7月14日、15日に渡り開催された学園祭は、様々なクラブ企画や水着コンテストなどで大盛況の中幕を閉じた。
……けれど、学園祭の醍醐味はまだまだ残っている。
飾り付けや設営の後片付けを前に、賑わいの名残を感じながらの打ち上げは、学園の生徒達だけの特権だ。
クラブの仲間や仲の良い人々と一緒に過ごして、学園祭を最後まで楽しもう!
●今、静かに語らう時
学園祭の為に綺麗に飾り付けられた教室には、昼間の暑さと賑やかな空気がまだ何処か残っているような気がする。
「――あ、点火されたみたいだよ」
「こういうのを見ると、とうとう祭りも終わりという感じがするな」
生徒達が何気なくその教室へ足を運ぶと、グラウンドで赤々と燃えるキャンプファイヤーを眺めている人影が窓辺にあった。
「お前達も来たんだな」
振り返った土津・剛(高校生エクスブレイン・dn0094)が穏やかにそう言う。
「学園祭、楽しかったね」
矢車・輝(スターサファイア・dn0126)も笑顔で生徒達を迎えた。
見回せば、なんとなくこの教室にやって来たという生徒が他にもちらほらといる。
皆はこの二日間どうだった、という話を軽くした後。
「グラウンドの方は賑やかだが、こうして静かな教室で余韻を楽しむのも、悪くない気がしてな。良ければお前達も、ここで一緒にのんびりしていかないか?」
剛の言うように、このゆったりとした空気の中で、気心の知れた相手と語り合うのも良いかも知れない。
二日間の学園祭のこと、これからのこと。
さぁ、何を話そう。
●穏やかな夜の始まり
運動場の中央に赤々と炎が踊り、歓声が教室まで聞こえる。
「ああいったところは、苦手なんですよねぇ……」
窓のサッシに手を掛け呟いた流希の目には、しかし羨望の色が宿っていた。
もう少し勇気があれば、あの中に入ることも出来たろうに。
でも、考えなければいけないことも沢山ある。損な性分だけれど、あの火は何度だって見たいからと苦笑を浮かべる彼に、輝はそっと微笑む。
「沢山の企画があったと思いますけれど、いくつ回れましたか? 私は39個でしたね」
尋ねる真夜に、輝は目を丸くした。彼はといえば、両手の指で間に合うくらいの数のようだ。
「そんなに? 真夜さん、自分のクラブの企画も頑張ってたのに凄いね」
「ええ、他にもミルクホールとかやっていたのですよ」
彼は感心げに真夜の話を聞く。
「あっ、私ばかり話してますね。輝は楽しかったですか?」
はっとした彼女に勿論と頷き、輝はもっと2日間のことを話して欲しいとせがんだ。
今も共に過ごせる喜びを、分かち合うように。
「あの……先輩。桜の夜は思い切ったんです」
冷茶を注ぐ手元を見るよう視線を外したまりに、剛は手作りシロップで出た果実の苺とクリームチーズを挟んだベーグルを齧ったまま目を瞬かせた。
「今回も思い切ったんです……! あの、わ、私、先輩って、誰かを呼んだ事なくて、来てくれた時、本当に思い切ったんです……!」
「そうだったのか」
返す彼の目尻は和らいでいて。
「どうぞ」
「ありがとう。それと」
まりが目線を上げると、微笑を浮かべた剛は冷茶を一旦置いて彼女の頭をぽんと撫でた。
「甘えたって良いさ、こういう時くらい」
「……山本?」
「片倉か」
教室を横切ろうとして、純也は机に腰掛け外を眺める仁道の姿を見付けた。
休息かと尋ねる流れで、肩を並べる二人。
「……今回の祭りは、楽しかったか」
「楽しかった。規模は違えど、学園祭というのはどこも眩しいものだな」
「どこも? いや……」
尋ねた純也は不思議そうな面持ちだ。
楽しいとはよく聞くが眩しいは初耳だと思いつつ、言葉を繋ぐ。
「道場主は何を得た」
問いに、仁道は上手く言葉には出来ないがと口を開いた。
「……そうだな。武蔵坂なりの、日常の有り難味を」
生真面目で真っ直ぐな瞳が純也を映す。
「片倉はどうだ。学園祭は楽しかったか? 得るものは、あったか」
投げ掛けられれば、いつもの如く真剣に「当然だ」と返ってくる。
