●カチコミ
売れない武闘派アイドルのジャッキー・リンは世にも珍しい、顔を出さないアイドルである。
常にフルフェイスのヘルメットをかぶり、鍛え上げられた体の美しいラインを強調するライダースーツは、へその辺りまで大胆にジッパーを下ろし、演舞にも似たダンスで観客を魅了する。
そんな彼女の素顔を見られるのは、ファンクラブの会員だけである。が、未だ会員名簿に名を連ねる者はいない。
というのも、ファンクラブに入会する為には、彼女とタイマンを張って勝利しなければならないのだ。しかし、ヘルメットの向こうの素顔を拝もうと挑んだ者達を、ジャクリーンはことごとく薙ぎ倒してしまい、ついぞファンクラブ会員の座を勝ち取るものは現れなかった。
今宵のストリートライブの終了後にも、恒例行事とも言えるファンクラブ入会試験が行われようとしていた。
が、この日の試験はいつもと様子が違った。
「ジャッキー・リン! 覚悟ォ!」
一番手に名乗り出た男が、ナイフを取り出してジャッキーに突撃したのだ。
ジャッキーは不意の強襲に舌を打ちながら、ナイフを持つ男の手首を脇に抱えて突進を受け止める。
「武器を持ち出したってこたぁ――」
もう片方の男の腕も脇に抱え、ジャッキーはカンヌキで極める。
「――それなりの覚悟はできてるんだろうなァっ!」
ジャッキーはそのままブリッジで反り返り、受身を許さぬ高角度のスープレックスで男を叩き付けた。
「やれやれ、せっかくの趣向が台無しだな。ファンクラブ会員第1号の手で殺してやるのもオツなものかと思ったが」
大仰な溜息をつきながら、長い髪を後ろで束ねた男――否、ソロモンの悪魔が人垣を割って進み出る。それに合わせて悪魔の部下達が、ジャッキーを取り囲む。更に、ジャッキーに投げ飛ばされた男も平然と立ち上がって包囲網に加わった。
「今日のライブは妙に知らない顔が多いと思ったら、そういう事か。これは一体何のつもりだい?」
「裏切り者に、裁きを下しにきたのだ」
「裏切りだぁ? はん、覚えがないね!」
「貴様と問答をするつもりなどない。死をもってアモン様に詫びるいい!」
有無を言わさず、男達がジャッキーに飛びかかる。
「何ぼーっとしてるんだ! お前達はとっとと逃げな!」
呆然と立ち尽くしていたファン達に鋭く叫び、ジャッキーは襲い来る男達を迎え撃つ。
最初の1人2人は殴り飛ばしてジャッキーは抵抗するが、その奮闘も長くは続かなかった。一度取り付かれて足が止まると、背中を刺され、脇腹を刺され、群がる男と血の海に沈んでいく。
「ふむ。首は切り落として、その素顔を晒してやるとしよう」
意識が薄れゆくジャッキーが最期に聞いたのは、悪魔の哄笑だった。
●悪魔と淫魔と
「また、ラブリンスター配下のアイドル淫魔が狙われているようだ」
神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)は、複雑な表情で切り出した。
「下手人はアモン勢力残党のソロモンの悪魔。先の不死王戦争での裏切りに対する報復という名分で、強化改造を施した一般人の部下を伴って淫魔を襲撃するという、ここ最近の淫魔襲撃事件と同様の動機と手口だ」
淫魔にとっては、言いがかり以外の何物でもない。ダークネス同士の争いではあるが、悪魔の側に義がないのは間違いないだろう。
「このソロモンの悪魔の灼滅を頼みたい。襲撃される淫魔を助けるか、共倒れを狙うかの判断はそちらに委ねるが、いずれにせよソロモンの悪魔を灼滅する絶好の機会であることには違いない」
合理性か、使命か、或いは情か。灼滅者が戦う理由が問われる。
