強さを求めて

    作者:天木一

    「ふんっはっ、ふんっはっ」
     富士急ハイランド駅へ向かう電車。それに乗った一人の男が腕立て伏せをしていた。
     Tシャツに短パンと動きやすい格好で、リズム良く、腕立て、腹筋、スクワットと次々と筋力トレーニングをこなしていく。
    「ふぃー……もうすぐ到着か。ブレイズゲートで鍛えりゃ、俺ぁもっと強くれるはずだぜぇ」
     男が立ち上がり、吹き付ける突風を気にする事も無く、電車の行く先を見る。その先には遠く富士急ハイランドがある。
    「へへっ楽しみだなー。明さんが教えてくれたんだ、きっとすげーところなんだろうなぁー」
     一般人なら吹き飛ばされそうな風圧と電車の揺れにも微動だにせず、気持ち良さそうに汗を拭う。
    「よーしっ、到着までもう10セットだ!」
     照りつける日差しの中、男は電車の上で筋力トレーニングを続ける。
     電車の上に乗客は男一人。焼き付くほど熱せられた屋根の上で、夢中で汗を流していた。
     
    「やあ、みんな。ちょっと困ったことになりそうなんだよ」
     能登・誠一郎(高校生エクスブレイン・dn0103)が集まった灼滅者に話かける。
    「富士急ハイランドに不安定なブレイズゲートが現われたみたいなんだ」
     そのブレイズゲートは突然現われたり、探索後に消滅したりする特性があるようだ。
    「何故そんなものが生まれたのか理由は分からないんだ。ご当地怪人選手権で集められたサイキックエナジーとの関係も不明だよ」
     ブレイズゲート自体の探索も必要だ。だがそれよりも急を要する事がある。
    「どうもそのブレイズゲートにアンブレイカブルが向かっているみたいなんだ」
     どうやらアンブレイカブルの一派が修行の為にブレイズゲートを目指しているらしい。
    「修行だけなら放っておいても良かったんだろうけど、場所が悪いんだよ」
     運悪くブレイズゲートが開いたのは観光客の賑わう富士急ハイランドだ。
    「故意じゃないにしても、どんな被害が出るか分からないからね。みんなには富士急ハイランドに入る前にアンブレイカブルを撃退して欲しいんだよ」
     アンブレイカブルの一人が電車に乗って富士急ハイランドに向かっている。
    「電車といっても車内じゃなく、電車の屋根の上に乗ってるんだけどねぇ」
     少々呆れたように誠一郎は言葉を告げる。
    「名前は大月学。キックボクシングの使い手みたいだね。到着前に電車から飛び降りるから、その時にでも声をかけるといいかもね。相手は強くなる修行の為に行動しているから、手合わせを願えば応じてくれるはずだよ」
     戦う場所も融通が利くだろう。富士急ハイランドに近い場所では人も多い、被害を避けるために離れた場所が好ましいだろう。
    「敵は1人だけど、戦う為に鍛えているアンブレイカブルだから油断しないで」
     とはいえ全員で掛かれば十分に倒せる相手だ。
    「今回の敵は一般人に迷惑をかけようとしてるわけじゃないんだ。だからこちらの実力で追い払えば、灼滅しなくても納得して撤退すると思うよ」
     灼滅するも、追い返すに留めるも、皆の自由だ。
    「遊びに来ている人々が被害に遭わないように、みんなの力で無事に解決して欲しい。お願いするよ」


    参加者
    エステル・アスピヴァーラ(白亜ノ朱星・d00821)
    紗守・殊亜(幻影の真紅・d01358)
    古関・源氏星(オリオンの輝ける足・d01905)
    風見・遥(眠り狼・d02698)
    更科・由良(深淵を歩む者・d03007)
    綾野・亮平(サイキノコブシ・d07006)
    祁答院・蓮司(追悼にして追答の・d12812)

