学園祭~打ち上げは屋台ご飯で!

    作者:一縷野望

     14日と15日二日間の学園祭は、大盛況のまま終わりを告げた。
     煌びやかな水着コンテスト、様々なクラブ企画……訪れた人達、そしてなにより準備から頑張った学生達を楽しませたお祭り。
     この二日間は『特設屋台通り』で様々な味を楽しんだ人も多かっただろう。
     そんな屋台通りでは、今、後片付けと同時進行で打ち上げが開催中。
     設置したベンチや地べたに座り、小中高の学生達が二日間の想い出を語り合っている。
     売れ残り? いやいや、このためにとっておいた料理や飲み物は格別の味。
     屋台はまだ解体されてないから、残った材料でこれから作るのだってOK。
    「終ったのに……賑やかなん、ですね」
     活気冷めやらぬ屋台街に、機関・永久(中学生ダンピール・dn0072)は驚いたように瞳を瞬かせる。
    「そこが普通のお祭りと違うトコだよね」
     ブーツの踵を鳴らし、灯道・標(小学生エクスブレイン・dn0085)は方々からあがる「お疲れ様ー」「かんぱーい」に耳澄ます。

     学生のみんながお客さんなだけじゃなくて、お店側でもあることが多い――ここからは学園のみんなにだけ許された特別の時間。
     もちろん企画に携わってなくても気にせずご相伴に預かったり、あいた屋台を借りてちょっとした料理や飲み物を作って配り歩くのもオツなもの。
     野暮なことは言いっこなし、〆の時間は賑やかにいこう。
     祭りの後が寂しいなんて誰が言った? お楽しみはまだまだこれからです!