「ソロモンの悪魔は強化された一般人6人を引き連れ、夜間のアーケード街でストリートライブを行っていた淫魔のジャッキー・リンを襲撃する。ソロモンの悪魔はキャスターのポジションから魔法使いのサイキックと、縛霊手のサイキックを使用する。部下は全員クラッシャーで、使用するのは解体ナイフのサイキックだ」
周囲にジャッキーのファンである一般人がいるが、これはジャッキーが戦闘が始まる前に退避するよう命令を出す。とはいえ、ファンでない一般人も多くいる為、一般人を巻き込まない為の対策は用意しておくべきだろう。
「ジャッキーはライブ終了後、ファンクラブ入会試験と称してファンと1対1の喧嘩を始める。ダークネスがどれだけ手加減しようとも一般人の力の差は明らかであり、これはこれであまり見過ごせないものではあるが、今回に限っては最初の挑戦者が悪魔の部下だ。放っておいても一般人に怪我人が出る心配はない。とりあえず、ライブが終わるまではソロモンの悪魔に手を出すなよ。介入するのはこの部下の男がジャッキーと対峙してから、もしくは悪魔達がジャッキーを倒した直後だ」
ジャッキーを助けるか、否かの選択を迫られる。灼滅者達の中で意見を統一させておく必要がある。
「ジャッキーは淫魔らしからぬ好戦的な性格の持ち主で、恐らく戦わずに逃げるように指示しても従わないだろう。そうなったらジャッキーはお前達を攻撃はしないにしても、協力することもない。そして自分の身が危うくなったら、お前達を置いて逃げ出すだろう」
共闘を持ちかけた際に話を上手く進められなかった場合も、同じような状況になるだろう、とヤマトは付け加える。
ジャッキーを助けるつもりなら、彼女の性格を考慮して、介入のタイミングや説得のしかたにも気をつけるべきだろう。
「ジャッキーは戦闘の際はクラッシャーのポジションにつき、基本戦闘術に加えてストリートファイターのサイキックで戦う。……淫魔の筈なんだが」
ポジション変更など灼滅者の指示に従ってくれるかどうかは、説得の成否次第だ。最悪、ジャッキーと一戦交えることになる可能性が0でないことも、留意しておくべきだろう。
「ジャッキーが一般人を助けようとする場面が見られるかもしれないが、これはあくまでファンであり即ち配下候補者であるからこその対応だ。ジャッキーは淫魔であり、ただの人間であれば目の前でくびり殺されても眉一つ動かさない、ダークネスであるということは忘れるなよ」
喜んで人を殺さない分だけマシではあるが、ともヤマトは付け加える。
「ジャッキーを助けるか否か、よく考えた上での選択であれば、俺はそれを受け入れる。ソロモンの悪魔を倒し、無事に帰ってきて、お前達の出した答えを聞かせてくれ」
参加者 | |
---|---|
風音・瑠璃羽(散華・d01204) |
瑞希・夢衣(笑顔をなくした少女・d01798) |
小碓・八雲(リスクブレイカー・d01991) |
佐竹・成実(口は禍の元・d11678) |
クレイ・レッドフッド(赤ずきんさん・d15359) |
焔野・秀煉(鮮血の焔・d17423) |
渚・汀(高校生魔法使い・d18203) |
菊水・靜(ディエスイレ・d19339) |
●がぴょー
「死をもってアモン様に詫びるいい!」
「何ぼーっとしてるんだ! お前達はとっとと逃げな!」
悪魔と淫魔が怒号を発する。
がぴょー! という強烈なハウリング音が炸裂したのは、その直後の事であった。
「あぁ、哀しきかな! 如何に彼女が腕に覚えがあろうとも、多勢に無勢! 彼女はこのまま襲われてしまうのか! 此処で起つ者は居ないのか!?」
「にゃあ!?」
