●食堂にて
食堂の脇に、動物園の割引券が束になって置かれていた。
「ん、ライオンの赤ちゃんと触れ合おう、か」
券を手にとって眺める逢見・賢一(高校生エクスブレイン・dn0099)の脳裏に、誰かの声が木霊した。
(「動物園に行こう!」)
ハッとして辺りを見渡す賢一。その足元で、薄井・ほのか(小学生シャドウハンター・dn0095)がにこにこしていた。
(「連れてって、賢一くん♪」)
接触テレパスでおねだりするほのか。
「ま、たまにはいいか」
券にプリントされているライオンの赤ちゃんを眺めつつ、にやにやする賢一であった。
●割引券
割引券を見るに、その動物園は学園から電車で一時間くらいの所にあるようだ。開園時間は午前九時から午後五時まで。
写真からは、カピバラが放し飼いにされていること、馬に乗るコーナーがあること、ライオンの赤ちゃんを抱っこできるコーナーがあること、象やキリンに餌をあげられること、アルパカがボンヤリしていること、ペンギンが涼しげに泳いでいること、猿とにらめっこするコーナーがあること、等が見て取れる。
大きめの動物園なので、大抵の動物は居るようだ。
君は割引券を手に取り、少し考えた。
友だちを誘って遊びに行こうか。それとも、一人でぶらぶらしてみようか。
たまには優しい動物たちと触れ合って、戦いの疲れを癒やすのもいいかもしれない。
●ライオンの赤ちゃんと触れあおう!
その日は、朝からよく晴れていた。
「……何だか訳も分からないまま連れて来られたが、随分人がいるな」
朝明が辺りを見渡して言った。園内は多くの家族連れや恋人達で賑わっている。
「こっち、ライオンさん!!」
走り出そうとした朝花を、藤花がガシッとつかまえた。
藤花に引率される【はなうた】の面々。
しばらく歩くと、長蛇の列が見えてきた。
「混んでる……」
「やっぱり人気ね」
行列に並んだ藤花が、先の方を見て呟く。
「まだかなー……」
そわそわする千花の手を、恵未がギュッと握った。
そして――。
「あ……赤ちゃん!」
恵未が先頭を指して歓声を上げた。
柵に囲われた草むらのような場所に、赤ちゃんライオンが四匹と飼育係のお姉さんが見えた。
「もふもふ……かわいいな~。百獣の王の子供とは思えねぇぜ」
柵の中で、亮がライオンの赤ちゃんを膝に乗せて撫で回していた。
赤ちゃんといっても、そのサイズは子犬より大きい。
次に赤ちゃんを抱いたのは眞沙希。
「はぅ……もふもふ、にくきう……きゃーん♪」
彼氏の綾鷹をそっちのけで愛でまくる!
そんな眞沙希を優しく見守る綾鷹。
とはいえ。
「……赤ちゃん抱いたまま周るのは駄目ですよ?」
赤ちゃんを抱っこしたまま持ち帰ろうとする眞沙希をたしなめる綾鷹であった。
「わぁっ……すごいですよ部長っ!」
ティエがライオンを抱きながら目を輝かせた。
「ぬいぐるみみたいにふかふかで、でもちゃんと重さが有って、暖かいです!」
「百獣の王っちゅーても、ちっちゃい間は無害やなァ」
右九兵衛は小さなライオンと笑顔のティエを携帯のカメラに納めた。
「きゃあ」
赤ちゃんライオンに飛びつかれて尻餅をついたのは【光合成】の千那。ほっぺたをなめられてくすぐったそう。
「大丈夫か、千ちゃん!」
お父さんばりにビデオ撮影していたクレイが、もの凄い速さで千那にのしかかる赤ちゃんを引きはがした。
千那は楽しそうに笑っている。
「へぇ、以外と力があるんだな、赤ちゃんライオン」
感心しつつカメラのシャッターを切るアヅマ。
シグマはクレイのビデオを拾って撮影を続ける。
フレームの中で、赤ちゃんライオンを抱く千那とクレイとが笑っていた。
「ニカ、ことばにならない……」
「なんかぬいぐるみ持ってるみてぇだな」
眼をキラキラさせて赤ちゃんを抱くヴェロニカに、葉が感想を漏らす。
「連れて帰りたい、ねぇ葉さんダメ?」
「ダメだ」
スマホのカメラにニカと赤ちゃんを納める葉。
「そいで、一時でもママになった気分はどーだ?」
葉の問いに、ニカは顔を伏せてごくごく僅かに微笑んだ。
「はぁ~……。かわいいなぁ~♪ もう堪らないなぁ♪」
順番が来ると同時に、紗矢は赤ちゃんに飛びかかって頬ずりする! すりすりすり!
