亀裂

    作者:聖山葵

    「べこ餅? なにそれ」
     きょとんとした顔で口にしたただの一言に、少女は固まった。
    「えっ、べこ餅だよ? 確かに時期外れではあるけどさ。ほら、白と黒の。知らない?」
     一時は固まりつつも、復活し、めげずに友人に問うた。
    「うん、知らない。おこしもの?」
     少女からすれば常識だったのかも知れないが、全く別の地方から越してきた転校生ならこう答えてもおかしくはない。おかしくはないのだが。
    「うわーん」
    「ちょっと、黒ちゃ」
     よほどショックだったのか瞳に涙を溜めた少女は呼び止める友人の声を無視して走り出す。
    「絶交もっちぃー」
     何だか凄い格好の怪人へと変貌しながら。
     
     
    「べこ餅の好きなお姉ちゃんを見つけたよ」
     発見者の羊飼丘・子羊(北国のニューヒーロー・d08166)が口にしただけの事態なら、問題はなかっただろう、ただ。
    「その『お姉ちゃん』が闇堕ちしてダークネスになる事件が発生しようとしている」
     子羊の話を補足した座本・はるひ(高校生エクスブレイン・dn0088)は、腕組みしたまま説明を始めた。
    「本来ならば闇堕ちした時点で現れるダークネスの意識によって人間の意識はかき消えてしまう」
     だが、件の少女は人間の意識を残し、ダークネスの力を持ちながらもダークネスになりきっていなかったのだとか。
    「もちろん、このまま放置しておけば完全なダークネスになってしまうだろうが、その前に君達に救出を頼みたい」
     もし、灼滅者の素質を持つのであれば闇堕ちから救い出せるかも知れない。
    「不可能ならば、完全なダークネスになってしまう前に灼滅を」
     敢えて頼むと続けなかったのは、救われて欲しいという気持ちの表れだったのかもしれない。
    「件の少女の名は、白牛・黒子(しらうし・くろこ)、中学一年の女子生徒だ」
     短い沈黙を挟んで、少女の名を語ったはるひによれば、この少女は新しく出来た友人が自分の愛して止まない『べこ餅』を知らなかったことにショックを受けて闇堕ちするという。
    「強いて言うなら、『おこしもの』発言が決め手だったのだろう」
     ともあれ、闇堕ちした少女はべこ餅でできたビキニのみを身に纏ったご当地怪人『べこモッチアー』に変貌するらしい。
    「夏場でなければとても寒そうな格好だな。地域的にも五月でなかったことに私は安堵感を覚えるよ」
     わりとどうでも良い感想をもらしつつはるひが説明を続けるに黒子と接触するのは、ショックを受け泣きながら走り出した後がいいとのこと。
    「一般人に自分から離れてくれるという好都合もあるが」
     べこモッチアと化した少女が向かう先には、人気のない空き地があるとはるひは言う。
    「ここはそれなりに広く、人目を気にせず戦うには、うってつけだ」
     ただ、三十分経っても決着が付かない場合、闇堕ちの原因になった友人が黒子を捜しに戦場にやって来てしまうとのこと。
    「故に、人避けするか制限時間内の解決を望むよ」
     そも、闇堕ちした一般人を救うには戦ってKOする必要がある。戦いは避けられない。
     ちなみに戦いになれば黒子はご当地ヒーローのサイキックに似た攻撃手段で応戦してくると思われる。
    「むろん、戦いと言っても物理的なものだけではない。闇堕ちした一般人と接触し、人間の心に呼びかけることで戦闘力を下げることが出来るのは君達も知っての通りだ」
     時間制限があるなら、相手の弱体化は好ましい。
    「流石にこの季節、水辺やプール以外でビキニを着て歩いている中学生などいないと思う。よって、一般人と間違えることはないだろうが」
     そこまで続けたはるひは、黒子の特徴を一つあげて見せた。
    「胸が大きい。べことひっかけたのかと思いたくなるほどに」
     そんな少女がビキニのみの姿ともなれば、男性にとって目のやり場に困るものになるかもしれない。
    「だが、どうでも良いことだ。重要なのは、一人の少女を救えるかどうかだからな」
     成功を祈るよと続け、はるひは灼滅者を送り出す。
    「なるほど、これがべこ餅か」
     脇に置かれていた、それをつまみ上げて。
     


