アカハガネ、猛暑に倒れる

    作者:御剣鋼

    ●火急の報せ、届く
     学園祭の日が近付き賑わいを見せる校舎を、明るい陽射しが焼き付けるように照らす。
     光を照り返した草木が元気良く揺れ、青々とした空と大きな雲が夏の訪れを告げていた。
     ……そんな中。
    「アカハガネの動向が掴めなかったコトは、ずっと気になっていたんだけど」
     集まった灼滅者達を出迎えたのは、住矢・慧樹(クロスファイア・d04132)。
     彼の後ろには、新しく運ばれて来た石版――イフリート達からの手紙が置いてあった。
    「これを見て、いろいろ納得したというか、まーとりあえず皆も見てくれよ!」
     と、石版の前から引いた慧樹と入れ代わるように、興味津々の一同が目を通していく。
     そこに刻まれてあったのは、間違いなくイフリート達による幼稚な文だったけれど……。

     ――アカハガネサマ ナツバテシテ バタンキュウ シタ。
     ――チカラガデナイノデ ナニカオイシイモノ タベタイキュウ トノコト。
     ――スレイヤータチヘ カキュウノシエン モトム。

    「イフリートも夏バテ、するんだな……」
     思わず遠い空を眺めるように、緑色の双眸を細める、慧樹。
     一部の語尾が可愛らしいことになっているのは、イフリート達なりにアカハガネの言葉を頑張って書き留めようと努力した成果なのだろう。
     しかし、そのまんま過ぎるコレをアカハガネが見たら、余計にプッツンする気がしなくもないが、まあ、怒られるのは灼滅者達ではないので、それはそれでスルーして置くのが優しさなのかもしれない。
    「というか、リーダー級が夏バ……倒れたというのに、クロキバは何をしてるんだ?」
    「イフリート達が代筆したと言うことは、クロキバさんにも何かあったのでしょうか?」
     自由奔放さに弛んでしまった空気が徐々に張り詰めた、その時だった。
     慧樹が補足するように、ぽつりと呟いたのは。――但し、遠い眼差しのままで。
    「俺も気になって、エクスブレインに詳しい解析をお願いしたんだけど、アカハガネは現在『兵庫県・有馬温泉(ありまおんせん)』の源泉近辺に隠れ棲んでいるらしいんだ」
    「なーんだ、有馬温泉かあ〜……ってえええええええっ!!!」
    「えぇっ兵庫県?! 関東から近畿じゃないかあああああ!!!」
     ――アカハガネが箱根に留まっていると、いつから錯覚していたああッ!!
     失礼。どうやらアカハガネ自身も仲間が各地の源泉に移動するタイミングで、一緒に移動していたというのが、エクスブレイン達の見解である。
     この時期に関東から近畿に移動したら、確かに夏バテだってするかもしれない。
    「イフリート達からもお願いされたしさ、様子見も兼ねて皆でアカハガネのお見舞いと、何か美味しいモノでも差し入れしに行こうぜ!」
     勿論、危険があればすぐに撤退するつもりだと添えて。
     そんな感じが無いように見えても、相手がダークネスだということは、決して忘れずに。
     そう、楽しそうに呼び掛ける慧樹に、僕も俺も私もと次々手が挙がっていく――。
    「賛成、夏バテには十分な休養と栄養補給を行うことが大事だっていうよねっ!」
    「昔の暑中見舞いは、夏負けを防ぐ食べ物を土産にしたともいう。其れに似ているな……」
     何を差し入れに持って行こうかと悩む者もいれば、腕を振った逸品をと息巻く者もいて。
    「栄養補給と疲労回復も大事だけど、ゆっくり寝れるようにもしてあげたいねー」
    「他にもいい案があれば、どんどん出していこうぜ!」

