デモニックリベンジ

    作者:小茄

    「ら~ら~ら~♪」
     平日の昼間。人気の無い河川敷のガード下で、歌と踊りの練習に励む少女が1人。
    「へへっ、見つけたぜ」「こんな所で暢気に歌いやがって……」
     聴衆――ではなく、別の目的を持っているであろう男達がぞろぞろと姿を現し、彼女を取り囲む。
    「えっ……あ、あの……うるさかったですか……?」
     刃物や鈍器などの武器を手にした男達は、明らかに殺気だった視線を少女に向ける。少女もそれに気付き、怯えながら問いかける。
    「しらばっくれやがって、アモン様の仇……打たせてもらうぞ!」「裏切り者め、往生せぇや!」
    「な、なに? ちょっ、何なんですかぁ~!?」
     少女は見た目に似合わぬ身のこなしで、男達の一撃目をかわす。
     ……が、所詮は多勢に無勢。やがては力尽き、狂刃の前に倒れてしまうのだった。
     
    「不死王戦争で灼滅したソロモンの悪魔、アモンの事はご記憶かしら? その残党がまた事件を起こすつもりですの」
     有朱・絵梨佳(小学生エクスブレイン・dn0043)の説明によれば、その残党達はラブリンスター配下の淫魔に対して襲撃を画策しているのだと言う。
    「不死王戦争で共闘していたラブリンスターが、我々武蔵坂と接触した事を、裏切りと見なしたのかも知れませんわね」
     もしくは、戦争以前からラブリンスターと武蔵坂は裏でつながっており、それによって戦争に敗れたと考えているのかも知れない。
    「自分たちの実力が足りずに負けたとは、誰しも認めたがらない物ですわ。苦境の時ほどそうした陰謀論が囁かれ、信じる者が出るのは人間も彼らも同じですわね」
     ダークネス同士の戦いではあるが、これはアモン残党を倒す好機でもある。静観するより介入すべきだろう。
     
    「場所は河川敷、ガード下なので余り人目につかないのは好都合ですわね」
     ソロモンの悪魔とその配下4人は、派手なシャツやグラサンを身につけたチンピラ風の外見をしており、刀や拳銃、金属バットと言った武器を手にしている。
    「残党とは言え、その力は知っての通り。普通に戦えば互角の勝負になりますわ。ですから、貴方達の取る作戦としては3種類」
     一つは淫魔を守って残党と戦う。一つは淫魔との戦いを終えた後の、疲弊した残党を叩く。そしてもう一つは淫魔と共闘し、戦力差を活かして残党を倒す。
    「淫魔はアカリと言う名前で、歌声やダンスが武器ですわね。性格は割と素直で単純な様ですわ」
     選択権はこちらにある。どの様に立ち回るかは、灼滅者次第だ。
     
    「何にしても、残党を灼滅する事が作戦の目的ですわ。貴方達なら大丈夫でしょうけれど、気をつけて行ってらっしゃいまし」
     そう言うと、絵梨佳は灼滅者達を送り出すのだった。


    参加者
    アリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)
    沖田・直司(叢雲を裂く天魔の斬撃・d03436)
    天代・鳴海(夜葬・d05982)
    源・頼仁(伊予守ライジン・d07983)
    禰宜・剣(銀雷閃・d09551)
    砂原・皐月(禁じられた爪・d12121)
    椎宮・司(ワーズクラウン・d13919)
    桑折・秋空(ここからここまで・d14810)

