純正ノ殺意ヲ止メロ

    作者:緋翊

    「力、というやつは非常に厄介な代物だ……」
     とある日、とある場所。
     暗闇の中で、声がした。
    「無くても困るが、ありすぎても困る。その、なんだ。生活が一変してしまうからね」
     夏の夜。
     発せられる声は、どこまでも澄み切って、氷のように冷たい。
    「た、助けて下さい。助けてください、助けて……!!」
    「駄目だ」
    「ひ、」
    「……どこまで話したかな。あぁ、力があるのも困りものだ、みたいなとこだっけ」
     別の声がした。
     若い女の声。
     それも恐怖と混乱、絶望に彩られた、熱を持つ声だ。
    「正義の味方、なんて存在もあるかもしれないが。どうかな。僕には疑わしいね」
    「お、お願い。なんでもする、なんでもするからっ」
    「――過ぎた力は人を狂わせる」

     ぐちゃっ。
     肉と骨の潰れる音で、女の声が途切れる――頭蓋骨を握り潰されたが故に。

    「正義を謳って群れるのも良いだろうが。ソレって勿体無くないかい?」
     冷え切った声の主。
     その姿が月明かりに照らされた。
     若い男だ。
     美しい顔立ちに冷笑を乗せ、彼は手についた血と肉を払った。
    「……暴力で他者を殺すのは気持ちが良い。人を助ける百倍は、気分が晴れる」
     男は周囲を見回す。
     暗い廃屋には、彼が殺した人間の血と肉が大量に撒き散らされていた。
    「だから僕は人を殺す。沢山殺す。これはもう……仕方のない、ことだよね?」
     くすりと無邪気に笑う男は、軽やかに廃屋を出て行った。
     人を殺すために。
     殺して、殺して、殺して――。
     自分を自分として、保ち続けるために。

    「早急に解決して欲しい事案がある」
     教室に灼滅者達を集め、久遠・レイ(高校生エクスブレイン・dn0047)は呟いた。
     右手のリモコンでエアコンの温度を整える。
     暑いのかもしれないし、寒いのかもしれない。
    「一般人が闇堕ちし、『デモノイド』と化す事件が発生しているのは、既に皆も知っていると思う。しかし今回、この『デモノイドの力を使いこなす存在』が確認された……デモノイドロード、と呼称される存在だ」
     今回は、この者の灼滅をお願いしたい。
     手短にレイは告げる。
    「デモノイドロードは普段、デモノイドヒューマンと同様の能力を持っているが……己が危機に陥った場合、任意でデモノイドへ変貌できる存在だ。端的に言ってしまえば、自己の意思で闇に堕ちることができる、というワケだね」
     彼等はデモノイドの力を、強い悪の心で押さえ込んでいる。
     説得は絶対に成功しない。
     仮に成功しても――その瞬間、デモノイドに支配されてしまうだろう。
     結果は同じだ。
    「今回の灼滅対象は、氷室・京谷という男だ。24歳。職業は警察官、だった。今は職務を放棄して、巧妙な手段で廃屋に人間を連れ込み、殺している狂人だよ」
     廃屋の場所をレイは地図で示す。
     学園からそう遠くない。郊外とは言えるかもしれないが、極端な田舎でもない場所だ。
     放置すれば、まだまだ犠牲者は増えるだろう。
    「……これから現場に行けば、夜。人間を連れ込んだ氷室に会えるだろう」
     廃屋は戦闘に支障がない程度の広さを持っている。
     障害物も特にあるまい。
     あるのは古い家具と、犠牲者の躯だけ――。
    「能力はデモノイドヒューマンのそれと変わらない。デモノイドに変貌しても同じだ……全ての能力が桁違いに跳ね上がるだろうが、ね。そして、」

     一番厄介なのは、彼に知性があるということだ――そうレイは断言する。

    「力押しだけなら対処も幾らか楽だろう。けれど彼は、確かな戦術を持って、柔軟に手段を変えて君達に襲い掛かってくるだろう。知性と暴力が同居している事が、どれだけ厄介なのかは……僕より君達の方がイメージしやすい筈だ」
     レイは嘆息する。
     正直に言って、危険極まりない任務だ。
     誰かに頼むのは気が重い。
     けれど……頼めるのは、同じく知性と力を持つ、灼滅者をおいて他には居ない。
    「十分な対策をして、戦闘には臨んで欲しい。誠に申し訳ないことに、僕には戦う力がないから……君達に頼むしかない。すまない。どうか、気をつけて……」
     灼滅者達を案ずる視線と共に、レイは言った。
     それを受けて灼滅者達は頷きを返す。
     力に取り込まれた狂人は――この夜、確実に葬らねばならないと確信していたからだ。


