喜『 』哀楽

    作者:零夢

     夏休み最初の週末、なんだかお姉ちゃんは機嫌がよかった。
     どうしたのって訊いたら、ナントカくんとコンサートに行くのって、嬉しそうにチケットを見せてくれる。
     ナントカくん……名前は覚えてないけど、いっつもお姉ちゃんと仲良くしてる男の人。
     おんなじ学校の人なんだって。
     でも、おんなじ学校の人とはいつも会ってたんだから、夏休みはみほの日だよね?
     みほのために、時間作ってくれるってゆったもん。
    「なんで? 夏休みに入ったら、一緒にプールってゆってたじゃん!」
    「でも、夏休みは他の日もあるでしょ? 来週の日曜日じゃだめ?」
    「だめっ、ぜったい、ぜったいぜったい、その日じゃなきゃヤなの!」
     グーに握った手をぶんぶん振って、一生懸命お願いする。
     ……なんて、ほんとは、来週も再来週も、ずっとみほの日が良い。
    「どうして? お姉ちゃんにはお姉ちゃんの日があってもいいでしょ? チケットだってもう取っちゃったんだし――……あっ!」
     ばしっと、お姉ちゃんの手からチケットを奪いとる。
     これがなければ。
     これさえなかったら、お姉ちゃんは。
    「満星っ!」
     怒鳴り声。
    「……ぁ、っ」
     思わず、びくっと震える。
    「何でわからないのっ? そんな我儘言うんだったら、もうどこにも一緒に行かないよ!?」
     やだ。
     やだ。
     そんな顔しないで。
     そんな目しないで。
    「……ぅ、ぁ、……――っっっ!!!!」
     何を言えばいいのかわかんなくて、とっさに背を向け走り出す。
    「満星っ!!!」
     後ろからお姉ちゃんの声がする。
     やだよ。
     怒んないで。
     怒んないでよ、お姉ちゃん――!
     ……気づけば家を飛び出して、手には、くしゃくしゃのチケットが握られていた。
     
    「……とはいえ、あくまで子供だからな。逃げ出したからといって、帰るべき場所も帰ることのできる場所も、一つしかあるまいよ」
     言って、いとおしむような笑みを浮かべたのは帚木・夜鶴(高校生エクスブレイン・dn0068)だった。
     少女は不安と恐れを抱えながら、誰にも気づかれぬよう、真夜中に家へと帰りつく。
     萎れたチケットを手に、足音を忍ばせ、自分の部屋の戸を開ければ、そこには妹の帰りを待ち疲れ、机に伏せて眠る姉の姿があった。
    「そして、少女、屑川・満星は姉の中から『怒』という感情を消すべく、シャドウとして闇堕ちするのさ」
     
    「怒りというのはなかなかに厄介な感情だが、それでも、人間の基本感情として欠かせない程度には大切なものなのだと私は思う」
     怒りを出さねば壊れてしまう何かがあって、
     怒りを受けることで得られる何かも、きっと。
    「だが、満星はその感情こそが仲違いの原因だと思ったわけだ。だから、姉である満月の夢にソウルアクセスし、その心から怒りを消し去ろうとしている」
     そのまま目が覚めたら、きっと嫌われてしまうから。
     プールの約束なんかより、本当は他の人のもとへ行ってほしくなかっただけ。
     あのとき怒らなければ、怒られなかった。
     『怒』という感情さえなければ、ずっとずっと、仲良しでいられるのに――。
    「……自宅へと帰ってきた満星に接触する方法は二つ」
     一つは彼女の部屋で待ち伏せし、現実世界で戦うこと。
     この場合、満星の能力は格段に上がるが、姉である満月を交えての説得が可能になる。
     二つ目は、姉のソウルボードにアクセスした満星を追い、満月の夢の中で戦うこと。
     ソウルボード内ではシャドウとしての満星の能力は制限されるが、配下を連れている上、満月を交えての説得は不可能だと思っていい。
     だが、どちらにしろ、呼びかけ次第で満星の能力を変化させることはできる。
    「どちらにするかは、きみたちに任せよう。今ならまだ、満星を助けられる段階だ。何より、想いの揺れる小さな心をダークネスに取られるなど、癪じゃないか」
     夜鶴は、うっすらと笑ってみせる。
    「……期待しているぞ、灼滅者」


