7月14日と15日の2日間にわたって開催された学園祭。
「あそこのクラブ企画、おもしろかったなぁ」
「水着コンテストもよかったです!」
などと、生徒たちがまだ興奮冷めやらぬ様子で、会話を交わしてる。
しかし、その学園祭も、とうとう終わりの時。
でも、それでも!
「楽しかった学園祭もこれで最後だな……」
と誰かが言うと、
「じゃあ、みんなで楽しく打ち上げをしようぜ!」
と誰かが応える。
そう、学園祭の夜はまだ始まったばかり、楽しく打ち上げしようじゃないか。
校舎の傍に用意された、特設屋台通り。
その屋台通りの一角に、数人が集まっている。
「ねえ、何をしているの?」
と新しく来た、誰かが聞いた。
「ははっ、とりあえず、これを食え!」
聞いた誰かに、別の誰かが食べ物の載った皿を押し付ける。
この一角では、昼間出した料理の残りを持ち寄ったり、或いは、残った食材を使った創作料理を作ったりして、皆で食べ合っている。
お菓子やジュースを持ってきた者もいるようだ。
皆に自信作を振舞ってもよし、皆の料理を食べてもよし、語りあってもいいだろう。
さあ、楽しい夜を過ごそうじゃないか!
●さあ、食べよう
あちこちの屋台から聞こえてくる、笑い声や話し声。
【Snow Rose】の屋台の周りには、人物像が幾つか置かれてあった。メンバーの一人・玉兎をかたどった等身大の砂糖細工だ。
一葉は砂糖細工の前に立つ。
「折角の機会なので、解体ショーを皆でしませんか?」
砂糖細工のモデルもいるというのに、マイペースに笑い、
「では、私が一番手いきますね」
一葉は腕を振りあげた。その手には一振りの刀。刃で砂糖細工を両断する。
その近くで。焦は瞳を輝かせていた。
「二番手いっきまーす!」
解体ナイフで砂糖細工たちの首をバッサバッサと刈りとった。
「ほら、食べやすいように切り分けたよ?」
屈託なく笑う焦。
千代は砂糖細工から、細工のモデル、玉兎へ視線を移す。
「私、Cafeの料理は食べれなかったんだけど、誰か作ってくれると嬉しいなぁ…キノコパスタがいいんだけどなぁ」
わざとらしく大きな声で独り言。
玉兎は額を押さえて溜息。そして顔をあげると、
「わかった。作ってやる。……だけど、後でちゃんと歯磨きをするんだぞ?」
「やったぁぁああ!!」
千代は両手をあげて万歳する
燈と心葉は、惨殺……もとい、切り分けられた砂糖細工をかじり、
「おいしー♪」
「ん、これはこれでいけるな」
と、頷きあっていた。玉兎が料理を作ると聞いて、
「うさにぃ……燈もパスタ食べたい! みんなで一緒に食べよ?」
「甘い砂糖細工ばかりだと何か口直しがほしくなる……ボクにも何か作ってほしいな」
燈は無邪気にねだり、心葉もそれに便乗する。
玉兎はもう一度溜息。そして調理を開始。手早くパスタやスープを仕上げ、皿を皆の前に置く。
「できたぞ……みな、学祭お疲れ様」
辺りを見回し、感慨深げな声で言う玉兎。
彼の作った料理を、皆で食べ合うことに。
エイダの前にもスープが置かれた。エイダはスプーンで一口すすって、
「わぁ……美味しい……です」
と、微笑んだ。そして、
「せいしろさんにも、おすそわけ……です」
と皿を青士郎に渡す。さんきゅ、と受け取る青士郎。
「ありがと。――んーっ、やっぱうちのオカンの作る料理は絶品だな!」
青士郎はふと食べる手を止めた。紙ナプキンを手にとり、
「アディ、口元汚れてるぞ、こっち向きな」
と、エイダの唇の下を拭う。くすぐったそうな顔のエイダ。
クラリスは砂糖細工の玉兎像を食べながら、皆の様子を目を細めてみていた。軽く腕を組む。
「失敗砂糖玉兎像は他所には回せんし、私自身も妙な事をしたり、調子の狂う二日間だったが……」
