八号はぐれ眷属『Maus』

    作者:空白革命

    ●八号はぐれ眷属『Maus』
    「さあみんな、はぐれ眷属退治だよっ!」
     まりりんこと須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)が『this is a pen!』のポーズでンなことを言った。
     もうなんか、テレビゲームのチュートリアルみたいな、味も素っ気も無い気配がしていたが、そのあとそっと差し出された手紙に一同は息を呑んだ。
    「見て見て。イフリートからの手紙が来たの」
     『オレ オマエ マルカジリ』。
     ……間違えました、と言って手紙を差し替えるまりりん。
     『アレ オマエ マルカジリ』。
     あんまり変わらなかった。
    「どうも、とある温泉街の近くに眷属がいるようなの。イフリートが直接手を下すと、近くの有象無象の区別無く吹き飛ばしてしまうので、比較的穏便に戦闘ができる灼滅者の手を借りたい、っていう話だね」
     私たちからしたらいつも通りにやるだけの話だよね! とまりりんは身も蓋もないことを言った。
     
     対象は『ネズミバルカン』タイプの眷属だった。
     中でも目を引くのは驚くほど大きな『マウス』である。
     本来バルカンを背負う部分には大砲がついており、一発でかなりの範囲に大きなダメージを与えることができるとされている。
     冗談で設計した戦車みたいな有様だが、こいつが人里に下りようものなら冗談では済まされない。
     彼らがまだ野原を元気に駆け回っている間に倒してしまおう。
    「フィールドは野原。大きな『マウス』に加えてネズバルが10匹だよ」
     ぱたんとファイルを閉じて灼滅者へ渡すと、まりりんは頷いた。
    「眷属相手だから滅多なことはないと思うけど……みんな、気をつけてね!」


    参加者
    天衣・恵(無縫・d01159)
    龍宮・巫女(貫天緑龍・d01423)
    梅澤・大文字(雑魚番長・d02284)
    リーリャ・ドラグノフ(イディナローク・d02794)
    椎葉・花色(私の兄がこんな水色なわけない・d03099)
    流鏑馬・アカネ(紅蓮の解放者・d04328)
    弥堂・誘薙(万緑の芽・d04630)
    焔城・虚雨(フリーダム少女・d15536)