    ■リプレイ


     お祭りの魔法がまだ続くからかなんだか余計に特別に見える。

    「さて。もうちょっと騒がないと勿体無いと思わない?」
    「当然」
     一とリュシールは通りへ身を踊らせる。
     トウモロコシをちまりと上品に食べる姉貴分に、わざと豪快にかぶりつくこれぞ王道!
     クレープ屋台で生地をくるり、イカにベーコン玉子を散りばめフランス流に畳めば一がぱちくり。
    「いがいと美味しそう」
    「…あなた、お祭りの時は凄く素直よね?」
     通りすがりの永久と標にお裾分け。
    「いつも素直じゃん?」
     女心はわからない。
    「標ちゃん、永久くん、学園祭楽しかったね♪」
     碧月はちょっと珍しいクレープに瞳を丸くした。
    「お疲れ様っすよ~♪りんご飴どうっすか?」
     にゅっと突き出す艶ある赤、人懐っこく笑う鶫もそこに加わった。
    「暫く回らね?」
     両手いっぱい抱え周が永久に声をかける。先程迷子っぽかったのが気になったのだ。
    「先にちょっと食べて減らした方がいいっすよ」
    「うちのクラブのお団子もらって来たの」
     むしろ増えた。
    「餡子、みたらし、醤油…いいね」
     標の前に醤油色に染まった丸が3つ現われる。
    「玉こんは山形の伝統食なんだべ!」
     紅華が人数分差し出すと輪がさらに膨らんだ。
    「コクが、あります。次は…甘い物」
    「沢山食べたのに止まらないんだよねぇ…」
     頷く碧月。
    「じゃ、このカキ氷の出番かね」
     しっかり宣伝する周、鶫の言葉を呼び水に学園祭の想い出話に花が咲く。
    「来年は本番に参加したいべ!」
     紅華が掲げた玉こんに【鉱石部】の瑞樹が目を止めた。
    「山形の玉こん! どんどん焼き出てなかった?」
    「見かけながったー」
     しばし故郷話が弾むのを千歳達は穏やかに見守った。
    「甘い物屋台、知ってますか?」
    「えっと…お薦めシャーベット」
    「ああ、手芸部のな」
     永久に請われ周がイチに説明。
     シグが飴をばら撒いたタイミングで離れる4人。
    「皆瀬さんのタロット盛り上がっとったね!」
    「初めて他者を占う事でちょっと自信ついたかな」
     シグに頷き瑞樹は胸に手をあてる。
    「石探しも含め、まさかの大盛況、でしたね」
    「接客慣れないところをシグくんとイチくんには助けてもらっちゃったなぁ」
     千歳のありがとうに、イチは「接客、眩しかった」と眼を細める。
    「お化け屋敷はなかなか刺激的やった」
    「シグさん、また行こうね」
     ずっとアイマスクで目隠ししてたのは内緒。
    「占いがきっかけで部員になってくれた人もいるし」
     これからの鉱石部に幸アレ。
     でも目が回るほど忙しかった四人、まずは腹ごしらえ。
    「はぁ」
     ――誘い方を考えてたら学園祭が終っていたなんて言えない。
    「タスク、お待たせヨ~♪」
     意気揚々と辿り着いたメイファンは悩み顔の丞の腕を引く。
    「ほらほらっ、美味しそうヨ~♪」
     破顔にクヨクヨが消えていく。
    「〆は、最高の逸品ネ♪」
     タスクの為にミオ手づからの中華焼そば。
    「来年は一緒に回ろうな」
     誘えずのお詫びと来年の約束にミオは満点の笑顔でこくり。
    「ありがとな」
     料理へ篭められた真っ直ぐな想いが胸に染みる。
     犬神家の双子姉妹は、屋台に幼い頃の祭りの日を重ね巡る。
     ――妹は良く食べものを落としては泣いていた。
     ――姉がふざけて体当たり、綿飴やらはお星様に…。
     見解が一致しないのは、よくある。
     でも姉妹でわけっこしながら食べるのは一人で1個食べるより美味しかった。
    「ふう、なんとか確保です」
     妹沙夜の交渉を後ろから見守る姉の夕は戦果に満足、歩きながらイカ焼きをつまみ上げる。
    「はい、半分」
     落としてなくても、半分こ。
     向かいのベンチで二人並んで乾杯。
    「茜は今日、楽しめた、か…?」
    「お化け屋敷は懲り懲りです」
     鮮やかな背高グリーン、葛の眼差しに茜は茶目っ気を滲ませた笑みで返す。
    「あーん、は?」
     悪戯っぽく瞳を眇めれば照れ顔のお口が開く。たこ焼きのお返しは愛らしい猫カステラ。
     再来を願う小さな声に茜は夜空から視線を彼へ。淡やかな笑みに茜は肩に寄りかかる。
     傍に。
     繋いだ指のようにこれからもずっと、泣いたり笑ったりも、一緒に。
     夜なのに彼女が笑うとできる陽だまり、彼はそのぬくもりを享受する。
    「アレスくん食べてるのも美味しい?」
    「食べてみたいですか?」に、こくん。
    「く食いしんぼうさんじゃ、ないからね…あ、そうだっ」
     柚莉が取り出したのは透明セロファンに包みリボンで飾ったハンカチ――ケーキを零した時に貸したのだったか。
    「ゆずと一緒に来てくれてありがとう」
    「私からも、ありがとう」
     お互い同じ気持ち。
     美味しいケーキを前にまた一緒に紡げるといいな。


    「楽しまねーともったいないだろ!」
     エスケープな親友をとっ捕まえた魁斗。買いあさる様に飛燕は「食べ切れるの?」と呆れ顔。
    「飛燕も食えって♪チョーうめーから!」
     苦手な熱い食べ物、
    「…おいしい」
     でも彼に後押しされて口に入れれば寿ぎ招く。
    「だろだろ?」
    「美味しいけど…」
     食べたいのは冷たい物。
    「屋台探し付き合ってね?」
    「おう」
     カキ氷、アイス…指折り数え2人歩き出す。
    「冷たいもの、かき氷がよいでしょうか?」
    「折角なら可愛い可愛い音々さんや暦さんが、キーンと愛らしく苦しむ所も見てみたいですわね」
     暦の提案に愛理がうっそり笑んだ。
    『お二人と、皆のお陰で。楽しかったです…♪』
    「そう、よかったです」
     特大カキ氷を3つもらい暦が配る。
    「食べ過ぎるとお腹を壊してしまうのですよね」
    「そうですわね」
     くすくす。
     なんだか2人の笑みが邪悪だ。
    「?」
     小首を傾げる音々に、
    「お腹が冷えすぎないように撫でましょう」
    「冷えすぎたら抱きしめてあたためてさしあげます」
    「~~!」
     わたわた手を振り音々は逃げ回る。
     ――イライラにはカルシウム。
     そんな事はおくびにも出さず、毅と夜月は骨まで食べられる魚の姿焼きやらを彩に投入。
    「…どういうチョイスなの?」
     連れ出された不機嫌が香りに緩む。
    「美味しそうだろ?」
    「ほら骨折とか困るやん」
    「…確かに」
     どっちにも納得、なのでがぶり。
     食べ物で機嫌が直るなんて判りやすいとか、視線で語る男性陣。
     毅には脂身たっぷり串焼きだのジャンボお好み焼きだの高カロリーどっさり。
    「どうせ減量するんやろ? 明日から粗食を頑張るために」
    「夜月性格わりー」
     趣味のボクシング、ウエイトコントロールは求められるわけで。
     もぐもぐ。
     押し付け合う男二人の間で咀嚼していた彩はぽつり。
    「…おいしい」


