新世界の邪神を崇めなさい! 海姫ル・リエーの恐怖

    作者:波多野志郎

     北海道帯広市――帯広駅前に、その異質な像がそびえてっていた。
    「この方の名前を言ってみなさい」
    「え?」
     いきなり問いかけられ、通行人が見たのは目の前の相手である。先がカールした緑髪とドイツ風の軍服姿が印象的なそこにいた訳だが。もっとよく近付いてみれば、その髪がタコ足のような触手をしていた事に気付いただろう。
     続いて、目の前の大きな胸像を見る。曖昧模糊とした、何か名状しがたい圧力を感じるその像から、連想出来たものはない。ひらめかなかったので正気度は無事だった的な表情で、通行人は答えた。
    「……さぁ?」
    「残念賞!」
     通行人は声をあげる暇もなく、上から振り下ろされた冷凍マグロに押し潰される。そう、魚に強い愛着が生み出した凶悪な刃である。
     その光景に、周囲の通行人達が呆気に取られ――その意味を理解した直後、そこには混乱の渦が巻き起こった。黒の全身タイツに身を包む戦闘員風の男達四人が、逃げ惑う民衆をふん捕まえていくのを満足げに眺め、少女――ご当地怪人、海姫ル・リエーは笑い声と共に告げた。
    「この方は新世界の邪神(かみ)、ゲルマンシャーク。神を信じる者のみが救われます。さあ、神を信じる者は聖地グリュック王国へ。従わない人は……ネギトロにします♪」
     連行されていく民衆に、ご満悦の海姫ル・リエーは、高らかに宣言した。
    「我がゲルマンシャークのサイキックエナジーは世界イチぃぃぃ!」

    「えっと……どこからツッコミ入れればいいんすかね?」
    「あれ? 頭痛ですか?」
     こめかみを押さえる湾野・翠織(小学生エクスブレイン・dn0039)に、隠仁神・桃香(中学生神薙使い・dn0019)がそう小首を傾げた。翠織は何かを返そうとして――上滑りするのがわかったので、そのまま会話を続ける事にした。
    「ゲルマンシャークの石像を確保したレディ・マリリンがいるグリュック王国を調査しに行った人達がいたのは、知ってるっすか?」
     知っている人も、少なくはないだろう。何せ、多くの学園の仲間が一度に闇堕ちしてしまったのだから。
    「その中の一人、深海・るるいえさんの行動が未来予測出来たっす」
     深海・るるいえ、否、某米国の某マサチューセッツ州の某所のご当地怪人であるところの海姫ル・リエーは、帯広駅前に禍々しくアレンジされたゲルマンシャークの胸像を置き、そこで民衆をグリュック王国へと拉致しようと企んでいるのだ。
    「答えられないと殺される……って、答えられないっすよ、そりゃあ」
     耐えられなくなり、翠織は裏手ツッコミを入れた。
     現在の海姫ル・リエーは、ゲルマンシャークに心酔しているものの邪神ではなくシャークを崇めていることに強い抵抗感を抱いている。いきなり激昂したり優しくなったり、かなり情緒不安定気味だ――やはり、色々と内面の葛藤があるのだろう。
    「いいっすか? 作戦はこうっす」
     海姫ル・リエーが戦闘員風の眷属四体にゲルマンシャークの胸像を運ばせて移動している、その途中を襲撃するのだ。明け方、帯広の人通りの少ない裏路地でなら、襲撃は可能だろう。
    「でも、油断しないで欲しいっす。相手もさるもの、いつ襲撃を受けてもいいように警戒を忘れてないっす。不意打ちは諦めた方がいいっすね」
     四人の戦闘員も曲者だ。クラッシャーで攻撃役に徹する海姫ル・リエーをフォローするように常にディフェンダーとメディツクとして行動するのだ。
    「ただ、海姫ル・リエーは手柄を立ててマリリンを出し抜きたいとも思ってるっす。だからこそ、倒せば得点稼ぎになるみんなを見逃す事もないっす」
     ようは眷属戦闘員を連れた海姫ル・リエーと真っ向からの勝負となる訳だ。
    「何とか、救出して欲しいっすけど……それが無理なら、灼滅するしかないっす」
     厳しい表情で、翠織が告げる。救出を優先しすぎては、こちらが危ない――ダークネスとは、そういう相手なのだ。
    「今回、助けられなければ完全に闇堕ちしてしまうはずっす。そうなれば、もう助けられないっすから……」
     最後のチャンスっす、と翠織は念を押した。


