無限ループ失恋ドラマ

    作者:亥午

    ●失恋、失恋、また失恋
     ……夕焼けに赤く染まる校庭。
     自他共に認める一般人の田中・絵美は、中学校指定のやぼったい制服の襟におさげの先を打ちつける勢いで『センパイ』に駆け寄った。
    「ずっと好きでした! つきあってください!」
     センパイはハートマークに彩られた顔を不機嫌そうにそむけ、吐き捨てた。
    「僕が!? 君なんかと?」
     ぶつん。
     ……夏の日差しが肌に痛い、市営プール。
     絵美は高校指定のスクール水着ではなく、この日のために用意したチューブトップの水着で覆った胸を高鳴らせ、監視員のバイトをしている『あっくん』に近づいた。
    「あっくん、おつかれ。よかったらさ。バイト終わったらさ。遊び行かない?」
     日差しよりも鮮やかなハートマークを引きつらせ、あっくんが叫んだ。
    「俺が!? おまえなんかと!?」
     ぶつん。
     ……大学生が入るには少々以上の勇気が必要なレストラン。
     やわらかな燈にふんわり浮かび上がる『サーさん』の笑顔に、絵美はどうしても思いを切り出せずにいた。
     わかっているから。
     これが夢だってこと。それも、過去に玉砕してきた絵美の失恋を再現し、さらにひどい末路を付け加えた悪夢なんだと。
     でも。彼女は告白を続けなければならない。
     この悪夢を終わらせるために。
     終わりたいなら、告白しなくちゃ。受け入れてもらえなきゃ、ずっとこのままだって、センパイもあっくんもサーさんも言ってた……言ってた? わかんない。でも、そうなんだって、あたし知ってる。だからはやく告白しなくちゃ。
     そんな絵美の姿を、サーさんは見つめている。
    「好きです。だからお願いです。私と付き合って――」
     ハートマークの上に貼りつく薄っぺらい笑みが歪んだ。
    「私が? あなたなんかと?」
     ぶつん。

    ●教室にて
    「田中・絵美さんっていうOLさんのソウルボードがシャドウに乗っ取られたの!」
     ひと息に言い切って、須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)はわたわた手を振り回した。
    「絵美さん、もう4日も自宅……豊島区の、女性専用マンションなんだけどね、そこで失恋する夢、ループで見せられてるんだ!」
     アクションが大きくなって、案の定すっ転ぶまりん。しかし、怒り効果のおかげかすぐさま立ち上がり、説明を続ける。
    「みんなにはまず、絵美さんの自宅に忍び込んでもらわなきゃいけない。バベルの鎖があるから大丈夫だとは思うけど、女子じゃない人は対策してね」
     さらっと言ってくれるが、それはつまり女装推奨?
    「それから戦場になる絵美さんのソウルボードに入るんだけど、その中にはもちろん絵美さん本人がいるの。だから最初に絵美さんを説得するとか、告白に乱入してシチュエーションを変えちゃうとか、とにかく絵美さんが苦しんでるのをジャマして助けたげて! そしたらシャドウが姿を現わすから倒す。このふたつが勝利条件になるよ」
     いち、に。指を折って数え、まりんが強調した。
    「ちなみに、絵美さんが見てる夢の舞台は3つあるの。ひとつは中学校の校庭、ふたつめは市営プール、3つめがレストラン。みんなが絵美さんのソウルボードに入るとき、この3つの内のどこに行くか選べるよ。
     校庭を選んだ場合、絵美さんの説得とかシチュエーションの改ざんはしやすくなるけど、シャドウの力が強くなる。
     市営プールだと、どっちの難易度も普通。
     レストランなら、干渉はしにくくなるけどシャドウの力が弱くなる」
     策と戦闘、どちらを重視するかをこちらで選べというわけだ。
    「シャドウはシャドウハンターのサイキックをそのまま使ってくる。特にトラウナックルがお気に入りみたい。あと、配下が3体。武器は持ってないし、強さもほとんど一般人レベルだけど、前衛に立つシャドウの後ろから、絵美さんに言葉責めしてくるの。絵美さんの心が折れたらそこで終わり、任務失敗になるから注意してね」
     今度は転ばないよう気をつけながら、まりんは強く締めくくった。
    「ソウルボードにいて力が制限されてるって言っても、シャドウはすごい強敵だよ。でも絶対勝ってね! 絵美さんが次の恋でがんばれるように」


