学園祭~アフターフェスティライバー

    作者:黒柴好人

     完。
    「我が友よ、何かが終わってしまったようだぞ」
    「いや、学園祭だろ?」
    「は? 今、何が終わったと」
    「だから俺たちの母校、武蔵坂学園の学園祭がたった今終わって」
    「認めん! 断じて認めん!!」
    「聞き分けろ!!」
    「ぐッ……! 今の頬を抉り取らんばかりの拳、効いたぞ……友よ」
    「え、俺殴ってないんだけど」
    「『力』を使ったのだな、皆まで言うな」
    「殲術道具もサイキックも使ってないんだけど」
    「フ、そういう事にしておくか」
    「そう。で、学園祭終わったけど、この後どうす」
    「幻聴か!? 随分と味な真似をする」
    「聞けよ」
    「しからば聞こう」
    「学園祭は終わったがまだこの後すぐ『打ち上げ』が残っているそうだ」
    「ヒーキャンフライ、か」
    「誰も飛ばねぇよ」
    「なんと、あっちの打ち上げだったか」
    「前々から知っていたが面倒くせぇな、お前」
    「よせよ、人前だ……」
    「で、グラウンドの一角に特設ステージってのがあったのは覚えているだろ?」
    「無視とは。うむ、しかと心に刻まれている」
    「そこで騒ぎ足りない奴らが集まって一つドカンと盛り上がろうってイベントだな」
    「それは吉報!」
    「具体的にはライブとか一芸を披露したりとか、まあその場のテンションって奴に身を委ねればいいんじゃないか?」
    「心得た。ならば急ごう。この学園祭という名の光を消さぬ為に!」
    「お前学園祭に命懸けすぎじゃね?」
    「だって、青春は一度っきりなんだからっ♪」
    「脈絡なくキャラ変えてんじゃねぇよ」
     打ち上げ編・はじまり。


    ■リプレイ

    ●ライブスタート!
    「ついに始まりました『アフフェス』! 司会の歩っすー!」
     歩の軽妙なトークと共にセットリスト無用のアフフェスはついに開幕を迎えた!
    「そういう訳で、最初はこの2人!」
     ステージに明かりが灯ると、そこには水着姿の成美と奏音が!
     ボリューミーな少女たちに会場は一気にヒートアップ。
    「酔ってはハイに、醒めては灰に。そんな夜にするわよ!」
    「ff(フェアリッシモ)がお手伝いするよ☆」
    「YEA!」
     ツインヴォーカルユニット『ff』の華やかで可愛らしく、そしてセクシーでアツく力強い妖精の歌声がステージ狭しと響き渡る。
    「ねえ美波同輩! 奏音って呼んでもいい?!」
     間奏の間に成美は歯を見せながら相棒に顔を向けた。
     その問いに奏音は笑顔で答えるのだった。
     次いでの登場はやはり全員水着の『Happy Summer Time』。
    「曲はHappy Summer Time!!」
     ウサ耳スク水のヘキサがギターを伴い高らかに宣言する。
    「わん、つー、すりー、りゃーっ!」
     ドラムの鴎が等間隔でスティックを打ち鳴らし、
    「い、いきます」
     瞬間、ドラムの伴奏が炸裂したのを皮切りに美乃里のキーボードが走り出し、
    『My name is Mr Summer Time 眩しい日差し、うつむくキミはNonsense――』
     スタンドマイクの前に立つ瑠璃はベースを弾き、歌声を響かせる。
    『失敗? ついてない? テストで0点? そんなの気にしないで遊びにいこう!』
     ハイテンポでポジティブな曲調に全員が汗を迸らせ、最初はぎこちなさもあった美乃里も次第に笑顔になっていた。
     跳ね跳ぶオーディエンスに応えるように駆け回るヘキサに鴎もまたドラムの域を超えんばかりのアクロバティックな演奏で対抗。
    『――My name is Mr Summer Time 『ありがとう』なんていらないさ My name is Mr Summer Time 来年はどこへ誘おうかな?』
     見ている方も気持ちの良い汗を光らせ、フィニッシュ。
    「でぇあっはっはっはっ! 野郎共、ぞんぶんにハジケたか!」
    「オレたちは略してHST! しっかり覚えて来世まで持っていきやがれェ!!」

