捩れてしまった好意と努力と

    作者:篁みゆ

    ●皆のために頑張ります!
     寺岡・織姫(てらおか・しき)はよく気のつくいいマネージャーだと評判だった。スポーツが好きだが残念ながら才能に恵まれず、中学の頃からマネージャーに回ったというが、それが彼女にはぴったりだったらしい。
    「織姫ちゃん、俺、あまり調子が伸びないから部活やめようと思うんだ……」
    「そんなこと言わないでください、先輩。ちょっと調子が悪い時期なんてだれにでもあるものです! ストレッチお手伝いしますから、身体ほぐして調子が上がるのを待ちましょう?」
     にっこり微笑んで先輩の背中を押す織姫。すると別の方向から声が上がった。
    「おーい織姫ちゃん、僕ちょっと足に違和感があって」
    「それは大変です! マッサージしてみましょうか」
     彼女の白く柔らかい手でマッサージをされたがったり悩みを相談したがる部員も多い。そのひとりひとりに丁寧に対応するものだから、皆、彼女を頼りにしていた。
     それがいつからだろう、彼女のアドバイスが少しずつずれていったのは。
    「部長、どうしたんですか?」
     部室で険しい顔をして試合の録画映像を見ている部長に織姫は声をかけた。自分にできることがあれば……と思ったのだ。
    「ああ。次の対戦相手がね、格上だから少しでも情報収集しておかないとと思ってね」
     その時、織姫の目がキラリと光ったことに部長は気がついただろうか。
    「部長、それなら簡単で確実な方法がありますよ」
    「え?」
     テレビから視線を外した部長の耳元に、織姫はそっと耳打ちする。
     ――相手チームの要の選手にちょっと『怪我をしてもらう』んです。

    「やあ、来てくれてありがとう」
     教室に入ると神童・瀞真(高校生エクスブレイン・dn0069)が灼滅者達を待っていた。彼がいつも持っている和綴じのノートを繰ると、なんだかとても良い香りが漂ってきた。
    「一般人が闇堕ちしてソロモンの悪魔になってしまう事件があるよ」
     通常ならば闇堕ちしたダークネスからはすぐさま人間の意識は掻き消える。しかし今回のケースは元の人間としての意識を残したままで、ダークネスの力を持ちながらダークネスには成りきっていないのだ。
    「彼女が灼滅者の素質を持つようであれば、闇堕ちから救い出して欲しいんだ。ただ、完全なダークネスになってしまうようならば、その前に灼滅をお願いしたい」
     彼女が灼滅者の素質を持っているならば、手遅れになる前にKOすることで闇堕ちから救い出すことができる。また、心に響く説得をすれば、その力を減じることもできるかもしれない。
    「彼女の名前は寺岡・織姫(てらおか・しき)。中学2年生。四国の高校でサッカー部のマネージャーをしているよ。最初こそ、部員のために色々してあげたいと思って献身的に務めていたようなのだけれど……」
     次第に彼女の気持ちはエスカレートして、部員のためならばなんでもやる、そんな風になってしまった。
    「彼女の好意と頑張りは、間違った方向へ進んでいるんだ。真っ向から戦って勝てない相手は怪我をさせてしまえばいいなんて部員を唆している」
     その手段は闇討ちだったり、試合中に事故に見せかけてだったり……。どちらにしても悪いことであるのは間違いない。
    「彼女は部員のために頑張りたいという気持ちが大きい。大きすぎて間違った方向へ進んでしまっていることに気がついていない。よく考えればわかることなのだけれどね」
     彼女の「部員のために頑張りたい」という気持ちを貶すことなく説得をする必要があるだろう。
    「彼女はある日部活が終わった後、配下とした一年生部員を5人ほど連れて帰宅するよ。道中、廃ビルの前を通る。その辺りで接触するのがいいだろうね」
     戦闘場所としては3階建の廃ビルの屋上が広さも十分、特に障害物もなくてよいと瀞真は言う。だがそこで戦うには織姫だけでなく強化一般人5人も屋上へ連れていかねばならないから、誘導方法に工夫が必要だろう。
    「屋上へ上がるには階段を使用することになるね。二人並べるくらいの階段だけれど、上手く使えばそこも戦場にも出来そうだね」
     屋上まで上がらない場合は廃ビルの前、駅へ向かう少し狭い道で戦うことになる。人通りもぽつぽつあるため、対処が必要だろう。
    「織姫君は魔法使いの皆と同等のサイキックと、マテリアルロッド相当のサイキックを使うよ。配下の一年生5人は、魔法使いと同等のサイキックのみだね」
     配下一般人はKOすることでまだ元に戻すことができる。
    「元々は人一倍頑張り屋さんな普通の子だったようだから、今のやり方が間違っていると気がつけば、目が覚めるかもしれないね。ただし、頑張りを否定されると彼女は傷つくかもしれないから注意してね」
     瀞真は君達なら大丈夫だと思うけど、と微笑んだ。
    「彼女が唆しているのは卑怯な暴力だからね。それでなにかを解決するなんて、虚しすぎる……君達に期待しているよ」
     頼むよ、と告げて瀞真は和綴じのノートを閉じた。


