学校が合コンに支配される日

    作者:旅望かなた

     最初は、放課後に開かれる男女混合のちょっとしたお茶会だった。
     共学の進学校。ちょっとの誘惑くらいで、授業をさぼる者などいないだろうから。
     けれどやがて、出会いの舞台は夜まで残って宴会のように。あるいは授業開始のチャイムと同時に。
     その頃には堂々とお茶会は『合コン』と呼ばれるようになった。
     信頼厚い生徒会長が……あらら、合コンの魔力に囚われた。
     凄く厳しい風紀委員長が……あらら、委員会にも行かないで、頬を染めて今日も合コンへ。
     生徒指導の先生さえも……あらら、女の子と出会えると聞いて、思わずふらり。
     カップルでの参加もご自由。入った時と出てきた時でパートナーが違ってもいいじゃない。
     ――ついに『合コン部』として部活動としての登録を求める書類に、愛妻家の校長先生は頭を抱える。
     職員会議での警告も、全校朝会での講話も、そろそろ意味をなさなくなった。
    「これは、何とか注意しないと……」
     ついに校長先生は合コン会場へと足を運ぶ。――それが全て一人の転校生であり、ヴァンパイアである少女の仕業で、会場へと踏み込んだが最後、二度と生きて出て来られないとも知らずに。
     
    「とゆーわけでこの学校での合コン騒ぎは、ヴァンパイアの学園・朱雀門高校からの転校生が引き起こしてるんだずぇ!」
     嵯峨・伊智子(高校生エクスブレイン・dn0063)が教卓を叩き、「しかもヴァンパイアはちょー強いから、ここで完全に敵になっちゃうのはちょーヤバイんだよね……」と眉をひそめて。
    「とはいえ、このまま学校がばんばんヴァンパイアに支配されちゃうの放っておけないし! 転校先の学校でトラブル起きたってくらいなら、戦争にもなんないだろうし……」
     なんせ向こうは灼滅者をなめてるし。
    「ちゅーわけで、今回の依頼の目的は、ヴァンパイアの学園支配を防ぐことです! できれば戦わないで追い出せたら最高ってか! できるだけ灼滅はナシって感じでお願いしまっす!」
     口調は軽いが伊智子の表情は硬い。要するに難題である。
    「学園を支配しようとしてるヴァンパイアは『紅谷・木葉子』って名乗ってて、最初は男女混合のお茶会とか放課後に開いて合コンへの抵抗をなくして、徐々に夜こっそり学校に残ってとか、授業中とか、そういう学校の風紀を乱す様なタイミングで合コンを開いて、不純異性交遊と授業サボリをそそのかしてるんだよね」
     既に一部の教員すらも合コンに参加し、堂々と『合コン部』が部活動として申請されているような状態である。
     彼女のバベルの鎖に感知されず学校に潜入できるタイミングは、木葉子の行為を苦々しく思っている校長が彼女を注意する為に合コンが行われている教室に向かい、そして木葉子に殺される日の朝である。なお、木葉子の凶行は午後の最初の授業時間に行われる。
     木葉子は自分の作戦を邪魔する者がいると気付けば襲ってくるので、その場合戦闘は避けられないだろう。
     しかし、『灼滅者達を倒しても作戦は継続できない』ことを納得させるか、もしくは『このまま戦えば自分が倒されるだろう』と感じさせると、木葉子は撤退を選ぶ。
     後者の具体的手段は、戦闘。既に木葉子は朝からずっと場所を移動しながら合コンを開いており、その場所は生徒達に軽く探りを入れれば知ることが出来るだろう。ただし木葉子はかなりの強敵だ。
     前者の具体的手段は、不明。灼滅者達に、全ては任される。
    「えっと、木葉子はダンピールとガンナイフのものと同じサイキックを、かなりの高精度で使ってきます! あとは木葉子にすっごい懐いてて、『合コン部』設立に関しても中心メンバーになってる一般人の子達が手元のものを武器にしてくるけど、強化一般人じゃないからダメージにはならないと思う。でも殺さないように、でもって木葉子にも殺されないようにしてほしーんだよね」
     難しいけど、でも。
     元々落ち着いた、優しい雰囲気の流れる学校だった――その静けさ故に、生徒達は華やかなる恋愛ごっこを求めてしまったのかもしれないけれど。
    「よろしくお願いします。この学校を、救ったげて」
     ぺこりと、伊智子は深く頭を下げた。