     赤き炎獣に届ける、ちょっと早めの暑中見舞い。
     少年少女達の来訪を、配下の炎獣達もきっと首を長くして待っている――。


    ■リプレイ


     暑さに無縁と思われた、イフリート。
     しかもリーダー格のアカハガネが倒れたという報せは多くの灼滅者を驚愕させた。
    「この夏の厳しさには同意しますが……複雑です」
     良く冷えたスイカ2玉入った袋を担ぎ直す、エルヴィラ。
     宿敵を救う事に思う所があるファイアブラッド達も元気を届けようと志願していて。
     また、ダークネスでも夏バテになることに親近感を抱いた者も多く同行していた。
    「ハロー♪ 夏バテ大丈――うわっ!」
     親しみを胸の内に秘めながら、レビは颯爽とアカハガネの住処に足を踏み入れる、が。
     籠りに籠った熱と湿気で持参した冷やし飴と冷やしパインの温度が上昇、一部崩壊ッ!
     天然サウナと化した住処に加えて数十体の炎獣達が視界を埋めている、そんな光景。
    「……本当にヘニョってるの」
     奥には数体の炎獣に守られたアカハガネが力無く床についていて。
     美海がクーラーボックスから出した保冷剤を額に乗せると、まさにリアル焼け石に水。
    「……是は食えんぞ。冷てぇから気持ちは良いが」
     良く冷えたトマトを齧りながら紋次郎も野菜袋から保冷剤を取り出す。
     自身の額に乗せて使い方を実演するけれど、少女が触れただけで溶けてしまった。
    「だいぶ、熱が篭っちゃってるね……」
     泰河が見回すと、人間形態なのはアカハガネだけ。
     とりあえず、頭が少し上になるように横にさせると、調理の支度に取り掛かる。
    「夏なんてなくなれ、太陽爆発しろ」
     ジャージ姿で汗だくのアイスバーンは既に半グロッキー。
     コンビニ袋を持ったまま倒れ伏す光景は、刑事ドラマの惨劇に似たモノがあった。
    「よっぽど疲れていたのかもしれませんね」
     負傷者(?)を収容しつつ、真は大型テントを設置していく。
     炎獣達の体調も考慮して、中には寝袋、タオル、団扇、水が複数用意してあった。
    「大きな石を冷やしておいて寝床にするんはどうやろ?」
     冷やしたゼリーを片手に閃いた采も行動を開始する。
    「庚、サボるの禁止だよ」
     大きめの黒い布とビニール紐で日除けを作っていたのは、与四郎。
     庚も荷物持ちのツケを返そうと出来るだけ陽を遮れるよう布の端を紐で結んでいく。
    「……おーいアカハガネ、生きて――っ!」
     アヅマが果物で作ったシャーベットを匙で掬った瞬間、パクっと消える甘味。
     敵同士と言いますか、食べ物が絡むと更に油断出来ない気がするのは何故だろう。
    「見るからに……暑そうだもんなぁー……夏バテもするわな」
     蓮は苦笑を洩らしながらも愛用のソルティライチを作り始める。
     甘くて塩分も取れる。夏バテにもピッタリの逸品だ。
    「で、体温は下げればいいん? それとも上げるん?」
     視界を埋めるのは、高温のもふもさ集団……。
     その暑苦しさに【人情長屋「ゑ°」】の枢は眉を寄せつつ、生姜入りの甘酒を振舞う。
    「夏バテによさそうな物を持ってきましたが……」
     今の状態では固形物は辛いだろう。
     美乃里はトマトと果物類をしまうと、簡単に作れる卵酒の調理に取り掛かる。
    「米は食せるようだな」
     エリスフィールもお伽噺の魔女が使いそうな大鍋で鶏肉入りの卵粥を作り始めていて。
     住処の風通しは悪くなかったが、涼もうとする炎獣達で風穴はほぼ詰まっていた。
    「美味しいものを一緒に食べて、懐かせ……いえいえ、親睦を深めましょう」
     持参したたい焼きと和菓子にも目移りしていた菊乃も癒しに取り掛かる。
     自作の濃厚しそジュースを取り出すとアカハガネの枕元に腰を下ろした。
    「イフリートの体温なら直ぐに温まりそうだが、なんとかなるか」
     良く冷えたレモネードをアカハガネの口に運ぶのは【びゃくりん】の咲哉。
     さっぱりした味わいに吐息を洩らす少女をセカイが膝枕し、向日葵と陵華と協力して同時に清めの風を送った。
    「早く元気になーれ♪」
     向日葵の掛け声と共に涼やかで清らかな風がアカハガネを包み込む。
     けれど、サイキックの使用意図と異なる症状だけあって効果は期待出来そうになく。
    「でも、多少は涼しい気分になるんじゃないか?」
     通り掛かったアレスも同様の事を試みるけど、やはり効き目は見られない。
     応急措置として凍らせたスポーツドリンクを砕き、枕元に供えた。
    「有馬温泉は避暑地ともされてるそうですが、それでもダウンとは」
     真琴も先に身体を冷やそうと凍らせたペットボトルを脇の下に挟ませ、セカイも少し大きめの団扇で心を込めて優しい風を送る。
    「毛の間にも熱が籠ることがあるので、ブラッシングとかで熱を逃がしてみましょう」
     悠花にわしゃわしゃして貰い気持ち良さそうに瞳を細める、霊犬のコセイ。
     実演を交えた悠花の熱の逃がし方は炎獣達に大好評で獣集りが出来ていて。
    「今回皆が持ってきたもの求めて人里に降りるな」
    『ワカッタ、ミンナニイウ』
     意外にも素直に応じる炎獣に陵華は自分達に言ってくる分は構わないと付け加えた。


     灼滅者達の『涼』は隠れ家の隅々に及んでいた。
    「シンプルですが、涼しい気分になれると思いましたので」
    「鉄に陶器にガラスに真鍮に竹、いろんな素材でいろんな音色が楽しいよ♪」
     涼しげな音で暑さを紛らわせようと沙月と茜を中心に持ち寄ったのは風鈴。
     実際の暑さは変わらなくてもちょっとした小道具があるだけで涼しい気分に慣れるもの。
    「元気になって下さいね」
     夏を乗り切るとっておきだと華月も硝子の風鈴をアカハガネの側に吊す。
    「そういうところは真似出来ないわね」
     短冊の部分には手書きのアカハガネの似顔絵が描かれている。
     沢山の金魚が泳ぐ風鈴の音に夏が苦手な有栖も瞳を細めて。
     繊細な音色に炎獣達も耳を傾け、暑い夏を乗り切る日本の知恵にレビも何度も頷いた。