    ■リプレイ

    ●河川敷の仇討ち
    「ら~ら~ら~♪」
     河川敷のガード下。少女が一人、歌と踊りの練習に励んでいた。
     鈴を鳴らすような澄んだ歌声と、抜群のプロポーション。顔立ちも整っており、その筋のスカウトが見たら放ってはおかないだろう。
     それもそのはず、彼女はラブリンスター配下の淫魔なのだ。
    「へへっ、見つけたぜ」「こんな所で暢気に歌いやがって……」
     と、そんな彼女を取り囲むように姿を現したのはチンピラ風の柄の悪い男達。
     彼らは不死王戦争で灼滅されたソロモンの悪魔、アモンの残党である。
    「えっ……あ、あの……うるさかったですか……?」
     おどおどしながら、目を潤ませて上目遣いの少女。普通の男であれば、多少なりとも躊躇しただろうが、彼らは鉄の意志を持ってこの場所に来ていた。
    「しらばっくれやがって、アモン様の仇……打たせてもらうぞ!」
     それが錯誤であっても、男達は主の仇敵を打つため、それぞれの得物を身構える。
    「ふぇっ! ちょ、なんだか良く分からないけどきっと誤解です~!」
    「問答無用!」
     男達が、一斉に襲いかかろうとした刹那――
    「ちょっと待った!」
    「な、何者だ」
    「邪魔するわね。この戦い、私たち武蔵坂学園が預からせてもらうわ――SlayerCard,Awaken!」
     無論、駆けつけたのは武蔵坂の灼滅者達。アリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)は強面の男達を前に、物怖じもせずに言うと、封印を解き放つ。
    「武蔵坂……だと……」
    「俺たちは武蔵坂学園の灼滅者。君を助けに来たよ」
    「ラブリンスター一派だな! 義によって助太刀させて貰う!」
    「えっ、あ……武蔵坂ってあの……」
     天代・鳴海(夜葬・d05982)と禰宜・剣(銀雷閃・d09551)の言葉を聞き、淫魔――アカリは少し安堵の表情。
    「勘違いするなよ! 俺は漁夫の利をかっさらうような真似は正義じゃないと思っただけだからな!」
    (「ダークネスは倒すべきだとは思ってるけど、とりあえず今回はね」)
     無論、源・頼仁(伊予守ライジン・d07983)や桑折・秋空(ここからここまで・d14810)の様に、ダークネスと共に天を戴こうとは思わぬ者も多い。
     その上、今この時点でラブリンスターが共同戦線に積極的だからといって、いつまでもそうとは限らない。相手は油断ならぬダークネスなのだ。
    「えへ、でも今は助けて下さるんですよね。嬉しいですっ!」
     とはいえ、アカリは毒気を抜く様な笑顔で灼滅者達に頭を下げる。
    「邪魔だけはするなよ、下がってろ」
    「はぁい……後ろで援護します~」
     更に砂原・皐月(禁じられた爪・d12121)の鋭い視線を受け、少し身を竦めはするものの。そのままアカリは灼滅者達の影に隠れて支援の構えを取る。
    「貴様らぁ……やはり通じていやがったのか!」「まさか……今回も罠だったのか! つくづく卑怯な連中だ! 恥を知れ!」
    「勝手にどう思おうがそっちの勝手さ。ダークネスにとっては僕たち灼滅者なんて雑魚なんだろう?」
     怒り心頭の残党達へ、更に挑発的な言葉を投げかける椎宮・司(ワーズクラウン・d13919)。
     彼我の戦力差は相当大きく広がっている。彼らに冷静な判断力があれば、一旦撤退して、改めて淫魔を襲撃する事も出来たかも知れない。が、今の彼らにその選択肢は無かった。
    「もう許さねぇ……ここでてめぇらが出てきたのは返って好都合。まとめてぶち殺してやるぜ!」
    「「おおっ!!」」
    「天然理心流土方道場一番隊組長、沖田直司。我が信念の元に悪を滅す」
     ドスや日本刀を手に、一斉に襲いかかってくるチンピラ達。その前に立ちふさがるのは沖田・直司(叢雲を裂く天魔の斬撃・d03436)。
     それぞれの思惑を秘め、奇妙な三つどもえの戦いは幕を開けた。