    参加者
    海老塚・藍(スノウホワイトフェアリィ・d02826)
    不知火・読魅(永遠に幼き吸血姫・d04452)
    羊飼丘・子羊(北国のニューヒーロー・d08166)
    与倉・佐和(忠狐・d09955)
    金岡・劔(見習いヒーロー・d14746)
    真田・真心(遺零者・d16332)
    東屋・桜花(もっちもち桜少女・d17925)
    綺羅星・ひかり(はぴはぴひかりん・d17930)

    ■リプレイ

    ●おいでませモッチアさん
    「またモッチアが現れるなんて」
     呟いた東屋・桜花(もっちもち桜少女・d17925)の頬を七月の風が撫でた。何とも言えない表情は空気のぬるさに辟易したから、と言う訳ではないのだろう。
    「お友達がここに着く前に黒子さんを元に戻したいよね」
    「うん、そうだった。あたしの気持ちは置いておいて、ちゃんとフォローしないと」
     海老塚・藍(スノウホワイトフェアリィ・d02826)の言葉で我に返ると、首を巡らせ。
    「解ってるにぃ」
     視線のあった綺羅星・ひかり(はぴはぴひかりん・d17930)は力強く頷いた。
    「お餅は大好物だにぃ! そのせいで女の子が堕ちかけてるなんてのは見逃せないにぃ!」
     心の声がそう、副音声で聞こえるかのように瞳と、抱えたべこ餅が心の内を物語る。
    「ならばこそ、そろそろ準備を始めると致しましょう」
    「そうっすね」
     人も周囲に降りませぬし、と続けた与倉・佐和(忠狐・d09955)の発言を切欠に始まるのは、十時には早いおやつの時間。
    (「駄目だ、ここで食べてしまっては、この後に……」)
     朝は野菜ジュースしか口にしていないらしい真田・真心(遺零者・d16332)は、並べられたべこ餅に一瞬目を奪われるも、頭を振って視線を逸らす。
    「べこ餅って僕も知らなかったな」
     まじまじと見やった金岡・劔(見習いヒーロー・d14746)が白と黒に別れたそれに口を付け、美味しいと一言感想を漏らし。
    「おいち~! 白と黒のコントラストは見た目だけじゃなく味にもきいてるにぃ!」
    「うん、少し時期外れだけど、やっぱ美味しいね」
     ひかりや桜花が舌鼓を打ち始めた頃、そのご当地怪人は、現れた。
    「……大きいですね」
    「チッ、また巨乳かえ」
     身体の動きに会わせて揺れる何かを見て佐和が口にした言葉で、不知火・読魅(永遠に幼き吸血姫・d04452)は自分の胸とべこ餅ビキニに包まれた何かを見比べて舌打ちする。
    「うっく、えぐ……もちぃ?」
    「ねぇ、お姉ちゃん。どうして泣いてるの? よかったらこっち着てべこ餅食べない?」
     涙で霞む視界に、人の姿を見つけ足を止めたべこモッチアことべこ餅ビキニの少女へ始めに声をかけたのは、藍。
    「べこ餅もちぃ!?」
     べこ餅のご当地怪人が、この話に食いついてこない筈がなかった。
    「酷いもっちぃよ、もう七月だからって……」
    「べこ餅を知らない事に衝撃を受けて憤る! 僕もそれは良く分かるよ!」
    「うん、気持ちわかるよ。あたしも桜餅ぞんざいにされて堕ちちゃった経験あるし」
     数分後、お茶をしょっぱくしながらべこ餅をかじるご当地怪人は、羊飼丘・子羊(北国のニューヒーロー・d08166)へ肩を叩かれていて、反対側では桜花が相づちを打っている。
    「店主、お茶をもう一杯もちぃ」
    「私は店主ではありませんよ、あの方の従者であって」
     精神的ショックからお茶に逃避しようとしているのか、追加の注文に佐和は苦笑しつつモッチアのコップにお茶を注いだ。ただ、一つ訂正をした後は黙って付き合っていたという訳でもない。
    「ですがいつまでも落ち込んでいてはいられません」
    「もちぃ?」
     俯いていた顔を上げ首を傾げたべこ餅ビキニの少女へと言葉を続けた。
    「貴方には、より多くの人にべこ餅を知って頂く使命があると思います」
     べこモッチアを硬直させるに足る言葉を。