    参加者
    加奈氏・せりあ(ヴェイジェルズ・d00105)
    琴月・立花(高校生シャドウハンター・d00205)
    アリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)
    佐藤・志織(高校生魔法使い・d03621)
    イシュテム・ロード(天星爛漫・d07189)
    森沢・心太(隠れ里の寵児・d10363)
    鈴虫・伊万里(黒豹・d12923)
    神乃夜・柚羽(燭紅蓮・d13017)

    ■リプレイ

    ●絵美の世界へ
    「ごきげんよう」
     見事な笑みを決めたのは、スコットランド出身のアリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)だった。
    「あ、はい。どうも」
     あいまいに笑み返すマンションの管理人を置き去り、灼滅者たちは現場へ急ぐ。
    「英国美人は押し出しがききますねぇ」
     コメントしたのは佐藤・志織(高校生魔法使い・d03621)。
    「もう、しゃべっていいでしょうか?」
     一行の中から手が挙がる。自前のゆるふわロングのウィッグと小花柄のワンピースを合わせ、さらには薄化粧で偽装した鈴虫・伊万里(黒豹・d12923)だ。
    「お、おら……僕、衣装脱ぎたいです! うう、まさか運動会以外で女装なんて……」
     がっつりかわいい系の女装とフルメイクを施された森沢・心太(隠れ里の寵児・d10363)もまた細い声をあげる。
    「とてもよくお似合いですよ。なにせこの私が見立てたんですから。というか、伊万里さん? なんでしょう。この得も言われぬ敗北感は……」
     男性陣の変装をフルサポートした加奈氏・せりあ(ヴェイジェルズ・d00105)が、肩を落としてどんより。
    「いやいや、鈴虫さんは素材がすでにオイシイんですけど、森沢さんは料理人の味つけ大成功! うっかり新しいヘキに目覚めそうですよ。――ごちそうさまですっ!」
     いつの間にかスケッチなどしつつ、志織が盛り上がる。
    「……なにを食べたか知らないけど、着いたわよ」
     あきれ顔の琴月・立花(高校生シャドウハンター・d00205)にうながされ、絵美の部屋のドアの前にかがみこむ志織。そのまわりでアリスとともに人壁を作りながら、イシュテム・ロード(天星爛漫・d07189)が大きな瞳をぱちぱち。
    「これって不法侵入、ですわよね。でもダークネス灼滅のためですし、でもでも女性の部屋に侵入だなんて……佐藤先輩、まだ開きませんの?」
    「開ける以前の問題でしたー」
     ドアはあっさり押し開けられた。カギなどかかっていなかったのだ。しかも。
     田中・絵美はドアの向こう側……玄関にうつ伏せで倒れていた。どう見ても、飲み過ぎた後に本能で帰宅したが玄関くぐって力尽きましたの図。
    「4日もこのまま……」
     ていねいに絵美をひっくり返す神乃夜・柚羽(燭紅蓮・d13017)。そのぽやぽやと表情の薄い顔が、くっとしかめられた。
     やつれた絵美の顔が、落ちた化粧と、止まらない涙で、ぐしゃぐしゃだったから。
     絵美はずっと苦しめられているのだ。4日間も。今このときも!
    「私たちが終わらせてあげる。悲しみのリフレインはここでおしまいよ」
     絵美の顔をやさしくぬぐってやりながら、アリスが言葉をかけて。
    「人の心を踏みにじるシャドウ。徹底的にお仕置きしてあげましょう」
     鋭く立花は言い放ち。そっと絵美の手を取った。
     そしてソウルアクセス――一行は、絵美の内へと落ち込んでいった。

