いたち が いた

    作者:陵かなめ

    ●お手紙受け取りました
    『じょーざんけい おんせん イタチ いた あばれると めいわくな やっつけろ たのむ』
     イフリートから届いた手紙です、と、須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)。
    「えーと。これって北海道の定山渓ってことでいいの?」
     じっと石版を眺めていた空色・紺子(高校生魔法使い・dn0105)が、顔を上げた。
     まりんが頷く。
     どうやら、定山渓の温泉近くの山中腹に鎌鼬が現れるようだ。
     すぐ近くでは観光客が山の自然を楽しんでいる場所でもあるので、退治してほしい。
    「敵の数は全部で8体。うち、少し強い個体が1体いるから気をつけてね」
     まりんによると、強い1体がボスであり、咎人の大鎌相当のサイキックを使う。他の鎌鼬は鎌で斬りつける蹴るなどの攻撃を仕掛けてくる。
     敵の数が多いので、討ち漏らさないよう気をつけてほしい。
    「近くに観光客がいるの?」
    「目視できるほど近くじゃないけどね。一応、気になるようだったら人払いの対策をしてもいいかも」
     確認の最後に、紺子が呟いた。
    「それにしても、北海道か。お寿司にカニ、メロン……観光地だったら、そういう楽しみってあるよね?」
    「あはは。鋭いね。温泉宿に宿泊もできるから、余裕があれば楽しんできて。一泊二食付きね」
     まりんは一泊二食付きの宿泊チケットを差し出した。
    「ちょっと敵の数が多いけど、油断しなければ大丈夫だと思うし。さくっと片付けて温泉に入るのも良いと思うよ」
     最後にまりんがそう締めくくった。


    参加者
    垰田・毬衣(人畜無害系イフリート・d02897)
    月見里・无凱(深淵に舞う銀翼・d03837)
    皇樹・桜夜(家族を守る死神・d06155)
    高峰・紫姫(守り抜くための盾・d09272)
    伊織・順花(追憶の吸血姫・d14310)
    霧ヶ峰・海璃(絶切刃・d15615)
    犬祀・美紗緒(犬神祀る巫女・d18139)
    真波・尋(高校生ダンピール・d18175)

    ■リプレイ

    ●涼やかな山中で
     良い天気だった。温かな木漏れ陽が灼滅者達に降り注ぐ。聞いていた通り、山の中腹はそれでもひんやりと涼しかった。
    「鎌鼬……私の大鎌とどっちが斬れるか楽しみです」
     皇樹・桜夜(家族を守る死神・d06155)が言う。こんなことを言うと、師匠が怒らなければいいのだが。
     イフリートからの依頼は色々来ているようだ。今後もこのような関係を維持していくためにも、眷属退治を頑張らなくては。
     イフリートのきぐるみを着込んだ垰田・毬衣(人畜無害系イフリート・d02897)がぐっと拳を握る。
     それにしても、だ。
    「イフリートが石板を爪でカリカリして文字を彫ってるの想像すると……和むんだよ……」
    「確かに、黙々とカリカリしているんでしょうか」
     毬衣のきぐるみのしっぽを見ながら桜夜が笑った。きぐるみのしっぽはもふもふで、可愛いと思う。
     ふわりと、風が吹いた。
    「イフリートから手紙が来るという話は聞いていましたが、北海道とは随分と遠くから届いたものですね」
     高峰・紫姫(守り抜くための盾・d09272)が、辺りを見回しながらそう言った。そして、その遠くの場所に今自分達が居るのだ。
    「北海道に来たのは、ボクはじめてだよ!」
     何と言っても、本州とは陸続きではない場所だ。観光名所でもあるし、物珍しい。犬祀・美紗緒(犬神祀る巫女・d18139)が言うと、真波・尋(高校生ダンピール・d18175)がうんうんと頷いた。
     北海道の広い路、どこまでも続く地平線。
    「ライキャリで都会では出来ない全力疾走したら気持ち良さそう」
    「それ、楽しそうだね! ね、こま」
     美紗緒がそばに居たこま(霊犬)を一撫でする。
     そのほのぼのとした雰囲気を感じながら月見里・无凱(深淵に舞う銀翼・d03837)が真剣な表情で腕を組んだ。
    「何気に選んだ依頼はまさかのはーれm……」
    「え、何?」
     霧ヶ峰・海璃(絶切刃・d15615)が真っ直ぐな瞳で聞き返す。
     いえいえ、と、眼鏡を押し上げ无凱が空を見上げた。
    「僕以外女子という、なんとも美味しいシチュエーションですな」
     真顔で呟く。
    「カマイタチを狩るついでに温泉旅館……こういうの、役得って言うんだっけ?」
     小首を傾げながら、海璃が言った。まあ、手は抜かないよ。良い経験にもなるしね。と、表情を引き締める。
    「温泉……覗くなよ?」
     伊織・順花(追憶の吸血姫・d14310)がにやりと笑い无凱を覗きこんだ。
    「ああ、覗きなんざしませんよ、するなら堂々とします」
    「……あ、そう」
     堂々とした覗きとは一体どういうことなんだろうか。気になるような、突っ込んではいけないような。
     ともあれ、時間が近づいてきた。
     雑談をしていたメンバーが、話を止める。
     今までそよ風に揺れていた木の音が、急にざわざわとうるさく聞こえた気がした。