    「消化に疲れても意味無いので最初はスープにしましょう」
    「暑気当りしている人に固形物や刺激の強いものってきついんですよねぇ」
     飲み物等で応急措置を施して環境を整えると、いよいよ食事療法へ!
     由布は食べやすく切った夏野菜を鍋に入れると小料理屋の手付きで味付けを施していく。
     流希も栄養価が高く口にしやすいもので食欲を取り戻そうと冷製スープの仕込みに入った。
    「これで少しでも元気になってくれれば良いんだけど」
    「スッと口に入る卵酒なども如何でござろうか」
     最初に固形物が入ると胃腸の負担も大きいはず。
     水とお湯で調整した冷やし飴を銀麗は徐々に温かくして少しずつ飲ませる。
     ハリーの生姜が効いた卵酒を最後に飲むと体も温まってさらに食欲も向上されて。
    「倦怠感、思考力低下、食欲不振、と。絵に描いたよーな夏バテだわ」
     アカハガネを診察していた【戦戦研】の瑞穂がすくっと顔を上げる。
     この調子で栄養を取って暫く安静にしていれば、問題なさそうだ。
    「何かスタミナが付くモノでも食べさせればいいのかしら?」
     治療の見当が付かないのは狭霧も同じ。
     人間の治療法なら掃いて捨てる程あっても、イフリートの生態は未知数だ。
    「それにしてもこんなに人が集まるとは……」
     クーラーボックスから凍らせたおしぼりを出した矧は、さりげなく周囲を観察する。
     炎獣が住処に選んだだけあって、灼滅者でも余り長居出来ない環境だ。
    「そこのイフリート! これでアカハガネを扇いでやりなせえ!」
     娑婆蔵が炎獣に団扇を咥えさせた瞬間、ボッと燃えて灰になる。
     そして次は鉄の風鈴を押し付ける攻防戦(?)を繰り広げていて。
    「ミイラ取りがミイラにならないように、ってね」
     暑さと湿気で辛そうな人には悠がスポーツドリンクを配っていた、そんな中。
     アカハガネの寝床近くに小さな日本庭園を作っていたのは、フォルケ。
     仕上げにナイフで細工した竹と近辺の岩を合わせると、鹿脅しが完成。
     煩くなく。心地良く耳に響いて眠れますように――。
    「はい、できあがりだね。どうぞ」
     皆で作った夏野菜と鶏肉のカレーを七葉は器に盛り付け、アカハガネに振舞う。
     夏でも辛くて美味しい逸品に羨ましげな炎獣達に、ヴァイスが声を掛けた。
    「良かったら一緒に同伴して貰いたいのだが?」
    『オオ、イイゾ!』
     皆で一緒に食べるのも美味しさのスパイス♪
    「ところで何故移動したんだ?」
    『イッカショニアツマル、ヨクナイ』
     豚肉とレバーを金串に刺しながら尋ねる切丸に炎獣は好意的に答えてくれて。
     視線だけは切丸の手元から中々離れてくれなかったけれど……。
    「アカハガネさん、お味はどうですか?」
     翡翠が時間を掛けて煮込んだスープはお腹に優しい味わいで。
     しっかり味が染み込んだ具材にアカハガネも舌鼓を打つように首を縦に振った。
    「べ、別に公然とモフれると思っていないぞ!」
     他に誰か倒れてないか見回っていた紗矢は炎獣をブラッシング中。
     不可抗力だと言いながら毛並みに埋もれていたのは笑顔だった。

    「これで少しはマシになるといいんですが」
     アカハガネに霧吹きを吹き掛けながら、桐人はひたすら団扇で扇いでいて。
    「ペットの餌付けか妹の世話をしてる気分だな」
     同じく扇ぎ続けていた嘉哉も周りの炎獣達に団扇で扇ぐコツを教えていく。
     桐人も近くの炎獣達に団扇を配り、手伝って欲しいと呼び掛けた。
    「冷たいものは大丈夫?」
     自分でも食べながら竹緒が作っていたのは、昔ながらのカキ氷。
     カップに盛った氷に苺シロップを掛けたものをアカハガネは少しずつ口に運んでいく。
    「種類もまだまだあるでござるよ」
     絢花はメロンやブルーハワイのシロップを掛けたカキ氷を振舞っていて。
     ハンカチで包んで脇に挟んでいた保冷剤は熱を帯びて熱くなっていた。
    「お代わりも沢山ありますから」
     優雨が作った鹿児島風のカキ氷は氷の冷気が漂い見た目も涼しげで。
     たっぷり盛られたフルーツと練乳の甘味に、アカハガネは自ら匙を取った。
    「……梅飴もおいしいですよ」
     徹は梅飴を1個食べてみせると同じものをアカハガネの手に握らせる。
     食欲が湧いた少女に嘉哉もフルーツゼリーを薦めた、その時だった。
    「これを一気すれば皆安心してくれるっす」
     仮にもリーダーならばとギィが薦めるのは黒酢1Lパック。
     炎の幻獣種の意地で飲み干した少女に蜂蜜入りの黒酢ゼリーを手渡した。
    「ね、それ僕も味見させて貰っても良い?」
     グレープフルーツとサイダーのゼリーを配っていた結季も黒酢ゼリーに興味津々。
     自分達も夏バテになったらいけないと屁理屈を籠めてギィにせがむ。
    「手作りなので甘いですよ?」
     恋人の手前、御都は皮肉を籠めて塩飴を笑顔で差し出す。
     早く元気になって殺し合いましょうと告げると、アカハガネも鼻で嘲笑う。
    「動物っぽいから玉ネギとかチョコは与えたら駄目だよね?」
     生きたままのウナギが入った桶を紫王がそっと枕元に置こうとした時だった。
     アカハガネが一言『タベレル』と、言葉を発したのは――。
    「炎の幻獣種だから暑さには強……夏バテには辛いものが良いって聞いたから」
    「さぁこれを飲むのです!」
     すかさず大量の唐辛子を濃縮したホットドリンクを持って来たのは、水織。
     璃理の手作りフルーツジュースからは、ドリアンとハバネロ臭が……。
    『アジミガサキダ』
    「え?」「え……」
     覇気を取り戻しつつあるアカハガネに揃って言葉を失う水織と璃理だった。


