蒼き夜の試し斬り

    作者:相原あきと

    「た、助けてくれ!」
     その郊外の廃工場にたむろっていたチンピラの1人が、顔中を涙と鼻水と涎まみれにさせながら哀れに懇願する。
     チンピラの前に立つ男は、抜き身の日本刀を持った40代の男だった。
     作務衣姿に無精ひげ、伸ばしっぱなしの髪の毛は後ろに撫でつけ、どこか普通じゃない雰囲気をまとっている。
     チンピラが仲間たちと楽しんでいると、急に入ってきたこの男が、次々に仲間たちを日本刀で切り捨てたのだ。どこに逃げようと、どこに隠れようと、この男はすぐに居場所を見つけては1人、また1人を殺していった。もう残っているのは自分1人だけだろう。
    「ふむ、10人以上を斬ってこの切れ味……悪くないな」
     男は血糊のついた日本刀を眺めつぶやく、チンピラなど眼中に無いかのようだ。逆にそれが恐ろしく、チンピラは賢明に男へ懇願する。
    「な! な! 頼む! 助けてくれ! もう悪いことはしねーから!」
    「ん? 悪いこと?……ああ、女性を誘拐してはここで乱暴していたんだったな……しかし、ははは、俺が正義の味方に見えるのか?」
     初めて自分のほうを向いてくれた男に、チンピラが僅かな蜘蛛の糸をたぐるかのように必死に頭を下げる。
    「あ、ああ、何人前のか知らないが、復讐の為に来たんだろう? 俺はちゃんと警察に行って自首するし、今までの償いも絶対にするから!」
     男はチンピラを不思議そうに見てから、ふと視線を工場の一角へ誘導する。そこには衣服の乱れた女性が斬られて死体となっていた。
    「え、なんで……助けに来たんじゃ……」
    「ああ、動いていたから試しに斬った。安心しろ、こいつはまだ刃こぼれしていない……」
    「え?」
     ――ザシュ!
     廃工場内に静寂が訪れる。
     男は何かにおいを嗅ぐように鼻をぴくつかせると。
    「ふむ、ここにもう人はいない、か……まぁ良い、次に行くとしよう。まだまだ試したい刀は山ほどあるしな。ははは、試し斬りがこんなに楽しいとは思わなかった」
     男は廃工場を後にする。
     外は満月が輝く蒼く明るい夜だった。

    「みんな、デモノイドヒューマンについては勉強してある?」
     教室に集まった灼滅者達を見回しながら鈴懸・珠希(中学生エクスブレイン・dn0064)が皆に聞く。
     デモノイドヒューマン、それは人としての良心がデモノイドに打ち勝ち、その力を制御した灼滅者だ。
    「実はデモノイドに良心じゃなくて、悪い心で打ち勝った人達が現れ始めたの……」
     悪の心でデモノイドを制御した存在、珠希が言うにはデモノイドロードと呼ぶらしい。
     デモノイドロードは、デモノイドヒューマンと同等の力を持ち、その能力で悪事を働いている。
     さらに必要とあらばデモノイド化も可能で、また好きな時に元の姿に戻ることもできる。
     もし確実に言える事があるとすれば……彼ら彼女らは悪人であるということだ。
     そしてデモノイドの状態でも、悪意のある狡猾な知性を持ち続ける。
    「今回、未来予測で見つけたのは『真之条』っていう刀鍛冶士なんだけど……デモノイドロードの力に覚醒してから、その力を使って日本刀の試し斬りをし続けているの。バベルの鎖でニュースにならないことを良いことに、すでに数十人は犠牲になってるわ」
     真之条は人気のないところでたむろする、チンピラや不良を見つけては日本刀の試し斬りを行っているらしい。
    「良心の呵責でもあればまだ救いなんだけど……真之条は力を得て、それを利用した完全な殺人鬼よ。これ以上、放っておけない」
     珠希はそう言うと、真之条との接触方法を説明する。
    「みんなにはとある廃工場に向かってもらうわ、到着するのは深夜頃になると思う。真之条が廃工場にチンピラを殺しに入った後よ。チンピラ達はあわてて工場内を逃げたり、隠れたりするんだけど……」
     珠希がみなが行かなかった場合の未来予測を語る。それはチンピラ12名とその場にいた女性1名の計13人の無惨に殺される未来だ。
    「戦闘に関してだけど、真之条はデモノイドヒューマンの力と日本刀のサイキックを使ってくるわ。頭が良くてなぜか兵法とかにも詳しいから気をつけて」
     それと……、そう釘を指すように言葉を続ける珠希。
    「みんなが踏み込んだ時は、まだ誰も殺されていない状況なの。真之条は邪魔者が強いとわかったら、一般人を人質に取るかもしれないから、作戦をたてる時はそれをどうするか……それも頭に入れておいて」
     珠希は言う、デモノイドロードは力も強いが、なにより狡猾に戦えることがやっかいだ、と。
    「くれぐれも油断しないように、みんなを信じてるわ」