    ■リプレイ

    ●blooming-gatling-feeling
     バトンである。
     持ち手に指を絡め、手首のひねりと回転運動によって連鎖的に旋回しはじめたバトンが、腕を大きく振り回すことによって二重の回転を生み、さらには本人が足を軸にスピンすることで三重に回転した。指、手首、肩、腰、さらには足首による変幻自在な回転運動が果たして、自身に迫るガトリング射撃を弾くためのものだと言ったら、信じられるだろうか。
    「こんども気合いを入れて、行きましょうか」
     龍宮・巫女(貫天緑龍・d01423)は弾むような回転ステップでネズミルカンへ急接近すると、異形化した腕で相手を掴み上げ、バトンと連動した二重回転によって頭上に投擲。最終的に頂点へ掲げられた剣がぼろりと分解し、中央に通っていたワイヤーローブを軸に伸びた。
     身を翻すように回転。彼女の鎖剣(ウロボロスブレイド)はそれに連動して巨大な竜巻のごとく空間を走り、鼠バルカンたちを薙ぎ払った。
     ようやく回転をとめ、ふうと息を吐く巫女。
     そんな彼女へ、うなぎがのたくったような軌道を描いて飛ぶものがあった。
     八号はぐれ眷属、通称『マウス』の放ったミサイルである。
     立ち止まった巫女など良い的だとばかりに着弾。爆発。煙を巻き上げ後には肉片すら残さない……かと思いきや。
     巫女はシールドリングによって巧妙にカバーされていた。
    「ヒュー、ミサイルでかっ! こわっ!」
     巫女を追い越すように飛び出してくる天衣・恵(無縫・d01159)。
     せーのと言って再びシールドを展開。自らの拳にかぶせると、手近なネズミバルカンをアッパーでぶん殴った。
    「的いったよー、射撃ヨロシク!」
    「クレー射撃にしては大きな的ですね」
     茂みに身を隠すかのように、地面に伏せた状態でライフルを抱えていたリーリャ・ドラグノフ(イディナローク・d02794)がスコープを覗き込んだ。
     倍率なしのアイサイトと、中~近距離用ホログラフィックスコープである。
     的を微弱に下方修正してトリガープル。
     僅かな信管打撃音及び火薬炸裂音から鋼鉄の筒をライフリングをこすりながら回転、射出される音……が聞こえるより早く弾丸は目標へ着弾。魔光が軌跡を描いて飛んだ。
     いわゆるSV-98のボルトアクション式である。故に手動で空薬莢を排出、術式の刻まれた弾をねじ込んでレバーを再び押し込んだ。
     押し込んで、速攻飛ぶように転がってその場から離脱。先刻まで居た場所に機関射撃の列が刻まれた。
     逃がさんとばかりに四つ足で方向転換するネズミバルカン。しかし彼は、すくい上げるようなゴルフスイング――いやさバットスイングによってかっ飛ばされた。
    「かっきーん! ってね」
     椎葉・花色(私の兄がこんな水色なわけない・d03099)は額に手を翳すと、遠くへ飛んでいったネズミバルカンの行方を眺めた。
     そんな彼女めがけて飛来するマウスミサイル。
     花色はキラリと目を光らせると、ありもしない野球帽のつばを掴み、小さく口笛を吹く。
     片足を上げ、バットを振りかざし、両手でぎゅっと握ると。
     飛来したミサイルめがけて一本足打法を叩き込んだ。
     接触と同時に爆発するミサイル。
    「くぅーっ、やればできるモンですねい!」
     広がる煙。にっかりと笑う花色。だがミサイルは一発だけではなかった。遅れて放たれた次なるミサイルが、振り切り体勢の花色へと迫る。
     今からでは避けることも防ぐこともままならぬ。
     驚きと焦りに花香の目が見開かれた、その時。
    「さ――っせるがァ!」
     横から割り込んできた梅澤・大文字(雑魚番長・d02284)がミサイルをたたき落とした。
     いや、落としたというか、額をモロに叩き付け、無理矢理途中で炸裂させたのだった。
     激しい爆発を無理矢理に突っ切り、黒煙を吐きながら帽子の位置を直す大文字。
    「やいネズ公共! おれの……あ、あれにえれぇモン飛ばしてくれたじゃねえか。男、梅澤が灰燼に帰してくれるわ!」
     追撃を意識して飛びかかってきたネズミバルカンを素手で掴み、炎に包んで地面に叩き付ける大文字。その背後で花色が手を合わせて飛び上がった。
    「キャー番長かっこいーい! でもってわたしはその舎弟だ!」
    「舎弟……」
     微弱にしおれる大文字の咥え草。
     一連の様子を見て、弥堂・誘薙(万緑の芽・d04630)は眼鏡を押さえた。
    「ぉぉぅ……ミサイルをあんなふうに……すごい」
     などと言っている暇は無い。そんな誘薙にもマウスのミサイルはちゃっかり飛来していたのだった。
     慌てて振り向き、やたらにデカいライフルを肩に担ぐ。
    「僕だって!」
     狙いは、あえてつけない。タイミングをあわせ、後は直感でトリガーを引いた。発射された光線がミサイルとぶつかり、誘薙の目の前で爆発。爆風と射出の衝撃にあおられた誘薙はお尻から倒れた。眼鏡をおさえる誘薙。
    「……ぉ、ぉぉう」
    「ホラホラ自分に感動してる場合じゃないよっ! ねずばる来てるねずばる!」
     自分のガトリングガンを盾にしながら叫ぶ流鏑馬・アカネ(紅蓮の解放者・d04328)。
     誘薙は慌てて次弾を発射。
     自らを狙うネズミバルカンに影を着弾させ、ボール状の影業へとくるみこんだ。
    「五樹、おねがい!」
    「……」
     無言で駆け出す五樹(霊犬)。
     そんな彼とアカネのわっふがる(霊犬)が併走、同時にくわえ刀をぎらつかせると、ネズミバルカンを交差斬りした。
    「ないすわっふがる!」
    「がる」
     アカネは微妙に空いた隙を狙ってダッシュ。それをカバーしようと繰り出してきた敵の射撃をジグザグ走行でいくらかかわすと、ネズミバルカンたちを突っ切りジャンプ・アンド・ターン。
    「それじゃあ行くよ、土砂降り十億連発(自称)!」
     右から左へ薙ぎ払うようなバレットストーム。
     ネズミバルカンたちが一斉にひっくりかえる。
    「それじゃあ仕上げにいってみよーう!」
     肩をぐるぐるとやった焔城・虚雨(フリーダム少女・d15536)が、プリズムの十字架を右手で顕現させながらもバニシングフレアを発射。一旦遅れて地面が燃え上がり、その中心めがけて虚雨は十字架を投擲。
    「かーらーのー!」
     虚雨は木の枝(にしか見えないもの)をを豪快にぶん回し、竜巻を発生させた。しっちゃかめっちゃかになったネズミバルカンたちがかけらも残さず消滅する。
     が、これで全ての敵が消えたわけでは無い。
     煙と陽炎の向こうから、巨大な影が現われた。
     ぬっと突き出た巨大な砲身が、轟音と共に弾頭をはき出す。
     それまでのたくったような軌道を描いていたミサイルではない。
     正真正銘鉛玉。百二十八口径から発射されるそれはそれはとんでもない『射撃』であった。
     大地が物理打撃だけでめくれ上がり、爆発したように吹き飛んでいく。
     思わず吹き飛ばされた虚雨はうひゃーと言いながらもカンペを取り出した。
    「あれは八号はぐれ眷属マウスの手法五五口径一二八粍砲、その上前面装甲二四○糎重量にして約一八八噸というまさにスーパー眷属!」
    「大艦巨砲主義に基づいた開発思想によって走破性安定性信頼性の全てを犠牲にした愚鈍な陸亀であり同様の手法を装備したヤクトティーガーの驚異を示すための存在だったがそれを言ったらポル虎さんの立場がないだろうってそういう話でしたっけ?」
    「違うね」
     仲良くすってんころりんした状態で顔を見合わせる虚雨とリーリャ。
     関係ないけどこの二つは例の人のお気に入りだったそうですね。
     リーリャは抱えていたライフルをとりあえず伏せ打ちすると、その場から高速でころころ転がって離脱。対してマウスは彼女の射撃を雨粒でも受けたかのように弾くと、重々しい足音と共に進撃。体内で次弾を装填する。
     正面からじゃやってられません。囲みましょう!
    「なら足止めは任せて貰うわね」
     それ以上進もうとするマウスの顔面を異形巨大化した腕で押さえつける巫女。
     更に頭上でくるくると回したバトンを鼻をたたき落とさんばかりに振り下ろした。
     強制的に動きをとめられ、後ろ足で土をかくマウス。
     器用に側面に回り込んだリーリャが手早く弾込めし終えたライフルを発砲。と同時に反対側斜め後ろへと回り込んでいたアカネがガトリング射撃を開始した。
     これもある種の包囲殲滅である。
    「ネズミみたいでも超獣戦車。全力で叩くよ! 手伝って」
    「はい!」
     間を埋めるように誘薙が加わり、霊犬たちと一緒に三脚で位置固定したライフルでビームを連続発射した。
     一方的な攻撃風景!
     もはやマウスは炭火にくべられた肉と同じなのか?
     いや、そうではない。
     ガゴン、という重々しい音と共に、巨大な筒の向こう側に大きな弾頭が現われた。
     それは巫女の視点から見た、数メートル先の光景ではあったが、大砲のからの距離で言えばおよそ数十センチである。
    「――ッッ!!」
     声にならない怖気が走り、目を見開く巫女。
     が、そんな彼女を後ろから押し倒す者があった。
     恵が巫女を前屈みに倒し、馬跳びの要領で前へ飛び出したのだ。
     そんなことをしてどうするのか?
    「こう――するのだっ!」
     風に煽られてめくりあがったおでこを、大砲の先端にごつんと叩き付ける。
     その直後、恵の額が爆発した。
    「めぎゅん!?」
     後方に激しく回転しながら吹き飛ぶ恵。
    「ちょっ、恵さん無茶するからぁー!」
     だが相手の一発を消費させたのは大きい。次の射撃までの僅かな時間がチャンスだ。
    「さーてお約束、御神木ストラーイク!」
    「アンド・カチコミバットストライク!」
     虚雨と花色のダブルアタックがマウスの砲身を無理矢理上にひん曲げる。
     砲身を直そうと慌てて手を伸ばすマウスだが届かない。というか、なぜそんなところに武器をつけようと思ったのか。
     そうやってわたわたしているうちに、距離と助走をつけた大文字が雄叫びと共に正面から突っ込んで来るでは無いか。
    「行くぜ、漢(おとこ)のォ――!」
     ホップ、ステップ、からの――炎を纏った下駄キック。
     下駄足をマウスの顔面にめり込ませ、
    「炎(こいごころ)ォー!」
     燃え上がった拳で殴りつけた。
     内部でいかなる事情があったものか、マウスは複雑怪奇に歪んでふくらみ、ついには爆風をまき散らして爆発四散したのだった。