    参加者
    和瀬・山吹(エピックノート・d00017)
    襟裳・岬(にゃるらとほてぷ・d00930)
    真澄・しいな(ほんわか魔法使い・d03029)
    織神・皇(ヒトユメ・d03759)
    桐谷・要(観測者・d04199)
    華槻・灯倭(紡ぎ・d06983)
    ミミエ・カザリ(機術士・d09474)
    新沢・冬舞(夢綴・d12822)

    ■リプレイ

    ●Step1
     廃ビルの中にしなやかに降り立つ気配があった。猫だ――いや、猫変身した桐谷・要(観測者・d04199)だ。廃ビル内の内部構造と状況をチェックし、先客がいないことを確認すると安心して屋上へと上がる。勿論屋上にも人影がないことを確認して、ビル内から扉を開けた時に死角になる位置にそっと姿を隠した。
     他の灼滅者達は用意した制服やらジャージやらに身を包み、相手校の生徒を装い、織姫達を待つ。
    (「好意が捻れてしまう事って、あるよね。きっとそれだけ、部員さん達を大事に思ってて、その為に役に立ちたいって思いが強いんだね」)
     マネージャーのふりをする華槻・灯倭(紡ぎ・d06983)は織姫の学校のある方向を見つめて、思う。
    (「その気持ちは、私も解るから……大事にして欲しいし、大事にしてあげたいな」)
     その為には哀しい事が起きる前にしっかり軌道修正してあげないと、自分に言い聞かせるように小さく頷く。
    「勝てば官軍。よく言ったもんだが」
     ぽつり零したのはサッカー用のスポーツウェアを着込んだ織神・皇(ヒトユメ・d03759)。
    (「部活ってものは己の力でやるからこそ意味があるんじゃないかね。勝つためなら手段を選ばず、でもそれって部活の本来の意義かな」)
     織姫と彼女の策に従う部員達に首を傾げる。彼女達は本来の意義を見失っているようにしか思えなかった。
    (「うーん、スポーツの試合ってお互いぶつかりあって実力で勝負するのが楽しいんじゃないかしら」)
     織姫達はその気持ちを見失っているのではないか。
    (「勝負の外の手段を使った段階で、それは『勝ち』とは言えないわ。スポーツ選手として嬉しいのかしらん?」)
     マネージャーを装う襟裳・岬(にゃるらとほてぷ・d00930)もまた心の中で首を傾げた。
    「ともかく、寺岡さんの説得を行いませんと……」
     今は間違った方向に目が行ってしまっているけれど、根気強く説得すればなんとかなると信じたい。ジャージ着用の真澄・しいな(ほんわか魔法使い・d03029)はきゅっと手を握りしめた。
    「そうだね。…‥来たようだよ」
     和瀬・山吹(エピックノート・d00017)の視線をミミエ・カザリ(機術士・d09474)が追う。そこには制服姿の少女と、その両脇や後ろを固める少年たちの集団があった。こちらへと段々近づいてくる。
    「武蔵坂学園での本格的な初任務ですわね。まぁ、勝手は皆と動きながらつかんでいくとしましょう」
     ミミエは深呼吸をし、僅かに残っていた緊張を隠す。他校の制服を着てノートを手にした新沢・冬舞(夢綴・d12822)がすっと前に出た。織姫達も自分達の進路を邪魔するように立っている男女の団体に気がついたのだろう、談笑をやめて少し距離をとったまま足を止める。
    「話があるんだが」
    「突然ごめんね。ちょっとお話、聞かせてもらえないかな」
     冬舞の言葉を追いかけるようにして山吹が警戒心を抱かせぬように優しく言葉を紡ぐ。だが七人も集まったこの状況で警戒させないというのも無理なこと。織姫さん、弱気に名を呼ぶ男子に織姫は大丈夫だから、と告げて一歩前に出た。
    「何でしょう?」
    「ちょっと次の試合の事で話があるんだけど……いいかな?」
     ぴくり岬の言葉で織姫だけでなく、男子達も反応した。
    「人通りの多い場所じゃ出来ない話もある……どうだい、向こうの廃ビルで」
     皇が親指でピッと廃ビルを指す。次の試合、その言葉を口の中で繰り返した織姫は何かを決意したような表情を灼滅者達へと向けた。
    「いいでしょう。その代わり彼らも一緒でいいですか?」
    「勿論だよ」
     むしろ一緒に来てもらわねば困る。灯倭はすぐに頷いてみせた。皇と山吹が先導して廃ビルに入り、階段を昇っていく。織姫は男子に守られるように真ん中の位置で階段を登っている。灼滅者達は彼らを前後で挟むように階段を昇っていった。

