奪還、ソーセージ工場!─ベルリンの赤い鮫救出作戦─

    作者:西宮チヒロ

    ●con slancio
     初夏の北海道は、見事なまでに爽やかだった。
     気温22度。からっとした肌触りの良い風が、鮮やかな緑に色づく牧草地を駆け抜けてゆく。
     木々の向こうからは、軽やかな鳥の声。
     見上げた先に広がる空は、広く、遠くどこまでも続──
    「アーッハッハッハッハ! この工場は今からこの私……『ベルリンの赤い鮫』が頂いた!!」
     いているその青空の下、牧場に囲まれたソーセージ工場では、ひとりの女の高笑いが響いていた。
     血のように赤い軍服に軍帽。全身に緋色のバトルオーラを纏う姿は、まさに悪の組織の女幹部めいていた。長く艶やかな銀糸を揺らす女に、工場長と思われる男はなけなしの勇気を振り絞る。
    「あ、あの、急にそう申されましても……ひぃっ!」
     言いかけた途端、女の手にしたサイキックソードが一閃、できたての、まだ繋がってぶら下がったままだったソーセージを斜めに切り落とされた。
     ほんわかと広がる、ソーセージの何とも言えない美味しそうな匂いの中、女は不機嫌そうに眉根を寄せ、サングラスの奥の青い双眸を細めると、
    「……何か言ったか? 一般人風情が」
    「に、逃げろ……みんな逃げろ……!!」
    「おかーさーん」
    「坊や、こっちに……!」
    「フフフ……ハハハハハ! さぁ、何もかも全部掻っ攫っていくよ! ゲルマンシャーク様のために!!」
    「「「「ヤー!!」」」
     
    ●con energia
    「げんまんしゃーく? 何だそれ美味いのか?」
    「ゲルマンシャークです、カナくん」
     音楽室のイスに座ってきょとんとする多智花・叶(小学生神薙使い・dn0150)へ、小桜・エマ(中学生エクスブレイン・dn0080)は手元の音楽ファイルから過去の報告書を取り出した。
    「この、飛行機みたいな鮫さんのことです。ご当地大幹部……えっと、すごく強いダークネスなんです」
    「何で鮫なのに飛行機なんだ? 戦艦じゃねえの?」
    「そっ、それは……」
     学園に来たばかりの小学生はそう無垢な瞳で問い掛けるも、言葉に詰まった様子のエマを見て、
    「解った。おとなのじじょーってヤツだな」
     なんか空気を読むと、続きを促す。
    「先日あった、そのゲルマンシャークの拠点調査……その時、闇堕ちしてしまった霧島・竜姫さんが見つかりました」
     場所は、北海道のとあるソーセージ工場。
     恐らく、竜姫の中でドイツというと、ソーセージ工場の類がイメージされたのだろう。彼女はグリュック王国内の食料調達にと、その工場を襲うらしい。
    「皆さんが現地に着く頃は粗方の人は逃げた後ですが、まだ工場関係者や逃げ遅れた一般人がいます。まずは、逃げる人達の波とは逆に工場の内部へと入り、残っている一般人を逃がして下さい」
    「守りながら戦うのは大変だもんな。……でも、どうすりゃいいんだ?」
    「これは……ある意味、簡単かもしれません」
    「へ?」
    「──ヒーローショーを、して下さい」

