あいらぶ牛乳! あいらぶ牧場!

    作者:高橋一希

     千葉県、とある牧場型テーマパークにて。
    「うぉぉぉぉ、なんだコレ! ふっかふかだなぁ……!」
    「先輩このおっきいヤツもスゲェっす……うわっ! ツバ吐いたっ!」
     今時珍しい特攻服を纏った少年3名。全員揃って髪型はそり込み入りのリーゼント。
     ……昭和か! とツッコみたいあたりだが、彼らはとっても嬉しそうにニッコニコ笑いながら――アルパカをもふもふしている。
    「山の上で遠いからどうしたもんかと思ったけれど、来てみるもんだなぁ。アルパカふっかふかだ……!」
     凄いうっとりとした顔のヤンキーさん!
    「先輩! 自分、次こぶたのレース行きたいッス!」
     ビシっと手を挙げる後輩君。
    「自分、アヒルの大行進見たいッス!!」
     更に手をあげる後輩二号。彼らの様子に先輩は大きく頷いた。
    「いいな! こぶたとアヒル! ……あ、でも俺はひつじの毛刈りを見たい。イベントの時間的にはアヒル見てからこぶたでいいな?」
    「「ウス!」」
     しかしまだ次のイベントにも時間がある……とばかりに彼らはアルパカをもっふもふ。
     そこに……。
    「待て」
     凜とした声が彼らを呼び止める。
    「君達……一体何をしている?」
     声の主はざくざくと牧草を踏みしめヤンキー少年達のもとへとやってくる。
     その人物は――牛柄ジャケットを纏った少年。ジャケットの下のTシャツには毛筆っぽいフォントで「牛乳うめぇ!!」という文字が書かれており、右手にはストローの刺された200ml入りの牛乳パックを手にしている。
     そして最も印象的だったのは、彼の頭。
     眼鏡をかけた牛、だった。
    「え? 新手のゆるキャラ?」
    「自分、ゆるキャラ好きなんス! 写メしてもいいスか!?」
    「俺も好きだ! 一緒に写真撮ってもいいですか!?」
     目を輝かせるヤンキー達の前で牛のかぶり物をした少年はふう、とため息を付くとそれを外す。
     下から現れた顔は、眼鏡をかけた線の細い美形。しかしその表情は険悪そのもの。
    「……何をしている、と俺は尋ねている」
     重ねて問いかける少年。ゆるキャラ大好きなヤンキー達も、中の人を見て流石にちょっと落ち着きを取り戻したらしい。
     顔を見合わせてから少年の問いにおずおずと答える。
    「何って……」
    「見ての通りアルパカをもふもふしてるんス……」
     後輩ズの動揺した様子に先輩は改めて少年へと向き直る。
    「ちゃんとスタッフの方の指示に従ってエサもやってるし、大丈夫な範囲でもふもふしてるし……俺たちはこんな見た目だが、決していじめたり、悪い事はしてねぇ」
     彼らの述べた事に間違いはない。実際彼らは見た目はヤンキーだが動物大好き! なのだ。
     しかし牛ジャケットの少年は頭が痛むとでもいった様子でこめかみを揉み更なる問いを重ねた。
    「……君達。乳牛の手絞り体験はどうした」
     言外から伝わる「何故やらないのか」という思い。
     途端に「あー」と一同からため息が。
    「…………小学校でやったし」
    「自分、中学校でもやりました!」
    「それどころか俺は高校入ってからも遠足でここ来て、そんでやったぞ……? だから今日はやらなくてもいいかと思ったん……」
    「この牧場に来たからには、乳牛の手絞り体験をするべきだ。そして牛乳のすばらしさを感じるべきだろう」
     先輩の言葉へと少年が少しだけ声を荒げ、オーバーアクションを交えて訴える。
    「そうは言われても……」
     お互いの顔を見合わせるヤンキー達。そりゃ、これからひつじやらこぶたやらアヒルやらを愛でる予定で話が決まったというのに、唐突に現れた見知らぬ人に、唐突にそんな事言われても困るわけで。
    「乳牛の手絞り体験は素晴らしいものだ! 牛乳という素晴らしい飲み物を作りだし、我々へと分けてくれる牛のすばらしさ、そして牛たちを育てて牛乳を生産し、俺達のもとに届けてくれる農家の方々のありがたさを深く……それは深く感じる事が出来る……! 何故! それなのに乳牛の手絞り体験をしない!!」
    「だから、俺達、もう何度もやってるから――」
     懸命に訴えるヤンキー先輩。
     千葉県で育つとこの牧場に遠足で行く率が大変高いからね!
     あまつさえ時間の決められた遠足では他のイベントはあんまり回れないからね!!
     しかし少年は彼らの言葉に耳を貸しはしない。
    「体験しないというなら……俺が何があろうと乳しぼり場へと連れていくッ!」
     身構える彼。
     ――もはや、意味が分からなかった。
     
