「これでよし、と」
案件の処理を終え、彼は時計を見上げる。間もなく6時だ。
佐々木忍。この「月が丘学園高等学校」の生徒会長を務める彼は、人呼んで「鉄の男」。
学園の秩序と風紀を守り、全ての生徒に清く正しい学生生活を送らせるべく、日夜心血を注いでいる。
公明正大で誰よりも己に厳しい彼は、人望も厚く、教師生徒、男女を問わず学園の皆に尊敬される存在。
「会長さぁん♪」
と、自分だけになったと思っていた生徒会室に女子生徒の声。
「その声は……確か……」
少し前に転入してきた生徒で、かなり特徴的な子だった。
「私のこと覚えてますぅ? アリスティーヌ橘ですぅ。この間は学園内を案内して下さって有り難うございましたぁ」
「いや、学園にはもう慣れ――なぁっ!?」
「おかげさまでぇ♪」
アニメかゲームに出てきそうなキャラだな。芝居がかった甘ったるい口調や、日本人離れしたスタイルの良さを目の当たりにした時の、佐々木の第一印象だ。しかし今は「出てきそう」どころではなかった。
「遅くまで頑張ってる会長さんの為にぃ、差し入れを持ってきましたぁ♪」
どこか扇情的な微笑みを浮かべながら、佐々木に歩み寄るアリスティーヌ。彼女はエプロンドレス(スカートの丈は短く、しかし黒のサイハイソックスが絶妙な範囲の絶対領域を形成している)姿だったのだ。
「……そ、そ、その格好はなんだ?!」
「うふっ。メイド好きでしょ、ご主人様ぁ?」
動揺を隠す様に、厳しめの口調で告げる佐々木だったが、相手は意に介することもなく……息がかかるほどの距離に最接近。
「な、なぜそれを知って……」
「好きな人の事は何でも知りたくなっちゃうの。表向きはこんなに立派な会長さんなのに、裏では萌えアニメやギャルゲーでブヒブヒ言ってるなんてね」
「ち、違う……あれは……違うんだ……」
「でも、大丈夫。私たちだけの秘密だよ。お・に・い・ちゃん♪」
「ほ、本当か……だったら……も、もう一度……お兄ちゃんって言ってくれ……ダメなお兄ちゃんを罵ってくれえぇぇー!!」
そう、佐々木忍――彼は重度の隠れオタだったのだ。
「ヴァンパイア学園の蠢動についてはご存じかしら? ヴァンパイアの学園『朱雀門高校』から全国各地の高校に転校生を送り込み、その学園を支配しようとしている様ですの」
早速説明を始めたのは、有朱・絵梨佳(小学生エクスブレイン・dn0043)。
ヴァンパイアは強力なダークネスであり、現時点で完全に敵対するのは余りにリスキーだ。しかし、と言ってこのまま学校が支配されてゆくのを黙ってみている訳にもいかない。
「『学園内での生徒間トラブル』という事であれば、戦争に発展する事もないでしょう。貴方たちにも、月が丘学園へ潜入して頂いて、その学園内でヴァンパイアによる支配を阻止して頂きたいのですわ」
ヴァンパイアの名はアリスティーヌ橘。狡猾でグラマラスな女だと言う。
「長いのでアリスと呼びますわ。彼女は月が丘学園の生徒会長である佐々木忍を籠絡し、弱みを握って自分の傀儡……操り人形とするつもりですの」
そのまま生徒会を掌中に収め、校則を緩め、生徒や教師を籠絡してゆき――最終的には学園を支配する。それが彼女の狙いだろう。
「我々としては、これを未然に防がなくてはなりませんわ。その為には、生徒会長である佐々木忍……なんだか難儀な趣味をお持ちらしい彼を、アリスの魔手から守る事ですわね」
佐々木は真面目で正義感が強く、成績優秀かつスポーツ万能の生徒だが、様々なあざとい萌えをこよなく愛しており、しかしその事を誰にも知られたくないと思っている。
彼にとって萌えは救いであり、同時に弱みでもあるのだ。