     これも、ご当地ヒーローであった彼女本来の血がそうさせるのだろうか。
     それとも、ご当地怪人としての性を識っているからだろうか。
     ご当地怪人と成り果てた竜姫は──それが例えどんなに不自然であっても──ヒーローショーを装えば、空気を読んで律儀に付き合い始めるのだ。ショーが終わるまでの間は、戦闘に参加しない面々は『観客』として認識し、一切手を出すことはないと言う。
    「とは言え、一般人の方が残っているのは色々不便ですから、流れに乗じて工場の外へ逃げて貰った方が良いと思います。そうすれば、あとは……皆さんに思いっきり、戦って貰えるかと」
     そうほわりと笑うと、エマは現地までの地図を広げて続ける。
    「ヒーローショー……つまり戦闘に入ると、竜姫さんは怪人形態である『ダイバードラゴン』に変身します」
     竜をモチーフとした特撮ヒーロー風のコスチュームを纏った彼女は、スーツとマスクで全身を覆い、肌や素顔を隠して応戦する。
     彼女の業は、サイキック斬り、閃光百裂拳、そしてご当地ビーム。
     そして、彼女の率いる配下3名は、いずれもサイキック斬りに似た攻撃を使ってくる。
    「竜姫さんは、まだほんの少しではありますが自我を残しています。……その彼女へ響く一番の声は、どうやら『観客』からの声援みたいなんです」
     観客からの声援。呼び声。
     それが大きければ大きいほど、彼女の心に眠る魂を揺さぶり、ダークネスの力を抑え込み──彼女を、目覚めへと導くことができるのだ。
    「これが最後のチャンスです」
     今回助けられなければ、彼女は完全に闇に堕ちるだろう。そうなればもう、誰の声も届きはしない。
     勿論、救出することが目的ではあるが、どうしても無理な場合は灼滅もやむを得ないだろう。
     竜姫はもう、ダークネス。迷いは、致命的な隙を生みかねないのだから。
    「竜姫さんも助けたい……けど、皆さんの命も──」
    「大丈夫だって、エマ」
     言葉に迷う年上の少女へ、少年が勝ち気に笑う。
     闇を識り、闇から救い出された叶。未だ戦ったことのない少年が、けれど唯一確信を持てること。
    「絶対、みんなで助け出してみせる!」

     ──おれたちの力は、そのためにあるんだろ?


    参加者
    椿森・郁(カメリア・d00466)
    阿櫻・鵠湖(セリジュールスィーニュ・d03346)
    伊勢・雪緒(待雪想・d06823)
    ルリ・リュミエール(バースデイ・d08863)
    イルル・タワナアンナ(勇壮たる竜騎姫・d09812)
    八川・悟(人陰・d10373)
    水城・恭太朗(水着興太朗・d13442)
    水流添・鴎(渡らずの鳥・d16753)

    ■リプレイ

    ●今回はスペシャルなのでいきなり本編からお送りします
     夏晴れの爽やかな北海道の空に木霊する、幾つもの悲鳴。
    「きゃあああああああああああ!!」
    「だっ、誰だお前は……!!」
    「おかーさーんおかーさーん」
    「うわぁぁぁぁぁぁん怖いよ────!!」
     突如現れたのは、赤い軍服姿の女。
    「この工場は今からこの私『ベルリンの赤い鮫』が頂いた!! さぁ、あるもの全部持って行け!!」
    「「「ヤーッ!!」」」
     戦闘員たちが声を揃えて叫ぶ。ドイツ風味だから応答もドイツ語だ!
    「悪行もそこまでです!」
    「誰だッ!?」
     凜とした少女の声に、ベルリンの赤い鮫──竜姫が振り仰ぐ。視線の先、工場のひときわ大きな機械の上には、9つの影。口火を切った伊勢・雪緒(待雪想・d06823)の隣で、椿森・郁(カメリア・d00466)の口上が朗々と響く。

    「前回までのあらすじ」

     かつての仲間、そして未来の戦友。
     その胸に熱きヒーロー魂を抱くご当地ヒーロー、『ダイバードラゴン』こと霧島・竜姫。
     だが、仲間を護ろうとその身を挺した竜姫は、ご当地幹部ゲルマンシャークの洗脳を受け、『ベルリンの赤い鮫』へと変貌してしまう。
     彼女を取り戻すために、決戦の地、北海道ソーセージ工場へと乗り込む『スレイヤーズ・テン』!
     観客の、そして仲間の呼び声が今、彼女を目覚めへと導く……!