    参加者
    睦月・恵理(北の魔女・d00531)
    和泉・風香(ノーブルブラッド・d00975)
    草壁・夏輝(深蒼の逃避者・d01307)
    由井・京夜(道化の笑顔・d01650)
    織凪・柚姫(甘やかな声色を紡ぎ微笑む織姫・d01913)
    皇・なのは(へっぽこ・d03947)
    崇田・來鯉(ニシキゴイキッド・d16213)
    小早川・里桜(心惑いし贖罪者・d17247)

    ■リプレイ

    ●あなたを待つ人
    「……さん、満月さん」
     月明かり照らす部屋の中、柔らかな声に誘われ、呼ばれた彼女はゆっくりと目を覚ます。
    「ん…… 、ほ?」
     眠たげな眼を擦り、呟く名前。だが、答える少女はいない。
     ここにいるのは8人の灼滅者。
    「起こしてご免なさいね。でもね、貴女に大事な用があるの」
     睦月・恵理(北の魔女・d00531)は宙に浮かぶ箒に腰掛け、そっと微笑した。
     未だ夢の中にいるような感覚さえ覚える光景に、満月は戸惑うように周囲を見回す。
    「え、と……」
     この人たちは何者だろう――その疑問が警戒に変わる前に、由井・京夜(道化の笑顔・d01650)が声をかけた。すると、満月の顔から疑念の色が僅かに薄れる。プラチナチケットの効果で、この場に適当な人物に見えたのだろう。
    「満星ちゃん、思い悩んでいたよ? 君に嫌われたかもって。彼女はね、お姉ちゃんである君のことが大好きなだけなんだ」
    「――っ、わかっては、います。でも」
     どうしたら、と俯く満月に、織凪・柚姫(甘やかな声色を紡ぎ微笑む織姫・d01913)がその手を取った。
    「満月ちゃん、お願いがあります」
     それはとてもとても簡単なこと。
    「満星ちゃんを……大切な妹さんを助ける為の力を分けてください」

     軋む床板、小さな足音。
     僅かに空いたドアの隙間から届く音が少女の帰宅を知らせる。
     そぉっと、そぉっと――何も知らぬ少女は、ゆっくり、躊躇うようにノブに手をかける。
     息を吸って。
     心を決めて。
     ドアを開けて。

    「「「「「「「「「  おかえりなさい  」」」」」」」」」

    「………………え?」
     優しい声と、温かな笑顔。
     九重に響いたお迎えに、少女――満星は驚いたように立ち尽す。
     恵理、和泉・風香(ノーブルブラッド・d00975)、草壁・夏輝(深蒼の逃避者・d01307)、京夜、柚姫、皇・なのは(へっぽこ・d03947)、崇田・來鯉(ニシキゴイキッド・d16213)、小早川・里桜(心惑いし贖罪者・d17247)、そして満月。
     その声に、その光景に、満星の瞳に潜む闇が揺らぐ。
    「みほ……っ」
     崩れそうな笑顔を浮かべ、姉は震える声で妹を呼んだ。