    ●残党の矜持
    「凍土に眠りし骸の姫よ、その身を苛む冷気をいまこの地に顕せ!」
    「――くうっ!?」
     アリスの手が挙がると同時、突っ込んでくるチンピラ達の体温が急速に奪われる。
    「往生せぇやあぁぁ!」
     とはいえ、彼らも殺るか殺られるかの覚悟でここに居る。当然の如く怯まず向かってくる。
    「見た目もやってる事もただのチンピラと変わらないね」
    「ほざきやがれ! このガキどもがっ!」
     チンピラの放つ弾丸を影業で防ぐ鳴海。流れのままに影の触手を伸ばし、敵の足へと絡みつかせる。
    「僕らと淫魔が手を組んだから負けたと思ってるんでしょ?」
    「そうだ、あの背後からの一突きがなければ俺たちは勝っていた!」
     敵と刀の切っ先を交差させながら、そんなことを口にする直司。残党は意識してかせずにか、確信を籠めて即答する。
    「悪魔のクセに単純な事もわからないなんておバカだよね。君たちの敗因は自分たちが弱かっただけなんだよ」
    「なっ!? 何だと……」
     直司の言葉に、残党達の表情が強張る。なにしろ、自らの敗北を認める事が出来ず、それゆえ今回の淫魔襲撃を計画した彼らだ。
    「弱いかどうか、てめぇらの身に教え込んでやるあぁぁ!!」
    (「シモベでさえ強大な力を持つソロモンの悪魔……その本体に挑めるとは誉れ!」)
     剣は振り下ろされる切っ先を自らの日本刀で受け流しつつ、難敵との戦いに心が躍るのを実感していた。
     先の戦争では確かに武蔵坂の灼滅者が勝利を収め、アモンを倒すに至った。が、ソロモンの悪魔が極めて強力な敵である事は周知の事実。今回とて、淫魔との共闘であれば優位に違いないが、戦いに絶対などないのだ。
    「こちらも行動開始だ! 行くぞ!」
     ――バギィッ!
    「なっ……ぐはぁっ!」
     剣とつばぜり合いをする敵に対し、雷と化した闘気を拳に纏わせ、横合いから顎を殴り抜く皐月。
     まずは配下の4人の先に片付け、最後にソロモンの悪魔を倒すプランだ。
    「君は僕が相手になるよ!」
    「く、くそっ! ガキがぁっ!!」
     無数に飛来する弾丸をWOKシールドで防ぎ、そのまま殴りつける司。
     ――キィン!
    「はっ!」
     振るわれる金属バットをサイキックソード「白夜光」で受け止め、逆に相手を切り伏せるアリス。
    「南無八幡大菩薩! 今は迷ったりしない! 目の前の敵を叩く!」
     後方より頼仁の放つ光線が、拳銃を手にしたチンピラを貫く。
    「こいつら……強ぇ……」
    「チンピラ程度が僕の剣を防ぐことなんてできないんだよ」
     小柄な体躯に似合わず、軽々と斬艦刀を振るう直司。強化一般人であるチンピラ達は1人、また1人と傷つき膝を折る。
    「死ねぇっ!」
    「蠢く影、見切れるかな」
     突き出されたドスの切っ先は、影に溶け込んだ鳴海の残像をすり抜ける。そして背後を取った鳴海が繰り出す「寂柩」は、ほぼ無防備なチンピラの身体を貫く。
    「そもそも有り得ねぇ事だった。あの戦いで、アモン様が死ぬなんて事が……有っちゃいけねぇ事だった。こんな弱小勢力如きに……それもこれも、全ては淫魔どもの奸計のせいで……」
     銃弾飛び交い、怒号が響き、刃が交錯する戦場にあってソロモンの悪魔は、あの不死王戦争を想起していた。
    「てめぇだけは……生かしちゃおかねぇ!」
    「まずい!」
    「ひえっ?!」
     頼仁は思わず声を上げつつも、悪魔の動きをビームで牽制する。しかしアカリ目掛けて突っ込む悪魔は、もはや捨て身の覚悟だ。
    「判るぞ……粗野な言葉の中にも冷徹な意思がっ」
     ――ザシッ!
     僅かな時間とはいえ刃を交えていた剣は、敵の心の動きをほぼ読み切って居た。振るわれた白刃は、悪魔の腕を切断する。
    「ちぃっ!!」
     腕を切られたことよりも、得物を取り落とした事で舌打ちをする悪魔。残された腕が地面に転がる刀へ伸びるが――
    「貰ったぁ!」
     淀みなく流麗な動きでその手を取った皐月は、自分よりも遙かに長身の悪魔を宙へ投げ飛ばす。
     ――グシャッ。
    「そのまま死ね!」
     直角に近い角度で地面に叩き付けられた悪魔は、暫く身体を痙攣させていたが、程なくして完全に絶命した。

