ヱンジェヰル~CrAzY To The cRaZy

    作者:那珂川未来

     淫靡な音が、神社横の雑木林に響いている。
     夏祭りでにぎわう社の前。人の興味はそこへと集中しているものだから、場所を憚らないその音も、耳に届くことはない。
     大木の影、ジェイル・マッケイガンは適当にひっかけた女性と愉しんでいた。
     冒頭からかなり節操のない行動に出ているこの男は、ただの暴漢ではない。一応、六六六人衆である。
    『なァ、今お前の頭ン中、俺のことでいっぱいだろ……』
     ニヤニヤ笑いながらジェイルが唇を離すと、髪も浴衣も乱された女性は、くらりとジェイルの体から離れてゆく。
     倒れた彼女はジェイルを見つめたまま。しかし腹を抉られ、下半身は血まみれだった。
    『モノ足りねぇな……』
     ジェイルは指についた血を舐めながら死体をしばらく見つめていたが、また出店の方へと。
    『愛したい……愛されたい……愛し合いたい』
     闇堕ち前の人格が、最も愛してほしかった女を代わりに『愛した』瞬間を思い起こしながらのろのろと歩いていた時、
    『って…………いるじゃねぇか、真剣に愛してくれる奴ら!』
     ジェイルは電撃的に思い出した。それはもう愛しくてたまらない灼滅者という存在を。
    『こんなところで浮気なんてしている場合じゃなくね?』
     噛みついたり、腹に指ねじ込んだ程度じゃ死なないってところがいい。
     しかも、非常に一生懸命愛してくれるおまけつきのため、素直にさせてくれないところがまたいいわけだ――現に噛まれたし。
    『……つーか、すげぇ可愛いよなァ、あいつら――』
     闇堕ちさせたら一人くらい俺のモノになったりしないか――。
    『ははっ、ちょっと都合よすぎるか、さすがに』
     ダークネスは、簡単になかよしこよしできるような種ではないから。それでもダークネスにしてやったのが自分ということは、自分と同じ色に染めてやった(何か意味違うが)ような気がして、唾付けた自分が、飼いたいとか可愛がってやりたいと思ったりする……そんな変態。
    『ベッドに忍び込まれる(意訳・自分が堕とした灼滅者が、序列奪いたくて殺しにかかってくる)楽しみ奪われちまったままだし……じゃ、そっちの方向で愛し合ってみるか』
     愛しい灼滅者に一番嫌われちゃう遊びだが、自分に向けられる感情はどんなものであれ、その頭の中が自分のことでいっぱいにさせられればそれでいい。
     にやにやと笑うジェイルの銃口が、夏祭りへと向かう高校生たちの一人へと向けられる。
    『愛し合おうか……』
     高校生の頭が、真っ赤な血肉を飛ばして破裂する――。
     
     
    「六六六人衆の一人の動きを見つけたんだけどね」
     少年らしい声に合わせた口調のままであるにもかかわらず、仙景・沙汰(高校生エクスブレイン・dn0101)が非常に固い顔つきで、集まった灼滅者にそう告げて。
    「知っている人もいるかもしれない、ジェイル・マッケイガン……」
     もしも過去の報告書等を読んで、強烈な嫌悪感を抱くタイプであるならば、無理に係わるのはやめた方がいい敵である。
     歪んだ愛と思想で、男女関係なく愛せるうえ野卑な言動で弄ってくるタイプなので、世の中にはそういった相手を嫌う人間もいるだろうからと。
    「……今残っているということなら、大丈夫だね。じゃ、話を進めさせてもらうよ」
     沙汰の話によると、ジェイルは相変わらずの性格なので、灼滅者が現れるなり一般人の殺害の手は止めるし、勿論重傷者等に手を出したり、人質など取ったりしない。
     そのかわり、灼滅者にも正々堂々を求める。
     神社の鳥居をくぐり、夜店が社へと向かって並ぶその方向へ――ようは正面から向かい、名乗り口上するくらい堂々と構え、ジェイルに対峙してほしい。
     余計なことをすると、代償として一般人の頭を打ち抜くだろう。
    「同じスタートラインで、戦闘を開始する。確かに堂々だけど、人によっては感じるかもしれない。これって縛りだよね、って」
     格上も格上である。それなのに、堂々を求められれば、こちらは能力的差からいっても、確実に不利なのだ。
     しかし、それをジェイル自身狙ってやっているかといえば定かではないが。 
    「ジェイルは、前ほど積極的な姿勢ではないけれど、皆の闇堕ちを狙っている。でも今回は、戦闘の流れの中で其処に至るのを待つのではなくて、闇堕ちさせる灼滅者を選んでくる傾向にある」
     八人の中で、自分が愛し合いを楽しんだうえで、その瞬間がそそられるような相手を。
     ジェイルは正義の味方らしい気概が大好きなので、安易な自己犠牲を好まない。前回も、まさに絶体絶命という状況まで闇堕ちしないという姿勢の末の、闇堕ちした瞬間に、かなり悦に入っていた様子。
     そういった気概の人間を、探って、狙う――数人いれば、流れに任せるだろう。
    「でも、体力をある程度削れば、撤退する。それと、20分愛し合った……つまり戦った場合も」
     ジェイルとて、ほかの六六六人衆の備えもしなければならない。ある程度満たされれば、別に誰かが闇堕ちしなくても、手を止め帰るそうだ。
     削り切るか、耐え抜いて満足させるか。
     どれもできなければ、誰かが闇堕ちするしかない。
     それをしなければ、一般人が犠牲になるだろう。神社の敷地を抜けた先には住宅街が広がっている――!
     
