悪の道を進むデモノイド

■リプレイ

●デモノイドロード、荒木・将
　８人の灼滅者が、今はまだ静かな別荘地を走っていた。この場に現れるデモノイドロード、荒木・将を追って。
　その途中、先頭を走っていた神前・蒼慰（中学生デモノイドヒューマン・d16904）が突然よろめき、手で顔を押さえる。人の業を匂いで感じ取るＥＳＰ、ＤＳＫノーズが、強い業を背負った悪人を捉えたのだ。かなりひどい匂いがしたのだろう。
「ど、どうしたの？　大丈夫？」
　いきなりのことに、水瀬・裕也（中学生ファイアブラッド・d17184）が慌てて声をかける。
「ご、ごめんなさい。大丈夫。それより、彼はあっちにいるわ」
　その言葉に従い、彼らは蒼慰が指す方向に向かう。そこにあったのは、一件の別荘。そして、その別荘の門を勢いよく蹴破る、荒木・将の姿だった。彼は何かに気付いたようにその場で振り返って、その場にいた灼滅者を見据えて言う。
「邪魔が入ったと思ったら……へぇ。お前ら、俺と同類か」
「あなたと一緒にしないで」
　そう返したのは、天野・白奈（血を望まない切り裂き姫・d17342）だ。彼女はそのまま言葉を続ける。
「ひとつ、聞かせて。どうして……どうしてあなたはそんな簡単に人に迷惑を掛けられるの……？」
「なるほど、俺の事情は筒抜けか。なに、簡単な話だ。俺自身が迷惑だと感じないからだよ。他の奴なんて知ったことじゃねぇ」
　将は、当然のようにそう答えた。そんな彼に、今度は蘚須田・結唯（祝詞の詠い手・d10773）が言葉をぶつける。
「この力を誰かのためにではなく、自身の欲望を満たすため、悪のために使うなんて……」
「自分の力を自分のために使って何が悪いってんだ。正義だとか悪だとかはどうでもいい。大事なのは、俺が楽しめるかどうかだけだ」
　どの言葉も、将の心に届く様子はない。いや、最初から聞き入れる気もないのだろう。
「なるほど。自分の欲を満たすためなら、何でもするような奴か。始末に負えねぇな」
「放っておくと面倒なことになりそうだし、まぁ……ここで潰しておいた方がよさそうなのは、確かかな」
　吉沢・昴（ダブルフェイス・d09361）と遊木月・瑪瑙（ストリキニーネ・d01468）は、将をそう評価する。それを聞いて、将はにぃっと笑って見せた。
「潰す、ね。やっぱりお前達の目的は、俺の命か」
「あぁ。お前の気持ちは分からんでもないが……気まぐれで奪われる方はたまったもんじゃねぇんだよ。残念ながら俺とお前は、不倶戴天だ！　ウェイクアップ！」
　そう言って、虹燕・ツバサ（紅焔翼・d00240）はスレイヤーカードを掲げ、瞬時に戦闘態勢を整える。他の灼滅者も同様だ。
「ほう。だが、そっちがその気なら、こっちも奥の手を出すまでだ」
　将がそう言うと、彼の体はデモノイド寄生体に覆われていく。そう時間をかけず、将はデモノイドそのものになってしまった。
「成程、これがデモノイドロードか。闇に抗う魂の強さは素晴らしいが……しかしそれが悪ではな」
　将のデモノイド化を見て、伐龍院・黎嚇（アークビショップ・d01695）がそうつぶやく。
「デモノイド寄生体。あの闇に捕まったのは不運だけど……それを楽しみ悪事を重ねる人を、私は許すわけにいかない！」
　蒼慰がそう言い終わるのと、その場の全員が動き出したのは、ほぼ同時だった。

