7月14日、15日の2日間にわたって開催された学園祭。
たくさんのクラブ企画や水着コンテストなどで多いに盛り上がった時間はあっという間に過ぎていく。日が沈み、楽しかった時間は静かに終わりを告げようとしていた。
だが、学園祭の夜はこれから。
最後にみんなで打ち上げをしよう――。
同じ想いを抱いた仲間たちが集い催す夏の宴。
楽しい時間は、まだ終わらない。
●7月15日、夜のグラウンドにて
いつもの見慣れたグラウンドは打ち上げを楽しもうと集まった生徒たちで賑わっていた。
特別に火の使用許可の出ているこの場所では、キャンプファイヤーが設置され、いくつもの炎が星空の下で揺らめいている。
――ねぇ、花火、しない?
誰かの誘いから始まった小さな光の花は、気づけばグラウンドのあちらこちらで宴に彩を添えていた。
明るい賑やかな声が響く夜空には小さな星たちが静かに煌めいている。
見慣れた手持ち花火だけでなく、ネズミ花火や家庭用の打ち上げ花火、線香花火など皆、好きな花火で楽しんでいるようだ。
火の取り扱いには十分注意をし、危険な行為をしないこと。
この約束さえ守ればちょっとはしゃいだりしても大丈夫。
――きらきら輝く宴の想い出を皆で一緒に作りませんか?
●彩る花
夕闇に包まれたグラウンドにはいくつものキャンプファイヤーが設置され、パチパチと火花を散らしている。大きな炎は空に向かって勢いを衰えさせることなく燃え上がり夜空を赤く染めていた。
「皆さん、学園祭ありがとうございました……乾杯!」
「「乾杯!」」
藤乃の声に合わせて【刺繍倶楽部】の仲間たちも笑顔でグラスをぶつけ合う。
「企画は釦の花を咲かせたけど、後夜祭は華やかな夜空の花を咲かせたいトコだな!」
花火を取り出した健を見て希沙たちの顔がぱっと輝いた。
皆一同に気になった花火へと手を伸ばす。
「久椚姉ちゃんもどうだ?」
「お邪魔、します」
健の誘いに礼を述べ、來未もススキ花火を手に取った。
たくさんの花火を前に迷う香乃果には藤乃がアドバイスを送り。
一方、健は迷わず手にしたドラゴン花火に火を点ける。
「お、ドラゴンタケル、最初っ端から超派手なのいくのな」
じゃぁ俺も、と供助は色違いの花火を何本も纏めて取った。
両手を掲げ花火で暗闇を色とりどりに染め上げれば、変色花火を両手に持った希沙が数で負けたと悔しそうに次の花火を探し始める。
「見て見て、銀の火の粉もすごく素敵」
初めて遊ぶ花火に弾む声をあげる香乃果ににこりと頷く藤乃の手元では七色に変わる花火が煌めいていた。
「ふじ、火を! 火をくだされ!」
新しい花火を差し出す希沙に藤乃はちょっと待ってね、とゆっくり花火を繋げて火を点ける。
夢のような時間はこの火が消えるまでは終わらない。
だから、この火を消さぬように、繋げて――。
十萌が持ってきた色鮮やかな花火を見つめ、柚姫たちはこの2日間のことを語り合っていた。
「クロくんと一緒に遊びに行った喫茶店は面白かったですね」
「あぁ、あの俺に向かってホットケーキが飛んできたところな」
楽しそうに頷く紫桜。学園祭は賑やかに楽しく過ぎて行ったなぁ……としみじみ呟く。
「私、クラブのお手伝いできなくてすみません」
申し訳なさそうに頭を下げた十萌だが、柚姫はゆっくりと首を横に振った。
「お菓子食べに来てくれて嬉しかったですよ」
「皆、喜んでくれて良かったですよね」
染の言葉に柚姫たちがにこりと頷く。そんな染はメイド服もウェイター服も着れて大満足の2日間だった。
まだまだ話したい想い出はたくさん。花火をしながら4人は飽きることなく語り続ける。
初めての学園祭を終え、【繊月茶房】の玉瑞たちも花火を楽しんでいた。
「ね、ロケット花火もしようか」
リーラの提案にぱぁっと玉瑞の顔が輝く。
手際よく花火を並べた神夜子が順々に点火。大きな音とともに花火が空へと発射される。
「わぁ、きれいですの……っ!」
パチパチと拍手をして花火にはしゃぐ玉瑞の傍らに立った神夜子がぽつりと呟いた。
「誘ってくれて、ありがとう」
花火の音に消されそうな小さな声で告げた素直じゃない神夜子の正直な気持ちにリーラと玉瑞はにこりと微笑む。
「また、こうやって皆で楽しもうね」
ヒュルル~……パン!