     アカハガネの周りには栄養価が高い食べ物や飲み物が所狭しと並んでいて。
     破竹の勢いで灼滅者達が腕を掛けた逸品から漂う香りに炎獣達も色めき立っていた。
    「地元もんで揃えた関西名産セットや、美味いで!」
     ご当地名産を腕を掛けて振舞うのは【Chaser】。
     炎獣達の炎を借りて明石焼きを振舞う悟の手元を陽桜が神妙な顔で観察していて。
    「わかった! ……こーかなぁ?」
     悟に教えて貰いながら陽桜もくるくると面白そうに回していく。
     奈良土産の柿の葉寿司を振舞っていた戒も手伝いを買ってくれた。
    「ふふ、俺たちの分も準備してますよ」
    「ちょ、菓子だけでえぇねん茄子は嫌や!」
     茄子を悟に押し付けた想希も陽桜には黒豆と抹茶をそっと並べる。
     悟も皆で焼いた明石焼きに茄子をそっと混ぜ、健の水切り素麺に乗せた。
    「食の愉しみで猛暑を吹き飛ばそうな!」
     有馬温泉のある兵庫県は健のご当地県!
     ご当地特産の淡口醤油仕立ての付け出汁と共に威勢良く振舞っていく。
    「美味いだろ?」
     柿酢入りのサイダーを瞳を輝かせてごくごくと飲んだ陽桜に戒は笑みを向ける。
     想希も泉州の水茄子で作った茄子漬けと水羊羹の詰合せを周りに薦めていた。
    「こう見えて甘いもの好きと見た!」
     二重に断熱したクーラーボックスから周が素早く取り出したのは、クリーム餡蜜。
     続けて取り出した牡丹肉は炎獣達へカシオリ代わりに手渡してご挨拶。
    「ふおーー!」
     清めの風もとい人力扇風機に全力で団扇で風を送るのは【琥珀館】のかなめ。
     初子もドライアイスの冷気を使って風を送らんと試みていて。
    「今回は本当に見舞いに来た程度なのでな」
     治す事に集中しないと普段出来る事もまともに出来なくなってしまう。
     そう労った流人は果物や野菜が沢山詰められたバスケットをアカハガネに渡す。
    「沢山、沢山食べて、元気に、なって下さい」
     その隣で何度も頷いていた初子からも両手一杯の果物の差し入れを受けて。
    「いろいろ……作りました、よ……♪」
     薬膳料理ベースの中華スープを持ってきたのは【うさうさくらぶ】の瑞央。
     柔らかく煮込んだ鶏肉に漢方や薬草、野菜がたっぷり入っている。
    「瑞央ちゃん頑張りましたの」
     さっぱりとした塩味に部長の永遠も舌鼓を打った。
    「アカハガネちゃん、大丈夫……?」
    『スコシラクニナッタ』
     団扇で扇ぎながら謳歌は仲間が持って来た食べ物を匙で口に運んでいく。
    「これ、おにぎり、食い物。うまうま」
     ウナギのお握りを2つ持ってきたリンは1つを手渡し、もう1つは自分が口にする。
     アカハガネも他の差し入れと一緒にお握りを食べれる回復っぷりを見せていて。
    「ウナギは美味しくて体力つくですよ、夏バテも吹き飛びます!」
    「まずは日本の夏の定番、ウナギの匂いをご堪能あれ!」
     雪緒が用意した蒲焼きは、ちょっと高めの本格品。
     蒲焼きを七輪に乗せた清十郎が団扇で扇ぎ、まずは香りのお届け。
     病み上がりに近い体にもタレの香りは魅力的で直ぐに喰らいついた。
    「夏といえばウナギだけれど」
     高校生には高値(?)の花。
     同じ栄養価のアナゴでみとわが作ったのは、ひつまぶし。
     少しでも元気になってくれたらとさらり食べれるように工夫してあって。
    「やっぱり食べて元気を付けないと!」
     自分と名前が似ているのもあって前から会ってみたかったまるみは張り切っていて。
     持参したうな重に梅干しが乗っていたのは御愛嬌♪
    「調子が悪いときはバナナンが一番ヨ!」
     ンーバルバパヤが持ってきたバナナの横に赤兎の桃缶とパックのウナギの蒲焼きが並ぶ。
     ゴーヤーチャンプルを用意した牙羅も大皿に珍しいフルーツを色鮮やかに添えた。
    「継ぎ足しを重ねた秘伝の出し汁で煮た姫路おでんは格別だよ」
     アカハガネの気を引こうとイナリは手始めに周りの炎獣達に薦めていく。
     美味しい匂いに釣られたのか直ぐに声が掛かった。
    「はい、あ~ん」
     冷汁につけた冷やしうどんを優衣はアカハガネの口に運んでいて。
    「あ、駄目だよ! これ、アカハガネさんの……!」
     炎獣達と揃って唾を飲み込んだ名草は我に返ると慌てて団扇をパタパタと動かす。
    「あとで一緒に食べましょうね♪」
    「え、ほんと?」
     優衣の笑みに素直に喜色満面となった名草を炎獣達は揃って煽てたのだった。
    「い、一応聞くけど、あ、あーんする?」
    『シテモラエルトタスカル』
     トマトと肉味噌のピリ辛麺を持って来た樹は何処か震え声で。
     リーダー格を前に、どうにも緊張が取れずにいて……。
    「どれも夏バテにはピッタリだよ!」
     アリスエンドの料理は白い御飯に納豆と刻みネギ、山芋を掛けたもの。
     おかずに豚肉とほうれん草の炒め和え、冷奴というスペシャルメニュー!
    「食べられるようでしたら召し上がって栄養をつけてください」
     アリスも作ったばかりの新鮮な手料理を振舞う。
     冷製ポタージュにローストビーフ、ウナギのソテーも美味しそう。
     ……と、その時だった。
    「わたくしも特製スタミナ料理を振舞わせて……あ、お嬢様何を!」
     名状し難い料理を振舞おうとしたミルフィをアリスは全力で引き止める。
    「紅ショウガは乗せますか? 1つ味見してから決めても結構です」
     フィズィは冷やし中華に紅ショウガを少しだけ乗せてみせて。
     アカハガネは直ぐに平らげて山盛りをせがんだ。
    「淡泊な味も悪くないだろ」
     陽己の手料理は麦飯の上に出汁で伸ばしたとろろを掛けたシンプルなとろろ飯。
     食感に変化を持たせようと入れた刻んだカリカリ梅が絶妙の逸品だ。

