なつだ、うみだ、そうだおんせんいこう。

    作者:日暮ひかり

    ●しんまいなる スレイヤどの
     おれ いふりと。アタガワ いる。
     やまのかわ こわいが ぶた およいでる。
     ぶた そのうち やまおりする。
     やまのした ざぶざぶが おれ こわいすぎ。
     おまえ やっつけるを おねがします。おこめおいし。
     
     以上、原文。
    「なんなのだ、クロキバ派のイフリートが近頃お気軽に送ってくるこの石……もとい手紙らしき物体は……っていうか俺達米にされているではないか! あ、これ意訳のプリントな。なに、英語の宿題に比べればどうという事はない」
     以下が、鷹神・豊(高校生エクスブレイン・dn0052)先生による翻訳である。

    『親愛なる灼滅者殿。
     私はイフリート。伊豆熱川の山の僻地に潜む、つまらぬ獣です。
     近頃、私の棲み家の傍の川で、バスターピッグなる輩が涼を納れております。
     彼らはこのまま山を下り、やがて人里近い麓の海へと至りましょう。
     あゝ、しかし私は、水が恐ろしくてなりませぬ。
     とりわけあの波というものが、恐ろしくてたまらぬのです。
     近付く事すらままならぬゆえ、貴方様へ出兵を乞うた次第にございます』
     
     イヴ・エルフィンストーン(中学生魔法使い・dn0012)は20秒ほど固まっていた。
    「……は、はい、イヴたぶん分かりました。日本の有名な温泉地の伊豆熱川まで行って、山から川を下って海に遊びに来る豚さんをやっつけるお仕事のご依頼です!」
    「ああ。四の五の言ってられん、引き受けるぞ」
    「街の皆さんを守るためですものね」
    「うむ。敵の数は10体程度、バスターライフルの技を使う。普通のはぐれ眷属だ。伊豆熱川の海で海水浴を楽しむ観光客達の元へ堂々とやってくるが……戦闘前に人払いを終えてしまえば、問題はない」
    「はい。ところで……これはもしかして、お仕事の終わりに温泉に行ってもいいよっていう、あれですか?」
    「こら、話は最後まできちんと聞くのだ!」

     せっかく伊豆熱川に行くのだ、そのまま海で遊ばない手は無い。
     伊豆熱川の海岸沿いには、立ち寄り温泉施設もあるという。
     存分に遊んだ後、潮風を浴び、海を見ながら入る露天風呂は最高だろう。
     
    「……それだけですか?」
    「但し、くれぐれも豚を完璧に討ってからだ。何かご不満か?」
    「いえ、いえいえいえっ、全然! はい、それでは皆さん、注意を守って頑張りにいきましょう! えい、えい、おー!」


    参加者
    花月・鏡(蒼黒の猟犬・d00323)
    風嶺・龍夜(闇守の影・d00517)
    糸崎・結留(巫女部部長・d02363)
    櫛名田・まゆみ(八咬・d03362)
    蜂・敬厳(エンジェルフレア・d03965)
    ソフィリア・カーディフ(春風駘蕩・d06295)
    月原・煌介(月梟の夜・d07908)
    朝川・穂純(瑞穂詠・d17898)