拡声器越しの芝居がかった渚・汀(高校生魔法使い・d18203)の声と、その大音量に驚いた風音・瑠璃羽(散華・d01204)の悲鳴がアーケードを響く。
「びっくりした! 凄くびっくりした!」
「否! 居るだろう、この時こそ起つべき者が! そう、アイドル一人助けられずして何が灼滅者か!」
胸に手を当てちょっぴり涙目な瑠璃羽は割とスルーで、汀が口上を続行する。
仲間である瑠璃羽でさえ度肝を抜かれたのだ。ジャッキー・リンやソロモンの悪魔達が呆気にとられ、動きを止めるのも無理からぬ事である。
「うん? 救助の文字はない? そこはノリと勢いって事で。ま、ともかく」
人垣を割りつつ前に出た汀が、派手に地面を踏み鳴らす。
「こういう時こそ我らの出番と言うもの! さぁさ、声を上げませい!」
その場にいた全ての者の視線が汀に集中した、その瞬間だった。
瑞希・夢衣(笑顔をなくした少女・d01798)がジャッキーの正面に立っていた悪魔の配下に音もなく接近する。夢衣は跳躍から上体を捻転させ、杖としては極端に短く暗器の様相を呈しているアイアンロッドを握り込んだ拳を逆水平に振り抜く。
インパクトの瞬間、ロッドから配下の男の胸へ押し込まれた魔力が炸裂し、男をぶっ飛ばした。
夢衣は両足を揃えてトン、と着地してから、表情を変えぬまま小首を傾げる。
「えっと。隙だらけ……だったから?」
ようやく我に返った悪魔が、忌々しげに顔を歪める。
「武蔵坂の生徒ども……!」
小碓・八雲(リスクブレイカー・d01991)が殺界形成を使い、足を止めていたギャラリーが悪魔達から距離を取り始めた。
未だ状況を測りかねているジャッキーに、佐竹・成実(口は禍の元・d11678)が声をかける。
「貴方は降りかかる火の粉を払う、私達はあのソロモンの悪魔をどうにかしたい。利害は一致するのだけど、この場は一緒に戦って頂けるかしら?」
「……なるほど?」
フルフェイスヘルメット越しのジャッキーの表情は窺えない。一応頷きはしたものの、まだ完全に信用はしていないさそうだ。
「やはり、繋がっていたか」
呟いた悪魔の左腕が変質する。キチン質の装甲が幾節もせり出し手から胸まで覆うその様は、巨大な百足さながらだ。
配下の男達もナイフを構え、動き出す。その出鼻を挫いたのは、八雲が腕輪から射出したディス・ゴッサマーだった。
「アモンを殺したのはオレ達であって、アンタ達が狙われるのはただのとばっちりだ。
八雲が放ったワイヤーは配下の男達を突き穿ちながら鋭く折り返し、檻を形成して男を捕える。
「何をしている! まずは内通者を殺せ!」
「内通? 否や、この状況を見過ごせなかっただけのこと」
静かに否定した菊水・靜(ディエスイレ・d19339)が、結界糸に囚われた男の前に立つ。靜は鬼神変を発動させると同時に、背中を見せるほど異形へ変じた腕を大きく振りかぶった。
「はァッ!」
結界ごとぶち抜く靜の豪腕の一撃が、男をぶっ飛ばす。
苛立たしげに唸りながら自ら前に出た悪魔が、ジャッキーを狙って左腕をかざし、光弾を射出する。
光弾がジャッキーに迫る。瞬間、ジャッキーの視界を覆う赤い影。
直後に光弾が炸裂する。爆煙の中から現れたのは、ジャッキーの前に立つクレイ・レッドフッド(赤ずきんさん・d15359)だ。
「戦場に出る者は死を覚悟しているはずだ。覚悟もなく戦場に出たのならばそいつはただの阿呆だ」
「アモン様を愚弄するか! 売女どもの裏切りさえなければ――」
「――気に入らねぇな」
悪魔の怒声を鼻で笑って遮ったのは焔野・秀煉(鮮血の焔・d17423)だ。
