学園祭~とある教室のケース

    作者:聖山葵

     二日にわたって開催された学園祭もとうとう終わりの時を迎えた。
     多数のクラブ企画や水着コンテストなどで盛り上がりはしたものの、こればかりは避けられない。
     だが、まだ終わらないものがあった。そう、学園祭の夜はこれからなのだ。
     
    「と言う訳で、最後にみんなで楽しく打ち上げをしようと言う訳だ」
    「や、それ誰に向かって説明してるの?」
     自分の言葉に頷く座本・はるひ(高校生エクスブレイン・dn0088)へ鳥井・和馬(小学生ファイアブラッド・dn0046)はすかさずツッコミを入れた。
    「誰にと言う訳ではない、単なる独り言だな」
    「えっ」
     驚きの声を和馬は上げるが、はるひはかまう事無く言葉を続ける。
    「誕生日の時にばれてしまったが、私には友達が少ない。故に誰かの打ち上げにこっそり潜入して空気だけでも味わおうかと思ったのだが、生憎一人では気後れするのだよ」
    「はるひ姉ちゃんが気後れって想像出来ないんだけど?」
    「そう言う訳で、少年に聞こえるように独り言をいてみた」
    「あるぇ? それってひょっとして――」
     はるひの独り言は和馬を捕まえる為の罠だったと言うこと。
    「幸い使われていなかった空き教室へいくつか目星をつけている。そろそろこの教室に集まって打ち上げが行われるだろう。私達はそれにさりげなく紛れ込む」
     いわば二人はおまけ、主役は打ち上げを楽しむ他の学生達だ。
    「学園祭の余韻に浸りながら、思い出話に花を咲かせる。素敵ではないか」
    「あー、それはそうかもね」
     そんな空気のお裾分けでも貰えたらとはるひは言うと、脇に挟んでいたたたまれたダンボールを箱に戻し頭から被る。
    「では、作戦行動に移るぞ、少年ッ」
    「っ」
     はるひの奇行に一瞬叫びそうになった和馬は。
    「はぁ」
     打ち上げの空気を壊しては不味いと、ツッコミをこらえ、嘆息して後に続いたのだった。
     





