青春土手っぷちバトルショウ・川っぺり編

    作者:赤間洋

     早朝。
     ロードワークの締めに足を運ぶのは、学園の近所を流れている河川敷であった。日課である。広いからと言うシンプルな理由で統東・翼(アカシアの獣・dn0071)がここを選んだのは転入してきてすぐのことだ。
     土手の上からトントンと石段を踏み、川っぺりに降りる。生い茂る丈の高い草の名前は知らない。土の上に張られたロープはサッカーコートで、休日の昼間や夕方に通ると、クラブだろうか、近所の小学生たちが使用しているのをよく見かける。
     登る太陽が、水面の流れを眩しく照らしている。今日も暑くなりそうだと思う。
     耳に掛けていた携帯音楽プレイヤーのイヤホンを外した。軽くストレッチをすると、とんと踏み出す。そこに相手がいるかのようにコンパクトな構えから数度、拳を振るう。無駄を極力削ぐように意識した動き。
     顔などの急所は狙わない。少しでも長く、少しでも、深く。
     翼という男が最善のコミュニケーションツールとして選んだのは、ケンカというこの上なく非合理な行動であった。理由は多々あるが、何より元来、そう言ったものを好む性質であったのだろう。
     身体は澱みなく動く。右足を軸にくるりと半回転して空中を蹴る。ネコ科を思わせるしなやかさで蹴り足を地に着ける。
     楽しいこと。
     と翼は言う。自分の思いの丈を拳に乗せるのも言葉に乗せるのも大差ないと、翼は本気で考えている。ケンカは好きである。取り繕うことがない。隠し事がきかないのが特に良い。全て剥き出しにして殴り合うのは、この上なく分かり易い。
     そうして30分ほど身体を動かし、もう一度ストレッチをして、翼のロードワークは終わりである。汗だくの身体に風を送りながら、ふうと息を吐く。
     シャツの裾で適当に汗を拭いながら、ふと、思いついたように立ち止まった。
     
    「ケンカしてくれそうなの知らないか」
    「……。旦那。前後関係が全く分からねえんですが?」
    「そうか?」
     筋道立てる気が全くなさそうな翼の呑気な返事に、槻弓・とくさ(中学生エクスブレイン・dn0120)は頭痛をこらえる仕草をした。純度の高い直感型の人間相手に理屈を求めた己がいっそ忌々しい。
    「何ですかい、そもそもケンカって」
    「楽しいだろ」
    「なにがです?」
    「ケンカ」
     にかっと笑う翼に、げっそりした気分になる。明らかに会話のキャッチボールが成立していない。短いつきあいではあるが、ほとんど成立したことがないのを思い出してさらにげっそりする。
    「……左様で。言っときやすが、あっしは旦那とケンカなんざ真っ平ですからね。ぶっ壊されちまいますよ」
    「馬鹿、加減知ってるから壊さねえしそんな殴り方するか、面白くない」
    「それ暗に女子供も平等に扱うって言ってますよね? 怖い人だなあ」
    「ケンカだし当然だろ」
    「辞書でも百万回読みなおしゃいいんだ……あーもう分かりましたよ。ケンカしたいってことですよね? 思いっきり。この真夏のクソ暑い炎天下で」
    「おう」
    「あっしは流石に無理ですが、適当に何人か声かけときますよ。やる気のある奴が来てくれますよ良かったですね!」
    「お、そうか! じゃあそこの川でさ。橋の下。明日の朝。6時にゃ居るから」
    「早!? どんだけ早起きだおじいちゃんですかい!?」
    「休みだし丁度いいな。それじゃ頼むな」
     とくさの声など全く意に介さず、翼はさっさと踵を返した。気の毒な視線でそれを見送り、とくさはくるりと後ろを向く。
     学校の、廊下である。夏休みとは言え人は居る。一切噛み合っていない会話にあっけにとられたり、話の内容に目を輝かせたりしている灼滅者達に、とくさは弱々しく笑う。
    「……。まあ、そう言うワケなんで。お手すきでしたら、どうぞ」
     翼同様、その類の『ケンカ』を好む人種がこの学園に多いことを、半ば諦めと共に理解している、そんな顔であったという。