    ●Step2
     耳をピクンと動かして、屋上の中に寝そべっていた猫姿の要は上体を起こした。多くの足音が近づいてきている。これが織姫達のおびき出しに成功した仲間達の足音だったら良いのだが、そうでなければ誘導して追い出さなくてはならない。要は扉の死角でじっと息を潜める。
    「ここならゆっくり話できるだろ?」
     聞こえてきたのは皇の声。次いで屋上の扉をあける音、足音。要は安心してそのまま潜んで様子を窺うことにする。
     全員が屋上へ出た後、しいながパタンとドアを締めた。
    「だましてごめんなさい。でも、どうしても伝えたいんです。あなたの考えが間違っているって」
    「どういう、こと……?」
     突然謝ったしいな。織姫は自分達をぐるり取り囲むように自然と立った灼滅者達を見る。
    「戦うための前準備は結構。でもそれで相手を傷つけるのはどうなのかな」
    「!?」
     皇の言葉に強張る織姫と男子生徒の表情。何故それを知っているの、織姫はか細い声でそう言って。けれどもその疑問にはまだ答えられない。
    「そのあくなき勝利への欲望は素晴らしいですが……根が間違っていてはね」
    「……皆が試合をする姿を見たかったの? それとも、どんな手段を使ってでも『勝つ』姿を見たかったの?」
     ミミエに続いて悲しそうに岬が問うた。山吹は優しく、柔らかく言葉を紡ぐ。
    「君が本当に、部を思ってることは理解しているよ……だけれど、それでいいの?」
    「……え?」
     意味がわからない、そんな表情をしている織姫に、たまりかねたように皇が告げる。
    「怪我をしたから。調子が悪かったから。相手に言い訳を許してしまうような中途半端な勝利、それが欲しいなら止めはしないがね」
    「ルールを破って勝つなど、結局は敗北を認めたも同然ですわ。本当の勝負の勝敗というものをよく考えなさいな」
    「なっ……」
     ミミエと皇の言葉に織姫は真っ赤になって拳を握り締めている。少しきついかもしれないが、このくらいは言っておかねば。
    「私は、皆の為を思って、動いて……」
    「力になれるなら、誰かの為に頑張りたい、その気持ち、私も同じだから……凄く解るし、素敵な事だと思う。でもね」
     灯倭とて織姫と似たような気持ちを持っている。でも彼女と違うのは、織姫のとっている方法が間違っているとわかっていること。
    「自分達の為に誰かを傷つけたり貶めてしまったら、部員さん達の頑張ろうって気持ちまで傷つけちゃうよ」
    「寺岡と同じように、他の学校のマネージャもその学校のチームの選手を大切に思っているだろう。もしも、いま寺岡がしようとしている事が、自分の仲間にされたら、どう思う?」
    「え……」
    「もしキミんとこの部員がそういう目にあったら……どういう気分になる? 考えてみなよ」
     冬舞と皇の言葉を受けた織姫は口をつぐんだ。そして何かを考えこむようにして瞳を閉じた。男子生徒たちが心配そうに彼女を見ている。だがそれは灼滅者達も同じだ。
    「相手を妨害して、怪我をさせて勝ち取った勝利は……君の愛する部員の実力じゃないんだよ」
     非難ではなく、訴えかけるように山吹が告げる。
    「それで本当に、勝ったって言えるのかな?」
    「いえないわね……」
     はっきりと、織姫の口から言葉が紡がれた。ゆっくりと瞳を開けた彼女は悲しそうな笑顔を浮かべていた――だが次の瞬間。
    「私、どうかして……あぁぁぁっ!?」
     急に苦しみだした織姫が自分で自分の身体を抱きしめる。おそらく織姫の中のソロモンの悪魔が出てこようとしているのだろう。それを見て要は猫変身を解いて皆と合流。そして灼滅者達は武装する。
    「絶対、絶対に、寺岡さんを救って見せます……! その為に、私達も頑張らなくてはなりませんね。きゅん太、一緒にがんばろっ!」
    「ナノ!」
     しいながマテリアルロッドを手にして横に出現したナノナノのきゅん太と視線を交わし合う。灯倭も霊犬の一惺に頷いてみせた。
    「間違ってなどいないわ。私は皆のために働いているだけよ」
     苦しさが落ち着いた様子の織姫はとても冷たい瞳をしていた。いや、彼女は『織姫』ではないのだ、順に魔法の矢を作り出す男子達を見つつ、灼滅者達は理解していた。

