学園祭~キャンプファイヤーでダンスを

    作者:天木一

     祭りの後。夜の帳が学園を包む。
     興奮と満足感に参加者達の顔には笑顔が宿る。
     水着コンテストに参加した人、クラブ企画で店を出した人。沢山のイベントに参加した人。それぞれが祭りを満喫した。
     賑やかに過ぎた二日に亘る学園祭も、無事終了を迎える。
     だが学園祭を締めくくる祭りの夜はこれからが本番。
     まだ祭りの余韻を楽しむ学生達が集まり、打ち上げが始まる。
     
     グラウンドではキャンプファイヤーの火が盛大に燃え、周囲を赤く照らしている。
    「みんなお疲れさま。学園祭は大盛況で終わったようだ。私も存分に楽しませてもらった、感謝する」
     貴堂・イルマ(小学生殺人鬼・dn0093)がグラウンドに集まる灼滅者達に感謝の言葉を述べる。
    「グラウンドでは見ての通り、火の使用が許可されているので、花火をすることができる」
     キャンプファイヤーを背後に、イルマが手にしているのは花火セット。
    「みんなの分も用意してあるので、打ち上げに花火はどうだろう?」
     やりたい人に行き渡るよう、花火は多く用意されている。
    「後はキャンプファイヤーを囲んでダンスがある。オクラホマミキサーが流れるので、みんなで参加するのもいいだろう」
     イルマは微笑み、皆を見る。
    「これが学園祭最後のイベントだ。2日間頑張った分、存分に楽しんで欲しい」


    ■リプレイ

    ●焚き火
     夜のグラウンド中央に設置されたキャンプファイヤーが、オレンジ色に周囲を照らしていた。
     周囲にも大勢の生徒が賑やかに集まっている。学園祭の打ち上げが始まっていた。
    「あやー、大きな炎だねー。こんなの初めて見たよー」
    「おおー……きれい……きれいー……」
     クゥエルが祐梨の手を引き、クラスの皆とグラウンドにやってきた。
    「花火をしましょう花火!」
     美羽が待ちきれないと花火を抱える。
     周りで花火が咲くと壱琉が声をかけた。
    「ねぇ! 線香花火で勝負しない? 一番最後に花火が落ちた人は願い事がかなう……とか、聞いたことあるよ!」
    「……線香花火……勝負……面白い……それに……線香花火は……きれい」
     祐梨が賛成して線香花火を手に取る。
    「線香花火って願い事するものなのか?」
     秀行も面白そうだと手にする。皆も線香花火を持って一斉に火を点けた。
    「ああ!」
    「誰の願い事がかなうのかなー」
     一番最初に落ちたのは美羽だった。続けて壱琉も脱落する。
    「あやー、落ちちゃったのだよ。でも綺麗だったねー」
    「……むう……負けた……でも……綺麗」
     クゥエルと祐梨の火が落ちる。他の人の火も落ちて最後に残ったのは秀行の花火だった。
    「願いとか全然思いつかないな……俺は今のままでいいぜ。こうやって一緒に騒げる友達もいるしな」
     照れた顔をそっぽを向いて隠し、そう言った。
    「来年の学園祭はこのメンバーで一緒に回りたいですねっ!」
     美羽の言葉に、全員が同じ気持ちで頷いた。
    「わー、めらめらー、夜みる火てすごいきれーだよねー」
     かれんは燃え盛る炎を見ながら歩く。
    「キャンプファイヤー……うう、大きくて、ちょっと怖い、けどっ」
    「キャンプファイヤーってわくわくするよう」
     大きな炎にびくびくする柚莉、迪琉は楽しそうに炎に近づくが、思わぬ熱さに逃げ帰り柚莉を抱きしめる。
     更にゲー神の都香に、続けて悠にもハグする。
    「ゲー神の御利益をあげるわ」
     クラブのイベントで『格ゲー神』の称号を得た都香が柚莉を抱きしめ返す。
    「おっし。終りだからってしんみりなんかしてやるものか! 楽しくやろうぜ」
     悠は都香の頭を撫でながら、皆をダンスに誘う。
    「ダ、ダンスですか? うまくできるかわかりませんが……が、頑張ります」
    「俺もダンスなんて知らねぇけど、リズムに合わせて身体を動かしゃそこそこ見られるだろう?」
     藍は照れながら悠の手を取った。音楽に合わせてダンスが始まる。
    「こ、こうですか? こんな感じです?」
     覚束ない足取りで踊る二人。足を踏んだりしながらも楽しそうだった。
    「次は私ね。リード、よろしく頼むわね」
     都香も交代で悠と踊り出す。
    「ゆず、ダンスって踊ったことないけど、どういう風にやるの……かな?」
     柚莉が周囲のダンスを見て、迪琉とくるくる踊る。
    「って、目が回っちゃったたた」
     迪琉が尻餅を突くと、柚莉も一緒に転ぶ。それでも2人の顔には笑顔があった。