    「聞いてください! 匣バンドで……『スレイヤーズ・Ⅴ』」
     楽器と呼ぶには雑多過ぎる色々な物――フリマで余った道具類らしい――を持った恭太朗たちがステージに上がる。
     三千歳が手に持つ時計が時を刻む音がただ響き、そして。
    『迫り来るダークネス、激しい赤い雨出来立てのソーセージ、奴らが狙ってる』
    『守り抜くぜ、friendship 勝ち取るのさ、Get! glory!』
     三千歳に続いてタツノオトシゴの干物にACアダプターをまるでギロのように擦り付け、独特の妙な音を出しながら歌う恭太朗。
    『荒れる北の大地、守り抜くためくじけそうな時胸の奥で聞こえる友の声耳を傾けろ、光さす方へ』
     真樹はというとフライパンの上でポップコーンを弾かせ、文字通りポップな音を立てつつ……タンブラーでコーラを飲んだりしている。
    『勇気にライドし一直線へ取り戻せドラゴンハート』
     サビに突入し、燃え上がるように歌い抜くのは賢汰。
     ここぞとばかりに金ダライを打ち込み、ヒートな炸裂音で客を痺れさせるのだ。
    『信じろ友を、自分の力を心のありかを、あふれる思いを』
     ここが問題である。
     いや、紗生自体はとても可憐で歌詞をよく理解して歌いあげているのだが……如何せん横においてある大砲が気になって仕方がない。
     まさか飾りだろうと思っていた瞬間、紗生は大砲の火を吹かせた。
     轟音と共に飛び出したのは……燃えカス寸前の下着や靴下。
    「「「スレイヤーズ・テン!」」」
     ツッコむ暇もなく、全員がポーズを繰り出しながら最後をキメるのだった。
    「オレたちの曲、青春の1ページに刻んでくれ! オレも刻む!」
     賢汰のパフォーマンスに上がる歓声。
    「そう、俺たちの学園祭は終わらな」
    「キョタローくん、後で触らせてあげるから!」
    「え、ちょ……!」
     客席に強制突貫させられた恭太朗の上がる悲鳴。
     何にせよ、深い思い出になった事には違いない。

    「お前ら、ノってるかーー!! 次の曲も、まだまだいくぞーーー!!!」
     デタッチャブル方式というギターとしては珍しい製法で作られた『相棒』を引っさげ、稲葉はピックを持つ手を掲げる。
     大きな歓声が稲葉たちに浴びせられ、負けじと儚も「いえーい……っ!」と小さく手を挙げる。
     歓声を煽るようにドラムを1フレーズ叩くのは直人。
    「直前まで稲葉には意外そうな顔をされていたけど……やっぱりドラムもいいな」
     直人といえばピアノという印象が彼ら『Rabbit hutch』の共通認識ではあったが、
    「今回は僕がキーボード担当ですからね」
     彩華もキーボードを速弾きして見せ、その容姿も相まって各方面から黄色い声が。
    「みんな張り切ってるなー。オレも裏方の仕事……頑張らないとー」
     袖で機材を操作し、照明係に徹する織音。その傍らには彼の霊犬である『いぬ』が興味津々といった様子でステージを眺めている。
     そのステージでは蒼慰が胸の前で拳を握り、小さく息を吐いていた。そして。
    「……さあ、皆いくわよ!」
    「わ、蒼慰ちゃん、凄い。儚も……!」
     エレキギターの弦を弾き、顔を上げた蒼慰。
     稲葉と蒼慰のハイテンションなツインギターに儚のヴァイオリンがしっかりついていく。
     と、
    「僕も歌っちゃうよ~♪」
     彩華がマイクに手を伸ばし――。
    『×××~♪』
    「「「!?」」」
     とてつもない轟音、いやこれは歌声か!?
     もはや凶器レベルの常軌を逸した歌が轟いている!
     稲葉と直人が急いで彩華の口を塞いだ事により事態は沈静した。
    「今のは凄かったなー。えっと、こっちのボタンはなんだっけ?」
     その間、織音は照明の仕事を少しミスし、だがそれが逆に明滅や回転などがうまい具合に組み合わさり音痴事件はちょっと派手な演出と思われたようだ。
    「気を取り直していくわよ」
    「オッケー、だよ☆」
     蒼慰のギター回し、そしてさっきのドタバタを反映したような少し崩した音で楽しませる儚。
    「よし、それなら――いぬ!」
     持ち場に戻った稲葉は舞台袖に視線を送る。
     すると、待っていたとばかりにいぬが走り寄ってきたではないか!
    「あれ、いぬ飛び出ちゃった……」
    「いぬ、一緒に踊ろうぜ!」
     音に合わせて飛び跳ね、しゃがみ、しっぽを振るいぬを中心にクラブの仲間たち、それからオーディエンスは楽しい時間を過ごしていった。