そんな風にはしゃぐ紗矢の笑顔を見て、矧は何だか妙な感情を覚えた。
「はて? 何でしょうかね?」
考えても答えは出ず、ただ、紗矢の笑顔を見守っていた。
「まだ小さいけど、脚とか強そう」
朝花と千花と恵未に撫で回されてじたばたしている赤ちゃんを見ながら、潤哉が感心したように言った。
そして、その太い脚にそっと触れて、ほんわりするのであった。
「わーっ、しょーた君みてみてっ! ふわふわだね~♪」
満面の笑顔でもふもふの感触を堪能する鈴。
「うん、可愛いな」
抱っこされた赤ちゃんライオンと上目遣いの鈴を交互に見たあと、翔太は鈴の頭をなでた。
「体付きがしっかりしているのね」
太い前足や頭を撫で、愛くるしい姿と猫とは違う感触にご満悦の花梨。
「このままお持ち帰り出来ないかしら」
「残念ながらお姫様、そちらの子にもご両親がおられますから」
その冗談に毅は微笑みつつ、名残惜しそうにする花梨の手を引いた。
「てめぇ~撫ぜさせろ!!」
湊は、なぜか赤ちゃんライオンとにらみ合っていた。
逃げるライオン、追う湊。
その横ではファティマが凄く幸せそうな顔で別のライオンをもふもふしていた。
「ふふ」
気持ちよさそうなライオンを見て微笑む希。
「強く育ってくれよ」
そう言いつつ、ファティマと一緒に赤ちゃんライオンを愛でるのであった。
その足下に、どこからともなく白猫と黒猫が現われた。
「ふにゃぁー」
「にぁ?」
ライオンの赤ちゃん達に話しかけているようだ。
白猫は楽しそうに赤ちゃんと遊んでいる。
「ふー!!」
それを眺めていた黒猫が、なんだかヤキモチを焼いたかのようにライオンと白猫の間に割って入った。
「ライオンは非常に勇壮な姿デスけれど、こうしてライオンの仔を見ると確かに猫科の動物なんですネェ」
「へぇ、知らなかった。ライオンはネコ科だったのか。確かに子供を見るとそっくりかもな」
二匹の猫と遊ぶ赤ちゃんライオン達を眺めながら、雲龍はラルフの言葉に頷いた。
飼育係のお姉さんがほ乳瓶を持って来た。
ライオンの赤ちゃん達は目を輝かせてお姉さんを見上げている。
「え? ミルクあげて良いの?」
ほ乳瓶を手渡された楸に、赤ちゃんライオンがよじ登ってきた。
「あはは、勢いよく飲むねー。腹減ってたんだ?」
もの凄い力でしがみつくライオンの背中を、楸がポンポンと叩いた。
ミルクを飲ませたら、すぐにゲップをさせなければならない。
「ハハッ、超なつっこい! くすぐったいよー」
頬をなめられてメロメロに笑っている壱を見て、思わず口元を緩ませる依鈴。
「バイバーイ」
赤ちゃんに手を振る壱。もう片方の手に何かが触れた。
見れば、頬を赤らめた依鈴の手が。
「……真似っこ……」
「……あっ、うん」
壱はその手を、キュッと握り返した。
●乗馬体験コーナー
動物園の端の方に、木の柵で囲われた広場があった。
「わぁ、おうまさんだっ! かっくいー!」
広場の柵に沿って歩く馬を見て、さちこが目を輝かせた。
「乗馬体験でもやっていくか?」
キィンの問いに、はい! と元気よく手を上げるさちこ。
二人は一緒に馬に乗った。キィンの前にさちこが座って、手綱を握っている。
その様子を、花織は微笑みながらスケッチした。
今日の、素敵な思い出。
「はぅ、間近で見ると思ったより大きいんだ、ね……!」
「そうだな、迫力あるかも……」
目の前の白馬を見上げながら儚に返事する隼人。
係の人は、さも当然といった風に二人を一緒に乗せた。
(儚にとっての王子様になれたらいいのにな)
儚の温もりを感じながら、そんな事を想う隼人であった。
「ハイヨー、ブッチ!」
ロサが白ブチ模様の馬にまたがって歓声を上げた。
「おお、ゆっくりとはいえ中々に良い乗り心地と景色だ。どうだロサ、楽しいか?」
一緒に乗った織緒の声に、ロサは満面の笑みで答えた。
「楽しいし、なんかすっごく、嬉しい」
ブッチも首をあげてロサに同意した。
●アルパカさん&お弁当タイム
「つづりん! アルパカや! アルパカもふりに行こう!」
案内板でアルパカの存在を確認した星花が、小走りになって言った。
「ちょっと、はぐれる」
追いかけて、その手を繋ぐ綴。
二人はもふもふしているアルパカさんに想いをはせながら先を急いだ。
そして見たものは――。
夏の毛を刈られてプードルみたいにやせ細ったアルパカさんの群れだ!
