とあるどこかの海水浴場、ここ数日のうだるような暑さに耐えかねて人々が水着に着替えて海へと飛び込んでいく。梅雨も開けて、輝く陽射しが砂浜と水面を輝かせる。
飛び交う黄色い声、涼やかな波の音。それらが一時の厳しい暑さを忘れさせてくれる。そんな平和な場所を遠くから見つめる者がいる。
近くの林の中、背中に大砲を持った豚……バスターピッグと呼ばれる眷属である。彼らは遠くに見える人間たちにターゲットを定めるとかけ出して行く。
「って、いう感じでバスターピッグの群れが海水浴場の近くに出てくるからぱぱっと倒してきてくれないかな」
有明・クロエ(中学生エクスブレイン・dn0027)が灼滅者達に伝える。
「相手の数は10体ぐらいで使うサイキックはバスターライフルの。ポジションはクラッシャーだよ。1体だけちょっと強いのがいるけれど皆ならきっと大丈夫」
クロエは手慣れた様子でてきぱきと説明していく。
「それで皆が戦場に出来る場所は二つの候補があるの。一つは林の中、ちょっと木が邪魔で攻撃が少し当たりにくくなるけれどそれはお互い様だね。もう一つは海水浴場の端っこ、こっちは邪魔になるのは無いけれど遊びに来てる人が巻き込まれちゃうかも知れないから対策が必要だと思うよ」
それで、とクロエは資料をしまって灼滅者達に話しかける。
「それで、みんなならバスターピッグ達を倒すのも油断しなければ簡単に倒せると思うんだ。だから余裕があったら海で遊んできてもいいんじゃないかな。それじゃ行ってらっしゃい!」
参加者 | |
---|---|
因幡・亜理栖(おぼろげな御伽噺・d00497) |
蒼月・悠(蒼い月の下、気高き花は咲誇る・d00540) |
橘・蒼朱(アンバランス・d02079) |
銀夜目・右九兵衛(ミッドナイトアイ・d02632) |
近江・祥互(影炎の蜘蛛・d03480) |
英・蓮次(マイナスセブン・d06922) |
海藤・俊輔(べひもす・d07111) |
惟住・多季(花環クロマティック・d07127) |
●
「もう人いっぱいなんだな」
遠くから人々の楽しむ声と波の音が入り交じってこちらに届く、それを聞いて橘・蒼朱(アンバランス・d02079)が呟いた。だが潮の匂いも微かに混じって辺りに広がっているものの視界に広がるのは木々の肌と、い日差しが生み出す濃い影だ。そんな海水浴場に程近い林の中に灼滅者達は分け入っていた。求めるのはバスターピッグ。
「いつも思いますが、相変わらず大砲と豚さんの組み合わせって面白いですね」
惟住・多季(花環クロマティック・d07127)の言うとおりこの辺りに現れるという眷属はよくわからない取り合わせである。これを作ったダークネスは果たして何を考えていたのだろうか。
「……豚のせいで」
英・蓮次(マイナスセブン・d06922)が後ろから聞こえてくる女の子の声を呟きながら振り返る。凄い残念そう。本当に残念そう。
「逆に考えるんや、こういう依頼だからこそ海に来れたんやと」
銀夜目・右九兵衛(ミッドナイトアイ・d02632)が真剣な顔で言う。彼も海に来ることを楽しみにしているのだろう。どのような楽しみ方をしたいのかは蓮次のものと遠くは無いだろう。
「サーフボード持ってきたんだけど……」
「サーフィンするのかー?」
「……その前に泳いでみたい」
近江・祥互(影炎の蜘蛛・d03480)と海藤・俊輔(べひもす・d07111)の海に慣れていない組もまた海を間近に見てテンション上がり中。そんな彼らの前に程なくバスターピッグの群れがぞろぞろと現れる。
「お邪魔虫が出たみたいだよ」
因幡・亜理栖(おぼろげな御伽噺・d00497)が鋭い刃を構えて眷属達に向ける。他の灼滅者も武器を構える。
「さあ皆怪我なくささっと行きましょう」
「プギーッ!!」
蒼月・悠(蒼い月の下、気高き花は咲誇る・d00540)の発言に気を悪くしたのかバスターピッグ達が甲高い声で喚き、砲塔を灼滅者達に向けて熱線を放つ。それが戦いの始める号砲となった。
「さあ、幕を上げましょうか、戦いの!」
槍を掲げる悠の脇を灼滅者達が駆け出していく。
●
木々の茂る狭い戦場に敵味方入り混じり駆けまわる。バスターピッグ達は長い砲塔をものともせずに移動し、灼滅者に程近い所から射撃を行って来る。
「のわっ!?」
至近距離から攻撃を受けた右九兵衛が衝撃にのけぞる。
「基本は見えてる雑魚から確実に、なんやろうけど」
頭を振る彼の右腕にあるレドームが起動音を微かに上げる。高速演算モードに入り、林を駆けまわるバスターピッグ達の動きを捉えやすくする。互いに当たりにくい状況では向こうも同じように狙いを定めるモードに入る。
