美少女ルナのわくわく♪修行日記

    作者:春風わかな

    ●フジキューで修行!? 超楽しみっ♪ byルナ
     多くの家族連れや若者たちで賑わっている駅前で一人の少女が途方にくれた様子で立ちすくんでいた。
    「あれ? ここからどうやって行けばいいんだろう……?」
     富士急ハイランドへ行きたい一心でここまで来たのはいいが、ちょっと下調べが足りなかったようだ。地図を片手に困ったように首を傾げる少女の仕草にあわせてポニーテールがくるんと揺れる。
     そんな可愛らしい少女に近づいてくる大学生と思われる青年二人組。もちろん彼らの目的は……。
    「あれー? そこの彼女、どうしたの?」
    「ねぇ、キミ、どこ行きたいの?」
     明らかにナンパ。しかし、少女はそんなナンパ青年たちの声掛けに嫌そうな顔ひとつせずにこやかに答える。
    「はいっ! わたし、フジキューに行きたいんです!!」
    「フジキューだったら、そこのバス停に止まってるバスに乗れば行けるよ」
     やっぱり、と頷いた青年は近くのバス停を指さした。見ればちょうどバスが発車しようとしているところ。
    「ありがとうございます! あのバスについていけばいいんですね!!」
     ぺこん、と勢いよくお辞儀をする少女に青年たちはそわそわしながら本題を切り出す。
    「つーかさ、俺らも行くからよかったら一緒にタクシー乗って……」
    「あ、せっかくのお誘いですけど結構です。走っていきますから」
     さっくりと青年の言葉を遮り、少女は丁重に断った。
     走る? 意味が分からず青年たちは顔を見合わせる。ここから富士急ハイランドまではバスで1時間以上かかるはずだが……。
    「だって、これも修行ですからね♪ では、失礼します」
     ありがとうございました、と再び頭を下げると少女はにこやかに手を振って颯爽とバスの後を追いかけ走って行ったのだった――。

     富士急ハイランドに不安定なブレイズゲートが出現した――。
     教室に集まった灼滅者たちに久椚・來未(中学生エクスブレイン・dn0054)は抑揚のない声で静かに告げる。
     何でもこのブレイズゲートは突然現れたかと思うと探索後には消滅してしまったりと不思議な特性があるらしい。富士急ハイランドといえば先日のご当地怪人選手権を思い出す人も多いと思うが、その時に集められたサイキックエナジーが関係あるかどうかは不明である。
    「アンブレイカブルが、このブレイズゲートに、向かってる」
     ――アンブレイカブル。それは最強の武を求める、狂える武人。來未が発したその名前を聞き、灼滅者たちは無意識のうちに姿勢を正した。
    「ブレイズゲートの探索も必要だけど、今は、アンブレイカブルを、優先して」
     アンブレイカブルたちは純粋に修行のためにブレイズゲートを目指しているようだ。とはいえ観光客で賑わう富士急ハイランドにダークネスが来たら……。何か事故が起きてしまうであろうことも容易に想像できる。
     だから、アンブレイカブルが富士急ハイランドへ入る前に撃退してほしい。
     それが、今回の來未が灼滅者たちを集めた理由だった。
     富士急ハイランドへ向かっているアンブレイカブルの名は『桃宮・瑠菜(ももみや・るな)』。ピンクのリボンで纏めたポニーテールが印象的な15歳の女の子。半袖パーカーにショートパンツ姿と服装が判明しているだけでなく、年頃の女子がひとりで富士急ハイランドに向かっているという時点で遭遇できればすぐにわかると思われる。
     富士急ハイランド駅の傍にあるバス停付近で待っていれば彼女に会うことができるだろう。しかし、戦うのであれば、周りに人がいないような場所を選ぶ必要がある。そんな場所があるのかと眉をひそめる灼滅者たちに來未はあっさりと答えた。
    「近くの空き地へ、誘導すれば、いいと思う」
     彼女は修行のために富士急ハイランドを訪れている。手合せをお願いし、場所を変えようと提案すればすんなり応じるだろう。
     向上心が強い彼女にとって実践はこの上ない修行の場。喜んで戦うだろうが、修行にならないと判断した場合――例えば相手が防御に徹して攻めに出ない場合、などは早く戦闘を切り上げるような行動をとるだろう。
     見た目は可愛らしい瑠菜だが、その戦力は灼滅者10人分程。灼滅は決して容易ではない。彼女の性格も視野にいれて作戦を立てるのが良いと來未は言う。
     武人としての誇りを持っている瑠菜は『己の修行が足りない』ということを納得すると出直す潔さを持ち合わせているらしい。
     つまり、灼滅させずに撤退させるという選択肢もあるということだ。
     灼滅するのか、撤退させるのか。また、撤退させる場合はどのようにして修行不足であることを認識させるのか。
    「わたしに視えたのは、これで、全部」
     どのような選択をするのかは、灼滅者たちに任せるという。
     アンブレイカブルによる被害が出ないことを願い、來未は教室を去っていく灼滅者たちを静かに見送るのだった。