    ●花火
    「どれからやる? 折角だからぱーっといこうぜ!」
     飛鳥が何本もの花火を持って振り回し。図形を描く。
    「……わ。すごいです……!」
     せららはそれを見て思わず歓声をあげた。
    「いつもは手持ちの小さいものしかできないので、打ち上げ花火も持ってきてみたのですよー♪」
     月瑠が色々な花火を袋一杯に持ってくる。
    「私、線香花火しかやった事無いわ」
    「そういや俺も花火は一回もやったことなかった」
     覗き込んだ銘子が困惑した声をあげると、湊介も同じような表情で見ていた。
    「大きいのって迫力あるよな」
     隣から覗く雲龍が嬉しそうにする。
    「アディもやったことないので楽しみです!」
     エイダがわくわくした様子で花火を見る。
     月瑠と湊介が水を、雲龍が蝋燭を用意して準備は整う。
    「これ、どこに火を点ければ良いの?」
     銘子が聞くと、同じ初心者のエイダも首を傾げる。仕方なく適当に火を点けてみる。すると花火がすごい勢いで横に飛んで行った。
    「……うゅ? ふぇえ!?」
     驚いたエイダが目を丸くする。
    「まずはやっぱり手持ちですよね……銘子さん!? 人のいる方に飛ばしちゃ、めっですよ」
     月瑠が注意して点火の仕方を説明する。
    「そうか、これはしてはいけない使い方だったんだ。危ない」
     それを見て、同じように火を点けようとしていた湊介は手を止めた。
    「うー君、教えてください」
     エイダのお願いに雲龍がいいよと教え始める。
    「火がちゃんと点くまではしっかり手で持って、あまりのぞき込むと危ないから気をつけてな」
     頷いてエイダは火を点けた。鮮やかな火が灯る。
     銘子と湊介の並べた打ち上げ花火が一斉に点火する。皆が空を見上げると、大輪の花が咲いた。
    「さて、みんな。まずは学園祭のこの二日間、ならびに準備期間の間、お疲れ様。店で出した飲み物の余りで悪いが、乾杯と行こうか、うん」
     小誇愛の言葉に皆がドリンクを手に取る。
    「グラスは持ったか? では皆、乾杯!!」
    「「かんぱーい!!」」
     ドリンクを掲げ、飲み物に口を付ける。
    「……あら? ジュース割り用に持ってきた、味無しの炭酸水はどこへ?」
    「ぶっ! 何だこれ、味がねぇぞ!」
     水琴が炭酸を探していると、達郎が味のない炭酸を盛大に噴出す。
    「だいじょうぶですか?」
     久良が花火の用意をしながら声をかけた。
    「打ち上げ花火を連続でやってみるよ」
     リーラが打ち上げ花火を並べ終えると、そこにロケット花火が通り過ぎた。
     驚いて振り返れば久良がイタズラっぽく笑っていた。
    「っしゃあ! いくぜお前らぁ!」
     気を取り直した達郎が打ち上げ花火に火を点けると、一斉に空に花が咲いた。
    「たーまやー!」
     水琴がはしゃいで掛け声をあげる。
     打ち上げ花火の次は、線香花火を静かに灯す。誰言うとなく、また来年も遊ぼうと皆が口にした。