    参加者
    赤威・緋世子(赤の拳・d03316)
    ファルケ・リフライヤ(爆走する音痴な歌声銀河特急便・d03954)
    天雲・戒(紅の守護者・d04253)
    坂村・未来(中学生サウンドソルジャー・d06041)
    保戸島・まぐろ(無敵艦隊・d06091)
    水走・ハンナ(東大阪エヴォルヴド・d09975)
    影宮・咢(仮想人格・d10721)
    リューネ・フェヴリエ(熱血青春ヒーロー修行中・d14097)

    ■リプレイ


     ――早朝、北海道帯広市。
     住宅地の多い帯広市だが、死角はどこにでも存在する。その住宅地の死角を行く一団――ご当地怪人海姫ル・リエーとその配下は不意にその場で立ち止まった。
    「はいはーい、迷子を連れ戻しに来たのです。できれば穏便に済ませたいのですがね」
     そこに待ち受けていた集団の中から一歩前に踏み出し、影宮・咢(仮想人格・d10721)はのんびりと言ってのけた。
    「なるほど、わざわざ邪魔をしに来たのですか」
     リューネ・フェヴリエ(熱血青春ヒーロー修行中・d14097)は見る。目の前の少女を。先がカールした蛸足となった緑髪。ドイツ風の軍服姿。そこには、リューネの知っている深海るるいえの姿はなかった。
     いや、何よりも許せないのは海姫ル・リエーの背後で四人の戦闘員達が担ぐ邪神像だ。禍々しくアレンジされたゲルマンシャークの胸像――それを見て、リューネは低く言い捨てた。
    「どっかの邪神じゃなく、ゲルマンシャークを崇拝なんて……お前らしくないぜ」
    「ふふ、この方こそ新世界の邪神(かみ)、ゲルマンシャークです! どうやら、あなた達は、まとめてネギトロにしなくてはいけないようですね♪」
     すちゃり、と海姫ル・リエーは背中から冷凍マグロを引き抜いた。そのサイズ、色艶、冷凍具合を見た保戸島・まぐろ(無敵艦隊・d06091)は、ニヤリと笑みを浮かべた。まぐろほどの眼力を見れば一目でマグロの性能を見切れる――のかもしれない。
    「あんたのマグロもいい形してるじゃない」
     そう言ってまぐろが掲げる獲物もまた、マグロだった。ギガ・マグロ・ブレイカー――そのクロマグロの勇姿に海姫ル・リエーもまた笑う。
    「そちらも見事な魚類ですね」
     魚に強い愛着が持つ海姫ル・リエーもまた、同じマグロを使う者として感じるものがあったらしい。
    「禍々しい像ね。これの為にどれだけの人間をネギトロにしてきたのか……おっと、いや聞くまい。話さんでいい。想像できるわ」
    「?」
     水走・ハンナ(東大阪エヴォルヴド・d09975)の言葉に顔を見合わせたのは、戦闘員達である。その仕種の理由に、隠仁神・桃香(中学生神薙使い・dn0019)は気付く。
    (「あ~、まだネギトロにしてませんもんね~」)
     未来予測は、もう少し未来の出来事だ。戦闘員達と共に海姫ル・リエーへと視線を向ける。海姫ル・リエーは、フっと笑みを浮かべ、言ってのけた。
    「ええ、これからネギトロになるあなた達には関係のない事です」
    「いあーッ」
     はい、その方向ですね、と納得したのか、ゲルマンシャーク像を道の端に置いて戦闘員達は身構える。
    (「あたしは深海とは特に面識があった訳じゃない、が……」)
     海姫ル・リエーと戦闘員達を見て、坂村・未来(中学生サウンドソルジャー・d06041)はるるいえを救うために集まった仲間達を見た。その表情に、未来の口元が自然と綻ぶ。
    「深海が皆に慕われてるってのは判る、な。絶対に助け出さないと、だな」
    「自らの意思で闇落ちしたとケースが違うだけに勝手が違うかもしれねぇ、が、元に戻りたい希望があれば闇から救える勝算は十分にあるはずだ」
     ま、やるしかないか、とファルケ・リフライヤ(爆走する音痴な歌声銀河特急便・d03954)がバイオレンスギターを構えた。何にせよ、もはや相手は臨戦態勢なのだ――戦う以外の選択肢はない。
    「Allez cuisine!」
    「出でよ! 灼滅の精霊よ!」
     リューネが、ハンナが、スレイヤーカードを手に解除コードを叫ぶ。そして、赤威・緋世子(赤の拳・d03316)が地面を蹴って吼えた。
    「SAN値直葬な冷凍マグロとか持ちやがって……海姫ル・リエー覚悟だぜー!」
     しかし、その場にいた中で一番速く動いたのは海姫ル・リエーだ。冷凍マグロを振りかぶる海姫ル・リエーに、天雲・戒(紅の守護者・d04253)が叫んだ。
    「鶴翼の陣を取れ!」
     灼滅者達が左右に散る――そこへ豪快に冷凍マグロを振り抜き、森羅万象断の斬撃が放たれた。


