富士の裾野に群れ始め

    作者:幾夜緋琉

    ●富士の裾野に群れ始め
    「富士急ハイランドか……よし、それならば富士の樹海を走って行った方が近いな。よし、そこを走って行くぞ!!」
     とある筋骨隆々な男が、声高らかに叫び、走り始める。
     彼は業大老配下のアンブレイカブル……そして彼の目的地は山梨県の富士急ハイランド。
     業大老の指示に従い、富士急ハイランドへと向かう道のりを設定したアンブレイカブルは、決して楽な私鉄を使う事無く、走り込んでいく。
     ある意味、これも彼の修行の一つ……そしてアンブレイカブルは、せっせと向かうのであった。
     
    「さて……皆集まってくれたな? それじゃ早速だが、説明を始めさせて貰うぜ!」
     神崎・ヤマトは、集まった灼滅者達を眺めると共に、早速説明を始める。
    「ずっと前に、ご当地怪人選手権をやった富士急ハイランドは覚えているよな? どうやら同じくその富士急ハイランドに、不安定なブレイズゲートが現われてしまったみたいなんだ」
    「この富士急ハイランドのブレイズゲートは、突然現われたり、探索後に消滅するという不思議な特製があるブレイズゲートなんだ。とはいえこのご当地怪人選手権で集められたサイキックエナジーが関係しているかどうかは解らないんだがな?」
    「でも、今回はこれだけではない。ブレイズゲートの探索も必要だが……実は、このブレイズゲートにアンブレイカブルが向かっている事が解ったんだ」
    「アンブレイカブルは、純粋に修行の為にこのブレイズゲートに来ている様だが、観光客で賑わう富士急ハイランドにアンブレイカブルが来ると、どんな事故が起こるかどうか解らない。だから……富士急ハイランドに入る前に、アンブレイカブルを奪還して欲しいんだ」
     そこまで言うと、続けてヤマトはダークネスの戦闘能力について加えて説明する。
    「何度も言っている通り、皆が今回相手にするのはダークネスだ。それも自分の力を高めようと修行しようとくる、熱意の高いアンブレイカブルになる」
    「それ故に、その戦闘能力はかなり高い敵である、と言えるだろう。決して油断ならない敵だ」
    「また、その攻撃方法は武器などを使わず、己の拳、そして足から繰り出す、まっすぐなパンチとキックだ。とてもすばやい動きは交わす事はかなり難しく、攻撃力も高い。一撃で致命傷になる迄にはいかないが、数発叩き込まれれば、いつのまにか押されて負けていた……という事も十分にあり得るだろう」
    「また、今回アンブレイカブルは富士急ハイランドへ真正面の入り口からやってくる。でもハイランドに入らせる前に、周囲に人が居ないような場所で戦うように心がけてほしい。下手に中に入らせると、いつの間にか被害が……という可能性がある。幸い潔い彼は、その力を試したい、などと宣言すれば、それに適した場所であれば拒否はしないだろうからな」
     そして、最後にヤマトは。
    「まぁ、何にせよ今回のアンブレイカブルは潔い様でな。『自分の修行が足りない』という事を納得させる事ができれば、出直してくる潔さがある。つまり灼滅せずに撤退させる事も可能だ」
    「という訳で……だ。皆、頑張ってアンブレイカブルを倒してきてくれよな!」 
     と言って、皆を送り出すのであった。


    参加者
    浦波・梗香(フクロウの目を持つ女・d00839)
    斎賀・なを(オブセッション・d00890)
    二神・雪紗(ノークエスチョンズビフォー・d01780)
    御柱・烈也(無駄に萌える熱血ヒーロー・d02322)
    ゼノビア・ハーストレイリア(レストインピース・d08218)
    戯・久遠(暁の探究者・d12214)
    刄・才蔵(陰灯篭・d15909)
    ハノン・ミラー(ダメな研究所のダメな生物兵器・d17118)