    「お疲れ様だ。最後にこう言う催し物も良いな」
    「学園祭、お疲れ様でした♪ たくさん♪ たくさん♪ 楽しんじゃいました♪ 来年も楽しみです♪」
     星奈と姫乃は楽しそうに笑みを浮かべた。
    「お疲れ様でした! 楽しかったけど、やっぱり来年はうちでも何か出来たらいいなあ」
     なつめは来年の学園祭の事を考える。
    「でもとりあえず来年の事は来年考えましょう! 今はこれ、ですよね!」
     手にした花火を配る。
    「花火か……? 今の季節ならではだな」
    「ありがとうです♪ 一緒にしましょう♪」
     星奈と姫乃も一緒に花火を楽しむ。
    「線香花火を最後まで落とさずに……ああっ! 落ちちゃった! むー、もう一回! 今度は消えるまで落とさないんだから!」
    「にゃははは、線香花火は落ちやすいから気をつけないとです♪」
    「落ちてしまったな……そうくやるがるではない、まだ、花火はあるのだから」
     3人は新しい線香花火に火を点けた。
    「わっ!」
    「うおっ」
     あるなが集まった仲間を後ろから驚かす。驚いた武流は持っていた花火の束を落としてしまう。
    「やった、奇襲成功♪」
     あるなは無邪気に笑う。
    「びっくりしたぜ……」
    「花火で遊ぶのなんて久しぶりだな」
     武流は沢山の花火を用意していた。奏音は手持ち花火を選んで火をつける。
    「学祭どうだった?」
     沙雪の質問に皆が楽しかったと笑顔で応じる。
    「そういえばみんなはお相手いるの?」
     花火を楽しみながら、さりげなく奏音は恋バナの話題を振る。
    「相手がいたらここに居ないんじゃないかな」
    「………」
     沙雪がそう答えると、武流は視線を逸らした。
    「ねえねえ、教えてよ」
     目を光らせる奏音。その時あるなの放ったロケット花火が飛んでくる。武流は誤魔化すようにロケット花火を撃ち返した。
    「うーん、どれにしようかなぁ。あっ、おっきいのあるよ!」
     花火の入った袋を探っていた紫は噴出花火手に取った。
    「殊亜くん、火つけてつけて」
    「いいセンスしてるね! やっぱり花火は派手なのじゃないと」
     そう言いながら殊亜が横に並んで火を点ける。色鮮やかな花火が咲き乱れる。
    「わー、綺麗~♪ 見て見て、色が七色に変わったよ!」
    「おー、すごい賑やかな色だね!」
     2人は花火に目を奪われた。
    「何しんみりしてんねん! 後夜祭でも祭りは祭りや! 騒いで楽しまにゃ損やで!」
     花火をしていた小町が、離れた場所から眺めている光影を見つけて引っ張り出す。
    「分かった、分かったから引っ張るな」
     ようやく腕を放した小町が花火を押し付ける。
    「ほら、一緒にやるで!」
     鮮やかに空に咲く花火を見上げる。
    「偶には騒ぐのも悪くないか……」
    「ん? なんかゆうた?」
     なんでもないと光影は首を振り、祭りを楽しむ事にする。