     ドン! と裏路地に衝撃が駆け抜ける中、咢が大きく跳躍した。
    「いあ!?」
    「あなたたちは邪魔なのです。さっさと成仏するがいいのです」
     それを見上げた戦闘員の眼前で咢はダブルジャンプで急激に加速。ウロボロスブレイドを巧みに操り、刃を戦闘員へと巻きつける。蛇腹の刃は容赦なく、戦闘員の引き裂く――そこへハンナがガン+ナイフ『G.K.』の銃口を向けた。
    「貴方達の運命……浄化するわ!」
     ダンッ、とハンナが引き金を引く。戦闘員はその銃弾に身をかわそうとするが、ホーミングバレットはそれを許さず、右肩を撃ち抜いた。
    「まだまだァ!」
     右翼から回り込んだリューネが、アスファルトへ【Jeunesse Explosion】を叩きつけ、駄目押しとばかり大震撃の衝撃を叩き込んだ。
    「こちらはお任せを」
    「ああ。今回、全力で行くと決めたからな……全壊で歌わせて貰う!」
     桃香の言葉を受けて、未来がうなずく。未来は破滅的な音痴だ、しかし、そのディーヴァズメロディの歌声は正常に発動する――破壊の力として。
    「い、いあ!?」
     よろめいた戦闘員が、歌声に耐え切れずガクリと崩れ落ちた。
    「よ、よくも、うちの熱心な信者兼戦闘員を!」
     激高する海姫ル・リエーだが、その視線は倒れた戦闘員の方へは向かない。すぐ目の前に、立ち塞がるように迫る三人がいたからだ。
    「海姫ル・リエー! 勝負よ!」
     まぐろが跳躍する。クロマグロの尾を手に大上段に構え、まぐろは誇りを込めて叫んだ。
    「ギガ・マグロ・ブレイカー!」
     それを海姫ル・リエーは自身の冷凍マグロで受け止める。ガギン! とマグロの激突とは思えない衝突音、火花を散らし鍔迫り合う。
    「あんたが心酔しているのは誰なの? シャーク? それとも邪神?」
    「ゲルマンシャークは、新世界の邪神です!」
     まぐろの言葉に即答し、海姫ル・リエーはその両腕に力を込めた。
    「我がゲルマンシャークのサイキックエナジーは世界イチぃぃぃ!」
     海姫ル・リエーの叫びと共にまぐろが弾かれる。入れ替わりに緋世子がその場に駆け込んだ。
    「行くぜ! 殴ってでもだからな……まずはこれは俺の分!」
     雷を宿す緋世子の拳を海姫ル・リエーは、素早く引き戻した冷凍マグロで受け止める。そして、戒がそのシールドに包まれた拳を振りかぶった。
    「思い出せ、海姫ル・リエー! お前は本当は深海るるいえと言う灼滅者だ」
     繰り出される裏拳――しかし、そこへディフェンダー戦闘員が無理矢理割り込み、海姫ル・リエーの代わりに殴り飛ばされた。
    「い、いあ!」
    「お前等の相手は俺達だぜ!」
     その戦闘員へ左翼からファルケが伸ばした影が、音もなく縛り上げていく。戦場に優しい風が吹き抜けていく――桃香の清めの風だ。
    「来ますよ~!」
    「いあ!」
     戦闘員達が、襲いかかる。それを真っ向から灼滅者達は迎え撃った。