    参加者
    アプリコット・ルター(甘色ドルチェ・d00579)
    瑞希・夢衣(笑顔をなくした少女・d01798)
    相良・太一(土下座王・d01936)
    小谷・リン(小さな凶星・d04621)
    ファリス・メイティス(黄昏色の十字架・d07880)
    桜塚・貴明(櫻ノ森ノ満開ノ下・d10681)
    深海・魚々(アイオライト・d13040)
    木元・明莉(楽天陽和・d14267)

    ■リプレイ

    「……変に、見えないでしょうか」
     小学2年生のアプリコット・ルター(甘色ドルチェ・d00579)は、エイティーンを使うのは初めてで――いつもとは違う視界が、落ち着かない。
     けれど――ダンピールの宿敵であり、自らの親的存在であるヴァンパイアが相手だという事実に思うところはある。なんとしても、阻止しなければ。そう、小さく口の中で呟いて。
    「合こんが、まず……よく、解らんから……調べてきたが。不純、異性交遊、だと……は」
     どこか虚ろな目を、小谷・リン(小さな凶星・d04621)はきゅっと僅かに吊り上げて。
    「学校、では、いつも、影薄い。だから、今回も、影薄く、行く」
     そう仲間達に言い残し、男物の制服を着たリンはプラチナチケットを発動しつつ校長室の方に向かって歩き出す。
     その姿をじっと見つめ、深海・魚々(アイオライト・d13040)は小さく息を吐いた。初の潜入依頼への緊張が、胸を駆け抜ける。
    「皆様の足を引っ張ることはないように努めてまいります……」
     そうぺこりと頭を下げて校内へと向かおうとする魚々に、アプリコットが同行を申し出る。
    「簡単にパートナーが変わっちゃうなんて悲しいよ。大事な人との時間は、本当に素敵なものなんだから」
     瑞希・夢衣(笑顔をなくした少女・d01798)が表情を変えぬまま、ぽつりと呟く。今は愛する者がいる彼女の言葉は、強い確信を持って。
     支配された学園を、元に戻すために、灼滅者達は活動を開始する。

    「よぉ、今日の合コンはどこだか知ってるか?」
    「今日?」
     急に相良・太一(土下座王・d01936)に話しかけられ、真面目そうな少年はんー、と眉を寄せる。
    「今日は3時間目に視聴覚室で、5時間目に職員会議室で、あと放課後に屋上じゃないかな。どれに行こうか迷ってるんだけど」
     ――真面目そうな生徒ですら、既に合コンの渦に呑まれかけている。
    「参加する奴はもう決まってんのか?」
    「いや? いつも先着順だよ」
     少々難儀しそうだと、太一は心の中で肩を竦めた。

     授業時間にも関わらず、教室を抜け出し一定の場所に向かう生徒の顔を桜塚・貴明(櫻ノ森ノ満開ノ下・d10681)は確かめ、心に刻む。そしてその中の一人に、周りに他に誰もいないのを確かめて貴明はすっと近づいた。
    「合コン部って言うのがあると聞いたんですが」
    「はぁ? 知らないの?」
     不審そうに眉をひそめる女子生徒に、「転校生なので」と貴明は冷静に応える。
    「新しい出会いを探しているんです」
    「あ、そうなの! だったら歓迎よ!」
     ぱっと顔を輝かせ頷く女子生徒と情報収集を兼ねてしばらく話してから、ふっと貴明は笑みを浮かべて。
    「合コンに行かなくても、良い出会いがありました」
    「……へ?」
    「貴女との出会いが……」
     貴明の言葉に、女子生徒の顔が真っ赤に染まる。
    「昼はクラスメイトと食事をする約束があるので、午後学校を抜けて遊びに行きませんか?」
     こくこく頷いて走り去る背が見えなくなってから、声をかけるターゲットが被らないよう貴明は再びメールを打ち始める。

