キラキラとダイヤの宝石のように輝くソウルボード内で。
ティータイムと洒落込む、派手な装いの紳士。
「それじゃあ二人とも、お願いするね」
そして彼――パンタソス・カロがにこにこと微笑みかけるのは、2体のシャドウだった。
「ぱんたーのお願いならがんばるー。でもこれする意味わかんないー。なんでことするわけー?」
「……同じく、ボクにも理解不能なのですが」
口調から幼い印象を受けるが、その姿は、闇が膨れた様な不定形なぶよぶよした塊。
付けた猫耳と尻尾をゆらり動かしながらも、2体のシャドウはパンタソスの『お願い』に大きく首を傾げている。
だがパンタソスは、再び紅茶を口に運んでから。
己の配下達に頷きつつ、こう続ける。
「そう、理解不能なんだ。でも、だからこそ、私達が理解不能なくらいの作戦じゃないといけないだろう?」
「んー。まぁそうなのかもねー」
「パンタソス様………ボク達からすると、あなたも、充分に理解不能です」
主の意図がまだ分からないながらも、思い思いにそう呟く双子のシャドウ。
パンタソスはそんな配下達へと交互に視線を向けてから。
「それじゃ、よろしく頼むね。張り切って、いってらっしゃい♪」
紅茶をもう1杯カップに注ぎつつ、ひらりと上品に手を振るのだった。
●
カチリコチリと音を立てる時計の針を見つめて。
「遅くなる時は連絡してって言ってるのに……」
溜め息とともに漏れる呟きが纏うのは、不満の色。
夫のトモキは容姿も良いし、自分が働かなくても困らない程度には高給取りで。
感謝しているし、自分も彼を支えたいと――以前は、そう思っていた。
だが、疲れて帰宅する夫との会話もなくなり、口を開けば、互いの言葉や態度に苛立ちを感じるようになって。不満をぶつければ、返って来るのはおきまりの、『誰が養っていると思ってるんだ!』という怒鳴り声。
「もしまた怒鳴られたら、私、もう我慢できないかも……」
面と向かって彼に何を言っても、どうせ無駄だろうし。凝った夕食作りなんて、頑張ったって無意味だし……と。
冷めた魚や味噌汁を、食卓に無造作に置いたまま。
「……もう知らない」
ミナコは家の明かりを消して、寝室へと入るのだった。
それから暫くして――カチャリと扉が開く音が響き、人の気配がする。
トモキが、帰宅したのだろう。
でももう面倒だと、そのまま寝たふりをするミナコ。
だが、そっと静かに寝室の扉が開き、ふいにかけられたのは。
「ミナコ……いつも遅くなってごめん。今日は、携帯の充電が切れてしまって……おまえとの時間もなかなか取れないし、本当にごめんな」
普段のものとは違う、優しい声であったのだ。
さらに、ミナコが寝ていると思っている夫は、素直に本音を口にしていく。
「仕事が忙しいからって、おまえに冷たくあたるなんてな……本当は家を守ってくれていること、感謝しているのに」
素直に言えなくてごめん、愛している――と。
そうトモキが続けた、その時。
「……私こそ……ごめんなさい、トモキ……」
「ミナコ!? あ……ごめん、起こしちゃったか?」
「ううん、私こそ先に寝ちゃってごめんなさい……私も、すごく貴方に感謝しているわ」
ミナコは少しバツが悪そうに、でも嬉しそうに。夫の大きな手をそっと取って。
トモキも本音を聞かれて照れくさそうにしつつも、優しく微笑んで。妻の手を、ぎゅっと握り返したのだった。
『幸福な悪夢』によって再び修復される――或る夫婦の、騙られたそんな愛情のカタチ。
そして朝……向けられた夫の笑顔は、新婚当時と同じ優しいもので。
「いってらっしゃい、トモキ。気をつけてね」
自分も不思議と、彼に優しくなれると。
ミナコはそう感じつつ夫を送り出しながら、今日は少し凝った夕食を用意しよう、と。
張り切って家事を始めるのだった。
●
「慈愛のコルネリウス達シャドウがね、また新たな『幸福な悪夢』をみせてることが察知されたんだよ」
集まってくれてありがとーと、飛鳥井・遥河(中学生エクスブレイン・dn0040)は灼滅者達にへらりと笑んだ後、事件の概要を語り始める。
「或る夫婦のソウルボードにね、1体ずつシャドウが送り込まれているみたい」
今回の『幸福の悪夢』は、『夫婦それぞれに幸福な悪夢を見せて、互いの愛情を偽装している事件』なのだという。前回までの悪夢とはまた少し、趣向を変えているようだ。
「これはね、悪夢で改ざんされてるから保てている夫婦関係ではあるんだけどさ……今回は夫婦に何か被害があるどころか、『幸福な悪夢』を見ることによって、むしろ破綻しかけた関係が修復されているんだよね……」
