星降りと旧き七夕の夜に

    作者:若葉椰子

    ●星を見る少女からのお誘い
    「みんな、星空を見に行くよ! とっておきの場所があるんだ!」
      ある夏の日、名木沢・観夜(小学生エクスブレイン・dn0143)は元気よくそう言って話を切り出した。
    「ペルセウス座流星群って知ってる? ちょうど夏休みのときにあるんだけど、毎年たくさんの流れ星が見られるんだよ!」
     両手を大きく広げて、観夜は満天の星空とそこに出現する流れ星の様子を情感たっぷりに説明している。
     ペルセウス座流星群。三大流星群のうちの一つで、8月13日前後に出現する流星群だ。
     毎年多くの流星を降らせているこの流星群だが、今年は特に好条件で見られるのだとか。
    「それでね、むかしの七夕はむかしのこよみで7月7日にあるんだけど……今年は、ちょうど今のこよみで8月13日なんだ! すっごいよね!」
     旧暦に従った七夕は伝統的七夕と言われ、西暦では凡そ8月中のいずれかとなる。
     梅雨まっただなかの7月7日と違い真夏なので晴れる事が多く、たいていの学生は夏休みという事もあって、星空を見るならこちらの方が適しているのだ。
    「だからね、みんなで流れ星とか天の川を見られたらいいなーって思うんだ。 どっちも望遠鏡とかつかわなくていいし、星空をたまによこぎる流れ星をみんなで見れば、きっとたのしいよ!」
     流星、天の川、そして織姫と彦星。どれも肉眼ではっきり見えるものであり、特別な機材は何一ついらない。
     夏休みの宿題をこなす合間に、もしくは予定なく過ごす日常のアクセントに。納涼も兼ねて吸い込まれそうな星空を静かに見上げるもよし、誰かと連れ添って星降る夜を共に過ごすのも悪くない。
    「せっかくのステキな夜だから、みんな来てくれるとうれしいな、僕もたのしみにしてまってるよ!」
     そう言った観夜の表情は晴れやかで、灼滅者達と過ごす夜のひとときを心待ちにしているものだった。


    ■リプレイ

    ●満天の星々を見上げて
    「……本当に綺麗な空、だな」
    「ちょっと前に比べれば、湿気も暑さも程々だし、いい感じ!」
     落ち着いた気候と澄んだ空に、流人と奈々は一安心。お近づきの記念に、縁ある日を楽しむにはまずまずの日和だ。
    「あれがカシオペア座で、はくちょう座、こと座、わし座……で、良いんだよね?」
    「そして夏の大三角とは! その中の織姫、彦星、それと白鳥の三角形のコトだ!」
    「うん、二人とも当たりだ。望遠鏡があれば、アルビレオもくっきりと分離して見えるんだけど」
     星光瞬く空を、南東から東へ。アナスタシアと慧樹が星々を指させば、百舌鳥も満足気に頷く。
     ゆまの用意したコーヒーを全員が味わうと、いよいよ流星群観測の始まりだ。
    「見て、紅桜! 流れ星だよ!」
    「ふぇ……あっ、ホントだ! 願い事しなきゃ!」
     平原を走っていた鈴が、感嘆の声をあげる。手を引かれて驚いていた紅桜だったが、流星を見た瞬間、一つの事を願わずにはいられなかった。
     ずっと一緒に、いられますように。
    「すげえ……ほら見ろよアディ! 星の海だ!」
    「本当、すごいです、せいしろさん……!」
     青士郎とエイダも、興奮冷めやらぬ様子で夜空に散らばる星々を見つめている。日常の中に、確かにある幸せ。二人は全力で、味わっていた。
    「たまには、寝転がって星を見るのも……ってひかる、今寝てなかったか?」
    「ご、ごめん! 天牙と手つないでると、なんだか安心しちゃって」
     ゆるやかに流れる時。安心していればこそ、眠気も訪れるのだろう。
    「子供の頃さ……あの光り輝く星が欲しかったんだ」
    「うん……ももも小さい頃、パパにおねだりしたかも」
     エアンと百花。二人の追い求めた星は、今とても近くで輝いている。お互いが惹かれ合うように、離れないように、そっと二つの影が重なった。
    「夜は好きですけれども……少し怖い、なんて、変ですよね」
     苦笑交じりに言ったクラリスの細やかな恐怖を、十六夜は全身で包み込む。
    「ほら、これで怖くないだろ?」
    「……はい」
     すぐ側に、大好きな人がいる。何も怖がる事はない。
    「織女星は天頂近くに輝く星で、そこから天の川を渡り右下に見えるのが牽牛星だ」
    「はい、あれですね! 二人、逢えて良かったです」
     天の川の両岸にある星が、伝説の主役。明の語る太古の浪漫と満天の星空に、いつしか葉月も引き込まれていた。