    ■リプレイ

    ●1
    「サ、サメだ! サメが出たーっ!」
    「捕獲しますので、一時避難をお願いします!」
     波を切り泳ぐサメの背びれに、広がる叫び声。ビーチに訪れていた観光客達は逃げ惑い、楽しい夏休みの風景が一変する。だが、本来の悲劇よりずっといい。
     思い通りには見せられなかったが、場を扇動した風嶺・龍夜(闇守の影・d00517)と月原・煌介(月梟の夜・d07908)は現地に詳しい地元の若者あたりに思われた事だろう。サポートの協力もあり、灼滅者たちは無事人払いを終える。
    「お疲れさまでしたっ!」
     殺界形成を発動後、蜂・敬厳(エンジェルフレア・d03965)がサメに深々礼をし、声をかける。ざぶんと海から顔を出したのは、糸崎・結留(巫女部部長・d02363)だ。
    「『泳ぐのジョーズ』作戦……大成功ですっ!」
     背びれそっくりなビート板片手に、結留はVサインを作る。より迅速に避難を終えるため、彼女が講じた策だった。
     作戦完了。さて、後は岩場に隠れて敵を待つだけだ。
    「海に来るのってこれが初めてなの。大きくてすごいね!」
     朝川・穂純(瑞穂詠・d17898)は大きな瞳をきらきらと輝かせ、視界いっぱいに広がる水平線を眺めた。
     戦いの前に少しだけ、サンダルを履いた足を波に遊ばせてみる。水に巻かれた砂が足を撫でる感触が新鮮だ。
    「しかしすげえ翻訳だな。鷹神は一体、いつの人間なんだ?」
    「風嶺くん、お二人はいつの方ですか?」
    「いや、現代人なのだが」
     櫛名田・まゆみ(八咬・d03362)とイヴ・エルフィンストーン(中学生魔法使い・dn0012)が暇潰しに例の時代錯誤なプリントを眺めている。喋り方が似ていた位で振られた龍夜も気の毒だ。
    「イヴはもう水着か。なかなか気が早いな」
    「へ、変でしたでしょうか?」
     その時、花月・鏡(蒼黒の猟犬・d00323)があ、と声をあげた。
     海に繋がる河口の方から豚がきていた。何か、波打ち際でばちゃばちゃしている。
    「……豚さん達も、海で涼みたくて川を下ってきたのでしょうか?」
     ソフィリア・カーディフ(春風駘蕩・d06295)が、防音の結界を張りながらこくりと首を傾げる。ほんわりした彼女らしい和む発想だ。
     いや、まさか。
     だが全くこちらに気づかない豚。
     そうっぽい。
    「誰が考えたんすかね。豚とライフルのコラボって……変……」
    「昔、亀とバズーカのコラボがあったからその影響ではないかな」
     本日も天然の多い戦場です。既知の戦友、煌介と龍夜は妙に平和な会話をしていた。
     深まる龍夜の年齢詐称疑惑。水に入れて大丈夫か、銃。煌介君がダークネスの偉い人的な何かに消されませんように。
    「……攻撃しても、いい、かな」
     鏡が若干言い辛そうに呟く。皆が無言で頷いたので、鏡は殲術道具を開放しながら走った。
     冬を思わせる貌には不似合いな温厚さが、稀薄になる。鏡の濃縮された鋭い殺気にあてられ、比較的前方にいた5匹の豚がひっくり返った。
     逃げ出そうとした豚の鼻先を黒の刃がかすめた。どこから放たれたのか、死角に潜む影の姿を見る事は叶わない。
    「悪夢よ、来たれ」
     足を止めた豚達は、龍夜の放つ殺気の闇に再び飲み込まれる。正面に立ち塞がるのはまゆみと結留だ。
    「おっと、逃がさねえよ? 一匹の取りこぼしもなしだ。いっちまえ糸崎!」
    「はぁーっ!」
     その頭めがけ、結留が杖を構える。スイカ割りの予行練習とばかりの勢いで垂直に打ち下ろされた杖は、見事に豚の頭に命中。
     どっかーん!
     クリティカルしたフォースブレイクが凄まじい威力を弾き出し、豚は割れたスイカの如くアレした(真綿のようにふんわりした表現でお送りしています)。震え、或いは怒る豚たちを一行が取り囲む。
     敵の背後には雄大な相模灘が広がっている。一応、彼方に伊豆大島が見えるが、つまらぬ豚があそこまで泳いで逃げるはずもない。たぶん沈むし。
     観念し、銃にエネルギーを溜め始める豚ら。次の動きを見越し、ソフィリアとまゆみがタイミングを合わせて前に出る。
    「皆さんは、私達がお護りします」
     ソフィリアの優しげな目元がきりと締まり、凛とした声と共にエネルギー障壁が広がった。
     エネルギーのぶつかり合いで、激しい電撃音が響く。ビームの幾つかは二人の生んだ障壁に負け、届いたのは4本。守備をすり抜けた1本が後方の穂純を狙うも、その前に白い影が飛び出した。
     穂純の霊犬だ。まだ名はないが、主人を守れて誇らしげにしている。
    「有難う。私もみんなのお役に立てる様に頑張るよ!」
     小さな掌をぐっと合わせ、呼び寄せるは清らな神の風。磯の香りがさっと退き、野山のように優しく澄んだ空気が前衛を包んだ。風は傷を癒し、心にのしかかる重圧をほぐしていく。
     穂純の招いた緑の風に、敬厳は生まれ育った家を想起した。畏敬する祖父の威厳をその身に宿し、薔薇色のギターを強く抱く。
    「イヴ殿、回復はお任せするぞい。手が足りぬようならわしも手伝おう」
    「頼もしいです。はいっ、イヴも頑張るでござる!」
     敬厳は次の標的目がけて走った。薔薇色が紅のオーラに染まっていく。ギターは楽器? いいえ、鈍器です――!
     重い野太刀を振り下ろす武者の如くに、敬厳は豪快かつ精密な一撃を豚の背に見舞った。弦の一本に至るまで頑丈に作られたギターは、いくら振り回そうとびくともしない。
     たまらずどうと倒れた豚に、捕食者の驚異が襲いかかる。
     梟の羽を模した煌介の槍は蒼の旋風を纏いながら回転し、三つ又の鉤爪が二匹目の豚を貫いた。青黒い煙を散らしながら、異形の猟犬が横を駆ける。豚を貪り、食い荒らすその影の持ち主は鏡だ。
     実力差の大きいはぐれ眷属を、灼滅者たちは集中攻撃で次々と倒していく。1匹、また1匹と敵は倒れ、前線にいた5匹が姿を消した。
     後方に居た豚が突進してくる。追突から至近距離から放たれた円盤状の光線を、まゆみとソフィリアは再度障壁で受け止めた。
     まゆみに殴られて弾き返された豚へ、龍夜の鋼糸がどこからか雨のように降り注ぐ。触れたら斬るとばかりに強烈なプレッシャーを放つ糸の結界を前に、豚達は立ちすくんだ。そこをソフィリアの冷気弾が打ちすえ、更に肝を冷やさせる。
     戦況は少々回復過多な程に優位であったので、穂純も攻撃に転じた。霊犬と視線を交し、走り出す。後から続く霊犬は穂純の頭上を跳び越え、敵に斬魔刀を見舞った。怯んだ敵を鬼の手が叩き潰し、残りは4匹。
    「よし、次ですよ! 悪霊退散ーっ!」
     結留は片手で豚のライフルを掴むと、ぐるぐる勢いよくぶん回して岩場めがけて放り投げた。岩に頭をぶつけ、目を回している豚へ敬厳の光輪が鋭く撃ち出される。
     柊の葉のように美しく鋭利な翡翠の光輪が、四方八方から急所を撃ち抜く。1匹、また1匹。遂に最後の1匹となった豚へ、煌介が駆けだした。波打つ真珠色のナイフは、銀粉撒く炎を纏い美しく輝いている。あがこうとする身体を、鏡の影の猟犬が押さえた。
    「止めを」
    「了解。……行け、白砂月炎」
     炎の刃がざんと振るわれ、清廉な炎は静かに、激しく、邪な獣を跡形もなく燃やしていく。
     残ったのは一筋の煙。かくして、お騒がせイフリートの依頼は一件落着した。
     そして。