だが、やはりこれはダークネスの所業。なんらかの重大な目的がある可能性も否定できないのも事実。
「それに背後にはね、コルネリウスの配下と思われるシャドウ・仮像者パンタソスの意向が働いているようなんだよね。だからみんなには状況の確認をお願いしたいんだ。彼らの目的は全くわからないから、実際にどう対応するかは、みんなの目で見て現場で判断して欲しいよ」
今回は、明確な被害者がいるわけでは無い。むしろメリットしかないように思うが。
シャドウが夢に居座っている状況を、何もせずに見過ごすわけにもいかないだろう。
コルネリウスやパンタソスの狙いを探り、今回のような事件にどう対応すべきか。
実際にソウルボードに入り、皆で考えて行動してみて欲しい。
「それでみんなには今回、奥さんのミナコさんの夢に入って貰うよ。彼女に現実を教えて幸福な悪夢を否定する行動をした場合はさ、パンタソスの配下らしきシャドウ1体が現れて、戦闘を挑んでくるんだ。シャドウのサイキックと得物の咎人の大鎌のサイキック、基本戦闘術も使ってくるかも。それで、奥さんがみんなに対して否定的な感情が大きいほど、シャドウと一緒に現われるキッチン用品の雑魚の数が変わってくるみたい。あと、今回はパンタソスは姿を現さないようだから、彼から何かを探る事はできなさそうだよ。それから、沙汰に夫の方の未来予測をして貰ってるけど、夫婦は同じ家で寝てるから、ソウルアクセスするまでと夢から出てきた後は、夫班と一緒に行動してもいいかもねー」
遥河はそう告げた後、改めて皆を見回して、こう続ける。
「慈愛のコルネリウスが何を考えているかは、やっぱりわからないけどさ。オレ達に今出来る事は、彼らの打つ一手一手の意味を考えて、個別に対応することだけなんだよね。だけどさ……その積み重ねが、重要な意味を持つと思うんだ」
だから、よろしくお願いするね、と。いつも通りにへらりと笑んでみせてから。
気をつけていってらっしゃい――遥河はそう、灼滅者達を見送るのだった。
参加者 | |
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神薙・弥影(月喰み・d00714) |
神田・結平(限りある永劫・d01498) |
比良坂・八津葉(死魂の炉心・d02642) |
月詠・千尋(ソウルダイバー・d04249) |
文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712) |
リーファ・エア(夢追い人・d07755) |
小早川・美海(理想郷を探す放浪者・d15441) |
志乃原・ちゆ(パルランテ・d16072) |
●目隠しの裏側
バサリと、夜風に揺れるカーテン。
その隙間からさす月光が照らしたのは、仲良く寄り添い合う、写真立ての中の二人。
「采さん、翠里さんはお久しぶりです。今回はよろしくお願いしますね」
リーファ・エア(夢追い人・d07755)は夫の夢へ介入する仲間とも、確認事項を打ち合わせしようと声を掛けた後で。
相手班と分かれ、ミナコの寝室へとそっと足を踏み入れた。
ミナコは幸い、ドアに背を向けて眠っている。
小早川・美海(理想郷を探す放浪者・d15441)は、たまにはシャドウハンターらしい仕事をしてみるの、とそんな彼女へ両手を翳して。
「それじゃ、皆をソウルボードにご招待、なの」
いざ――夢の中へ。
リビングのソファーで舟を漕ぐミナコを労わる様に。
ふわり彼女の頭に乗せられたのは、隣に座ったトモキの大きな掌。
ミナコは与えられた温もりに微笑みながらもそっと、帰宅した夫へと、身を預ける。
それは――幸せそうな、仲の良い夫婦の姿。
だがこれは、偽り。
心の奥には、まだ互いへの愛情があるのかもしれないが。
しかし間違いなく目の前の二人の姿は、騙られたものだ。
これは、慈愛のコルネリウスや仮像者パンタソスが仕向けた『幸福な悪夢』なのだから。
(「コルネリウスやパンタソス達のしてることって……、まるで神様の目線からの実験動物を見てるみたいで、少し嫌な気持ちになります」)
可能ならば夫婦の気持ちをお互いの口から伝えて欲しい、と。
清楚な雰囲気を崩さぬながらもそう思う、志乃原・ちゆ(パルランテ・d16072)であるが。今回の自分達の目的や方針に添い、口を噤む。
そして騙られた夫婦の姿を、強い意思宿る月色の瞳で見た後。