    「おおー」
     嘉月の指が華麗に鉄板で舞うのに司は感心したよう手をあわせる。
    「やきそばも作れば、お野菜もっと使えるですよー!」
     ソバの袋をあけ月夜もお手伝い。
     じゅうじゅう焼ける音に場所探し中のきぐるみ集団【文月探偵倶楽部】の面々が足を止めた。
    「お肉ー」
     頬張る毬衣に嘉月はベンチを示す。
    「いっぱい食べていって下さいね」
    「タレにつけると、別のお味がして美味しいのですー」
     お野菜もと差し出す月夜に直哉はぺこり。
    「をいふぃいれふよ~!」
     お好み焼きをもぐもぐ、カレーや鉄板焼きと交換で手に入れてきた戦利品を掲げ司も友好さん歓迎!
    「これなら使い切れるかな」
     賑やかさを背に嘉月は嬉しげに野菜をひっくり返す。
    「お礼のひまわりー♪」
     くるり太陽の花、ミカエラの舞に月夜達が大はしゃぎ。
    「辛めのもの中心です、苦手な方はご注意ですっ」
     食べ物集めに巡っていた空達も合流して大きな賑わいへ。
    「順調に着ぐるみが増えていってるっすねー」
    「なんですかレミ」
     コアラ桐香に刺さる視線。
    「よく皆平気だよね」
     執事服の新と白衣のレミがしみじみ頷く隣、
    「ふー…暑い」
     でもそれは皆一緒と、黄色い鳥さん金糸雀は陽桜から渡されたカキ氷を受取る。
    「慣れるんだよ」
     肉。
     イフリート毬衣はエンドレス肉!
     金糸雀も愉しめたようで何よりと、桐香は貰って来たたこ焼きを爪楊枝でつつく。
    「私は着ぐるみきてませんよー」
     でも長袖学ランなのはツッコミどころか仲次郎。
    「もう知ってるかもだけど」
     部長の直哉が改めてジュースを掲げる。
    「『着ぐるミステリー』が『展示&体験学習』部門で一位を獲得したぞ」
     おめでとー!
     触れあう紙コップや缶ジュースが爽やかな音を立てる。遅れて弾けるクラッカー。
    「準備に当日頑張ったみんなもお疲れ様でしたぁ!」
     ぴょこんと揺れる桜わんこの耳にひまわりがこくこく。
    「原稿書いた人も登場した人もお客さんも、み~んな頑張ったよね~」
    「演者とはいえ頑張った甲斐がありましわ」
     演技ですわよねとの確認に周囲はただ微笑み返し。
    「特に直哉に智、レミは徹夜までしたのだもの」
     金糸雀の傍らおかわりを注ぐ執事の新。嘉月の焼いた鉄板焼きを月夜と司から受取り、お嬢様お坊ちゃまの小皿へ分ける。
     真珠の猫耳メイド――満足げな笑みで頷く咲哉の隣にきぐるみ軍団集結。
    「?」
     ぐるり、取り囲まれたのは弟直哉。
    「直哉おにーちゃん、おめでとーなの!」
    「はい、鈴木先輩もお疲れ様なのです♪」
     あどけなく微笑む陽桜に続き、功労者達に空は花束を手渡した。
    「ありがとうな。これも皆のおか…」
    「ねね、直哉の胴上げやろ~よ」
    「あ、いいですねー」
     ミカエラの提案に学ラン仲次郎が同意したのをきっかけに、着ぐるみ達は黒猫もふもふ、そして空高くわっしょい!
    「おめでとっすー!」
     にこにこしながら胴上げに混ざるレミ。だが次の主役は他ならぬ彼女だ。
    「レミ、本当にお疲れ様でしたわね」
     桐香の声で夜空に白衣がひらり舞う。
    「おめでとうなんだよー! がぅー!」
     戯けて吼える毬衣。
     功労者の面々を次々空へと胴上げわっしょいわっしょい!
    「優勝おめっとさん!」
     一際目だつ面々を見つけ【糸括】の明莉が手製の焼そばを振る舞った。
    「ありがとう、え、一口くれるって?」
     お祝いをくれた杏子の隣で色取り取りな飲み物を抱える朱那にミカエラは冗談口。
     改めて。