    ■リプレイ

    ●力求め続け
     ヤマトから話を聞いた灼滅者達。
     富士急ハイランドへと向かうダークネス、アンブレイカブル……そんな彼らは、己の力を高めるが為が目的。
    「しかし強さの為に己を高める、と……それだけなら聞こえは悪くはないな。だが……その強さの先に、果たして何を求めているのやら。矜持無き力など、所詮エゴを押し通す暴力でしかない、というのに」
    「そうだな。こういった単純な思考は演算のしがいが内。が……その戦闘能力には十分演算の余地があるだろう」
     浦波・梗香(フクロウの目を持つ女・d00839)に、二神・雪紗(ノークエスチョンズビフォー・d01780)が瞑目しつつ頷く。
     単純故に、真っ直ぐ。
     だからこそ、一直線の心で以て、ハイランドへと樹海を抜けて向かっているという……その目的は、富士急ハイランドに現われた不安定なるブレイズゲート。
     純粋に修行の為とは言うものの、その理由は分からない。とは言え聞いた話から推理するに……。
    「うーん……彼らは業大老の門下生なんだろ? 門下生といっても、それはただサイキックエナジーを集めるだけの存在なんじゃないかなと思うんだよな。勿論、その目的は業大老の復活でしょ? そりゃもう灼滅出来れば万々歳だと思う。つつじがどう動くか解らないし、未来予測に引っかかっていないだけでつつじみたいなのが動いてないとも限らないけれど長っ」
    「確かになげーな。まぁ何にせよ、奴らがやりたい事は何となく判ったし……しっかり倒さなきゃな!」
    「そうだな……実力はかなり高いだろうけれど、怯む訳にはいかない、か」
     ハノン・ミラー(ダメな研究所のダメな生物兵器・d17118)に御柱・烈也(無駄に萌える熱血ヒーロー・d02322)と、斎賀・なを(オブセッション・d00890)が続くと、戯・久遠(暁の探究者・d12214)が……静かに目を見開いて。
    「……気は練った。あとは戦うだけだ……必ず倒す」
     それにハノンも。
    「そうだな。消す一択で、と……それにしても富士急ハイランドかぁ……」
     とぼんやり。
     富士山の麓にある遊園地。
     4つの絶叫マシンを筆頭に、絶叫マシン系が多い遊園地……そして入口には、ぎょろ目の大きな怪物の様なゲートがあったりする。
     そして……朝方というのに、結構着ている人が多い。
    「富士急ハイランド……初めてみました。これがゆうえんちというものですか……折角なら、依頼ではなく、遊びに来たかったな、なんて思います……」
    「……まぁな。でも今回は依頼だから、遊ぶのは諦めざるを得ないか」
     刄・才蔵(陰灯篭・d15909)に肩を竦める烈也。そしてこくりこくりと頷きながら、ゼノビア・ハーストレイリア(レストインピース・d08218)も。
    「ん……でも、このまま富士急さんに、入らせるわけには行かないよね……ちゃんとお話して帰ってもらえたら……嬉しいけど……」
     それになを、雪紗が。
    「……まぁ、単に此処から戦闘場所を移させる事くらいは出来るだろうけどな。何はともあれ……富士急ハイランドに入らせる前に、接触しないとな」
    「そうだな……さて……灼滅演算を始めるとしよう」
     と告げて……そして樹海から通じる富士急ハイランドの入口で、アンブレイカブルの来場を待ち構えるのであった。

    ●戦いの楽しさ
     そして……それから暫しの時が警戒。
     訓練と称したアンブレイカブルが、樹海の方からランニングをする様に走ってくる。
     ……そんな彼の前に、すっ、と立ち塞がる灼滅者達。
    『ん? 何だお前等は!?』
     立ち止まりアンブレイカブルが訊ねると、それに才蔵が。
    「初めまして。私達は貴殿との戦いを強く望んでいる……灼滅者です。お初にお目に掛かります」
     軽く会釈を交す彼。それに一抹の興味を持った様で。
    『ほぅ……灼滅者か。面白い奴らが現われたもんだな』
    「ああ。アンブレイカブル、ちょっと戦わねーか? 人の居ない所でよ」
    「そう。力を試したいのでしょう? ならば、力の無い一般人を大勢相手にするよりも、少数精鋭の俺達と戦う方が修行になると思うんだがな?」
     と烈也、なをの言葉に、アンブレイカブルは。
    『戦う、か。別にいいぜ、俺の力でもよ、戦うなら別にここでも良いんじゃねーのか?』
     そんな彼の言葉に、雪紗、烈也が。
    「いや。人気が無いほうが、何よりボクらが全力を出せるんだ。その方が、そちらにも都合が良いだろう? 本気の相手と戦う方が」
    「そう。ここじゃ思う存分戦えねぇ。向こうの方に戦うのに適した場所がある。そこで殺りあおうぜ!」
     と挑発の言葉を告げる。
     そうすると……。
    『そうかそうか。何だか面白そうだし、俺の力も本気のおめぇらと試してみてえ。よっし、それじゃ行こうぜ!』
     と、笑いながら灼滅者達の申し出を受ける。
     そして灼滅者達は、アンブレイカブルと共に樹海へと向かうのである。