    参加者
    ジャック・アルバートン(ヒューマノイドヘビータンク・d00663)
    透純・瀝(エメラルドライド・d02203)
    長門・睦月(正義執行者・d03928)
    村山・一途(硝子罪躯・d04649)
    ジンザ・オールドマン(銃梟・d06183)
    園城・瑞鳥(フレイムイーター・d11722)
    外道・黒武(お調子者なんちゃって魔法使い・d13527)
    乱獅子・紗矢(獅子心乙女・d13748)

    ■リプレイ

    ●本日、絶好の修行日和
     青い空に浮かぶ白い雲。楽しげに富士急ハイランドへとやってくる人々を横目に木陰でアンブレイカブルを待つ灼滅者たち。彼らの頬を夏の風がそっと撫でる。
    「あー、ジェットコースター乗りたかったなー」
     透純・瀝(エメラルドライド・d02203)は富士急ハイランドを眺めながら残念そうに呟いた。遊園地の方角からはアトラクションにはしゃぐ客の歓声が風に乗って灼滅者たちの元へもやってくる。そんな彼の足元では霊犬の虹がちょこんと座り瀝とは逆の方向にあるバス停をじっと見つめていた。
    「ルナちゃん、まだかー?」
     バスの到着をいまかと待つ外道・黒武(お調子者なんちゃって魔法使い・d13527)は気怠そうにパタパタと手を扇子代わりにして胸元を扇ぐ。
     と、その時、また一台、新たなバスが到着した。瑠菜がいないかとバスの後ろを覗き込むようにして眺めていた黒武が嬉しそうに声をあげる。
    「来た来た! あれ、ルナちゃんじゃねー?」
     黒武が指差した先にいたのは桃色のリボンで纏めたポニーテールの少女。走り続けてさすがに疲れているようにも見えたが、富士急ハイランドの入り口に気付くとぱっと少女の顔が輝いた。
    「よし。では行くとしよう」
     木陰に座っていたジャック・アルバートン(ヒューマノイドヘビータンク・d00663)が立ち上がったのを合図に、灼滅者たちはゆっくりと瑠菜に向かって近づいて行く。
    「おう、こんちわ! はじめまして!」
     明るい調子で瀝が声をかけると、黒武も「はろはろ~」と笑顔を浮かべて話しかけた。
     一瞬きょとんとした表情を浮かべた瑠菜だったが、人好きのする笑顔を浮かべるとこんにちは、と足を止めて挨拶を返す。
    「ハーイそこのお嬢さん。修行、していきません?」
     音も立てずに瑠菜の背後に回り込んでいたジンザ・オールドマン(銃梟・d06183)の言葉にぴくりと瑠菜が反応した。
    「修行って、フジキューにあるというブレイズケートのことですかっ!?」
    「違いますよ、その前に、僕らと一戦しませんかというお誘いです」
     さらりとジンザは瑠菜の答えを否定する。
     『修行』という言葉にキラキラと輝く瑠菜の瞳を長門・睦月(正義執行者・d03928)は呆れ半分に見つめていた。
     修行をするならせめて人のいない所にしてほしいと思いつつ、睦月は自分たちは灼滅者であることをあえて明かし、瑠菜に手合せを願い出る。
    「立ち会いが所望。受けてくれますか?」
    「はいっ、もちろんです! 喜んで!」
     嬉しそうに二つ返事で頷いた瑠菜はすぐこの場で戦闘対戦に入ろうと身構えた。
    「ちょっと待ってください」
     冷静な声で瑠菜を止めたのは村山・一途(硝子罪躯・d04649)。出鼻を挫かれる状態になった瑠菜だったが、大人しく一途の言葉に耳を傾ける。
    「ここでは十分に動けないので場所を移しましょうか」
    「さっき見つけたんだ。あっちの空き地でどうだ?」
     乱獅子・紗矢(獅子心乙女・d13748)がくいっと親指で示した場所を確認すると瑠菜は「わかりました!」と大きく頷いた。
    「それでは、お先に行ってますね!」
    「おい、待てって!」
     灼滅者たちの返事を聞かず、手を振って走り出す瑠菜の後を紗矢が慌てて追いかける。
    「もう少し、周りを顧みてくれれば良いんですけど……ダークネスですしねぇ」
     無理かな、と漏らす園城・瑞鳥(フレイムイーター・d11722)の呟きは遊園地から届く賑やかな声にかき消されたのだった。