    ●モッチアのべこ餅講義
    「べこ餅がわからなければ丁寧に魅力を教えればいいんだにぃ! 暴れる前にやることはいっぱいあるにぃ!」
    「今までべこ餅というものを知らなかったが、黒子のおかげでこんなに美味しい物の存在を知ることが出来たのじゃ。感謝するぞよ」
     たまたま逃げ込んだ空き地でべこモッチアを待っていたのは、自分の目を覚まさせるようなの言葉と、予期せぬところで生まれていた戦果。まだ暴れては居ないが、ひかりの示したものにべこモッチア、いや白牛・黒子は目から鱗が落ちた。
    「そう、白牛さんもショックだったんだろうけど、そこで友達から逃げ出しちゃうよりべこ餅の魅力を伝えてみたらよかったんじゃないかな。僕もべこ餅の事教えて欲しいし」
    「先生! 質問いいっすか!?」
     劔がこれにあわせ、メモ片手に体育座りしていた真心が手を挙げる。よく見れば空き地の中にあるホワイトボードも真心が用意したものなのだろう、隣にライドキャリバー であるチャクラバルティンの姿がある辺り。
    「うぅ……」
     ここまで全力で話を聞く姿勢を作られて、どうしてスルー出来ようか。
    「わかったもちぃよ」
     身体から滲み出る威圧感を大きく減退させながら、顔を上げたべこモッチアはホワイトボードへ向けて歩き出し、講義の時間が始まる。
    「まず、べこ餅とは――」
     なんだかんだで、説得は上手くいきつつあった。
    (「生存本能を従えろ……原始の衝動を制御しろ……」)
     ホワイトボードに文字を書く度に揺れる豊かな何かに覚えるものを、真心は必死に押さえ込み、己との戦いを続ける。
    「それだけ大きければ、好きな人の視線を釘付け」
     そう言いかけて佐和は言葉を濁したのだが、気になるものには気になると言うことか。
    「その土地に根付くご当地品はその土地の人達が育んできたご当地愛! 実際地方によって形や呼び方が様々だけど、僕が生まれた道南では端午の節句に『べこ餅』が当たり前だね」
     むしろ柏餅の存在を知らなかったくらいだよと子羊が言えば、べこモッチアは頷いて。
    「やっぱり端午の節句はべこ餅もちぃな」
    「そう言えば、おこしものって言われたにぃ? その子愛知の子だにぃ、ならべこ餅わからなくて当たり前だにぃ、その子にもじっくり説明がいるにぃ!」
     持論に力を得たところで、今度はひかりが黒子に友人が向けた言葉の理由を語り、話し合いの必要性を説く。
    「知らないからこそ魅力が伝わると思うんだ」
     ひかりの声は劔に補強され、灼滅者達の瞳は、ただ一人を見る。
    「だから」
    「もちぃ?」
     ただ、いくら説得出来たとしても、戦ってKOしなければ少女は救えない。
    「へんしん!」
     子羊もスレイヤーカードを掲げて、封印を解き。
    「日本列島! 全国各地! ご当地愛がある限り! 北国のニュー☆ヒーロー羊飼丘・子羊、参上!!」
    「その使命、微力ながらお手伝いします故、戻ってきて下さい」
     子羊が名乗りを上げる中、灼滅者達は殲術道具を手に。
    「一時の激情に駆られても、残るのは後悔だけなの。だから」
     戦いを、始める。
    「格好が格好だ、迂闊に服破りとか使えんすからな……」
     前方に展開する魔力の宿った霧ごしにご当地怪人の姿を見て、ポツリともらした真心が放出するのはどす黒い殺気。
    「重火器だけど、近付いて撃っちゃいけないなんて決まりはない!」
     地面を蹴った劔は間合いを詰めるとガトリングガンをべこモッチアに向け、構える。
    「闇墜ちしかけるほどの白牛さんのご当地愛、全力で相手をさせてもらおう!」
     瞳に決意を込め、引き金にかけた指が大量の弾丸をバラ撒かせ。
    「きゃぁぁっ」
     べこ餅がちょっぴり焼けて香ばしい匂いが周囲に立ちこめた。
    「っ、そうかお前達は……くっ、力が出ないもちぃ」
     少女の中の闇がようやく灼滅者達の目的に気づくが、もう遅い。説得によって黒子が内側で抗っている今、べこモッチアは本来持っている力を発揮出来なくなっていたのだから。