    ●ダンス
    「ちゃんと僕がエスコートするよ、お姫様」
    「その呼び方、辞めて下さい。あと、たかがキャンプファイヤーですよ、これ」
     ちゆは妙に手慣れた感じを腹立たしく思いながらも、このはにリードされてダンスの輪に入る。
    「桜さん……あの俺とフォークダンス踊ってくれませんか?」
    「誘ってくれてありがとう♪ いいわよ? 折角のダンスパーティーだし、一緒に踊りましょう♪」
     真剣な表情で誘う宥氣に、姫恋は笑顔で返事をした。手を取り2人は踊る。
    「オクラホマミキサーか。有名な曲ね。男女で手をつないで踊るのだったかしら……だが断る」
    「オクラホマミキサですかー。踊ったことはありませんが、見たことはあります。えーっと、確か男女で……って、あれ、影薙さん?」
     同時に言葉を発した影薙と椎菜。
    「あまり男子とべたべたしたくないし……椎菜さん、踊りましょう」
    「あ、あー……なるほど。いいですよー。おっけーですよー」
     2人は手を取りリズムを合わせる。
    「オクラホマミキサーや、解らん子おるか? ってなんや女の子同士で踊りだして、ここは俺と踊るところやないんかい」
    「ダンスはわからないけどこういうのは心で感じるものだ! フィールだ! そうだ幼稚園のお遊戯で覚えたのがある。さ、おじさま 童心にかえったつもりで」
     女同士で踊りるのを見てがっかりする右九兵衛に、とものが構えた。
    「お、お、なんや、その妙ちくりんな構えは……ええで、そんならこっちも威嚇の構えや、かかってこんかい……!」
     2人のダンスバトルが始まる。
     右九兵衛はとものの相手をしながら、影薙に悪戯しようとする。
    「無礼講だったわね」
     影薙の反撃に遭いノックアウトされたところへ、とものが飛びかかってきた。
    「こらーおじさま! よそ見とはなにごとだ! あそべーあそべー」
     とものが圧し掛かるのを椎菜が微笑ましく見る。そして交代して皆で踊ろうと提案した。
    「こういうのは楽しんだらいいんですよー。右九兵衛さんは……足とか引っ掛けないですよねっ?」
    「うっかりせんかったら大丈夫やで、ケキャキャキャ!」
     全く信用出来ない笑い声が響いた。
    「お、ダンスやってんのか……どうせだから踊るか? あ、おめぇ運動だめだめだから無理か?」
    「そっちこそちゃんと踊れるんでしょうね?」
     誠が手を差し出しながらからかうと、鶫がその手を取った。2人は気恥ずかしげにダンスを始める。
    (「ぐ、普通にうめぇ……ついていくので精一杯だぜ……」)
     誠がそう思って顔を上げると、炎に照らされた鶫の顔を思わず見つめてしまう。
    「なぁに見惚れちゃってんのよ、ばーか」
    「ち、ちげぇよばかつぐみ!」
     視線に気付いた鶫が冗談を言うと、誠はうろたえて言い返した。

    「……やり方はわからないんですよね、むむ」
     美賛歌はフォークダンスがしてみたかったのだが、やり方を知らない。
    「……八雲さんは、どんなダンスなら踊れますか?」
    「さぁ忘れた……よし、カンで行こうぜ!」
     美賛歌の問いに八雲はとぼけたように答える。
    「この際、わかるダンスを踊りましょう。――付き合っていただけますか?」
    「分かるも分からないもなぁ、そのまま踊っちまおうぜ?」
     真剣な美賛歌の顔を見て、八雲は笑いながら手を引くとそのままダンスの輪の中に混ざった。
    「お相手ありがとうね」
    「か、勘違いされたらどうするんですかっ」
     ダンスを終えたこのははちゆの手の甲に口付けする。ちゆは顔を真っ赤にして殴りかかる。
    「さぁ、お腹すいたし、何か美味しいものでも食べに行こう」
     このははさっと拳を避けると、笑顔でちゆをエスコートする。
     ちゆはこれだからハーフはと唸りながらも、このはに連れられ食事に向かうのだった。
    「学園祭本当に楽しかったですね」
    「そうね。楽しかったわ」
     踊り終わり宥氣と姫恋の手が離れる。
    「運が良ければまた来年も……」
     宥氣は名残惜しそうに離れた手を見て一人呟いた。
     光と茉莉花はキャンプファイヤーから離れて踊る。
    「オクラホマミキサーだと相手が変わっちゃうし、ボクが踊りたいの茉莉花ちゃんだけだから……」
    「はぅ、恥ずかしくなっちゃうよそんなこと言われちゃったら! う、嬉しいんだけどね……」
     照れながら手を引く光に、茉莉花は顔を赤くして付いていく。
    「あの時はちょっと堅くなってたけど今度は大丈夫。ゆったり踊ろう?」
     体育祭を思い出し微笑む光。
    「よーし、それじゃ今日はマリーのばっちりな女子力で素敵に踊っちゃうよ!」
     茉莉花も楽しそうに笑みを浮かべ、ダンスが始まる。