    ●エターナルフェスティライバー
    「なあ、ひとつ聞いて良いか?」
    「どうした」
     スポットライトに照らされる葉が同じく光の中に佇む徹太に問う。
    「……これなんの罰ゲーム?」
    「一体何の話だ」
    「後夜祭っていったら打ち上げだろなんでこんなにハードルぶち上げてくるのこの人普通に楽しめないの暑さで脳みそやられちゃったの?」
     舞台上にいる4人の人部。
     徹太が持つ模造紙に『暴露大会』と殴り書かれている。所謂トークライブか。
    「……いかれた世界事情に足突っ込んで早く出たいだけだった高校で毎日、笑ってんのはおめーらのせいだ」
    「ケロちゃん……。しゃあねぇ付き合ってやンよ」
     丸く収まり、自分の赤裸々なヒミツを不特定多数に晒しちゃおうっていうウィットに富んだ企画が始まる。
    「まず俺から話すか。俺には来月4歳になる弟がいる、親父違いの」
     その弟は徹太が引き取ったが、しかしその後幼馴染が預かる事となり暫く会っていないそうだ。
    「そいつがな」
    「どうしたんや……?」
    「もーーくぁっわいくってなあーーーー。不自由させないって決めてる」
     ノロケ話だった。
    「そないに待受に弟の画像を設定した携帯押し付けなくてもええやろ! まあ次いくわ」
     眼球に焼き付けろとばかりにぐいぐいしてくる徹太をかわし、東は暴露を開始する。
    「タイプは年上の髪綺麗に長い人やな」
    「えーそれだけー?」
     眼鏡を拭きつつ周がブーイングを入れる。
    「1つだけちゃうん!? けど、他にもあるでー、色々。中学上がる直前まで姉貴と風呂入らされてましたー、とか」
     けしからん。羨まけしからん。俺と代われ。俺が弟だ!
     そんな声が聞こえてくる。
    「俺は今でも姉ちゃん達と一緒に寝たり風呂に入ってる」
    「「「!?」」」
     そう暴露した葉は高2。
     一部の諸兄にとっては夢のシチュ。暴動が起きかねない!
     そんな空気の中、周がのらりと話を始める。
    「ういーっす人部の化野周でーす。んっとねー、俺、見ての通りヘアピン大好きじゃないですか」
     確かに周のピンク髪には多数のヘアピンが刺さっている。
    「大体女の子向けっぽい店で買ってんですけど、いっつも店員さんにプレゼント包装お願いして、彼女または妹へのプレゼントですって顔して買ってます!」
    「その頭で何を今更」
     じっと一点を見つめる徹太。
    「……あっ、彼女も妹もいません!」
    「あっ」
     いるのは兄だけと補足する周の言葉に誰もが察し、追求を止めた。

    「後夜祭的な雰囲気……どう演出しますかねー?」
     アフフェスも中盤を差し掛かる頃合い。DJとして参加した眠兎がセレクトした曲はどこか哀愁漂うユーロビート。
     その曲は眠兎の名残惜しさをそのまま表現しているようだ。
    (「でも……もうちょっとだけ、続くのですよー」)
     昨日今日の楽しかった思い出は……。
    「もうちょっとじゃなくて、まだまだ続くの!」
    「村本さん……!」
     寛子が切り繋いだのはハッピーハードコア。
     ターンテーブルを回し、回して、回しまくる!
     リズムが跳ね回り、賑やかで軽快な音が広がっていく。
     学園祭は終わってしまった。しかし楽しい日々はこれからもまだまだ続いていくのだ!
    「あ、りんねちゃん! 寛子たちいまDJしてるの! 一緒に盛り上がらない?」
    「おっ、いいねー。まぜてまぜて!」
     そして彼女たちはしばし音に身を委ねるのだった。

     アニソンを1曲歌い終わったエステルと雛。
     フリフリなミニスカートに視線釘付け必至のニーソ、あちこちに装飾が施されたザ・アイドルな服装の2人に観衆めろめろ。
    「むー、少しは気が晴れたのです~」
    「でもまだまだ終われないわよね、エステル?」
     続けてもう1曲……といきたいところに待ったが掛かる。
    「ちょっと待って、エステルに周防」
    「むい、なお?」
     これまたフリフリなメイド服にウサ耳を頭で揺らす直司が突如としてステージに現れたのだ。
    「ボクだけじゃないよ」
    「沖田は来ないと聞いていたけど、まさかのサプライズ?」
     もう1人の姿に雛が目を丸くした。
    「え? どうして孤影までステージに……」
    「ヒナ、それは」
    「せっかくだから4人で歌合戦しちゃうんだよ♪」
    「4人……って、孤影も歌うの!?」
    「そういう流れになったからには私も黙ってはいられなくてな」
     孤影を驚かせようとアイドル風の格好で歌っていた雛だったが、これには逆に驚かされてしまった。
     そんなわけで開催される歌合戦。
     雛・エステル組は宴の夜に踊り弾けるのに丁度良さそうなアニソンで「ぱーやっぱー」と客と一緒に盛り上がり、直司は剣術により鍛えられた動きでキレの良いダンスと天使のような歌声を披露し全てを虜に――ところで直司は男だがもはやそんな事は関係ないだろう――そして孤影は。
    「アニソンだがなめるなよ」
     そう前置きをして紡ぐのは、散っていった英霊への鎮魂歌をも思わせる美しい旋律。
     もはや勝負など関係なく、惜しみない称賛が全員に贈られた。