「あれを崩して行くぜ!」
蓮次が炎の羽を呼び、自らに破魔の力を纏わせる。あとは攻撃が当たれば相手の態勢は崩せるだろう。当たれば、だが。彼がその力を発揮するよりも早くバスターピッグ達が精密性の上がった射撃を放ってくる。
「効かないよー」
光線をかき分けるように飛び込んで俊輔が雷のこもった拳を敵の体に叩きつける。
「プギィ!」
眷属は鳴きながも周りに光線を振りまいてダメージを与えていく。むやみやたらに乱射されるそれのダメージは多くないものの重なると危険だ。
「豚さんこーちら!」
多季が誘うように盾を相手に叩きつけて注意を引き付ける、その間に蒼朱が癒しの矢を放ち仲間達を援護する。
「ノウンはみんなを頼む!」
彼に頼まれたビハインドのノウンは傷ついた仲間達を守りに行く。
「くそ、暑っ苦しいやつらだな……あ、俺もか」
祥互が炎をまとった一撃を振りぬいてから呟く。周りでブヒブヒ言う豚もそうだが、自らの内から出てくる炎も似たようなものだ。どちらかと言えば熱い方かもしれないけれど。
「楽しい海のお邪魔虫さんは許さないよ!」
赤いオーラを伴った斬撃を繰り出して亜理栖は攻撃を重ねていく。相手から精気を奪いつつ戦う彼は、回復の手を必要としない。ただ、力任せの攻撃手段しか持ちあわせて居らず、最終的な攻撃効率は高くない。見切られない様に叫びを入れてはいるが打点は上がらない。
「我が手に宿れ、滅びの力よ!」
槍を敵にねじり込む悠、その穂先はそのまま敵を貫いて串刺しにする。
「夏の日差しでチャーシューにしてしまうのです!」
彼女がそう言った瞬間、目の前のバスターピッグは消滅した。ほら、眷属って灼滅するとそのまま消滅しちゃう奴が多いから。
「わ、わかってますよ!」
言いつつも戦闘は続いていく。互いに決め手に欠ける中、狙いすまされた祥互の攻撃が確実に敵の体を捉えて数を減らしていく。
「どれほど敵がいようとも倒せばいいのです!」
蒼朱の援護を受けて狙いを高めた一撃で再び敵を倒した悠が槍を構え直す。敵の数が減っていくに従って守勢に回っていた灼滅者達にも余裕が出てくる。
「キミらの持っとるバスターライフルと、俺のんとどっちが強いやろなァ」
右九兵衛がゆらりと攻撃を集中させる態勢に移行する。さっき打ち込まれたのを割りと根に持っているらしい。
「さっさと終わらせちゃおうぜー」
ここまで敵を減らせばもう態勢は決したものだ、俊輔の言う通りに残るバスターピッグ達も次々と駆逐されていく。多少全体的に手間取ったものの、最終的には大きな怪我もなく無事に眷属たちを全て灼滅し終える。
「もうちょい遊んでから帰る? 出来れば俺は泳ぎたいんだけど……」
どことなくそわそわした様子で蓮次が仲間達を振り返り聞く。そんな彼に返すのは多季である、既に彼女は移動の支度をしている。
「さあさあ海に行きましょう!」
誰一人としてそれ以外の人間はおらず、彼の問いは杞憂に終わる。憂いのなくなった彼は誰よりも先に海の方へと走っていった。
●
「海ー!」
俊輔は目を輝せながら海の中に飛び込んでいく。そのまま勢いに任せてしばらく泳いだ後、水面から頭を出して海水を噴水の様に吹く。
「ホントにしょっぱいんだー……!」
彼にとってこれが初めての海水浴、話に聞いていたことをその小さな体で目いっぱいに感じ取ろうと体全体を使って泳ぎまわる。
「おーい、準備運動くらいしてから泳ごうぜ」
赤いボックス型の水着の祥互はしっかりと準備運動をしてから波打ち際に近づいていく。打ち寄せる波の中に足を踏み入れて初めての感覚に感動を覚える。
「うお……」
来る波と返す波が交互にひざ下をくすぐっていく、プールでは味わえない感触であり少しずつ慣らしながら彼は海の中に踏み込んでいく。
波打ち際では水着コンテストと同様の姿の亜理栖が足元を見ながら歩いている。ときおりきれいな貝殻を見つけてはしまっていく。その様子を右九兵衛がカメラのファインダーにおさめてパシャリと。
「……そんな趣味が……」
右九兵衛の後ろから蒼朱が彼の様子を見て呟く。
「これはこれで使い道がな……」
含み笑いと共に返す右九兵衛、後でカメラごとひどい目にあってもフォローはされないだろう
「あ、もちろん女の子の写真もな!」
すっげえいい顔の右九兵衛が親指を立てると蒼朱もうなずく、右九兵衛と違って彼は自重していたけれど。
「いやっほおおおう海だああああああ!」