    ■リプレイ


    「あれ、なんだ早ええな!」
     早朝5時49分。
     統東・翼(アカシアの獣・dn0071)が石段を下りれば、太一がブンブンと手を振った。目を細めて笑った翼は、そのまま太一と相対する。
     課題は体格による威力不足、故に逆に低さを極めてみせると太一。翻弄するように動き回られては攻撃が当たりづらい。だが、
    「あり?」
     リーチを読み間違えたのか、ひねりを入れた上段回し蹴りが豪快に空を切る。びたんと背中から落ちた。
    「翼さんお手合わせ――いや、ケンカしましょう!」
     足音も軽く走り込んできたのは絢時だ。真っ正面から飛び込んでくる。拳の応酬を繰り広げた後、絢時はふいとその戦い方を変える。古い、故によく錬られた武術の当て身、そして投げ。
    「持てる技術を尽くして戦うのは、本当に、とても楽しいことですから!」
    「然り。それでは一つ、御相手しようか」
     絢時の言を首肯し、名乗りを上げたのは隆漸だ。
     対峙するや足下を狙う蹴り。阻まれれば、伸び上がるミドルアッパーを叩き込んだ。反撃に翼が、膝を起点にする二段構えの蹴りを放つ。
     大上段の蹴りを合わせた隆漸は、だが一瞬早く蹴りを振り抜いた翼に足を掴まれる。
     だが慧眼。身体を逆に捻ると、隆漸は軸足を引き寄せた。顎を狙って蹴り上げる。見事な返しは、そのままの威力で翼の顎をとらえた。
    「お互い、拳だけで語り合おうぜ?」
     ダウンから起き上がったところに声をかけてきたのは紅鳥。半身で構える紅鳥に、よっしゃと翼も構え直す。
     ストレートが翼のテンプルを浅く削いだ。左右のワンツーにつなげるが左の拳をはね除けられた。そのまま両者打ち合いになる。20発ほど与えあって、手合わせありがとうと呟くと、ぱたんと紅鳥がダウンした。
    「拙者とも一つお手合わせ願えるでござるか?」
     忍者装束に赤いスカーフをまとい、影のように現れたのはハリーであった。
    「ニンジャケンポーにて!」
    「!?」
     食いついた翼に満足に頷き、ハリーは空手に似た構えを取る。基本は回避、間隙をついて背後を取って一撃と、正面切って戦わないのはニンジャとしては非常に理にかなっていた。
    「お相手を頼めるだろうか?」
     早朝の空気を楽しむように問うたのは小袖。勿論と頷くと、小袖はすっと構えを取る。リズムに小首を傾げると、カポエラだ、と種明かしが返ってきた。
     拳撃を滑るように躱し、思いがけない角度からえげつない速度で蹴りを叩き込んでくる。視認から受けようとしても間に合わないほどの蹴りの鋭さだ。
    「こういう普通のケンカは久しぶりっすねえ」
     いささか悲しい台詞を吐いて、昌利。上着を脱ぎ、バチンと右拳と左掌を合わせる。殴打から関節技まで、バーリトゥードなケンカをスタイルとする昌利から結構な打撃をもらいながらも、翼は喜々として向かっていく。
    「やはり良いな。こういう、喧嘩はッ!」
     楽しそうに口端を歪めた昌利に、それは良かったと翼も笑う。
    「はっぴーばーすでー、統東さん!」
     次にやってきたのはくるみだった。いつもと違った動きやすそうな格好でにこにこと告げるくるみに、あんがとな、と翼が白い歯を見せて笑う。
    「けんかって、ルールあるの?」
    「ない」
     なのでどこからでもかかってこいと言う翼に、くるみは律儀に頷いた。身長差から来るリーチの差を痛感するも、一撃も与えずには帰れまい。翼の蹴り足が伸びきったところを見切ってさらに跳躍、思い切り頭突きを叩き込む。ふらつく翼。
     次にやってきたのは龍暁だった。言葉は要らんと、男臭い笑みを浮かべる龍暁に翼も無言で頷いた。
     武器を帯びず殴り合う、と言う条件であれば龍暁は阿呆ほど強い部類であった。殴っても蹴っても止まらないのだ。そのくせ重撃を何発となく浴びせられては流石に翼もお手上げであった。防御に回った弱気をつかれる。