    ●祭りは続く
     ダンスの輪は楽しげに次々と出会いと別れを繰り返す。
     一馬はそんなダンスする学生達を眺める。その隣には体を預けた真夜の温もりを感じる。他の女性と踊って真夜を不機嫌にしない為、2人はダンスには参加せずに、ただ静かに輪を眺めていた。
    「次の週末はどこに遊びにいこうか……海でも山でもどこでもいくぜ」
    「一馬さんと一緒ならどこにでも……」
     一馬と真夜は離れた場所で線香花火を楽しみながら夏の予定を立てる。
    「真夜となら、何処に行っても愉しいぜ」
     真夜は微笑む、学園生活最後の学園祭。もう少し早く出会えていたならと、寂しい気持ちを覚える。ぽとりと線香花火の火が落ちた。灯りが無くなり闇に包まれる。ふと手が温かく包まれた。一馬が手をそっと包み込んでいた。暗闇の中、言葉は無くとも2人の温もりが伝わった。
     浴衣姿のグループが現われる。
    「帯は苦しくないか?」
    「大丈夫、苦しくねぇよ……少し歩きにくいけど……」
     ジグバールが笑って答えると、我ながらいい仕事をしたとジグバールは頷いた。
    「みんなの浴衣とても似合うわ……ふふっ……素敵よ……クレイ君大丈夫? 歩きにくくない?」
    「浴衣って歩きにくいな」
     リアが話しかけると慣れない服にクレイは苦戦していた。
    「あっイモ部長さん、そんなに大股で歩いたら着崩れちゃうよ」
    「え? 大股で歩いたらまずいの? ……アウチ! こけた!」
     千那の言葉に足幅を変えると、クレイは転んでしまう。
    「おー皆似合うじゃん。色と柄に個性出るなってクレイは何してんだよ」
     転んだクレイを梛が笑う。
    「女の子の浴衣は可愛くて華やかだし、男の子の浴衣姿も渋くてカッコイイわね」
     皆の浴衣姿をほくほく顔で春陽は眺めた。
    「さぁ、花火やりましょ」
     春陽がススキ花火を手渡す。
    「……綺麗だな、花火。こうやって花火をするのも初めてだから……嬉しい」
     ジグバールは花火を貰い、火を点けてその灯りに微笑む。
    「煙がこっち向くから反対側に避けて……って、なんでまたこっちに煙くるんだ……!」
     花火を手に向かってくる煙から逃げるシグマ。
    「こうやって空中に絵描いて遊ばんかった?」
    「……あっ……ふふっ、梛君の花火絵そっくりね」
     梛は花火をぐるぐると宙で円を描いて遊ぶと、リアがそれを見て笑みを浮かべる。
    「打ち上げあるの? 火付け俺やっていい? やりたい!」
     クレイが打ち上げ花火を嬉々として打ち上げ花火を用意して点火する。音が空に昇り綺麗な花を咲かせる。
     締めには線香花火。誰が長く出来るのか勝負になる。
    「線香花火キレイだね。……どうしたの?みんな何だか……ううん、ごめんね。何でもないよ」
     儚く見えたという言葉は千那の口の中で消えた。
     最後に記念写真を撮る。浴衣姿で楽しそうな皆が写る一枚が残された。
    「そういや、線香花火が落ちずに最後まで行ったら願いが叶う、とかよく言うよな。何か願い事でもしてみるか?」
     最後に2人で線香花火をしていると、飛鳥は思い出したように言った。
    「……来年の学園祭までには、ちゃんと勇気を出せますように……」
     せららは儚い火が消えるまで、そっと願いを込めた。