そして、聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で、付け加えた。
「……まあ、悪くはなかった」
【PK NETWORK】の屋台では、鉄板が設置され、その上で湯気が立ち上っていた。
「学園祭じゃ皆、けっこー働いてくれたからな。だから、残った材料でご馳走してやんよ!」
惡人は言いながら、うどんとモツ肉を炒め、タレを絡め――ホルモンうどんを完成させる。
「おっし、一丁あがり。じゃんじゃん焼いていくから、てめーら食え食え」
出来上がったうどんを、麗羽は手際よく皿に盛り付ける。
「どうぞ……ホルモンが苦手な人は、普通の肉も焼いてあるから、言って欲しいな」
皿を皆に渡していく麗羽。
「ん? 田中はどうかしたのかい?」
花の様子を見て、麗羽は不思議そうに首をかしげる。
花は鼻息を荒くしていた。
「ホルモンうどん……ホルモンッ……フッハッ!」
が、麗羽に渡された実物を見て、きょとん。
「あれ、これがホルモンうどん? そ、そうですよね、これがホルモンうどん。はい、いただきますです!」
ごまかすように食べ始める。
断は、先程の花以上にソワソワしている。
「おうどん……おうどん! うーうー……早く……食べたい……!」
うどんの皿を受け取ると、目を輝かせ、箸でうどんを口に運ぶ。
「いただきます……ちゅるちゅる……う~♪」
甘辛いタレが絡んだうどんの味と食感を堪能し、至福の表情の断。
悠花は断に話しかけようと、彼女の傍にいたが、
「それにしても、断さんって、本当に美味しそうに食べますね……わたしも食べよっと」
自分もホルモンをぱくり。
「あむ……あむあむ……うん、ホルモンの弾力は侮れない……!」
足元で霊犬コセイが、わん、と同意を示す。
牙羅も断の隣にいた。
「よかったらこれも食べてくれ」
自作のゴーヤチャンプルーを悠花や断に勧める。苦みと旨みを味わえる自信作だ。
断の隣に腰掛け、彼女の食べっぷりを見ながら、牙羅は呟く。
「今日は楽しかった」
重巳はノートにさらさらとペンを走らせた。
『あ、あのね。これ、一応持って来たんだけど……。みんな……食べる?』
そして、チョコレートケーキやアップルパイを取り出す。
赤兎は声を弾ませる。
「わ、おいしそ~。六道くん、食べていいの?」
重巳が頷くと、赤兎は胸の前で両手を合わせ喜びを表現。
「お皿にのせて、それからフォーク、と……」
アイリスは食器の準備を担当する。
「お茶のお代わりもあるから、遠慮なく言ってね?」
アイリスはきゅうすからお茶を湯呑みに、コポコポ注ぐ。そして、自分も食べる用意。
「六堂くんもアイリスちゃんもありがと~」
赤兎は二人に礼をすると、フォークでケーキをつつき食べ始める。ほどよい甘さに、ご満悦の表情。
ケーキを食べる仲間達を見ながら、重巳は小さく口を動かす。
「……来年も、またみんなと、学園祭……やりたいな……」
一方、
ガザ美は水着姿。屋台にやってきた生徒たちに、給仕をしていた。
「ホルモンうどんは岡山名物じゃけぇ、ガザ美ちゃんも大好きじゃ」
地元愛を言葉の端に乗せつつ、お盆を差し出す。
「ぼっけぇ美味ぇけぇ食うてみ」
自信たっぷりに勧めるガザ美。
ホルモンうどんを受け取ったのは、梗鼓と大輔。二人は幾つかの屋台を回り、ここに着いたのだ。
「ありがとー! ……でも、本当にホルモン料理があるなんて、ちょっとびっくり」
「だから、言っただろう。屋台と言えばホルモンだって」
梗鼓が感心したように言うと、大輔はにっと笑って口を挟む。
大輔は息をハフハフさせつつ、熱いうどんを頬張る。梗鼓はそんな彼に言葉をかけた。
「ようこそ、武蔵坂へ! ……なーんてね」
「……。こっちこそ、よろしくな……後夜祭で歓迎されるって言うのも、悪くねぇな」
微笑みあう二人。
●これが青春!