    ●いざ、修行開始!
     空き地へと着いた一行を一足早く到着していた瑠菜が出迎える。
     嬉しそうに辺りを見回す瑠菜に黒武がどう? と声を掛けた。
    「ココなら気兼ねなく派手に戦う事が出来るからね。 自由に戦えるって大事じゃん?」
     お調子者な雰囲気を崩さず、にへっと笑う黒武に瑠菜はこくこくと頷いて同意を示す。
    「さっそく手合せといきたいところだが……その前に」
     再び戦闘態勢に入ろうとした瑠菜を右手で制し、ジャックは目の前に立つ少女に問いかけた。
    「こちらは集団だが、構わんか?」
    「あ、そんなことですか。気にしないでください。纏めてじゃないと修行にならないじゃないですか」
     だって私の方が強いし、とにっこり微笑む瑠菜の言葉に、辺りは何とも言い難い雰囲気に包まれる。
     そんな空気を振り払うかのようにコホンと咳払いを一つして瑞鳥は瑠菜をまっすぐに見つめた。
    「それでは、早速ですが始めましょうか」
     スレイヤーズカードをぴしりと構えると、解除コードをそっと呟いた。
     ――お前の闇を、喰らい尽くす!
     瑞鳥が戦闘用の衣装に身を包み炎を纏った剣を携えたのを合図に次々と灼滅者たちがカードの封印を解き武器を構える。
     その姿を見て、嬉しそうに瑠菜はパンっと右の拳を左手に打ち付けた。
    「なんだか今日は楽しい修行が待っている気がします!」
     そして、全員の準備が整ったことを確認すると瑠菜は姿勢を正し、ぺこっと頭を下げる。
    「手加減無用。では――!」
    「はい! 桃宮瑠菜、行きます!」
     睦月が声を掛けると同時、瞬きする間もなく一気に間合いを詰めた瑠菜は彼の前に立っていた。
    (「――速い!」)
     身軽な動きの瑠菜を捉えようと必至に目を凝らしていた一途だったが、その姿を追いかけるのがやっと。睦月と瑠菜の間に割って入ろうと一歩を踏み出したその時、一瞬早く瑠菜は鍛え抜かれた右の拳を迷うことなくまっすぐに突き出す。
    「ぐはっ……っ」
     小柄な身体から繰り出されたとは思えない重い一撃に堪えきれず、睦月は悔しそうに呻き声をあげた。たったの一撃なのに体力の半分以上を奪われた気がする。
    「虹! 回復!」
    「がんばってください、まだ倒れられては困ります」
     間髪入れずに瀝が虹に睦月の傷を癒すようにと指示を出した。また一途も睦月の背に向かって回復の矢を射る。
    「流石だな。アンブレイカブル相手に油断は出来ん」
     ウォーミングアップだと斬艦刀【アウトレイジ】を振り回していたジャックが不敵な笑みを浮かべ瑠菜を見遣る。
    「桃宮よ、遠慮はせんぞ?」
    「望むところです!」
    「うむ――いざ!」
     ジャックは勢いをつけた超重量級の斬艦刀を大きく振り上げると瑠菜に向かってその刃を思い切り振り下ろした。
     瑠菜は怯むことなく鉄の塊を受け止めようとする。だが、尋常ではない破壊力に競り負けぐらりとバランスを崩した。
     チャンスと判断した紗矢がすかさず閃光百裂拳を繰り出す。オーラを纏った拳を目にも止まらぬ速さで何度も撃ち込むと、後ろに下がった紗矢に替わって瑞鳥の赤いサイキックソードから光の刃が撃ち出された。
     まるで炎のようなその紅い光は容赦なく瑠菜の身を斬り付ける。だが、瑠菜は煩わしそうに光刃を振り払った。
     早く戦いに戻らんと急いで態勢を整え一歩踏み込もうとしたその時を狙い、乾いた銃声が響く。右足を射抜いた正確な軌道に驚いた瑠菜が咄嗟に声をあげた。
    「わっ!? ずるーい……っ!」
    「ずるい? いえいえ、これもまた僕のスタイルです」
    「し、失礼しました! 今のは聞かなかったことにしてくださいっ!」
     照れ隠しなのかブンっと大きく振り上げた右足が弧を描く。後衛に向かって放たれた衝撃波の軌道を読み一途と瑞鳥が素早くその身を挺して仲間たちを庇った。
    「サンキュっ!」
     瀝が燈した温かな光が、虹の浄化の願いを込めた眼差しがそっと一途と瑞鳥を包み込み二人の傷が癒されていく。
     その間も灼滅者対アンブレイカブル、拳と拳のぶつかり合いは止まらない。
    「オルゥア! ぶっ飛びやがれぇえええ!」
     渾身の力を込め、黒武がトラウナックルで瑠菜に殴りかかった。そして続けとばかりに睦月も閃光百裂拳を叩き込み、一途が援護射撃で再び瑠菜の足元を射抜く。
     ――修行はまだ、始まったばかり。