    「吹き荒れろ!」
     リューネの巻き起こす竜巻が、敵の前衛を飲み込んでいく。ヴォルテックスの暴風の中へハンナが迷わず跳び込んだ。
    「なかなかやるじゃない……だが! 我ァが東大阪市の科学力はァァァ世界一ィィィ!! この殲術道具に打ち砕けぬモノはなァァァい!!」
     必死に踏ん張っていた戦闘員へ、ハンナは緋色のオーラに包まれた刃を横一閃した。その紅蓮斬の斬撃に、戦闘員は胴を薙ぎ払われ糸の切れた人形のように倒れ伏した。
    「い、いあ!」
     残る戦闘員は自分だけ、そんな状況になった戦闘員は、それでもなお咢へと拳で襲い掛かった。それを咢は握り拳を作り、迎え撃つ。
    「そろそろ、前座は退場しろ!」
     戦闘員の拳を掻い潜り、咢の右ストレートがその胸へ繰り出された。拳が炸裂するのと同時、影の刃が戦闘員の戦闘服を切り裂きながら宙を舞わせ、吹き飛ばした。
    「これで、残るは――」
     戦闘員は倒し終えた――リューネが、そこで目撃する。
    「まぐろダイナミック!」
    「手緩いです!」
     互いを抱えあいまぐろと海姫ル・リエーは上空へジャンプ、地面に激突した瞬間、そこに生まれた大海原が荒れ狂った。マグロと蛸足が見えた直後、まぐろがゴロゴロとその場から転がり出た。ご当地ダイナミックで、海姫ル・リエーに軍配が上がったのだ。
    「く、隠仁神!」
    「はい!」
     未来の指示を受けて、桃香がそこへすかさず防護符を投げ放つ。未来もまたエンジェリックボイスの歌声でまぐろの傷を癒した。
    「そんでこれは睡蓮の分!」
     海姫ル・リエーへ緋世子は炎に包まれた拳を叩きつける。それを冷凍マグロで受け止められると、ダブルで緋世子は雷の宿る拳を突き上げた。
    「更にこれはアリスの分!」
     抗雷撃を受けて、海姫ル・リエーがのけぞる。そこへ戒が続き、炎の奔流を叩き付けた。
     ドォ! と広がるバニシングフレアの炎、その中で戒が叫んだ。
    「お前は先の戦いで、ダークネスの手によって不本意ながら闇堕ちさせられた。その証拠に、お前が崇めているシャークの像は邪神のものだ。そんなもの、そんなに大切か? もっと大切なものがあるんじゃないか?」
    「ッ、さっきから、うるさいですよ!?」
     海姫ル・リエーが冷凍マグロを薙ぎ払おうとする――だが、それを遮るように調子外れのギターが鳴り響いた。
    「気付いているか? 洗脳にお前はそれを崇拝しているが、ホントに恩恵を感じているか? 違うだろ、己の信念は、洗脳や闇落ち程度で揺らぐもんじゃない。思い出させてやるよ、俺の魂こもった最強の歌で」
     ファルケの弾き語りだ。死ぬほど音痴ではあるが、攻撃ではない。しかし、それが何よりも海姫ル・リエーを苦しめた。
    「く、止めなさい!」
    「いいや、止めないぜ、聞け! みんなの想いを!」
     フォルケの音が盛り上がる。それに後押しされたように、仲間達が叫んだ。
    「るるいえ……フラッパーサテライトのみんな……るるいえ待ってる……ゲルマンシャークに負けちゃだめ……戻ろう? ……お願い……」
    「るるいえちゃん、自分を見失わないで! るるいえちゃんが崇めていたのはどこの馬の骨とも知れない鮫じゃない! 名状しがたい深き神のはずでしょう!? 思い出して、HEROESの皆を不定の狂気に陥れたあの日々を!」
    「るるいえが真に崇めるべきはドイツ風のシャークじゃなくて米国マサチューセッツ州の漁村でとても有名なアレじゃないかな? 同じ水棲系の名状しがたき存在だからって間違えちゃ駄目なんだよ」
    「なんだよお前が信奉する邪神じゃないじゃん! 何この奇妙なゲルマンシャークもどき!? マリリンを倒すはずが利用されちゃってるぞ!? 自分が正気度ピンチになってどうすんだー! 待ってる仲間がいる!カンペキ信じて待ってる連中がいる! 邪神を布教するならまず練馬…いや武蔵野からだぞ! 一緒にマリリンをマリモのタタキにしてやろーぜ!」
    「そなたの崇めた者の名は、ヒトの言語に当てはまらぬ筈じゃ。もっと荘厳で奥深く、己の神秘へ踏み込む者を一顧だにしない。迂闊に名を呼べば狂気に囚われかねん程の、超越的神格! それが、るるいえ殿の崇める者であろう?」