    ●2
    「海ですよー!」
     嗚呼、ぴょんぴょん跳ねる女子たちの水着姿が眩しい。
     安全確認は取れたと通達したので、海水浴客もじきに戻るだろう。灼滅者たちは一時貸切状態となったビーチを満喫していた。
    「海、海。やっぱり夏は、海が良いな。あ、泳ぐ前には準備運動、ちゃんとやろうな?」
    「はーい……」
     この中でもまゆみと並んで年長者な鏡。学校指定の水着を着てはいるがすっかり先生状態だ。皆で準備体操をし、いざ海へ!
     と、堂々浮き輪装備なイヴを龍夜が引き留めた。彼の水着はやはり、拘りの黒。
    「そういえばイヴは泳げるのか?」
    「もちろん泳げません!」
    「うむ、そんな気がした。俺でよければ喜んで教えさせて貰うが」
     なら一緒にどうかと、後輩の羽衣を連れた鏡が声をかける。そこに煌介も現れた。
    「鏡、龍夜……俺にも……泳ぎ、教えて」
     少し浮かない顔の理由もそのせいかと思い、皆は微笑んで承諾する。
    「私も手伝いますよ。折角の海ですもの、楽しまなきゃ損です」
     白地に星柄のビキニ、細身だがスタイルの良い体型。のんびりした雰囲気のソフィリアだが、実は体を動かすのも好きだ。うきうきとコーチに回る。
     まずはお腹を下から支えて、浮く練習。それに慣れたら次はバタ足の特訓だ。
    「あのねあのねっ。手、引っ張って! ばたばたするから!」
     学園祭で一緒にいれなかった分、今日は存分に甘えたい――妹のように素直で可愛い羽衣が愛しくて、手を繋げば鏡も思わず笑顔になる。煌介もソフィリアの手を借りて真似るが、上手く息継ぎが出来ず水を飲んでしまう。
     息を止めるのが、怖い。けれど頑張れ、頑張れという皆の声援が、煌介の心から少しだけ闇を遠ざけた。蒼い海には今、光さす空と皆の笑顔が写っている。もう少し頑張る勇気を貰える。
     穂純は浮き輪で海に浮かびながら、天を仰いだ。橙色の水着のスカートが、ふわりと水に揺れる。こんなに沢山の水に囲まれたのは初めてだ。霊犬も夢中で犬かきを楽しんでいる。
     ――海も空も青くて広くて、すごく綺麗だよ。
     どきどきして、わくわくして、夏の海は大きく、暖かい。 
     バタ足しても進まないイヴに、龍夜は根気強く付き合っている。泳ぐのは楽しいですねと笑う彼女に、彼も小さく笑みを返すのだった。