「そんな所隠れてないで、出てきてくれる?」
まるで幼子を相手する様に、ソウルボード内で声を掛けたのだった。
それに続くのは、神田・結平(限りある永劫・d01498)。
「夜分遅くに失礼します。いらっしゃいましたら、俺らがシャドウと呼んでいる方は出てきていただけませんか」
仲間達が言の葉を紡ぎやすい雰囲気を作る物言いや仕草で、緊張感満ちる場の空気を和らげる。
「ねえ、私たちの事も見てるのでしょう?」
神薙・弥影(月喰み・d00714)も、ソウルボードのどこかにいるだろうシャドウに語りかけてみるも。
(「毎回趣向を変えて……何が目的なのやら。双方で話し合いの場でも設けられればと思うのだけどね」)
解り合えるかどうかは別として、だけど……と。宿敵の思惑を探るべく、話し合いを望む。
今回目指すは、シャドウとの対話。
交渉と言うよりも、互いの立場確認と容認するべき事と、否定するべき事の通達だと。
申し訳なく思いつつもミナコとは接触せず、シャドウへと呼びかけるのは、比良坂・八津葉(死魂の炉心・d02642)。
「話があるわ。出てきてくれない?」
今回の事件は、今後の『幸福の悪夢』に対しての糧になるだろうけれども。
それが好いものか悪いものになるのかは、八津葉にも勿論分からない。
でも。
(「自分の手で選んだ結論は自分の意思で守り通し、その上であの夫婦に少しでも良き結末を見せてあげたいわ」)
色々と難しい案件ではあるが、自分達が選んだその結論からは逃げたくない。そんな強い気持ちで臨んでいて。
月詠・千尋(ソウルダイバー・d04249)もまた、今回は目的を思い、譲歩したが。
コルネリウスの『幸福な悪夢』事件を知るきっかけを掴んだ身として、譲れない思いを心に強く抱いている事だろう。
だが……そんな灼滅者達の言葉にも、一向に姿を現さないシャドウ。
そんなシャドウへと、はっきりと素直にリーファは告げる。
「私達はこの悪夢を『肯定』します。だから、少し話しませんか?」
この『幸福な悪夢』を、『肯定』する事を。
(「ふーむ、なかなか判断の難しい事してきますよね。個人的にはこの夫婦は、丁度良いサンプルになるなら、このままでも良いんじゃないでしょうか?」)
そういえば宿敵ではあるが、完全なるシャドウ相手は地味に初めてだと。そう思いつつもミナコの姿を見るリーファの隣で。
(「彼らの意図か……もしかしたら、俺達が動物を保護する感覚に近いのかも? 種族が違うからそういう見方は仕方ないのかもしれないな」)
ミナコに気付かれぬよう気を配りつつも思案する、文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)。
そんな2人の……いや、この場に赴いた8人の灼滅者達の思いは、同じ。
――次に繋げたい、と。
その為には、シャドウに出てきて貰い、話し合いたいのだが。
「貴方と少し話したいだけ。姿を見せてくれないかしら」
「私はソウルアクセスしたいだけのシャドウハンターなので、別に私に害が無ければ、特に目の敵にはしませんよ」
今は悪夢を壊す気が無い事を示すべく、再び呼びかける弥影やリーファ。
だが、それでも……シャドウが出てくる気配はない。
そこでふと行動に出るのは、美海。
「この精神世界で、あなたの仕事ぶりを見学させて欲しいの」
そのお願いにも、返る反応はなかったが。
猫変身した美海は、遠目からミナコを窺いつつ調査を試みるのだった。
●実験対象
ソウルボードに侵入して、どのくらい経っただろうか。
再三に渡る呼びかけにも、全く姿をみせないシャドウ。
まるで――灼滅者達の言動ひとつひとつを、じっと観察しているかの様に。
これまで散々『幸福な悪夢』を壊してきた事を思えば、簡単に出てくるとも思えないが。
もうこれ以上、ただ待っているだけでは埒が明かないと。
「無視し続けるのなら、この夢を破壊する場合があるわ」
そう判断した灼滅者達は、強引にでもシャドウを引きずり出さんと、脅しをかけてみる。
「姿を現す様子が無いのなら、悪夢を壊すわ」
「そんなに非協力的な態度だとこの夢、壊れてしまうかもしれないですよ?」
八津葉に続き、弥影とちゆもすかさず続く。
だがそれでも……シャドウは、姿を現さない。
いや、そもそも『悪夢を壊す』こと自体、『脅し』になっていないのだ。
今回のシャドウの目的を、考えれば。
この『悪夢』を見せているのは、コルネリウスでもパンタソスでもない。
