中なんだよね? 僕達と手合わせ願いたいんだ」
     フェリスと真榮城・結弦(中学生ファイアブラッド・d01731)がそう申し出ると、驚いたように表情を変える。
    「手合わせ、とな」
     純粋な修行なら、真っ直ぐな言葉が届くだろうか?
     それは分からないけれど、二人の言葉に進は興味を惹かれたようだった。
    「修行前の肩慣らしにも丁度良いだろう」
     桐馬も重ねて声をかける。
    「私も未熟ではあるが――退屈はさせまい」
    「ほぉ」
     進が目を細めた。
    「俺らが相手になったる。迷惑掛らんとこでやろか?」
    「広い場所で、思い切りやりたいよね?」
     衛と朱梨の言葉に、薫が頷く。
    「近くに駐車場があるからそこだと思う存分やり合えるやろ」
     駐車場を指さすと、進も視線をそちらに向けた。
     あそこならば邪魔なく存分に戦えると桐馬が付け足すと、進が大きく頷く。
    「委細承知した。日々是鍛錬だ。相手になってもらおう」
     真っ直ぐ富士急ハイランドを目指してきた進が、灼滅達に続き駐車場へ足を向けた。

    ●闘志湧きて
     悠とフェリスが明かりをセットすると、駐車場はぼんやりと明るくなった。まぶしすぎず、戦うには十分な明るさだ。
     灼滅達と進は少し距離を取って向かい合った。
    「──おいで、藍影!」
    「ガウデアームス!」
     朱梨、フェリスが叫び、力を開放する。
     仲間も次々と戦う姿を整えた。
    「なるほど、俺と戦いたいと言ったこと、ハッタリではないようだな」
     左側をやや前に出すように構え、進が口元だけでニヤリと笑う。
    「俺の名は一直線・進。修行中の身とは言え、受けたからには全力で行かせてもらうぞ。いざっ、尋常に、勝負っ、ハァァアアアアアア」
     気合のこもった声を上げると、進が闘気を立ち上らせる。それは身体の中で爆発し、溢れ出てきたようにも見えた。
     ビリビリと空気が震撼する。灼滅達に向かって真っ直ぐ投げかけてくる視線は鋭い。
     気合を入れる動作一つで、相手が強敵であると感じた。
     だが、こちらも負けるわけにはいかない。
    「修行中なのに邪魔して悪いな。けどまぁうちらを一つの難関と捉えて頂ければ幸い。ほな行くで」
     薫の言葉に、仲間達が武器を構える。
     クラッシャーに薫、朱梨、悠。ディフェンダーに結弦と桐馬、クラーク博士。フェリスはジャマー、時空はメディックに位置を取った。
    「負けないっ。はぁっ」
     気合を入れ、朱梨が地面を蹴る。黒百合の花が絡んだ白銀の槍が、暗い戦場を斬り裂くように、一筋線を描く。
     薫も槍を構え、飛び出した。
    「あんたにうちの高速殺人術が見切れるかいな」
     槍の軌跡は螺旋。
     二人はタイミングを合わせるように敵に迫り、槍で穿った。
    「おぉ、オオオオオッ」
     アンブレイカブルが吠える。
     敵は二人の槍を真っ向から受け止め、なぎ払うように腕を振った。
     ダメージを与えた手応えはあったが、それで敵がよろめくことがない事もよく分かった。
     朱梨と薫は敵の動きに巻き込まれぬよう、素早く散り距離を保つ。
     こちらの二撃目を待たず、アンブレイカブルが動いた。沸き上がる闘気を雷に変え拳に集める。
    「いくぞっ」
     言葉と攻撃が同時に来た感覚だった。
     その巨体から想像もつかないほど素早く距離を詰められたのだ。
     敵は真っ直ぐ悠に向かって拳を打ち付ける。
    「……っ」
    「させないよっ」
     間一髪、結弦が間に割って入った。味方を守る盾とはいえ、受ける一撃は激しい。相手の勢いを殺しきれずズルズルと身体が後退した。
     結弦は敵の拳を受けながら、炎の翼を顕現させる。近くの味方を癒し、同時に破魔の力を与えた。
     敵の攻撃は真っ直ぐで迷いのない拳。良く言えば純粋な、ただ戦うことを思った一撃だ。
     武人、と、言ってしまって良いだろう。結弦は相手の射抜くような視線を真向から受け止めた。
     睨み合う二人から素早く位置を取り直し、悠が攻撃のタイミングを見計らう。
     真っ直ぐで強い拳だ。
    「剛能く柔を断つ、だっけ? その言葉を体現するみたいな姿だけど……」
     走り、敵の死角から切り込んだ。
    「知ってるよね、それは半分でしかないってこと。『柔能く剛を制す、剛能く柔を断つ』剛も柔も併せ持ってこその強さだよ」
     狙う急所を確実に撃つ。
     続いて、ゆらりと影が揺れた。
    「キミの夢までバラすつもりはないけど、迷惑をかけるのはやめてほしいにゃ」
     いつの間にか間合いを詰めていたフェリスが、真っ直ぐ仕込み直刀を振り下ろす。
     アンブレイカブルは受けた拳を庇うように、一歩引いた。
    「くっ、状態の異常を狙うなど……っ、卑怯な」
     敵の指摘にフェリスがくすりと笑う。
    「障害を散々壊してきてるのに、今更これに文句つけるの? 面白いネ、キミ」
    「ぐ……」
     一瞬、進は言葉に詰まった。
    「いや、そうだ、俺は真っ直ぐ進み、成し遂げるっ」
     だから、障害は打ち砕くと、敵のさらなる闘志が湧き上がった。