    「第5459話『奪還、ソーセージ工場! ──ベルリンの赤い鮫救出作戦──』!!」

    ●Aパート
    「スレイヤーズ・テン、参上! 仲間を助けに来た!」
    「洗脳されたダイバードラゴンを取り戻しに参りました」
     ルリ・リュミエール(バースデイ・d08863)と並び告ぐのは、水流添・鴎(渡らずの鳥・d16753)。
    「……あまり、正義の味方と言う柄ではないんだけども」
     言いながらも口端を上げた八川・悟(人陰・d10373)。灼滅者たちはスレイヤーカードを天へと掲げ、声高に叫ぶ。
    「変身ッ!!」
     一瞬にして戦衣を纏う『スレイヤーズ・テン』!
     漆黒に身を包む悟、深紅を纏う郁。そして、
    「セイクリッドスワン」
     阿櫻・鵠湖(セリジュールスィーニュ・d03346)がふわりと桜色の髪を靡かせて、
    「ロイヤル・ドラゴン!」
     イルル・タワナアンナ(勇壮たる竜騎姫・d09812)が、騎乗したライドキャリバー『ティアマット』の駆動音を高らかに鳴らす。
    「おおお、変身したぞ!!!」
    「かっこい────!」
     老若男女から思わず湧き上がる拍手喝采。とうっ! と回転しながら降り立った戦士たちは、すぐさま一般人の前へと庇うように布陣する。
    「皆ァ! ここから逃げるんだ! ソーセージはドイツ、北海道は牛乳(?)、悪役退治はヒーローにお任せだ!」
    「早く避難を!」
    「危険じゃ。下がっておれ」
     駆け寄った水城・恭太朗(水着興太朗・d13442)と雪緒の後ろ、騎乗した白竜で回り込んだイルルは、戦闘員のひとりの頭上めがけて高く跳躍した。呻る駆動音に敵の声ならぬ声が混じり、姿もろとも消えてゆく。
    「すっげ──!!」
    「あ! 後ろ……!」
     子供たちの声と同時、別の戦闘員の剣が悟めがけて振り下ろされた。悟は瞳を細めてその軌道を読むと、僅か半身を翻してそれを躱し、
    「手早く済ませよう。……夏休みの宿題は初日に終わらせる質なんだ」
     逆手にあったナイフを半回転させ持ち直して、すかさず敵を一刀に伏す。
    「何をやっている! 早く──」
    「そうはさせません」
     竜姫の言葉を遮った鴎が、闇手で竜姫を絡め取り、続けて雪緒も拘束に加勢した。ルリが残る1体の戦闘員へと一気に距離を詰め、身を屈めたまま愛用のドリルアームをその腹へと穿つ。
    「八風、一緒に守るですよ。悪者の攻撃など通しません!」
    「梵ちゃんも、お願いしますね」
     雪緒と鵠湖へ応えるように一声鳴くと、霊犬たちが蹌踉めく戦闘員へと飛びかかった。獲物を振り仰ぎ、その確かな太刀筋で胸元に大きな二線を描けば、忽ち残り1体も塵と化す。
    「やったやったー!!!」
    「あ、ステージ傍は危険なので離れるようにお願いしまーす」
    「ちっちゃい子がはぐれないよう大人の人は見ててあげてくださーい」
    「ありがとう、スレイヤーズ・テン!」
    「がんばってースレイヤーズ・テン!!」
     鵠湖と郁、そして龍海・光理や東屋・桜花の声に後押しされるように、声援を残しながら逃げていく一般人たち。気づけば、彼らのいた場所には多智花・叶(小学生神薙使い・dn0150)たち、新たな観客がいた。
    「ご当地怪人の手に堕ちたダイバードラゴン、どうなっちゃうのかなあ? ヒーローの心を取り戻せるように、みんなで応援してねー!」
    「おー!」
     司会のお姉さん役でもある鵠湖に、大きく手を振る叶。
     配下は既に消え失せた。
     残るは、竜姫ただひとり。
    「八風、いきますです!」
     主の声に霊犬が頷いたその時、雪緒たちを閃光が包んだ。瞬く間にスタイリッシュモードで変身を遂げると、八風もヒーロー犬よろしく凛々しく主と肩を並べる。
     鴎も恥ずかしさを残しながらもアルティメットモードでマスクド・ガルに転じれば、
    「銀竜に巣食う闇よ……覚悟はよいか?」
    「何……!?」
    「ロイヤル・ドラゴン、ファランクス・シフト!」
     掌を掲げた瞬間、イルルへと集い、そして弾ける白。薄れてゆく光の中、よりスタイリッシュになったイルルが現れる。
    「ヤイヤイ! 赤い鮫とやら、何の罪も無い出来立てソーセージをこんなにするなんて、例え悪でもやっちゃいけない事がある!」
     捲し立てる恭太朗に続き、郁も指をびしっと突きつけ、
    「食べ物粗末にしたらばちが当たるんだよ!」
    「貴様等……無事に帰れるとは思うな……!」
     竜姫は軍帽の下で柳眉を寄せると、両の手で拳を作り身構えた。
     一瞬にして、新たな戦衣である特撮ヒーロー風のコスチュームが彼女を包む。
     竜をモチーフとした外見。スーツとマスクで全身を覆い、ダイバードラゴンへと転じた竜姫が一声、吼える。
    「──散れ」