意図も分からぬまま、パンタソスの命令にただ従っているシャドウの仕業であるのだ。
そんなシャドウにとっては、『理解不能』なこの悪夢が壊されようと、ただ『言われた事』さえ成せればいいのだから。
そして――ポーカーゲームになったら……降りるしかない、と。
脅してはみたが、方針的に実際に悪夢を壊すわけにはいかず、またシャドウも出てこない現状に。
八津葉がそう思った、その時だった。
「!」
『……これでボクの実験は終了です。ご協力、どうもありがとう』
ようやく姿をみせたのは、勿論。
「シャドウ……!」
猫耳猫尻尾をふりふりと振る、シャドウであったのだ。
「こんな夢で、何してるの?」
ちゆはそうシャドウを見遣りながら、できるだけ優しい口調で訊ねて。
「小早川・美海なの。……あなたのお名前、何て言うの?」
「俺も知りたいぜ、名前」
そうまず自己紹介し、それから訊いた美海に同意するように、大きく頷く直哉。
「名前などがあるのなら教えていただけますか。なければ呼びやすくしたいので、何かしら呼称を付けたいのですが」
アルファ、ベータなど、と。結平も、学園の名前や未来予測に関する事は漏らさぬよう注意しながら、あくまで調和を大事にし、紳士的に接するも。
『……シャドウ、ではダメなのですか? 別に呼びたい呼び方があれば、それでもいいですし』
何でそんな意味のない事を、と言わんばかりに首を傾けるシャドウ。
そんな相手に、さらに質問を投げかけてみる灼滅者達。
「何か私達に、聞いてみたい事とかありますか?」
リーファのそんな言葉にも、シャドウはただぴこぴこと耳や尻尾を動かすのみで。
すぐに思いつかないのでしたら、いつか私のソウルボードにでも聞きに来てください、とリーファが告げた後。
「ねえ、私たちについて何か聞いてる?」
「パンタソスから、何を指示されたの?」
「この夫婦を選んだのは、貴方たちの意思なのですか? それとも、指示によるものなのですか?」
弥影や八津葉が問いかけ、結平も続ける。
「シャドウにとっての幸せとは、どういうものなのでしょうか?」
「あなた自身は、人間について如何思ってるの?」
美海も、シャドウの思考が少しでも分かればと、質問を重ねてみるが。
『……パンタソス様も、貴方達も、本当に理解不能なんですけど』
答える気など全くない様子で、シャドウは、はあっとただ大きく溜め息をつくだけ。
そんな相手へと、この夢の危険性を訴えかけるのは、八津葉。
「この夢は……方向性としては悔しいけど、認めるわ。でも、人に必ずしもいい影響は与えない」
これは人間にとって幸せな夢であるかもしれない。でもやはり、『悪夢』であるのだと。
今までコルネリウスの『幸福な悪夢』をソウルボードで見てきて。彼女に同じようなことを主張してきた千尋も、シャドウの反応を注意深く窺う。
そして、直哉も。
「夢が人の心を救う薬となるのは認めるけど、いつまでもその夢へ依存し続けては、現実世界で自立して生きて行く力を失ってしまう」
俺達はそれが怖いんだ、と。
何故人間にとってこれが『悪夢』なのか、言って聞かせてから。
「だから夢から脱却させたい。でもそれは夢の効用を全て否定している訳ではないぜ。同じ夢でもタイミングによっては薬にも毒にもなると思う」
シャドウへと一つ、提案するのだった。
「もしまだ実験を続けるつもりならば、夢の薬が毒となる前に、俺達と協力して、この夫婦を幸せなままに夢から脱却出来る方向に持って行けないだろうか? お前達の目的が夢に捉える事でなく、人の心の幸せだと言うのなら、治療を終えれば現実へ戻す事に問題は無い筈」
夢が全部悪いとは思わない、でもシャドウは人間よりずっと強いから怖いんだ、と。
そう丁寧にひとつひとつ、自分達を少しでも理解して貰うべく説明して。
「俺達には互いの理解と信用が足りないのだと思う。だから話し合いでその溝を埋めて、もっといい関係を作れないかな?」
――手を組めないかな? と。
このシャドウだけでなく、パンタソスやコルネリウスにも向けた言葉を投げかけ、その思いを書き記した手紙を渡す。
だが、シャドウは相変わらず猫耳と尻尾をゆらり揺らしながら。
『……?』
より大きく、首を傾けただけであった。
ちゆはそんなシャドウに、再び分かりやすく質問する。
「どうしてパンタソスやコルネリウスに従うのかな?」
「ぱんたーともお話がしてみたいの。ここに来てもらえないかな?」
「あなたから見て、パンちゃんはどんなシャドウですか?」