    参加者
    龍餓崎・沙耶(告死無葬・d01745)
    小鳥遊・麗(エーヴィヒカイト・d02436)
    東谷・円(乙女座の漢・d02468)
    葛山・詞貴(ヴァームスピーサー・d03068)
    柩城・刀弥(高校生ダンピール・d04025)
    ジェイ・バーデュロン(置狩王・d12242)
    和久井・史(雲外蒼天・d17400)
    榊・セツト(高校生デモノイドヒューマン・d18818)

    ■リプレイ


     廃工場内に耳障りな金属音が響き渡る。
     作務衣姿の男が目の前の不良2人に日本刀を振り下ろした瞬間、ライドキャリバーが割って入ってきたのだ。
     作務衣姿の男――デモノイドロード・真之条が不測の事態に後ろへ跳躍し距離をとる。
    「不良どもの仲間かと思って放っておいたが……何者だ?」
     正面口から現れたのは3人、真之条が離れた隙に不良2人の襟首を掴んで出入り口のほうへ放るのは葛山・詞貴(ヴァームスピーサー・d03068)、そして正面に立ち塞がるのはジェイ・バーデュロン(置狩王・d12242)と龍餓崎・沙耶(告死無葬・d01745)。
    「そこまでだ」
     ジェイが真之条に声をかける。
    「何がだ?」
    「こういう事さ……behold!」
     真之条の疑問に殲術道具を解放して答えるジェイ。
    「ほぅ、俺以外にも能力者はいるだろうとは思っていたが……」
     呟く真之条にジェイが日本刀を指差しニヒルに笑う。
    「いい刀だ。それで私たちと斬り合う気はないか?」
    「……少しだけ待ってくれ」
    「ん?……あ、ああ」
     予想外の返事に思わず頷くジェイだったが、真之条は2、3歩歩くと物陰に向かって刀を振り下ろす。
     瞬間、工場内に見知らぬ男の絶叫が響き渡る。
     真之条は物陰から両足首を切り落とされ叫び続ける男を掴みあげると、灼滅者達へと向き直る。
    「さて、この男を殺されたくなかったら、こちらの質問に答えてもらおうか」
     即座に不良を助けた事で灼滅者達が邪魔しに来た事は明白だった。故に真之条は不良を人質に取ったのだ。
     沙耶が困ったようななんとも言えない表情を浮かべる。
    「それとも、助けに来たのはそこの女の方かな?」
     真之条が正面口の右端へと視線を誘導すればそこには怯え震える女性がいた。不良たちに連れ込まれた女性だろう。ジェイが無言で女性の元へと向かう。
     人質は両足首から血を流し続けていた、いつ死んでもおかしくない状況だ。
     だが、沙耶も詞貴も動かない。
     
     少しだけ時間を戻そう。
     裏口から侵入したのは正面組と同じく3人、ただしこちらはライドキャリバーではなく霊犬がつき従う。
     工場に入るなり和久井・史(雲外蒼天・d17400)が業の匂いを感じとる。
    「小鳥遊さんと柩城くんは先に、慈も行ってくれ、俺は一般人を助ける」
     史の言葉に共に裏口から侵入した小鳥遊・麗(エーヴィヒカイト・d02436)と柩城・刀弥(高校生ダンピール・d04025)は軽く頷き廃工場内を駆けて行くが、史の霊犬である慈は逡巡して振り返る。
    「すぐ追いつく」
     そう言うと慈も2人の後を追っていなくなった。
     史は隠れていた不良を見つけるとESPを使いつつ。
    「邪魔だから、ここから消えろ」
     不良は怒られた子供のように怯え、そのまま裏口へと走っていった。
    「できるだけ助けたいが……」
     史は一般人の捜索を再開する。