    「お星様、速い……」
     ビルの壁がなくとも、流星が見えるのは大概一秒にも満たない。アスルが願うには、その瞬きが速すぎるのだ。
    「お願い、みんなが沢山流れ星を見られますように!」
     ハナの願いが届いたかどうか。空には、今まで以上の流星が降り注ぐ。
     心配げに見渡していた千結がまずそれに気付き、やがて三人に、この夜一番の笑顔が咲いた。
    「可愛い女の子と、こうして流星を見上げる事が出来て嬉しいよ」
    「そっ、そう言ってくれると……私も嬉しいわ」
     自然体の彩華に対し、緊張をなんとか隠す蒼慰。そのぎこちない会話こそ、却って二人の思い出になるのかもしれない。
    「お弁当、らしき物を……作ってみたのだけど」
    「うわぁ……愛を感じます。おいしいです」
     おずおずとサンドイッチを差し出す花子に、ルコは大仰な反応で感動を伝える。包丁も握れなかった頃を思えば、その感動も一入だ。
    「自然の静寂は、退屈じゃないか?」
    「んや、自然の中ならさ、逆に音が一杯あっていーと思うんだ」
     静樹の問いかけへ、いくつも言葉を探しながら答える途流。
     虫の声と葉擦れをBGMに、取り留めのない会話が続く。こんな夜も、悪くない。
    「蓮の星座って何だっけ?」
    「俺は牡羊座だから……秋とか冬じゃないと無理じゃねーかな」
     星を探す千李に、蓮は苦笑で答える。この時期でもひっそりと東の地平近くで輝く牡羊座を、果たして二人は見付けられただろうか。
    「今日の夜食は、俺の握り飯だ。ちょいと不恰好だろうけど気にすんな」
    「ナイスサプライズだよ、いただきます」
     幼馴染である庚が珍しく作ったおにぎりを、与四郎は寝転がりながらゆるい笑顔で咀嚼する。いつもの日課も、場所と物が変わればこんなに新鮮なのだ。
    「あんなに星が瞬いて、まるで何かお喋りしてるみたい」
    「ふふ……きっとそれは、天の川のせせらぎよ」
     星々の輝きを音に例えるならば、きっとそんな感じなのだろう。アストルとイコは、目と耳で存分に星々を味わっていた。
    「んーと、天の川、ベガがあっちで……」
    「わ、流れ星だ。見えた?」
     子供のようにはしゃぐ聡士に、星を探していた時兎も思わず頬を緩めてしまう。
     黒曜石の瞳にも、紅玉の瞳にも、その時は等しく鮮明な星空が写っていたことだろう。
    「蠍座には、猫の目っていう星があるんだって」
    「あの赤いのがアンタレスだから……あれか」
     諒の一言で、見かけによらず猫好きな芥汰は星座盤と睨めっこ。尾にあたるシャウラとすぐ近くに並ぶレサトは、確かに暗闇へ浮かぶ猫の目だ。
    「いつも星を見ているなんて、鷹次ちゃんは『ろまんちすと』さんなのです」
    「たはは、一人で寂しいロマンチストだけとな」
     ルールゥの真っ直ぐな人物評に、鷹次は苦笑で応える。二人で見る空は、一人の時よりも更に綺麗に見えた。
    「織姫と彦星……どこかな?」
    「図鑑も見たけど……どれも眩しくて、見つかんないね」
     慣れない星探しを中断して、ヒノと煉はくすくす笑いながら内緒話。捜し物は見付からないけれど、それが気にならない程に満天の星空が広がっていた。
     静かな場所で独り、葵は星を指差していく。共に星を見た家族は先立ったけれど、思い出は残る。それならきっと、自分は幸せ者だ。
    「どっちが先に流れ星を見付けられっか、競争しようぜ」
    「OK、受けて立つ!」
     レジャーシートに寝転がった供助と民子は、張り合って流星を探す。しかし、空を埋め尽くす星々に、お互いが一瞬勝負を忘れそうになっていた。
    「どうだ、俺も意外と星座詳しいだろ」
    「んー、得意げなのは伝わった」
     ドヤ顔で話を締めくくる宗也の話を、保護者のように聞いている鉄鋳。
     取り留めのない話を続け、お互いがなんとなく無言で空を見上げるようになったなら、楽しいか聞くのは野暮だろう。
    「毎日会えるのと、年一度しか会えないの。どっちがイイと思う?」
    「貴方と毎日顔を合わせるなんて……っ」
     七夕伝説と自分達を混同させる暁の問い。一瞬引っかかった霖は、戯言に一矢報いようと無言のまま考えを巡らせていた。
    「何をお願いしたかって? えへへ……ナイショ♪」
    「ちょ、なっまいきー!」
     夜空の下で嬉しげにはしゃぐ狭霧を、華丸は茶化しつつも時折優しい眼差しで見やる。