グラウンドのどこかで打ち上げ花火が上がった。また一つ、さらにまた一つ。
「ヘキサくん、水着コンテスト優勝おめでとー!」
打ち上げ花火の音にも負けず【ひつぢ家】の面々の明るい声がグラウンドに響き渡る。
「みんな、サンキュー!」
祝いの言葉にちょっと照れくさそうにしているヘキサだがまんざらではない様子。
ジュースで乾杯した後は皆でわいわい花火で盛り上がり。
白いふわもこ羊きぐるみや羊帽子(1名は白兎)が花火を楽しむ風景に迪琉のテンションもアップ。我慢できずに可愛い柚莉をぎゅーっとハグ。
「皆優秀だよう、かわいいよう!」
「……記念になるし、付けてみるか」
喜ぶ迪琉につられ、小袖がそっと羊の角飾りを装着すれば、後は……。
「月人さんもかぶれば良いと思うの」
春陽が差し出したのはお揃いのふわもこひつぢ帽子。きらきらした無垢な視線を向けるが月人は断固拒否を貫いていた。
「……春陽がそんなに見てもそんな帽子かぶらねえからな!?」
小袖と迪琉からも期待に満ちた眼差しを向けられ先に折れたのは、もちろん――。
「……っく! しょうがねぇな……!」
諦めた月人たちにカメラの準備が出来たと綾紗が声をかける。
「んふふ、鳴神サンも似合ってるじゃない」
照れ隠しに月人が投げたひつぢ帽子を受け取った綾沙は迷いなく帽子を被り、カメラのタイマーを確認すると急いで仲間たちの元へ走り寄り。
お祝いの王冠を頭にのせたヘキサを中心にパチリと記念撮影。
楽しかった学園祭。こうしてまた、一生の宝物が一つ増えた。
●煌めく花
「これがスパーク花火。そっちはススキ花火。雨谷が持ってるのはヘビ玉っていうんだ」
手持ち花火を初めて見るというアイナーのために篠介が花火の種類について説明をする。
ふむふむと一緒に説明に耳を傾けていた【Cc】の仲間たちは皆それぞれ気に入った花火を選び出した。
「おー、火ぃ点けっからちと前出せ。危ねぇぞ」
順番に紋次郎が火を点けながら花火の取扱いについて注意をする。
どこに火をつけるべきかわからず戸惑うアイナーに依子が火を点ける場所を指差して。
「先輩も、自分の分どうぞ」
渓の申し出に「おおきに」と頷き紋次郎の花火にも火が点いた。
「……パチパチ」
手元の鯨は水ではなくて火花を噴いている。斬新な発想にサズヤの瞳も煌めいた。
渓の足元でもくもくと白い煙をあげるヘビ玉を見つめる昭子は好奇心いっぱい。見る物全てが新鮮で。
通りがかった來未も篠介から花火を貰い紋次郎と並んで線香花火を楽しんだ。
「締めにこれはどうかしら?」
嬉しそうにナイアガラを取り出した依子に昭子が片方持ちたいとぱたぱた跳ねて主張する。
「記念にみんなで写真撮らんか?」
篠介の提案にはもちろん全員大賛成。
3色に変わるナイアガラの横に浮かぶ花火で描いた【Cc】の文字。
パチリとシャッターの音が最高の瞬間を切り取った。
赤、緑、橙、黄。色鮮やかな小さな花が夜のグラウンドに咲き誇る。
「やっぱり花火はキレイだよね~」
手持ち花火を楽しむ柚理を邪魔しないよう並べたロケット花火に秋空はそっと点火。
次々と空へ向かって打ち出される花火を満足そうに眺めるふたりに助けを求める声が届く。
「きゃーっ、窮鼠猫を噛まれましたのーッ!」
しかし、特大ネズミ花火に追いかけられて逃げ回る夜鈴に秋空は生温かい視線を送るだけ。
「夜鈴さん、大丈夫かな……」
バッシャーン!
