こんにちは、すれいやー 

    「すれいやーえ
     おまえらのてきがいる。きゅいいいん、て、いう。はものとでんきのおと、きらい。なんとかしてくれ。はやく」
    「汚い字。読みづらいなぁ……」
     須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)の持ってきた手紙を囲んでいた灼滅者たちだったが、その一人が呆れた口調で感想を述べた。お世辞にも読みやすい手紙とは言えず、送り主の記載の代わりに肉球のスタンプがぺたりと押されてあったりした。
    「うん……でも、せっかくの情報だし、被害が出る前に解決しておこうと思うんだ」
     しかし、このような拙い手紙でもダークネス、それも獣の姿を取ったイフリートから送られてきたというのだから驚きだ。事件が起きる前の貴重な情報であるのに違いはない。苦笑いを浮かべつつも、まりんは携えていた資料を灼滅者たちの前に展開して説明を始めた。
    「場所は島根県 津和野町の山中にある工事現場だよ。機材は置きっぱなしになってるけど、もう何年も前から作業が中止されているみたい」
     普段からその工事現場に人の気は殆どないようで、今回手紙をくれたイフリート達はその付近に生息しているらしい。彼らが人の目を避けるのに山中であるのは必須なのだろう。
     それでも、人がいる可能性がゼロでないのに彼らが出てくることはない。自分たちで蹴散らすことはせず、従って拙いながら灼滅者たちに情報を渡すことにしたのだろう。
    「さて、今回のターゲットははぐれ眷属、チェインキャタピラーだよ。頭にチェーンソーの刃を生やした、大きなイモムシ型のはぐれ眷属だね」
     調べたところ、八匹のチェインキャタピラーが工事現場をねぐらにしているという。ダークネス程の強敵ではないが、数がいるので囲まれれば厄介かもしれない。
    「あと……これは私的なお願いなんだけど……」
     はぐれ眷属とはいえ、油断はできないだろう。気を引き締めていた灼滅者たちに、ふとまりんが遠慮気味に呟いた。自身の持ってきた資料の一番下からおもむろに取り出したのは、いくつか付箋のはさまれている津和野町の観光ガイドだった。
    「折角の温泉街だから、日頃のねぎらいに一泊位はしてきてもいいって。でね? その、ついででよかったらでいいんだけど……この「源氏巻き」っておやつを買ってきてくれたらうれしいなぁ……って……」
     一泊旅行、そして照れをごまかすように笑う珍しいまりんの姿に、灼滅者たちは笑みが抑えきれなかった。


    参加者
    藤堂・悠二郎(闇隠の朔月・d00377)
    棲天・チセ(ハルニレ・d01450)
    鈴鹿・夜魅(紅闇鬼・d02847)
    流鏑馬・アオト(蒼穹の解放者・d04348)
    成瀬・圭(ミッドナイトディージェイ・d04536)
    皇樹・桜(家族を守る剣・d06215)
    清浄院・謳歌(アストライア・d07892)
    御門・美波(こころのアストライア・d15507)

    ■リプレイ


    「あ、戻ってきたー♪」
     津和野町の山中にて。手を日除けにしてしばらく空を見上げていれば、皇樹・桜(家族を守る剣・d06215)が空を舞う人影を見つけて楽しげに声を張った。
    「みんなお待たせっ!」
    「おうっ。それで芋虫はいたのか?」
    「えへへ、ちゃーんと八匹、確認してきたよ」
     偵察の為、箒に腰を据えて青空を飛行していた清浄院・謳歌(アストライア・d07892)が、くるりと方向を変えて灼滅者一同の前にそっと降り立つ。成瀬・圭(ミッドナイトディージェイ・d04536)がポケットに手を突っ込みつつ尋ねると、微笑んだ謳歌はこくりと頷いた。
    「よし。それじゃ、人に見られる前にさっさと行こうか」
    「ったく、こんなへんぴなところに呼び出しやがって……。速攻で終わらせようぜ」
     謳歌を待っている間は静かに読書をしていた藤堂・悠二郎(闇隠の朔月・d00377)が、目を落としていた本を畳んで座椅子にしていた岩からそっと立ち上がる。鈴鹿・夜魅(紅闇鬼・d02847)は多少むくれた様子でそこらの石を蹴りつつも、一同と共に歩き出した。

     予知された場所は、殆ど廃墟同然の工事現場である。草をかき分け不便な山道を渡って到着した一同は、そこいらに置きっぱなされた機材や重機に慎重に目を這わせつつ奥へと進んだ。
    「うーん、静かだね。機材の裏にでも隠れてるのかな?」
     工事現場を進み、しかしターゲットが一匹も姿を現していないことに、御門・美波(こころのアストライア・d15507)がいたるところに視線を当てがいつつ呟く。
    「かもな。どっちにしろ、奴らが出てくる前に戦場は作っとくか」
     一抹に過ぎない不安とはいえ、一般人が迷い込む可能性がゼロでない。思わぬトラブルを危惧した夜魅は殺界形成を発動し、戦闘が始まってしまう前に一般人の接近を抑制した。