     軽口での応酬も、仲が良い証。二人の気楽で心地良い時間はゆっくり過ぎて行く。
     吐息すら聞こえそうな近距離で、娑婆蔵と鈴音は揃って空を見上げている。狙うは流星、願い事を言えば、お互いに筒抜けだ。
    「これからも、四季折々の風景を共に見られますように」
     それは確かに二人の声。細部の違いが気にならない程、二人の願いは重なっていた。
    「真夜と末永く付き合えますように」
    「もう……一馬さんってば」
     少しアンニュイ気分になっていた真夜の心境を察したのか、流星を見つけた一馬は素早くその願いを口にする。
     だからだろうか、疲れて寄り添う二人の距離は、一層近く見えている。
    「この前出かけたのは四月だったかしら」
    「そっか、しばらく一緒に出られなかったもんな……」
     予定の中々合わなかっただろう鏡花と遙は、今日ばかりはと二人の時間を満喫している。お互いの幸せを、確認するように。
    「これ、凄く美味しい! きっと良いお嫁さんになれるよ」
    「本当? お嫁さんになるなら、深尋くんみたいな旦那さんがいいな」
     深尋の称賛に、杏里ははにかみつつもはっきりとそう返す。少し赤らんだ深尋の顔は、宵闇が優しく隠していた。
    「流星群が見られたら、何か願い事でもするのか?」
    「沢山あるヨ。たとえば空見上げるヒトがいつも幸せであるように、トカ!」
     何とは無しに問う幸太郎へ、朱那は楽しげに応える。この場の皆が良い表情で星見しているのを見る限り、願いが叶うのも早そうだ。
    「なあ、いっちー。ちょっと膝貸して」
    「ちょ、っと……朝比奈!」
     急に膝へ頭を預けた棗に、一哉から抗議の声があがる。それでも実力行使で振り落としたりしない辺り、気が許せる間柄のようだ。
    「ルリ、あーん」
    「えっ、んん……っ!?」
     瑠璃羽のどことなく寂しげな表情を汲み、彼女の用意したギモーヴを食べさせてあげる暁。
     驚く姿はいつも通りで、彼が安心するには充分だった。
    「眠いのか? 安心して寝てていいぞ」
    「ん。……サク、ありが、と……」
     星座の物語を話すうち、烏芥も星空へ引き込まれていく。心地よくまどろむ傍らに、幸多からんと願う朔之助が佇んでいた。
    「夏の匂いがする」
    「せやな。これも星見の醍醐味やと思うで」
     寝転がって空を見上げつつ夏の夜を満喫している久良が呟けば、綾も一緒になって横になる。
     更にその近くでは望遠鏡を設置した梵我もまずは肉眼で星を追い、時折感嘆の声をあげていた。
    「みんな、生鏡さんがお茶を用意してくれたよ」
     そうして思い思いに観測していた場へかかるのは、セツトを連絡役にしたお茶会への誘い。全員が快諾し、星見荘の住人は程なくして敷物の上へ集う事となった。
    「旧暦の七夕では、半月が天の川を横切る前の位置に来ている事から、織姫さんが月の船で彦星さんに会いに行くとも言われております」
    「星座以外にも、星の話って沢山あるんですね」
     お茶会の際、七夕伝説の補足も交えつつ解説をする生鏡に、月華をはじめとした他の面々も感心した様子。
     一つ屋根の下で暮らす面々のお茶会は、翔がカメラマンとなった記念撮影が終わるまで続いた。
    「おおお、星すげーな。これだけでも満足だわ俺」
    「マジだ。すげー、星が見える」
     広がる星空に驚く周と徹太。奇しくも同じく東京育ちである人部の二人にとって、星のよく見える場所そのものが新鮮なのだ。
    「やっぱり、プラネタリウムよりほんまもんの輝きのがええね」
    「うん、きらきら宝石が降るみたい!」
     方や霊犬のシキテとはしゃぎながら、もう片方は星座盤から七夕の主役を探す。
     花紡ぎのメンバーであるチセと狗白は、丁度いい距離感で緩やかに流れる時間を楽しんでいた。
    「夜に星を見るなら珈琲と決まっているんですよ」
    「じゃ、俺にも……おいそれ牛乳入れすぎだろ」
    「ニエ珈琲飲めないんですよね」
    「……すみません、私にも牛乳をくれますか?」
    「それよりニエちゃん、寝転がりながら魔法瓶弄ると零れるよ」
    「星を見に来たのか珈琲飲みに来たのか分からなくなってきた。どっちでもいいけど」
     仁恵、恢、一途、ガル、観月。ポッケニアン帝国の面々が賑やかな空気を作り出す。
     しかし星見を始めれば、その幻想的な風景に誰もが圧倒される。