    ■リプレイ

    ●それぞれの後夜祭
    「クラブの企画も、充まかせ、だったし、なー」
     スヴェンニーナがちらりと視線をやったのは、学園祭仕様にされた空き教室の黒板だった。側の椅子には出し物に使った人体模型のジンくんや骨格標本のカクさんが行儀良く座り、残る席を埋めるのが、スヴェンニーナと充。
    「というわけ、で。後夜祭のうちあげぐらい、は!」
     貢献するという意思表示か、スヴェンニーナは屋台で買い込んできたお菓子や料理を並べだし。
    「こんなにたくさん、おいしそうです」
    「充、なにが、たべたい?」
     微かな驚きと感嘆を口の端にのせた充へ目をやると、手を止めて問うた。
    「えっと、とってくださるのですか?」
    「いっぱい、たべるといい。とりわけて、あげる」
     問い返す充にきりっとした顔で、スヴェンニーナは頷きを返し。
    「……ありがとうございます」
    「いつも、充がしてくれるみたいに、スマートには、いかないけれど」
     嬉しそうに笑顔を浮かべた充は、スヴェンニーナの言葉に頭を振って、隠していたものを取り出した。
    「ニーナ様もぜひ一緒に、私もたくさん買ってまいりました」
    「ええと、じゃあ交換、ね」
     視線が交差し、手はお互いの持ってきたものに伸びる。
    「学園祭企画、たくさんの方が来られて、皆様楽しそうだったのです」
     お菓子を口元に運びつつ、スヴェンニーナは充の言葉へ相づちを打ち。
    「……ん、来年は、一緒に学園祭、まわれると、いいね」
    「はい。もし、来年参加できましたら、一緒に――」
     空き教室の一角で生物非生物を含めた【治療研】の面々は語らう。
    「こちらエリ、打ち上げ会場に潜入成功した。オーバー」
     あちらさんは、もうすっかり後夜祭の空気を作っている。などと追加で報告を入れたかは解らない。ダンボールを被って身を潜めたまま、エリは箱から飛び出たリボンと俗にアホ毛と呼ばれる形状の毛髪を揺らすと、壁際で足を止めて応答を待った。
    「了解した、このままもう少し奥へ進もう。少年……ついてきているな?」
    「あー、うん。と言うか、なんでオイラこんなことしてるんだろ……」
     端から見れば、それは不審なダンボール三つ。
    「それで、学園祭はどうでした?」
     ごそごそと動き続けていた箱達がピタリと動きを止めたのは、意外に近くで声がしたからだった。覗き穴から見られる範囲と視界の狭い箱にとって、外部の音は重要な情報。それが人の声であるなら、動きを止めるのも仕方ない。
    「そうだな……武蔵坂学園奉仕部ではメイド姿でマッサージして、星見荘でも浴衣着付け体験のサポートをして途中から浴衣着て女装しただろ。あとは、その格好でstratosphereにも顔を出したな。そう言や、そん時の姿花梨に見られたな」
    「へぇ、女装ですか。私も男装してみたい、なんてね……」
     指折り数えた項目の殆どに女装が絡んでいたことを明かし、食いついてきた尋と言葉を交わしつつ、梵我は持ってきたパンケーキを取り出し、仲間達の前に置く。
    「こいつはFoxTaleの水着喫茶で出してたパンケーキだ」
    「美味しそうですね~。私も【魔法使いのしっぽ】からケーキやサンドイッチ持った来たんですよ!」
     更に尋は【吸血研究会】の血のようなトマトジュースを添えて、かわりに梵我が提供したパンケーキへ手を伸ばした。灼滅者達が思い思いの品を持ち込むからこそ、打ち上げの宴は豪華になる。
    「奥のテーブルにてアップルパイを確保極めて美味!」
     潜入していたエリもおそらくは恩恵に与った一人だったが。
    「なんかもう見つかってるような気がするけど普通に参加するっていう選択肢はなかったの? はるひちゃん」
     流石に無理があると思ったのだろう。と言うか、気がつけば、知り合いを発見して出て行けなくなったというか。
    「あれ?」
     エリを待ち受けていたのは、一つの窮地だった。