行く先々の水着姿の女性の姿を見てテンションを上げているのは蓮次も同じだった。危険は去ったし、とりあえずダークネス絡みでめんどくさいこともないだろう。解き放たれた彼は泳ぎながらも目の保養も怠らない。
「みんな元気そうですね」
水着の上から上着を着た悠がはしゃぐ少年たちを見て呟く。その下は上着でがっちりガードしており簡単には見せてもらえなさそうだ。
「……上着脱いで入らないの?」
「……恥ずかしいですから」
聞いた方の多季はブルーストライプのタンキニスタイル、フリルっぽいので縁取られた姿が可愛らしい。話もそこそこに多季は海へ走っていく。残されたのはスイカと悠、悠はスイカをじっと見つめていた。
●
ひとしきり皆が泳いだあと、彼らはスイカ割りの準備をする。多季の持ってきたスイカはでんと擬音が付くくらいにラスボス感があり彼らは挑み始める。一番手は祥互、棒を以って目隠しした所で蓮次が彼をぐるぐると回す。
「うわっ!」
「一発目で成功しちゃったら面白く無いだろ?」
とは蓮次の弁、千鳥足のままふらふらと歩き、周りからは適当なことを言われる。
「はい、そこで一歩左、右斜め後ろ25度を叩く!」
多季に加えて、蒼朱や右九兵衛が更にはやしたてる。
「そぉい!」
振り下ろした棒の先は軽く空を切り、その感触の無さで祥互は失敗したことを悟る。次に挑むのは悠、やはり先ほどと同じように蓮次が彼女をぐるぐると回す。その時に少しだけ彼は細工をする。
「ふふ、やるからには本気でやらせていただきましょう」
「がんばれー」
俊輔の声援を受けて悠は歩き出す、周りからは変わらずにいろいろな声が届くが彼女は意識を澄ませて足を踏み出していく。そしてここぞというところで棒を振り上げる。
「左ー。いや左だって。……待て待て待て!」
近くから祥互の声が聞こえるがきっとこちらを騙そうとしているのだろう。悠は思い切り棒を振り下ろすと、確かな手応えを感じ取る。
「俺スイカじゃな……へぶっ!?」
同時になんとも言えない声が目の前で上がる。悠は慌てて目隠しを外すと目の前で鼻先を抑えている祥互が。
「って、きゃあああ!?」
彼に駆け寄る悠、近くで見ればとりあえず大きな怪我にはなっていないようだ。その代わりに妙に顔が赤い。
「それにしてもこれは……うん。何とも……」
彼の視線が自分の胸元辺りで宙を舞う、悠がはっとしてみると前側のジッパーが開いている。中からは紺色のタンクトップが覗いている。
「きゃあああ!?」
この仕業はおそらくさっき彼女に触れていた蓮次だろう。恨めしげな彼女に睨まれて、隣の右九兵衛と視線を合わせる。
「せっかくの水着なんだし、海で見たいよなあ?」
「そやなあ」
年頃の男子なら仕方ない。らしい。蒼朱もチラッと見てたし。悠はそそくさと前を閉め直して亜理栖に棒を渡す。彼は目隠しをした後、剣道の構えを取る。
「これでも、小学生の時剣道やってたんだ。今はやってないけど」
砂浜での足運びはそれそのもので、周りの言葉を受けて棒を高く構える。
「心の目で見るのです!」
多季のアドバイスなんだかそうでないんだかよく分からない声を受けた彼の棒は見事スイカを捉えて叩き割る。
「おー」
俊輔が割れたスイカに寄る。手頃に食べられる形くらいになっていた。
●
砂浜にシートを引き一同はスイカを食べる。近くにはみんなで海の家で買い揃えた食べ物が揃っている。
「なんだか学園祭の延長みたいで楽しー」
口の中にいろいろ頬張りながら俊輔が呟く、彼の隣ではやはり黙々と蒼朱が口の中にものを運んでいる。彼らから亜理栖と多季は拾った貝を並べている。近くでは蓮次と右九兵衛が写真を、というのを適当にあしらいつつ彼女はボールを手に取る。
「食べ終わったらビーチバレーとかどうでしょう!」
食事中の仲間たちに声をかけてから、多季は空を見上げる。抜けるような青い空と真っ白な雲のコントラストが眩しい。
「いやあ、海っていいですね!」
スイカを一口して喉を潤す。まだまだ今日一日は遊べそうだ――。
作者:西灰三 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
|
種類:
公開:2013年7月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
|
||
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 9
|
||
あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|