紅蓮の花

    作者:天木一

    「たまや~!」
    「かぎや~!」
     夜空に咲く満開の花に、観客が歓声を上げた。
     色鮮やかな花が次々と咲き誇り、その度に光が川に映しだされる。
     河原にはずっと人が連なり、上を見上げていた。
    「すげー綺麗だなー」
    「ほんと花火って素敵ね」
     浴衣姿の一組のカップルが手を繋ぎ花火を眺めていた。
    「今日はずっと一緒にいよう」
    「……うん」
     2人は微笑み合い、視線を花火に戻す。
    「あれ? なんだ?」
     その時、光が一つ空から落ちてきた。
    「きゃっ」
    「なんだ……花火?」
     河川敷に落下した物体が轟々と燃え盛る。
     野次馬が集まり始める。炎の周囲には距離を置いて、見物にやって来た人々が何事かと注視する。
     その時、炎がむくりと起き上がった。
     炎の中より現われたのは四つ足の獣。
    「あれって……虎?」
    『グォオオオオオ!』
     縞模様のある獣は牙を剥き出しにして、周囲の人間を威嚇した。
    「きゃあああああああ!」
    「に、逃げろぉ!」
    「どけ! どけぇ!!」
     少しでも速く逃げようと、人々は押し合い、悲鳴を上げる。
    「きゃっ! 助けて……!」
    「ひっ」
     先ほどのカップルの女性が押されて転んでしまう。すると男性は手を離して一人逃げだした。
     獣は炎を纏いゆっくりと近づいて来る。
    『グオオオオオオオ!』
     唸り声をあげ、獣が首に少女に牙を立てる。
    「あ……ああ……」
     女性の体に火が点く。全身が燃え盛り、焚火のように夜を照らす。
     獣は打ちあがる花火を見上げ、ゆっくりと次の獲物に向けて歩み出す。
     女性の体はまるで地上の花火のように燃え、火花が弾けた。
     
    「やあ、来てくれたね」
     教室で能登・誠一郎(高校生エクスブレイン・dn0103)が、灼滅者達を出迎える。
    「みんな元気にしていたかな? 今は夏休みでイベントの多い時期だね。そんなイベントの一つ、花火大会にイフリートが現われてしまうんだ」
     祭りに現われたイフリートは、何人もの人々をその毒牙にかける。
    「でも、それだけじゃないんだよ、逃げる人々はパニックになり、押し合って死傷者が大勢出てしまうんだ」
     老若男女さまざまな人々がいる。それらが一斉に逃げ惑えばとんでもない混乱が起きるだろう。
    「みんなにはイフリートを灼滅し、人々ができるだけ傷つかないよう手配して欲しいんだ」
     場所は河川敷。周囲には屋台なども出ていて、大勢の人々で賑わっている。
    「どうにかして逃げる人々を誘導してほしい、それによって被害の大小が変わってくると思うよ」
     獣を見た人が他の観客を押しのけて移動を始めるのが被害の最初だ。そこから連鎖的に人々が動き出してしまう。
    「敵は一体だ、油断をしなければ問題なく倒せると思うよ」
     ただ人々の誘導も同時に行なうと、戦いばかりに集中できないかもしれない。
    「せっかくの楽しい花火大会、イフリートもその賑やかさに惹かれたのかもしれないけど、マナーを守れない客には退散してもらおう」
     誠一郎はそう言うと、灼滅者達を見送った。


    参加者
    アーデルハイド・エーベルヴァイン(嘲笑する虐殺者・d00168)
    花蕾・恋羽(スリジエ・d00383)
    宗谷・綸太郎(深海の焔・d00550)
    日辻・迪琉(迷える恋羊・d00819)
    黒田・柚琉(常夜の蝶・d02224)
    レイネ・アストリア(壊レカケノ時計・d04653)
    神代・煉(紅と黒の境界を揺蕩うモノ・d04756)
    宮落・ライア(ジャスティスヒーロー娘・d18179)