    ●修行は続くよ、いつまでも?
     修行が趣味というだけあって、瑠菜はとても楽しそうだった。灼滅者たちの怒涛の攻撃をひょいとかわし、全身でガツンと受け止め、また自身も全霊を込めてバシバシ拳を振るう。
    「修行ねぇ……おいちゃんにはその楽しさが良く分からんですばい……」
     うぅーむと唸る黒武の拳と正面から受け止め、満面の笑みを浮かべ瑠菜が答えた。
    「それはまだ修行の楽しさに目覚めてないからですよ! だって、今、すごく楽しいじゃないですか!!」
     その気持ちは黒武にもよくわかる。知らず知らずのうちに口元が綻んだ。
    「そうだな、戦闘が楽しいのは激しく同意!」
     瑠菜が味方の攻撃に気を取られている隙を突き、素早く背後に回り込んだジンザが彼女の後頭部に狙いを合わせる。勢いよく放たれたその弾は瑠菜の頭を射抜けると思った、が。
     瑠菜は振り返ることもなくひょいっと頭を軽くずらして弾をかわす。ポニーテールを纏めていたリボンの結び目に弾があたり、はらりと桃色のリボンが落ちた。
    「貴方の攻撃は見切りました!」
     くるりと振り返り得意げに胸を張る瑠菜をまっすぐに見つめる漆黒の瞳。
    「……隙あり」
     一途の右腕に装備したアームボウから矢が放たれる。その矢の軌跡はキラキラと星の煌めきの如く輝き、まっすぐ瑠菜に向かって飛んで行った。
    「油断大敵ですよ」
     失敗、とぺろっと舌をだす瑠菜に睦月は鋼鉄の如く鍛え抜かれた拳を突き出し問いかける。
    「あの、なぜ強くなりたいんですか?」
     彼女と拳を交わす時には聞いてみよう。そう考えていた彼に瑠菜はあっけらかんと答える。
    「だって、強くなきゃ最強じゃないじゃないですか!」
     あなたは違うの?
     瑠菜は問いを返しながらも睦月に手刀を撃ちつけようと大きく腕を振り上げた。
    「自分はその理由を探している最中です。――強いって何なのでしょうね」
     ドォォゥゥン!
     睦月の呟きは大きな爆発音にかき消され、あたり一面を煙が覆う。ジャックが渾身の力で【鬼棍棒】を振り回し瑠菜に打ち付けたのだ。
    「どうだ、桃宮。楽しいか?」
    「はいっ! 皆さんの気合がビシビシ伝わってきます!」
     白煙の中から姿を現した瑠菜の身体には明らかに傷が増えていたが、彼女は笑顔を浮かべてぐっと拳を突き上げた。
    「サイコ―です!!」
     瑠菜の言葉に、だよなぁ、と嬉しそうに瀝も目を細める。
    「オレにもいっぱい伝わってくるぜ、みんなの気合!」
     その間も灼滅者たちの攻撃は休むことなく続いている。仲間の傷は瀝と虹がフル回転で回復をしているが、ダメージが累積し限界があるのもまた事実。
     直接殴れない歯がゆさに瀝が唇を噛んだ時、瑠菜の肩が先程に比べて大きく上下しているのに気が付いた。
     そうだ。彼女もまた、そろそろ限界が近いはず――。
    「今だ、攻め込んじまえ!」
     瀝の言葉に奮い立った瑞鳥が鋭い眼差しで瑠菜を睨み付ける。
     戦いで負った傷から流れる血が炎となって拭き上がり、サイキックソードに巻き付いているかのように見えた。
    「灼滅者として、ここで止まる訳にはいかない……っ!」
     ぐっと剣を握る手に力を込め、瑞鳥は大きく剣を叩きつける。刹那、剣から放たれた炎の渦が瑠菜の身体に喰らいついた。
     炎に身を焼かれても、瑠菜は戦うことをやめない。強烈な手刀を瑞鳥に打ち付けんと大きく右手を振りかぶる。
     ――だが、手刀が振り下ろされたのは、巨大な異形の腕。
     2人の間に割って入った紗矢に気付き、瑠菜が慌ててバックステップで態勢を整えようとするが。
    「負けてたまるかー!」
     紗矢は異形と化した腕を振り上げ、渾身の力を込めて瑠菜を殴りつけた。
    「くっ……!」
     衝撃に耐えきれず、瑠菜は地に膝を着き、悔しそうに灼滅者たちを見上げる。
     決着は着いた。そう、判断した紗矢は静かに拳を下ろすのだった。