    「挨拶がまだでしたね」
     沙耶が日本刀を鞘へ収めて言う。
    「こんばんわ、お取り込み中大変申し訳ありませんが……」
     続く言葉を口パクでしゃべる沙耶。
    「おい、最後何て言った?」
     妙なそぶりに真之条が警戒し――。
     その時だ、何かに気づいた真之条が思わず天井を見上げる。
     それは一瞬の隙、しかし狙っていた動きは誰よりも早く。
     天井から視線を戻した時、すぐ目の前には沙耶が駆け込んでいた。
    「ここで死んでください……そう言ったのです」
     神速、抜刀。
     沙耶の居合いが真之条の腹を切り裂く。
     だが、飛び散ったのは血ではなく作務衣の一部だけ。
     不良達など比較にならぬほどの気配を持つ沙耶を、真之条が警戒しないわけがなく、その慎重さが紙一重で居合いの回避につながったのだ。
    「同類の考える事は、なんとなくわかるさ」
     真之条がにやりと笑う。
    「同感です」
     だが、不敵に笑うのは沙耶も同じだ。
     沙耶の背後、その背に隠れるように同時に放たれていた詞貴の影が、獰猛な牙をもって時間差で真之条へ襲いかかる。
    「やるな……だが」
     真之条が足首の無い不良を盾代わりに詞貴の影へと投げつける。
     瞬間迷う詞貴だが、すぐに影を解除して人質を抱きとめる。
    「人命優先が信条か」
    「違う」
     言葉少なげに詞貴が答える。
     詞貴は仕事に対して割り切っている。人質は救助できるようならするが無理なら諦める。
     つまり――。
    「闇を討つ刃を我に……」
     背後から男の呟きが聞こえた。
     真之条は即座に反応し日本刀で受け止めようとするが――。
     ガキンッ!
     甲高い音と共に日本刀が弾き飛ばされ、胸から鮮血が飛び散る。
     裏口組が到着し、刀弥が先制の一撃を喰らわせたのだ。
     さらに追撃しようと剣を振りかぶる刀弥だが。
    「後ろへ飛べ」
     麗の声に刀弥が飛び退く。
     先ほどまでいた空間を蒼い日本刀が切り裂いた。
    「デモノイドの力……」
     その呟きの通り、蒼い日本刀は真之条の手から直接生えていた。デモノイドヒューマンの使うDMWセイバーだろうか。
    「お前たちに人質は効果が無いようだ」
     そう言いつつ女性を抱えて出口へ向かおうとするジェイを見、天井や背後の裏口方向もチラリと確認する。
    「それとも、何人か死んでも他が助けられれば良いという偽善者か?」
     真之条が手から生えた蒼い日本刀を構える。
    「中途半端な考え方だ。善く戦う者は勝ち易さに勝つ者なり……戦力の逐次投入ほど無意味な事は無いと教えてやろう」


    「ここから逃がしてやるんだ! いいから乗れ!」
     戸惑う不良を箒に乗せ、東谷・円(乙女座の漢・d02468)が窓から外へと飛び出す。
     榊・セツト(高校生デモノイドヒューマン・d18818)の設置したロープを使って逃げる者もいたが、1人ずつは効率が悪く円が箒で並行して運ぶことにしたのだ。
    「ここにいましたか……一階に化物がいます。死にたく無ければ早く逃げて下さい」
     見つけた3人目の不良に指示を出すセツト、だが――。
    「ふ、ふざけんな! っていうかてめぇは誰だ!」
     不良が目を泳がせながらも強気で叫んでくる。
     セツトはため息をつくと右手をデモノイドの力で異形化させる。
    「ヒッ!?」
    「わかりましたか?」
     コクコクと頷き慌てて窓に走り寄る不良。
    「ば、化け物だぁ!」
     その声は別の場所からあがった。隠れていた別の不良がセツトの腕を見て驚いたのだろう。その逃げていく先は……階段。
     慌てて気絶させ4人目を確保、さらに5人目は腰を抜かして自力で動けないようだった。
     円と合流し1人ずつ運ぶしかないと頷きあう。
     すでに1階からは戦闘音が聞こえていた。
    「下は後だ、とにかく今はこいつらを避難させるぜ?」
     円の言葉にセツトが頷く。
     今はただ、仲間を信じて……。