    ■リプレイ

    ●目指すは
     富士急ハイランド駅。休日は遊びに来る人々が大勢で賑わう駅だ。
     そこに繋がる線路の脇、駅前付近の場所に灼滅者達は集まっていた。
    「しかし富士急は何かと人気あるなぁ。……ダークネスに」
     紗守・殊亜(幻影の真紅・d01358)がダークネスに人気のテーマパークかと苦笑する。
    「む-ん、富士急には何かあるのかな?」
     エステル・アスピヴァーラ(白亜ノ朱星・d00821)も首を捻り、富士急で起きた出来事を思い出す。
    「アンブレ界隈で激アツなモンでもあんのかもな」
     その言葉に古関・源氏星(オリオンの輝ける足・d01905)が答えた。
    「とにかく危ないお客さんはお帰りいただくの~」
     エステルの視界に電車を捉え、気持ちを切り替える。
    「鍛錬とか修行とか、俺はめんどーなのは苦手」
     電車の上で筋力トレーニングを行なっている敵を見て、そうぼやきながらも、風見・遥(眠り狼・d02698)は純粋に戦う事が嫌いではなかった。
    「日頃の鬱憤晴らしの相手には丁度良さそうだし、追い払いがてら手合わせしようじゃないか」
     エリアル・リッグデルム(ニル・d11655)が準備は良いかと仲間と視線を交わす。皆が頷いた。
    「しかし、いくら好敵手から言われたとはいえ、素直にホイホイ来るとは呆れるなあ。強さには賢さも必要だとは思うんだけど……」
     言っても無駄だろうけどと、小さく呟く。
     電車の上に立っていた男が飛び降りた。空中でくるりと回転し、体操選手のように華麗に着地する。
     身長は180程、剥き出しの長い手足が目に付く。細身に見える引き締まった無駄の無いしなやかな体をしていた。
     そこに灼滅者達が近づく。男が気付き、訝しげに問いかける。
    「んぁ? なんだぁお前らは」
    「あんたがアンブレイカブルか、率直に言って殴り合いがしたい。そこの森までちょっとツラ貸してもらえないだろうか」
     親しみを持って祁答院・蓮司(追悼にして追答の・d12812)が呼びかける。その言葉は直球だった。
    「アンタ、修行に来たんすスよね? ブレイズゲートより、もっと楽しい修行があるスよ」
     初めてのアンブレイカブルとの戦いを前に、綾野・亮平(サイキノコブシ・d07006)は楽しみで体を震わす。
    「修行の前に、ちと儂等とウォーミングアップなどはどうじゃろうかの?」
     眼光鋭く、更科・由良(深淵を歩む者・d03007)は殺気をぶつけながら声をかける。
    「ほぉーほぉー、着いていきなり勝負を申し込まれるなんたぁ幸先が良いってもんだ。いいぜ、やろうじゃあねぇか」
     嬉しそうに男は快諾する。
    「そこの森ん中だな。早速行くぜ!」
     男はそう言うや全力で走り出した。
    「あう、行っちゃいました~」
    「追うぞ!」
     灼滅者達は一瞬呆気に取られ、慌てて追い駆ける。