    ●戦い始まり
     敵の気配が辺りに漂い始める。辺りに一般人の姿はない。それでも。
    「念には念を、なんだよ」
     毬衣が殺気を立ち上らせた。
     それに加えて、戦闘の音を遮断するように順花がESPを使う。
     がさりと、草の陰から複数の鎌鼬が姿を現した。うち、一匹、一際大きな鎌鼬が目についた。
     あれがボスだろう。
     桜夜がカードを構え、
    「さあ、狩りの時間だ!」
     力を開放する。右手に日本刀、左手に大構を携え鎌鼬の正面に立った。
    「さぁて、鼬退治と行こうか?」
     すべての鎌鼬が現れたことを確認し、順花が走る。一処に固まらず、鎌鼬達を囲む心積もりだ。
     仲間達も、すでに戦う準備は万全だ。
    「キ、シャァァアアアアアア」
     鎌鼬のボスが、鋭く吠える。
     窺うように灼滅者達を見ていた鎌鼬達が、一斉に襲いかかってきた。攻撃をかわすように動き、皆それぞれ戦う位置取りを行う。
     桜夜、順花はクラッシャーのポジションを取った。
    「開幕の狼煙代りにはなるか?」
     順花が魔力を宿した霧を展開させる。霧を受けた前衛の仲間に、破壊の力を与えた。
     襲いかかってきた鎌鼬の群れを、桜夜が大鎌で薙ぎ払う。
    「殺しがいがあるといいですね。楽しませてもらいましょう」
     ボス鎌鼬はその場で踏みとどまったが、ボスの近くに居た鎌鼬達は、勢いのままに吹き飛ばされた。
     ディフェンダーには无凱と紫姫。
    「まずはバッドステータス耐性を上げましょうか」
     言いつつ、无凱がシールドを構える。周囲の仲間に届くよう、エネルギー障壁をぐんと広げた。
    「シャァアアアア」
     鎌鼬のボスが、体勢を立て直した。身体の大鎌を振り切り、薙ぎ払いをかけてくる。
     そのタイミングを見て取り、紫姫が身体を滑り込ませた。仲間を庇い、衝撃を受け止める。
    「ありがとうございます!」
     背に庇われた尋が、ほっと息を漏らす。
    「どれだけ数がいようと私より先に誰かを倒れさせたりはしません」
     答える紫姫の瞳に宿るのは疑いのない無上の信頼。だからこそ、例え自分が倒れても、それが解決につながるはずだと。紫姫は槍を回転させ、ボス鎌鼬を仲間から引き離す。
     紫姫の作った距離を利用して、尋が敵に狙いを定める。本当は力の限りハンマーを振り回したいところだが、今はまだ我慢する。
    「いつかはハンマーだけで解決できたらいいな」
     ボスの近くに居た鎌鼬に狙いを定め、身体を引き裂くように赤きオーラの逆十字を出現させた。今は、この力を使うしか無いのだと。
    「ギャ……ッ」
     身体を引き裂かれた鎌鼬が目を回しながら戦線を離れようともがく。
    「キャリバー!」
     すぐに尋がライドキャリバーを回りこませた。
    「遠慮なく行くんだよ……!」
     毬衣の身体から放たれるどす黒い殺気が、鎌鼬達を覆い尽くした。
     尋と毬衣はジャマーのポジションだ。
    「さって。戦いのときは逃げないように囲んで……だっけ? 逃げられたら大変だし、しっかりやろうか。回復、行くよ!」
     海璃が治癒の力を宿した温かな光を紫姫に向けた。紫姫の傷が、すぐさま癒される。
     メディックの二人、海璃と美紗緒も、鎌鼬を逃がさないよう囲んだ。
    「数が多いから逃げられないように注意しないとね」
     美紗緒の声に合わせ、こまが六文銭で射撃する。
     ジリジリと下がり始めた鎌鼬を見つけた。逃げる場所を探しているようだ。
     こまの射撃に続き、美紗緒は強力な威力の矢を撃ち放った。その姿は凛々しく、小さな狼のようだった。

