それを呪いと呼べるなら

    作者:六堂ぱるな

    ●逃れられぬ鎖
     考えても、考えても、答えが出ない。
     自分には選択肢などないとわかっているけれど。
     時折全身を苛む、この破滅的な衝動をどうしたらいいのかわからない。

     何も悩むことはない、と血が囁く。
     餌を捕らえ、喰らい、彼女が喜ぶものを持って行ってやればいい。

     それが間違っていると、そう思う自分の意思が揺らいで行く。
     歩く人々を見ればその肌の下の血を思い、転んで怪我をした子供を見ればその甘い匂いに吸い寄せられるような心地になる。

     口にはしないと決めた、のに。

     衝動に耐えられなくなりそうになるたび、なんとか意識をしっかり持とうと頭を手近なものに打ちつけた。血が流れるより早くコンクリートにひびが入るのを、おかしいと思う余裕すらない。
     自分のままでありたい。彼女にも、彼女のままでいて欲しい。

     ああ、聞こえる。

     ――はやく、かえってきて、つかさ。

    ●塩基が繋ぐもの
     教室へと入ってきた五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は穏やかに微笑んで一礼した。
    「皆さんお揃いですね?ヴァンパイアが愛する者を道連れに闇堕ちする、というのはご周知のことと思います」
     手にしたファイルを開くと、卒業写真らしい詰襟の少年が写った写真を見せる。
     笠井・月冴(かさい・つかさ)。大柄で、写真を見るに少しやんちゃをしていたようだ。髪は黄金に脱色し、喧嘩でもしたのか絆創膏が貼られている。
    「あ、今は真面目な学生さんらしいんですよ?」
     母親の闇堕ちに引きずられての闇堕ちだ。人間としての意識などなくなっていてもおかしくない。
    「お母さんにご苦労をかけたことをとても気にしています。お母さんの支配を拒みきれず、でもお母さんに変わって欲しくない、そんな板挟みが彼の意識を保たせています」
     しかしそれも時間の問題だ。放置すれば、彼もヴァンパイアと成り果てる。

     母親の闇堕ちは阻止できない。
     月冴は家に帰らず、血への渇望と母親への従属に抵抗しながら街を彷徨っている。人を避け、人気のない路地裏から廃ビルなどを転々としているようだ。
     接触は夜半、完全に人通りの途絶えたある路地がよいと姫子は語った。
    「彼自身が数日彷徨っているため、不審者の噂が立っています。余程移動しなければ、付近を通りかかる人はいません」
     かなり追い詰められてきている月冴は、目の前に人が立つまで反応しない。またひとたび争い始めれば、逃走することもない。
     彼はダンピールと同じサイキックと、拾ったナイフで零距離格闘のサイキックを使って戦う。彼の人間でありたいと願う心に訴えることで、その力を削ぐことができるだろう。
    「一度戦って、彼を倒さなくてはならないことは確かです。ダークネスとなってしまうのなら、灼滅をお願いします」
     でも、と姫子は穏やかに微笑んだ。
    「灼滅者の素質があるなら助かります。間に合うと信じていますから、彼を救ってあげてください。もちろん皆さんも、御無事で」
     皆それぞれ、大切な人が待っているんですからね、と付け加えた。


    参加者
    馬喰・火花(灼熱ハンマーヘッド!・d01994)
    久篠・織兎(糸の輪世継ぎ・d02057)
    遊城・律(炎の大和魂・d03218)
    咬山・千尋(中学生ダンピール・d07814)
    柴・観月(サイレントノイズ・d12748)
    ベリザリオ・カストロー(罪を犯した断罪者・d16065)
    岬・在雛(領主の後継者候補・d16389)
    レイッツァ・ウルヒリン(高校生エクソシスト・d19883)