「ここに来て得るものが無い時など、無い」
違いない。
言葉はなくとも、共に外を見遣り――流れる空気は穏やかなまま。
●語らいながら
窓一枚隔てた外の賑やかさは、まるで別の世界。
「さあ、お話をしようか」
アイス片手に、ギルドールはにっこり。
彼の昼の出来事に耳を傾け、リアンは飾りを触りつつ外の景色を眺めていた。
「ここに来る前は、嫌というほど閉じ込められていたのに」
やがて彼もぽつぽつと話し出す。
「いざ自由になっても結局は閉じ籠ってる……籠り癖はそう簡単には抜けないらしい。聞いて、本を読んで『知識』ばかりが培われて『誰かと何かをやった経験』が一つもない。
あんたもあいつらも、俺の真逆だな」
「なんて勿体無い」
思わずギルドールは呟いた。
静かな場所はリアンのリクエスト。でもギルドールは、後夜祭だけでも学園祭の雰囲気を味わって欲しかった。
「もっと賑やかな所があったのに。花火とか、ほらキャンプファイヤーとか、外は楽しい事が沢山あるよ。もう少しこういうイベント事を満喫したらどうだい」
リアンはコーヒーを一口、瞼を伏す。
いつになく自分は饒舌な気がしたが、相手は輪を掛けて返してくる。
「それより、昼間の話をもっと聴かせてくれるか。……あんたの話は面白い」
「そうかい? じゃあ……」
何処か世話の焼ける子だと見守るよう、ギルドールは再び口を開いた。
「学園祭、すっごく楽しかった! 学園祭がこんなに楽しいものだなんて、初めて知ったよ!」
並んでお茶を手に、グラウンドを眺めながらゆまは興奮気味に話す。
「そいつは良かった」
義妹の笑顔に、律は安堵の表情だ。
暫く元気のなかった彼女をあちこち連れ回してしまったが――
義兄の心遣いに、心の中で礼を言った矢先。
「しっかしなー……兄妹で学祭回るってのも空しいよねぇ……。お前も、来年はカレシでも作って一緒に……お前じゃ無理か」
「酷いっ!」
軽口に、ゆまはがたっと椅子を鳴らす。
「っと」
バランスを崩してあわや、という彼女の手を律が掴んだ。
「あ、ありがとう、りっちゃん」
その温かさにゆまが息をつくと、律は首を振った。
いつか、この手を離さなければならない日が来ると思いながら、か弱い手を優しく握り締める。
(「わたし、りっちゃんの義妹で本当に良かった」)
ゆまは胸に刻む。
これから先何が起きても、この日のことは忘れないと。
「どうぞ」
「うん」
ヴェルグが引っ張り出した椅子に、空は遠慮なく腰を下ろした。
その動作にヴェルグが苦笑する中、欠伸を噛み殺してうっすら涙を浮かべる空。
「雰囲気に中てられて、何だか疲れたよ。……そういえば、お礼を言われるような事なんてしたっけ?」
誘いの手紙に認められた言葉の意味を問う。
「お礼はほら、クラブ企画。遊んでくれた事に対してだ。楽しかったからな」
そうかと頷いて、ややあってから空は隣に座ったヴェルグに「俺も、結構楽しかったかな」と答えた。
「それなら良かった……っておい、船漕いでんぞ」
既に眠気が限界なのか、うつらうつらし始めている空に彼は眉を上げる。
その内本当に眠ってしまいそうだと、思った側から。
ヴェルグは再び苦笑を浮かべ「寝ても構わねぇよ」と、冗談半分に肩でも膝でも貸すと告げた。
「じゃあ遠慮なく」
「……」
寄り掛かり寝てしまった空の背に、これはこれでいいかとヴェルグは腕を回して支えてやる。
たまにはこんな時間も、疲れ方も悪くない。
「陸さん、飲み物をどうぞ~」
菜智から有り難くお茶を受け取って、一息。
「うん、茶が美味い」
隣に掛けた少女に、陸は微笑んだ。
「学園祭、どうでした~?」
劇で大はしゃぎしてとっても楽しかったという菜智に、彼はそうだなと返す。
「時友さんの白熱の演技を見れて、とても楽しかったぞ」
演技に一生懸命で、人が多かったから自分に気付かなかったのではと笑顔で尋ねると、菜智は火照る頬を押さえた。
「気づいてましたけど、言われてしまうと少し恥ずかしいですね~」
私が陸さんに気づかない筈ないじゃないですか。