     浜辺にもだいぶ人が戻りつつある。観光客の間では魔砲少女真剣狩る☆土星なるものの主題歌がなぜかプチブームになっていた。気になるが、近日中にバベられるだろう。
     シトラス色のリボンがついたシャーベットの水着に、白いひらひらの帽子。とっておきのお洒落で砂浜を散歩していた少女は、その光景に遭遇した。
    「砂山でも作るか? 小せえのはそういうの好きだろ?」
    「男の子じゃないですし、そこまで子供でもないのですよっ!」
     まゆみと結留は砂浜にいた。本気ではないだろうが、結留にぷんすこ怒られまゆみは肩を落とす。育ちに親近感を覚え海に誘ったはいいが、相変わらず年下の扱いは苦手なようだ。
     海に逃げてしまった結留を見送ると、まゆみは独り砂を掘る。
     ざくっ。
     ざくっ。
     サーフパンツにシャツを羽織った広い背中が妙に寂しい。羊のような巻き毛の少女が彼に忍び寄る。
    「砂浜で遊んでる人を埋めておっぱいつくってあげましょう」
     さっとスコップを構える両者。二人が謎の睨みあいをしていると、敬厳がスイカを運んできた。女性に重い物を持たせるわけにはいかない、という彼の小さな心遣いだ。
    「お待たせしましたっ。スイカ割りをしましょう!」
     やはり、海ときたらスイカを割らねば。皆も続々と陸に上がり出す。
    「剣道三段の腕前を見せてやろうか……とうっ!」
     まゆみ兄さんそれフラグ。無論、全力で空振った。
    「えい!」
     二番手ソフィリアも同じく。三番の穂純はどきどきしながら目隠しし、くるくる回る。棒が打ち下ろされる直前、まゆみがスイカを丁度いい場所にずらした。スイカ割りをしたかったらしい彼女にいい思い出を、という憎い演出だ――快音が響く。
    「割れたっ!」
     穂純はとても嬉しそうに笑う。割れたスイカを切り分けている間に、煌介が熱々の焼きそばを買ってきた。
    「泳ぐの、少しだけ……怖く無くなったっす。皆のお陰すよ……これ、お礼に」
     声音や表情に変化は無いが、その瞳に灯る光は優しい。
    「水分補給も大事ですよ! ほら、何も無しの手ぶらは申し訳ないですから。差し入れ持ってきちゃいました」
     中性的な眼鏡の少女が、クーラーボックスから出した飲み物を配る。皆でわいわいご飯を食べながら、次は何をしようか話すのも楽しい。イヴと穂純の食べるかき氷は、真っ青な夏の楽園色だ。
    「イヴさん、お城作らない? 城の下にトンネルを掘るの!」
    「秘密の地下道……ですね!」
    「食後の運動ににビーチバレーはどうですか?」
     そう言って、ボールを膨らますソフィリアは既にやる気だ。本当に意外とアクティブな彼女である。
    「かしこまりましたっ。日が暮れるまでお付き合いしましょう!」
     敬厳が満面の笑顔で答え、皆はまた海へ走り出した。