    「るるいえ先輩……此処に来ている人達だけじゃなくて沢山の人達が先輩の事、心配してるんですよ! うちだって先輩とは殆ど話をした事無かったけど……だからこそ、先輩が好きな料理とか先輩の故郷の事とか……そんな事を知らないまま、先輩と会えなくなるのなんて嫌です! だから……学園に帰りましょう! 皆、待ってます!」
    「るるいえちゃんの崇拝しているのは海の邪神様なんだよね? ゲルマンシャークなんかじゃないはずだよ! お願い、元の信仰を思い出して! そして学園の仲間のみんなのことも思い出して! るるいえちゃんの心はゲルマンシャークに歪められてるだけなの! 元のるるいえちゃんに戻って……お願い!!」
     ――それは想いの大合唱だった。海姫ル・リエーというご当地怪人にではない、深海るるいえという仲間への。
    「歌エネルギー、チャージ完了。聞いてもわからないなら、直接叩きこんで響かせるのみっ――食らいやがれ、これがサウンドフォースブレイクだぜっ」
     ゴォッ! とファルケの放った渾身のフォースブレイクが海姫ル・リエーに炸裂した。海姫ル・リエーが吹き飛ばされる、立ち上がるが体が動かない。その事に海姫ル・リエーは目を見張る。
    「あと……ええい、これはクラブ仲間や他の皆全員の分だー!」
     立ち尽くした海姫ル・リエーを緋世子の炎の拳が殴りつけた。よろめく海姫ル・リエーへ、咢が振りかぶったマテリアルロッドを薙ぎ払う。
    「あなたが崇めているのはどこぞの海底邪神であって、ドイツの鮫ではないでしょう! 正気に戻るのです!」
     フォースブレイクの一撃を受けて、海姫ル・リエーが壁に叩きつけられた。踏みとどまる海姫ル・リエーに、戒が踏み込みオーラを宿した拳を連打した。
    「繋げ!」
    「ああ、もちろんだ!」
     戒の言葉に未来が踏み込む。その隣にはうなずき、桃香が並んだ。右と左、巨大な怪腕となった鬼神変の拳が海姫ル・リエーを同時に殴り飛ばした。
    「ゲ、ルマ……ッ」
    「迷いを捨てなさい! 本当にあなたがいる場所はここじゃないわ!!」
     そこへまぐろが低空ジャンプで突っ込む。その姿はまさに大海を泳ぐマグロのごとく、ご当地キックが海姫ル・リエーを捉えた。
    「まぐろキック!」
     大きくのけぞった海姫ル・リエーへ、ハンナは囁くように告げる。
    「さあ帰ってくるのよ、るるいえさん。貴女が信仰するのは海の邪神でしょう?私が故郷を信じるように……その偽りの信仰を捨て去り、戻って来なさい! 洗脳支配など、人の意思なきもの……愚の骨頂よ!」
     ハンナはガン+ナイフ『G.K.』を構え、引き金を引いた。
    「我ァが東大阪市の科学力はァァァ世界一ィィィィィ!! これこそ我ァが東大阪市民の最高知能の結晶でありィィィ!誇りであるゥゥゥ!」
     ご当地ヒーローでなくともご当地を愛する心は誰にでもある、その愛を込めた銃弾が海姫ル・リエーを撃ち抜いた。
    「い……あ……」
    「るるいえ! 忘れちまったのか! お前が本来崇めていた、神様達の事を! 覚えてねえのか! 俺やファルケ、HEROESの皆、他のクラブの奴らと過ごした日々を! お前には聞こえねえのか! お前のために!お前を助けるために! ここに集まってくれた人達の声が!」
     リューネは全ての想いを込め、【tonnerre fracture】を突き出す。
    「……少し痛いだろうが、我慢してくれ」
     その一撃が、海姫ル・リエーを砕き、友を救い出した。


    「やめ、て……もう、私のSAN値はゼロよ……」
     その寝言を聞いて、歓声が上がる。深海るるいえが帰って来た、その事への歓喜の声だ。
     歓声の中、緋世子の拳がゲルマンシャークの像を殴り、粉砕する。それは、彼等からの反撃の意志であり、のろしだった。

    作者:波多野志郎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年7月13日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 29/感動した 1/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 7
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