    ●世界の終わり
     そこは青い空に太陽照り照り、人ごちゃごちゃの市民プールだった。
    「夢とは思えない現実感ね」
     感心した顔でアリスがまわりを見た。
    「絵美さん発見! まずいですね。今にも告白してやる気まんまんです」
     すかさず目標を発見する志織。絵美は今まさにあっくんへたどり着こうとしている。
    「ぼく、声をかけてみます」
     と、行きかけた伊万里を止めたのはせりあだ。
    「伊万里さんは、その……ナンパだと思っていただけないかも」
    「おら、僕が行きます!」
     ぎくしゃく。飛び出した心太が絵美の進路を塞いだ。
    「ぼ僕ひとりなんですっ! 今から、い、いっしょに遊びませんかっ?」
     まっかな顔を必死で笑ませ、手を伸べたが。
    「おとといねっ」
     瞬・殺。固まる心太に目もくれず、絵美はあっくんの前に着いた。
    「縁を演出している時間はないようね」
     それとない告白の妨害を計画していた立花だが、それを変更。足早に移動し、ななめ後ろから、とん。肩でかるく絵美を押した。
     告白を遮られた絵美が勢いよく振り返る。
    「ごめんなさい。あなたが綺麗だから、見とれちゃって」
     絵美が言葉を失った。自分がこんなナイスバディの黒ビニキ美女に見とれられるわけがない。もしこんな美人なら、あっくんだって――告白! 告白しなきゃ!
     取り憑かれたように、絵美は立花を振り切り監視台に座るあっくんを仰ぎ見た。
    「あたし、あっくんが好き!!」
     告白というにはあまりに悲痛な叫びがプールを揺るがせる。ハートマークを貼り付かせたあっくんの、どう猛な笑みを浮かべた唇が開かれて……
    「させません」
     ぱしゃっ! 柚羽のすくい投げたプールの水があっくんの顔を直撃。言葉を奪う。
     子どもじみた妨害に、あっくん苦笑い。水を避けようと身をひねる。だが。かわせない。どう動こうと、水は正確にあっくんの口元を叩き、その声を封じてしまう。
    「変化が怖い。私は誰よりそれを知っています。でも、だからといって繰り返し続けるのは、止まっていることと同じなんです。見極めるのです。あの人の正体を。そして向き合って。このループする悲しい世界と」
     柚羽の言葉は絵美へ言い聞かせるものであり、同時に自分へ言い聞かせるものでもあった。武蔵坂学園で人々と触れ合う中、自身の成長を感じ、その変化にとまどう彼女が、絵美と自分とに送る精いっぱいの、応援。
    「告白告白って独りで同じところを空回りして! それではここから進めません! 進まなければ。一歩でも半歩でも1ミリでも!」
     柚羽の思いをかみ砕くように、せりあが叫んだ。資産家の娘でありながらドロップアウト、ガキ大将として暴れ回ってきた自分を変えるため、「おしとやか」なる怪物と奮闘する彼女だからこその言葉だ。
     立ち尽くす絵美。今までこんな展開、なかった。告白して告白して告白して……
     そのとき。声を出せないあっくんではなく、プールにいる人々が一斉に叫んだ。
    『おまえなんかとつきあう? ありえない!』
     空が青さを失った。
     人々が消え、後にはモノクロームのプールと絵美、あっくん、そして3人の子どもたち、そして灼滅者たちだけが残される。
    「あたし、何回もふられて。でも、受け入れてもらえなかったら、ずっと」
     そんな絵美を子どもたちがはやし立てる。
    「お姉さんがキレイだったらフラれないのにね?」
    「おれ知ってる! あの水着すげー高いんだぜ! ブタに真珠?」
    「え? ブタはきれいずきだけど?」
     げらげら。割れ鐘のような嘲笑が、白黒の空を揺るがせた。
     世界が、端から欠け落ちていく。
     汚され、歪められた絵美の心が壊れていく。
    「おめぇら口さつぐめ!」
     崩壊を押しとどめたのは、絵美をかばった心太の背中だった。
    「告白を断られた『今』はすごく辛いですよね。でも、その思い出が続いた先に、絵美さんのほんとの『今』があるんです!」
    「今……? 今が今じゃなくて、その先に、ほんとの今?」
     空が再び青く塗り変えられていく。彼女にとって苦しいばかりの悪夢ではない、ずっと昔の苦い――それでも大切な思い出の一場面として、彩を取り戻していく。
    「おまえら、なぁに絵美の心? 癒やしてくれてんの?」
     監視台からゆっくり、あっくん――シャドウが降りてきた。ハートを刻んだ顔を歪ませて。
    「これ以上かき回されたら、せっかく整備したソウルボードがイカれちまう。いいぜ。相手してやるよ。ハイライトシーンは、その後ゆっくりリピート再生だ」