小さな小さな声は、きっと届かない。
「観た俺は勿論、一緒に共演した兄さんもきっと良い思い出になったと思う。
劇での楽しい時間も、ここに呼んでくれたことも感謝している」
「こちらこそ、ありがとうございます~」
来年も楽しく過ごしたいという陸の言葉に、菜智は一緒に回れたらと密かな願いを忍ばせた。
「流石にアレだけ賑やかだったのが、嘘みたいだなぁ……」
炎を眺めて呟く衛に、夢乃は「今日は色々と付き合ってくれてありがとね」と告げる。
「でも……こうしていると、お祭りが終わっちゃうのがちょっと勿体ない感じがするわ」
「ま、夢乃が横にいるから、俺はそれだけでも十分だけどな?」
「衛さん……」
彼の微笑みに、少女は胸を熱くする。
「そいえば、なんで夢乃は俺のこと好きになったんだ?」
思い当たるフシがなかったという衛に、
「やっぱり……ひとりで辛かった時に、色々と支えてくれたからかしら?」
夢乃は外に目を向けながらそっと呟く。
闇堕ちした者を助けられなかった。目の前で小さな子が命を失う戦い……。
「……あの時の夢乃は、ちょっと触っただけでも壊れそうで、見てられなかったからな」
衛はも思い出していた。
その時、自分は彼女を護らなきゃと思ったことを。きっとその頃、夢乃を女性として見始めていたことを。
「だから、これからも夢乃が辛くても、絶対引き戻してやるって誓う」
今の自分がいるのは彼のお陰だという夢乃に、衛は宣言する。
約束だよと、大好きな人に。
「ありがとう」
彼女は衛の頬に、軽く唇を寄せた。
「そういえば、メイニーって学園に来る前はどうしてたんだ?」
学校に来る前のことはさっぱり知らなかったから、と武流は尋ねた。
「ボクは、この学園に来る前は、一人でダークネスを狩っていた」
幼く見えるメイニーヒルトの口から紡がれる、重い過去。
「……実際、只の八つ当たりだったと思う。『クールでいて優しい』ようで実は、灼滅で満たそうとする醜い心の持ち主だったんだな」
「メイニー……」
でも、と彼女は笑む。
武流と出会ったこと。彼が自分にしてくれるように、真に優しくありたいと。
彼もまた宿敵によって家族を失い、仇を取るという目標すら失い、『明日』を探しに学園に来た。
メイニーと出会えたこと。楽しい思い出も出来たからそれで充分と少年も笑う。
『伴に』自分達の『明日』を作っていこう、そう視線を交わして。
教会での誓いを、改めて強く感じた。
「学園祭、終わっちゃいましたねえ」
千夏の声に有無はうんと頷いた。
「有無さんはあちこち行ってたみたいですけど、楽しかったですか?」
誘ってはみたものの、妙に言葉少ない彼の様子に気付き千夏の眉が更に下がる。
「……有無さん、もしかして疲れちゃいました? 話はこの辺にして、そろそろ帰りましょうか?」
「いい」
「でも」
「キミがいる」
疲れのせいか、青年の表情はほんの子供のよう。
それなら一緒にという彼女を「千夏くん」と呼ばう。
「キミがいて、よかった」
千夏を見て真っ直ぐ告げると、有無の瞼は落ちていった。
「こうして見ると、子供みたいなんですけどねえ」
愛おしげに、彼女は枕代わりの膝を貸す。
おやすみなさい。
優しい夜の空気が、二人を包む。
●藍の空に瞬く星
完全に陽が落ちると、星々の輝きは一層強く。
名を呼ばれ、アインは振り返った。
「学園祭お疲れ様。コーヒーはブラックで良かったかな?」
「……浦波か」
「なんだか少し浮かない顔をしてるけど、何かあったの?」
缶コーヒーの一方を渡し、梗香は彼の隣に腰掛ける。
「いや、考え事をしていた」
軽い溜息と共に、再び星空を眺めて。
「……不思議、だと思ってな。他人に話せない事も、お前なら話せてしまえそうな気がする」
呟くような声に、梗香は赤い髪が彩る横顔を見詰めた。
「それって……?」
「解らん。それを考えていた……。だが、いくら考えても、答えが出ない」
「私の勝手な想像だけど……もしかして今まで無理して来なかった?