     いとこ同士のエーミルとアイリスが歌うのはフィンランドはサボ地方の伝統的なポルカを合唱。
     日本ではかつて個人作成の動画で、今はかの電子の歌姫により飛躍的に知名度が向上したこの曲だが、その内容は民謡ながらも過激だったりする。
     懸命に歌うアイリスを、
    (「誰の為に歌うのか、なんて聞いてやる義理はないよな」)
     そう思いながらもどこか感慨深げに眺めるエーミルだった。
     次に舞台に上がったのは、
    「こういう場には向かないかもしれませんけど……」
     身を縮ませるリュシールは、しかし堂々とオペラを歌う。
    「リュシールちゃん、凄かったねー!」
    「あ、りんねさん!」
     演じ終えた彼女の前にりんねが拍手をしながら現れた。
    「今のオペラ、日本語じゃないよね? えーっと、英語?」
    「あ、いえ仏語です。昔を思い出して……歌いました」
    「素敵だったよ!」
     と、歓談する2人の下に由布がやって来た。
    「りんねさん、学園祭はいかがでしたか?」
    「由布くん! うん、とっても楽しかったよっ」
    「それは何よりです」
     ところで、とリュシールが小さく身を乗り出す。
    「あの……りんねさん。よければ1曲共演して貰えませんか?」
    「もちろんいいよ!」
    「もし宜しければ僕もご一緒してよろしいですか」
     由布は笛を取り出して見せた。
    「由布山の神は芸術に秀でており、弓の名手だった、と言う伝承もあります」
    「つまり、弦楽器がうまい?」
     思い切り的を外したりんねに苦笑しながら、3人はステージへと歩みを進めるのだった。

    「匿名希望、飛び入り参加させて貰うっすよ! ミュージック……お願いするっす♪」
     フードを目深に被った少女――あやとはそれが自分とは悟られないようにしつつも掲げた手で指パッチン。
    「盛り上がって逝きましょー」
    「任せろ!」
    「クールダウンも時には必要かと……」
    「うんっ」
     エール、周、流希、そしてりんねがそれぞれの楽器を手に首肯する。
     この場で結成された即席バンドは穏やかなリズムを奏で出した。
     しっとりしんみりとした印象のそれは、まさに宴の終わりを意味して……。
    「と思ったか! 残念だったな!」
     いや、周のフラメンコギターを見よ! かき鳴らすその手はみるみる速度を上げている。
    「いやはや、本気を出す時が来るとは……」
     そして流希を見よ! ウクレレは最早穏やかな音など出していない。
    「エールさん、やっちゃって!」
     りんねの言葉に頷いたエールのドラムは激しいビートを刻み、そこには一点の憂いもない!
    「あやとさん、暴れちゃっていいよっ」
    「それじゃ遠慮無く踊ろうかにゃっ♪」
     澄んだ歌声を披露しながらインラインスケートの機動力でステージ狭しと駆け巡り、時に大鎌を軸にしてくるくると回って見せたりもしている。
    「ここからが本番だ! 燃え盛っていくぜぇ!」
    「アイドルとは思えない熱血っぷり、さすがだね周さんっ」
     いつの間にかアイドル服にチェンジしていた周はもはや無敵。無限の炎を纏ったかのようなハジケっぷりに負けないようにりんねは激しく体を動かす。
    「今夜復活シャイニングアルク!」
     なんと司会をしていた歩が乱入!
     歩は徐に指を客席へと突き付けると。
    「演りたりない奴は上がってこい! 俺達の祭はこれからもクライマックスだァ!」
     ステージは瞬く間に溢れかえり、祭の炎はいつまでも消える事はなかった。

    作者:黒柴好人 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年7月30日
    難度:簡単
    参加:36人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 10
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