    ●失敗する時はこんなもの
    「ここはもうダメだ一度離脱して偶然を装って普通に参加しようはるひちゃん」
     突き刺さる視線に思わず末尾を震わせるようにしてエリは声を絞り出す。
    「その旨を良しとする。作戦の起案者は私だ、殿は撒かせて貰おう」
    「や、もう殿がどうのこうのってレベルじゃないよね? 明らかに見られてるよね?」
     と言うか、やりとりがヒソヒソ声であったとしても発見されてしまった後では意味がない。
    「てめぇらもどうだ?」
     ましてや、声をかけられてしまっては。
    「あ、花梨ちゃんコレはアレだ、お気にナサラズニ?」
     梵我に誘われ、入った人の輪の中にいたエリの知り合いは、何故か真っ白な紙を持って必死に何かを誤魔化そうとするエリへ応じた。
    「あれ、どういう意味なんだろうはるひちゃん?」
    「白紙自体に何らかの意味があるのか。何をどうすればいいのかわからんな」
     そんなアイコンタクトが行われたかは定かでない、ただ。
    「よかったらこれ食わへん? 【ご当地の友】の広島のお好み焼きと、【月詠奏鳴曲】できのこにチョコレートをコーティングして作ったもんや」
    「ありがとう」
     打ち上げに加わった時点で、潜入者達の作戦行動は終わったのだろう。持参した品を勧める奏へ礼を言って三人は箸を伸ばし。
    「せやせや、【ご当地の友】にはあのラブリンスターも来たらしいでっ!」
     会えへんかったけどと続けながらも、奏は「びっくりしたし嬉しかったわ♪」と語り。
    「あのラブリンスターがですか」
    「言うても、オレはほとんどクラブの活動手伝えへんかったから……来年はいっぱい手伝いたいな!」
     仲間内の反応を見ながら抱負を口にする。いつの間にか梵我の姿が見えなくなっていたが、何らかの理由で席を外す者が居てもおかしくはなかったから、奏もさして気にはとめなかった。
    (「あの子と、一緒に回れたら良かったんやけどな」)
     片思いの相手を胸中に描いて、物思いに耽っていたからかもしれない。
    (「あの子もどこかで……後夜祭楽しん」)
    「悪ノリメイド、イッチー参上☆」
    「っぶ」
     女装して戻ってきた梵我に不意をつかれたのは、だからこそかもしれないけれど。
    「これが、さっきの話しにあった……女装ですか~」
    「和馬くんは変装すればいけるんじゃない?」
    「え゛、ここでオイラに火の粉が降りかかってくるの?!」
     悪ノリメイドの登場は思わぬ効果を呼んだらしい。
    「お仲間は歓迎するわ♪」
    「だってさ、和馬くん」
    「や、だってさじゃないよね?」
     顔を引きつらせるお仲間候補。
    「じゃあ私も男装してみようかな?」
     そして、異性装の時間は訪れたのかもしれない。訪れなかったのかもしれない。
    「大丈夫! 一夜限りの幻ってことにしておけば――」
     真相を知るは、当人達のみ。もっとも、打ち上げはまだ終わりではないのだが。

    ●ろしあん
    「この姿も、これでおしまいですか……。いやはや、長いような短いような学園祭でしたねぇ……」
     自分の殿様姿しみじみと見つめ、昨日と今日二日間の事を回顧してため息をついたのは、流希。ただの殿様ではなく頭に馬や鹿がついて回りそうな方のであるが、流石に打ち上げだけあって、演技の方はオフになっていた。
    「それにしても、なりきるのは難しいよね」
    「私は腰元でしたが、上手く出来ていたでしょうか?」
     ポツリと呟いた登も仲間に問う清美も、和風なりきり喫茶をやった【TG研】のメンバー同士。
    「腹黒側用人のつもりでしたが、普段とあまり変わらなかった気がします。あ、僕が普段腹黒という訳ではないですよ、多分」
     お疲れさまでした、と労いの言葉をかけるなり良太が語った後半部分は微妙に語るに落ちている気もするが、幸か不幸か拾って指摘する者もない。
    「なりきりは普段そのまんまで申し訳ないです」
     ただ、夕月は軽く頭を下げ、ちらりと流希を見る。
    「そう言えば、オレは側用人だから時代劇ぽい話し方をしてればいいけど、流希兄ちゃんはバカ殿なんて良く持ったね」
     おそらく、登と同じような事を思っていたのだろう。
    「ですよね。紅羽先輩のなりきりはすごかったですよ」
    「はい、あのテンションで通した部長は凄いと思います」
     流希が即座に頷けば、良太が同意し、三人は揃って部長を賞賛し。
    「いえいえ、こちらこそ『私の無茶振りに付き合っていただいて有難うございますねぇ……』といいたいですよ……」
     謙遜か感謝からか、賞賛された流希は頭を振って用意しておいた梅ジャムとビスケットを前に桜茶を出す。打ち上げなら食べ物や飲み物が並ぶのはごく当然。
    「桜井先輩は食べ物を沢山用意してくださって、ありがとうございます」
     手を抜いてごめんなさい、と清美が続けて頭を下げたのは、売れ残った冷やしぜんざいや水羊羹で済ませようと手を抜いたことに対する謝罪だったが。
    「それ……」
    「学園祭らしく屋台のお好み焼きやらたこ焼きやらフランクフルトやらを持って来ました」
     夕月の手元を見て呟いた者が凝視しているのは、たぶんたこ焼きでも無ければフランクフルトでもない。横にあるひつまぶしおにぎりの方が近いが、これも違う。
    「いあー、ロシアンおにぎり結構挑戦される方いましたね。メニュー見たら躊躇いそうなものだけど」
     誤魔化すように口の端にのせたものが、そのものどんぴしゃりだった。
    「うん、お客さんも結構来たけど、ロシアンおにぎりを頼む人が多くて驚いたなあ。この学園はチャレンジャーが多すぎるよ。まあ、そこが楽しいんだけどね」
     笑いながらも登は何故か『それ』を見なかった。
    「ですね。ロシアンおにぎりが売れすぎて、小豆ほうとうが売れなかったのが心残りです」
     故郷の味を広めたかったのですが、と残念そうな顔をした良太も、やはり『それ』は見ず。
    「あ、そこで見てるお三方、いかがですか」
    「えっ」
     かわりに見た『少女達』は声をかけられたことで、初めて発見されたことに気づいた。
    「もし良ければ座本さんと鳥井君達も一緒に乾杯する?」
    「あ、うん」
     真っ先に反応したのは、結局女装させられるハメに陥りつつも、君呼びされたことに脊髄反射した少年。
    「それでは」
     これに応じる形で口を開いたのは、どちらだったか。
    「本当にお疲れさまでした。楽しかったです」
    「来年もまた楽しい事をやりましょう。乾杯!」
     清美と良太が殆ど同時に飲み物の入った容器を掲げる。
    「かんぱーい、学園祭お疲れ様でした!! 頂きます」
    「それじゃあ、お疲れさま。カンパーイ!」
     倣うように夕月と登も紙コップ同士を触れさせ、飛び入り組がこれに続く。そう、楽しい宴が始まる筈だった。