「ダークネスはどいつもこいつも気に入らねぇ。でも、一番気に入らねぇのは、てめぇの不甲斐なさを他人のせいにして言いがかりつけて、周りに当り散らすアホ共だ!!」
秀煉の背中から噴出した炎が翼を象り、その加護の炎で灼滅者達を包む。
「筋を通せねぇ奴等に容赦はしねぇから覚悟しな!」
吼える秀煉に配下の男が襲いかかる。それを、横から飛んできて前宙からの踵落としを叩き込んで阻んだのは、ジャッキーだった。
クレイがジャッキーにそうしたように、それは明確に灼滅者を守る意図を持った一撃だ。
「筋を通す、か。いいぜ、そういう考え方は嫌いじゃない!」
配下を蹴り飛ばし着地したジャッキーが灼滅者達を振り返り、宣言する。
「あの勘違い野郎を張っ倒すっていうあんたらのその話、アタシも乗った!」
この場限りの局地的、一時的な物ではあるにせよ。
灼滅者と淫魔の同盟が、ここに成った。
●灼淫同盟
配下がナイフを振るい、その剣圧が渦巻く刃となって飛び灼滅者達に襲いかかる。
即座に成実が展開したシールドリングを盾にしつつ、灼滅者達が散開した。
仲間達が配下を抑えに回る間に、瑠璃羽はジャッキーの隣でサポートについた。
「ソロモンの悪魔の悪巧みには私も我慢できないんだよね。少しジャッキーさんのお手伝いさせてね」
「へえ、至れり尽くせりってわけだ!」
ジャッキーに先行する形で、瑠璃羽が駆け出す。狙うは悪魔の前に立って行く手を阻む配下だ。
配下がナイフを振るい風の刃を飛ばすと、瑠璃羽は迷わず加速してその真只中に飛び込んだ。
頬を浅く切り裂かれようとも、瑠璃羽は構わず最短距離を駆け抜ける。刃の暴風を突き抜けた瑠璃羽は、そのまま配下に体ごとぶちかましを仕掛ける。
「無茶をする! 思い切りのいい嬢ちゃんじゃないか!」
「これくらい平気! 行って、ジャッキーさん!」
瑠璃羽は配下を押し退け、悪魔への道を作る。同時に瑠璃羽が切った黒龍雷刃剣の鯉口から、電光が零れる。
瑠璃羽は配下に肉薄したまま、刀身を紅蓮に染めた黒龍雷刃剣を手の中で回して逆手に握り、袈裟懸けに振り下ろした。
「行くぜ焔玉!」
霊犬の焔玉を伴って秀煉が飛び出す。
焔玉が瑠璃羽の一撃を受けた配下の後ろに回り込み、両の拳を打ち合わせた秀煉が挟撃する。手の甲から噴き出す炎を纏ったWOKシールドが、秀煉の拳の前面に展開される。
「義理も不義理もわかんねぇ奴等は熨斗つけてまとめて灼滅してやんぜ!!」
背後から飛びかかる焔玉の斬魔刀が、配下を弾き飛ばす。その先に待ち構えるは、前後に広くスタンスを取り、拳を強く引いて構えた秀煉。
「おぉぉおおおらァッ!!」
渾身のフルスイングからブチ込むシールドが、爆炎を撒き散らして配下をブッ飛ばした。
悪魔が低く唸りながら、異形の左腕でジャッキーを突き飛ばす。
「ジャッキー!」
悪魔が追撃を狙って飛びかかると、成実がすぐさまシールドリングを飛ばす。
シールドリングを拳に添えて迎え撃つジャッキーは重心を落とし、
「テメェは勘違い野郎だが、強ぇのは認めてやるよ。……だが!」
迫る悪魔の左腕をショートアッパーでカチ上げ、
「拳が軽いッ!」
更に踏み込み悪魔の喉元に肘打ちを抉り込んだ。
各個撃破を恐れてか、密集隊形を取る配下達。そこに、クレイが容赦なくガトリングガンの掃射を叩き込む。
散開が遅れた配下の1人が、鉛弾の雨でその場に釘付けにされた。
「クレイさん!」
好機と見た汀が、クレイの元へ駆け込む。
「任されよう!」
クレイが応えてガトリングガンを後ろに引くと、その銃身の先端に汀が飛び乗った。
クレイはカタパルトよろしく、ガトリングガンをスイングして汀を――、
「汀、飛びまーす!」
――ブン投げる!