    ●ぶつかり合う力
    「高みを目指すは私も同じ。宿敵相手、そう簡単に折れる訳にはゆかぬ」
     その闘志に、気圧されるわけにはいかない。
     護る為、己が信念の為にも――此処は譲れないのだ。
    「行けるか?」
     桐馬は、敵の拳に力がこもったのを見て取り、次に大きな攻撃が来ることを感じた。その前に、叩くとこが出来れば。
     攻撃態勢の整っていた衛に声をかける。
    「おう、そう思い通りにはやらせんで!」
     答えた衛は拳を一つ叩き、敵に踏み込んだ。
     桐馬が繰り出したのは重い斬撃。上段の構えから、日本刀を振り下ろした。
     同時に、衛が拳を繰り出した。
    「おりゃぁぁ!」
     ただひたすらに力を乗せて、撃ちつける。
    「ぬ、ぅ、ううううううん」
     二人の攻撃を受け、敵が唸った。力を込めていた拳を防御に使い、致命的な直撃を防がれたのだ。
    「進む道が真っ直ぐなのは立派だけど、生き様が曲がってたら意味がないよっ」
     その間に、時空が小光輪を飛ばす。
     仲間をかばい傷を受けた結弦を癒すように光輪が回った。
    「何だと?! 俺が曲がっている? そんな馬鹿な……」
    「君たちの修行ははた迷惑なんだ。ボクもまだまだ修行が足りないけど、ヒーローとして見過ごすわけにはいかないね」
     進は、何を言われたのか分からないという表情を作り、首を傾げた。自分が曲がっていると言われたことは、若干ショックだったようだ。
    「修行はええけど、あんさんが通った道、瓦礫の山で一般人が迷惑しとんねん。武の心得があるんやったら礼節と言うもんをわきまえんと真の強者にはなれへんで? でなきゃあんさんに修行する資格も無いと思う」
     薫に指摘され、初めて進が後を振り返った。
     今は真っ暗で、進んできた道は見えない。だが、そう言えば、確かに何か邪魔なものを薙ぎ払った気がする。
     だが――。
    「だが、それも全て修行のためッ。一歩先へ進むためだッ」
     再び進は気合を入れた。
    「じゃかあしい。人に迷惑かけといて修行やて? おととい来やがれ」
     薫もまた、再び槍を構えた。
     敵の拳と薫の槍がかち合う。両者一歩も引かず、力と力がぶつかり合った。
     均衡を破るべく、結弦が炎を立ち上らせる。
     武人へは武人として、全力を持って相手をする、と。武器に宿した炎を叩きつけた。
     畳み掛けるように、朱梨とフェリスが影を絡みつかせる。クラーク博士も進をなぎ払うように銃撃を続けた。
     敵は舌打ちし、一旦拳を引いた。
     しかし、敵を休ませる暇は与えない。悠が凄まじい連打を繰り出した。その手にはオーラが集まっている。
    「ふっ、やるなっ。だがっ」
     進が朱梨に向かって突進してきた。
    「……っ、簡単には、やられないんだから」
     打ち付けられる瞬間に、槍を繰り攻撃をそらす。
     敵が繰り出す二撃目を見極め、それに合わせるように槍を付き出した。互いの攻撃が、ガチりと音を立て相殺される。
     敵の勢いはおさまらず、今度は反対の拳で下腹を狙われた。
     そこへ衛が割って入る。
    「ぐっ、アタッカーが潰れんように、しっかり守らんとな」
     防御の体制を取ったが、あまりの衝撃に吹き飛ばされた。
     すかさず時空が傷を回復させる。足りない分は、桐馬がオーラで癒しを助けた。
    「おう、もいっちょこいや!」
     衛は再び立ち上がり、巨大な刀で敵を粉砕する勢いで殴りつけた。