    「皆さんは乳牛の手絞り体験ってしたことありますか?」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)の最初の言葉はそんなものだった。
    「実は、その乳牛の手絞り体験が出来る牧場型のテーマパークで、一般人が闇堕ちしてダークネスになる事件が発生しようとしているのです」
     通常ならば、闇堕ちした場合、直ぐさまダークネスとしての意識を持ち、人としての意識はかき消える。
     だが、彼は未だ人としての意識を持っており、ダークネスの力を持ちながらも、ダークネスになりきってはいない。放置しておけば遠からず完全なダークネスとなってしまうだろう。今ならまだ救える可能性がある、というわけだ。
    「皆さんにはその人物の救出をお願いしたいのです」
     姫子は語る。
     そして、もし完全に闇堕ちしてしまったならば、灼滅して欲しい、と。
    「その人物の名は前田・骨平(まえだ・こっぺい)。現在中学二年生の男子です」
     骨平は、この牧場型テーマパークを、そして牛乳を愛していた。どれくらいかというと、毎週末訪れては、手絞り体験をした後に牛乳を飲んで、ついでとばかりにソフトクリームも食べるくらい。
     しかし、彼の友人達はそんな骨平をあざ笑った。
    「遠足で行くからわざわざ行ったりしないなぁ。ていうか遠足でもなんで態々……」などと、給食の牛乳を飲みつつ述べたのだ。
     悲しみのあまり、彼は闇堕ちした……という事らしい。
     さて、骨平と遭遇できるのは、件の牧場型テーマパーク。
     学生と思しき年齢の人物が、乳牛の手絞り体験以外のイベントを除いたお出かけコースを練っていると、園内のどこでも現れる。
    「学生……というのは皆さん問題無く満たせますね」
     幸いにして場所は牧場。場所を選べば遮蔽等もなく気兼ねせず戦える事だろう。
     だが、その為には多少なりとも骨平を上手いこと会話などでつって移動させる必要があるかもしれない。
     攻撃方法はご当地ヒーローのサイキックと同等のモノを使用してくる。
     ご当地キックは見たとおり普通にキックだ。
     ご当地ダイナミックは一見するとごくごく普通の、相手を高く持ち上げて地面へと叩きつける技……なのだが、口上が大変な事になっている。
    「牛が家に一頭でも居たら暮らしは楽なのにダイナミック!」等と言うらしい。
     そして、ご当地ビーム相当の攻撃は、眼鏡から乳白色のビーム発射されるのでそれはそれで愉快な事態になるかもしれない。
     ただし、ダークネスゆえ威力は格段に上だ。油断はならない。
    「先ほども述べましたが、骨平さんは未だ人としての心を残しています。上手いこと説得できれば、彼の戦力を減じる事ができるかもしれません」
     姫子は彼の牧場への愛へと訴えかける事が一番だろうと述べる。
    「……どれだけ牛乳や牧場が大事であっても、暴力に訴える事は許されないと思うのです。だって、牧場型テーマパークですよ? この牧場を作った方だって、楽しんでほしくてこの牧場を作ったはずなんですから、悲しむ人を見るのは喜ぶわけ無いです」
     ですから、彼をどうか止めてください、と姫子は灼滅者達へと頭を下げたのであった。


    参加者
    玄鳥・一浄(風戯ゑ・d00882)
    桃山・華織(白桃小町・d01137)
    備傘・鎗輔(ギミックブックス・d12663)
    ジャンゴ・ミナヅキ(撲殺戦士マジカルワンニャー・d14519)
    朔夜・碧月(さくよにてるつき・d14780)
    プリュイ・プリエール(まほろばの葉・d18955)
    牛野・かるび(世紀末焼肉戦争・d19435)
    牛野・ショボリ(歌う牛・d19503)