    ●Bパート
     工場内に響き渡る、幾つもの戦音。
     竜姫、否、ダイバードラゴンの苛烈な刃が、拳が、灼滅者たちの骨肉を断つ。真っ向から行けば躱され、フェイントをかければ呼気をずらされ、そして回り込めば跳躍される。
     勿論、相手も傷を負ってはいる。だが、それでも口元に笑みを浮かべながら、鋭い連拳を容赦なく恭太朗へ叩き込む。
    「くっ……うわっ!」
     両の腕を交差するも、押し負けた恭太朗は、吹き飛ばされた勢いのまま壁へと叩きつけられた。壁を擦りながら崩れそうになる身体を、どうにか二の足に力を入れて持ち堪える。
    「大変! みんな、もっと大きな声援を!」
    「皆様の声はそんなものですか?」
     仲間の傷を塞ぎながらも、マイク越しに呼びかける鵠湖。それに鴎も続けば、より一層熱を増した観客席から無数の声援が湧き上がった。
    「負けんな──!!」
     拳を握りしめ瞳を輝かせて声援する叶の隣、
    「まだまだ行けー! ……それにしてもなんだこのソーセージ美味しい」
    「肉汁の甘みと香りがいっぱいに広がってまさに味覚のブリッツクリーク(電撃戦)!?」
    「太一さん……お知り合いですか?」
    「「いや」」
     光理の問いにきょとんとしながらも、ソーセージを介してすっかり打ち解ける紗守・殊亜と相良・太一。
    「所詮はその程度か」
     唇から荒い呼気を漏らす恭太朗に、ダイバードラゴンは不敵に笑うも、
    「っててて……そっちが闇墜ちなのに、このままってのはムリがあったか……」
    「何ッ……!?」
    「だったらこっちも──ドラゴンパワァァァ!!」
     瞬間、凝縮された光が弾けた。ゴージャスモードに転じ、眩く白む中から姿を見せた恭太朗の姿に、
    「貴様、それは……!?」
    「そう、これがスレイヤーズ・テンの『ブルー・スプリング グリーン』の真の姿だ!」
    「──今だ」
     真っ先に動いた悟。その獲物がマスクを抉り、郁の郁子なる影が蔓を伸ばして四肢を絡めた。煌めきを増した緋色の双眸でダイバードラゴンを捉えると、刃の葉で追随する。
     それでも彼女は攻撃の手を休めることはなかった。拘束を解き、痛みをものともせず繰り出される深い一手。追いつかなくなり始めた回復に、ルリはきゅっと唇を引く。
     この世に主人公なんていやしない。
     都合の良いヒーローなんて現れない。
     黙っていても助けは来ないし、叫んだとて救いがあるとも限らない。
     それでも、大切のものを失いたくないのなら、無駄でも無理でも、分不相応でも、なるしかないのだ。
     大切な友達を助けるために――ヒーローに!
    「負けないでスレイヤーズ・テンー!!」
    「みせてやれ! 武蔵坂学園魂!」
    「闇を切り裂く光になれ!」
    「お前が! お前たちがヒーローだ!!」
    「頑張れ──!!」
     周囲に湧き上がる声援。葉月・十三や、どこからか力強く響くスウ・トーイの声に、ルリの纏う気が変化した。