    ■リプレイ

    ●花火大会
     夜の川沿いに大勢の人々が集まっている。歩くのも大変なほどの人々が無秩序に立ち止まり、星の見える空を見上げていた。そんな混雑の中、ぽっかりと空いた空間があった。
     それは灼滅者達が作る避難経路。その空間を確保する為に忙しなく動いていた。
    「ふむ……花火か……まぁ何とかなるだろう……本来は人前に出たくはないんだが。仕方ない。我が首領への土産にイフリートを捧げるか」
     人込みに辟易しながら、アーデルハイド・エーベルヴァイン(嘲笑する虐殺者・d00168)は一人呟く。
    「なるべく犠牲者を出さないように、するのです。悲しい思いを、させないように」
     花蕾・恋羽(スリジエ・d00383)はぐっと拳を握って、楽しそうに花火を楽しむ人々を見渡す。
    「やれやれ……イフリートも大人しく花火を見ていればいいんだけどなぁ。まぁ、仕方ないか」
    「全くだ……イフリートも祭りを楽しみたいのならせめて人化して……いや、出来ない可能性もあるのか?」
     殺気を放ち、イフリートが現われると予測される場所から人を遠ざけていた黒田・柚琉(常夜の蝶・d02224)は、ダークネスに道理を説いても仕方ないと肩を竦める。
     今まで人化したイフリートなど数えるほどなのを思い出して、神代・煉(紅と黒の境界を揺蕩うモノ・d04756)は言葉を止めた。
    「浴衣可愛いなー、いいなあ。みちも花火観たいよう」
    「まったくせっかくの祭りなのに……楽しく終わらせて花火を楽しもうよ」
     祭りの関係者を装って避難経路を確保していた日辻・迪琉(迷える恋羊・d00819)は、浴衣姿の楽しそうな人々を羨ましそうに見つめる。
     せっかくのお祭りを台無しにされては堪らないと、宮落・ライア(ジャスティスヒーロー娘・d18179)は溜息を吐く。
    「私怨は無いけれど、野放しには出来ないわね」
     レイネ・アストリア(壊レカケノ時計・d04653)は冷たく言い放った。
    「誰かが犠牲になるなんて、そんなことは決してさせない」
     騒がしい中でもよく届く声で道を空けさせていた宗谷・綸太郎(深海の焔・d00550)が、誰にも聞こえない静かな声でそう言った。そこには強い意思が宿っている。
     その時、暗闇を切り裂くような音が空に上がる。そして一瞬の静寂の後、夜空に満開の花が咲いた。
     灼滅者達も一瞬その景色に目を奪われる。
    「イフリートを倒したら、みちたちもちゃんと花火を観ようね!」
     迪琉の言葉に仲間達が頷いた。