「アリスはその両面を突いてくる様ですから、貴方達も生徒会室に行き、彼女の目論見を妨害して下さいませ。……どうするかって? そ、そうですわね……例えばアリスより高い萌力で悩殺すると同時に、趣味を隠したり恥じる必要はないと説得する……とか」
本当にそれしか手は無いのかとツッコミたくなる所だが、絵梨佳が提示したのはその作戦だけだった。
さて、アリスは自分の計画が意図を持って妨害されていると気づけば、邪魔者である灼滅者を実力で排除しに来る可能性が高い。
しかし向こうもあくまで学園を支配する事が目的であり、もし灼滅者達を倒してもそれが達成出来ないと悟れば、無理に戦いを継続する理由は無くなり、手を引くだろう。
逆に、どちらかに死者が出るような戦いをすれば、勢力間戦争の引き金になりかねないし、こちらとしてもその事態は避けねばならない。
「何とか彼女の計画を阻止し、手を引かせるべく全力を尽くして下さいまし」
アリスはレイピアの様な細剣を用い、ダンピールと同様の技を使う。1人であってもその力量は高く、単純にぶつかり合えば五分五分の死闘になるだろう。
「……まぁ、そう暗い顔をなさらず。こちらにとっても、都合が良いこともありますわ」
まず、アリスは佐々木を利用したがっている為、殺害する気がないと言う事。加えて佐々木の前で本性を現したくないと思っている事。この2点から、佐々木を戦闘に巻き込む心配は要らないだろう。
また、学校は既に放課後なので、目立たない場所で戦うならば他の生徒を巻き込む事もなさそうだ。
「くどい様ですけれど、学園からヴァンパイアを退かせる事が作戦の目的ですわ。簡単な任務ではないけれど、貴方達の力に期待させて頂きますわ。頑張ってくださいまし」
学園を守れなかった場合、そしてヴァンパイアを灼滅してしまった場合も作戦は失敗となる。失敗が度重なれば、取り返しの付かない事態を招きかねない。
そうならない為にも、全力で事に当たって欲しいと念を押し、絵梨佳は激励と共に灼滅者達を送り出すのだった。
参加者 | |
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タシュラフェル・メーベルナッハ(夜の誘い子・d00216) |
佐藤・司(高校生ファイアブラッド・d00597) |
葛葉・有栖(紅き焔を秘めし者・d00843) |
篠原・小鳩(ピジョンブラッド・d01768) |
メルキューレ・ライルファーレン(春に焦がれる死神人形・d05367) |
ミヒャエル・ヴォルゲムート(デスコーディネーター・d08749) |
漣・静佳(黒水晶・d10904) |
天倉・瑠璃(食人姫・d18032) |
●
月が丘学園高等学校は、関東某県の都市部に存在する私立高校である。歴史は比較的新しく、生徒の自主性を重んじる校風だ。
制服のデザインの良さと、著名な建築士による洒落たデザインの校舎が人気を博し、少子化の現代においても受験者の数は多い。
また、生徒の自主性尊重の象徴として、生徒会の権限は他校に比べてもかなり強い。生徒会長や役員を誰が務めるかによって、学校のカラー自体に影響を及ぼす程だ。
それ故、ヴァンパイアのアリスティーヌはこの高校に目を付け、生徒会長の籠絡を目論んだのだろう。
「これでよし、と」
現在の生徒会長である佐々木忍。役員達が帰った後も案件の処理に追われ、ようやく仕事を終えたのが6時。この後コンビニでおにぎりかサンドイッチを買い、その足で進学塾に通うのがいつもの彼のスケジュールである。
「会長さぁん♪」
「その声は……確か……」
席を立ちかけた彼に、甘ったるい声色で呼びかける者がある。数日前に転入してきた女子生徒の名前を、忍が口に出しかけたちょうどその時
――バンッ!