    「焼くのヨロシク!」
     持ち寄った食材で【ひとかげの輪】が始めたのは小規模のバーベキュー。
     日方が切り分けた夏野菜の一部には「ゲンキニナレヨ」と文字が刻んであって。
    「点火を手伝って貰っていいですか?」
    『イイトモ!』
     鞴の頼みに快く応じたイフリートが力強く熱を放つ。
     焦げないように火が通った瞬間を見極め、百舌鳥が金串を刺していく。
    「焼けるモノは何でも持ってこーい!」
     BBQ将軍を命じられた慧樹は焼けたモノからドンドン振舞っていて。
     食欲が戻ってきたアカハガネも炎獣達との食事を楽しんでいる様子。
    『コレハナンダ?』
    「元気になる食べ物です、美味しいですよ?」
     アカハガネの視線がトロトロのマシュマロに留まる。
     ゆまが先に食べてみせると、自重せずポンポン口に放り込んで?!
    「甘いのも辛いのも大丈夫みたいですね」
    「これからも暑さは厳しくなるし、何時でも呼んでくれな?」
     アグー豚と南国フルーツを盛りつけていた美咲はこっそり持ち込んだ辛味をチラリ。
     炎獣達の飲み物が揃って沸騰する光景に百舌鳥は小さく吹き出してしまう。
    「戦わずにいられるならそれもいいのかしら……」
     少し離れた所で羽衣は冷やしていた小玉スイカを切り分けていて。
     この先の関係が素敵なモノに変われるよう、願いながら――。
    「お肉ラバーな方にコチラもおススメしますの」
     ストレリチアも炎獣達の火力を借りて冷しゃぶを振舞っていて。
     さっと湯に潜らせた豚肉を冷やし、ゆずポン酢を付けるだけで頬が蕩けそう。
    「口に合うかどうかわかんねーっすけど」
     夏バテには夏野菜と辛いモノが効果的!
     トマトやナス、カボチャの夏野菜盛り沢山のカレーライスを蓮司も皆に振舞う。
     全体的にスタミナ料理が多く、果物が盛り沢山となった住処はまるで南国のよう!
    「アカハガネ、大丈夫、今度から、木の陰、休ませる」
     喫茶店バイトの腕を生かしたビシソワーズを振舞うのは、秋夜。
     何か変わった事がないか尋ねると炎獣達は『コトシ、トテモアツイ』と不満を洩らす。
    「ちょいと休めばすぐに治るって。どっしり構えてな」
    『アリガトスレイヤー』
     頭が倒れると不安になるのは分かる。
     野菜をサラダ風に刻んでいた庚も炎獣達に労いの言葉を掛けていた。