     一般人への殺戮を阻止するため。
     危険で、精神的にも肉体的にも苦労を強いられる依頼。
     沙汰は深く頭を下げて、灼滅者を送り出した。
     
     


    参加者
    加藤・蝶胡蘭(ラヴファイター・d00151)
    花藤・焔(魔斬刃姫・d01510)
    明智・雄大(赤鉄鉱・d01929)
    夜鷹・治胡(カオティックフレア・d02486)
    刻野・渡里(高校生殺人鬼・d02814)
    空井・玉(野良猫・d03686)
    西院鬼・織久(西院鬼一門・d08504)

    ■リプレイ

     灯に照らされて、地面に破裂した朱色が幾つも艶めいて、彼岸の花を咲かせているように見えた。
     堂々とはいえ、早々に殺戮の手は止めたいと、境内へ続く階段を最初に上がりきった空井・玉(野良猫・d03686)が見た光景はそれ。
     ジェイル・マッケイガンは、鎖で灼滅者の到着を感じ取るなり、弄んでいた高校生から興味を無くした様に身を翻し、相変わらず人を食った様な(別の意味で食っていたのかもしれないが)顔で出迎える。
    『よう、愛しい灼滅者諸君』
     今回も初めましてさんがいっぱいだなと灼滅者を一人一人確認し――よく知っている顔には、つくづく縁あるなと独りごちた。
    「初めまして。四五六番。灼滅者のアンネスフィアと申します」
     アンネスフィア・クロウフィル(黒狩り姫・d01079)はスカートの裾をちょこんと摘まんで淑やかにお辞儀して。
    「私達を待ってたんだろジェイル・マッケイガン。愛が欲しいなら、この私、加藤・蝶胡蘭が相手をしてやるよ」
     きりりと立ち、加藤・蝶胡蘭(ラヴファイター・d00151)は真っ直ぐとジェイルを見据えた。
    「目的は灼滅者と殺し合う事ですか。……ク、ククク……願ってもない……ク、ヒハハハ……!」
     先程まで物静かだった西院鬼・織久(西院鬼一門・d08504)が、突如壊れた喜色を浮かべ、笑いだす。
    「我等が怨敵……我等西院鬼と死合ってもらおう」
     爛々と瞳を輝かせ、狂気滲ませ、得物を取る織久。怨敵に反応しているその血潮の荒らぶりを抑えきれなくなっているようで、放つ殺界形成の力もそれに反応したかのように強まり、人の気配は一気に引いてゆく。
    『我等って得物の中の怨念か? それとも中のダークネスか? どっちにしろ片足どころか首までコッチ側に突っ込んでそうな面白い奴だな』
     ジェイルは興味深げな視線を織久へと送りながら、ナイフと拳銃――いつもの様に聖職服を両腕に出現させた。相変わらず殺さずの約束を交わしたうえで。
    「意外に似合っていたのだがな」
     甚平に聖職服靡かせているジェイルへ、刻野・渡里(高校生殺人鬼・d02814)は真顔でそんな感想を。
    『ほう。嬉しいこと言うな、美少年。だがこれに毒性の強い麻薬仕込んでんだよ』
     実は武器。つまりあれを使っての攻撃もあるのだなと、渡里はこれから始まる戦いをシミュレートしていたら、
    『ああそうだ、お前ら知ってるか。和服は下着の線が出ると綺麗に見えないんだとよ』
     にやにやしているジェイルの言わんとしていることが、ご対面三度目ともなると腹の立つことにわかってしまった夜鷹・治胡(カオティックフレア・d02486)は、ぷるぷるしながらその辺にあったものを適当に掴んで顔面目掛け投げつけ、
    「馬鹿かジェイル、下着くらいつけろ!」
    『意図的に見せてもいねぇのになに怒ってんだ。そもそも普段からはいてねぇ!』
     想像させたことが罪。
    「……何だかよくわからない六六六人衆ですねえ」
     聞きしに勝る気安さは六六六人衆としていかがなものか。アンネスフィアとしては、そういうのは個人的には嫌いじゃないのだが。
     渡里は額を押さえて呻いたものの気を取り直し、
    「……そろそろ始めるかい」
    『そうだな。これ以上遊ぶと緊張感無くなる……』
     このように普段は下品で馴れ馴れしい奴ではあるが、戦闘になれば加虐的で全くもって容赦はない。