    ■リプレイ

    ●繋がれた獣
     路地の空を仰げば、ネオンに底を焼かれんばかりの暗黒があった。朔へ向かう細い月を背に、彼らはうらぶれたビルの陰へと近付いてゆく。
     彼女の声が、聞こえるというのは。
     嬉しいのだろうか、辛いのだろうか。
     柴・観月(サイレントノイズ・d12748)は無表情のまま、胸の内でそっと呟いた。
    (「……どちらも、だね。知っている。知ってたさ」)
     もう知る者ではないその声は、寄る辺ない身であればあるほど蠱惑的に響いて誘う。
     彼を救えるだなんて、思っていないけど。
     ――支えぐらいにはなれると、信じたい。
    「母親がヴァンパイア化、か……」
     岬・在雛(領主の後継者候補・d16389)が呟いて、ぎゅっと手を握りしめた。ヴァンパイアの狩りで全てを失った身の上だ、他人事ではない。
     同じ境遇の咬山・千尋(中学生ダンピール・d07814)は無言のまま、キャリバーのエンジンを噴かした。
     その隣で、遊城・律(炎の大和魂・d03218)が首を振る。
    「俺にはまだ爺ちゃんが居たけれど、笠井先輩と環境は似ていたから、気持ちは良くわかるよ。お母さんはもう無理だけれど、彼だけは何とか助けてあげたい」
     せめて彼だけでもと思っているのは律ばかりではない。
     皮肉にもヴァンパイアの闇堕ちは、愛するものを道連れにしようとする。
    「陽子さんはきっと、月冴さんの事を心から案じていたのでしょう。その思いを無駄にはしませんわ」
     ベリザリオ・カストロー(罪を犯した断罪者・d16065)がそう呟いて、さっと殺気を放った。路地へと近付こうという者もなかったが、付近からさえ人気がなくなっていく。
     人通りが絶えたのを確認して、馬喰・火花(灼熱ハンマーヘッド!・d01994)はサウンドシャッターを展開した。闇堕ちしかけの者と相対するのはこれが初めてだ。緊張していないと言えば嘘になる。
     一方、久篠・織兎(糸の輪世継ぎ・d02057)には正直、仲の良い家族というものがよくわからなかった、のだが。
    「家族が親しいのはよくわからないけど、仲良い人が闇堕ちしちゃったら悲しいよな。俺達で絶対救い出す!」
     大切な人を失った悲嘆と孤独の中で、闇に落ちるなど見過ごせない。
     レイッツァ・ウルヒリン(高校生エクソシスト・d19883)は気を引き締める。助かるとしても一度は倒さなくてはならないが、彼を灼滅者として踏みとどまらせたい。