私になら話せる、というなら、私も少しくらいは背負うよ。一人で抱え込み過ぎないで」
「無理をしていたつもりはない。だが……いや、よそう」
アインは立ち上がり、軽く梗香の肩を叩いた。
「……だが、答えが出たら……必ずお前に伝える」
その時まで待っていてくれ。
彼の背を少女は真っ直ぐに見据え、告げた。
「それがどんな答えであれ、アイン自身が納得出来る答えを見付けることが大事だと思う。
その中で、もしも私の存在が必要なら……必ず受け止めるから」
「なんかあっという間だったネ」
傍らの桃夜に、クリスは微笑む。
楽しい時が早く過ぎるのは本当なんだと、クリスは実感していた。
「この二日間色々あったよ」
「いろいろ……確かにいろいろあったね」
桃夜も感慨深げだ。
「水着着たり、パイ投げしたり……き、君に好きって言ったり……」
上手く誘導されたような気がするが、まぁいいやとクリスはかぶりを振る。
「誘導なんて……まぁ、してないとは言わないけど、でも言った言葉は取り消せないよ」
桃夜は悪びれもなく、クリスも「きっとここで伝える運命だったんだろう」と呟いた。
やっと手の届いた少年は、外を眺めている。
自分だけ見て欲しい――桃夜が思った途端、細い指が彼の手に触れた。
「……温かいな」
(「あれ? この雰囲気……もしかしなくてもチャンスじゃない!?」)
呟いて肩に寄り掛かる彼に、桃夜のテンションが上がる。
人目がなんの、ムードに乗じてその唇をという矢先、目の前にラムネの瓶がずずいと。
「折角だ、乾杯でもしよっか?」
何か安堵の笑みを見せるクリス。桃夜は肩を落とした。
お疲れ様と、これからの未来に……乾杯。
「クラブの企画、大成功だったねー」
労わり合ってにこにこ顔のオリキアに、紫桜は大分騒がしかったけどと柔く笑い返す。
「まぁ……盛り上がってよかったんじゃないか?」
「ちょっと変わった企画しちゃったから、紫桜には迷惑かけちゃったかな」
オリキアの企画は、彼女が愛してやまないものの展示。彼女が楽しそうなら満足だからなんて、紫桜は恥ずかしくて口には出来ない。
「でもでもすっごく楽しかったんだよ。いつも紫桜はボクの事を見守っててくれて、ありがとう」
照れながらも、彼女は正直だ。
「……これ」
「わっ、ボクにもくれるの? ミルクティーだー♪」
オリキアも缶コーヒーを用意していて、交換する形になる。
「ありがとな。たまには気が利くな……」
「何か言った?」
「いや」
開け放った窓から、爽やかな風。
羽根のピアスの揺れに気を向けていた紫桜は、寄り添ってくる温もりを感じた。
見遣れば、目を閉じ寄り掛かる少女の姿。
(「もう少しだけこのままでいたいな……」)
風は涼しいのに、彼女と同様の想いを抱きながらも、少年は妙な暑さを覚えていた。
「いっぱい遊んだわねー」
苺牛乳のパックを片手に、草灯は【徒然】の面々と窓の外を見ていた。
アスルはバナナオレ。
「スイカおいし……」
小鳥達はアイスだ。
机の上には、小鳥が法子と各企画で作ったピンクの猫と白妙の飴がある。
よく出来た飴は食べるのが勿体無いと、外の光に翳して眺めていたらアイスが溶け掛けていた。
「たのしかったね」
法子と笑い合う小鳥に、草灯も微笑む。
「こっちはルーとお友達と一緒にレジンでアクセ作ったり、お星様見たりしたのよ」
「ん、ん。そびと、作ったり。お星さま、見たり。したの!」
こくこくと頷くアスルに、草灯は楽しかったわねとふんわりと笑みを向けると、彼も「楽しかった!」とにぱっ。
また来年も。
そんな話が出て、小鳥もこくこく頷いた。
「いく、来年も、いっしょいく」
「来年も、一緒。一緒、ねー」
にこにこ彼女に頷くアスルは、草灯の服の裾を引いた。
「そび、ルーも。そびと、一緒。来年も、まわりたい。です」
「ふふ、来年の話ができるなんていいわね」
草灯は目を細めた。
「ん、ん! 約束、約束ね!」
アスルは目を輝かせ、小指を差し出す。
指切りの二人を前に、小鳥も嬉しそう。
「来年も、楽しい、いっぱいしよう、ね……」
「ナノナノ~♪」
浮遊していた白妙も、ぱたぱたと羽ばたかせた。
その約束は、彼らの道標。
きっと闇を照らしてくれるだろう。
作者:雪月花 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年7月30日
難度:簡単
参加:29人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 6
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