     玉はジェイルの強さを理解して。少なくとも。闇堕ちしても仕方ない。そんな腑抜た思考を容認できる程に、絶望を感じていないなら。
    「いつも通りだ。行くよ、クオリア」
     玉の呼び声と共に、カードより現れる精神で出来た存在、唸りを上げて。
     蝶胡蘭が地を蹴り、意識を合わせた者たちと共にジェイルへと迫る。しかしそれよりも早く瞬いた、ナイフの一閃。
     自身の傷にすら酔うような顔で笑う織久から、鏖殺領域が吹き上がり、衝撃の波紋を描く。空を分断する黒紅の気をあっさりとジェイルは飛び越え、蝶胡蘭の鋭い一撃も、簡単に受け流す。
    (「闇堕ちゲーム……一体いつまで続くんでしょうね……」)
     こんなゲームは無駄だと思い知らせるには、闇堕ち者をこの先一切出さないくらいでなければ。花藤・焔(魔斬刃姫・d01510)は剣の動力唸らせつつ、
    「足止めします!!」
     側面から狙う足。だが簡単には当たらない。
    「正々堂々の心意気は評価するが」
     事が済めばまた、気まぐれで殺人を繰り返すのだ、この男は。後列に吹き上がった毒に削がれた体力を取り戻そうと、明智・雄大(赤鉄鉱・d01929)は魔力の霧を開したあと、蝶胡蘭と連携して天星弓の弦をめいっぱい弾いた。
    「ジェイル、私の愛はちょっと痛いかもだぞ」
     駆け抜けるジェイルを止める様に、蝶胡蘭が得物を振るう。一度溜めた力。更に高めるべく捻り加えて穿つ螺穿槍。
    「ヒ、ヒハハハハ!!」
     更に、治胡が打つ癒しの矢で命中補正の入った織久の一撃は、ジェイルの肌に炎走らせ。
    『ははっ。生憎俺はマゾってよりはどっちかっていうと……』
     押しとどめようとする織久の影を振りはらい、左腕に入った衝撃など全く動じず、ジェイルは野卑な笑みを零すと、
    『押さえこんで突き上げながら火達磨にしてやる方が趣味なんだよなァ!』
     簡単に後ろをとられた蝶胡蘭を、アンネスフィアが庇いに入る。ウロボロスシールドを操り、サフィアの除霊眼の力も借りて炎を打ち消しながら、
    「そんな粗末な物では、独り善がりの愛ではなくて?」
    『いや、それなりに立派だが?』
     にやにやしながら聞いてもいない、どうでもいことを平然と。
    「そんなのが愛とは笑わせますね。まだまだ愛し方が足りないんじゃないんですか?」
     焔は挑発を交え果敢に攻めるけれど、
    『その言葉、そっくりそのまま返してやろうか』
     強敵相手の際は、方針をある程度明確に組まねば、思った様な効果を期待できないだけでなく、一手が無駄になってしまう危険もある。事実、曖昧な指針と単発で繰り出す彼女の攻撃は一つも当たらない。
    『つまんねぇ愛なんていらねぇんだよ』
     閃く刃に、吐血しながら崩れおちた焔を、雑に灼滅者の方へと投げ返す。
     開始四分で、ディフェンダーである焔が落ちる。正直、芳しい状況とは言い難い。続いてサフィアまで落とされてしまう。
     後列に降り注ぐ毒を遮るため、玉はワイドガードを展開させて暈を作る様に。ホーミングを駆使する蝶胡蘭より先に渡里へと癒しの矢を打ち、その能力の底上げを担う治胡。
    「闇堕ち者など絶対に出さない、絶対にだ」
     雄大は弓を引き、ジェイルに蓄積しだした力を壊そうとするが、攻撃サイキックが相手の得意属性である神秘攻撃のみでは、折角の命中補正も生かされにくい。
    『意気込みの割には、行動が空回りしてんだよなァ』
     嘲りながら、ジェイルは雄大の間合いへと大胆に踏み込み、そしてその鳩尾へ銃口を向けて。
     攻撃動作をしっかりと見定め避けようとするものの。気付いた時にはもう視界が紅蓮に染め上がり、雄大は自分の肋骨が砕ける音を聞いた。
     ジェイルは雄大を沈めたそのままの勢いで、織久を狙う。
     遮る様に跳躍するクオリアがその危機を受け持つが、駆動部は半壊し、外装は粉々だ。
    「良いね。精神世界の引き籠もりより、よほど宿敵に思える」
     自身の片割れを追い込まれようとも。ただ冷静に、そして冷徹に、玉はこの二十分を耐え抜くことだけを考え、その傷を本人に任せオーラを溜めこんで。