    「イフリートさんも一緒にどう?」
     アカハガネを扇ぎながら涼みに誘うのは【Rabbit hutch】の稲葉。
     気分的にも涼しめるようにブタ型蚊取り線香も傍らに置いてある。
    「みんなで一緒に飲みましょう」
     集まった炎獣達に蒼慰は蜂蜜で甘めにしたペパーミントティーを振舞う。
     一息ついていたアカハガネには酢味噌和えを薦めた。
    「そーごさんもお一ついかがです?」
    「あ、アリスくれるの? ありがとー」
     アカハガネを元気付けようとアリスが持ってきたのは蜂蜜とハーブで漬けたレモン。
     濡らして当てると熱を下げるタオルで介抱し続けていた蒼護は嬉々と振り向く、が。
     当てる一寸もふろうとしたら、キツク睨まれてしまった。
    「……あれ、それ、いぬの使ってた竹マット?」
     麺つゆに練り梅を溶かした素麺を霊犬にも振舞おうとした織音の目が瞬く。
     心なしかグッタリしていた霊犬の頭をアリスは優しく撫でた。
    「皆さんも夏バテしては大変ですし、ご一緒に如何ですか?」
     取り巻きの炎獣達には【星葬剣】のヴァンも優しく声を掛けていて。
     和メイド服姿の優希那と柑橘系の果物で作ったジュースを配っていく。
    「あれっ? そっち系でした!?」
     若干チョイスを間違えたと恥じる智恵美の手には地元兵庫県のぼっかけ煮。
     甘辛な香りに惹かれていた炎獣達の姿に瞳を弛ませたヴァンも給仕を買って出た。
    「フルーツトマトにキュウリに豚肉を入れてみました、皆様もどうぞ~ですよ」
    「サクラコのはストレートに冷やす方向ですねい」
     智恵美がメインなら、優希那の差し入れは簡単に食べれるピタパン。
     サクラコが重そうに引きずってきたクーラーボックスから出て来た氷菓とシャーベットに優希那の瞳は輝いていた。
    「ナツバテ キク ウマイ!」
     作り立ての豚肉のミョウガ巻を正流は食べ易く切り分けていく、が。
     片言で喋り続けたせいか闇墜ちしそうな気分……。
    「手が止まってますよ」
     隣でシャーベットを盛りつける律希の声に振り向いた正流が見たのはッ!
    「や、お似合いですよ♪」
     猫耳カチューシャを付けた相棒の姿に速攻で理性を取り戻す正流でした。
    「ほかのイフリートさんもどうぞ」
     紅葉が大きな重箱から取り出したのは、手作りのフルーツゼリー。
     続いて竹の葉で包んだウナギのお握りと梅タレ付けの鶏の唐揚げを並べていく。
    「あなた方も倒れたら、この子は今以上にばたんきゅーしちゃうわ」
     唯も星型フルーツを乗せたブルーマロウのゼリーを振舞っていて。
     冷たいモノばかり食べちゃだめよ、と一言添えながら。
    「他に頼れる相手はいなかったのか?」
     久那妓もアカハガネの看病がてら近くを通る炎獣に声を掛けていて。
    『ホントハネテレバナオッタ』
    「?」
     返って来た言葉に久那妓が疑問を抱いた、その時だった。
    『グオオオンッ!』
    『アジミアジミ!!』
     どうぞと言われたら自重しませんイフリート、危うし差し入れ――!!

    『『ウ ル サ イ!!』』

     地面を蹴って飛び出したアカハガネが勢い良くハルバートを旋回。
     隅に織り重なった炎獣達に溜息を洩らして足早に寝床へ……。
    「「叫んで走って戦えるじゃねえかああ!!」」
    『タタカイニナツバテ、カンケイナイ』
     灼滅者達の総ツッコミを一刀両断する、アカハガネ。
     まさに火事場の馬鹿力、有事の際は不調でも問題なく戦えるらしい。
    「……貴方達も、夏バテしないの?」
    『ネテレバナオルケド、アツイトバテル』
     美海の問いに炎獣達はアカハガネと同様の言葉を返す、と。
    『デモ、キテクレテアリガト』
     揃って礼を述べたのだった。

     スパイシーなキーマカレーを炎獣達にも振舞うのは【一軒家】の昴達。
     美味しそうに食べる様子に黒斗はさらに親近感が湧いて。
    「これ、すっごく美味いぜ。辛いの平気なら食べてみろよ!」
    「ちゃんの特製カレーだよ、はいあーん」
     声を出すのは少し辛そうなアカハガネに黒斗は先に自分の分を口にする。
     視線から気分を読み取った真心も匙ですくったカレーを口元に運んであげた。
    「アカハガネの分まで食うなよ!」
     美味しそうに食べる仲間に昴の脳裏に過った思考も打ち消されて。
     揃って美味いと誉められた昴も嬉しそうに摘み食いに混ざる。
    「皆で食べれば、きっといつもより元気になれますよ」
     スパイスの香りで食欲も大増進!
     新鮮な夏野菜を沢山使ったカレーを【あかいくま】は灼滅者にも振舞う。
     香りが行き届くよう嘉月が寸胴鍋をかき混ぜると、炎獣達も集まってきた。
    「冷たいトマトを沢山持って来たのですよー、ゆで卵も食べて下さいですー」
    「オレも食べたいなぁ……あ、おかわりもたくさんしてね!」
     野菜は全てふぁーむ産。
     月夜が源泉で作ったゆで卵を1個ずつ手渡し、ときも配膳の手伝いを買って出て。
     温泉たまごもカレーに相性良く、沢山のオカワリが集まった。
    「ソコ! シッカリ列に並びナサイ!」
     ドラム缶の如く巨大な寸胴の前で一喝したのは、ローゼマリー。
     アデーレと一緒に温めたじゃが芋沢山の辛口スープカレーに炎獣達は行儀良く並ぶ。
    「炭酸水は血流による酸素循環を活性化して体を元気にするんすよ」
     真心も炭酸水で薄めて飲むフルーツドリンクセットの詰め合わせを配っていて。
     清十郎もお気に入りの茶器で淹れた御茶を希望者に振舞った。
    「一口サイズにすればアカハガネもバッチグー」
     周りの炎獣達に殊亜は果物の剥き方を指導していて。
     ナイフを器用に操る殊亜に炎獣達も見よう見まねで爪や牙を振っていた。
    「いい? お引越しした時は引越し蕎麦だよ!!」
     これを食べなければ引越ししたとは言わせないと力説する、旭。
     夏バテに効く薬味を添えると食後の蕎麦湯を薦めるのも忘れません!
    「自分達でもどうにか出来るよう、知識を身に付けて貰うからな!」
    「こーいう時こそビシっとして安心させるくらいの態度取らないとダメだぜ」
     未来と銀都は夏バテのメカニズムや対策を教えようとする、が。
     頭が良くない炎獣達は早々に差し入れの方へ戻ってしまった。
    「しかし、美味いなこれ」
    「美味しくできていると、いいのですが……もぐもぐ」
     リュック一杯に詰め込んだれうの蜂蜜漬けレモンを竜武は味見と称して摘み食い。
     一緒に摘み食いしていたれうは炎獣達への差し入れは忘れず、香りだけでもとアカハガネに籠に入れた生レモンを届ける。
     睡眠と体力回復の重要性を説いた竜武も冷えたシートを手渡した。
    「柑橘系のジュースやスポーツドリンクも混ぜてみたんだ」
     志命がクーラーボックスから出したのは、ブロックアイス。
     溶ける様子まで楽しむ炎獣達をすっきりした表情で眺めていて。
    「お金にうるさい副団長が珍しく奮発してくれたね」
     仕入れた天然物のウナギを華麗に捌くのは【武蔵野幕府】のいろは達。
     飲み物を沸騰させる炎獣達も手に取るだけでホカホカの美味しいウナギに大満足!
    「中々食べる機会もありませんから、俺達も一緒に食べましょう」
     手隙になった太郎と奏も天然物の味わいを思う存分堪能し始めて。
     周りを見回すと様子見を兼ねた御見舞いは夏の清涼祭と化していた。
    「っ、ざけんじゃねぇ――っ!!」
     追加の混ぜご飯を作っていた在雛は思わず悲鳴に近い叫び声をあげる。
     灼滅者の分、つまり倍になった現実!
    「何時もより息が荒くなってる人はいませんか?」
     アイスを配りながら銀静は調子を崩している者が居ないか見回していて。
     気力を取り戻したアカハガネも大食ぶりを見せつけていた。