    「学園祭お疲れ様なのーっ!」
     杏子の掲げるオレンジジュースで【糸括】のメンバーも乾杯。
    「お疲れさん!」
     浴衣姿の夜斗は屋台を巡り手にした戦利品を披露する…これが数少ないまともな食べ物なんだ。
    「特注品だよ」
     今各個撃破って、確かにナディアは言った。だが涼しげに明莉に唐辛子クレープなんかをさしだしてみる。
    「美味しそうだな」
    「えっ、鈍さんこれ食べるの?」
     辛党なんだと脇差に差し出されるクレープの赤はぱっと見苺っぽいからタチが悪い。
    「有り難くいただ…」
     まずは焼きそばからと手をつけて、噎せ返る声を背に朱那は杏子にカップを渡す。
    「キョンちゃんにはトロピカルドリンクを」
    「しゅうなせんぱいはりんごといちご、どちらがいいですか?」
     純粋に林檎飴配る子にヒドイ物はあげられない。
     黒酢入り烏龍茶というか酢であるが、明莉は結構いけるとごくごく。
    「あかりん、焼きそば旨いな!」
     バハロネ焼きそばを笑顔で迎え撃つ夜斗は漢の中の漢だ。
    「うん、夜斗には緑茶かな」
     敬意を示し明莉はまともなのを渡した。
    「く…口直し…辛っ! こっちもかよ!」
     そして脇差は順調にトラップに嵌る。
    「バハロネクレープチリソース添えだよ☆」
    「絶対いらねー!」
     ナディアのサムズアップに悲鳴が被る。脇差、そろそろ泣きたい。
    「甘いモンに辛いモン合わせんなぁ!」
     こちらは別の抗議。バハロネはいいらしい、さすが辛党。
    「やとせんぱい、浴衣すごく似合うなのー♪」
    「ありがとうな」
     もはや杏子の林檎飴だけが癒し。
     じゅうじゅう。
     顔出せず悪いと【Café : Phönix】の勇弥はお詫びのお料理中。
    「ほうほうとりさんの奢り?」
     さくらえはにんまり。
    「僕もまともに手伝えなかったしなー」
     渋る健に、
    「断わる方がメンツを潰すことになるそうですし」
     と、織姫。
     さくらえは扇を口元にあて「おごりだってー」と煽る煽る。
    「すんませーん、よかったら…」
     アサトのお茶は『あかいくま』の鉄板焼きと見事トレード成立!
    「え、マジで! 神鳳センパイあざーす!」
    「では、あれとそれと…」
     淡々と追加する織姫、容赦がない。
    「お疲れ様でした」
     焼そばを手に現われた昭乃は「奢り」と盛り上がる様にきょとん。
    「さくらえさん、全制覇するつもり?」
    「まぁ、無茶振りはここまで。これはワタシの奢りね」
     たこ焼き、焼きそば…どんどん集る食べもの達。それと共に笑顔も膨らんでいく。
    「なんかマジ優しいよなー」
    「健くんも食べなきゃ食いっぱぐれるわよ」
    「綾瀬姉ちゃん、僕の胃袋はいつだって全開!」
     勇弥はからりと笑うとどんとこいの構えだ。
     喧噪の中、昭乃は皆に食べものをあげたりもらったり。
    「つい調子に…お詫びに何か作りますね」
     織姫はアサトの調達した材料を前に思案中。
    「織姫さんの手作り。いいわねぇ、勇弥さん」
     涼子は楽しみと瞳を眇めた。
    「はい、月宮さんも」
    「ありがとうございます。香ばしいですね…」
     こうやって友人と賑やかに過ごすのがはじめてで、機会を設けてくれた勇弥に昭乃は感謝の意を示す。
     とりさん。
     そう慕われる部長は照れて頭を掻いた後再びせっせとコテを返す。
    「祭りの雰囲気って良いもんだな」
     夜空はおしゃべりを呑み込み月が揺れる。
     空を見上げる彼をさくらえがつついた。
    「とりさん、挨拶よろしくー」
    「えっと…」
     お疲れ様でした、乾杯っ!