    ●撃ち漏らしなく
     攻守バランスのとれた灼滅者達は、危なげなく敵を撃破していった。
     桜夜の黒死斬と紫姫の縛霊撃が、ボスの足を止め身体の自由を奪う。そこへ、毬衣が武器に宿した炎を叩きつけた。
    「焼き切らせてもらうんだよ!」
    「ギャンッ」
     まとわり付く炎に、鎌鼬のボスが悲鳴を上げる。
     その声に、他の鎌鼬が攻撃をやめ逃げ始めた。
     順花が逃げ出した鎌鼬の死角に回りこみ、急所を狙う。
    「こっちがガラ空きだぜ?」
     斬りつけた鎌鼬は、声もなく消えていった。
     更に別の鎌鼬が逃走を図る。すぐに无凱がウロボロスブレイドを伸ばし巻きつけた。
    「……ッ、ギ、ァ」
    「その毛皮……ひん剥いてあげますよ」
     斬り裂きながら、締め付ける。
    「そのまま縛りあげてもぐぅしかでませんよね……」
     何となく遠い目をしながら、遠くを見つめた。
     けれど无凱の武器はウロボロスブレイド。鎌鼬は、ぐぅとも鳴かずに消えて行った。
     鎌鼬達は錯乱し、隊列を取ることもなく好き勝手に行動し始める。そこへ、尋がロケットハンマーを構え、
    「よいしょ!」
     地面に叩きつけた。
     生まれた衝撃波で、二匹が消えて行った。
     それでも、ボス鎌鼬だけは戦う意志を見せ、攻撃の構えをとる。
    「シャァッ」
     気合を入れるように吠え、空間から無数の刃を召喚した。刃が中衛の仲間へ襲いかかる。少なからずダメージを受けた。
     すぐさま海璃と美紗緒が仲間を癒す。
     その間に距離を詰め、ボスが桜夜に向かって鎌を振り下ろしてきた。
    「ふ。その程度の、切れですか」
     左手の大鎌で攻撃を捌きながら、口元に笑みを浮かべる。
     桜夜の攻撃は、ボスを引き裂くように現れた逆十字。赤きオーラのそれが、容赦なくボスを引き裂いた。
    「……ギィ」
     短い断末魔を残し、ボスが消えた。
     その様を見て、残っていた鎌鼬達は完全に逃げの姿勢になった。
    「退路を塞ぐよう、お願いします」
     自身も逃げる鎌鼬を影で飲み込みながら、紫姫が紺子に声をかけた。
    「オッケーだよー!」
     戦闘をサポートしていた紺子は、逃げ出した鎌鼬を狙い撃った。
     鎌鼬が転がった先に、海璃の姿。
    「ほらほら、こっちこっち!」
     シールドで殴りつけ、また一匹、鎌鼬を撃破する。
     残った鎌鼬達も、仲間が次々と仕留め、あたりは完全に静かになった。
     一息、誰かが息を漏らす。
     周囲には鎌鼬が残っていないだろうか。紫姫が警戒するように辺りを探る。
    「どうやら、終わったようですね」
     安全を確認し、仲間達を見た。
    「良かったんだよ! それじゃあ、食事も温泉もどっちも楽しむよー」
     毬衣が嬉しそうに両手を上げる。辺りはまだ夕暮れ時。今から宿に向かえば、ちょうど良い時間だ。
    「温泉宿って言ったら卓球もあるといいなぁ」
     海璃のはしゃぐ声。
    「売店はあるんでしょうか? お土産や帽子を見たいですねー」
     尋の声も明るい。
    「よし、じゃあ宿に行くか」
     皆を先導するように順花が歩き出した。