    ●本性と素顔
     襲い来るトラウナックルをWOKシールドでいなしたせりあが、
    「シャドウは私が止めます! みなさんは配下を!」
    「まかせてください」
     柚羽の解体ナイフから毒の風が解き放たれ、3人の配下を侵す。
    「二番槍、務めさせていただきます!」
     忍として鍛え抜かれた足さばきですべり込み、配下のひとりを地獄投げ。伊万里が仲間に一礼を残して大きく飛びすさった。
    「愛のない拷問はただの拷問でしょうが。思い知りやがれですよ!」
     そして志織の斬影刃に追撃されたその配下は、起き上がれないまま動きを止めた。
    「子どもぶっ殺すとか、おまえらなに? 鬼?」
     倒れた配下をつま先でつつき、シャドウが大げさに肩をすくめた。
     配下とはいえ見た目は子ども。しかもその血にまみれた無残な姿は、灼滅者たちの心を罪悪感で酸のように焼く。しかし。
    「私たち、あなたもその子もニセモノだって知ってますの! 絵美さんの運命の人はあなたなんかじゃない! もっともっと、ほんとのほんとにステキな方なんですの!!」
     イシュテムの怒りが、薄暗い重圧を吹き飛ばした。
     彼女に恋が素敵だと教えてくれたのは、今なお熱愛中の両親だ。ふたりの育んだ恋が、ふたりが実らせた愛が、彼女に恋への限りない憧れとロマンをくれた。
    「神聖な恋を汚すニセモノは、全部消えちゃえですのーっ!」
     イシュテムの制約の弾丸が、ふたりめの配下を撃ち抜いた。クリティカルヒットを決めたこの弾は一撃でその配下を消滅させた。転がっていたはずの配下の体も、いつしか同じように消えている。
    「偽物だから、演出が間に合わなくなれば消え失せる。無様な芸だわ」
     進み出たアリスが、口の端を冷たく吊り上げて言い放つ。
    「Slayer Card,Awaken!」
     解放されたサイキックソード・白夜光の切っ先が閃き、残る配下を指し示した。白い軌跡を引いて飛んだマジックミサイルが配下の胸元を撃ち抜く。
    「あなたは私に抜かせてくれるのかしら。無理だろうけれど、ね」
     立花が刀状に形を整えた影業を抜き打ち、体勢を崩した配下を斬って捨てた。これで、残るはシャドウのみ。
    「想いとは伝わることを願うもの。未来への扉を開くもの。彼女の想いを絶望の闇に沈めようとするならば、あなたという虚像をこの刃の光で暴き、滅してみせる」
     アリスの言葉に秘められたものは、愛する恋人への想いと、同じく愛に生きる絵美への思い。彼女はこの世界を満たす悪意を払うがごとく、白く輝く白夜光を振り抜いた。
    「配下を守る算段を怠ったこと、我が落ち度よな。かくなればやむなし。我が力をもって貴公らと対さん」
     あっくんの顔のまま、しかしその本性を現わしたシャドウが、その胸元にハートを具現化させた……。
    「っ!」
     せりあをかばい、トラウナックルに侵される心太。その記憶の底から迫り上がる、豪華な巫女服を着込んだ幼女。
    『今日の訓練じゃ。一分間耐えてみせい』
     ……何時間だって耐えるだよ。4日もひっでぇ悪夢に耐えてる人が、後ろにいるだ!
    「殴られて耐える自然系男子ってシチュも絵になりますねー。腐腐腐もとい、ふふふ」
     腐ったことを言いながらも、きちっとメディックの仕事をこなす志織である。
    「あまり戦いに気が入らぬ様子よな。我を侮るか?」
    「いやー、実はですね。私、怒ってるんですよ。おこ? 激おこ? まあ、面倒なんでアピールしてないだけでー。私が裁判長ならあなた、一発死刑ですよ? いえ、陪審員でも絶対ゆるさんですよ!」
     腐のペルソナを押しのけて現われた、志織の真摯な怒り。シャドウは顔を歪めた。
    「家畜風情が主に牙を剥くなど道断。身の程を知らぬ心、我が潰し、慣らしてくれるわ」
     志織に手を伸ばすシャドウ。その手が、体ごと伊万里の鋼鉄拳に弾かれた。
    「絵美さんも仲間も、おまえになんか触らせないっ!」
    「女の顔で、男のようなことを吐く」
     シャドウが凜と立ちはだかる伊万里を嘲笑った。しかし伊万里は両脚を強く踏んばって、とびきりの笑みを見せた。
    「いくらでも嘲えばいい。でも、ぼくの笑みは崩せない。忍は忍ぶ者。思いと意志を心に忍ばせて、笑う」
     笑みから一転。その唇が裂帛の闘志を宿し、決意を紡いだ。
    「人の心を嘲笑い、恋路を嘲笑うおまえなんかに、絶対負けてやるもんかっ!」
     伊万里には今、片思いをしている人がいる。見かけだけではなく、その内に乙女心を標準装備した彼には、痛いほど絵美の気持ちがわかるのだ。だからこそゆるせない。そして、ゆるさない!
    「そうだそうだー」
     志織の同意はさておき。シャドウは灼滅者たちを忌々しげに見やった。
    「心だ、思いだとかしましい。餌が!」