     キュイイイイイイン!!
    「ひっ!!」
     それなら機材やらの影を探してみようかと一同が思い立った、その矢先の事。そんな一同を警告するよう現場に轟いた、金属がこすれあう不協和音。直に鼓膜をつんざくような不快な音色に、棲天・チセ(ハルニレ・d01450)が咄嗟に耳を塞いだ。
    「うわ~っ! チーこういう音、ニガテなんよ~」
    「あっ、アイツらっ!」
     不快な音が響く中、いち早く音の発生源を見つけた流鏑馬・アオト(蒼穹の解放者・d04348)が、目を絞って耳をふさぎつつも、片手でそれらに指を突き刺した。
     機材や重機の影から何匹も現れ出てきたのは、頭に生えたチェーンソーの刃が生えた巨大なイモムシ。前半身を持ち上げ侵入者たる灼滅者たちを威嚇して、その刃を回転させて耳障りな音を鳴らしていた。


     最早敵だと認識しているのだろう。チェーンソーの音がひとまず落ちついたとしても、チェインキャタピラーたちは灼滅者たちを睨み続け、あからさまに迎撃の構えを見せている。
    「ひと汗かいてからの温泉は格別だろうな。さっさと片付けてしまおうか」
     油断は禁物。だが、あまり時間がかかるのは今後の津和野町観光の事を考えるとよろしくない。細い目で淡く微笑むと、悠二郎はそっとスレイヤーカードに口づけした。
    「さあ、狩りの時間だ!」
     陽気に言って、桜がさっそく工事現場の砂地を駆けた。手にした魔導書のページを開き、その文字列を指でなぞる。敵との距離を見計らった直後、発現させた灼熱の大炎が、前列にいたチェインキャタピラー五匹を丸々呑みこんでかかった。
     延焼する炎に横長の身を転がしつつも、チェインキャタピラーたちは怒りの咆哮の代わりに金属音を轟かせる。
    「掛かってきな虫ケラども! ミンチにしてやるよ!!」
     握った釘バットを突きつけ、圭は高らかと言い放つ。バットを振りあげて飛び掛かると、前衛の一体目掛けて勢いよく殴り飛ばした。
     攻撃はその打撃だけに留まらず、バットの命中した箇所にサイキックの爆発が追撃する。衝撃はそのまま止めとなり、喰らった一体はぐったりと動かなくなった後、影と化して立ち消えてしまった。
     さっそく一体。傾いた攻勢に更なる勢いを乗せようと、アオトは自身より前方に待機させておいたスレイプニル(ライドキャリバー)に合図を送る。
    「まずは機銃でチャンスを作る! スレイプニルっ」
     アオトの掛け声で、騎士の格好をとったスレイプニルがこくりと頷く。ホイールを唸らせて疾走し、装備された機銃より連射された弾丸が、前衛のチェインキャタピラーに次々と撃ち込まれる。
     目の眩むような弾幕により怯ませた隙に、アオトがサイキックを纏って身構えた。手を掲げ、その先に鈍く輝くサイキックを集約、続けて発射された暗黒色の弾丸が前衛の一体へと撃ち込まれ、吹き飛ばすと同時にその体を影へと帰した。
    「きゃっ!」
     ふと、前衛にいる個体が頭部のチェーンソーを喚かせ始める。太った体を丸め、だんご状になった身体の表面をチェーンソーの刃で覆う。全身武器となったその体で、謳歌とアオトに勢いよくぶつかりかかっていった。
    「いてて……もうっ、許さないんだからっ!」
     衝撃に尻もちを突き、地面に打ち付けた腰をいたわるようにさすりながら謳歌が立ち上がる。その手には魔道書があり、開かれたページと掲げた手でサイキックを発現。轟々と燃え広がる炎が前衛にいた五匹全てを、力尽きその後に残った影すらも残さず焼き払ってしまった。
    「後は三匹……おっと」
     攻撃が終わり、落ち着いてゆく炎の後。残る敵の数、並びに戦闘の順調さを確認していると、こちらへ転がってくる巨大な影が目に移り、悠二郎は咄嗟に手を重ねて身構えた。