    参加者
    喚島・銘子(繰糸代読屋・d00652)
    紀伊野・壱里(風軌・d02556)
    リュシール・オーギュスト(お姉ちゃんだから・d04213)
    天城・兎(二兎・d09120)
    吉沢・昴(ダブルフェイス・d09361)
    天宮・黒斗(黒の残滓・d10986)
    ベリザリオ・カストロー(罪を犯した断罪者・d16065)
    御剣・譲治(デモニックストレンジャー・d16808)

    ■リプレイ

    ●月ノ光
     そうして、今。
     灼滅者達は現場へ、駆けていた。
    (「間に合う筈だ。分かっちゃいるんだが……!」)
     焦燥を覚える己を自覚し、天城・兎(二兎・d09120)が胸中で呟いた。
     急ぐ。
    「(仕方無ぇさ。人の命は、軽いもんじゃないんだ)」
     併走する吉沢・昴(ダブルフェイス・d09361)の小さな声は、兎に聞こえただろうか。
     ただ、同じ想いを抱いている者は多い筈だった。
    「しかし、不安定とはいえ、好きにダークネスの力を振るえる存在か」
    「灼滅者としては、羨ましい存在ではあるね。代償が大き過ぎるけど」
     相手は強く、
     悪辣で、
     不足だけは無い。
     天宮・黒斗(黒の残滓・d10986)と紀伊野・壱里(風軌・d02556)が一瞬目線を合わせる。
    (「人の未来を護るのが仕事だったでしょうに……」)
     放置することだけは、出来かねる。
     喚島・銘子(繰糸代読屋・d00652)の視線の先には、目的地が見えていた。
    「……絶対、倒さないと」
     リュシール・オーギュスト(お姉ちゃんだから・d04213)の言葉で、皆が足を止める。
     言葉に鋼の響きがあったことには、おそらく意味があるのだろう。
     或いは、過去も。
    「そうだな。敵はあそこにいる。俺達は、そいつを許さない……だからこの依頼を受けた。さて、この後の手筈は、大丈夫だな?」
     皆をぐるりと見回して。
     御剣・譲治(デモニックストレンジャー・d16808)が確認の言葉を発した。
    「ええ――行きましょう。連れ去られた人を、助けないと」
     一歩を踏み出すのはベリザリオ・カストロー(罪を犯した断罪者・d16065)。
     一瞬だけ、その瞳が憂いを帯びるが、すぐに消える。
     感傷は、後で良い筈だ。

    ●惨劇の場へ
    「……おや、御客さんかな?」
     少し後。
     廃屋の中。
     氷室・京介は、小さく呟いて、扉の方を見た。
    「んー、ん……!」
    「今日は騒音を出さないよう、わざわざハンカチを君の口の中に詰め込んで殺そうとしていたのに……クレームの届く理由が無いんだが」
     京介は女の首を折ろうとしていた右手の力を弱め、意識を周囲に配る。
     すると……。
    「あ……」
     次いで、現れるのは他でもないリュシールだ。
     死体と、京介と、女性を見て、その顔には恐怖が浮かんだ。
    「ひ、」
    「前言撤回。いや大歓迎だ――きみ、迷子?」
    「あ、あの……」
     にっこりと京介が笑う。
     傍らの、今にも殺されそうな女は、くぐもった声を発する。
     助けて、か。
     逃げて、か。
    「……悪い子だね。いや、良い子なのかな? まあ、殺しちゃうから意味は無いけど」
     饒舌な京介。
     それに対し、リュシールが見たのは、被害者の女の方だった。
     大丈夫、と。
     優しく呟く。
     そのときだ。