    ●勝負
     見失わぬよう、灼滅者達が全力で追い駆ける事数分。息を切らし立ち止まったのは人気の無い森の中。
    「遅かったな、こっちはもう準備万端だぜぇ」
     男は靴を脱ぎ、手と足にバンテージを巻き終えるとTシャツを脱ぎ捨て、角刈りの頭に鉢巻を巻いた。そして最後に赤いグローブを嵌める。
    「殺す気はねぇが、手加減する気もねぇー。死んじまったら自分の弱さを恨んでくれよ」
     グローブを構える。その前にオーラを纏ったエステルが堂々と立つ。
    「むいむい、真正面から勝負なの、かかってくるのです~」
    「俺はアンブレイカブルの大月学だ! 楽しませてくれよ、行くぜ!」
     気迫を込め大月が踏み込むと、右の前蹴りがエステルの腹を抉った。そのまま体重を乗せて蹴り飛ばす。
    「ブレイズゲートより手ごたえある戦いは保障するよ」
     殊亜がライドキャリバーのディープファイアに騎乗して仕掛ける。機銃を撃ちながら接近する。大月はステップを踏み、射線を外す。
     すれ違いざまに殊亜が手にした光輝く剣を横薙ぎに振り抜いた。大月は屈むようにダッキングして躱すと、カウンターに脇腹目掛けて拳を放つ。だがその拳は止った。
    「あんたらの興味を惹いて仕方ねーってモンは何かあるかい」
     鞭剣を大月の腕に絡めて攻撃を防いだ源氏星が問いかける。
    「自らを鍛錬できる場所ならばどこでも。今はこの地のブレイズゲートがどんなものか楽しみだ!」
     大月はそう返答しながら、源氏星に左のジャブを放つ。源氏星が腕を上げてガードする。その瞬間、右のローキックが鞭のようにしなって源氏星の足を打つ。衝撃に膝を突くと、下がった頭へ膝蹴りが迫る。
    「そこまでじゃ」
    「フォローする」
     横手からガトリングガンを構えた由良が引き金を引く。蓮司の指輪が光り、由良に力が注がれ、吐き出される無数の弾丸は強化され暴風となって大月を吹き飛ばす。射線上にある木々も穴だらけになっていく。
    「くっ」
     大月は木々に隠れるように射線から逃れる。
     その時、木々の隙間を縫うように炎の弾丸が大月に向かって次々と撃ち込まれる。
    「さて、じわじわ狙われてどう対処するのかな?」
     エリアルが銃身の長いバルカン砲から弾丸を撃ちまくる。範囲に面の攻撃として弾幕が張られ、動き回る大月の体に命中していく。
    「こうしてやる!」
     大月が拳をアッパーに振り上げた。すると風が巻き起こり竜巻となって弾丸を弾き飛ばす。
     竜巻を抜けて突っ込もうとした所へ、静かに待ち構えていたのは遥だった。
    「さって、出番だぜ鬼火」
     遥が歩くようにゆるりと間合いを詰めると、刀を抜き打つ。抜いた刃は青白く光って見えるほどの冴え。大月は上体を反らしてスウェーで避けようとする。だが切っ先が僅かに伸びる。刃が横一文字に胸に傷を作った。遥の手を見れば鍔近くを握っていたはずの手が柄頭までずれていた。握りを甘くして射程を伸ばしたのだ。
    「やるなぁ!」
     大月はお返しとばかりに右のミドルキックを脇腹に向けて放つ。遥は鞘でそれを受けようとした。だがその時、ぐんと足が跳ね上がった。遥は咄嗟に顔を下げようとするが、蹴りが側頭部を直撃し、地面に転がる。
     更に踏み抜いて追い討ちしようとする所へ、亮平が立ち塞がる。
    「大丈夫か? すぐに応急手当をする」
     蓮司が指輪の力を遥に注ぎ、打撲と朦朧とした意識を回復させる。
    「アンタみたいな奴らと戦うのが、楽しみだったんスよ」
     亮平が焔の如きオーラを纏う。大月もまたオーラを纏って相対した。
    「どっちが最後まで立ってられるか……殴り合おうぜ!!」
     互いの鋼の如き拳が放たれる。亮平の拳は頬に、大月の拳は腹部に入った。お互いが吹き飛ばされるように間合いが開く。
    「次は飛ばされたりしないの!」
     死角からエステルが近づく。魔力の宿った霧を展開しながら、チェーンソー剣で背中を斬りつけた。
    「シャッ!」
     大月は蹴りを後ろに放つ。エステルは何とかチェーンソー剣で受け止めた。だが続けて振り向きざまに肘打ちが放たれ、肩を打ちよろめく。そこに打ち下ろすようなしなる蹴りが放たれる。
    「俺が相手だよ」
     ディープファイアがその一撃を受け止め、殊亜の影が幻獣の形をとって大月に襲い掛かる。影の獣は足に噛みつき拘束する。
    「今が好機じゃ」
    「火力で押し切るよ」
     由良が宙に魔法陣を描き、そこから次々と魔法の矢を放つ。エリアルは赤銅色のバスターライフルを構え光線を撃った。
     大月はアッパーで竜巻を起こし迎撃する。だが魔法の矢を打ち消した所で、光線が竜巻を貫通して右肩を焼いた。
    「ぐぅぁっ!」
     大月は影を蹴り拘束を解いてその場を逃れる。次の瞬間、魔法の矢と光線の二陣が撃ち込まれ、地面や木々に穴を開ける。
    「ブッ飛ばせ、黒麒麟!」
     そこにライドキャリバーの黒麒麟が突撃する。大月はそれを蹴り、反動で跳躍した。
    「オラ、行くぞ!」
     その後を源氏星が跳躍して追う。拳を固め、上から殴りつける。大月はガードするが、ガードの上から殴り、勢いのまま地面に叩きつけた。
    「ダークネスってのはどんだけ硬いんだ? 試させてくれよ!」
     亮平が倒れた大月に拳を打ち下ろす。大月は転んで避け、拳は地面にめり込む。
     跳ね上がるように起き上がった大月は、亮平に向けて拳を放つ。その時、頭上を影が覆う。
    「さっきのお返しだ」
     遥が木を蹴り、背中向けに頭上へ跳ぶ。空中で右回転しその勢いで刀を抜き打った。刃が大月の頭部へ振り下ろされる。
    「ぬぉ!」
     大月はそれを咄嗟にダッキングで躱そうとするが、刃は耳から頬を斬り裂いた。
     そこに亮平が右の拳を振り抜き、大月の顔に拳をめり込ませた。