     戦闘開始から数分、すでにライドキャリバーのブレイズは仲間を庇ってその動きを止めており霊犬の慈も同様だった。人より易いと思ったか最初に狙われたのだ。
     さらに油断がならないのが視線運びだった、時折逃げようとする一般人の方向に視線を動かすのだ。その度に麗が射線を切るように割って入る。
     すでに麗が一般人を優先していたのは読まれていたのだろう。そうやって盾役を誘導しつつ、真之条は逆をついて攻撃してくる。
     バベルの鎖を瞳に集中させ、局地的に予知能力を上昇させた沙耶でさえ、真之条の行動は読み辛い。いや、読めるからこそ嫌らしかった。突いて欲しくないと思う部分を、真之条は容赦なく狙ってくるからだ。
     やがて一般人を避難させ終わったジェイと史が合流するが、その時にはすでに詞貴と麗は庇うか自己回復するだけのループを繰り返す状態だった。
     盾役は十分。
     だが、仲間が合流するまで耐えるなら回復役もいて欲しかったと言うべきか……。
    「その命、喰らわせてもらう」
     チェーンソーの刃を紅色に染めて刀弥が切りかかるが、蒼い日本刀がガシリと受け、チェーンの刃がこれ以上回らない事にギャギャ、ギャギャ、と不満げな唸りをあげる。
     真之条があいている方の手を刀弥の顔に向け、手のひらに蒼い光が収束していく。
     ドゥン!
     轟音が響き、真之条の腕が真上へとはじかれた。
    「援軍か」
     真之条の腕を弾いたのは階段からDCPキャノンを放ったセツトだった。
     さらに箒に乗った円も現れ、灼滅者たちは8人となる。


     真之条は的確に個々人の戦力を推し量り、戦闘の継続を選んだ。
     だが、8人の灼滅者はある点において真之条の想像を越えていた、それは。
    「戦い慣れているのか?」
     真之条が眉間に皺を寄せつつ呟く。
     包囲から外さない位置取り、連携、一対多の戦い方。
    「そら!」
     ジェイが不可視のシールドで真之条を殴りつければ、ダメージはともかく思わず視線がそちらへ流れる。その隙に史が回復の間に合わない仲間を治癒。真之条が蒼い日本刀で一気に前衛を切り裂こうと刀を振るえば、沙那を詞貴が、史をジェイが、刀弥を麗が庇う。
    「いっそ試し切りなら自分の身体でやればよかろう」
     麗が円から治癒の矢を受け立ち上がりながら言う。
    「ふっ、そんな馬鹿がどこにいる」
    「ああ、そうか、ただ弱い者を虐げる事が趣味だったか」
     真之条の返答を無視して麗が挑発する。
    「否定はしない」
     冷静に返す真之条だが、その狙いは傷が回復しきれてない詞貴へと向かう。だがそれを読んでいた麗が詞貴を庇う。挑発は狙いを誘導する為、円のおかげで回復していた麗が真之条の攻撃に耐える。
    「ちっ」
     真之条は前後に視線を飛ばすと一度冷静になるよう呼吸を整える。
     セツトのみ牽制とばかりに攻撃を繰り出すが、残りの灼滅者たちは真之条と同じように自らを治癒し、仕切り直すように再び武器を構える。
     僅かな間。
     静寂が張りつめる中で沙耶が口を開く。
    「一つ聞きたいのですけど……」
     真之条が沙耶の方へ視線を向ける。
    「貴方はダークネスですか?」
     真之条の目が細められる。
    「なら聞き方を変えよう……あんたは、自分が人間だと思うか?」
     沙耶に続いてセツトが問う。
    「質問の意図が読めんな。それは異能の力を得たことに対する問いか? それとも、人質を殺そうとする非情さについてか?」
     セツトだけでなく他数人も思わず息を飲む。
     そして真之条が居合いの構えを取り。
    「答えが欲しいならくれてやる……前者なら否、後者なら是、お前等だって……同じだろうが!」
    「あああああっ!」
     セツトが叫びと共に放った蛇咬剣を、真之条が居合いの構えのまま横に跳び回避し、そのまま突っ込んでくる。 
    「くっ」
     蒼い居合い抜きの後、倒れ伏したのはとっさに身を呈した詞貴だった。
     真之条はそのまま駆け抜け次ぎの標的を……と、そこでガクリと動きを止めた。
     倒れたはずの詞貴が真之条の足首を掴んでいたのだ。それは肉体を凌駕する魂の力。
     もう片方の足で詞貴を蹴り上げ自由になるも、その時には背中側から壮大なチェーンソーの音が迫っていた。
     前に飛び込むように身を投げ出す真之条だが、地を這うように体を沈み込ませて急接近していた刀弥はさらに地を蹴り勢いを増す。
    「ガラ空きだ!」
    「ぐっ」
     慣性すら乗せた一撃が真之条の背中を斬り裂いた。
     次の瞬間、真之条から蒼いオーラが解き放たれ、思わず追撃の手を止めて距離を取る灼滅者達。
    「……小僧ども、退くなら退いて構わんぞ。それでも戦うと言うなら……全員まとめて死ぬがいい!」
     作務衣が破れ、人の皮さえ引き裂き蒼い筋肉が膨張していく。口は大きく牙をのぞかせ、頭髪は無くなり、肉に埋もれた瞳は狂気の色に染まり灼滅者たちを睨みつける。
     デモノイド化。
     矢を構えながら円が溜息をつく。
    「やれやれ、やっぱこういう展開なワケね……」