    「さぁ、やるか―――赤兎」

     轟音が廃屋を満たした。
     ライドキャリバーを駆る兎の突撃、奇襲である。
    「ああっ!」
    「ち……!?」
     同時、リュシールもまた、牽制に動いている。
     攻撃をガードし、反撃を見舞った京介の技量は、素直に警戒すべき水準だろう。
     どがんっ、と、破砕音が廃屋を満たした。
    「君達は……なんだ? 正義の味方?」
    「答える意味は無さそうだな」
     更に、警戒する京介の近くに、黒斗の言葉と、「何か」が投げ込まれた。
     ソレは、今まで覆いをされていたカンテラ――光源だ。
     そして、
    (「ち……敵ながら見事だな。隙が、無ぇ」)
     数秒の差を置いて突入した昴が更に光源をばらまく。
     出来れば不意打ちの一撃を入れたいところだったが、どうやら京介は、黒斗の行動を見て、一瞬で警戒を深めていた。想像以上の知能と、勝負勘である。
    「ッ」
     同時。
     動物変身で目立たず、拉致された女に近付いていたベリザリオが、動いた。
    「動けますか? 早く外へ!」
    「……!」
     そこからの灼滅者たちの動きは、更に激しく巧妙だ。
     誘導するベリザリオと女性に攻撃が行かぬよう、時間を置いて突入した銘子のペトロカースと、譲治のシールドバッシュが京介に襲い掛かる。

    (「――大丈夫。こいつは二度と、貴女の前に現れない」)

     銘子の割込ヴォイスは、女性を安心させるに足りるものだっただろうか。
    「……いいよ別に。君達を警戒しないと、ちょっと危なそうだからね」
    「……賢明な判断だな」
     京介は多重攻撃を、どうにか紙一重で回避していた。
     おそらく、状況が自分の想定外に動いていることを自覚して、回避に専念したのだろう。
    「アンタは、ここで倒す。文句は無いな?」
    「くく……嫌かな。まだまだ、人、殺したいし」
     壱里の突き放すような言葉に、京介は笑みを深くした。
     そして。
    「……止められるものなら、止めてみてくれよ」
     どこか寂寥感を滲ませた呟きと共に、彼の肉体は膨張し、青に染まっていく。

    ●限界戦闘
    「それじゃ……往くヨ」
     デモノイド。
     青き暴力と化した京介が、動いた。
    「「!」」
     その右腕が巨大な刃と化すのを灼滅者は認める。
    「大丈夫だ、この一撃は俺が引き受ける!」
     狙いは、クラッシャーの一角、黒斗か。
     察した譲治がその攻撃に割って入った。
    「……アアアアアアアッ!!」
    (「あの巨体で、ここまでの速度を出せるのか!」)
     壱里の舌打ちと、刃の一撃は同時。
     予想以上の攻撃速度に、譲治は直撃を受け――深々と、大打撃を受けた。
    「がっ……」
    「ククク……耐えるんだネ……?」
     彼の瞳には驚愕がある。
     この威力は、デモノイドヒューマンのそれとは一線を画している。しかも先程の不意打ちの副次効果として、彼は銘子からシールドリングの加護さえ受けていたのだ。
    「御剣さん、いま治療を!」
    「他の方々も狙われる可能性があります。気をつけて……!」
     即応したのはメディックの二人だ。
     銘子の回復が譲治を癒し、ベリザリオのシールドリングが他の前衛の能力を底上げする。
    「紀伊野さん!」
    「ああ、合わせるぞ!」
     勝利には攻撃が必要だ。
     最初に放たれたのは、リュシールと壱野の連携攻撃。
     轟雷とペトロカースが青き巨体に突き刺さり、爆ぜる。
    「――オオッ」
    「――悪いが、早めに眠って貰うぜ!」
     そこに近距離攻撃を仕掛けるのは、クラッシャーの兎に銘子の相棒たる霊犬、杣。
     フォースブレイクと斬魔刀の輝き、二重の攻撃が――。
     否。
    「――驕りは死を招くぞ」
    「――その力、限界まで見せてみろ」
     昴と黒斗の攻撃が続く。
     最高速で突撃する昴に、変則的な機動で側面を突く黒斗。実質的には四連撃だ。
    「奢ってなどいないサ……!」
     氷室・京介は、この瞬間、ダークネスとしての力を限界まで引き出し対応した。
     機敏に攻撃を回避し、難しければ腕を振るい狙いを逸らす。
     殺人的な攻撃を、最小限のダメージで切り抜ける。
    「痛い、ネ……」
     ゆらりと。
     巨体は再び、灼滅者たちに向き直る。
    「久々の痛みダ……!」
    「とんだ化物も、居たものですわね……」
     ベリザリオの呟きに、京介は笑いの発作を抑えきれない様子だった。
    「仕方無しに人を殺してたケド、いや、久々に愉快だヨ!」
    「何が、仕方ないよ……」
     くつくつと哂う化物に、叫んだのはリュシールだ。
    「自分が何かするのは面倒で、好きな物だけは貰いたいだけの駄々っ子が! 内心で震えてるの知ってるわよ、乗っ取られたくないけど正義の味方なんてなれっこないよぉってね!」
     叫ぶ彼女の心中には、何が広がっているのだろう。
    「貴方だけは逃がさないわ。貴方の犠牲になっても良い未来なんて、一つも無かった筈よ」
    「だな。アンタみたいに、利口そうに全てを諦めた奴は、最低だね……」
     銘子が。
     兎が。
     己が武器を構えつつ、リュシールの叫びに続く。
    「最近の子供は……賢いネ」
     京介は、怒るでもなく、静かに呟いた。
    「……そちらの、ストイックな君達も、僕を逃がすつもりはないんだよネ?」
     ちらりと彼が見るのは、油断無く距離を詰める昴と黒斗。
    「ああ。お前は力に振り回されるだけの危険な存在だ。強いだけの力に価値は無い」
    「私はまあ、特にお前と話すことも無いかな……ただ、勝てれば良い」
     勿論、和解は有り得なかった。
     同じ力を持つもので、ここまで道が分かれるものか――京介は自嘲気味に言った。
    「若い正義の味方もいたものダ」
    「違うな。少なくとも俺は、俺の意志でお前を殺すと決めた。それだけだ」
     譲治の一言に笑いながら、再び京介は躍動を開始した。
    「良いよ。本当に良い……なら、殺セ!!!」
     叫びと疾駆が重なる。
     だが灼滅者達は気付いていた。
     ほんの僅かだけ、運動性能は、落ちている。
    「アアアアアアアアア!!」
     慟哭にも聞こえる京介の叫びに、灼滅者達は、立ち向かう。