     富士の樹海……磁石の磁針が狂うという、夜ともなれば不気味な雰囲気が漂う場所。
     とは言えまだまだ朝方で、そこまで恐ろしい雰囲気ではない。
     ……そしてそんな樹海の中、戦いやすいと思われる、開けた場所までやってくる。
    「よし……ここでどうだ?」
     と烈也が周りを確認しながら言うと、アンブレイカブルは。
    『ああ。別に俺はどこでもいいぜ? この力を思う存分発揮出来るんならな!』
    「そうか……なら問題無いだろう。とは言え一般人に被害が出したく無いからな……雪紗、頼めるか」
    「ええ」
     なをに頷き、雪紗が殺界形成を使用……周囲から一般人の気配を引き離していく。
     そしてそれに続くように。
    「我は照らす黎明の光」
    「Get Ready……I'm Ready」
    「武装瞬纏」
    「ここならお互い、思う存分楽しめそうだな。さぁ……楽しもうか」
     なを、雪紗、久遠、才蔵らが、次々とスレイヤーカードを解除していくと、烈也が。
    「と、アンブレイカブル。戦う前に一つ賭けをしねぇか?」
    『賭け? 何だ言ってみろ』
    「ああ。俺達が勝ったら業大老の企みを全て話して灼滅されろ! おっさんが勝ったら俺が闇墜ちしてやる! で、どうだ!」
    『ん? ……業大老に逢う為に強くならねーと、前関門も突破できねーんだよ。だからこーして強くなるんだぜ?』
    「……そうか?」
     烈也が……つまりこいつらは弱いんだな、という言葉を飲み込みつつも、気を取り直して。
    「まぁいい。ともかく死合いって訳で始めようぜ!』
    『ああ!!』
     頷き合い、そして拳を握りしめるアンブレイカブル。
     まず先手を取った雪紗。
    「仰角15度に固定。目標の軌道演算……完了。射出タイミング……3、2、1……トリガー」
     スナイパーの命中率で以て、鋭い蛇咬斬で捕縛。他の仲間達は、まずは自己強化を次々と行う。
     そして続くアンブレイカブル……だが、大きい動きで、ディフェンダーの烈也に向けて攻撃。
     拳から繰り出される一撃は、中々のダメージ量……ディフェンダーと言えども、3割程度がごっそりと削られる。
    『おらぁ、どうだぁ!?』
    「っ……これくらいでまけねーよ!」
     ニヤリと烈也は笑み……そしてそれにすぐゼノビアが後方、メディック一からシールドリングで盾アップと回復を付与。
     更に久遠の霊犬、風雪も回復を行い、体力を完全にする。
    「いくぜ!」
     烈也の号令一下で、一斉に動きはじめる……烈也が大きな斬艦刀で斬りかかる。
     が、その攻撃は回避。
    「っ、やっぱり斬艦刀は徹りにくいか……」
    「そうだな。だが……さっきから見ていれば、奴も随分と無駄の多い動きがある。君達の言う『最強の武』とやらは、所詮はその程度なのだろう」
    「だな」
     梗香に頷く烈也。そして続く久遠、ハノンが。
    「俺も修行中の身の上でな。手合わせ願いたい」
    「同じく、と……まぁ、始めるぜ」
     抗雷撃と、DESアシッドで次々攻撃……とは言えこの攻撃は、あえてアンブレイカブルの動きを制限する様に両サイドに攻撃。
     そして……その動きを制限した所で、キャスターのなをが。
    「倒される前に倒せばいい。ただそれだけの事だ」
     と言い放ちながら、フォースブレイク。
     そしてクラッシャーの梗香、才蔵も。
    「確かに早いかも知れないが……お前の拳は軽い。魂を感じない。何故だか解るか? 信念や矜持が込められていないからだ……だから、絶対に負けない」
    「そうだな。俺達の一撃を……食らえ」
     と、黒死斬と神薙刃。
     さすがに動きを制限されている状況では、その攻撃を躱しきることは出来ない。