    「おれも食いたいからはんぶんこな!」
     トカゲの丸焼きを持ってきたのは【アルニカ】の源太郎。
     ハチの巣から取れた蜂蜜とハチノコはアカハガネもいける口のよう。
    「アジの冷やし茶漬けもどうぞ!」
     敬厳が自信満々に用意したご飯の上には新鮮なアジの切り身。
     薬味をたっぷり乗せて冷たい出汁を掛けたそれは敬厳の家庭の味でもあって。
    「無理しないで、ゆっくり体を休めてね」
     食欲が出るようにめいこはビタミン豊富な果物の盛り合わせを。
     種なしブドウにイチゴとグレープフルーツ、彩りも良く食べやすい。
    「無理のない程度に食事を取ると良い、涼しい所でゆっくり休むのも大事だな」
     慕ってくれる仲間の為に早く元気になれと律はヨーグルトを差し入れる。
     めいこの果物と一緒に食べると更に味が引き立った。
    「夏はまだまだこれから長いですから」
     少しでも日持ちするものをと檀が選んだのはドライフルーツと梅干。
     栄養価高い差し入れをアカハガネも珍しそうに口にする。
    「少しでも気分転換になってくれると良いのだけれど」
     くるみはアロマグッズを用意していて。
     気怠い時はペパーミントのアロマオイル、安眠効果があるラベンダーのお香は就寝用に。
    「夏場は水分補給も休憩も大事だよ」
     千鶴が淹れたハーブティを飲んだアカハガネは落ち着いた様子で頷く。
     何でも出て来るクーラーボックスを不思議そうに眺めていた。

    「至って平穏ですね……」
     問題を起こす者がいないか見廻りに徹していた政義は安堵の息を吐く。
     しいて言うなら見た目怪しい青カツ丼を持参した永遠に注意をしたくらいだった。


     差し入れの振舞いが落ち着いた頃を見計らって炎獣達に声を掛ける者もいる。
     アカハガネや仲間に危害を加える者がいなかったのもあり、至って好意的だ。
    「ろくに塩分補給してねぇだら。塩とれ、塩!」
     あずみの野沢菜と信州の粉を使ったザル蕎麦の売れ行きも絶好調!
     浅間山にも仲間がいるか尋ねてみると炎獣達は『シラナイ』と口を揃える。
    「この事態に動かないとか……何か不詳の事でも生じてるんだろうか?」
    「仲間想いの方だなって感じがしたので……」
     優志とあずさは話が分かり易そうな炎獣にクロキバの動向を聞いていて。
     同じことを考えていた謳歌も側で耳を傾けている。
    『ネテレバナオルカラナ』
     ……それなら動く必要もないだろう。
     3人は揃って苦笑を洩らしたのだった。