ガガーン!
綾子は雷に打たれたかのようなショックに見舞われた。なんかキモい!
「しかも、アルパカの群の中心に居るのってセゼ先輩……」
アルパカの柵の中で、ゼゼはアルパカさん達からのキスの嵐に見舞われていた。
「……アア! 何だい君達! 惚れたからってやめておくれよ、セゼは皆のものだからねえ! ンフフフ!」
「人懐っこい……のですね、次々寄って来ました……!」
セゼから少し離れたところでも、魚々がアルパカさん達に包囲されていた。
「八方を囲まれますと……う、動けなく……」
「セゼ先輩の姿が埋もっ……魚々がー! 魚々が四面楚歌ー!!」
埋もれていくセゼと魚々を交互に見ながら叫ぶルードヴィヒ。
「えっ何なん何で塩屋ご一行様の周りは丸ハゲちゃんばっかなん?」
蓮生はアルパカまみれのセゼと魚々に爆笑しつつ写メりまくる!
そして、十二時の鐘が鳴った。
「おっにぎり! おっにぎり!」
【塩屋】の皆はアルパカ地帯から少し離れたところにあるベンチに陣取り、お弁当を広げた。
唐揚げ、卵焼き、お浸し等定番のおかず。そして大量の塩握り!
「秋風、ほらロンロンのおにぎりですよ。わーい、お浸し入ってるー」
紫緑に促されるなり、塩握りをガシッと掴んで黙々と食う千代助。
一人で全部食ってしまいそうな勢いだ。
「いっぱい作ってくれて、ありがとう」
輝生が慶一に敬礼した。
そう。
この弁当は全て慶一が早起きして作ったもなのだ!
「……残したらシメる」
そう呟きつつ、すでに争奪戦と化している様子を満足げに眺める慶一。
「ちょ、オレにも、塩握りとってくれないかい?」
「ん」
輝生に言われて千代助は塩握りを掴んだ。
が、その塩握りはあまりにも旨そうだったので、つい食べてしまう千代助であった。
●涼しげなペンギン
ペンギン達が、日陰のプールで優雅に泳いでいた。
「気持ちよさそうやね」
夜深の手を引きつつ、チセが言った。
そこに飼育係がバケツをぶら下げてやってきた。ちょうど餌やりの時間だ。
「餌遣リ、可能? 体験、希望ヨ……!!」
夜深が小魚をペンギンに放ると、ペンギンの群れは器用にそれをキャッチした。
「折角やから一緒に写真撮って貰おう」
「写真、撮影? 素敵、宝物、会得! 我、嬉シ!!」
チセの提案に喜色満面の夜深。
きっと良い思い出になるだろう。
「ぺんぎん可愛いねー♪」
オリキアが柵につかまってぴょんぴょん飛び跳ねた。
そのたびに、長い三つ編みが弾む。
ペンギンを追う赤い瞳が、キラキラと輝く。
(あーもう超かわいい! うちの彼女やばい!)
ジンは、ペンギンそっちのけでオリキアの横顔に見惚れていた。
「ジン、次はどこ行く?」
パッと目が合い、ジンは微笑んだ。
きっとこの子となら、どこに行っても楽しいだろう。
●色々長いキリンさん
「きりんさん、ながいおくび……それにおっきいのね」
頭上で木の葉を食べているキリンを、みかんは一生懸命見上げた。
「……疲れないのだろうか」
みかんと同じように、サズヤもキリンを見上げる。
「キリンは首もなげーケド、走るとめっちゃ早いらしいぞ」
そして嵐も同じ格好でキリンを見上げた。
そんな三人の姿を見つめる男が一人。
折り畳み式のイーゼルを抱えて絵を描きに来た春次である。
(いい構図だ!)
仲良くキリンを見上げる三人を、手早くキャンパスに留めた。
キリンは大きい。
その圧倒的事実に感動しながら、籐眞は柵にしがみつく様に観察していた。
ふと横を見ると、『キリンのえさ』とかかれた物を発見。
早速チャレンジ!