    「くっ、そんなこともできるんだったな」
     放たれた強酸性の液体にジェイが苦痛に顔を歪ませる。
     前衛に立ち傷を受けていない者はいなかった。唯一の回復役として戦況を見回す円は 次に治癒が必要な者が誰か……と、ギリギリで立ち続ける詞貴と目が合った。
     だが、円は狙いを詞貴ではなく攻撃役の刀弥へ変え癒しの矢を放つ。
    「ほらよ柩城っ!」
     円の回復を目だけで断った詞貴は、仲間のその行動に心の中で頷いていた。すでに自分は限界まで回復しても敵の一撃を防ぎきることはできない状態だったからだ。
     真之条が腕から生やした蒼い日本刀で周囲を薙ぎ払おうとしていた。
     冷静に状況を分析する詞貴、アタッカー3人のうち途中参戦のセツトと、先ほど回復させた刀弥は耐えきるだろう。なら――。
     両腕で顔を守るようにし沙那の前へと立つ。
    「く……」
     腹を切り裂かれ、膝から崩れ落ち、詞貴の意識はブラックアウトする。
     倒れたのは詞貴だけではない、最前線で耐え続けていた麗とジェイも同じだ。即座に魂の力で立ちあがる2人だったが、次に耐えられる体力は残っていない。
     攻撃役3人が自己回復するべきかと僅かに迷った瞬間。
    「大丈夫だ、心配ない」
     ジェイが言う。
    「次は俺たちが庇うさ」
     麗が背中を押す。
     即座に動いたのは刀弥だった。「罪過の十字よ!」とギルティクロスを叩き込む。
    「な、なぜだ……力の差は歴然、勝機が無いなら退くべきだろう!?」
     蒼い巨体のまま真之条が吠える。
     同時、沙耶が突きの構えのまま走り込んでいく。
    「あなたは私たちより強く、戦いにおいても賢かった。でも……」
     デモノイドが蒼い日本刀で沙耶の刀を弾こうとするが、沙耶は刀に螺旋のひねりを加えて蒼い日本刀を逆に跳ね上げる。
     無防備になった目の前に沙耶。
    「私たちを、あなたと同じだと思わないで下さい」
     ドスッ!
     重たい音を立てて沙耶の刀がデモノイドの胸へと深々と突き刺さった。
     1歩、2歩と後ずさるデモノイド。
     真之条の誤算は1つ、無理な戦いは避けるべきとの自分の考えを、灼滅者達もするだろうと思っていたこと。
     そう、灼滅者達は8人の誰もが、撤退など考えていなかったのだ。
    「悪の心で寄生体を制御するとは、俺も一歩間違っていればそうなっていたか……」
     史が自身の腕から蒼い刀身を生みだしつつよろけたデモノイドへと接敵する。ふと横に気配を感じれば、同じように蒼い刀身を生やしてセツトが並んでいた。
     奇しくも同じデモノイドヒューマン、それぞれが脇を駆け抜けるように刃を真之条へと振るう。
     それが……デモノイドロード・真之条のトドメとなった。

     動かなくなった蒼い巨躯の周囲で、灼滅者たちは座り込む。
    「デモノイドヒューマンの次はデモノイドロードか……。本当に何が起こるやらだ」
     ジェイの呟きに麗が。
    「しかし、仕事とはいえあまり良い気分では無いな……この男が言っていた通りなら、真之条は人げ――」
    「違います」
     麗の言葉に被せて言い放ったのはセツトだ。
     何か震えを押さえるように手を握り、必死そうに声を出す。
    「違わなければ……」
     セツトが苦しげに呟く言葉に、誰もがかける言葉は無かった。
     灼滅者達の目の前では、ぐずぐずと蒼い液体が蒸発するように、真之条の死体が消滅していったのだった。

    作者:相原あきと 重傷:葛山・詞貴(ヴァームスピーサー・d03068) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年7月26日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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