慌てて柚理が音の方に視線を向ければ。
「……」
そこには頭からバケツに突っ込みびしょ濡れの夜鈴が伸びていた。
「なんだ、あれ……!」
あちらこちらで空に向かって次々発射されるロケット花火。見つめる要の瞳がキラキラと輝く。
日本の風物詩って楽しいね。
要がそっと笑いかけた。
またキミと一緒に遊びに行こう、だって夏はこれからだから――。
「星咲ちゃん、よければ一緒に花火しない?」
「うん、やるー!」
桜子の誘いに二つ返事で頷く夢羽。
エアンが差し出した花火を受け取り、奏恵と一緒に春翔に火を点けてもらう。
「ね、見ててね」
まるにハートに、お星さま。
桜子は素早く手を動かして空に次々と絵を描き始めた。
「わぁ、花火のお絵かき面白そう!」
桜子と一緒に奏恵も器用に宙に花丸を描く。
「見て見て! ユメもー!」
くるくると花火を動かす奏恵たちを微笑ましそうに見守る春翔はまるで保護者。
「春翔も一緒にやらないか?」
エアンの誘いに春翔は頷き、お兄さんコンビも花火に火を点けて。
きゃっきゃとはしゃぐ少女たちをぴー助と小梅もぱたぱたと尻尾を振って見つめていた。
浴衣に着替えて集まった【吉祥寺中2-A】の5人。
「浴衣、どうですか?」
下ろしたての浴衣で翡翠は嬉しそうにくるりと回る。
「よお似合っておるよ」
亜門に褒められ、嬉しそうに翡翠は遥斗から受け取った花火に火を点けた。
きらきらと弾ける火花を見つめる亜門たちに向かって紘一がこっそりとねずみ花火を放り投げる。
「きゃっ!?」
びっくりして後ずさる翡翠に成功、と紘一は嬉しそう。
「皆さん、火を点けますよ~」
打ち上げ花火の準備を終えた六花がゆっくりと点火した。
「たーまやー」
遥斗の掛け声に合わせ翡翠たちも一斉に声をあげる。
祭の終わりは名残惜しいがこうして友人たちと花火を楽しむのも悪くはない。
「来年もまたこうして過ごせるよ良いな……」
鬼に笑われるか。
金魚柄の団扇を口元にあて、亜門は桐の箱に入った線香花火を取り出しそっと火を点けた。
花火で賑わうグラウンドの片隅にあるキャンプファイヤーをじっと見つめる二人の影。
「殊亜くん、私と踊っていただけますか……?」
恥ずかしそうに差し出された紫の両手をそっと握って殊亜は「喜んで」と微笑みを浮かべる。
綺麗な星空の下、炎に照らされ二人はゆっくりとステップを踏み。
流希がそっと爪弾くウクレレの優しい音色に合わせて紫はくるりとターン。
「星空と炎に照らされる紫さんも綺麗だよ」
耳元で囁く殊亜の言葉に紫の頬がほんのり赤く染まった。
「楽しんでくださいねぇ……精一杯の応援です」
ゆったりと流れる時間に合わせ、流希が奏でる柔らかな音色が静かに響く。
●競う花
「サドンデス線香花火をやろう」
観月の提案に美樹と司の瞳がキラリと輝く。
『勝った人の言うことを聞く』ことを確認し、同時に線香花火に火を点ける。
「勝負事では負けません!」
開始早々、司が空いている左手で花火を持つ美樹の右手を攻撃!