    ●言えない言葉
    「……ね、ちゃ……」
     身動きを忘れ、切れ切れに紡ぐ満星を「いらっしゃいな」と恵理が招く。
     ダメよ、こんな遅くまで、と。
     けれど踏み出せない満星を、夏輝は目深に被ったフードの下から真っ直ぐに見つめた。
    「……大丈夫……あの時、怒ってても……お姉ちゃんは……あなたを嫌いになんか……なってない」
     ゆっくりと伝えられる言葉。
    「本当に嫌いなら……心配して……帰りを待ったり、しない」
     否定できないそれに、満星は眉をよせ、ばつが悪そうに唇を突き出す。
     握りしめる右手、それがこっそりと体の影に隠されるのを里桜は静かに見ていた。
     くしゃりと握られたチケット。萎れても捨てられず、破られずに持ち帰られたそれを、満星はポケットにしまう。いや、隠す、なのだろうか。
     里桜は咎めない。
     嫌なことから目を逸らしても、『怒』の感情を消しても、根本的には何も解決しない。
     その消失が意味するもの――それを満星自身が気づけるよう、今はまだ、祈るように見守るだけだ。
    「意地にならずに話せるかの?」
     風香は膝を曲げて、満星の顔を覗き込む。
     すると、満星はゆっくりと縦に首を動かした。
    「うむ、良い子じゃ」
     安心させるような微笑みを浮かべ、風香は満星と共に歩き出す。
     一歩、二歩、……そして、姉妹は向かい合う。
    「お姉ちゃん」
    「……なあに?」
     満星の呼びかけに満月が応える。
     満星の帰宅直前、皆が満月に頼んだことは二つ。
     笑顔で満星を迎えること、そして、怒らずに満星の話を聞いてあげること。
     満月は姉として精一杯それを守ろうとしていた。
    「お姉ちゃんは、怒る……?」
     泣きそうな声。
     満月は答えようと口を開くが、満星はそのまま、ぽつりぽつりと涙の代わりに想いを落とす。
    「怒るの、や……怒ったら――怒るから――やだよぉ……!」
     なのはは満月の隣で、吐き出される想いをじっと受け止める。
     怒らないでほしい――それは、なのはにも覚えのある気持ちだった。だから満星の感情がわからないわけではない。
     きっと、怒っていない時のお姉ちゃんは優しくて、怒られたらそれが離れていくようで怖くて。
    「お姉ちゃん、怒って行っちゃう……、ばらばらんなっちゃう……」
     満星――静かに呟く満月の声が、京夜の耳に届く。
     少女の言葉に込められるのは、嫉妬とか独占欲とか、大切な人だからこそ向けられる気持ち。『怒り』があるからこそ生まれる気持ち。
     ならばそれは、本当に否定されるべきものなのだろうか?
    「ずっと、いっぱいいっしょにいたいのにっ……!」
     大好きなおねーちゃんを取られたくなくて、自分だけを見て欲しくて。
     そんな満星に、來鯉は自分の妹を思う。
     何度もぶつかって喧嘩して、だけど、妹が大切だって気持ちは絶対に変わらない。
     『きょうだい』の絆は、特別な強さを持っている。
     それは、満星と満月だって同じはずだ。
     待っていてくれる人の存在。
     笑顔で迎えてくれた意味。
     満星を取巻く鋭い空気が、ふと緩む。
    「怒るの、やだ、けど…………、でも」
     変わろうとする彼女を、柚姫は胸の内で応援する。
     大切な人がいれば強くなれる。しっかりした意志を育める。
     だから。
    「……お姉ちゃん、……ごめ ――――」
     少女の心が大きく揺らいだ瞬間、内なる影が全てを呑んだ。