カボチャのスライスを差し出すと、キリンは黒く長い舌で巻き取るようにカボチャをゲット。
「キリンさん、キリンさん」
麒麟も餌をもってキリンを呼んでみる。でも自分の名前を呼んでるみたいで、変な感じ。
「きりんさんこっち空いてる」
椎宮司がきょろきょろする麒麟の手を引いた。
そこへ、キリンが首を伸ばしてきた。
麒麟は背伸びしながら手を伸ばして、何とか餌やりに成功した。
その一生懸命な麒麟を隣から見て、司がポツリと呟いた。
「意外と可愛いよねキリン」
「え……、あ、うん」
ポッと顔を赤らめる麒麟。麒麟とキリンて、紛らわしい。
「キリンにエサやり? やってみたい!」
優奈も餌やりにチャレンジ!
差し出した人参スティックめがけて、キリンが長い首をぐーんと倒して近づいてくる。
「ぎょえー! 舌なが! 舌くろ! まつげなが!」
大騒ぎの優奈を見て、ふふ、と微笑む暁。
(動物も楽しいけど優奈を見てるのも面白いわね)
暁も餌やりができて大満足。
「さぁ次は何処へ行くの? お姫様」
そう言って手を差し出す暁。
「じゃあ、カピバラ! 宜しく、王子様」
優奈は暁の手を取ると、照れたように笑った。
●スイカとカピバラさん
実は、カピバラは至る所にいた。
カピバラゾーンの扉は開放され、放し飼い状態だ。
というわけで、流希はキリンの餌に群がるカピバラをもふもふしていた。
「平和ですねぇ……」
そう呟きつつ、芝生でカピバラの子供と一緒に寝コケている少女を眺めた。カピバラと戯れているうちに眠ってしまったのだろうか。
そして、三時の鐘が鳴った。
この音を聞いて、園内に散らばっていたカピバラ達が、カピバラゾーンめがけて猛ダッシュを始めた。
なぜか?
その理由は――。
「スイカタイム?」
カピバラゾーンの前で結衣が首をかしげた。
飼育係がスイカのトレーを山積みにした台車を押してやってくる。
そこにダッシュで突っ込んでくるカピバラ達!
「わ、本当だ! 夏だからかな、カピバラもスイカが好きなんだね~」
スイカにがっつくカピバラを見て結衣が微笑んだ。
「落ち着けカピバラ! スイカはまだある! 我を忘れんなー!?」
飛鳥はカピバラとスイカの配分が上手くいくよう、スイカのトレーやカピバラを適度に引き離して回った。
スイカを巡る仁義なき戦いが至るところで勃発していたのだ。
スイカに一生懸命なカピバラは、やはり可愛かった。
普段おとなしいカピバラの意外な一面に触れて、女の子達は大喜びだ。
そんな【応援走流!】の皆を、三ヅ星はカメラに納めるのであった。
やがてスイカも尽きた。
カピバラさん達は満足げにくつろいでいる。
「こんな感じで、大丈夫……でしょうか?」
せららが、ドキドキしながら恐る恐る手を伸ばす。
ぽふ、と触れると、カピバラさんの毛がぼわわっと逆立った。
「きゃっ」
びっくりして手を引っ込めるせらら。
「大丈夫、大丈夫、気持ちいいだけだから」
カピバラ慣れしている梢が撫でると、コロンと転がっておなかを見せた。
「ふふっ、こうして見てると、まったりして癒やされるわ♪」
カピバラを撫でるせららを見て、嬉しそうに微笑む海梨であった。
「気持ち良さそうっすねぇ。にゃはは、ここかー、ここっすかー?」
あやとは、おなかを見せて昇天モードのカピバラさんをもふりまくった。
「……こうやって見るとあやとさんも小動物っぽいですよね」
おもむろに、あやとの頭を撫でる一樹。
「ぐぬぬ、小動物……まあ、確かに背もちまいっすけど……」
少し納得いかない顔をしつつも、一樹につられてあやとも微笑んだ。
●カラスが鳴いたら
五時になり、閉園を告げるメロディーが流れた。
「え! もう終わりですか? まだパンダもハシビロコウもカワウソもウォンバットも大きなライオンもゾウさんも爬虫類館も見てないのに!」
夕月は名残惜しそうに動物園の門を見た。
門をくぐって帰路につく来園者達。
その誰もが、満足そうに微笑んでいた。
作者:本山創助 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年8月15日
難度:簡単
参加:97人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 22/キャラが大事にされていた 3
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