    「変身!」

     空色の衣装がアルティメットモードに変わると、ルリの指先から一際大きな力が解き放たれた。溢れるほどの霊力が一条の光となって、恭太朗の幾つもの傷を見る間に癒していく。
    「竜姫さん、あなたの居場所はそちらじゃないわ! みんなが待ってる場所へ帰ってきて!」
    「ゲルマンシャークの洗脳になんか負けちゃだめだよっ」
    「や……め、ろ………!」
    「ドイツも悪いところじゃないと思うけど、霧島さん……! あなたのご当地はそこじゃないでしょう?」
    「黙れ……ッ!」
     光理と桜花、郁の言葉を振り払うように繰り出された拳を、郁は寸でで避ける。
     ふと、過ぎるのは以前一緒に解決した依頼。
     あのとき竜姫は、一般人の為にヒーローショーを装って戦おうと提案してくれた。
     その彼女を闇から連れ戻す方法もまた、そんな風に戦うこと。それはとても『らしい』ことだと、郁は思う。
     そうして、強く信じる。
     みんなの声は、ちゃんと届くと。
    「だって、本物のダイバードラゴンは虹色に燃える竜だもの」
     それに、鮫より竜のほうが強いに決まってる。そう笑う瞳に、竜姫が映る。
    「皆がそなたの正義を……ヒーローを待っておるのじゃぞ! そう、スレイヤーズ・テンの再起をな!!」
     咆吼する一輪機とともに、イルルの影刃がダイバードラゴンへと突き立てられる。
     十人の灼滅者(スレイヤーズ・テン)。
     それは、集った灼滅者たち9人と──竜姫のこと。
    「キミはスレイヤーズ・テンの仲間でしょ! おねがい帰ってきてー!」
    「戻ってきて、『ダイバードラゴン』!」
     桜花の声援に、ヒーローショーに馴染みのなかった梓奥武・風花も自然と声を大きくする。
     声が力になるなら、いくらでも名を呼ぼう。だって、彼女は学園の──私たちの、仲間なのだから。
    「戻ってきて欲しいと望んでる人達が沢山います。駆けつけた人達が、貴方の帰りを待っています」
     どうか、どうか。皆の気持ちが届きますように。そう、勾月・静樹も願わずにはいられない。
    「聞こえますか? 霧島様を呼ぶ声が。誰しもが貴女の御帰還を望んでおります」
    「貴女を助けたい想いでこれだけの方々が集まってくれました。この声に応えずにいられる貴女ではない。そうでしょう?」
     竜姫の内にあるはずの正義を信じる鴎が、鵠湖が問いかける。
    「帰りを待っている人達がいるのなら、闇に堕ちたままでは駄目だろう?」
    「思い出してください、正義の心を! 愛機ドラグシルバーと共に悪漢を倒していた姿を! 皆、貴女が戻るのを待っているのです!」
    「そうだよ竜姫さん、一人で悪役してるより、皆でヒーローしてる方が似合ってるぜ? 戻ってこいよ、スレイヤーズ・テンに!」
     悟、雪緒、そして恭太朗。
     竜姫を囲む仲間たちのその奥で、ひとりの少女が立ち上がった。
    「竜姫……いろはだよ。竜姫のお陰でいろはは無事戻れて、皆にゲルマンシャークとレディ・マリリンの野望を伝える事が出来たんだよ」
     だから、今度はいろはが竜姫を助ける番。
     四月一日・いろはは金の双眸に力を込めると、真直ぐに竜姫を見る。
    「雌伏の時はもう終わり、今度こそ雪辱を果たす時だよ。あんなマリモの出来損ないに、良い様にされてる場合じゃないよね?」
    「う……あ……ああああああああっ!!!!!」
     ダイバードラゴンの身体が大きく揺らぐ。苦しげに声を漏らし、痛みを堪えるかのように頭へと手をやるも、途端、床を蹴り上げて反撃に転じた。
     上段から振り下ろされた剣先。ガードを突き破られながらも、雪緒は痛みを堪えて後方へと飛び距離を取った。すぐさま鵠湖が癒やしの光輪を放ち、代わりに間合いへと踏み込んだ鴎が、振り上げた日本刀を思い切り叩き下ろす。
     竜姫とは、ただ一度ライブハウスで武器を交えただけ。
     決して深いとは言えない縁。けれど、ひとたび道交えた相手ならば手を差し伸べたい。
     だから助けに来た。己の持ちうる、全ての力を以て。
     それは悟とて同じであった。救う為に最善を尽す。その為の一撃、その為の血花。
    「ねえ、ずっとずっと主人公になりたかったんでしょ! 命を賭けて皆を守るヒーローになりたかったんでしょ!」
    「なり……たかった。わた、し……ヒーローに……」
    「だったら、それは全然終わってない! 始まってすらいない! 手を伸ばせば届くんだ――だから!」