     内なる囁きに抗うものは、路地の奥で座りこんでいた。
     大柄な身体を台車と段ボールの間に押し込み、髪をかきむしっている。それでも油断なく彼らの接近を把握しているのがわかった。
     発作的に襲いかかって来た時のために、最初に声をかけるのはディフェンダーが担当することになっている。織兎がまず一歩を踏み出した。
    「月冴さん、俺達救いに来たんだ」
     びく、と月冴の肩が跳ねる。咄嗟に動き出しそうになる身体をなんとか抑え、彼はしゃがれた声を押し出した。
    「……なんだ、それ」
    「月冴さん。血を飲みたくてたまらなくなるでしょ? 気が変になりそうだよね?」
     千尋の言葉に愕然と月冴の顔が上がる。認めたくない衝動を指摘されたことはかなりの衝撃だったようだ。憔悴した顔が問うより早く、千尋は語を継いだ。
    「すごくわかる。でも、もう少しだけガマンして。今助けるから」
    「お母さんの事、自分の事……分からない事だらけって、すごく怖くて、辛いんだろうね」
     レイッツァが後を引き継ぐと、月冴はふらつきながら立ち上がった。ブロック塀に身体を預けて、全身を苛む破壊衝動を抑えている。
     火花が黙っていられなくなり、三人の向こうから口を添えた。
    「俺らは、お前さんと似たような力をもってる。そんで、笠井みたいなヤツを助けたいって思ってる。話しに来たんや、聞いてくれるか」
     月冴が頷くのを待って、千尋が苦渋の表情で説明を始めた。
    「お母さんはヴァンパイアになってしまった……ヴァンパイアの闇堕ちは感染する。人と人の絆も歪められ、ヤツらの繁栄のために利用されるんだ。月冴さん、あなたのお母さんへの想いも」
     信じたくなくても、今自分が襲われている衝動を思えば月冴は反論はできなかった。
    「お母さんは闇堕ちして別の人になってしまったんだよ」
    「今月冴さんを誘うのはお母さまを乗っ取ったダークネスのものですわ。お母さまを元に戻す事はできないでしょう」
     織兎とベリザリオが相次いで、月冴に現状を説明する。その全てが受け入れ難いことだろうと思うと、在雛も表情が歪むのを抑えられない。
    「残念だけど、わたし達でもどうしようもない」
    「けど、あなたはまだ間に合いますわ」
     目を細め、真意をはかろうとするような月冴の仕草を見て、観月がそっと口を添えた。
    「……今君が抑え込もうとしている、ダークネスとしての君を一度倒さなければならない。君が意思を強く持ち、ダークネスの囁きに耐え抜くことで、君は君を保てるんだ」
    「あなたを案じ続けていたお母さまに報いるためにも、誘惑を跳ね除けてくださいませ」
     大切な家族はベリザリオにもいる。母親がどれほど月冴のことを想っていたか想像に難くない。みすみす闇堕ちさせることなど考えられなかった。
     内なる囁きに翻弄されながらも、月冴が声を振り絞る。
    「俺は間に合うのに、なんで母さんを、救えない?」
    「普通の人の魂は闇堕ちに耐えられないんだ。君みたいに抗い続けることができず、人格を破壊されてしまう」
     レイッツァの説明に、泣き声とも苦鳴ともとれる吐息をもらして、月冴がずるずると力を失ったように崩れ落ちていく。
    「姿形は母親かもしれん……が、もう既に以前とは別の存在になってしもてる……」
     火花が重くなる口を開いた。今は別ものだとしても、伝え聞く月冴の母親が彼の闇堕ちを望むとは思わない。子供の幸せを望まない親はいないと火花は信じている。
    「なあ、お前を育ててくれたしっかり者で健気なお母さんやったら、お前にどう望むかな。お前さんなら、わかるはずや……」
     思わず火花が一歩踏み出した、その瞬間。
     月冴が獣のような素早さでアスファルトを蹴った。
    「やってくれ! 死んだらそれまでだ!」
     咆哮のように、慟哭のように、月冴の叫びが響く。

    ●打ち込む楔
    「俺が攻撃を止める!」
     火花へと躍りかかる月冴の前に、驚くべき早さで滑り込んだのは織兎だった。緋色の輝きを宿した一撃を代わり受け、にかりと笑う。月冴の中のダークネスが痺れをきらしたようだ。
     封印を解いた妖の槍を一振りすると、観月は穂先から氷柱のような弾を撃ち放った。直撃を受けた月冴へと、あくまでも静かな呟きがもれる。
    「――彼女の、お母さんの記憶を、言葉を、呪いと割切ってしまうことは簡単だ。けど、それはきっと。呪いなんかじゃない」
     きっと、そう、だよね。その言葉は、一体誰へ向けられたものだったのか。
    「それじゃあいくぜ!」
     織兎がシールドで殴りかかる。仲間の盾になるために織兎が怒りを誘発する算段だ。
     たたらを踏んだところへ、千尋のキャリバーが突っ込んだ。かわし損ねた月冴の身体へと千尋がしたたかにサイキックソードで斬りつける。ばきばきと音をたて、月冴の身体を観月が撃った氷が浸食し始めていた。
    「お母さんはどんな人だった? 好きな食べ物、何だった?」
     容赦のない斬撃を浴びせながらも、月冴へと呼びかける声は柔らかい。その問いへ応えようとするように唇が震える。すかさず律が妖の槍を繰り出したが、驚くべき身ごなしで月冴が受け止める。
     カードを解放すると、ベリザリオの身体は紫紺の軍服をまとった。炎を宿した右手から輝く光の輪が飛び、月冴の初撃を受けた織兎の傷を癒す。
     在雛が紅蓮斬で挑みかかったが、素早く退いて月冴がかわす。しかし次の瞬間、火花とノブナガのコンビネーション弾幕が彼を襲った。
    「まだ引き返せる、そんな衝動に負けたらあかん! 月冴、お前の人でありたいって願いを……しっかりと、強く望むんや!」
     月冴には人として生き、灼滅者の道を歩んでほしい。弾丸よりも鋭く叫びが届くことを祈る。
     レイッツァがシールドバッシュで殴りかかり、ナーシアスの霊障波が毒を与える。