    ●炎の虎
    「たまや~!」
    「かぎや~!」
     観客の歓声が上がる。空には連続して花火が煌く。
     一組のカップルがそんな空を仲睦まじく見ていた時、それは起こった。
     空から一つ、光が落下してきたのだ。
     河川敷に落ちた光は燃え盛る炎だった。それを見た灼滅者達が一斉に動き始める。
    「さて……始まったか」
     待ち構えていたアーデルハイドは予定通りに行動を開始する。その身から周囲に向けて殺気が放たれた。
    「なんだこれっ……」
    「に、逃げようっ」
     その殺気に当てられ、周囲の人々が慌てて逃げようとする。
    「皆様。会場警備、スタッフの指示に従って避難をお願いします」
     そこに拡声器を使って柚琉が呼びかける。殺気を放ち、ある程度の人の流れを誘導していく。
    「静かに! 皆さん、落ち着いて。慌てずに避難してください。大丈夫、絶対に怪我はさせません。私達を信じて」
     恋羽が混乱する人々威圧的な口調で声をかける。その誘導に従って周囲の人々が動き出す。
    「花火の暴発で飛び火したので落ち着いて河川敷から此方の通路を使って避難してください」
     煉が拡声器を使って声を張り上げる。パニックを起こさないよう、落ち着いた声で何度も呼びかける。
    「慌てると転倒や将棋倒しと言った二次災害が起こりかねません、スタッフが既に対応に当たっていますので落ち着いて避難してください」
     人々は灼滅者達が用意しておいたルートを通って落ちた炎から離れていく。
     炎の中から四足の獣が起き上がる。それは炎を纏った虎。
    『グォオオオオオ!』
    「きゃっ! 助けて……!」
     咆哮に人々が凍りつく。最も近くに居たカップルの女性が転んでしまう。それに目を付けた炎虎が足を踏み出した。
    「君の相手は俺たちだよ。ここから先へは進ませない」
     そう言って綸太郎はイフリートの前に立ち塞がると、その間に迪琉がカップルを逃がす。
    「ここからは彼氏さんの役目だよう。ふたりで助けあえば大丈夫!」
     2人に手を繋がせて逃がし、その姿を見送る。
    「イフリートのせいで恋が壊れちゃったらかわいそうだもんね」
     そう言って、すぐにメガホンを手に一般人の誘導を開始する。
    『グルゥゥゥ!』
     炎虎が駆け出そうとした時、その鼻先に巨大な剣が突き刺さる。ライアは剣を投げ、大きく跳躍すると柄の上に降り立った。
    「こんばんは、わんこ。いや虎だし猫かな? まぁ関係ないかな」
     その時夜空に花が咲く。花火の輝きと共にライアから伸びた影の鎖がイフリートの腹部を斬り裂いた。
    『グゥォォォォ!』
     怒りの籠もった炎虎の咆哮。視線がライアに向けられる。炎虎は一気に跳躍して距離を詰める。襲い来る爪をライアは足場にしていた剣の後ろに回り込み盾とする。
     薙ぎ払うような爪の一撃が大剣ごとライアの体を吹き飛ばした。炎虎はその勢いのまま駆け、ライアを追う。その獣に並走する影。
    「さて、狩りの時間だ」
     ライドキャリバーに乗ったアーデルハイドがハンドルを切り、そのまま体当たりで炎虎の進路を変える。反動で自分も反対へ進路を変え、ライアの左右を通り過ぎる。
    「捕らえるか足止めか……ああ、獲物なら捕らえる前に足止めだな」
     大きく曲がって向かってくる獣に、アーデルハイドの影がナイフのように下から突き出る。獣は大きく跳躍してそれを躱すと、そのままアーデルハイドの後方へ着地する。その先には避難する一般人が見えた。
    「君の相手は俺たちだよ。ここから先へは進ませない」
     綸太郎がその前を遮る。既に灼滅者達による包囲網が出来ていた。
    「君の炎と俺の炎どっちが熱いか勝負しようか」
     手にした槍が炎を帯びる。鋭い突きの一撃が炎虎の左肩を捉えた。穂先がその傷口を焼く。
    『グオォッ!』
     炎虎はその槍を咥え、綸太郎の体勢を崩すと爪を閃かせた。刃の如き爪は綸太郎の左肩を斬り裂く。
     やり返したとばかりに炎虎は喉を鳴らす。
    「惑わぬ風、織り成す虚実、見透かさん」
     言葉と共にレイネの封印が解かれる。光の中から手を振ると、右手に刀、左手には大太刀が握られている。
     その刃で背後から斬り掛かると、炎獣は素早く躱す。だがそれは想定通りの動きだった。
    「歪みを断つ為に――」
     レイネから伸びた影が、炎虎の体に絡み付き動きを封じる。
    『グルゥアァ!』
     炎虎の全身から炎の渦が巻き起こる。それは影を焼き切りレイネに向けて放射される。
     レイネは咄嗟に避けようとするが、背後の射線上にまだ一般人が居るのに気付き動きが止まる。何とか受けようと刀を構えた時、衝撃と共に突然炎が消えた。見れば鉄塊が地面に穴を開けている。
    「一般人を守るのはヒーローの役目です」
     ライアがヒーローの様に立つ。大剣の振り下ろしで炎を掻き消したのだ。
     だが炎虎の攻撃は終わっていなかった。炎を追うように低い姿勢で駆けると、ライア目掛けて跳躍する。大きく開けた顎から鋭い牙が覗く。
    「捕らえたぞ」
     その時アーデルハイドの影が炎虎の後ろ足に巻き付き、勢いを失った牙はライアの首を掠めるに止まった。
     そこに綸太郎が槍に影を宿して薙ぎ払う。脇腹を打ち据え、炎虎は地面に背中から落下する。だが着地の直前くるりと反転して受身を取った。その瞬間、側面から刀の一撃を受ける。
     レイネの影を宿した大太刀が、背中から腹部に一筋の傷跡を残す。
    『グルルァァ!』
     炎虎は全身に炎を纏ってレイネに向けて突進する。爪が届く直前に割り込む姿が瞳に映る。
    「お待たせだよう!」
     駆け込んだ迪琉が斧でその攻撃を受け止めていた。
    「周囲の避難終わりました。私たちも参戦します!」
     恋羽が縛霊手から霊力を放ち、傷を受けていた綸太郎の肩を治療する。
    「後はイフリートを倒すだけだな。話し合いが通じない相手には仕方が無い。恨みは無いが此処で討たせて貰うぞ!」
     突然の敵の援軍に間合いを開けようとした炎虎に、背後から近づいた煉が影の如き気を纏う刀を振るう。刃は右後ろ足に深い傷を刻む。
    「……お待たせ、さぁ、お掃除の時間だ」
     柚琉が炎虎と対峙して血のように紅い刀を構えた。