    ●灼滅者と淫魔
    「ふうっ……」
     鳴海は、アモンの残党達と戦いながらもアカリの挙動に意識を割いていた。万が一、寝返ったり何らかの不審な動きが有った場合に備える為だ。
     ただ、今回はその懸念は杞憂に終わった様子。ひとまず安堵の息をこぼす。
    「アカリさん、無事? よければラブリンスターさんに、武蔵坂学園の学園祭に来てもらいたいんだけど、伝言頼めるかしら?」
    「はい、お陰様でー! え? あぁ……えっと……会えるか解らないので、お約束は出来ないです……もしチャンスが有ったらお伝え出来るかもです~」
     今度はこちらのイベントに招くことが出来れば、より理解を深め合えるだろう。アリスは招待の伝言を依頼するが、アカリは自信なさげに答える。
    「できたら僕はのんびり行きたいんだよね」
    「はい、私も同感です~。皆さんは私の命の恩人さんですしぃ」
     妙なことにならなければ良いのだが。そう考える司と、数回頷いてそれに同意するアカリ。
    「感謝してくれるなら今度お茶でも一緒にどう?」
    「うふふっ、二人っきりでですかぁ? そうですねぇ~」
    「あはは、冗談なんだよ♪」
    「あら、そうなんですかぁ。一杯お礼しちゃおうかと思ったのにぃ」
     直司の誘いに対して、やや挑発的な艶笑を浮かべて応えるアカリ。
    「あんたとは共闘したけどさ……ひとつだけ聴かせてくれ。あんたは人を殺したり堕落させたりしたのか?」
    「えっ?」
     不意に深刻な問いを投げかける頼仁。アカリは一瞬目を大きく見開くが、ほんの少し間を置いて口を開く。
    「いいえ~、私はそんな事したこと無いですよぉ」
    「よかった。いくらダークネスでもダークネスってだけで灼滅するのは正義じゃないと思うんだ」
    「そう言って頂けると嬉しいです~。きっと話し合えば仲良くなれますよねっ♪」
     答えを聞いて、頼仁は少し表情を緩める。アカリもにっこりと笑顔で応じる。
    「……もしどうしても人を襲いたくなったら俺を襲えよ。その時は全力で相手してやるから」
    「……」
     が、再び真顔に戻った頼仁が口にする言葉に、今度は少し目を細めるアカリ。
    「あははっ、解りましたぁ」
     すぐに無邪気な笑い声を上げると、冗談とも本気とも取れる様子で頷く。
    「さて、それじゃあたし達はそろそろ引き上げましょうか?」
     季節柄、まだ周囲は明るいが、時刻は夕方に差し掛かりつつある。皆を見回して問いかける剣に、一同も頷く。
    「そうだな……で、お前はどうすんだよ。帰るか、今ここで死ぬか」
    「ひえっ……か、帰ります~。皆さんさよならです~!」
     威圧気味に睨み付け、尋ねる皐月。秋空も油断ない視線をアカリへと向ける。それを見たアカリは竦み上がると、挨拶もそこそこにパタパタ走り去ってゆく。
     今回は故有って共闘の形になったが、正式な同盟関係が結ばれているわけでもない両者は、互いに警戒し合う関係なのだ。

     ともあれ、淫魔のアカリを助け、アモンの残党であるソロモンの悪魔を灼滅した一行。
     作戦を完遂した彼らは、ゆったりと河川敷を後に。武蔵坂へと帰還するのであった。

    作者:小茄 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年7月17日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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