    ●夢の後
     シャドウの顔に叩きつけられるシールドバッシュ!
    「こっち見るな! 絵美さんも見るな! そりゃ絵美さんは見る目ないよ! あっくんじゃなくて恋に恋しちゃってるよ! でも、何度も倒れて、それでも立ち上がって進み続ける絵美さんの心はすごく強いんだ! キミが食べていいもんじゃないんだーっ!!」
     キレて地に戻ったせりあが吠えた。
    「餌が……家畜が……!」
     うめくシャドウに黒い影――立花が迫る。
    「昔、私は大切な人のソウルボードを壊してしまった。その絶望は深く私を打ちのめしたわ。でも。大事な人たちがくれたあたたかな思いが、今も私を生かしてくれている。だから、いつか本当に大事な人と出逢う絵美さんの未来のために。全力であなたを、斬る」
     彼女の心を支える弟が、妹が、弟子が、チームメイトが、彼女の手に力を注ぎ込む。
    「この斬撃を見切ってみなさい……!」
     腰に据えた影業による、抜き手も見せぬ居合斬りがフィニッシュを決めて。
     シャドウは声すら残せず、絵美の内から撤退した。そして。
     ……ソウルボードから帰還した灼滅者たちを出迎えたのは、絵美の穏やかな寝顔だった。
    「邪悪は滅したわ。これで悪夢は終わり」
     眠りをジャマしないよう、アリスが小さな声で語りかけた。
    「今度はすてきな恋が見つかるといいですね。応援してますから」
     続くのはせりあ。
    「たくさん回り道をして、捕まえてください。あなたが寄り添うべき人」
     柚羽もまたエールを送るが。
    「捕まえるって、吸血捕食するみたいです……」
     伊万里が笑顔を引きつらせた。
    「大丈夫よ。これだけがんばれるんだもの。祈りましょう、田中さんのこれからの幸せを」
     立花の言葉に、イシュテムがうなずいた。
    「田中さんのこれからを彩るささやかなプレゼントを贈りますの」
     彼女が絵美のそばに置いたのは、女子力アップのおまじないをかけたネイルアート。由緒正しい魔女の血をひくイシュテムのグッズだ。きっと効力を発揮してくれるだろう。
    「さ、帰りましょうか。あわてず急いでさりげなく。ね、森沢さん、鈴虫さん」
     志織に声をかけられ、びっくり顔を上げる心太と伊万里。ソウルボードではないリアル世界の彼らは、今なお絶賛女装中だ。
    「あのっ。僕は、着替え。着替えますけ!」
    「ぼくもその、お化粧だけでも」
    「素早い撤収は灼滅者の基本! 男の娘の恥じらいは私を加速するハイオクです!」
     ともあれひとつの事件は解決し、ひとりの女性の未来が守られたのだった。

    作者:亥午 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年7月24日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 10
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