「それと、その猫耳と尻尾、もふもふしてOK?」
裏で指示を出しているパンタソスを呼んで欲しいと続ける弥影。
そしてリーファや美海も、シャドウへと再び訊ねてみるも。
『……パンタソス様は理解不能なところもあるけど、紅茶好きな紳士ですね。ていうか、さっきから質問や要望ばかりですけど……ボクがこたえる必要も義理もないでしょ』
……まぁ尻尾もふもふくらいなら、と。満更でもなさそうに美海へと尻尾をふりふりさせ、もふもふされた後で。
『……とはいえ、協力してもらったことですしね……じゃあそのお礼に、こいつらと戦わせてあげますね』
そう言ったシャドウが、猫耳をぴこぴこさせた、瞬間だった。
「えっ!?」
「!!」
灼滅者達は本能的に身構えながらも、思わず目を見張る。
現われたのは――ミナコのカタチを模った、包丁やおたまを持った衛兵であったのだ。
「これは……!?」
『……夢を見てる人間の『利己心』の象徴。こいつらを完膚なきまでに叩き潰せば、夢の外の状況も多少は改善されるかと。あとは、この夫婦と……そして貴方達が、この後どう行動するか次第、ですかね』
シャドウはそう、それだけ告げてから。
「! 待ってっ」
「もう少し話を……!」
引き止める灼滅者達の声にも構わず、相変わらず耳を貸さずに。
「また近いうちにお会いしたいです。お返事もできれば聞きたいですしね」
結平が投げかけた言葉を最後に、猫耳猫尻尾をふりふり、ソウルボードから姿を消したのだった。
ミナコの『利己心』のカタチだという――『悪夢の衛兵』を残して。
●利己心の象徴
猫耳シャドウとは、一応顔を合わせる事はできたとはいえ。
正直『話し合い』どころか、会話にすら余りならなかった。
だが、シャドウの置き土産『悪夢の衛兵』は倒すべきだと。
「喰らい尽くそう……かげろう」
「風よ此処に」
弥影の伸ばした影が空洞の瞳の黒狼と成り、ミナコの『利己心』へと牙を剥いて。
くいっと眼鏡上げつつ最前線へと躍り出たリーファの一撃が、衛兵を呆気なく打ち倒す。
さらに衛兵へと見舞われるのは、千尋の繰り出した強烈なトラウナックル。
そして周りを守る為、いざという時の覚悟を決めていた結平だが。幸いこの『悪魔の衛兵』達の戦闘力は大したことがないようで。螺旋を描き唸る鋭撃に貫かれた衛兵が、また1体、消滅する。
余程ミナコの鬱憤が溜まっていたのか、それなりの数の衛兵がいたが。
予想外の戦闘にも動じず迎え撃った灼滅者達の手によって、全ての衛兵が倒されるのに。
そう、時間はかからなかったのだった。
「これから、夫婦や俺達がどう行動するか、か……」
ミナコの夢から出た後、ふとそう呟く直哉。
今回のシャドウにはよく理解されなかったようではあるものの。
自分達の意思は、間違いなく伝えた。
そして悪夢を『肯定』し、それによって出た『結果』。
望んでいた『話し合い』こそ無理ではあったものの、悪夢を壊さずにシャドウを呼び出す事は何とかできて。
シャドウが具体化させた、人間の『利己心』から成したという『悪夢の衛兵』。
この存在を潰せば、現実でも状況が多少改善すると。そう、シャドウは言った。
そして灼滅者達は1体残らず、そのミナコの『利己心』を破壊した。
だから……これであとはもう、ミナコとトモキ次第。
「心のなかで思ってることは、ちゃんと相手の顔を見ないと……伝わりませんよ?」
ちゆは、ふと眠っているミナコへとそう告げてから。
「皆でこの後、ファミレスで朝ごはん食べません?」
「ファミレスで朝食込みの反省会?」
「あ、行くならお付き合いするわよ」
「オムライス食べたい、の」
「俺はパフェが食べたいですね」
リーファの声に賛成して頷く、八津葉や千尋、美海や結平の言葉に瞳を細めて。
「そうだな……。私、お味噌汁が飲みたいです」
夫班も戻っていれば一緒にどうでしょうか、と。
気になる事はまだ多いが――健やかに眠るミナコの寝室を、そっと後にしたのだった。
作者:志稲愛海 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年7月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 14/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 5
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