     ──帰ってきてよ、竜姫ちゃん!

    「帰り、たい……みんなの、所へ……」
     ひび割れたマスクの奥。零れる声に、仲間たちにも笑みが広がる。
    「ご当地ヒーローは助け合いですもの。ねえ、みなさん」
    「ですね」
    「だな!」
    「うん!」
     返る答えや頷きに、鵠湖も柔らに笑って。
    「じゃあ、最後は応援と攻撃、みんなで一緒にやりますよー!」
    「いっけええええええスレイヤーズ・テン!!!」
    「八風、コンビネーションアタックです!」
     同時に地を蹴り、高く舞う灼滅者たち。
    「ノーザン・グランツァー・キィィック!!」
     次は竜姫や皆と一緒に遊びにきたい。
     その願いを込めて繰り出されたイルルの一撃が、皆のそれと重なり──爆ぜた。

    ●ED『スレイヤーズ・テンのテーマ』 作詞:水城・恭太朗
     迫り来るダークネス、激しい赤い雨。
     出来立てのソーセージ、奴らが狙ってる。

     守り抜くぜ、friendship。
     勝ち取るのさ、Get! glory。

    「竜姫!」
    「竜姫さんおかえりなさい……!」
    「……皆さん、私……」
    「悪役も良いけど、やっぱヒーローだろ?」

     荒れる北の大地、守り抜くため。

     くじけそうな時胸の奥で聞こえる友の声。
     耳を傾けろ、光さす方へ。

    「え? ソーセージ食べたい? ふふ、梵ちゃんも安心しましたか?」
    「八風、落ちているのは勝手に食べたらめーですよ?」
    「それなら、ソーセージパーティでもしましょうか?」
    「それは妙案じゃ! 帰ったらソーセージで祝杯ぞよ♪」

     勇気にライドし一直線へ。
     取り戻せドラゴンハート。

     信じろ友を、自分の力を。
     心のありかを、あふれる思いを。

     ──スレイヤーズ・テン!

    作者:西宮チヒロ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年7月13日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 30/感動した 5/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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