    ●戦いの末に
    「ふぅ。まだだ。まだ、戦えるッ」
     攻撃一辺倒だった敵が、初めて自分の傷を癒すようにオーラを使った。
     仲間は全員立っている。回復も追いついている。
     だが、進の様子を見ると、まだまだ大きな攻撃を繰り返しそうだ。攻防を長時間繰り返してしまえば、やがて蓄積したダメージが痛手になる。
     朱梨は慎重に武器を構えながら、進に声をかけた。
    「このくらいで疲れるなんて修行不足じゃないかな」
    「うっ……」
     鬼気迫る勢いだった進が、ビクリと肩を震わせる。自分でも、ややそう思っていたことをズバリ指摘されたような感じだ。
    「いや、しかし、お前達は数が多いじゃないかッ」
     言い訳がましく声を上げた進に、フェリスが横から声をかける。
    「多対一を言い訳にするような強さにどんな価値があるか、教えてもらえる?」
    「そ、それは、その――」
     修行不足と言う言葉が、進の顔をちらつき始めた。
    「この先で鍛錬をするのなら、僕達の事を容易く倒せていなければならない。でも、僕達はまだ立っている」
     結弦が真摯な瞳で語りかけ、皆を見た。
     仲間は誰も倒れていない。つまり、進は誰ひとり倒せていないのだ。
    「それは君がまだまだ未熟だという証拠だ」
    「……。そ、そんな……」
     事実を突きつけられ愕然とする進。
    「此処で出鼻を挫かれているようならば、ゲートに挑んだとて思うように進むのも難しかろう」
     桐馬の言葉を受け、進はガクリとうなだれた。
     仲間が説得する様を時空は黙って見ている。灼滅を狙ってはいたが、もし説得で撤退するのなら止める気はなかった。
    「そうか、そうなのか……。俺は、まだ、未熟だったッ。ここへ来るのは、早すぎたということだな」
     進はしばし呆然と立ち尽くし、やがてあっさりと闘気の宿った拳を引いた。
    「出直してくる。もっと、もっと鍛錬せねばッ」
    「時には回り道も大切ではないか。遠回りした分、経験も重なるだろう」
     ――そしてまた違った世界や強さも見えるであろう。
     桐馬の言葉に、進は顔をしかめた。
    「曲がるのは嫌だ」
    「曲がるんと回るんはちゃうんやで」
     すかさず衛が突っ込む。
     進はくるりと身体を回転させた。このまま撤退するようだ。
     それならば、誰も深追いをしようとは言わなかった。
    「足りないものに気付けたら、また会おう」
     最後に悠が差し出した飲み物を辞退し、進は闇へ消えていった。
     敵は敵と言うことだろうか。
     だから、
    「……それまでに、もーちょいわたしも強くなってないとね……」
    「まあ、うちらはうちらの道を進むだけや」
     悠の呟きも薫の言葉も闇へ消えた。

     進の姿が見えなくなり、ようやく皆の緊張が解けた。
    「全く面倒なのが来たもんやな……遊園地ではしゃぐ齢か?」
     やれやれと衛がため息を付く。
     ともあれ、アンブレイカブルは撤退した。
     周囲の安全を確認し、灼滅達は帰路についた。

    作者:陵かなめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年7月18日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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