    「めっちゃ早起きさんやなあ、みんな」
     つるりとそり上げた頭をなでて、楽しそうに言ったのは火花。
    「ケンカの相手頼むわあ」
     両拳を軽く打ち合い言ってくるのに、転がされた状態から跳ね起きて翼も応じる。火花は、細かいダメージで相手を揺さぶりつつ、合間に大きなカウンターを仕掛けていく。力加減は絶妙で、これは勉強になると翼は躍起になる。
     無論、ケンカを楽しんでいるのは翼だけではない。
    「先輩だからとか女だからとか恩人だからとか!」
     そんな理由で手加減はしないと康也が宣言すれば周は然りと頷いた。もとよりそのつもりであった。全力の殴り合い、魂の響き合い。
    「そう言うのが青春ってもんだろ!!」
     高らかに周が叫んだ。拳のぶつけ合いは信念と意地で二人を支え、そして小細工無用の青春は、ダブルKOで派手に終わる。あまりのバトルに周囲から拍手が沸く。
     曰くテストの高得点のご褒美であるらしい――テストで平均点以上を取れば出掛ける約束だった気がするが、細かいことは諦めて、憂斗はロケットペンダントをポケットにしまう。
    「流れで動くの試してみてえんだよな!」
     伝法な口調で言うのは冴凪・翼だ。黒髪を動きやすくまとめて、つきあってくれよにんまり笑う。
    「ちょうど、身体動かしたかったんです」
     そう言った依子の構えはどこまでも自然に思えたが、同時にテリトリーに入れば瞬く間にこちらを打ち倒す恐ろしさも秘めていた。
     実際、依子の戦いは、いっそ老獪であった。視線に釣られて攻撃の手を見誤り、河川敷にすっころがされる羽目になる。
    「……アンタは戦わねえの?」
    「いやいや」
     面白いほど転がされる翼の問いかけにふるりと首を振ったのは源一郎。優男然とした姿はおよそこの場に似つかわしくないが、見た目に騙されると酷い目に遭う。事実、
    「……おかしくね?」
     めためたにやられた翼が抗議する。劈掛拳と八極拳を合わせたスタイルで、遠近問わず殴ってくれた源一郎は余裕の笑みであった。のんびりとした風情とは裏腹に、衣服の下は筋肉の塊なのがこの男である。
     そんな激戦の数々を、見晴らしの良い場所から見学する少女が一人。
    「眼福……!」
     日焼け対策もばっちりに、転入してきて本当に良かったとくすくす笑いながら、萌子。その手は広げたノートの上をせわしなく動いている。メモを取っているようだ。
    「ラヴシーンに説得力を持たせるために、他のシーンの描写もおろそかにできないもの……!」
     とっても腐臭が漂うノート、プライスレス。


     余裕だな、と純也は呟いた。相対するのは静樹。その重心、足運び――全てが必殺の一撃を秘めているのだろう。
     他方、静樹とて余裕などない。こめかみを伝う汗一筋が、己の心の余裕のなさを示しているようでいささか忌々しい。が、
    「考えすぎですよ」
     思考に重きを置くあまり身体が疎かになっていると指摘する。そして実践して見せた。鋭い所作で軸足を払われて、見事に純也がバランスを崩したという。
     わくわくして寝られなかったと話すのは悠だ。青い目がきらきらと楽しそうに輝くのに、翼も悪い気はしない。
    「楽しめりゃそれでよし!」
     言うが早いが小柄な身体が一気に間を詰めてくる。鋭利な蹴打のラッシュはテンポが良くて隙もない。やや防戦に回った翼に、寝ぼけるなよと言わんばかりの痛烈な一打、ガードを揺さぶって放ったストレートが繰り出された。小気味よい音を立てて直撃する。
     次に相手になったのはローゼマリーだった。あまり使っていないレスリング仕込みの技を改めて使いたいという少女の、タックルからの応酬に打ち負けそうになって翼は面食らった。そのままボディスラムであっさり翼を投げ飛ばし、ローゼマリーは得意げに笑う。
    「ケンカはいいよなあ」