    ●修行の虫が選ぶ道
    「……」
     瑠菜も、灼滅者も、誰も言葉を発しない。ただ彼らの苦しそうな呼吸だけが響く。心配そうに主を見上げる虹の耳がぴくりと動いた。
    「確かに、あなたは、強い」
     ゆっくりと噛み締めるように一途が瑠菜に語りかける。
    「ですが、多人数戦には、慣れていない。――違いますか」
    「――」
     瑠菜は悔しそうに目を伏せた。一途は淡々と言葉を紡ぐ。
    「これが、力を合わせる、ということです」
    「……そう?」
     ぱっと顔をあげた瑠菜は怪訝そうな顔で首を傾げるだけ。彼女にとってはただ、各々が楽しく、自由にのびのびと戦っているようにしか感じなかったのだ。
    「おい」
     撤退する素振りを見せない瑠菜に痺れを切らした紗矢が選択を迫る。
    「選べ。今、俺達と戦って灼滅されるか、それとも、恥を忍んで……」
    「嫌です」
     紗矢の台詞をぴしゃりと遮る瑠菜。武人としての誇りと大好きな修行、どちらを選ぶか。彼女の口調に迷いはなかった。
    「こんな楽しい戦い、途中で終わらせるなんて、嫌です」
    「――そうか」
    「でも、だからと言って負けることを選んだわけではありません!」
     どこにそんな体力が残っていたのか。瑠菜は素早く立ち上がると強烈な蹴りを灼滅者たちに向かって繰り出す。それは事の成り行きを見守っていた仲間たちをも巻き込む威力を持つ一蹴。
     避けるだけの体力が残っていなかった瑞鳥と傷の深い仲間を庇おうと敢えて飛び込んだ一途の身体が衝撃波に吹き飛ばされた。
     なんとか持ち堪えた味方をヒーリングライトで癒す瀝がひゅぅっと口笛を吹く。
    「いいぜ、ルナ! その心意気、見習わせてもらうぜ!」
    「桃宮よ、俺も高みを目指す者。最後まで手加減はせんぞ」
     心なしか嬉しそうにジャックが右の拳を瑠菜に向かってまっすぐ突き出せば、お返しだといわんばかりに紗矢が拳の雨を降らせる。
     集中力を高めたジンザが瑠菜の足元を狙って魔法の矢を撃ち込むが、彼女は諦めることなく拳を振るい続けた。
    「勝敗を見極めるのも『強さ』ですよ」
    「……っ」
     瑠菜の心に迷いが生じたのだろうか。睦月は勢いの削がれた拳を軽く受け流し、そのまま少女の身体をぐっと掴み投げ飛ばす。
     そして瑠菜が地面に身体を打ち付けるであろう瞬間を狙って黒武が全力で斬りかかった。
    「チェストオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
     大きな掛け声とともに巨大な鉄の塊の如き剣を瑠菜に向かって振り下ろす。瑠菜にはもう攻撃を避ける力は残っていなかった。堪え切れずドサリと倒れ込む。
    「……わたし、最期に皆さんと闘えて満足です。楽しい戦い、ありがとうございました!」
     ――それが、アンブレイカブル・桃宮瑠菜が遺した最期の言葉だった。

     瑠菜の姿が消えた空き地は今までの戦闘が嘘のように静まり返っている。
     激闘による疲労は想像を超えているはずだが、心はどこか清々しい。
     時間の経過とともにダークネスを灼滅できたという実感が湧き上がってきた。
    「はい、そんじゃ今回はこれにて終了で御座います。お疲れさまでっしたー」
     明るい黒武の声が青い空に吸い込まれていく。
     富士急ハイランドからかすかに届く賑やかな笑い声に灼滅者たちは笑顔を浮かべるのだった。

    作者:春風わかな 重傷:村山・一途(普通の殺人鬼・d04649) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年7月18日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 12/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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