    ■リプレイ

     ぎらり、と太陽が照りつける。
    「夏! 牧場! 牛乳!」
     朔夜・碧月(さくよにてるつき・d14780)は両腕をひろげぐるんと回りつつ周囲を見渡した。牧場型テーマパークというだけあり、青々とした牧草が生えていたりと中々に牧歌的な光景。
    「青い空、白い雲に羊、アルパカ……いやあ実に長閑やねぇ」
     玄鳥・一浄(風戯ゑ・d00882)が空を仰ぐと視界はどこまでも伸びる、彩度の高い青に、もくもくとやたらと輪郭のはっきりした雲が見える。
    「……ああ、何しに来たんやったか忘れてまいそうや」
     日常からかけ離れたほのぼのした風景に一浄はそんな事を口にせずに居られなかった。
    「えへへ、テーマパークとはいえ、実は牧場って初めてだからワクワクなんだよぅ」
    「アルパカさン! もふもふしたいでス! もふもふ!」
     碧月とプリュイ・プリエール(まほろばの葉・d18955)はとっても楽しそう!
     もふもふは色んな人を魅了する! 例えば……プリュイの視線の先に居るヤンキー風の人達とか!
    「ワルイコさン達じゃナイのですネ、あのヒト達。どうしてあんなカッコなんでショ?」
     反骨精神とか、大人なんて、とかそういうちょっと青臭い理想みたいなモノ、かもしれない!
     さておき、そんな彼らと別ベクトルでテンション上がってるのは牛野・ショボリ(歌う牛・d19503)!
    「かるびおねーちゃんと学園に来て初めての依頼! 牛乳!! 愛! いっぱい頑張るんだよー!」
     ぐっと拳を握りしめ、魅力的な黒の瞳をキラキラさせる。
     初めての依頼はドキドキだ! それでも隣に並んだ牛野・かるび(世紀末焼肉戦争・d19435)をはじめ仲間達が一緒なら頑張れるはず!
     そしてジャンゴ・ミナヅキ(撲殺戦士マジカルワンニャー・d14519)も。
    「わうっと参上! にゃぱっと解決! 遊園地の平和を守るヒーロー、撲殺戦士☆マジカルワンニャー、只今参上!」
     びしりとポーズを決める彼!
    「ぼくじょーがたテーマパークの平和をみだす悪い子はお尻ぺんぺんだよ!」
     ジェスチャーもつけつつヒーローらしい口上を述べる!
    「あ、でもでも、おいしいのいっぱい食べれたらいいなぁ~」
     そんな彼にも朗報! 牧場はもふもふだけではなく美味しいモノもいっぱいだ!
     目的の人物――前田・骨平を助けた上で、仲良くなれればきっと美味しいお店も教えてくれるだろう! 何せ彼は毎週ここにやってくるようなマニアだ。
    (「流石に毎週末は通い過ぎな気もするけど……」)
     碧月はそんな言葉を胸の内へと仕舞っておく。みんなそう思っている予感がするし!
     そんなわけで一同は行動開始! とっても目立つであろう骨平を探すのだ!

    「えっと、イベントをやっている最中なので別のコースをお願いしますっ!」
     ショボリは周囲の人々にそう声をかけてまわる。
    「撮影か何かかな?」
    「暑いけど頑張ってね!」
     色んな人がショボリを応援しつつ他の場所へと移動していく。プラチナチケットの効果は覿面だ!
    (「えっと、乳搾り体験をやりたい派、やりたくない派に分かれて骨平くんを誘い出すんだよね?」)
     碧月が尋ねるとジャンゴがこくりと頷く。
     備傘・鎗輔(ギミックブックス・d12663)は殺気を解放。一般人達がそそくさと避けていく。
    「牛乳は好きだし、牛がかわいいのも良いんだ。触りたくないけど……」
     ぶつぶつとそんな言葉を流し、骨平ホイホイをするのが目的だ!
    「牛乳は毎日飲んでおるな♪ しかし乳搾りはやったことがないのう……」
    「プリュはヤギさンは飼ってたでスけど、牛の乳搾りはシラナイのデス」
     桃山・華織(白桃小町・d01137)とプリュイは興味津々。
    「ねぇねぇ、向こうに羊さんいるんだって! もふもふしにいこうよ! 乳搾りは手が汚れそうだから嫌なのー!」
     眉間にかわいらしいしわを作りつつ、碧月が仲間達へと訴える。
     本当は碧月だって一度はやってみたい、と興味はある。
    (「むぅ……お芝居とはいえ、ここまで拒否しちゃうのは何か悪いなぁ……」)
     心は痛むが我慢。骨平を助ける為に、今だけは一生懸命我慢、だ。
    「僕も乳しぼりはやりたくないよ~」
     ジャンゴも彼女に同意。本当は彼だって牛は好き。しかし、ここは心を鬼にして。
    「だって生温かいし、牛さんって動物園臭いし~」
     続けた所――その人物は現れた。
    「ほぉら、言わんこっちゃあらへん」
     ごくごく小さく呟いた一浄の視線の先には、牛のかぶり物をした少年の姿が――。