    ●約束に「お」は要らない
    「今の格好、冷静になって見たら一生モノのトラウマよ! あたしも死ぬほど恥ずかかったんだから」
     桜花が影を操りながらそうべこモッチアに声をかけたのにも理由はある。
    (「黒子は元の露出度が高い分、何かあったらあたし以上に危険よね?」)
     脳裏をかすめた過去の嫌な記憶から導き出される惨劇の予感。
    「単なる気のせいじゃ気のせい。偶然、偶々。よくある事じゃ」
     そう言いつつも何故かひたすら胸を狙っているように見える読魅の斬撃。
    「えっ?」
    「きゃぁぁぁっ」
     しかも桜花自身の操った影が刃と化してべこ餅ビキニに大きな切れ目を入れた幻覚まで見えてきたのだ。
    「それ幻覚じゃないと思うよ、お姉ちゃん」
    「セクハラ冤罪何より怖し、耐えるっすよ、耐えるっすよ……」
     マテリアルロッドを振り上げた藍がさりげなく指摘するが、声に振り返れば真心がご当地怪人以外の何かと戦いを繰り広げている。
    「食べ物への愛ゆえに暴走した手合いを毒やコゲに塗れさすのも主義じゃないというか……気が引けるっすよ」
     と敢えて攻撃手段の幅を自ら狭めた真心だったが、仲間達は色々フリーダムだったと言うことだろう。
    「うぐっ、何て卑怯な。だが、私は負け――」
    「うっきゃー☆黒子ちゃんかわいい~はぐはぐするにぃ!」
     斬られたべこ餅ビキニを押さえつつ、それでも応戦しようとする少女へ、ひかりが片腕を異形化させながら飛び出して行き。
    「ちょ、ちょっと待つも……きゃぁぁぁ」
    (「……出来るはずだ、魂の闇に立ち向かう灼滅者なら! 狼は檻に。羊は柵に。腹の虫を解き放て!」)
     謎の本気をもって挑む真心の戦いは続く。
    「弾けろ☆」
     子羊がくるりと回したマテリアルロッドで、殴打を叩き込む間も。殴打とは、つまり振動を産む。殴打時に流し込んだ魔力による爆発も、然り。平然と戦う子羊と真心の差は、年齢かそれともご当地愛か。
    「よくもやったもっちぃねっ!」
     相手の容姿に動揺することなく、撃ち出されたビームから味方を庇う相棒が真心からすれば羨ましく見えたかは、解らない。
    「うぐっ、まさかこれ程とは……」
     ともあれ、べこ餅ビキニの損傷と説得による戦闘力の低下で、ご当地怪人は追い込まれていった。
    「大人しくして下さい」
    「うっ、あ……」
    「っ」
     黒い狐面を付けた佐和の影が触手となってべこ餅ビキニの少女に絡みつき、たぶん真心も追い込まれる。
    「おのれそんな態勢で見せつけるとは!」
     そして、読魅はいきり立ち。
    「二人共、何と戦ってるのかな」
     二人の様子を見て、藍が首を傾げた。
    「とにかく今は早く倒すことを考えよう」
    「そ、そうね。黒子のトラウマになっちゃうし」
     このまま戦いを長引かせる理由はない。劔の言葉に桜花は同意し、既に機銃をべこモッチアに向け、早く倒すことを実戦している愛機のサクラサイクロンを一瞥すると、ガトリングガンのグリップを握り直す。
    「ゆくぞっ」
     劔の号令で二つのガトリングガンが射線上にモッチアを捉え。
    「なっ、しま」
    「ナノナノ~」
     狙われていることにご当地怪人が驚いた瞬間を狙って、ひかりのナノナノが味方を庇って損傷したチャクラバルティンをハートで癒す。
    「も゛っ、うっ、くっ、ぐぅ」
     直後に咲いた銃火がべこモッチアを踊らせ。
    「くっ、おの……」
     射撃が終わりヨロヨロと身を起こしたべこ餅ビキニの少女は、見た。
    「私、べこ餅を初めて食べましたがとても気に入りました」
     佐和の腕が巨大化して行くのを。
    「そして、もっと広める必要性があると感じました」
     一つ頷き、腕を振り上げて。
    「あ……」
    「広めながら一緒にべこ餅、食べましょう?」
     問いかけと共に打ち下ろした腕が、戦いを終わらせる。腕のサイズが元に戻り、土埃のはれた後にいたのは、気を失った一人の少女だったのだから。