慌てて美樹が左手で庇うも衝撃で花火が大きく揺れた。
「ちょっと! 花火が揺れるじゃん!」
何するんだと抗議をする美樹の隣で観月は呆れ顔で溜息をつく。
「司くんは花火する気あるの? それとも邪魔しに来たの?」
……勝負の行方は、まだわからない。
「「……」」
チリチリと小さな音を立てて爆ぜる火の玉に向けられる8つの瞳。
嘉市たち【蝉時雨】の面々が真剣な面持ちで線香花火を見つめていた。
彼らは現在『線香花火耐久勝負』の真っ最中。最初に火の玉が落ちた人には激辛ホットケーキが待っているのだから負けるわけにはいかない。
花火がいい感じに燃えているのを見て嘉市は内心ガッツポーズ。……も束の間、急に小さくなった火の玉に焦りを隠せない。
(「意外と落ちんもんですねぇ」)
火の玉が揺らめく様が見たくてわざと花火を揺らす壱から守るようにホナミは自分の身体を盾にして風を遮ろうと必死。
三者三様の様子に思わずくすりと笑みを漏らすトランドは線香花火は初挑戦。
息をするのも忘れるくらい、4人は真剣に花火を見つめていた。
「落ちるな、頑張れ……!」
「あぁぁ……っ!」
願い虚しく司の火の玉が落ち、美樹の花火が力なく消えていく。
最後まで残ったのは周到な準備をしていた観月の花火。
「じゃぁ、一週間仕事場に缶詰で」
大丈夫、死にはしないさ――。
逃げ出そうとするふたりの腕を観月は決して離さなかった。
「……あ」
「……あっれ?」
落ちるなという念も虚しくポトリ、と火の玉が落ちた。……1つじゃなくて、2つ。
「あれ。今のは同時……ですかねぇ?」
首を傾げる壱にトランドと嘉市が無言で顔を見合わせる。
「ま、ふたりっていうのも問題ないわよ!」
勝者の余裕を見せ、ホナミが大きく頷いて。
こうして激辛ホットケーキはめでたく嘉市とトランドが手に入れた。
●語らう花
――花火をしませんか?
ことなの誘いに燐音と狭霧はもちろん、みをきも二つ返事で頷いた。
「先輩方の好きな花火って何色ですか?」
準備をしながら問いかけることなに狭霧が迷わず「青!」と答える。
「奇遇だな、俺もだ」
素気なく答えるみをき。
「でも、青い花火ってあんまり見ないよね」
何でだろ? と首を傾げる燐音に狭霧が悪戯っぽく笑った。
「青い花は存在自体が奇跡っぽいからじゃない?」
花火をしながら学園祭の想い出を語る。
楽しかった2日間の話は語り尽くせないほど沢山あった。
ひとしきり喋った後、最後は線香花火にそっと火を灯す。
消えるまで落ちなかったら願いが叶うらしい。
(「来年も、皆で一緒に」)
皆同じ願い事を胸に、花火をじっと見つめるのだった。
パチパチと静かに線香花火の火花が散る。
闇に浮かぶ炎の花を見つめミアと綾は語り合っていた。
マロウティーのこと。花占いのこと。
嬉しそうに話す綾にいいなぁ、とミアが羨ましそうに呟きを漏らす。
「私も占いやってみたかったな。何占ったの?」
もしかして……! と瞳を輝かすミアに慌てて綾は首を横に振った。
「学園生活のことを占っただけよっ」
わかってるよ、とミアがくすくす笑えばつられて綾も笑みをこぼす。
あっという間の2日間。楽しい想い出は、ふたりの心の中に。
「ね、線香花火で競争しよっ」
織姫の提案に【武蔵坂HC】の皆も口々に賛成し、線香花火の準備をする。
せーの、で線香花火に火を点け、飛将たちは丸い火花をじっと見つめていた。
「本で読んだのですが、線香花火の燃え方には名前があるそうですよ」
花火を動かさないようにしながら好弥が語る。
曰く牡丹、松葉、柳に散り菊。それぞれ燃え方によって名前が変わるそうだ。
「へぇ~、これ『松葉』っていうんだ」
「好弥ちゃん物知りだ~!」