     彗星の残した小さな塵が放つ輝きに、各々の複雑な思いと浪漫が去来していた。
    「お腹減ってきたし、夜食にしやしょう」
    「ウチは梅おにぎりを持ってきたっすよ」
    「ん。ボクは、パウンドケーキ……作ってきた、よ」
     ギィが提案しつつサンドイッチとミルクティーを広げれば、クヌギがおにぎり、アレシアがパウンドケーキを取り出す。
     星の光に包まれながらの夜食というのも、案外悪くないものだ。
    「空が……広い」
    「うん、満天の星。天の川がこんなに綺麗に見えるなんて」
     迫力ある星々に、リアンとカーティスは目を輝かせて見入っている。一方で潤子の問いにはギルドールが応えていた。
    「三大流星群の一つなんだよね。これと、ふたご座と……あと何だっけ?」
    「しし座だね。残りの二つは冬だから、これが一番見やすいんだ」
     観測するには一番敷居の低いペルセウス座流星群。果たして白亜の大聖堂に集う面々は、幾つの流星を見付けられるだろうか。
    「みんな集まったね。それじゃ第一回! 星空流れ星探し大会~!」
    「宇宙を眺めて流れ星探し、まさかうちの部にぴったりなイベントがあるとはな!」
    「うん、素敵な大会ね。でもご褒美がないのは残念かな~」
     紗の号令に、達郎を始めとした宇宙部の面々が色めき立つ。結衣菜は賞品を求めているが、概ね不満はなさそうだ。
    「あれがミルファクで、あっちがアルゴル……意外と覚えてるもんだね」
    「うん、正解! あの二つをぐぐって上下にのばすと、ペルセウス座になるんだ! 今日の流れ星の線をたどると、ほとんどがそこからきてるんだよ!」
    「ツマリ、あの星座を中心に見張っておけば流れ星が見つけやすいト!」
    「なるほどなー……と、あったー!」
     玉がペルセウスの胴とメデューサにあたる星を見つけたところに、観夜の解説が入る。
     ドロシーの読みが当たったかどうか、話を聞いていた朝陽が流れ星第一発見者となった。
     ちなみに、放射点を気にすると視野が狭くなりがちなので、満遍なく全天を見渡すのが効率のいい観測方法だ。
    「私にも来た! 金金金……はっ!」
     澪の願いは洗練された高度なもの。しかし即物的なその願いに、言った本人が崩れ落ちていた。
    「二羽の鷲と大きな白鳥……と言うのは、ファンタジーに過ぎるか」
     大三角を伝承の鳥になぞらえ、希が呟く。こんな夜なら、それも良い。
    「この深遠なる宇宙には、哲学こそが相応しい」
    「ほう、それは妙案だ」
     思索にふけるエニエに真樹も同調を試み、失敗した。では当人が哲学しているかは……ノーコメントでお願いします。
    「さあ、落ち着いたらティータイムにしましょう」
     そして発せられたヴィントミューレの言葉に、宇宙部の面々は改めて集まり、談笑したのだった。
    「土星は月のすぐ近くだね。ふたご座は……ごめん、あっちのほうに今しずんでるんだ」
    「おお、あれが土星! 今日も優雅で偉大で美しい!」
    「それは残念。次は見られるといいな」
     観夜からの回答が得られた璃理と在雛は、それぞれの方向に思いを馳せる。
    「カストルとポルックスは武勇に優れた双子で、兄弟愛の結果として星座になったんだよ」
     アイリスの解説も入り、小さな星空解説はますます続いていく。
    「都心部では、星ってこんなに見えないんだよね」
     解説途中で横を通った无凱の呟きには、思わず皆で頷いていた。
    「ノルマは達成したけれど、やっぱりこれだけは……」
     売れ残りの謎商品を見てため息をつく佐那。やはり世間はキワモノに厳しい。
     かくして、流星は灼滅者達が帰る時まで振り続ける。
     もっと流星が降ってこいと遊び半分で狙いをつけた籐眞を合図に、いくつもの星の雨が降り。
     その只中で皆が笑える手伝いが出来るよう願った真実が、そのまま眠りにつきそうになって慌てて目を開き。
     自分以外全ての願いが叶うようにと願ったみをきが、自らの願いを偽善と思い。
     そして、篠介はその喧騒を遠くに感じながら、幼少の思い出と共に星を見上げていた。

    作者:若葉椰子 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年8月14日
    難度:簡単
    参加:113人
    結果:成功!
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