    ●全力
     大月は木にぶつかって止まり、ずるずると落ちる。
    「へへっ、やっぱり硬いんスね」
     亮平が笑顔で殴って赤くなった手を振る。
    「くっくっ……真剣で強ぇーなお前ら」
     大月は口から流れる血を腕で拭いながら笑う。
    「お前らをぶち破って俺はもっと強くなる!」
     大月を中心に激しい風が吹く。大月を覆うオーラが大きくなり猛っていた。
    「真剣で行くぜ!」
     大月が矢のように亮平に突っ込む。勢いのまま飛び膝蹴りで顎を狙う。亮平は両腕でガードを固めた。だがガードごと吹き飛ばされ、木にぶつかる。
    「止めるよ源氏星さん!」
    「おう、任せとけ!」
     殊亜と源氏星が挟み込むように大月に迫る。大月はアッパーで竜巻を起こし、殊亜を吹き飛ばそうとする。殊亜はそれを光の剣で斬り、ディープファイアの機銃が火を噴く。
     銃弾を避けた所へ源氏星が飛び込み、拳が大月の腹を抉る。続けて顔面へ拳を放つ、だがその前に首を抱え込まれた。首相撲の体勢で膝が飛んでくる。源氏星が腕でガードするが、一発、二発と続けて固い打撃が打ち込まれる。源氏星の左腕が折れ、鼻から血が流れる。
     黒麒麟が突撃し、ディープファイアも突撃する。大月は体を入れ替えて源氏星を盾にしようとする。その僅かに攻撃が止まった隙に源氏星は大振りの一撃を腹に決め、首のロックが緩んだ所で脱出する。
     大月は二台のキャリバーを避けようとする。だが足が引っ張られ動けない。見れば鞭剣が足に絡み付いていた。
    「ちょっとだけその足を止めさせてもらうぜ!」
     源氏星が離れる前に足に絡めていたのだ。
    「腕が折れたのか、繋げるぞ」
     蓮司が光を放つ。温かな光を浴びて源氏星の左腕の骨が繋がり動くようになる。
    「ぐぅぉっ」
     二台のキャリバーの突撃をまともに喰らい、大月は高く撥ね飛ばされる。
    「空中では避けようがあるまい」
     由良はガトリングを構え、空中にいる大月に弾丸をばら撒く。大月は被弾しながら、空に拳を打つ。すると竜巻が起こり、反動で落下する。
    「ここからが本番なの、覚悟決めて行くの~♪」
     落下する先に待ち構えていたエステルが、杖に魔力を籠めて振り抜いた。
    「ぐふっ……くぅ、やるなぁ!」
     野球のボールのように大月はもう一度空へ打ち上げられる。傷付きながらもその顔はまるで少年のように無垢な笑みを浮かべる。
    「良い表情してるね……羨ましいよ」
     敵の戦いを楽しむ姿に、エリアルが羨望を覚えながらガトリングを撃つ。火弾が空を翔る。大月はその弾丸を腕で受けた反動で木の上部に着地する。
    「さすが脳筋、一筋縄には行かないか」
     戦いに関しては、考えるよりも体が勝手に動く相手に感心する。
     大月は木から猛禽のように下の獲物を狙う。狙いを定めると木を蹴り矢のように放たれた。
     狙うは先程顔を斬った遥だった。迎撃する遥は刀を正眼にゆるやかに構える。大月は貫くように遥に蹴りを放つ。遥はその蹴りを刀で迎撃する、かに見えた。だがゆらりと剣の光がゆらめくと、2人はぶつかる事無く交差する。
     大月は地面に着地、だが勢いを殺し切れずに地面を転がる。良く見れば足に赤い線が走り、血が流れていた。
    「パワーは上がっても、直線の動きは見切りやすいんだぜー」
     遥はぶつかり合う瞬間、力を引いて敵を惑わし、刀を添えるだけで敵の勢いで足を斬ったのだ。
    「このくらいでは、まだまだ俺は倒せんぞ!」
     力を入れ傷を塞ぐと、大月は立ち上がる。
    「それじゃあ、俺もギアを上げるぜ!」
     亮平が正面から飛び込むと、拳を連打する。息を止め、全力で殴り続ける。
    「おおぉ!」
     避けきれぬと大月も殴りつける。互いに顔を殴り、腹を抉る。防御も無く連打が当たり続ける。亮平のストレート、それを大月が紙一重で避けカウンターの拳が顎を捉えた。
     膝を突く亮平に蹴りを決めようとした時、源氏星が割って入り、その蹴りを受け止めた。そして大月の頭上からキャリバーが降って来る。殊亜がディープファイアで木を駆け、頭上から突撃したのだ。
    「この程度!」
     大月は飛び上がるようにしてハイキックを放つ。ディープファイアが吹き飛ばされた。
    「お、それカッコイイね。よし、俺も!」
     殊亜はキャリバーから飛び降り、大月に向かって落下しながらハイキックを放つ。足に炎を宿した蹴りは、大月の頭部を打ち抜いた。
     よろめく大月に、由良が魔法の矢を、エリアルが赤き逆十字を放ち、打ち据える。
     苦し紛れに放つ大月の蹴りを、エステルがチェーンソーで斬り裂く。
     蓮司に治療を受けた亮平がもう一度、大月と向かい合う。
     大月のローキックから右ストレートのコンビネーション。だがその蹴りは蓮司が掻き鳴らしたギターの音に、拳は遥の刀に受け流される。
     亮平の拳が大月の顔面を捉え、そのまま殴り倒す。大月は地面に手を突いた。