チリチリと弾ける火花を見つめ織姫と夏奈の言葉に好弥の頬がほんのりと染まる。
「線香花火の散り際とかどこか儚くもあり、そこがいいよね」
摩那斗の呟きに「風流だな」と飛将も頷いた。
楽しい時間はいつか終わりを告げる時が来る。
最後まで残った夏奈の花火を見つめる5人の想いは一緒。
「また来年も皆で一緒に遊ぼうね」
織姫の言葉に皆大きく頷くのだった。
手持ち花火を楽しんだ後は定番の線香花火。
チリチリと爆ぜる線香花火を眺め義治は学園祭の想い出を語る。
楽しそうに話す彼に虚空は羨ましそうな視線を向けた。
「俺も、もっと参加したかったな……」
「でも、俺、こうやって一緒に花火が出来て嬉しいぜ?」
思いがけない嬉しい言葉に虚空の頬が赤く染まる。
「……来年は、一緒に回れるといいよな」
もちろん、と義治は嬉しそうに頬を緩ませ頷くのだった。
「久椚せんぱーい!」
ぶんぶんと大きく手を振る紗月たち【空色小箱】の皆が來未の傍へとやってきた。
一緒に花火をしようと誘われ來未も花火に点火する。
楽しそうな声に、通りがかった牙羅も視線を向けた。
だが、あっという間に楽しい時間は過ぎ、後は線香花火だけ。
「最後まで落とさずにいられた人に、今夜素敵な夢を」
――さぁ、勝負しましょう?
茶目っ気溢れる恵理の魔法に皆わっと盛り上がる。
みとわから花火を受け取った紗月の隣で自信たっぷりにアトレイアは胸を張った。
「こう、力を抜いて無心になり心頭を滅却して……」
「ヒオだって、じっとしてるのは得意ですよ!」
負けじとエヘンとヒオも胸を張る。だが、和佳奈は眉を寄せひょいと肩をすくめた。
「うーん、ボクはちょっと苦手かも。じっとしているのがねー」
それじゃぁ、とみとわが悪戯っぽく笑顔で告げる。
「ボクもこっそり魔法をかけようかな」
この花火が温室の花のように長く美しく咲き続けますようにってね。
静かな空間をチリチリと爆ぜる線香花火の音が包み込んだ。
「來未さん、この間の質問の答え、教えてくれませんか?」
恵理の言葉に皆の視線が來未に集まった。この間――趣味を聞かれた時のことか、と來未も思い出す。
「……ぼーっとすること」
だから、無心で何かを作るのも、好き。
ポツポツと語る來未に恵理たちの顔が綻んだ。
夢のような楽しい時間。魔法が解けるまで、もう少しだけ、待って――。
●願う花
あっという間に過ぎた2日間。
「……ニケ、御前ねぇ」
人混みは避けたいと願う馨の気持ちを知ってか知らずか。
彼女はぐいぐいと馨をひっぱってグラウンドへと連れだした。
そして差し出したものは、花火。
「はい、これ、かおるくんのね」
せーので同時に着火。勢いよく散らす火花が夜をぱっと彩る。
消える前に次の花を咲かせ。心地よい時間が少しでも長く続くように……。
ススキ花火に変色花火。
和泉と貴明の手元で鮮やかな火花を散らし夜を彩る。
「夏の風物詩っていうやつだよな」
しみじみと呟く和泉に貴明がそっとお土産のランプを差し出した。
「『ricordi』――想い出って意味なんだ」
和泉がそっと火を灯せば優しい光が二人を照らす。
「来年も一緒にいような」
和泉の囁きに貴明はそっと手を繋いで応えた。
神楽たちの手元の花火がキラキラと鮮やかな火花を散らす。
「今日は疲れたわ。……でも、楽しかった」
「あたしも……ありがとう」
小声で呟く神華の手をそっと神楽は握り締めた。
「えっ……!?」
戸惑う神華に神楽はにっこりと微笑みを浮かべ。
「一緒におると楽しいなって」
だから、ずっと一緒に楽しい時間、過ごそうぜ。
耳元で囁かれた嬉しい言葉が神華の頬を赤く染める。
夏といえば、やはり花火。
学園祭の締めを彩ろうと源一郎と芽衣も手持ち花火に火を点けた。
ヒュルルル……パン!