    「フッ、他愛ねえ」
     マントを再び肩にかけなおすと、大文字は帽子を押さえてきびすを返した。
     その後をぴょんぴょんしながらついて行く花色。
    「番長は今日もカッコイーなー。燃えますねー」
     アカネはガトリングガンを収納してぱしぱしと手を払った。
     同じくライフルを収納して一息つく誘薙。
    「ふー、今日も撃った撃った」
    「梅澤さんカッコよかったですね。僕もあんな風になりたいなあ」
    「誘薙くんは別路線のコじゃない? わかんないけど」
     近くの土の山から、恵ががぼっと顔だけ出した。
    「マウスは!? あれ、いない!?」
    「あのあと倒したわよ。おかげさまで」
    「マジで? 私『めぎゅん』て言って飛んだだけって気がするんだけど」
    「最小限の被害で主砲を一発使わせるというのは戦車戦の良手ですから、アリじゃないですかね。アリといえばボルトアクションのドラグノフは信頼性と汎用性が高くていいですね。ビームがビームくないところがまた」
     うっとりした顔でライフルに頬ずりしながら匍匐移動していくリーリャ。
     そんな彼女たちを一通り見送ったあと、虚雨はくるりと身体ごと向き直った。
    「ところで」
     青空に浮かぶマウスさんの顔。
    「あんたそれ、戦車っていうか自走砲じゃない?」
     マウスさんの顔が、こっち見た気がした。
     こっち見んなと思った。

    作者:空白革命 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年7月25日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 14/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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