    「いやー、規模の割に盛況でした大正喫茶。来年も何かやりたいねー」
    「古き良き空気漂うコンセプトカフェ。まこと楽しい時間でした」
    「今年は手伝えなかったけれど、来年こそ!!」
     達人と千草が学園祭の話をすると、来年は絶対に参加して、師匠のように素敵な飲み物を作ろうと結が決意する。
    「色々あるけど、二人はどういう花火が好きかな? 僕は、線香花火が一番好きだったりするんだけど」
     線香花火を手に達人が2人を見る。
    「私も線香花火は好きです。思い出が心に焼き付くようで」
    「ドーン、と大きいのもいいですが、こういった静かな花火も好きなんですよ」
     2人も一緒に線香花火を灯す。
    「そういう見方もあるんだねえ」
     小さな火花を眺め、静かな時間が流れる。
    「落とさないように落とさないように……。ああっ終わっちゃった」
    「いやいや!まだ夜は長いんだし続きやろう!」
     最後の線香花火を落とした紫に殊亜が元気に声をかける。
    「イルマさーん、花火おかわり!」
    「そうね……まだまだこれからだよね!」
     イルマが花火を持ってくる。祭りの夜はまだまだ続く。
     花火を配ったイルマの袖が引かれる。振り返れば七海がメモを見せ、手振りで『私、手伝う』と伝えた。
    「いいのか?」
     イルマの問いに七海はこくこくと頷く。
    「ありがとう」
     2人で一緒に荷物運べばあっという間に花火は大勢に行き渡った。
    「よぅ、貴堂。いつぞやの依頼ぶりだな。……お前はアッチで皆と騒がねーの?」
    「お久しぶりです。学園祭のお手伝いをできなかった分、今がんばろうかと」
     円に声をかけられたイルマは真面目に答える。
    「折角だし、花火すっか……」
     円が火の点いた花火を差し出すと、イルマは一瞬首を捻り、理解したように頷くと花火を手にとって火を移した。
     七海にも一緒にどうぞと花火を渡して火を移す。七海は笑顔で花火を眺め、『綺麗だね』と書いたメモを見せた。
    「あ、イルマちゃん。こんばんはですよー。わたしも一緒に花火やってもいいかな?」
     楽しそうにふわりがやってくる。
    「こんばんは。もちろんだ、ふわりも一緒にやろう」
     ふわりが線香花火を持つと、イルマの鮮やかな色の火を移す。
    「線香花火って綺麗ですよね。しゅわーって勢いよく出るのも色が素敵で捨てがたいですけどっ」
    「わたしもどっちも好きだ。まだまだ沢山ある、一緒にやろう」
     色とりどりの花火が咲き誇る。
    「イルマは学園祭何してた?」
    「あまり参加できなかったが、喫茶店とライドキャリバー試乗に顔を出した」
     京哉が声をかけると、イルマは思い出し微笑む。
    「……へぇー。オレは部長だからクラブ企画にずっといたかなー。あ、でも企画に来てくれた子と一緒に学園祭回ったりもしたんだよ」
     そう言って京哉はにこっと笑った。
    「一緒にダンスしない?」
    「せっかくだから、みんなで踊ろう」
     イルマは周りに居る皆を、火を囲む大きな輪に誘う。
    「キミ達も踊るの? 一緒に踊ろーかー」
     ちょうどダンスに参加しようとしていたかれんも加わる。
    「いいですね! イルマちゃん踊りましょう!」
     鼻歌交じりにふわりが手を取って駆ける。最初は小さかったダンスの輪も今では随分大きくなっていた。
    「このがっこで、みんなと学祭できて嬉しい。かな。めずらしく、だれかにありがとーって言いたくなる夜、だね」
     学生最後の学園祭にかれんはしみじみとそう呟いた。
     学園の仲間達の誰も彼もが楽しく手を取り合う。一人と一人が踊るダンスは、人々が集まり大きな一つの輪になった。

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年7月30日
    難度:簡単
    参加:64人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 13/キャラが大事にされていた 4
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