    ●紅蓮
    『グルル……オオオオォ!』
     咆哮と共に炎虎が全身に炎を纏う。炎は受けた傷を癒し、爆炎となって炎が周囲を薙ぎ払う。
    「防ぐんだよう!」
    「オレ達の影に入れ!」
     それを迪琉、煉、ライドキャリバーの紅桜が仲間の前に出て受け止める。
     炎虎はその炎を追うように襲い来る。鋭い爪が振るわれる。
    「まずはその爪をもらおうか」
     煉の背後から柚琉が飛び出し、その身を爪の前にさらけ出す。手にした刀は上段に構え、虎の爪と刃が交差する。硬い金属音が響き、ざくっと地面に何かが刺さった。見ればナイフの様な爪だった。
     炎虎は右の爪を失い、足からは血を流していた。柚琉の一撃は爪を斬り、その勢いのまま踏み込むと、返す太刀で右前足の裏を斬ったのだ。
    「……爪や牙って武器に値するんだよね……虎なお前の場合だと、さ」
     そのまま背後に回った時、炎虎は後ろ足を蹴り上げた。柚琉は咄嗟にオーラを纏ってガードするが、腹を直撃した蹴りは肋骨を折り、吹き飛ばされる。
    「大丈夫ですか!?」
     恋羽が駆け寄り、傷を見て霊力を与える。骨を繋ぎ痛みを消していく。
    「元気な獲物だ。少し弱らせなくてはな」
     アーデルハイドがライドキャリバーを駆り突進する。炎虎もまた同じように駆け出す。正面からキャリバーと炎虎がぶつかる、その瞬間アーデルハイドは跳躍して飛び降りる。
     キャリバーは炎上して吹き飛ぶ、炎虎も衝撃に歩を緩めた。そこに頭上からアーデルハイドが影を纏い拳を放つ。頭から背中にかけて滅多打ちにすると、蹴りを入れて跳ぶと間合いを開けて着地する。
    『グォォッォォ!!』
     痛みに炎虎が猛る。そして身を低くすると、矢のように駆け出した。
    「好き勝手させないよ」
     綸太郎がエネルギーの盾を構えその突進を防ごうとする。しかしその盾ごと潰そうと炎虎は速度を上げる。ぶつかる瞬間、綸太郎は盾だけ残し体を入れる。そしてすれ違う時に槍を背に突き刺した。だが炎虎はまだ止まらない。
    「わんこの本能的に拒絶するのは何かな?」
     ライアの足元から伸びた影が巨大な獣の口となって炎虎を飲み込む。
    『ォォォォオオオ!』
     炎獣は炎を前方に展開して影を突き破る。
    「其の歪み、私が断ち切る」
     その眼前にレイネが待ち構えていた。牙を剥き出す炎虎にレイネの右手が振るわれる。左の頬から刀が通り牙を数本斬り落とした。だが炎虎の勢いは止まらない。
    「遅いっ」
     レイネは右にステップし舞うように避けると、回転しながら左の刃を薙ぐ。刃が炎虎の左耳を斬り飛ばした。
    『グゥルォォ!』
     炎虎は憤怒の表情で振り向くと、全身に炎を纏いレイネに襲い掛かる。避けようとすると炎が周囲を囲む。爪を剣で受けようとした時、炎を突破して紅桜が現われる。車体を炎に溶かされながらも炎虎の攻撃を代わりに受けると、タイヤに大きな傷を作りそのまま転倒する。
     それでもまだ炎虎の戦意は留まらない。顔を傾け、まだ無事な右の牙でレイネの首を狙う。
     その時、周囲を包む炎が吹き飛ばされる。
    「火遊びは人の迷惑掛にならない所でやってねだよう!」
     迪琉が斧を横に一振りして炎を消し飛ばした。そしてそのままの勢いで回転すると更に勢いを増した斧が炎虎の右前足を斬り飛ばした。
    『ニギィィィアア!』
     炎虎が失った足を見て悲鳴を上げる。
    「人を害する存在をオレは放ってはおけないんでな」
     煉の影が鎖となって幾重にも炎虎を拘束する。もがき脱出しようとする敵をぎりぎりと締め付ける。
    「さっきはよくもやってくれたな、次はこちらの番だ」
     柚琉の刀に炎が宿る。上段に構えると、縛られた炎虎の胴体へ振り下ろす。縦に赤い筋が奔る。次の瞬間そこから血と炎が溢れ出た。
    『グォゥオオゥッ』
    「紅桜を傷つけたお返しです!」
     唸る炎虎に向かい恋羽が十字に腕を振る。すると空間に赤きオーラの逆十字が出現し、炎虎を斬り裂く。
    「誰も死なせない。だからここで消えてもらうよ」
     綸太郎がその後を追い撃つ。オーラを纏うと、傷口に向かい拳を打ち込む。傷が広がり血が吹き出た。炎虎が姿勢を変えて後ろを向くと蹴り上げてきた。
     それを殴って相殺すると、綸太郎は槍を突き刺し傷を深くする。傷口から白い骨が覗く。
    『オオォォォ』
     炎虎は全身に炎を纏って傷を塞ごうとする。
    「そうはさせないんだよ」
     回復をさせまいとライアが緋色のオーラを纏った大剣を振るう。剣圧が炎を弱め、その刃は炎虎の左目を潰した。
     距離を開けようとした所へ恋羽の影が喰らい付き、その隙にアーデルハイドの影がナイフとなって残った左前足を貫く。炎虎は前屈みに崩れ、顔を地面に打ち据えた。
     纏う炎が周囲へと撒き散らされる。それを迪琉が斧で、煉が腕に影を纏って打ち払う。
     牙を剥く炎虎に柚琉が一閃すると、残った牙が断ち斬られた。跳躍した綸太郎が上から槍で胴体を串刺しにすると、レイネが大太刀を振り上げた。
    「――これで終り」
     花が空に咲く。それと同時に地上の火は消え去った。