    ●一時、休息を
     まず案内されたのは大食堂だった。制限時間や料理の場所についての説明を受け、みんなでテーブルにつく。
     それぞれが好きに料理を取り、夕食が始まった。
    「このお肉美味しいんだよー」
     毬衣がもぐもぐとステーキを食べる。ステーキのバイキングとか、なんていう天国なんだろう。毬衣の前には、肉汁の滴るステーキを中心に、野菜の天ぷらやお寿司も並んでいた。
    「やっぱりステーキ、美味しいですねー」
     言いながら、尋もステーキを味わう。尋の前にもステーキが多めに盛られていた。その次は寿司、合間に天ぷらも予定している。食べるのに夢中で、無言になりそうだ。
    「僕だけ場違いのような気がしましたので」
     化けました、と无凱。目の前には、ステーキ、天ぷら、寿司と、一通り揃っている。だが、彼について一番気になるのはそんな所ではなく。
    「なぁ、その着物と袴、わざわざ持ってきたんだよな?」
     順花がついに突っ込んだ。戦いの時には、確かにジャケットにカーゴパンツだったはずだが……。
     と言うのも、无凱の化けるというのは、着物に袴を合わせた大正の女学生風味の、いわゆる女装なのだ。長い黒髪が揺れる。
    「ケモノ耳は外してますよ」
    「いや、そんなピンポイントなところを主張されても」
     美紗緒が横から言い、笑った。つられて順花も笑う。
    「バイキングってはじめてだよ」
     美紗緒の前には、和食を中心としたメニューが並んでいる。和食が好きなのだ。
    「僕もバイキングって初めてだなー」
     海璃の前には、北海道の宿らしい、海鮮を中心としたメニューが並んでいた。
    「食べ放題なんだっけ? 北海道だし期待できそう……」
     うん、頑張ろう、と海璃。
    「そうですよ。……やはり、お寿司の種類は豊富ですね」
     桜夜が控えめに頷く。目の前には握り寿司が並んでいる。ボタンエビ、サーモン、ブリ、ホタテ、カニと揃えて取ってきた。
    「せっかく北海道まで来たんですから新鮮なものを食べたいですし」
     紫姫も寿司を選んでいた。小食なのであまり沢山は食べないが、のんびりと一つ一つ味わっていくつもりだ。
     桜夜と紫姫は、お互い寿司を選んだ事に気が付いた。顔を合わせ微笑み合う。
    「メロンも沢山食べたいから迷うね」
     最初の和食を食べ終え、美紗緒が呟いた。
    「じゃあ、もう一回、取りに行こうぜ」
     それを聞き、順花が誘う。天ぷらを多めにバランスよく食べたのだが、もう少し余裕がある。
     なお、思わず赤みが多いのを狙いそうになったのは内緒だ。

     食事も終わり、温泉は各自に任せて、と言うことになった。
     室内温泉の家族風呂では、美紗緒がこまの身体を洗っていた。
    「あはは、くすぐったいよ」
     いつの間にか、こまが美紗緒に身体を寄せ付ける。泡が飛び、美紗緒もこまも泡だらけだ。
    「でも、お風呂だし、大丈夫だよね」
     美紗緒の言葉を肯定するように、こまが美紗緒の顔を舐めた。

     ふと、思う。婚約者と、のんびり旅行をしてみたいと。広い湯船に浸かり、順花は空を見上げた。
    (「……いや、一緒に居られるだけでも幸せだし」)
     高望みはすまい。ただ、彼と居られる日々が長く続けばいいと、思う。
    「がぅー……」
     その隣では、毬衣がまったりと湯船に浸かっていた。
    「……良いお湯ですねー」
     尋もまた、肩まで浸かりすっかりくつろぎモードだ。
    「お疲れ様なんだよー」
     毬衣がちゃぷんと音を立て、顔だけ尋の方を向いた。良い湯加減なのか、リラックスした表情だ。
    「本当、気持ちいいな。おーい、无凱。一人で残念だったなぁ」
     隣の男子浴場では、无凱が一人きりのはずだ。
     くすくすと笑いながら順花が声を上げた。
    「一人で、ちょっと可哀想ですねー。あ、でも、まあ広い温泉独占できていいかも」
     尋も笑いながら、隣の浴場がある方を見た。
     男子浴場から返事はない。
     特に気にした風もなく、順花が目をつぶった。まあ、何はともあれ。
    「いい湯だなぁ」
     皆と少し離れた場所で桜夜はゆったりと湯に浸かっていた。女性ばかりなのだが、やはり少し恥ずかしい。
     スラリと伸びた手でタオルを絞る。
     色の白い肌が、ほんのりと赤く染まっていた。
     さて、室内温泉でゆっくり羽根を伸ばした海璃は、フルーツ牛乳を一気飲みしたところだった。
    「やっほー。くつろげた?」
     そこへ、偶然紺子が通りかかる。
    「うん。あ、ちょうど良い。一緒に卓球しない?」
     さすが温泉宿。目の前には卓球台がある。これはもう、卓球をするしか無いと。二人はラケットを握った。
     あえて皆と温泉には入らず、紫姫はのんびりと夕涼みをしていた。
     そこへ、着物に袴姿の无凱が通りかかる。女子の会話が筒抜けで、何となくバツが悪く早々に湯から上がったのだ。
    「とりあえず、この辺りに敵はもういないようですね」
     无凱の言葉に、紫姫が頷く。
    「そのようです」
     すでに日は暮れ、見上げれば満天の星空。
     灼滅者達は、しばしの休息を満喫した。

    作者:陵かなめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年7月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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