    ●気持ちの行き場
    「『怒り』なんていらない、いらないんだよ!」
     闇に沈み、不釣り合いな笑みを張り付け飛び出す満星を來鯉が抑える。
     展開した障壁を手に、全身を使って押し出す先は廊下。満星だけでない、姉も部屋も守るために。
    「満星っ」
     咄嗟に立ち上がった満月を、二匹の霊犬が制す。
     ミッキーと珠ノ後衣紋だ。
    「大丈夫、対処についてはコッチがプロだから」
     京夜はそう笑いかけると、満月の前に立ち、戦場へ向けられた視線を遮る。
     そして放つ神薙刃――激しく渦巻く風刃が満星を斬り、重なる衝撃に小さな背は壁を叩いた。
     状況の見えぬ満月は、ただ顔を曇らせる。
     そんな彼女に風香が声をかけた。
    「お主らのことは妾達が守るでな、お主はここから、言葉で妹を守ってやってほしいのじゃ」
     満月にも姉としてできることはある。その頼みに、彼女は頷きを返した。
     それを認めると、風香は廊下に立つ満星に向き直る。
     既に体勢を直しているところを見るに、あの程度は余裕らしい。
    「少し痛いかもしれないけど、ごめんね。その力は私たちが受け止めるよ」
     だから、今は――。
     なのはは懐へと潜り、握った魔槍を一直線に突き出す。螺旋の力でその身を穿てば、ナイフを構えた夏輝が続いた。
    「……シャドウ……その子の中から……出ていけ……」
     フードの下に素顔を隠し、渾身の想いで刃を振るう。
     満星を暗い闇から切り離すように。
    「何ゆってるの? みほはみほだよ?」
     不気味に笑んで少女は言う。
     出られたことを喜ぶように、戦う事を楽しむように。
     瞳の奥には溺れそうな哀しみを宿して。
    「――紡ぐは白、舞い踊れ蝶」
     覚悟を決め、柚姫は白き龍砕斧を振るう。
     目の前のシャドウがいる限り、本来の満星は取り戻せない。
     柚姫のビハインド、翡晃も隙を与えず霊撃を撃つと、満星は闇の力でその身を癒す。
     胸に浮かんだハートは、どこか皮肉のようにも見えた。
    「ね、貴女ももう判っているんじゃないかしら……相手を気にするから怒るのよ。怒ってもくれないお姉ちゃんは、とても悲しくないかしら?」
     恵理は剣を手に問いかける。
     振り上げ、振り下ろし、けれど満星は表情を変えない。
    「悲しいの? でも、怒んなければ喧嘩もしなくて、ずっと」
    「一緒にいられる、か?」
     里桜が言葉を重ねた。
     彼女の足元から伸びる影がするりと満星に絡みつく。
    「だが、このままでは貴女は自らの手で、満月さんを満月さんでなくしてしまう。……感情を消すとは、そういう事だ」
     それでも、貴女はそれを望むのか?
     正面から問う里桜に、満星は逃げるように顔を背ける。
     そんな満星に、風香がひとつ提案した。
    「そうじゃ。怒らん為には怒りの感情を消すのではなく、姉の気持ちを考えてやる余裕を持つというのはどうかの?」
     だが、背けた首は横に動く。
    「やだよ。怒られるのは、苦しくて、痛いんだもん……!」
     言うや、凝った闇が弾丸となり、拒絶のように放たれた。
     背後を守るべく両手を広げる風香、その身に深々と埋まる弾。傷を塞ぐため、即座に歌いあげれば、不足分を京夜が補う。
    「確かに、怒りって感情は嫌だよね」
     シールドを広げたまま、彼は満星へと語る。
    「だけど、それがあるから一緒に居たいとか大好きって気持ちが強くなるんじゃないのかな? 本当にその感情、消しちゃっていいの?」
    「っ、消したいよ、消えちゃえばいいもん!」
     満星が言う。
     それは本音か、ムキになった子供の意地か。
    「そんなはずない。満星ねーちゃん、怒りは決して要らなくなんてないよ」
     來鯉は満星を見据え、断言する。
    「怒りがあるから人は大切な誰かの為に立ち向かえるし、大切な人だからその間違いを本気で怒るんだ」
     強い想いとともに撃ち放たれるビーム、そこへなのはが畳みかける。振り被り、ぶつけた拳から流し込むは莫大な魔力。
    「それにさ、満星ちゃん。例え怒っていても、満月ちゃんは満星ちゃんを嫌いになっちゃうかな?」
     嫌いだから怒る、怒ったら嫌いになる。
     それは幼いゆえの稚拙な因果。
    「例え怒っていても、満月ちゃんは満星ちゃんの大好きなお姉ちゃんじゃないのかな?」
    「大好きだよ!」
     それが満星の答え。
     でも、と続きそうになる台詞は、里桜が弾丸と共に遮る。
    「ならば満星さん、聞かせてくれ。貴女が一緒にいたいのは満月さんか? それとも思い通りに動く、満月さんの姿をしたお人形か?」
     厳しい問いかもしれない、だが、満星の答えを聞かせて欲しかった。
    「みほは、一緒にいたいだけなの……!」
    「その気持ちは、とてもよく分かりますよ」
     必死な満星を柚姫が優しく肯定する。柚姫自身は一人っ子だが、幼馴染とずっと一緒に居たいと思う気持ちは、きっと満星と変わらない。
    「でも、満星ちゃんと同じように満月ちゃんにもそう思う相手がいるのです」
    「え……?」
     瞬間、満星が硬直する。
    「それは、みほじゃないの……?」
    「勿論、満星ちゃんもですが!」
     まずい。柚姫は続く言葉を考える。何と言えばいい? 何と言えば正しく伝わる?
     その時、子供部屋から凛とした声が届いた。
    「私は満星が大切だよ! でも、大切がいっぱいあっても、他の大切がなくなるわけじゃないの!」
     それは誰より慕う姉の声。
    「……そういうことです」
     柚姫はふわりと笑うと十字を切り、翡晃と同時にサイキックを撃ち込む。
    「我慢するのはとても辛かったでしょう?」
     諭すように、あやすように恵理が言う。
    「お願いはしてもいいの。でも、お姉ちゃんに全部我慢させちゃ可哀想よ?」
     両手に集めたオーラが、奔流となって満星を呑む。
     ――おねえちゃん。
     くしゃりと崩れる満星の表情。
    「……もう少しだから……頑張って……!」
     そして、夏輝が拳を構える。
     大切な人から拒絶される怖さは、夏輝にもよく分かる。
     だからこそこの手で終わらせ、その背を押したいと思う。
     突き出した拳撃は、少女を縛る闇の糸を断ち切った。