    ●Step3
     男子5人の魔法の矢は前衛三人にバラけて放たれた。織姫は雷を喚んで岬を狙った。
    「例えば病欠で2校だけのトーナメントでの優勝と16校のトーナメントでの準優勝、どちらが嬉しいかしら。無論、優勝も嬉しいのはわかるけれど、勝負に勝ってそれで終わりでいいのかしら。あなた達も自分で考えてみたらどうかしら」
     扉を背にして退路を断つように立った要が一番早く反応した。魂の底に眠るダークネスの力を一時的に岬に注ぎ込み、その傷を癒す。投げた言葉は織姫を守ろうとする男子達へ。
    「皆で自分たちの力で努力して勝つことが、一番嬉しいと思うから、そのお手伝いをしていこうよ。戻ってきなよ」
     灯倭は『環』から石化の呪いを発して男子一人を狙う。一惺も灯倭を追って同じ相手に傷をつけた。
    「誰かを支えるという事は苦しい事もあるし、辛くて難しい」
     冬舞は一瞬のうちに織姫の死角に入り、ナイフを振るう。痛みで表情を歪めた彼女と視線が合った。
    「それが嬉しいと思ったり、楽しいと思える限り、寺岡は彼らのマネージャだ」
     力強い肯定の言葉。織姫の心に届けと投げかけて。
    「織姫ちゃんの頑張りは、きっと皆にも伝わってる。方向は間違ったかもだけど、大丈夫。間違わない人間なんて居ないもの」
     清らかな風を喚び、前衛の傷を癒しつつ紡がれる岬の言葉は清浄なる響きを持って織姫へと向かう。
    「ほら、皆もわかっているんだよ、君の想い。だから心を強く持って」
     山吹が傷ついている男子へとオーラを纏った拳を浴びせる。身体を折って後ずさった男子に皇が威力を加減して力を振るえばその男子はぱたりと倒れた。
    「行きます、覚悟してください!」
     ロッドを振るったしいな。まるでロッドから出現したかのように刃を模した影が男子を切りつける。きゅん太もしいなに倣って同じ男子を狙った。ミミエは瞳にバベルの鎖を集中させて能力の上昇を図る。
     男子達は今度は、後衛の辺りから熱を奪う魔法を行使する。強化一般人ということもあって一回の威力はそれほどでもなかったが、四回分となると少々鬱陶しい。織姫が追い打ちを掛けるようにミミエを狙って魔法の矢を放つ。
    「させないよっ!」
     だが素早くミミエの前に出た灯倭がそれを庇った。
    「自分の長所を伸ばして、足りない場所を補って、それでも足りない部分は仲間に託して。何も伸びない勝利と、自分を伸ばせる敗北、どちらが有益かしら」
     傷ついた男子に接近し、手加減して攻撃を繰り出した要。これで倒れたのは二人目。灯倭と一惺は三人目の男子を狙った。ふらつく姿を目にして頷き合う。
    (「言葉を尽くすというのは難しい、な」)
     高速の動きで織姫に加えられた冬舞の一撃は彼女の制服を破る。
    (「俺も堕ちたことがあるから分かるとは、決して言えない」)
     人それぞれに理由があるのだ、そう思った。
    「頑張りは無駄にならないよ。大丈夫。……私にも手伝わせて?」
     願いながら岬は再び風を喚んで後列を癒す。ふらついた男子に山吹が手加減を加えれば、三人目が倒れ伏す。そして、四人目も五人目も灼滅者の猛攻には耐えられない。
     瞬く間に倒されていった取り巻きを見て苦い表情の織姫。ミミエは織姫の顔をしっかり視界に捉える。
    「同じタイプなら魔術勝負は不毛。ならば!」
     彼女の決断は素早かった。
    「コードRS、目標諸元入力。スラッシャー……射出!」
     放たれた光臨は真っ直ぐに織姫に向かっていった。