「私のこと覚え――グハッ!」
「忍!」
勢いよく開く扉。アリスが吹き飛んだのも構わずに、一直線に忍へと駆け寄る葛葉・有栖(紅き焔を秘めし者・d00843)。
「おわっ、ちょ……」
「一緒に帰ろうよ!」
「……有栖か、解ったから抱きつくのはよせ。お互いもう小学生じゃないんだから……」
一瞬面食らった忍だが、腕にしがみついてにっこり笑う有栖を見て、彼女が幼なじみである事を思い出す。ラブフェロモンの影響だろう。
「誰かに見られでもしたら思わぬスキャンダルに――」
――ガチャッ。
と、そんな話をしている最中に再び開く扉。慌てて有栖を引き離す忍。
「ん? いやー、まさか人が居るとはね」
生徒会室に姿を現したのは、豪奢な純白のドレスに身を包んだミヒャエル・ヴォルゲムート(デスコーディネーター・d08749)。
「なっ……なんだその格好は……っていうか、男子……だと……?」
「おぉーっ」
状況が飲み込めない忍と、再びその腕にしがみつきつつガン見する有栖。
「てっきり誰も居ないと思ってたけど、まぁ、人に見られて困るものでもないしね。趣味は人それぞれだし、誰かに迷惑を掛けているわけでもないからね」
「趣味?! そ、そう言う問題では……! 風紀の問題もあるし、第一……校内では学校指定の制服をだな……」
「似合っていないかい?」
「い、いや……似合っては、いるが……見た目だけなら女子に見えるくらいには……うん、かなり綺麗だ……」
悪びれる様子も無いミヒャエルに、忍はあくまで生徒会長としての見解を示す。
だが、自信も人に言えぬ秘密の趣味を持つ忍。これほど自分の趣味をオープンに出来るミヒャエルに対し、羨望にも似た感情を覚えているのも確かで。
「お兄ちゃん!」
再びドアが開かれ、飛び込んできたのは天倉・瑠璃(食人姫・d18032)。
こちらも一直線に掛けてくると、にこっと笑って忍の顔を見上げる。
「早く帰って一緒にゲームしようよ、今度は絶対負けないんだからねっ!」
「お兄……ちゃん……だと?!」
雷に打たれたように硬直する忍。
(「待て、落ち着くんだ……俺に妹は居たか? こんなに可愛くて俺に懐いてて一緒にゲームをしてしまう様な、そんな妹が居るなど……いや、有り得ない。俺はこれまでずっと一人っ子として生きてきた。親は既に40代。俺は妹を得る権利を失った哀れな男なのだ……俺に出来る事は来世に賭ける事しか……いや、待て……だとするとこの子は何だ? 妹ではない、だが俺をお兄ちゃんと呼んでいる。妹でなくて妹である者、それはつまり――『血の繋がっていない妹!?』」)
この時、忍に電流走る。
(「有り得ない話ではない。よしんば血が繋がっていたとしても、異母兄妹ルートや生き別れルートなど、多くの道がまだ存在していたではないか。全ての道は妹に通ず、だ。ラノベ風に今の俺を表現するなら『高校生の俺に突然リアルの妹が出来たんだが』と言ったところか……」)
拳を天に突き上げ、人生に一片の悔いも無いかの様なポーズを取る忍。頬を溢れる涙が伝い落ちる。
「良いぜ。だけど、お兄ちゃんは強いぞ? 負けてベソかくなよ」
「瑠璃だって一杯練習したもん! ぎゃふんと言わせてやるんだから!」
妹を得た余りのうれしさに、もはや正常な判断は出来なくなっているのかも知れない。ただ、兄としての振るまいは数多のシミュレーションによって身体が覚えている様で、ごく自然に振る舞っている。
「会長さんが頼れるお兄様だと聞いて来てみたのだけど……ふふ、想像以上ね……♪」
「っ……き、君は?」
ふと気づけば、会議用の机に腰掛けて微笑む少女の姿。
タシュラフェル・メーベルナッハ(夜の誘い子・d00216)は、腰を上げるとゆっくり忍へと歩み寄る。その都度、豊かな胸が揺れて否応なく忍の視線を釘付けにする。
(「見える……見えるぞ……たゆんたゆんと言う効果音が俺にも見える……」)
「お兄様、妹のどこを見ているの?」
「いっ! いや、別に……その……って、妹だと?! 元気系の妹だけでなく、ロリクールで巨乳の妹までもが!? 俺は伏龍のみならず鳳雛をも得てしまったと言うのか!?」
「ロリ? あら、こう見えても私16歳なのよ。ほらぁ、ここもいっぱい育ってるんだから……♪」
「ぶはっ!?」
有栖が抱きついているのとは反対側の腕に、ぎゅっと胸を密着させるタシュラフェル。
幸福の余り、忍の魂がヴァルハラへ召されかけたその時――
「お兄ちゃん……私という者がいながら、余所の女の子にデレデレするなんて……」
いつからそこに居たのか、やはり月が丘の制服を纏った少女が一人。表情は影に隠れているが、こちらを見る眼光は極めて鋭い。
「この世で1番お兄ちゃんのこと判ってるのは私なのに……」
足音もなく、ヒタヒタと忍に歩み寄るのは篠原・小鳩(ピジョンブラッド・d01768)。
「この感じ……ヤンデレ妹か!?」
忍も数多の妹ゲーをこなしてきた百戦錬磨の猛者。一瞬にして小鳩の属性を見抜く。
「やっぱりお兄ちゃんには私が付いてないとダメだよね? お家に帰ったらお兄ちゃんのお部屋に鍵を取り付けて、外に出れないようにしなくちゃ♪」
「ま、待て……落ち着くんだ……落ち着いて話し合おう」
肩を小刻みに揺らして笑う小鳩を、なだめるように説得する忍。
「これからは付きっ切りで一緒にいるね? ふふふ、ずーっと2人きりだよ?」
「あぁぁぁ……知ってるこれ、バッドエンドだけど考えようによってはハッピーエンドの奴だこれ……」
小鳩に抱きつかれ、何の抵抗も出来ない忍。彼は割とヤンデレも好きな様だ。
「よう、委員長」
「えっ? 君は……?」
ハーレム状態の忍の前に、唐突に現れた男子。佐藤・司(高校生ファイアブラッド・d00597)。
彼もまた、忍へズンズンと歩み寄る。恋のライバルか、それとも? 思わず緊張感に固唾を飲む忍。
――ダンッ!