    「にしても暑いの駄目だったら箱根にいりゃいいのに……あと北の方とかさ」
    「温泉の源泉だとかって暑い事この上ない気がするんだが。移動しないのか?」
     団扇で煽ぎながら世間話を交えるレイシー、柑橘類を並べながら梨依音も尋ねる。
    『アツイノイガイ、キニイッテル』
     2人の似た質問にも炎獣達は気前良く返事を返してくれて。
     采が側近がいないか訪ねると『ココニハ、アカハガネサマダケ』と答えた。
    「おれらにアカハガネさんがころされちゃうかも、って不安は無かったの?」
    「今の彼女の状況……僕達以外の誰かに教えたりしましたか?」
     存在を疎ましく思っている者なら、この機会を逃さないはず。
     大文字と星流に声を掛けられた炎獣は、しかし鼻で嘲笑うだけで。
    『ナツバテシテモ、タタカエル』
     本気になればこの場の灼滅者を壊滅出来ると告げられたのも同じ。
     1体で複数の灼滅者と張り合える炎獣にとって未だ弱者に見られるのも無理はない。
    「皆さんってもふもふ出来るんでしょうか? もふもふさせて貰えるんでしょうか?」
    『ジブンキニシナイ。ケド、イヤガルノモイル』
     真剣そのものに尋ねた紫桜里に炎獣は人と同じく個体差があると付け加える。
     つまり、きちんと許可を取れば……。
    「触り心地気になるヨー」
     炎獣達にバナナを配り歩いていたンーバルバパヤも気になる様子。
    「噛まれるかもしれないわよ」
     瞳をぱっと輝かせた華月に有栖が淡々と注意を促した。
    「うふふ、モコモコ~グゥ……」
     ローゼマリーとカレーを温めていたアデーレも途中で食べる側に回っていて。
     満腹のまま炎獣に抱きついて、お休みタイムへ。
    「アカハガネさんも、もふもふさせて貰えないかなぁ」
     ちょっと邪なことを思いながら夕月はひつまぶしのお握りを握っていく。
     炎獣達も巻きたての海苔の感触を楽しんでる様子。
    「困っている時はお互い様だな」
     見た目も涼しいように浴衣を着たラシェリールが持って来たのは、素麺。
     周りをよく見ると、涼しそうな流し素麺の台が完成していた。
    「冷やしすぎは身体に毒っちゃ、温かいくらいが丁度いいんっちゃ」
     体が疲れないように神楽は温かいかぼすジュースを薦めていて。
     炎獣達が元気ないと自分達も調子が出ないから、と――。
    「キミたちイフリートは人間と共存できると信じてる」
    「悪いことはしない方だと信じていますから……」
     米麹の甘酒を配りながら【貧乳部+α】の樹咲楽は積極的に話し掛けていて。
     夏バテに効く食材で一番お薦めの純豆腐を振舞っていた氷柱も深く頷くけど。
    『ダークネストニンゲン、ズット、キョウゾンシテキタガ』
     炎獣達は不思議そうに顔を見合わせる。
    「アカハガネが何時頃倒れたのか、分かりますか?」
     徹の質問には『アツクナッテカラ』と安定ぶりを発揮。
     水や雪の幻獣がいるか尋ねるかなめには『ソレ、イフリートチガウ』と首を傾げた。

    「こうするとふっくらするうな♪」
     ウナギの着ぐるみ姿で蒸し焼きを披露するのは【文月探偵事倶楽部】の空。
     一部の炎獣が空にヨダレを垂らすハプニングもあったけど、それはそれで御愛嬌♪
    「うりゃぁああああ!!!」
     全力で直哉が漕ぐ自転車と繋がっていたのは、まさかの夏の必需品扇風機!
     勿論、電源は無し。人力頼みのそれをクロネコ着ぐるみ姿の直哉が気合で漕ぐのみッ!
    「ふれーふれー♪」
     そんな猛者の横でレミが踊りながら送風していて。
     これ以上酷くなることがあるのか炎獣達に尋ねると『ネレバ、ダイジョウブ』と答えた。
    「皆元気がいいもんねー、お大事になんだよ」
     アカハガネを撫でようとすると『アツイ、サワルナ』と拒絶されて。
     毬衣は取り巻きの炎獣達も纏めて大きな団扇で涼しい風を届けることに専念する。
    「涼しいって、正義だね~♪」
     日本舞踊風の創作ダンスを披露してグッタリなミカエラも一緒に涼んでいて。
     そんな状態でもヒマワリ着ぐるみのミカエラの横には直哉も転がっていた。
    「夏バテになったことないものでー。ふむ」
     仲次郎は長袖の学ラン姿なのに至って平静そのままで。
     今自分が出来ることをしようと、着ぐるみの人達に保冷剤を配り歩く。
    「ビタミンとミネラルを豊富に取れますよ」
     十分な栄養と水分補給には食事療法が1番!
     寧々は枕元にチキンスープの椀を添えると心配そうにアカハガネの顔を伺う。
     寝床も整えられ、美味しいものを満喫した少女の顔色はかなり良くなっている。
    「今日だけのことか、というとそうとは限りませんわ」
     決して手抜きではないと、桐は有馬温泉の湯を差し入れる。
     現地調達の重要性を説くと、スープの横にそっと肉まんを置いた。

     子守唄のような優しい歌声を披露していた聖も暑い夏を吹き飛ばす元気な歌声を響かせる。
     歌声に合わせて体を動かす灼滅者達、アカハガネも楽しそうに歌を口ずさむ。


     ――ダークネスに慈悲を送るのは、如何なものか。
     けれど、助けを求められたら無視は出来ないと全員が声を揃えていて。
     アカハガネに元気になって欲しい、それが少年少女達の総意だった。

    『コレハ……』
     起き上がったアカハガネの周りには幾つもの置き土産が積み重なっていて。
     次の日も食べれるよう、クーラーボックスにも新鮮な食材が沢山入れられていた。
    「今度会う時は敵同士だったとしても、私は後悔しないわ」
     それでも、こういう関係が続くのなら――。
     そう微笑む華夜にアカハガネは『ベンリダカラナ』と素っ気なく返す。
    「良かったら、また来ても良いですか?」
     結唯の願いにアカハガネは珍しく考え込んで……。
    『クルノハカッテダ』
     純粋に見舞いに来た気持ちが伝わったのか、警戒心が少し溶けたようにも見えて。
     以前は住処に入っただけで敵意を剥けた少女の声が灼滅者達の耳に柔らかく響いた。

    作者:御剣鋼 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年7月26日
    難度:簡単
    参加:170人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 22/キャラが大事にされていた 48
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