    「君達、乳牛の手絞り体験はやらないのか?」
    「そんな事ないでス。プリュ乳搾りごイッショするでスよ」
     プリュイの言葉に少年――骨平は牛のかぶり物を脱ぐ。現れた素顔は、険しいままだ。
    「なら、今すぐ来るといい」
     ぐい、と手を引かれてプリュイはちょっぴり転びかける。いくら何でも強引な行動に、ジャンゴが割り入った。
    「わうっと参上! にゃぱっと解決! 撲殺戦士マジカルワンニャー☆」
     ワンニャーの着ぐるみ装備でポーズを決める。所々彩る赤がなんとなく怖い雰囲気だが……ケチャップだといいな!
    「俺の氷はちょっぴりコールド、キミの悪事を完全ホールド☆」
     びしり、と骨平を指さすジャンゴ!
    「彼女は俺と一緒に乳牛の手絞り体験をすると言った。1分1秒でも早く向かって、少しでも多くの時間、手絞りを――」
     凄まじい勢いでまくし立てる骨平!
    「牛乳を……牛を愛する者よ! 静まり給え! 牛ラヴァーの戦友よ、何ゆえ暴力に訴えるのだ!」
     一触即発の空気にかるびが一歩前へ! なお、戦友と書いて「とも」と読むのはお約束!
    「牛を愛する者同士が何故に衝突しなければならないのだ! 牛を愛する戦士よ、牛野牧場では乳搾りやってません!」
     かるびの言葉に骨平眉間にしわを寄せる。
    「あの生命溢れる手絞りを体験すれば、誰もが牛の、そして牛乳のすばらしさを理解できるだろうに……! 上手な牛乳の絞り方、そして牛乳を飲むことによる効果を学ぶべきではないのか……!?」
     かるびに詰め寄る骨平。そんな彼へと備傘・鎗輔(ギミックブックス・d12663)が拳を振り上げた。
     鎗輔は怒り心頭のだった。どちらかというと、のんびり目な彼がそれだけ怒りを露わにするのも稀といえば稀かもしれない。
     隠しきれない怒りをそのままに彼は語る。
    「お前がやっているのはご当地愛じゃ無くてただの押し付け! そんなのは良くない! 余計に嫌われるだけ! 押し付けるにしても勧めるにしても少しは接客と駆け引きと思いやりを学べ!」
     だが骨平も負けてはいない。
    「黙れ! お前に農家が救えるか! 牛乳のありがたさも判らず賞味期限が切れたと気軽に捨てる、そんなお前達に農家が救えるか!」
     そもそも鎗輔は特に牛乳を捨てたりはしていない。八つ当たりも良い所な話である。
     そこに歩み出る一浄。彼は鎗輔の握ったままの拳も収めるよう軽く手をおさえる。
     彼は困った様子でため息吐いた。
    「……せやかて力ずくで好きになりますかいな」
     のんびりと、穏やかな声でそれでも言うべき事は言う。
     彼へと骨平は険しい視線を向け、即座に眼鏡からビームを放つ! それが戦いの幕開けとなった。
    「かるびの解体ショー始まりマスよ!」
     仲間を庇い、ビームに灼かれながらもかるびは武器を構える。
    「美味しいチーズにヨーグルト、バター、ソフトクリーム……食べられへんなったらどないしますのん?」
     一浄が手にした榊の枝を振り上げる。同時にジャンゴもまた仲間を守ろうとレコードの如き光輪を分裂させ、仲間を守る盾とした。
    「色んな料理作れへんなりまっせ」
     叩きつけると同時に骨平の身へと魔力が流し込まれ、衝撃が骨平の身を打ちつける!
    「皆が牛乳のありがたさを理解してくれれば、大丈夫に決まっている!」
     顔をしかめながら叫ぶ骨平を見て、碧月は悲しげな表情。だがそれでも戦わねばならない。ガトリングガンを構え、そこから爆炎の魔力を込めた弾丸が大量に放つ。
     炎弾は骨平へと雨あられと降り注ぐ。弾丸が彼へとあたり、炎が延焼する。その隙を見計らい華織が接近。
    「牛乳や手絞りを勧めることは構わぬ。しかしその暴力を揮う事で貴様の愛する牧場や牛を傷つけることになぜ気づかん!」
    「とりあえずノックアウトなのでス!!」
     至近距離から叩きつけられる、華織とプリュイの、オーラを宿した拳。
     しかしながら……どちらも甘い。
     骨平は素早い動きでそれをことごとく防いでいく。
     断裁鉞を手にした鎗輔が強烈な一撃を繰り出したが、それすら後方へとジャンプし距離を取る。
    「アナタはマダ人間に戻れマス! 意識を強く持って下サイ!」
     懸命に呼びかけるかるび。
    「でも、攻撃は別なので遠慮なく解体シマス!」
     KOしない事には元に戻せないのだから仕方あるまい! 何も問題は……無い!!
     かるびがビームを放ち、ショボリも彼女に続いて攻撃を繰り出す。
    「こっぺーの牛乳への愛はヤンデレしてしまった愛だよー!」
     同じご当地として負けられないんだよ! とばかりにショボリは己の体内から噴出する炎を武器へと宿す。振り下ろしたマテリアルロッドから火の粉が飛び散り、骨平を燃やす。
    「牛野家の牛乳……ひいては牛への愛はボーボー燃え滾るのだ!」
     彼女の宣言通り、燃えさかるご当地愛を具現化したかのような炎は空すら焼く勢いで骨平を焼き尽くそうとした。