    ●死ヲノゾム
     氷室・京介は、控え目に言っても強敵だった。
    「……オオオオオオ!!」
    「ッ」
     まず、バッドステータスが重くなるとすかさずシャウトで状況を仕切りなおす。
    「それだけで、随分堅く感じるもんだな……!」
     鋭い舌打ちと共に、傍らの黒斗を見て――半ば視線を戻さず、それをフェイクとして昴がジグザグラッシュを見舞う。頭が良いだけにある程度の駆け引きが通じる点は幸いだ。念入りに選んだ靴は、部屋中に散らばる遺体にたたらを踏むことも無い。
    「小賢しいね!」
    「――だが、難易度が高いのは心が躍るな?」
     京介の一撃に血を吐きつつ、黒斗は吹き飛ばされた勢いのまま壁を着地点として体勢を立て直す。試しに部屋内のランタンを蹴り飛ばし、皆の影の位置を変えてみたが、これには隙を見せなかった。強い。
    (「これは、俺もこの立ち位置で正解だったか?」)
     ポジションを、当初構想とは違うクラッシャーとして参戦してしまった兎も、敵のしぶとさに半ば本気でそう考える程だった。
    「回復が必要な人は遠慮なく申し出て!」
    「……もう少しですわ! 皆様、どうか御辛抱を!」
     戦線の維持に貢献しているのがメディックの二人だ。
     そもそも、高い回復力が無ければ倒れる者は多かったし、スポット的な奇襲に対してはシールドリングによる防御性能底上げが京介に追撃を断念させている。
    「――随分と苦しそうだな?」
    「――逃がさないわ。絶対に」
    「……は、」
     逃亡の素振りさえ見せられないのは、中後衛から壱里とリュシールが絶えず牽制を行っているからに他ならない。二人に返す京介の笑みは、紛れも無く苦笑である。
     だが。
    「良く一人で頑張ったネ?」
    「独りでは無いさ……!」
     それでも、護り手が譲治のみというのは京介の幸運だった。
     攻撃を集中させ――逆に言えば、シールドバッシュで気を向けさせ、皆の傷の大半を引き受けた点は賞賛に値するが――殺傷ダメージの累積した譲治が、遂に倒れる。
    「一般人相手にしか力を振るえぬ、井の中の蛙が謳うなよ……!」
     瀕死とは思えぬ最後のシールドバッシュ。
     ぴくりと眉を歪ませた京介に、余裕はない。
     彼の次なる標的は兎だ。
    「ち、」
    「君も、終わりダ!」
    「へ……強がるなよ。無駄に知性があるってことは不便だぜ。詰将棋みたいに、最後に逃げられなくなったら怯えるしかないんだからな!」
     破壊力を底上げされた彼と彼のキャリバーが、攻撃に構わず突撃。
     その身を覆うバトルオーラの形状は翼。加速は一瞬であり苛烈なソレだ。
     オーラキャノンの一撃が、ぐらりと、デモノイドの巨体を揺らす。
    「――ここで、攻め切りましょう!」
    「……この怪物を、外へ出す訳には参りません!」
     その隙を見逃さず、叫んだのは、銘子とベリザリオだった。
     癒し手の二人が、完璧な連携でペトロカースと五星結界符を放つ。
     これは全くの予想外だったのだろう。京介の瞳が驚愕に揺れる。
    「その首――貰い受けるぞ、化物」
    「楽しかったよ俺の敵――苦しんで逝ってくれ」
     気付けば、全くのノーモーションで、昴が京介の首を居合いで狙い。
     ソファを踏み台に、たん、と高く飛んだ黒斗が、紅蓮斬で頭を割らんとしていた。
    「っ、が……!?」
     直撃。
     京介の、苦悶の声が、響く。
     そして。
    「お前は、道を踏み外した……嘗ては正義そのものであっただろうに、な」
     どん、と、壱里の放った制約の弾丸が、これも直撃した。
     京介は見る。
     壱里の傍ら、憎悪を込めて自分を睨む、少女を。
    「……君は、僕を憎んでいるネ?」
     儚く笑む京介に、リュシールは衝動的に己の頬を引掻いた。
     悲しみを込めて、彼女が一気に言う。
    「ええ、そうよ。私はダークネスが憎いわ。でもね? 私が戦うって決めたのはその為じゃない、私みたいな子をもう出したくなかったからよ。こうするのが損だなんて全然思わないわ……ねえ、あなただっておまわりさんだった頃に覚えはないの?」
     京介は、疲れたように笑った。
    「どうかな。もう随分と、昔の事の気がする……ただね。自分の悪意に気付いた時は、恐怖したなぁ……でも同時に、悪でないと自分が無くなってしまう感覚にも気付いて――いや、所詮言い訳だな」
     殺せ。
     呟く京介に、リュシールの放った 斬影刃が吸い込まれ――戦闘が終了する。