    「……っと、そろそろ終わらせようか、いつまでも付き合っていては日が暮れてしまう」
     喰らった突進攻撃による衝撃を受け流し、悠二郎が迫ってきた個体を睨みつける。それが再び距離を取ってしまう前に素早い駆動で距離を詰め、黒いサイキックを宿した手刀を、その個体の背面をえぐりぬくようにして突きこんだ。
     体液の代わりに黒い影が傷口からほとばしる。悲鳴のような甲高い呻きを上げたチェインキャタピラーだったが、それがのたうちまわるようにしてようやく後列へと戻った後には、すでにマテリアルロッドを掲げ、サイキックを練り終えていたチセが狙いを定めてあった。
    「きっちり片付けてチーたちは温泉街で遊ぶんよ、悪く思わんとってね!」
     小さく舌を出しつつもニコリと笑って、チセがロッドを振りかぶる。すればサイキックが発現し、間もなくして巻き起こった竜巻が後列の三匹を呑みこみ、熾烈な疾風の刃で切り刻んでかかった。
    「キーキーうるせぇ奴、いい加減黙らせてやろうじゃねぇかっ!」
     竜巻が落ち着いた時には、すでに傷を負っていた一体が跡形もなく消え去っており、残った二体が空からぼとぼとと落ちてくる。夜魅は鼻息を荒くして意気込むと、肩に乗せて抱えていたサイキックソードをくるりと手繰り、地を蹴って颯爽と斬りかかった。
     勢いを乗せた渾身の斬撃は見事に命中。それに続くかのようにチセのシキテ(霊犬)が、今しがた攻撃を食らった個体に追い立てるように駆動する。夜魅の斬線に沿わせるよう、顎に咥えた刀で斬りかかる。
     夜魅とシキテの攻撃で残る二匹のうち一匹が消滅したのを見て、美波が身軽に跳躍し、バトルオーラの半翼をはたつかせて宙を舞った。
    「えへへ。これで終わり、だよ?」
     残る最後の個体。その背後に立ち、体を掴む。それに反応させるまでもなく、美波は掛け声と共にその体を持ち上げ、背後の地面にその脳天から叩きつける。
     止めには十分な一撃であった。美波の投げを食らった個体は少しその場でのたうつと、間もなく力尽きたように動かなくなる。その体はどろりと影になって溶け、かと思えば呆気なく霧散してしまった。


    「お土産が多くて景色もきれいで、ここっていいとこなんだねぇ~♪」
     はぐれ眷属との戦闘も終了。待ちに待った観光の時間が訪れて、ベンチに腰を下ろした桜が緑茶のペットボトルの蓋を開ける。その腕にはまりんに頼まれていた源氏巻と、私用の土産の袋などがぶら下がっていた。
    「こうやってのんびりするのも、たまにはいいものだな」
     ここは古町のゲームセンター。絶えない電子音をなんとなしに聞いていると、同じく飲み物のペットボトルを買ってきた悠二郎が話しかけてきた。桜の隣に腰をおろし、足を組みつつ蓋をねじってそれを口にする。
    「悠二郎さん、食べ物選んでる時とか、とっても楽しそうだったよねー♪ ちゃんとガイドブックとか持ってたし♪」
    「っ……! 別に、そんなこと……」
     桜が無邪気な笑みでそんなことを言う。吹きかけた飲み物を置き、戸惑いを浮かべた悠二郎はそれを隠すようにそっぽを向いてしまった。桜は首を傾げつつ、同じようにゲームを楽しんでいる一同へと目を向けた。
    「やった! おれの勝ちっ!」
    「ぐぬぬ……」
     古めかしいゲーム機にて。嬉々としてガッツポーズを決め込んだアオトが声を張った。その前では圭がゲーム機の画面にうずまりこみ、苦い顔をしている。
    「……アオトっ! もう一回! もう一回だ、次こそ俺が勝つ!」
     一本指を突き立てた圭が、半場強引にアオトを着席させる。受けて立ったアオトはコインを入れ、再びゲーム画面がリロードされた。
    「あぁ、難しいよぉ……もう一回!」
    「あ、でも、最初にこれを狙ったらいいんじゃない?」
     そんなアオトの隣では、立て続けに移りゆくゲーム画面に美波が目を回していた。プレイしているのはシンプルなパズルゲームであったが難易度はなかなかに高く、美波の隣で頬杖をついてその行く末を見守っている謳歌も、序盤での助言は浮かぶものの、後半になれば美波に同じくして嘆息がこぼれるばかりであった。

    「ゲームもいいけどよぉ、そろそろ温泉行こうぜ」
    「お宿のチェックインがそろそろなんよ~」
     ふと、ゲームセンターで各々の時間を過ごしていた一同へ、肩をすくめている夜魅と、楽しげな雰囲気につられて笑みを浮かべているチセがゲームセンターの扉から口を開く。更に二人と行動を共にしていた、チセのリードで繋がれたシキテがワンと吠えた。
    「あぁ、もうそんな時間か」
    「むむ、仕方ねぇ……。アオト、決着は明日までお預けだ!」
     夜魅とチセはシキテの散歩がてら宿の場所を確認しに出かけていた。悠二郎や圭たちは自然と立ち上がり、扉を抜けた夜魅とチセの後に続く。
    「さっきはんぶんこした焼きアユ美味しかったね、シキテ~」
    「わっ、シキテちゃんそんなの食べたの!? いいなぁ~」
    「まぁ、焼き魚なら宿の晩飯で出るみたいだけどな」
     うらやましげな顔で謳歌がシキテの頬をくすぐると、夜魅が手をひらつかせて答えた。任務も無事に終え、これからゆっくりできるかと思えば自然と足取りも軽くなる。土産の袋をしっかり抱えた一同は軽い足取りで宿へと向かった。

    作者:ゆたかだたけし 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年8月18日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 8
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