    ●混沌
    「戦った後はお腹が空きますね……またべこ餅を食べるとしましょう」
    「さてと、だね。布教も大事だけど、まずはゆっくりべこ餅を食べようか」
     子羊が佐和の声に同意した時、空き地には助けられ意識を取り戻した黒子も居た。
    「べこ餅……」
     説得で弱体化していたからか、戦いが終わってもまだ黒子の友人の姿はなく、真心から渡されたぶかぶかの服に身を包みつつ、少女はそっとそれへ手を伸ばす。
    「世の中にはいろんなお餅があっていいんだにぃ……べこ餅も頑張ればいいんだにぃ!」
     ひかりがべこ餅をてにとった頃子へ声をかけ。
    「そうね。それと黒子さえ良かったら――」
     頷いた桜花は、少女を武蔵坂学園へと誘う。
    「それから、桜餅も好きになって貰えたらなぁ」
     ちゃっかり自分の好物も布教しようとする辺りでご当地ヒーローらしさを発揮していたが。
    「なん……」
     ハプニングは、最後まで言い終える前にやって来た。
    「さて、それでは今度は、お主のべこ餅を食してみようかの」
     読魅と言う形を取って。徐に読魅の手が伸びた先は、黒子の豊かな胸。
    「さぁ! その『べこも乳』を妾に分けるのじゃ! 20%程でいいから!」
    「きゃぁぁぁぁぁ!」
     読魅の襲撃に少女は悲鳴を上げ。
    「それ以上はだめ! 黒子のトラウマになっちゃうよ!」
    「先輩っ」
     咄嗟にライドキャリバーで庇った桜花を黒子はうっとりとした目で見つめる。
    「えっ」
     ただ、その瞳に何故か身の危険を感じて、桜花は思わず後退りし。
    「先ぱぁぁぁぃ」
     感極まった黒子が、今度は桜花に抱きついた。
    「ありがとうございますっ、じゃあ先輩の『桜も乳』は私がっ」
    「ちょっ、『桜も乳』って何?!」
    「安心して下さい、守るだけですっ、私、ノーマルですからっ」
     ミイラ取りがミイラにとでも言おうか、いや違うか。
    「むぅっ、見せつけるような真似を、ならばっ」
    「楽しそうだにぃ、ひかりもはぐはぐするにぃ!」
    「ちょっ」
     読魅だけでなくひかりまで加わってカオスかつ男性陣にとっては目のやり場に困る光景に、状況は悪化した。
    「私はお仕事に支障が出そうなので、羨ましいなんて思いませんよ」
     佐和は一体誰に向けてのコメントなのか。
    「くろー? さっきはごめ」
     新たな登場人物が空き地へやって来たのは、この直後。
    「ねぇ、お姉ちゃんはお姉ちゃんの知り合い?」
    「お姉ちゃん?」
    「実はね、お姉ちゃんにべこ餅について教えてもら」
     首を傾げた少女へ声をかけた藍が振り返って指さそうとしたのは、お取り込み中の女性四人。
    「うわぁ」
     藍が絶句し、少女が顔を引きつらせたのも無理はない。
    「うぐっ……」
     ちなみに真心はべこ餅という朝食を食べたせいか、目の前の光景に抗おうとして微妙に敗北しかけていた。具体的な言及は避けるが。
    「くろの悪い癖が出てるーあの子、優しくされるとすぐなつくんだよねー」
     遠い目をした黒子の友人は身に覚えでもあるのか。
    「えーと、これがべこ餅なんだって食べてみると美味しいよ」
    「ほんとだ、美味しい」
     ただ、復活した藍に勧められてべこ餅を口にすると顔を綻ばせ。たぶん、友情の修復の方はもう問題無いのかもしれない。
    「ちょっと、どこ触っ、助けてぇ」
     救いが必要なのは、おそらくトラブル体質な別の誰かだった。

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年7月19日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 9
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