     月冴の内なるダークネスは織兎へ赤い逆十字のオーラを叩きつけた。狙いどおりの展開だ。引き裂かれる痛みにさらされた織兎ばかりではなく、身体を蝕む毒と、着実に広がってゆく氷に月冴も苦鳴をあげる。
     しかし織兎はすぐさま、裂帛の気合で催眠をはね除け自身の傷を癒した。
     観月の足元の影が蠢き伸びあがると、月冴に絡みつき身体を切り裂く。機動力を削ぎ、反応を鈍らせるだろう。
     千尋がサイキックソードで描いた逆十字から放たれた赤い光が月冴を襲った。そうしながらも、月冴へ語りかけることを千尋はやめない。
    「あたしの家族も闇堕ちしていった。それも殺されていって……あたし一人だけが、こうして灼滅者として目覚めて」
     続けざまにキャリバーから放たれた機銃掃射でよろけたところへ、律がするりと距離を詰めてフォースブレイクを仕掛ける。激しい衝撃でアスファルトに叩きつけられた月冴へと、在雛の影が襲いかかって絞めつけ、切りつけた。
    「があっ!」
     月冴が獣のような叫びをあげる。その隙にベリザリオは、ディフェンダーに盾の加護を与えるべくレイッツァへとシールドリングを飛ばした。
     火花のガトリング連射、ノブナガの突撃による衝撃が、更に観月の残した氷の侵攻を招く。徐々に、確実に氷は月冴を衰弱させていた。
     レイッツァとナーシアスの連携攻撃はそこへ入った。裁きの光に薙がれた月冴へ続けざまに霊撃が決まる。
     激しい攻撃は、確かにダークネスにダメージを与えている。月冴がその闇に取り込まれてしまっていないか、外からわからないのが悩ましい。

     唸りをあげた月冴がナイフを手に律へと迫ったが、その一撃は千尋のキャリバーが割って入った。火花と異音を撒き散らして距離をとった途端、月冴が毒のスリップに襲われびくりと身体を折る。
     容赦なく、観月は更に妖冷弾を放った。回避がおぼつかない彼の身体を、氷が更に蝕む。
     織兎が更なる怒りを煽ろうと、火花と息を合わせてシールドバッシュで殴りかかった。
    「月冴さんの本当のお母さんは、人を襲うことを良しとしてたか? してないよな! お母さんの為にも、自分を取り戻さないとだめなんだ!」
     したたかに入った一撃に続いて火花のガトリングガンが月冴を襲う。
    「俺達と一緒に行こう、まだ大丈夫、戻れるよ!」
     織兎の呼びかけに、月冴の顔が苦渋に歪む。
     千尋の足元に落ちる影から無数の蝙蝠が群れとなって飛び立つと、月冴へと殺到し彼の自由を奪った。キャリバーが月冴を跳ね飛ばし、律の螺穿槍が避ける暇もなく突き込まれる。
     蓄積していく氷や毒、足に絡みつく影や糸。月冴に回復の術はない。順調だ。ベリザリオは冷静に、千尋のキャリバーが受けたダメージを癒していた。
    「君にはまだ出来る事がある。君と同じ苦しみを味わっている人々を助ける事ができる。わたし達と一緒に来ればそれが出来るの! 頑張って!」
     足が止まってきた月冴へ在雛のギルティクロスが突き刺さる。
     ノブナガの機銃掃射の後にはレイッツァのシールドバッシュとナーシアスの霊障波の波状攻撃。もはや氷は、誰の目にも明らかなほど月冴の身体を覆い侵していた。
     織兎へ放った月冴の紅蓮斬は、軽やかなステップでかわされた。毒と氷に侵された身体に、観月と千尋が息を合わせて踏みこむと戦艦斬りと紅蓮斬で斬り込む。
     織兎が黒死斬で続き、千尋のキャリバーの機銃掃射で月冴の足は完全に止まった。
    「君を見捨てず見守ってくれたお母さんの為にも、踏みとどまれ!」
     ぐらりと傾きかけた彼の身体へ、律が閃光百裂拳を見舞う。月冴は派手に吹き飛んでブロック塀へと突っ込んだ。