【花々】の屋台から漂うのは、トイレに似たにおい。
学園祭中は出せなかった臭豆腐など、におう料理を提供しているのだ。
竜武は屋台から離れた位置に隠れていた。
「奴らに見つかったら、臭いの持ってこられるからな……おや?」
竜武は、視点をある場所で止めた。
仲間の一人、雀太が屋台の前で真樹と向き合っていたのだ。
「ま、まきひゃん」
雀太は息を吸いこみ、叫んだ。
「付き合って下さい! OKはコブラツイスト、親友で、はジャーマンでお願いします!」
真樹は、雀太の背後に回る。腕を伸ばし……、
腰を掴み、ジャーマンスープレックス! 雀太の背が地面に叩きつけられた。響く音。
「私なんかに告白しちゃダメだよ。私はこんなだから、恋人とか……そういうの、自信ないんだ。ごめんね……親友」
真樹は雀太へ優しげに囁き、体を離す。
様子を見ていた竜武は、雀太へ親指を立てる。
「……結果はどうあれ、雀太の男子力は上がった。俺はそう思うぜ」
他の者も二人のやりとりを見ていた。投げられ意識を失った雀太へ近づく。
梅朱はガスマスクをつけた顔で、
「ヤケにソワソワしてたと思ったら、こういうワケだったか」
納得したように頷く。
司となのはは、雀太の顔を覗き込んだ。
「じゃくたん、あたしが慰めてあげようか? ……って意識、失のうとるなぁ」
「青春だよねー」
司は串に刺した臭豆腐を雀太の鼻に近づけ、なのはは頭をよしよしと撫であげる。
彼を近くのベンチに寝かせた後、どんちゃん騒ぎを再開、
「皆、たんと食い! 臭豆腐なら、山ほどあるし!」
司は、自分はガスマスクをつけながら、強烈な臭いの元を皆に勧める。
なのはは梅朱のガスマスクを取ろうとしていた。
「梅朱ちゃんも食べようっ! きっと今なら美味しいから!」
「やめるね、なのは。私、それ苦手ね!」
梅朱は逃げようともがく。それを見て皆が、くすっ、声を漏らす。
【流しそうめん友の会】の屋台では。
竹で作った流しそうめん台に、鴎がホースで水を注いでいた。
今、客として来ているのは、朝乃。
「では、流しますね?」
鴎は白い麺を流す。朝乃はすかさず掬い、ちゅるん、上品に麺をすする。
朝乃は上品さを崩さず、けれど次から次に平らげていく。
十二分に食べた後、朝乃は箸を置く。
「お腹いっぱいです。ごちそうさまでした!」
そこへ屋台前で宣伝していた翠葉が
「お客さまを連れてきたよ!」
と、縁樹を連れ戻ってきた。
縁樹は友好的に挨拶。
「お疲れ様ですー、ラムネはお好きです? 余り物ですけれど、お近づきの印にお一つどうぞー」
ラムネを、翠葉、鴎、朝乃に手渡した。
「有難うございます。よければ、あなたもそうめんをいかがですか?」
「ラムネを渡してそうめんを貰う……わらしべ長者の気分ですねぇ」
鴎が勧めると、縁樹ははにかみ、そうめん台の前に座る。
「はい、どうぞ。ゆっくりしていってね」
と、翠葉は縁樹の前に、出汁を注いだ椀を置く。
朝乃は、食べだした縁樹を見ていたが、
「高校最後の学園祭……まだ諦められない! 私ももっとたくさん屋台を回って、もっと食べなくちゃ!」
拳を握りしめ、決意を示す。
明と葉月は屋台が並ぶ中を連れ添って歩いている。
「はい、クラブではケバブ料理とかを出してたんです」
「ケバブか……なかなか濃いものを……」
ウェイトレス姿の葉月がはしゃいだ声を出すと、明は表情を変えず返事する。