     男子達が倒れたことで集中攻撃を受けることになった織姫は、それでも抵抗をやめなかった。だが灼滅者達の全力の攻撃を受けて体勢を崩すことが多くなってきた。それは彼女の終りが近いことだと灼滅者達は知っている。
     織姫は自らの瞳にバベルの鎖を集中させて回復を図る。だがもう遅い。要は指輪から魔法弾を放ち、灯倭が死角に入って『惺絃』を振るうのに合わせて一惺も刀を振るう。冬舞が伸ばした剣で織姫を縛り上げたところに山吹の柔らかい歌声が届く。岬は皇の傷を癒し、皇は織姫の死角へと入った。
    「部員の皆と頑張るんやろ? ほなら闇なんかに呑まれとらんではよ帰ってこい!」
    「ああっ……」
     力強い言葉が織姫を揺さぶる。
    「織姫さん、自分に負けないでください……!」
     影の刃を放つしいな。しいなに頼まれて嬉しそうに要の傷を癒すきゅん太。ミミエのライフルからの光線が織姫の腹部を穿ち、大幅に体勢を崩された織姫は魔法の矢を放ったがあらぬ方にしか飛んで行かない。
     彼女が体制を立て直す前に要が素早く接近して攻撃を叩きこむ。その一撃が止めとなって、織姫はゆっくりと身体を横たわらせた。

    ●Step4
    「目が覚めたみたいですわね」
     ミミエの言葉に男子達を介抱していた者達が顔を上げる。男子達もしばらくしたら目が覚めるだろう。
    「あれ、私……」
    「……大丈夫かい? 手荒な真似をしてごめんね」
     山吹が伸ばした手を取り、織姫は状態を起こした。そんな彼女に無事でよかったとしいなや岬が微笑みかける。彼女が破れた制服の上に羽織っているのは冬舞の上着だった。
    「君の身に起こったことをかいつまんで説明するとね……」
     山吹と灯倭が織姫の混乱を少しでも収めるように説明をしていく。それを驚きながらも真剣に聞いている彼女を見て、皇はもう大丈夫やな、と頷いた。
    「織姫さんはこれからどうしたいのかしら」
    「えっ……」
     要の問いに戸惑いを見せる織姫。そこに助け舟という名の選択肢を出したのは山吹だった。
    「君がよかったら、俺たちと一緒に来ないかい?」
     君と部員たちを引き離すのはちょっと気が引けるけどね――優しく笑むように告げれば、彼女は小さく頷いて。考えてみます、そう前向きに答えた。
    「何より、今はこう言わせてください。……ありがとうございます」
     明るい表情でそう告げた織姫を見て、灼滅者達も柔らかい表情を向けずにはいられなかった。

    作者:篁みゆ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年7月27日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 10
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