    ●断ち切ってもなお、手放さず
     灼滅したのではないかという危惧が一瞬流れたが、幸い、彼はすぐに唸り声をあげて転がった。疲れ切ったらしくアスファルトの上で荒い息をつく。
     駆け寄った織兎がしゃがんで月冴の顔を覗きこんだ。
    「月冴さん!戻ってきてくれて嬉しいよ!」
     彼と火花に手を貸され、起き上がった月冴は生きているという現実に戸惑っていた。半信半疑だった自分の灼滅者としての覚醒。それは、告げられたもう一つの現実を裏付ける。
    「……母さんは、本当にもう」
     その言葉に千尋がふいと顔を背けた。
     自分だけが踏みとどまった。それがどれほどいたたまれない気持ちになるか、彼女も知っている。
     落ちた沈黙へ、抑揚の少ない穏やかな声を投げかけたのは観月だった。
    「優しい彼女を、どうか忘れないでいてくれ」
     その言葉に込められたものが確かに、月冴の顔を上げさせる。
    「……ひょっとしたらそれは呪いより、苦しい事かもしれない。それでも俺は言うよ。忘れちゃ駄目だ。辛くなったら――俺達が、支えるからさ」
     君なら、それを背負って生きられると、信じてる。声にならなかった観月の想いは、確かに月冴に届いていた。
     くしゃくしゃに表情を歪めた月冴が、うつむいてひととき嗚咽をもらす。
    「お前さんの想いは、お前さん自身で大事にしときよ」
     肩を叩きながらの火花の言葉が、身体に沁み入るようだった。

     少し気持ちの整理がついた月冴へ、レイッツァは首を傾げた。
    「君さえ良かったら……僕たちと一緒に来てみない?居なくなったお母さんを探すためにも、きっと役に立つはずだよ」
    「俺が、一緒に?」
     訝しげな月冴に、ベリザリオが学園について簡単に説明した。
    「同じ苦しみを持つ人達を僕たちと一緒に助けてあげてほしいんだ。きっとそれが、お母さんへの何よりもの恩返しになるはずだから」
     律がそう言えば、全く同じことを言おうとしていた在雛が後を引き継ぐ。
    「今まで衝動に耐え続けた君にならできるから。だぁいじょーぶだよ」
     悪戯っぽく笑うと胸元からペットボトルを取り出して手渡した。やけに眠気が飛びそうな名前の栄養ドリンクと同じラベルに、月冴が思わず吹き出す。
    「手品かよ! しかもでかいし!」
    「学園にゃ同じ力や想いをもつ仲間もいる。一緒に歩めたら嬉しいわ」
     火花の言葉に、月冴はなんとも言い難い想いで灼滅者たち見渡した。
     会った事も話したこともない自分の為に、彼らは身体を張った。
    「……そうだな。借りっぱなしはよくないよな」
     自分に人を救うことが出来るなら、そうしよう。これからの自分の歩みが、いつか母親を見つけた時の答えを作ってくれる。
     彼らにも、恩を返す機会があるかもしれない。
    「学園へ連れて行ってくれ」
     月冴の言葉にレイッツァが手を差し出した。
    「これからよろしくね、笠井くん」
     その手を月冴が握り返す。
     獣の牙のように細く鋭い月が路地へ細々とした光を落とす頃、9人となった灼滅者たちはそこを後にした。

    作者:六堂ぱるな 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年8月4日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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