     軽々とかわすジェイルの、その動作の隙を狙うように織久が、攻撃と同時に腕を押さえ当たりやすい状況を作り上げようと。
     押さえ付けるということは、自分も危険な状況であると、狂気に染まっている織久であろうともそのくらいは認識している。
    『ははっ。お前ら本当に毎度毎度考えてくるな、恐れ入るぜ』
     しかしジェイルは、別段困る様子もない。何故なら、すでに数名倒れているせいもあるが、ここで怒涛の攻撃が待ち受けているわけでもない。味方の攻撃の後に意図してそのような攻撃するとなると、自然と攻撃手の数も減っているからだ。もちろん、延々と握り続けていることだって、序列の高い相手では無理である。
     押さえ付けること自体が諸刃の剣。
     これが、戦いの中で流れを引き戻すほどに効果を発揮するならば、我が身投げ打ってでの価値もある。しかし今は、とてもそのような状況にはなりにくいと言えた。
     振りほどかれ放たれる斬撃に、織久は放射状に血を吹きだしながら後ろへと倒れて。
    「浮気者って嫌われるの知ってるか?」
     渡里は仲間と連携を取ろうと努めるものの――繋がった感情の相手が治胡のみ。攻撃手との連携がとれず、結果全ての攻撃が単発となり、容易にかわされてしまっていて――そして許してしまうのは、相手の得意な間合いまで接近を許したこと。
    『だから一般人綺麗に無視して、お前らに愛して欲しいって甘えてんじゃねぇの』
     銃口が渡里の心臓に狙い定まる。けれど咄嗟にアンネスフィアが割って入り、その一撃を受け止めて。
    『さっきから頑張るなぁ、アンネスフィア』
     アンネスフィアははぁはぁと肩で息をする。にやにやといやらしい目で見ているジェイルへ軽口返す余裕もなく。銃弾二発、そのほか毒の攻撃も数度受け持っているのだ。
     これだけ持ち堪えているのは防御特化と連携による撹乱を意識し、必死に守ろうとした結果。
    『惜しいな。お前もダークネスにしてやりたかったが……まぁいいや。他にも堕としたい女いるしよ』
     ジェイルは円環を解き放つと、もう満身創痍のアンネスフィアとクオリアを一掃する。
     前衛が全滅。容易ならない事態、すぐに治胡が前に出る。
    「アンタにも人間だった時があるんだよな……同じよーに無関心を嫌ってたり或いは恐れてたりしたか」
     後列へと放たれた毒の一つを受け持ちながら、治胡は尋ねた。
    『恐れたとか、そんな複雑な感情自覚しちゃいなかっただろうよ。歳が歳だからな』
     治胡がその内容を掴み取る間もなく、ジェイルは告げる。
    『幽霊君が闇堕ちしたのは四歳』
     何か聞き間違えたんじゃないかと、治胡は思わずジェイルを見て――
    『四歳だ。純真な子供の中に、アダルティな下衆が居たんだぜ? 面白いだろう』
     絶句した。
     六六六人衆は自らの暗殺スタイルに合わせ肉体を巨躯や痩身に変化させたりもするというが――ジェイルは成体を選んだのだろう。小さな体を無理矢理成長させて。
    『ずっと無関心に晒されてきた。愛されたいと毎日神に願った幽霊君の思いが、今の俺を動かしてんだよ。永遠に覆ることのない、俺だけに向けられた感情で満たされる為によォ!』
     だから、戦闘不能者に手を出す可能性なんて心配してねぇで俺を見ろ。自分は今まで一度も約束を破っていないのだから集中しろ。そう言わんばかりに、渡里へと打ち込む炎の弾丸。
     ただ純粋に、只管に、元人格が得られなかった関心を向けられる瞬間を、自身の魂にjail(投獄)し続けることこそ、彼が殺しを繰り返す理由。
     だが、愛された瞬間を死によって凍結し、閉じ込めるなど、赦されることじゃない。そこにはジェイルの一方的な歪みだけしか存在しない。
    「ジェイル。お前の元人格がどれほどの嘆きに晒されていたのか――私には理解できるはずもない。だが愛ってはもっと純粋な気持ちなんだ!」
     お前の愛は愛なんかじゃないと、蝶胡蘭はロックハート・アタックを勢いよく振り上げて。
     蝶胡蘭の一撃はまともにジェイルへと入った。だがそれでもなお、ジェイルの余裕は陰りなく。