     心底楽しそうに言ったのは淼だった。最後まで立ってれば勝ちというのが良いと笑う淼を、翼は首肯する。まさにその通りなのだから。
     最速を自らに関する男の戦い方は至ってシンプルであった。その場に踏みとどまり、殴られたら全力で、殴り返す。かくて倒れるまで殴り合いが続くことになる。
    「師匠になってくれる人は居ないッスかねえ」
     自分を男と信じて疑わない女の子のササクレが注目したのは一人の少女であった。早速声をかけると、少女――皐月は鋭い眼光をササクレに向ける。相手になってもらいたと言ってきたササクレに、良い度胸だと口端を上げる。
     結果として、相手をしたのが仇になった。
    「師匠になって欲しいッス! 強くなりたいっす何かの縁だと思って!」
    「意味わかんないし!!」
     こっちくんなと逃げる皐月を、逃がさないっすとササクレが追いかけていく。
    「翼ちゃん先輩」
    「!」
     昼食のおにぎりを口の中に詰めたまま弾かれたように身体を前に投げ出し転がれば、先程まで翼が座っていた場所を拳が薙ぎ払っていく。
     ならかの暁色の目が遅滞なく翼をとらえる。基本スタイルは、不意打ち。綺麗事だけでは勝ちは拾えないとでも言うのか、踏み込んでくるならかに、やってくれると翼はやや獰猛に笑う。前蹴りを躱し、ならかの回し蹴りがカウンターで炸裂する。楽しく遊んでちょうだいと嘯く少女に、無意識に目を細める。
    「翼先輩、おっはろー!」
     暑さにいい加減汗みずくの翼に手を振って、そのまま一気に駆け降りてきたのは悟だ。速度は殺さない。握った拳、その突きをやや高めに放つ。打音。跳ねるように距離を取った悟が、笑う。
     無言で応じた翼の拳撃を下方に捌けば、そのまま流れるように回し蹴りに移行した。姿勢を低くした翼が巻き込むように足を払う。その拍子に、思いがけず、悟の中段蹴りが出会い頭にヒットした。尻餅をついた翼に、悟が目を丸くする。
    「肉体言語って公用語にしても良いと思うんだよねェ」
     雷が閃かせた物騒な笑みに、それは良いなと翼は呑気に返す。それを合図と雷が地を蹴った。インファイト、ほぼゼロ距離と言って差し支えない接近戦に翼がひゅうと口笛を吹く。
    「っあっはっはははは!!」
     響く哄笑はまさにバーサーカー系女子の本懐か、ガードなど端から選択外と言わんばかりであった。掴んできた手を振り払い、翼は逆に肘で相手の体勢をこじ開けて拳突を叩き込む。だが、カウンター。雷の肩口に一発お見舞いするも、翼の頬桁に突き刺さった衝撃はそれ以上に強烈だった。数メートルほど空を泳ぎ、翼がすっ飛んでいく。
    「手合わせしていただけると聞くした……ね」
     訥々と慣れない日本語を紡ぎ、ユエファが翼の前に立つ。
    「最近、武器折られた……今日は、初心」
    「折られたん?」
     なにそれ怖いと苦笑する翼も、半身に構えて応じる。翼の拳打、その力を利用するように最小限の動きでいなし、決して一歩も下がらぬようにとユエファは果敢にカウンターを取っていく。掌打による攻撃で少しずつダメージを蓄積させる。
    「ケンカと手合わせ、何が違うのだろ、か?」
     最後に問うたユエファに、翼はにんと口角を上げて見せた。
    「ケンカってな。頭空っぽで良いんだよ」
     と、気楽に笑ってさえ見せた。
     

     暮れなずむ河川敷に現れたのは竜雅だ。
    「まだ燃え尽きちゃ居ねえよな!?」
    「当たり前だろ!」
     翼の返事よりも早く土手を駆け下り竜雅が間を詰めた。刈り取るような低いタックルでまずは力比べと洒落込むが、膝を駆使して引き剥がされる。すぐに切り替えて翼の腕をかいくぐると、そのまま拳を叩き込む。小手先の技など要らない。ただシンプルに。打ち合いは結局引き分けに終わった。大の字に寝転がり、竜雅が言う。
    「楽しんだ者勝ちだ」
     翼の爆笑が響き渡る。全くその通りだと。
     他方、対峙する悪友どももいた。錠と貫――タイマンは数ヶ月前の屋上以来かと貫は目を細める。