ふと、明が尋ねた。
「何か食べたい物はあるか?」
「えっと、えっと、何にしよう……あ、あそこの飴が美味しそうです!」
葉月は明の腕に抱きつく。腕に体を押しつけながら、片方の手で屋台を指差した。
抱きつかれた明は相変わらず無表情。だが、ほんのわずか緩んだ表情を、葉月に向けていた。
朱美とミルドレッドも一緒に屋台を回っていた。
朱美は歩きながら、発泡スチロールの容器に入った何かを食べている。
「ほぁれ……もぐもぐ、ごくん。これ、あっちの屋台で貰ったタコ焼きだけど……食べる?」
容器の中のタコ焼きを楊枝でさし、ミルドレッドの顔の前へ。
ミルドレッドは無意識に、ぱくっとくいついた。そして赤い瞳をキラキラさせ、
「美味しい……!」と一言。
朱美はそんな彼女の頭をわしゃわしゃ撫でる。
「ミリーちゃん。次のお店も行ってみよっか?」
「うん、いっぱい行って、いっぱい食べたい!」
二人は黒と赤の瞳をいっそう輝かせる。
【箱庭ラボ】の屋台では、メンバーが一つのテーブルを囲んでいた。
テーブルの上には、タコ焼き、お好み焼き、塩焼きそば……様々の料理が並んでいる。
勇騎が悪戯っぽい表情で言う。
「おい、春翔、せっかく律花が浴衣を着てんだ、褒めてやらねぇと男が廃るぜ?」
「ちょっと勇騎くん?!」
勇騎の発言を聞き、律花は動揺を顔に出す。
彼女を見つめ、春翔は言う。
「本当に君は何を着ても似合って、綺麗だ」
律花は頬を赤く染めた。耳の先まで赤くなっている。
そこへ叡が戻ってきた。彼はデザートを持ってくるため、席を外していたのだ。戻ってくるなり、皆の顔を見て、愉しげに目を細める。
「なぁに? ワタシのいないところで何やら進行していたワケ?」
叡はそういってから何かを考え込むような顔をしたが、すぐ普段の表情に切りかえる。
「さあ、乾杯しましょう?」
律花は叡に頷き、ごほんと咳払い。
「皆のおかげで、沢山の人が楽しめたと思う。お疲れ様。この後も楽しみましょ……乾杯!」
律花がグラスを持ち上げると、
「皆楽しめたようでなによりだ……乾杯」
春翔や皆もグラスを掲げた。炭酸飲料で乾杯する皆。グラス同士のぶつかる音。
「翡翠も店番任せちまったが、本当にお疲れ」
勇騎が翡翠に労いの言葉をかけると、
「店番とっても楽しかったですよ。いろんな箱庭を見せてもらえましたし……皆さんとっても楽しそうでしたから」
翡翠は緑の瞳の目を細めて応える。それから、
「そうそう、タコ焼きを焼いてきたんです。上手くできたか心配ですけど……」
と持ってきたタコ焼き、湯気の昇るそれを勇騎や皆に勧めた。
亨もタコ焼きを口にし、
「大丈夫。美味しく焼けてると思うぞ」
と頷いて見せた。
亨は皆の顔を見る。笑いあい、冗談を交わし、料理に舌鼓を打ち――そんな彼らを見ながら、亨は目を瞑る。そして祈った。
(「来年もこうして集まって楽しめますように!」)
作者:雪神あゆた |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年7月30日
難度:簡単
参加:41人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 8
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