     ジャンゴはゆる~い行動とは裏腹に、攻撃は鋭い。自身の影を操り、骨平を飲み込む。
    「私も牛乳は好きだよ! 美味しいし、成長期だから牛乳の栄養は必要だし!」
     碧月は仲間を支えるべくソーサルガーダーを展開。
    「でもだからって押し付けるのは良くないんだよぅ! こんな風に押し付けられても、牛乳も牧場も好きになってなんてもらえないと思うの」
     骨平の強烈な攻撃を懸命に防ぎながらも彼女は語る。酷い目にあわせた相手を好きになる人物なんて、そうはいない。
     骨平の表情に更なる躊躇いが生まれ、戦いへの集中力が欠けていく。
     鎗輔がデストロイ感溢れるギターを振るい、プリュイは笑顔で拳を繰り出す。
     殴られながらも骨平が問いかけた。
    「何故……笑っていられる……?」
    「殴るのがスキなんじゃありまセン! ほ、ホントでス! 笑ってるのハ、アルパカさンが可愛いからでス……!」
     懸命に言いつのり、逆境を、灼滅者達は覆していく――骨平が自身の心を取り戻そうとする程に。
    「もう止めろ! 諦めて、俺と共に手絞り体験をして……今日は帰ってくれ……ッ!」
     躊躇いを含んだ骨平の攻撃は、灼滅者達に掠りすらしない。
    「牛乳はあんたはんが気張らんでも充分素晴らしいでっせ」
     一浄は躊躇い無く骨平へと歩み寄る。穏やかな声で呼びかけながらに。
    「何にでもなって、最後は美味しくお肉にいただかれる……」
     骨平の目から攻撃しようという意志が消えていく。
     牛たちは、お肉になって、中身も色んな料理に使われる。皮だって、なめして服飾に使われたりもする。大切にしようと思わなければ、多少の無駄が出ても良いとばかりに軽く捨てられる事だろう。
     前面の防御がガラ開きになった彼へと一浄の、鮮血の如き真紅のオーラを纏った一撃が刺さった。
    「御主が暴れれば暴れるほど、農家や牛に迷惑がかかるぞ! 今なら間に合う、ただ牛乳を真っ直ぐに愛する人間に戻るのじゃ!」
     華織が訴え、拳を振るう。骨平の情熱は判る。だからこそ、その暴走が悲しい。そんな想いを一撃一撃に詰め込んで。
     即座にかるびが続いた。
    「乳牛を……牛乳を愛するキミなら分かるよね! 牛を愛する者同士が手を取り合った姿が!」
    「ご当地はそのパワーを正しい者に貸してくれるんだよ!」
     ショボリも述べ、牛野姉妹は骨平を掴み上げ、地面へと叩きつける!
    「アタシだって牛好きだよこのヤロぉぉぉぉぉ!」
     絶叫のようなかるびの声。そして。
    「「爆発!!」」
     溢れ出るご当地パゥワーに骨平が大爆発!
     漸く彼は動きを止めたのだった。