どこからか上がった打ち上げ花火が頭上を照らした時そっと芽衣が囁いた。
「源一郎さん、お誕生日おめでとうございます」
ありがとうな、と優しく源一郎が微笑み、願い事をそっと口に乗せる。
「来年もまた、こうして過ごせると良いのう」
「ええ、きっと叶いますよ」
そっと小指を絡めるふたりの頭上でまた一つ、夜空に花が咲いた。
チリチリと燃える線香花火の向こうにナオの顔が見える。
「ん? 何?」
ちらちらと視線を送る夜兎に気づいていたナオが顔をあげた。
目があった拍子にびくっと身体を振るわせ夜兎の花火が無残にポトリと落ちる。
「も~ナオちゃんばっかり見て~☆」
茶化すナオから新しい花火を奪って夜兎は火を点けた。
「来年も、また一緒に花火したいな……」
うっかり口に出てしまった夜兎の本音。
真っ赤になった夜兎の耳元にそっとナオは囁く。
「俺も」
耳まで赤くなった夜兎をナオは愛おしそうに見つめていたのだった。
「時兎先輩、時兎先輩」
くるりと振り向き、嬉しそうに愛羅が時兎に告げる。
「線香花火で勝負しよ!」
火の玉が長持ちした方が勝ち。「いーよ」と時兎も頷いた。
「でも、俺、負けたら不機嫌になるよ」
悪戯っぽく目を細める時兎に「いいもん」と愛羅は花火を差し出して。
せーのでふたり同時に火をつけた。
「……ぁ」
じっと見守る火の玉はポトンと同時に落ちる。これは……おあいこ?
「先輩、お疲れ様。今日もありがと」
「……ん。愛羅もお疲れサマ」
ぎゅっと抱きしめる愛羅の髪を時兎は優しくそっと撫でた。
楽しかった時間はあっという間にすぎてゆく。
「にょろさん」
名前を呼ばれ、何でしょうと微笑む顔が可愛くて。
火照る頬を必死に抑え伶は勇気を振り絞る。
「……ボクの、恋人になってくれませんか?」
「――!?」
お返事をしなくては、とにょろの頭もフル回転。
ぎゅっと伶を抱きしめ、ちょこんと背伸びをするとそっと唇を重ねた。
慌てふためく伶ににょろはえへへと笑みを浮かべた。
「恋人同士ってこういうことするんですよね?」
混乱する伶に追い打ちをかけるようににょろが囁く。
――大好き、です。
キャンプファイヤーの炎が小さくなった頃、辺りはすっかり夜の顔へと変わっていた。
グラウンドに咲いた花が一つ、また一つと消え、闇色が濃くなった空に煌めく小さな星々が顔を覗かせる。
それは、楽しい宴の終わりを告げる合図。
――来年も、一緒に過ごそう。
交わした約束と、大切な想い出と。
色褪せることなくいつまでも胸の中できらきらと輝き続ける。
作者:春風わかな |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年7月30日
難度:簡単
参加:84人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 7
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