     女給さんに書生さん、タイムスリップ。
    「食べるか?」
    「はい」
     みゆはお好み焼きを割って渡す。美味しそうにもぐもぐする司をみゆがじー。
    「え、僕からもですか? …半分…どうぞ」
     苦渋で割ったたこ焼き一粒。確かに半分ではあるがお好み焼きの代わりにしてはセコイ。
    「タコがないではないかー!」
    「はぁー、ホントしょうがないなぁ」
     タコータコーと抗議するみゆと司を見比べて、遥斗は熱々のたこ焼きを分けながら器用に肩を竦める。
    「みゆさん、俺とはんぶんこしましょう」
    「僕も欲し…」
    「意地悪な司さんには分けてあげません!」
     まぁ当然である。
     観念した司、3人はこの後も仲良く分けあい屋台飯をご満悦。
    「ん…来年は迷わず辿りつき、ます」
     永久と別れた沙紀は【Promenade】へ合流する。
    「ほんと、傑作だったわ」
    「…違和感がなく着こなしていた者もいたがな」
     乃亜もクレープから口を離し神妙に頷いた。
    「それって誉めてるんだよな?」
     むーと顔を顰めつつ桜は屋台飯を皆の前に置いた。ジュースも配りいざ乾杯!
    「隼鷹さんは…まぁ、うん、すごかったですね。いろいろと」
    「なんで女装の話続けるんだよ!?」
     詠一郎の意味ありげな台詞に隼鷹は「好きでやったわけじゃない」と噛みつく。そんなやりとりがおかしくて焼きそば吹きそうと沙紀は口元を押さえた。
    「…詠さんも着れば良かったのにです」
     真っ直ぐに見つめるなこたの瞳には珍しく彩りが宿る。
    「僕。赤い巫女服、タカさんも桜さんも乃亜さんも沙紀さんも、皆とっても似合ってたと思うです」
     純粋に赤は好きだからとたまを抱きしめて。
    「乃亜ちゃん、一口頂戴」
     苦笑で流しとばっちりがくる前に乃亜のクレープをぱくり。
    「こ、こら詠一郎、行儀が悪いぞ!」
     真っ赤な頬は間接キスを描いたから。
    「あ、そうだ」
     桜はなこたと隼鷹と撮った巫女写真を送信する。
     笑顔の隣の無表情と仏頂面――お揃いの首飾りと合わせて、これも大切な想い出。
    「いいか、絶対他の誰かに見せるなよ?」
     ――その念押しはきっとフラグ。
     兄妹以心伝心。
     【卓上競技部】部長な妹朱梨の丸投げに鷲司はカップを持ち上げ音頭を取る。
    「皆、今日はオレのために…」
     どかっ!
     彩希、踏んだ。
    「ん。かんぱーい!」
     さらりと音頭を奪い宴会開始。
    「リクエストあったら遠慮なく言ってね?」
     変なジュースもあるよって続かなければいい部長さんなのに。
    「面白そう!」
     景は躊躇いなくブリリアントグリーンの液体に指を伸ばした。
    「だ、大丈夫ですか?」
     ダメならすぐにお茶メディック、彰はペットボトル抱え景を見守った。
    「これが若者に流行なんだねっ」
     その知識は絶対間違っている。
     詩音は体力回復できそうと見たジュースからそっと手を引いた。
    「皆さん、体力が有り余ってるようですね」
    「本当に」
     都璃はオレンジジュースを注ぎ配る。そして腕を振うとの朱梨のサポートにと立ち上がり。
    「お疲れでしょう」
     彰もそっと朱梨の背を押す。視線は鉄板の前に立つ椿。
    「お仕事のこと一時は忘れて、どうぞ――」
    「あ…」
     頬染め胸を押さえる少女に届くは、
    「めーし! えーび!」
     兄のくれくれコール。
    「にーさま!」
    「よーしわかった」
     椿は鉄板に海老をばら撒く、うるさい腹ぺこには特製のエビチリでお仕置きだ!
    「もがっ、ぴー?!」
     椿のエビチリを流れるように押し込む彩希、異音が出てるが気にしない。
    「しゅーちゃん、めしあがれー!」
     景がヘラでグイグイ鉄板に押し付けた…何か? が景の手で追加。
     ちなみにずっとサポートしていた都璃は止められなかった無力感を噛みしめ項垂れている。けれど椿が真面目に作った料理でほっと綻ぶ口元。
     こっそり姿を消す鷲司と彩希に知らぬふり、詩音はちまちまと食べながら場の空気に身を任せる。
     賑やかな宝物、くれる皆に彰は頬を緩めた――この想い出を語るいつかも笑顔ならいいな。