     クラッシャー効果もあり、ある程度のダメージになるが……さすがはダークネス、まだまだ体力には余裕がある。
    『ほほぅ……まぁ中々強いみたいだなぁ。楽しませて暮れそうで嬉しいぜ!』
    「……目標の戦闘力に依然変化なし。なるほど……流石、と言った所か」
     壮絶な笑みを、雪紗が冷静に分析すると共に、次の刻の攻撃。
     とはいえその攻撃方法は、単純に真っ直ぐに、殴りかかる攻撃のみ。
     有り余る体力で以て、前へ前へ、と進み出て攻撃を続ける。
     勿論、灼滅者達側も……そんな攻撃を受けることになるのだが。
    「大丈夫? ……回復は、任せて」
     とゼノビアと、風雪が回復に傾注することで、重傷に至る前に確実に回復。
     そして……残る灼滅者達は、アンブレイカブルの動きをしっかりと見極めながらも。
    「俺達は、勝つだけが目的ではない。戦いの中に、強さへの道を模索せねばならん。退けぬ理由が、負けられない理由があるのだ……喰らえ、我流・紫電光風」
     と、久遠の閃光百裂拳が決まれば、烈也は抗雷撃。
     なをが轟雷によるホーミングを付加し、ハノンが光刃放出で服破り、雪紗もデッドブラスターの毒を付与。
     次々とバッドステータスの効果が蓄積……ただ、アンブレイカブルも、あまりに溜まりすぎたと考えれば叫び声で解除。
     バッドステータスを解除しながら、一撃一撃の強力なダメージを継続していく。
     そして……最終的に状況を決したのは、1対8の数の差。
     強力なアンブレイカブルも、8人の灼滅者を相手するとなれば……次第に押されていく。
    「……目標脚部のダメージが無視出来ないほどに増大……ふむ。QEDは近い、か」
     冷静な雪紗の言葉に、ゼノビアがこくりと頷き。
    「……なら、ゼノビアも……仕掛ける、ね」
     と、ゼノビアも、ジャッジメントレイによる攻撃。
     その一撃にが、アンブレイカブルの身体を深く討ち貫いた所に。
    「さぁ、覚悟しろ!!」
     ハノンがDESキャノンを放つと、バランスを崩し倒れた所に。
    「私には妹が居るんだ……背負うべき人、守るべき日常がある。だからお前には……絶対に負けない」
     梗香の渾身のバスタービームが、アンブレイカブルの断末魔の叫びと共に……灼滅するのであった。

    ●兵の跡
    「……ふぅ。終わったな」
     汗を拭い、息を吐く梗香。
     灼滅されたアンブレイカブル……その身体が消失すると、静けさに包まれた富士の樹海。
     ホォ、ホォと獣の鳴き声が、不気味に響く……そしてその跡を見つめながら。
    「一人でこの力の付きようですか。アンブレイカブルが一体何故行動を起こそうとしているのか……近い内に、何か大きな事件が起こりそう。そんな気がしますね」
    「そうだな……しかし気付かなかったのか。ただ勝利するだけでは、得られる物が少ないのを。己の中の何を伸ばすべきか……今は精進あるのみ、だな」
     才蔵に頷く久遠。
     そして……後片付けした後、灼滅者達は再び富士急ハイランドへ。
     ……夕方の、楽しそうな声が響いてくるのを小耳に挟みながら。
    「……また、別の形でここに来れたらいいな。学園の皆様と一緒に、ね」
     と微笑む才蔵の言葉に、周りの仲間らはこくりと頷く。
     そして、灼滅者達は、バスに乗って帰っていくのであった。

    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年7月18日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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