●デモノイドロードの戦い
　『将を西には行かせないように注意しろ』。そのエクスブレインからの情報に従って、灼滅者は素早く西側のエリアに陣取り、その最中に、蒼慰はソニックビートで将を攻撃する。しかし将は、ひらりとその攻撃を回避した。
「避けられた？　意外に素早い……なっ！？」
　蒼慰は思わず驚く。攻撃を素早く避けた将は、その勢いのまま、先程自分が壊した別荘の扉を引っ張り出し、灼滅者に向かって投げ飛ばしたのだ。
「せこい手を使いやがって……」
　そう言って、飛んできた扉を爪で切り飛ばすツバサ。しかしその隙を突き、将は一気に灼滅者との距離を詰めた。そして至近距離から光線を放ち、前衛を一斉に攻撃する。不意を突かれた攻撃に、誰一人攻撃を回避できる者はいない。
「みんな、大丈夫！？」
　瑪瑙が素早く、前衛全員の体力を回復させる。完全回復とはいかないものの、ある程度の体力回復に成功した。
「素早くて攻撃が当たらないか。なら、これはどうだ！」
　昴はそう言って将に向かって飛び込み、足の腱を狙って突きを放つ。その的確な一撃に、将の動きは目に見えて鈍った。
「よし、今だお前ら！　合わせろ！」
　ツバサの呼びかけに、黎嚇と結唯がうなずく。３人は連携し、一斉に攻撃を仕掛けた。
「そんじゃ、奪われる方の気分味わってみな！　――紅燕・餓龍斬！」
　ツバサが体力を奪う斬撃を、黎嚇はトラウマを植え付ける一撃を、結唯は将の体を凍らせるつららを撃ちこみ、将の体力を一気に奪う。
「まだ終わりではないぞ？」
　殺戮姫となった白奈が、将を斬りつけ追撃する。更に、霊撃を放つビハインド、葉と共に、裕也がシールドを叩き付けた。
「人目のないとこでこそこそしてさ、誰かに見つかって追いかけられるのが怖いの？」
　同時に仕掛けたその挑発は成功したようで、将は腕を刃に変えて裕也に斬りかかった。ただし、地面の砂を蹴り上げ、目潰しをした後に。
「くっ……」
　またもや隙を突かれ、斬撃をまともに食らってしまう裕也。かなり深い傷を負ってしまったが、待機していた蒼慰が、強化させていたヒールサイキックで彼の体力を回復させる。
「さっきといい、今といい……卑怯な戦い方ばかりね」
　そうつぶやく蒼慰に、将はグッグッというような奇妙な笑い声を上げ、言葉を発した。
「グッグッグッ……ナニシテモ……カテレバ、イインダヨ」
　そう言って、口の辺りを歪ませて、笑う将。そかしその隙を逃さず、黎嚇が影を操り攻撃を仕掛けた。
「それがお前の、闇を抑え込んだ悪の心か。しかし……見ていて気持ちのいいものではないな」
　黎嚇の影が無数の刃となり、将の体を切りつけていく。最後の一撃は将の体を貫き、致命的なダメージを与えた。
「その悪の心、伐龍院が神に代わり、裁きを下す」
「グ……チョウシニ、ノルナヨ……！」
　巨体を振り、黎嚇の影を払った将は、苛立ちをぶつけるように、灼滅者に向かって飛びかかった。