    『んー、お前が嫌いじゃねーんだけどな』
     蝶胡蘭の怒りなど全く意に介さず、その喉元向けて、空を劈く銃弾を奔らせた。
     火炎と共に吹っ飛ばされた蝶胡蘭。鳥居にひびを入れるほどの衝撃に崩れ。
    『……惜しいな。お前ら同列に並んでたら同時に堕とすことも夢じゃなかったんだろうが……』
     ジェイルは真面目な面持ちで、二人を見て。結果、自分と愛しあうことしか考えていない灼滅者の、最たる者を選んだ。
     ジェイル自身、六六六人衆らしからぬ縛りをかけている。それは愛してくれる間は決して命を取らないということ。そのかわり求めるのが、自分に向けられる感心。
     エクスブレインも言っていた。ジェイルは、まさに絶体絶命という状況まで闇堕ちしないという姿勢の人間を狙うと。つまり、たった一人になるまで戦う気概のある灼滅者を。
     ある意味それを選択するということは闇堕ちの危険を伴うわけだが、もしも全員がそれで挑んだとしたら、ジェイルはそれこそ決めかねて攻撃の狙いが散漫になったかもしれない。
     玉が崩れ、それでも治胡は諦めずに立ち向かおうとしている。極めて困難と判断するまで。
     ――でも、それ以上やっても……。
     崩れゆく玉は、そう意識した。負けが確定している。それなのに未だ立ち向かう。もしも倒されたらもっと大変なことになるのに。
     けれど玉はわかってしまった。過去二度の愛しあいで、治胡が一番ジェイルを理解してしまったということも。
    「アンタのやり方は一つの方法だろう。だが、止めたいと思うのは俺の道理。……ジェイル、俺はアンタが嫌いだが……」
     そう例え防戦になろうとも、二十分を耐えれば彼は約束通り大人しく帰る。それはわかっている。だから何が何でも受け止めきってやる。そんな瞳の輝きを受けて、ジェイルは珍しく微笑浮かべ、
    『……馬鹿な女。しかしそんな馬鹿が、俺は大好きだけどな』
     愛し合いたいが故、容赦なく発砲する。
     弾け飛んだ肉片と血。次は、シールドリングを使ったところで耐えられないだろう。
     敗北。
     不快というよりは、妙な気持ちだった。これは何なのだろうか、それを確かめるすべはなく――ただ、決定的な一打が放たれたその時。
    「片思いもつまんねぇだろ」
     傷口から噴き上がる紅蓮は翼を描き、犬歯尖らせ。
    「不本意だが……愛してやる」
     驚異的な破壊力を伴う炎と化した治胡。堕ちた瞬間を目の当たりにして、ジェイルは爛々と目を輝かせた。
     揺るぎもしない圧倒的な力で首を掴まえ、見下ろし酷薄な笑み投げ捨てながら、
    『ハマっちまったなァ、治胡。もうお前俺から逃げられねぇかもな! 追いかけてこいよ、たくさん愛してやるからよ。キスだけじゃ終わらせねェぞ。その頭ン中だけじゃなく、腹ン中まで俺でいっぱいにしてやるからよォ!』
     捕まえて、堕として、突き放して。快感に打ち震えながら、本気で止める気があるなら探し当てろと言い残し。
     燃え盛る炎が追い掛ける。ただ、その殺戮と関心の性を止めんがため、引き摺られるように。
     止めねばならない。
     追いついてしまったら殺される可能性だってあるのだ。かといって、生きていれば安心であるとも言えないが。
    「くっ……」
     探さねばならないのに。渡里は力の入らない指先で必死に石畳を掴むけれど。
     遠ざかる炎はもう見えない。
     静かな社の前、色彩だけが賑やかな世界が、虚しく霞んだ。




    作者:那珂川未来 重傷:花藤・焔(戦神斬姫・d01510) 
    死亡:なし
    闇堕ち:夜鷹・治胡(カオティックフレア・d02486) 
    種類:
    公開:2013年8月13日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 26/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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