    「合コンが流行ってる噂を聞いた事あるぜ。行ってみたいけどどこでやってんだろな?」
    「知らないの?」
     おしゃべり好きそうな女の子を選んで木元・明莉(楽天陽和・d14267)が声を掛ければ、ぺらぺらと彼女は合コンが行われる時間と部屋を教えてくれる。
    「誰が参加してんの?」
    「んー先着順だからいつも違うよー。最近は並ばなきゃ入れないくらいだし」
     ――どうやら合コンの参加者にピンポイントで声をかけるならば、ある程度合コン会場、つまりは木葉子の居場所に近付く必要がありそうだ。
    「開催する側のヤツらも合コンの設営とかしてスゴいよな。何人位でやってんだろ」
    「スタッフさんっぽいのは5人くらいだったよ。主催の木葉子さん入れてね」
    「なるほどな、サンキュ」
     明莉が礼を言ってニコリと笑えば、女の子はにこっと頷いて。
    「ねぇ、じゃあ午後の合コン一緒に行かない?」
    「行ってみたいけど、そいや授業サボってカラオケ行こうって話あったんだった」
    「マッジでー! じゃああたしもそっち行こうかなー」
     行くなら連絡ちょうだいね、と差し出された連絡先を書いたメモを受け取りながら、再び明莉は仲間達の携帯電話に情報を書いたメールを送る。

     3時間目に行われる合コンの出入り口付近で、プラチナチケットを使い生徒のふりをしたリンは、中心メンバーが誰なのかをだいたい探り、その外見的特徴を仲間達に連絡してあった。
    (「合こんは、不純異性交遊。最近の、若者は……まったく」)
     リンも高校1年生である。
     ともあれリンから送られてきた中心メンバーや、合コンへの参加を積極的に促すような生徒達を避けて、魚々とアプリコットは大人しそうな生徒を狙って情報を集めていく。
    「あの、合コン、私も興味あって……」
    「……未だ学校に馴染めず、友達がほしくて……」
     そうおずおずと尋ねる魚々とアプリコットに、大人しそうな生徒は親身に頷いた後、優しげににこ、と微笑んで。
    「友達もいいけど、合コンで彼氏とか彼女とか作っちゃうのもいいんじゃないかな。大丈夫、気に入らなかったらまた次の合コンに行けばいいから、さ」
     親切に合コンの場所と時間を教えてくれる生徒も、この学校の状況を訝しむ様子もないことに、魚々とアプリコットは不安を感じる。
     ――事態は、深刻そうだ。

     そして、昼休み。
    「どこ行くの? 合コン?」
     そう合コン場所に指定された教室に向かうらしき少女にファリス・メイティス(黄昏色の十字架・d07880)が声を掛ければ、「そうに決まってんじゃん、あーもう急がないと!」と少女は早足で駆け抜けようとする。
    「それよりどっか遊びに行こうよ」
    「……へ?」
     思わず立ち止まった少女に、「授業サボってカラオケ行こうって話があるんだ」とファリスはにこりと笑って。
     同時に発動させたラブフェロモンが、少女の心を染めていく。
    「へー……あんたとか、他の男子も来るの?」
    「もちろん。体育館裏で待ち合わせね」
    「おー了解」
     そう言って少女は、正面玄関へと進路を変える。それを確かめてから、さらにファリスは幾人かの女の子に声をかけて。
    「……昼明けにちょっと屋上で話さない? 用事済ませてすぐ行くから先に行っててほしいな」
    「え、あ……うん」
     純情そうな女の子が、こくんと頬を染めて頷く。屋上へと向かって歩き出した少女の背を見つめ、ふー、とファリスは息を吐いて。
    「んー。なんか色んな意味で心が痛む……これじゃナンパしてるみたいだ」
     ナンパそのものに他ならないという話も、ある。

    「なぁ、今日は女子少なくないか……?」
     職員会議室前でそう囁き合う男子生徒達に、「全くだよなー」と太一が話に混ざる。
    「っておお!? カッコいい子いっるじゃーん!」
    「よく見ろ、男子だ男子」
    「解ってるけどー!」
     あはは、と明るく、けれど幾分元気のない笑い声が上がる。ちら、と部屋から誰も出てこないのを確かめてから、太一は口を開く。
    「いっそ午後サボって駅前のカラオケ行かね? 俺、お前らともっと」
     ラブフェロモンを使いちら、と流し目を送るようにしてから、今度は正面からじっと見つめて。
    「仲良くなりたいんだ……」
     目力を――全力発揮!
    「お、おっしそれじゃカラオケ行っちゃおっか!」
    「そうだお前名前なんてーのよ?」
     成功して作戦上嬉しいけど、男グループとか俺、切ない。
     そう思わず遠い目になりながら、太一は「ちょっと用事足してから合流するな」と待ち合わせ場所を指定し、列から抜けていく男子生徒達を見送るのだった。