    ●戦い終われば
    「……俺を殺さないのか?」
     大月は体を起こし、周囲の灼滅者達を見た。
    「その力を一般人……弱い者に振るう事は無いって約束できる?」
     約束できるなら命は助けると殊亜が告げる。
    「どうじゃ、此度の邂逅は互いに得るものもあったと想うが……再戦、スパーリング、理由をつけて修行とせんかの?」
    「また手合わせしようよ」
     由良は殺すには惜しいと、エリアルも続けて言葉を告げると、大月は頷いた。
    「今回は俺の負けだ認めよう。元より弱者に振るう拳なんざぁない。次はもっと強くなり、お前らを打ちのめす」
    「むーん……ここ教えてくれた柴崎さんってどんなひと?」
    「強い、その一言で全てだ」
     エステルの問いに大月は立ち上がりながら率直に答えた。
    「また修行するなら一声かけて欲しいス……個人的には、嫌いじゃねースよ、アンタら」
     亮平は満足そうに言う。
    「さらばだ。また戦える日を楽しみにしているぞ!」
     来た時同様、大月は全力疾走で去る。
    「水分補給は怠るなよ。ただでさえ暑苦しいんだからよ」
     蓮司が言い捨てながら、どこか憎めない相手だと見送る。
    「挑戦でも修行でも俺たちなら受けて立つよ。またね」
    「またいつでも相手になってやるぜ!」
     殊亜と源氏星が去る背中に声をかけた。
    「またどっかで会うんだろうか。その時は、敵対者としてじゃなく会えれば楽なのになー」
     鞘に刀を収め、遥は緊張を解く。アンブレイカブルを見ていると、勝利か敗北か、世の中がそんな単純なものに思えてくる。
    「富士急ハイランド、ね」
     灼滅者達が歩き出す中、源氏星は遠くを見て一人呟いた。

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年7月13日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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