    ●夜空の彩
     地上の騒動など気にもせず、空では大輪の花が咲き続ける。
     戦いは終り、周囲には一般人の姿も少しずつ戻り初めていた。
    「犠牲者が出なくてよかった」
     無事な人々を見て、綸太郎はかつて交わした約束を守れたと安堵する。
    「花火とはまるで大砲だな」
     体に響く花火の破裂音に、これを楽しむとは日本人はよく判らないなとアーデルハイドが呟いた。
    「綺麗ですね。無事にこうやって見られて良かったです」
    「ほんと綺麗だよう! 来てよかったんだよう!」
     空を見上げながら恋羽は楽しそうに笑みを浮かべ、今度は浴衣も着てみたいなと迪琉が満面の笑顔で同じように花火を見る。
    「せめて大人しく祭りに参加してくれるなら、少しはお勧めの屋台等を案内もできたのに……」
    「イフリートもこうしてのんびり花火を楽しめればよかったんだがな」
     煉が屋台で買った串焼きを口にする。柚琉もその横で花火を見ながら同じように串焼きを持っていた。
    「ああ! 美味しそうだね。どこで売ってたの?」
     そんな2人を見てライアが声をかけると、他の仲間達も一緒に屋台を見て回る事になる。
    「――綺麗」
     一番後ろを歩くレイネがぽつりと感嘆の声を漏らす。それは花火の音に掻き消され、雑踏の中へと消え去った。
     夜空に咲く花と同じように、地上の人々にも花のような笑顔が咲き誇っていた。

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年8月10日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 1
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