     【czas】の打ち上げ、お供えお菓子いっぱい。
    「いやー黒柴神社大盛況だったよ!」
    「えーた、ずっと黒柴さまでいればお菓子に困らないかも」
    「中3男子とは思えないラブリーさ」
     颯夏とすずめは大きく頷いた。
    「飲み物も色々ある、ダヨー」
     チロルがお好み物を配り改め乾杯。
    「甘いのある、カナーっ」
     嬉しげに手を伸ばすチロルを見て微笑むすずめは首を傾げた。
    「犬用のお菓子も紛れ込んでない?」
    「本当だ。この辺梅太郎にどうぞ」
     一哉から受取ると、兄貴風なコーギー梅におひとつあーん。倖せそうに食べる様が非常に和む。
    「ボクも梅太郎にあーんってやりたい!」
    「颯夏ちゃんも勿論、というか梅がお待ちかねだわ」
    「梅様、頑張った」
    「先輩面なドヤ顔はいらっと来るが頑張った」
     チロルにどうぞとすずめはたこ焼きを差し出した。から揚も美味しいと好評です。
     お腹一杯倖せ気分、じゃあお次は? やっぱり黒柴さまのご利益に預かりたいよね!
    「特別サービスで、変身!」
     視線が集る中、瑛多が黒柴さまに変身。
     ご利益狙うは――眉プッシュ!
     千穂と颯夏とチロルが触る中、すずめは一哉にたこやきあーん。
    「い、いや、自分で食べれるから!」
     涼しげな顔が焦って朱に染まる中、黒柴さまはひたすらぽちられるのでありました。
    「コセイ、お手。文太も食うか?」
     食べ物をあげる咲哉大人気である。
    「文太見ててくれてありがとー」
     どっさりと屋台ご飯を手に部長向日葵と真琴も帰還。
    「改めて、かんぱーい」
     文太を肩にのせる向日葵の音頭にのせて、空に昇る賑やかな空気。
    「私、こんなに大きな学園祭は初めて」
     市立中時代とは比べものにならない賑やかさに真琴は未だ興奮冷めやらず、業務用のスナック菓子をばりんとあけた。
    「さすが業務用」
    「味も美味しい。ナイスチョイスですね!」
     セカイはおっとりと口元に弧を描くと、改めて陵華と咲哉に漆黒の瞳を向ける。
    「学園祭の7月14日と直後の7月25日はそれぞれ安曇陵華さん、文月咲哉さんのお誕生日」
     こっそり用意していた箱をあければ、名を呼ばれた二人が瞳を丸くする。
    「ん!? まさか誕生日ケーキ!?」
    「有難う」
     おめでとう!
     お祝い言葉に照れる二人。
    「はい、咲哉さんあーん」
    「! …何故に」
     悠花から食べさせてもらうケーキが甘い。
     この幸いの喧噪を形作る面々が誰1人欠けることなく次のお祭りも過ごせますように――倖せ浮かべ祈るセカイ。
     それはこの場で笑いあう誰かの願いでも、ある。

    作者:一縷野望 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年7月31日
    難度:簡単
    参加:83人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 11
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