「びくっ!」
忍をやや強引に壁際へ追いやると、両手を突いてじっと見つめる司。
「……煩いお嬢ちゃん達と遊ぶより俺と遊ばないか?」
「えっ……!? そ、そんな事……急に言われても。だってボクたち、男同士だし……」
まさかの急展開。頬を赤らめ、視線を逸らす忍。
「あらあら、お取り込み中だったかしら、生徒会長?」
「れ、漣?! いや、違うんだこれは……決して幼なじみと妹に抱きつかれて鼻の下を伸ばすハーレム系作品の主人公みたいな事になって、あまつさえ男子にまで言い寄られて思わず新たな路線を開拓しそうになったりなど決してしていないんだ!」
プラチナチケットによって、忍の同級生に扮する漣・静佳(黒水晶・d10904)。忍は我に返り、慌てて弁解し始める。
「生徒会長、いつもカッコイイけれど、そんな姿も素敵、よ。最近女性の間で『ギャップ萌え』が流行り、なの」
「……っ!? ギャップ萌え……そうか、ギャップに萌えるのは男だけでは無いと言うのか……」
「最近の流行りを、手堅く押さえて、他の生徒の見本となっている、のね。流石、生徒会長、だわ」
「あ、あぁ。そうだとも……そうさ、ボクは生徒会長だからね。全生徒の模範にならなければならない……」
賞賛する静佳の言葉に、取りあえず乗っかってゆく忍。
あくまで生徒会長としてのキャラは死守せねばならないと考えているのだろう。
「そうやって自分の好きなことを隠して生きていくのって、窮屈じゃないですか?」
「っ!?」
パタン、と読みかけの本を閉じ、眼鏡のズレを直しつつ立ち上がるメルキューレ・ライルファーレン(春に焦がれる死神人形・d05367)。
「き、君は……本ばかり読んでて存在感が薄いが、いざ口を開いたら物語の核心に振れて来るタイプの謎多き図書委員!?」
さすがの忍、突然フェードインするメルキューレの役どころも立ちどころに見抜いてみせる。
「世の中にはいろいろな趣味の人がいますし、隠していくよりももっと堂々としている方がきっと素敵ですよ」
「……っ」
「誰もそのようなことで会長を幻滅したりしませんから」
メルキューレの言葉を聞いて忍が顔を上げて生徒会室を見回せば、ミヒャエルが穏やかな笑みを浮かべて頷く。幼なじみ、そして妹達も同様だ。
「私、オタクなお兄様の事も大好きよ? きっと他の生徒さん達もそう思ってるわよ♪」
と、穏やかな笑顔でタシュラフェル。
「そ、そうか……有り難う皆。そうだよな。ボク……いや、俺は間違っていたよ。三次元だってこんなに萌えに溢れているんだ。三次元の萌えから目をそらし、背を向けるなんて……俺はバカだったよ! これから全力で作り上げて見せる! 全生徒が萌え萌えでハッピーな学園生活を送れる、そんな学園をな!」
ぐっと拳に力をこめる忍。
「その意気よ、忍!」
「そうだよお兄ちゃん! 多分学校内にもお仲間さんが一杯いると思うよ!」
弱点を克服し、逆に強さへと変えた忍。灼滅者達も安堵の表情で、彼を讃える。
こうして、月が丘学園はカミングアウトした忍のもと、萌えに溢れる学園へと変貌を遂げてゆくのであった。
めでたしめでたし。
「ち……ちょっと待ちなさいよぉ……人の存在を完全に無視して好き放題やってくれちゃってぇ。貴方達とはしっかり話をつけないとダメみたいねぇ……」
頭を抑え、フラつきながらも言い放つのはアリスティーヌ橘。
「(あ、居たんだ……)……忍に本性見られたくないなら場所移さない?」
「えぇ、望むところよ」
小声で提案する有栖に、アリスも頷く。
「そうとなったら早速プランの立て直しだ! うおぉぉぉぉ、燃えて――いや、萌えて来たぜぇぇぇ!!」
幸い忍は、萌え萌え学園への野望へ向け、再び机の書類に集中し始めている。灼滅者とアリスは、密かに生徒会室を後にする。
●
「どこの誰だか知らないけどぉ、私の計画を邪魔して生きて居られると思わないで欲しいわぁ」
体育館裏。アリスは灼滅者達を見回し、殺気を隠そうともせずにそう言い放つ。
「出来れば貴女とは一戦を交えたくはないよ。ここは、貴女の美しさと、この薔薇に免じて引いてくれないかな?」
一輪の紅いバラを差し出し、敵意が無いことを示すミヒャエルだが――
――ヒュッ!