汀は先端に光を収束させたマテリアルロッドを構え、弾丸の如く一直線に飛翔し、配下を抜き胴で打ち抜く。
汀は前宙から着地し、砂塵を巻き上げつつ制動をかける。
汀がゆっくりと立ち上がり指を鳴らすと、
「ブレイク!」
配下に打ち込まれた魔力が爆発、閃光が汀の背中を照らした。
●復讐者の末路
タイマンの様相を呈したジャッキーと悪魔が、拳をぶつけ合う。ジャッキーのがら空きのその背中を狙い、配下が飛びかかった。
響く耳障りな金属音。
振り下ろされるナイフを阻んだのは、クレイのガトリングガンだった。
「また助けられちまったな、赤いねーちゃ……いや、にーちゃんか」
「確かに女装ではあるが、これは我が家に代々伝わる家宝のようなものだ。まぁ気にしてもしょうがないことなのだ」
「なるほど。アタシもよく男っぽいとか言われるが、気にしてもしょうがないことだわな!」
クレイの言葉に、ジャッキーが楽しげに笑いながら答える。
クレイは鷹揚に頷き、ガトリングガンを薙払って配下の体勢を崩す。
「むんっ!」
怯む配下の腹にガトリングガンの銃身を突き込み、クレイは配下に食らいついた銃口をそのまま天に突き上げトリガーを引く。
アイドリング音が唸り、直後噴き出す火線が配下を穿ち、天を衝いた。
「闇討ち不意討ち……ここまで徹底すればいっそ清々しいというものね」
成実が嘆息を溢しながら、最後の1人となった配下に接近する。
「もっとも、打ち倒せばもっと清々するのでしょうけど」
配下がナイフを突き出し、成実を迎え撃つ。
成実は配下のナイフを持つ手首を掴み、引き込みながらクロスカウンターを叩き込んだ。
「背筋を伸ばしなさいっ!」
成実は配下の懐に潜り込みつつアッパーで立ち上がらせ、がら空きのボディに更に連打を叩き込む。
「その捻た性根を、叩き直してあげるわ!」
成実はボディアッパーから回し蹴り、上体を切り返して肘打ちと繋ぎ、更に踏み込み掌底を打ち込み配下を吹き飛ばす。
そこに飛び込び込んだ秀煉が、炎を纏った手で配下の顔面を鷲掴んだ。
「よっしゃァッ!」
秀煉は長く炎のトレイルを引いて飛び、その終着点で配下の頭を地面に叩き付ける!
悪魔がその瞬間を狙って、秀煉に襲いかかった。
配下を捨て駒に、攻撃の終わり際を狙った襲撃。秀煉の対応が、間に合わない。
せめてもの抵抗に歯を食いしばって覚悟を決めた秀煉の視界を、影が覆った。
「……テメェの相手はアタシだろ?」
秀煉と悪魔の間に割り込み、その左腕を受け止めたのはジャッキーだった。
驚く秀煉が口を開くより早く、ジャッキーは悪魔の左腕を掴んだまま秀煉を振り返る。
「礼はいらないよ。借りを作りっぱなしは、性に合わないだけさね」
ジャッキーはヘッドバットで悪魔を怯ませ、前蹴りで吹き飛ばす。
「殴り足りない奴もいるだろ? アタシに遠慮せず、張っ倒しちまいな!!」
灼滅者達に言いながら、ジャッキーはバックステップで後退する。それは丸投げしようとしているのではなく、ジャッキーなりの礼なのだろう。
「いいの、ジャッキーちゃん?」
夢衣の問いに、ジャッキーは悪魔を見やって鼻で笑い飛ばした。
「こいつにアタシがタイマン張ってやる価値なんざないね!」
「図に乗るなァ!」
怒りを露わにする悪魔の前に、靜が立ち塞がる。悪魔の左腕を交差した腕で受け捌き、靜は一歩踏み込む。
「それでは、こちらの番だ」
靜が悪魔の両肩を鷲掴む。
「喰ろうて見よ」
靜がその手に力を込めた瞬間、掌と肩の隙間から噴き出した影が悪魔をがんじがらめにして締め上げる。
「八雲!」
「ああ!」
靜と入れ代わり、飛び込んだ八雲が跳躍する。
靜の影業によって捻り上げられた悪魔の左腕、その肩口を狙って八雲が荒神切「灼雷」を突き下ろす。
「その力、徹底的に殺ぎ落とすッ!」
左腕を狙って八雲が灼雷を振るい火花を散らす度、その刃が赤みを増していく。
八雲は突き刺した刃を支点にロンダートから後方へ蹴り飛び、着地して灼雷を引いて構える。返した刃を赤の雷光が走った刹那、再突入した八雲が灼雷を振り抜き悪魔を逆袈裟に斬り上げた!