     意を決した表情で廊下を歩く校長を、夢衣とリン、明莉は急いで声をかけて引き留めた。
    「あの、木葉子ちゃんとは昔仲が良かったから……私が、説得したいんです」
     そう懸命に言葉を紡ぐ夢衣に、リンが傍らで頷く。
    「だったら私も一緒に行くから、一緒にみんなを説得してくれないか?」
     この学校にまだ、合コンの渦に呑まれていない生徒がいたのだ、と顔を輝かせてそう提案する校長に、ううんと夢衣は首を振って。
     その顔に表情は浮かばないけれど、真剣な空気は真っ直ぐに伝わる。
    (「妻子持ちの、先生の、不倫……と、言ったら、この人は、かえって、飛び出して、しまいそうだ」)
     そう判断し、リンは隣で「……お願い、します。ここは、私達、だけで」と言うに留める。
    「合コン否定派の俺達が先に説得に行くから、ちょっと待ってほしい」
    「必ず、必ず説得するから……今日だけでも待ってほしいの。お願いします」
    「そうか……」
     明莉と夢衣の真剣な言葉に、しばらく眉を寄せて考えた校長は、「頼んだよ」と頷き踵を返す。彼に気付かれぬよう、二人はそっと息をついた。
     ――嘘を吐くことになるけど、力づくよりは良いはず。それに、真剣なのは本当の事だから――。
     伏線は、張った。
     あとは、対峙する、のみ。