    ●3
     橙色の夕日が相模灘一帯を照らしている。その光景を眺めながら、遊び疲れた後は温泉で一休み。龍夜のレモネードの冷たさと甘酸っぱさが、暖まった身体に心地よい。救助で働いた銀髪の青年は、営業スマイルで疲れた顔にたっぷりと湯をかける。
    「息抜き大事だと思うぜー……全く」
    「ふぅ。火照った体を冷ますのに最適です~……」
     思い切り体を動かしたソフィリアは、肩まで温泉につかってとろけそうな声を出す。少し涼しげな潮風が頬を撫で、風情たっぷりだ。龍夜も思わず鼻歌を口遊み、深く息を吐いた。絶景スポットと日没の時間を教えてくれたのは、クラスでおなじみの大和撫子だ。流石である。
    「うむ……何かプレッシャーを感じるのは気のせいだな」
     さて皆への土産は何にするかと、龍夜とイヴは考えを巡らせる。
    「ふあー、気持ち良いですねえ、イヴさん」
    「はい、イヴも温泉大好きです!」
     それは良かったですと敬厳は頷く。温泉が好きなのも、戦闘中の喋り方も祖父の影響なのだと、敬厳は嬉しそうに話した。
    「素敵なおじい様なのですね……」
    「森も、大好きですが……海、大好きになりました。温泉も、大好きに……なり……そう」
    「アリスさん!?」
     のぼせかけている小さな少女に、イヴは慌ててレモネードを飲ませる。一ついいかしらとセイナもレモネードを取った。
    「セイナおねーさん……」
     そこへすすすと逃げてくる結留。向かいにはまゆみがいた。単に男性と一緒のお風呂が恥ずかしいからなのだが、自分の顔が怖いからではとまゆみはまた悩んでいた。
     特別に用意したいちご牛乳を盆に乗せて流す。釣られた結留はそっと様子を窺い、前に出た。いちご牛乳を飲む彼女の髪へ、まゆみは砂浜で拾った綺麗な貝殻を添える。先程、浜辺でこれを探していたのだ。
    「後で髪飾りにしてやっから、な」
     不器用な好意に結留が目を丸くする。微笑ましい皆の様子を眺め、煌介はほうと息を吐く。心も体も、とても暖かい。彼が気づいていたかは判らないが――湯煙に揺れる横顔は普段とほんの少し、違った。
     今、夕日が沈もうとしている。鏡は膝の上におさまった羽衣の頭をそっと撫でながら、赤く染まる水平線を二人で見つめ、同じ波の音を聴く。夏の一日と、人の暖かさを記憶に刻むように、大事に、大事に撫でた。
    「ういねぇ、海の匂い大好きよ」
    「ん……おれも」
     私達からも、イフリートさんにお手紙出せたらいいのにな。穂純が笑う。
     沢山の暖かさが詰まった夏の伊豆は、とても素敵な場所だから。
     また なにかあったら よんでね――って。

    作者:日暮ひかり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年8月6日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 7
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