細剣一閃、バラの花は切り落とされてハラハラと舞い落ちる。
「ヒロインは常に一人。この私だけで十分よぉ!」
舞い踊るような流麗なステップで、一気に肉薄するアリス。レイピアの切っ先が灼滅者達を正確に襲う。
――キィン!
「なにっ?!」
一瞬のうちに邪魔者を始末するつもりで襲いかかったアリスだが、その攻撃がことごとく受け流され、回避された事に思わず声を上げる。
「美しい太刀筋ね。さすが、一流のヴァンパイア、かしら」
「……」
「以前、貴女よりも全然美しくないヴァンパイアが、別の学校に転校してきた話を知人に聞いたの知り合いかしら? どこから転校してきたのか、教えて下さらない?」
「何の話? っていうかぁ……アンタ達、只者じゃ無いってわけね。一体何者なの?」
静佳は相手を褒めつつ、情報を引き出そうとするが、アリスもまた灼滅者達に探るような視線を向ける。
「私たちが戦うことに、意味はありますか?」
各々の得物を手に、一分の隙も無く構える灼滅者達。メルキューレも例外ではなく、大鎌を手にしつつ、しかし穏やかに問いかける。
「オレは戦っても良いが、どっちに死人が出ても、大騒ぎで学園支配どころじゃないだろうな」
「そう言うこった」
こちらもナイフを手にしつつ、言い放つ瑠璃。司もシールドを構えてにやりと笑う。
「……まぁ良いわぁ、確かにここでアナタ達を倒したとしても、あの生徒会長さんを操り人形にするのは難しくなっちゃったしぃ。旗色も良くないわぁ……今回に関しては私の負けね」
アリスはそんな一同を見回すと、ふっと吐息を零しつつレイピアを鞘に収める。
「でも覚えておいて。私は負けたまま引き下がるほど素直な女じゃないからぁ」
負け惜しみなのだろうけれど、さすがにヴァンパイア。凍て付くようなプレッシャーと共にそんな言葉を残すと、踵を返す。
「僕はミヒャエル・ヴォルゲムート、さようならアリスティーヌさん、またお会いできるといいね」
恭しく一礼しつつ言うミヒャエルに、鼻先でフンとだけ返すと、アリスはそのまま立ち去る――
「どわっ!?」
かと思われたが、つまずいて派手に転ぶ。
「ぐっ……バーカバーカ!!」
慌てて起き上がると、振り向いて灼滅者達に向かってそう叫び、今度こそ立ち去っていった。
「うわー、あざとい。でも意識的にやる『あざとい』より無意識に出る『あざとい』の方がいいと思うよ!! 良く分からないけどっ」
と、自身もあざといと言われた経験を持つ有栖。
「……あざといっつーのも需要があるからって事なのかね? 俺はもっともっと奥ゆかしいお嬢さんのが好みだけどな!」
司は腕を組みつつ、うんうんと頷く。
「忍さん、私たちが居なくなって寂しがらないと良いんですけど」
「きっと大丈夫だよ。私たちみたいに可愛い妹があれだけ背中を押したんだからね」
少し心配そうに呟く小鳩と、笑顔で応える瑠璃。
幼なじみや妹が居なくなってしまっても、きっと彼は絶望する事なくやっていけるはずだ。何より大事なことに気づけたのだから。
「さて……一件落着ね。帰りましょうか、この制服ちょっと胸がきついわ……」
制服の胸元を気にしつつ言うタシュラフェル。やはりあざとい。
かくして、灼滅者達は月が丘学園を後にする。
この学校が今後どうなっていくのか気になるところではあるが、ともかくヴァンパイアの魔手からは逃れたのである。
めでたしめでたし。
作者:小茄 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年7月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 12/キャラが大事にされていた 2
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