    ●『      』
    「満星!」
     戦闘が終わり、霊犬達の警戒が解けると同時に満月が叫ぶ。
     その声に応えるように、満星はゆっくりと起き上がった。
    「おねぇ、ちゃん……」
     弱々しい声、未だ歩み寄れない距離。
     けれど、二人の想いは声を聞くだけで明らかだった。
    (「私も、もっと我儘を言えば……もっと叫んでいれば……父さんも母さんも……ちゃんと想ってくれたかな?」)
     夏輝はフードを深くかぶり直し、夜空を見上げる。
     今も耳に残る拒絶の声は、過去の傷跡。
    「さて、もうケンカは御終いにしちゃおうか?」
     京夜は停滞した空気に区切りをつけるように、ぱん、と手を叩き、にこりと笑う。
    「仲直りぐらいは、君達姉妹だけでも出来るよね」
     言われて、小さく頷く満月に、小さく俯く満星。
     すると、風香が満星の背に優しく手を添えた。
    「伝えたいことの為に怒ってしまうのは悪い事ではないのじゃ」
     仲良くできると良いの、と。
    「僕にも妹がいるんだけどさ」
     そう語るのは來鯉だ。
     日々手探り状態で、時に失敗して、ぶつかって。でも、それも良い『きょうだい』であるために必要な事だと思う。
    「お互いの言いたい事を言い合う喧嘩だって、大切だよ」
     どちらかが我慢し続ける関係は、いつか壊れてしまうから。
    「これからはお互いに素直に話せたら良いね」
     なのはは満星の頭を撫で、笑ってみせる。
     お姉ちゃんが誰かにとられちゃうわけじゃないんだよ、と言い聞かせるように。
    「気持ちが落ち着いたら、もう怖い事にならない様に私達の学校に来てみない? まずは見るだけ……そうね、今度の日曜なんてどうかしら」
     恵理が提案したのは、密かに確認したコンサートの日付。視線は満星へ、けれど応援は両方へ。ずるい大人のやり方だ。
    「満星ちゃんのような方が来て下さればとても心強いのです~」
     同じく柚姫も誘えば、満星は恵理と柚姫を交互に見上げ、そして、ポケットからそっとチケットを取り出した。
     ここまで来れば、もう大丈夫。
    「……良かった」
     里桜は小声で呟き微笑みを洩らす。二人がこれからも仲睦まじくいられるよう、密かに願って。

    「おいで」
     満月が手を伸ばすと、誘われるように満星が歩みだす。
     恐る恐る近づけば、
    「……つーかまーえた」
     ぎゅ。
     多くは語らない。
     たった一言、
    「だめでしょ、満星」
     それだけで、少女の世界は温かくにじむ。
    「……め、  さ、……っ」
     ――『ごめんなさい』。
    「うん」
     姉はただ、静かに頷いた。

    作者:零夢 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年8月7日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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