     職員会議室に踏み込んだ灼滅者達を迎えたのは、数名の男女と――「随分、邪魔してくれたようね」と笑う少女にしてヴァンパイア、紅谷・木葉子。
    「あの、すみませんけど……合コンの邪魔、させてもらいますね」
     こんにちは、と丁寧に挨拶してから、けれどアプリコットはきっぱり言い放つ。
    「楽しそうなことしてるね。だけど、メンバーがやけに少ないのはどうしてかな?」
     挑発するように言いながらファリスは、改心の光を発動する。一度深呼吸して緊張する心をなだめてから、「授業に戻るよう悔い改めていただきます……」と魚々が続けて改心の光を放つ。
    「あれ? みんな。今は授業の時間じゃないのかな?」
     そう尋ねるファリスの言葉に、一般人である木葉子以外の生徒達ははっと浮足立って。「そ、そうだ授業受けないと……」と職員会議室を出て行く者も多い。
    「合コン部って荒れてるね……フケて俺と遊ばね?」
     そう太一が声をかけても、「授業があるから」と慌てて首を振って出て行くのみ。それを確かめ、太一は木葉子に向き直る。
    「あんたの支配はこの有様だ。穏便に退いてくれると嬉しいぜ」
    「……なるほど、そういう手段を取ったのね」
     納得したように、木葉子は頷く――撤退の様子は、ない。
    「合こんは、本当に、楽しい……のか? というか、よく、見知らぬ人とかと、話せるよな……」
     わたしは、苦手だ、とリンは言って、溜息を吐く。
    「合コン……ね。そういうの俺はあんまり得意じゃないけど」
    「まだ俺達学生なんだし、偶然の出会いとかクラブとか、そういうとこから始まる縁って大切だと思うぜ」
     ファリスの呟きに続けて、明莉が言葉を染みさせていく。木葉子に、そして改心の光によって『悩める善人』と化した生徒達に届けと。
    「……私は、合コンというのはよくわかりませんが……よくないことは、わかります」
     勉学を疎かにしては駄目ですし、と続けたアプリコットの言葉に、ふぅん、と木葉子は首を傾げて。
    「あなた達のやり方を見てると、私の合コンに来なかった人達が真面目に授業に出たとは思えないけど」
     灼滅者達の拳が、ぎゅっと握られる。
     そう。
     灼滅者達が選んだのは、風紀の乱れを利用して、合コンとは別の方向に生徒達を向けたのみ。
    「いずれにせよ」
     貴明がふ、と息を吐く。動揺を、見られぬように。
    「我々が合コンを妨害するのは容易い。これ以上開催しても無駄です」
    「そうね。でも、ここであなた達を排除すれば?」
     ふ、と笑う木葉子には、幾分の虚勢が感じられた。
     それを攻めるように、灼滅者達は言葉を重ねる。
    「……ととたちを倒しましても、まだまだ、同じような力を持つ人はおりますし……」
     仲間達の影に隠れるようにしながら、それでも勇気を出して魚々が口を開く。
    「例え俺たちがここで倒されてもさ。また、邪魔しにくるよ? 仲間達がさ」
     それに重ねるように、ファリスは胸を張ってにこりと笑って。
    「ふぅん……つまり、組織が動いてるってことなのね? ダークネスの、かしら?」
     それには応えない。今、朱雀門高校に対し、身元を明かす気はない。
    「この学園と、合コンに対して思い入れが強くないのなら……手を引いて下さい」
    「撤退してもらえないなら、こちらも実力行使をしなければ……いけないんですが……」
    「素直にこの学校から出て行くなら、それ以上は何も求めません」
    「同じ言葉を返してあげても、いいのだけれど」
     木葉子がすっと目を細める。灼滅者達の実力を、測るように。
     それを読んだように、ファリスが口を開く。
    「仮に俺たち全員が闇堕ちしたとしたら、君は勝つ自信ある?」
    「……なるほど、闇堕ち、か」
     くすりと笑って木葉子が、口を開く。
    「ダークネスじゃなくて、灼滅者の組織が、動いてるってことね。大体わかったわ」
     ならば――勝てる、と木葉子は言ってガンナイフを抜く。
     いっそダークネスだと思わせておけば、撤退を促せたかもしれない。
     夢衣が素早く出入り口を塞ぐ。木葉子の取り巻きも含めて、一般人達は既に全員が姿を消していた。
     戦いに対して灼滅者達が、万全の準備をしていたとは言い難い。それでも――それでも、今回集まった灼滅者達は、武蔵坂学園内でもかなりの実力者であった。
     それが、幸いだった。
     夢衣が振りかざしたロッドが、太一がガトリングガンに宿した炎が力強く叩き付けられる。ブレイドサイクロンで力を高めたリンが高火力攻撃と服破りを繰り返し、木葉子のギルティクロスに対しては魚々が身体を張って盾となる。明莉が何度も拳を叩き付け、ビハインドの暗が仲間達の盾となる。ファリスと彼のナノナノのシェリルが癒しを次々に飛ばせば、ビハインドのシェリオと息を合わせたアプリコットが反対にギルティクロスを叩きこみ、貴明が槍の妖気を集めて飛ばした氷は、次々に与えられる打撃と共に木葉子を蝕んで。
    「……限界、かな」
     木葉子が一歩、窓に向かって後ずさる。その隙を、リンは逃さず口を開く。
    「今なら、学校から、手を、引くなら、見逃す。これ以上、戦うなら、灼滅するしか、ない……ぞ」
    「確かに、ね」
     あっさりとそう言った木葉子は、ガンナイフを腰の後ろに戻してまた一歩、下がる。
    「戦力としてもだが、1人で支配しつつあったあんたは脅威だ。二度目は勘弁願いたいね」
    「あらありがとう、覚えておくわ」
     太一にくすと微笑みかけて、ひょいと木葉子は窓枠を乗り越える。それを、灼滅者達が邪魔することは、なかった。
    「この学校が良くなるかは、知らないけどね」
     悔し紛れのようにも聞こえた木葉子の言葉は、灼滅者達の心に突き刺さった。

     生徒達に一度埋め込まれた、授業を軽視する意識は、木葉子がいなくなっても消えることはない可能性が高い。
     かつての穏やかな学校が戻ってくるかどうかは――灼滅者達には、関わることのできない領域。
     学校を後にする灼滅者達は、その時が来るのを祈るのみ――。

    作者:旅望かなた 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年7月22日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 9
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