●悪の行くべき先
　開放感があると評判の別荘地の一角は、灼滅者と将の戦いによって、見る影も無く荒らされてしまっていた。それほどに、将との戦いは凄まじかったのだ。彼は、自分が持つ力に振り回されず、その状況に合った立ち回りをしている。もし彼が灼滅者となったら、相当な実力者になっていただろう。
「どうして……どうしてその力を、正しい事に、誰かを救う事に使わないのですか！」
　思わず結唯の口から、こんな言葉が出る。しかし将の口からは、笑いまじりの言葉が出るのみだ。
「ダレカヲスクッテ……オレニ、ナンノイミガアル？」
「……話しても無駄なのですね。なら私は、あなたを全力で止めてみせます！」
　結唯はセイクリッドクロスを使い、光の帯で将の武器を縛る。そして直後に動いた昴が将を斬りつけ、将の攻撃を更に封じた。
「これでお前のバカ力も、役に立つまい」
「グッ……キサマ！！」
　将は、攻撃を仕掛けてきた昴に向かって光線を放つ。しかしこの攻撃は、間に入った白奈が代わりに受けた。反撃に、強酸の雨を撃ち返しながら。
「助けられたな。礼を言う」
「構わぬ。それより、彼奴の動きが止まった。攻め込むなら、今であろう」
　瑪瑙の回復を受けながら、白奈が言う。将には、不意に受けた酸の攻撃と、心と体を蝕む氷やトラウマのダメージにより、大きな隙が出来ていた。
「じゃあ、もう一度連携で行こう！　みんな、にーちゃんの動きに合わせて！」
　裕也のビハインド、葉が、霊障波の構えを取る。それに合わせて、３人の灼滅者が攻撃の準備に入った。
「今だっ！」
　裕也の一声で、全員が同時に動いた。葉の霊障波を起点に、裕也が妖冷弾、蒼慰がＤＥＳアシッド、詰めに黎嚇が影喰らいを撃つ。遠距離からの一斉攻撃に、将の体がふらりとよろめいた。
「よし、ここで決めるぞ！」
　ツバサが斬艦刀を取り出し、将を追撃しようとする。しかし将はツバサの影を捉え、右手のセイバーで彼を思いきり斬りつけた。
「ぐっ……」
　本来は、一撃でツバサの意識を刈り取るはずの攻撃だった。しかし、結唯と昴が武器を封じていた影響で、攻撃の途中、将のセイバーはパキンと二つに割れてしまった。ツバサは、間一髪で一命を取り留める。
「ぐっ……残念だったな。だが、ここで終わりだ。何度でもいうぞ、不倶戴天だ。　――飛燕・天地咆哮斬！！」
　ツバサは、斬艦刀に全ての力を込め、将を大上段から斬りつける。目に見えて弱った様子の将。しかし、注意すべきはこの後だった。
「……マズイ、ココハ……」
　そう言って将は、最後の力を振り絞って走り出す。逃げる気なのだろう。向かうのは西側の森。逃げるのに最適の場所だ。しかし、そちら側には既に多くの灼滅者が陣取っていた。
「ググ……ドケッ！」
「どかないわ！　ここで、あなたを通すわけにはいかないの！」
　蒼慰はそう言って、手に持つウロボロスブレイドで将を捕縛する。続けて、距離を取って戦っていた黎嚇、結唯、昴が、次々に将の動きを止める攻撃を仕掛ける。だが、まだ将は止まらない。
「じゃあ、これならどうかな？」
　瑪瑙は、もう間近まで迫っていた将にそう言い、影を操り、彼の足元をからめ捕る。
「（単純……）」
　口にはせずとも、表情でそう語り、瑪瑙はぎちりと、影の絞めつけを一層強くする。
「人目を恐れて隠れて悪逆をする輩に、似合いの場所がある……」
　動けなくなった将の背後から、殺戮姫、白奈の声がする。彼女は片手を刃に変え、デモノイド化した将を真っ二つに引き裂いた。
「誰の目にも付かない常闇の底、お主には似合いの場所よ」
　将は何かうめきながら、黒く腐ったように崩れていく。そして最後には、痕跡も残さず、その場から消え去ってしまった。

●一戦終わって
「任務、完了」
　ツバサは斬艦刀で十字を切り、元の姿に戻る。他の灼滅者も同じく、スレイヤーカードを使って、装備を解除していた。そして黎嚇は、さっきまで将が居た場所の前に立ち、十字を切る。
「そこまでしてあげるだけの人には見えなかったけど？」
　彼の後ろから、瑪瑙が声をかける。
「たとえ悪人であっても、人ならば人として弔ってやろう。そう思ったまでだ」
「……そっか」
　あまり興味も無さげに、瑪瑙は黎嚇の言葉に相槌を打つ。
「皆さん、動けますか？」
「帰る前に、この場を片付けていきたいと思うんですけど」
　白奈と結唯が、そう提案する。しかし、激しい戦闘だけあって、周囲はかなり荒れていた。灼滅者たちは、揃ってげんなりとした顔になる。
「か、可能な限りですよ。その後は、専門の人に任せることにしましょう」
「……まぁ、確かに、これの何割かは、私たちのやったことでもあるものね。多少は片付けた方がいいかもしれない」
　蒼慰が二人の提案に応じ、残りの５人もそれぞれ動き始めた。完全にとはいかないものの、彼らのできる範囲で、荒れた別荘地を掃除していく。
「こ、こんな所かな……一戦やった後だと、かなりきついね、これ」
「だよな……あー、疲れた」
　裕也と昴がそう言うのと同時に、８人全員が座り込んで休憩する。一応、一通りの片づけは済んだ。あとは、専門の人間に任せるしかないだろう。
「あ、せっかくだから、みんなでメシ食って帰ろうぜ。別荘地ってぐらいだから、近くにうまい外食屋もあるんじゃないか？」
　その昴の提案には全員が賛成し、それぞれがどんな料理を食べたいか、などの雑談を交わしながら、彼らはその場を後にした。それは、いつ闇堕ちしても、また、いつ荒木・将のようになってもおかしくない、不安定な存在である彼ら灼滅者にとって、とても貴重な時間だった。

作者：時任計一	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2013年8月12日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 13／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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