     合図はなかった。貫は拳、錠は、蹴り。型もなにもなく、肘だの頭突きだの膝だのと、身体中のあらゆる部位を使う殴り合いは、優雅さからはほど遠い。
    「愉しいなあ、トールぅ!」
     トリッキーな動きで貫を翻弄しながら錠が叫ぶ。瞳孔も開き気味の悪友の、くそったれな台詞にだが貫も凄絶な笑顔を返す。勝敗もありはしない、理由も実のところさほどない。殴り合いの友情があったって良いのだ。
     爽太と治胡もまた拳を交えて戦っている。勝てる気はしないが負けるつもりもないと気を吐いた爽太は、その小柄な身体を思い切り駆使して治胡に挑む。
     繰り出される拳撃の緩急に感心しながら、しかし懐には入らせず治胡もまたその長身を駆使して戦う。
    「治胡姐、こんなもんすか! まだまだっすね!」
     爽太の挑発は涼しく受け流し、密着させず、間を取り、爽太のリーチの外から蹴りを叩き込む。それが治胡と言う女の戦い方であった。
    「会話だって思ったことはなかったから……新鮮? 斬新?」
     人影もまばらになってきた時間帯にやってきたのは実だった。ケンカを会話とは言わないと首を傾げつつ、柔軟に構えてみせる。
     掌底で打ち、身軽に蹴りを入れるスタイルはクンフーに近いだろうか。ようやく攻撃に目が慣れてきた頃、
    「えいっ」
     服の裾を掴まれた。悲鳴もない。一本背負いで川に向かってぶん投げられた。水音が、夕暮れにこだまする。
     冷たくて気持ちいいしこれはありだなと、川から上がってシャツを絞る翼の背後に、ふいと重圧感。振り返ると凪が立っていた。手には、殲術道具のレプリカ。
    「無敵斬艦刀を、試してみたかったんですけど」
     微笑みながら龍砕斧のレプリカを渡されて、翼はそれを受け取った。地を蹴る。打ち合う武器の重さに、凪の気が僅かに昂ぶっていく。どこか薄暗さのつきまとう自分とは裏腹に、翼の戦いは愚かなほどにも純粋だ。
    (「私の戦う意味は、理由は――」)
     思考に割いた僅かな隙を、ぺちんと龍砕斧が斬り飛ばした。隙だらけですねと苦笑して、凪は無敵斬艦刀を下ろす。
     ふらりと現れた瑠璃は、同じだけの唐突さで地を蹴った。橋柱を蹴り橋底を蹴り、縦横無尽に暴れ回る。ケンカと言うよりは戦闘技巧であった。身のこなしに、翼はすげえなあと手を叩く。
    「手合わせ付き合ってくれよ」
     やってきたかまちを、拒む理由は当然ない。頷く翼に、かまちはボクシングスタイルで応じる。
    「地元で一番位ぇにはいたんだが」
     この学園に来て世の中の広さをしみじみ感じるばかりだとかまちは言う。ジャブの応酬から強烈なストレート。殴り返されてもまったく衰えないパフォーマンス。
    「強くならねぇと約束も守れねぇ、探してるモンも見つからねぇ」
     だから戦いに貪欲に生きたいとかまちは言う。不器用だと自認はしていたが、変えられぬ生き方も、ある。
    「腹ぁ、減ったなあ」
    「あ、いいな、それ。よっしゃ、飯だな!」
     飯食いに行こうぜと河川敷に残った灼滅者たちに声をかける。と、横合いからひやりと冷たい缶ジュースが差し出された。裕也だった。
    「どんな、感じだった?」
     主語のないそれに翼が首を傾げた。けれどもすぐさまにかっと笑う。
    「楽しかったぜ!」
     腹の底からの大声が、夜を迎えつつある河川敷にとても良く通った。

    作者:赤間洋 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年8月3日
    難度:簡単
    参加:38人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 14/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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