    「……おめでとう。どうせなら……これからも、正義を続けてくれ」

     数秒後には、最早、殺人鬼の居た形跡は何も残っては居なかった。
     終わったなと呟く譲治の声が、響いた。

    ●全ての終わりに
    「……どうやらこれで、終わりみたいですね」
     暫しあと。
     廃屋で呟く壱里は皆を見回した。
     何か情報があればとも思ったが――敵の遺体は既に跡形も無い。
    「そのようだな。後は帰還して、報告だ」
     譲治が同意する。
     廃屋の外に出れば、そこには星空が広がっている。
    (「正気を保つために力を振るう……最後に待つのは、やはり狂気、なのでしょうか」)
     強い敵だった。
     そして、恐ろしい敵でもあった。
     ベリザリオはふと弟の顔を思い出す。彼は今、何処で何を考えているだろう……?
    (「一歩間違えば、俺も氷室みたいになってたかもしれないんだよな。力ってのは厄介だ」)
     兎もまた、星空ではなく己の過去を見ている。
     仮定は仮定でしかない。けれど、考えずにはいられない問題ではある。
    「とにかく、任務は成功したわ――帰りましょう、私達の学園へ」
    「そうですね……」
     銘子が意識して、明るく、優しい声でリュシールの肩を叩いた。
     戦闘で極限まで消耗していた銘子の相棒、杣は、主同様リュシールを励ますようにその身を彼女にこすりつけている。リュシールは小さく礼を言って、やっと微笑を取り戻した。
    「ま、疲れた時はしっかり食って、寝るのが一番さ。とりあえず、夕飯でもどうだ?」
    「断る理由は無いな。確かに今日は、考えたし、動いたよ」
     労いは昴のもので。
     敢えてシンプルな言葉を使う彼に、黒斗が小さく笑って同意した。
     敵は倒した。
     ソレは、誇って良い筈だ。
    「何が食いたい? 意見が割れたらとことん議論して――」
    「民主的ですけど疲れそうですね……」
     それぞれの想いを胸に、賑やかに話し合いながら、灼滅者達は街を歩いていく。
     空の星だけが、彼等の戦果を讃えるように――静かに、瞬いていた。

    作者:緋翊 重傷:天城・兎(赤狼・d09120) 御剣・譲治(デモニックストレンジャー・d16808) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年7月30日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 14/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