    ●とののおことば
    「あ」
     事件はこの直後に起きた。
    (「これ明姉ちゃんの特製ドリンクだった……」)
     一音だけ発し、口元を押さえた登の身体がゆっくりと傾いで行く。
    「え」
     短い驚きの声を合図とするかのように、静まりかえる面々。
    「大変な事も多いけど、この学園に来てみんなと知り合えて良かったよ」
     良い笑顔の登が窓の外の夜空に浮かんだのは、たぶん幻覚だと思う。
    「危険はあれで終わりではありませんし……」
     誰かの視線が、当たりの残ったロシアンなおにぎりに落ちる。
    「そうそう、もしかすると、帯を引っ張られて『あーれー』というネタをやるかもしれないと思って、浴衣の下に体操着を着ていたんですよ」
     沈黙に耐えかねたのか、口を開いた清美は自分の身体に視線を落とし。
    「結局、そういう事は無かったので、ほっとしたような残念なような……」
     それはやって欲しかったという事ですよね、と確認を取るのは無粋というもの。
    「どうしよう、はるひちゃん?」
    「うむ、ここは誘って貰った礼に少年が帯び回されることで解決としては――」
    「おかしいよね? 明らかにおかしいよね?」
     困った顔で振り返ったエリへはるひが提示した案は、本人によって却下された。
    「って言うかさっき倒れた人、大丈夫なの?」
    「ええ……竹君でしたら、きっと」
     その先が気になるが、大丈夫だと言うことなのだろう。流希は頷くと、畳んだままの扇子に指をかける。
    「さて、他にも色々言いたいことはございますが、最後に……」
     自分から一言、と告げ、殿に戻った流希が扇子を広げた。ど派手なそれの中央に描かれていたのは、赤い丸。
    「皆の者、大儀であった。天晴れでごじゃる!」
    「ははーっ」
     日の丸扇子で扇ぎながらの一言に一同はひれ伏し、宴は幕を閉じた。
     

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年7月30日
    難度:簡単
    参加:12人
    結果:成功!
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