    「無事に終わって良かったよね」
     戦いが終わった事に安堵する碧月。骨平は座り込んだままだが、命に別状はなさそうだ。
    「俺は……俺はどうしたら……」
     口からこぼれた言葉は自らの行いへの――失意。
     うむうむ、と華織が頷きこう述べた、
    「テーマパークで存分に遊んでから帰るのじゃ」
     失意の彼を半ばスルーしているかのように、聞こえる言葉だが、勿論そんなことはない。
     何故か?
     ここは骨平の愛するテーマパーク。存分に遊ぶという事は、彼の愛するものを理解しようという発言に他ならない。
    「そうだね! 折角だし皆で乳搾り体験して帰ろうよ!」
    「喜んでお供しましょ」
     碧月が同意し、一浄も緩く笑んだ。
    「牛乳は体にいいし、乳搾りはいい経験だよね。乳搾りやったこと無いけど……」
     おずおずと語る鎗輔にショボリが元気に歌う。
    「牛乳パワーで骨元気! 身長ぐんぐん! 数年後にはボイーンボイーンなんだよ! 牛乳で世界だって獲れるよ!」
     牛乳は、愛されている。そして灼滅者達が理解してくれようとしている事実が、骨平の心に沁みる。
    「勿論、牛乳とアイスも忘れずになの♪ ねぇ骨平くん! 案内してもらってもいいかな?」
     碧月の笑顔に、骨平の顔に自然に微笑みが浮かぶ。
    「……勿論だ」
    「ねえねえ、おいしいの、他にも何かあるかなー?」
     ジャンゴが問いかけると骨平は深く頷いた。
    「ああ、ジンギスカンも食べられる」
    「ジンギスカンか~うれしーなー☆」
     ジャンゴはじゅるりしつつ歩み出し転びかけ――アルパカのもふもふに顔面から衝突! わーもふもふ~☆ と大喜び。もふもふ好きの一浄ももふもふを楽しんでいる。
     そうこうしながらにたどり着いた黄色と緑のテントには、大きな大きなホルスタインが!
    「ふぉおぉぉ……!」
     華織がおずおずと手を伸ばすと生暖かい感触が掌に。おそるおそる握り混むとびゅっと飛び出す牛乳。
    「上手くタイミングを掴むと、うどんくらいの太さが出る」
    「な、なるほど……!」
    「プリュもやってみたいデス!」
     骨平に言われ、華織は目を輝かせながら再トライ! 牛は初めてなプリュイも目をキラキラさせて。
    「牛さンの前では仲良くしまショ、キット皆その方が嬉しいでス」
     プリュイがにこにこと笑う。
    「……そうだな」
     先ほどより少し自然に骨平は笑んで。
     みんなでご飯を食べて、そして話をするうちに次第に骨平は灼滅者達へと馴染んでいく。
     みんなで羊の毛刈りを楽しみ、大行進するアヒルのかわいらしさに一同そろって表情を綻ばせる。
     楽しい色々なイベントの数々に、帰る頃にはみんな笑顔。
    「いつか牛野牧場もこれ位に!」
     ぐっと拳を握り、ショボリの野望、発動!
     楽しい時間は明日に立ち向かう小さな勇気をくれた。ひとときの休暇を満喫し、灼滅者達は日常へと帰るのだった。

    作者:高橋一希 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年8月13日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 8
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