「繋げ、瑠璃羽!」
「まっかせて!」
打ち上げられた悪魔を、瑠璃羽が跳躍から振り下ろす黒龍雷刃剣の落雷の如き一閃が捉える。
「覚悟、できた? いっくよー!」
瑠璃羽は着地から刃を返して斬り上げ、そのまま旋転しつつ逆手に黒龍雷刃剣を握り変えて背面へ突き、引き抜き反転から黒龍雷刃剣を大上段に振りかぶり、渾身の斬撃を叩き込む!
「夢衣ちゃん!」
「うん!」
吹き飛ぶ悪魔に取り付いた夢衣が、全身を覆って逆巻き高まる純白の喜衣のオーラとは対照的な、静かな瞳で悪魔を見据える。
「遊ぶなら、最後まで付き合ってね」
夢衣は左手に握り込んだアイアンロッドを叩きつけ、
地面を跳ねる悪魔の下に潜り込みサマーソルトで蹴り上げ、
悪魔を追って跳躍し右手のアールシェピースで貫く。
「まだまだ行くよっ!」
アールシェピースの穂先を、冷気が渦巻く。
冷気が極限まで高まった刹那、氷の槍が爆発的に膨張し、悪魔の胸に巨大な氷柱を突き立てる。
「これで……」
夢衣はアールシェピースを引き抜き、アイアンロッドで氷柱ごと悪魔を――、
「最後っ!」
――打ち砕いた。
●壊れざる淫魔アイドル
「売、女が……!」
「その執念だけは大したもんだよ」
足元に転がる悪魔を見下ろし、ジャッキーが呟く。
既に消滅が始まっている体を引きずりながら、それでも悪魔が立ち上がる。
「覚えときな」
ジャッキーは悪魔の左腕を取り、捻り上げながら背後に回って悪魔を蹴り倒す。ギチギチと悲鳴を上げる左腕を、ジャッキーは容赦なく引き千切った。
「悪魔の命1つで買える程――」
ジャッキーは電光纏う拳を振りかざし、渾身の下段突きを叩き込む。
「――淫魔は安くねぇんだよッ!!」
電光の柱が地面を圧し割り天を衝き、悪魔を消し飛ばした。
悪魔を灼滅したあと、灼滅者と淫魔は肩を並べて体を休めていた。
灼滅者とダークネス。今宵限りの信頼関係が、そこにはあった。
「ジャッキーさん、のど乾いてない? ジュース飲む~?」
「お?」
「あっちに自動販売機あったよね?」
瑠璃羽はジャッキーの返事も待たずに駆け出し、
「きゃうん!?」
そしてこけた。
照れ笑いを浮かべて立ち上がった瑠璃羽を見送るジャッキーの前に、夢衣が構えを取って立つ。
「ジャッキーちゃん、ジャッキーちゃん。試験受けたいっ。タイマンやろうよっ」
無表情のままでも分かる程期待に満ちた視線を受け、しかしジャッキーは軽く手を挙げて夢衣を制した。
「どうせタイマン張るなら、お互い万全の状態の時にしようぜ。その方が楽しめるってもんだろ?」
そう言われては引き下がるしかない。拳を下ろした夢衣の肩をジャッキーは軽く叩き、親指を立ててみせる。
「だから、またアタシのライブ観に来てくれよな!」
淫魔アイドルは、営業を忘れない。
作者:魂蛙 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年7月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 18/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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