ラブリーメイド格闘伝説!

    作者:雪神あゆた

     高い身長。並の男を上回る筋力。格闘技もかじってる。それが美佳子。
     友人は美佳子をカッコいい、頼りになる、強そう、とほめてくれる。
     美佳子も友人達の期待にこたえねば、と日々の訓練を欠かさない。
     今も、自室で、筋トレに励んでいた。
     ヒンズースクワットをしていた美佳子はふと動きを止める。
    「……ん? クローゼットが……」
     クローゼットの戸が開きっぱなしだ。中には見知らぬ服が入っている。
     美佳子は、クローゼットに近づいていく。
     入っていたのは、メイド服。
    「買った覚えないけど……でも……」
     何かに取りつかれるように、着替え始める美佳子。
    「……この服かわいい! メイド最高! ビバ、メイド服!!」
     鏡の前で一回転。
    「強い私が、メイド服を着たら、つよ可愛い? 最強じゃない?! ふふふ、ラブリーメイド格闘伝説はここからはじまるのよ!」
     
     学園の教室で。
    「ラブリーメイド格闘伝説?」
     五十嵐・姫子は目を丸くしていた。
     ごほん。咳払いして、灼滅者たちに説明を始める。
    「一般人の女の子が、不思議なメイド服を着てしまい、強化一般人になってしまいました」
     名前は、美佳子。中学三年。長身、少女にしては筋肉質。周りからは、頼りになるカッコいい姐御として認識されている。
     そんな彼女が、不思議なメイド服を着てしまい、力を手に入れた。
    「今の彼女は、町中を歩き、メイド服の感想を聞いて回っています。そして同好の士を強化一般人にし、逆にメイド嫌いな人を攻撃しようとしています」
     現在は人を殺してはいないが、放置しておけばどうなるか分からない。
    「まずは高知市のある町まで赴いて下さい。
     みなさんが彼女と戦うのに適した場所は――ある児童公園の中です。時間は午後二時」
     その時間に公園を訪れれば、滑り台の上に立ち、メイド服の魅力を語る美佳子に遭遇できる。
     滑り台の周囲には、強化一般人になった小学生が六名いる。
    「美佳子さんは戦闘になれば、閃光百烈拳やオーラキャノンに相当する技を使ってきます。
     また子供たちは、手加減攻撃に相当する技で灼滅者に襲い掛かってきます」
     美佳子達は強すぎはしないが、強化されてる。油断はするべきではない 
    「今の美佳子さんたちはメイド服が大好きになっています」
     メイドを褒めたり、メイド服を着て行くことで、油断を誘えるかもしれない。
    「油断を誘う為に、力いっぱい褒めてみたり、逆に皆さんのメイドっぷりを披露してもいいかもしれませんね!」
     なお、戦闘で美佳子を攻撃すれば、ダメージはメイド服にいくようだ。ダメージを与えるたびにメイド服が傷つく。服が原形をとどめないほど傷つければ、美佳子も意識を失い、力をなくす。
     子供たちも美佳子が意識を失えば、おなじように意識を失う。
    「つまり、美佳子さんを攻撃しメイド服を破けば、美佳子さん達は元に戻ります。
     でも……美佳子さんたちが目を覚ました時、美佳子さんは服がボロボロで、見知らぬ人たち――つまり灼滅者の皆さんがいるわけですから、うまくごまかす必要があるでしょうね」
     
     説明を終えると、姫子は信頼をこめた眼で皆を見送る。
     教室を出ようとする灼滅者――あなた達へ言葉をかけた。
    「では、皆さん、美佳子さんのこと、よろしくお願いしますね!」


    参加者
    ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)
    久瑠瀬・撫子(華蝶封月・d01168)
    神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914)
    一橋・聖(空っぽの仮面・d02156)
    八塚・慈雨(雨音・d03820)
    桜庭・理彩(闇の奥に・d03959)
    綾木・祇翠(紅焔の風雲・d05886)
    シャルロッテ・クラウン(残念な海賊きゃぷてんくらうん・d12345)

    ■リプレイ

    ●褒め倒し
     昼の公園。滑り台の上に立つのは、メイド服を着た少女。息を吸い込み、滑り台を囲む子供たちに呼びかけている。
    「みんな、この世で一番可愛いのはー?」
    「めいどふくー」
     返ってきた言葉に、少女――美佳子は耳に手を当てて、聞こえないよ、とアピール。
    「声が小さいよぉ? もっと大きな声で! さぁ、一番可愛いのは――?」
     灼滅者が公園にやってきたのは、まさにその瞬間だった。
     綾木・祇翠(紅焔の風雲・d05886)は爪先だちで一回転。メイド服の裾とポニーテールを揺らしながら名乗る。
    「爆砕メイド、ミドリちゃん参上♪」
     固まる美佳子。
     久瑠瀬・撫子(華蝶封月・d01168)は丁寧にお辞儀をし、頭をあげ微笑みかけた。
    「素敵なメイド服ですね?」
     撫子は、大正時代の女中を想わせる、和風メイド姿。
     神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914)も青と白のメイド服を着用していた。
    「アンタもメイドなのね。同じメイド服同士一緒に話をしてみない? 降りてきてくれると嬉しいな?」
     明日等はどう? と首を傾ける。
     美佳子は誘いに乗る。滑り台をつーと滑って地上へ。
    「メイド服を着ている子も結構いるのね! 素晴らしい! メイド服バンザイ! ……ってあれ?」
     美佳子はシャルロッテ・クラウン(残念な海賊きゃぷてんくらうん・d12345)を見て、瞬き。
     シャルロッテが着ているのはメイド服風……スクール水着。頭にはホワイトプリムののった海賊帽。
    「あたいのあいでんててーは『みずぎ』! だから……これがあたいの『めーどふく』だぁあああっ」
     胸を張る。
    「アイデンティティがメイド服……深い!」
     美佳子は目を見張る。
     八塚・慈雨(雨音・d03820)は穏やかに話しかけた。
    「メイド服って聞いただけでドキっとしますが、実際に見ると……とてもかわいいと思います」
     声色もおっとりとしているが、少し照れくさそうでもある。
     桜庭・理彩(闇の奥に・d03959)は慈雨の話に頷いてみせる。
    「ええ……似合ってるんじゃないかしら。とってもかわいい衣装だと思うわ」
     理彩は顔を美佳子に向けながら、視線は微妙に相手から逸らしている。口調は棒読み。
     それでも美佳子は嬉しかったようだ。ありがと、と頬を赤らめる。
     一橋・聖(空っぽの仮面・d02156)は、ジャングルジムのてっぺんに立っていた。
    「もっと聞かせてよ、メイド服の魅力を。お願い」
    「メイド服の魅力? やっぱり、エプロンの部分が家事をします、お家を護りますっていう……」
     語りだす美佳子。話の途中で、聖は飛び下りた。封印解除し、エイティーンで変身。
     着地するなり成長した姿の聖は唇をチロっと舐める。
     ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)も
    「格闘メイドの真髄みせてもらうっす――殲具解放」
     封印を解いた。刀を構え、そして、美佳子めがけて突進。
    「ふぇ?!」
     美佳子は大慌てで構え、遅れて取り巻きの子供たちも戦闘姿勢を取る。

    ●子供たちにおやすみ
     ギィは美佳子の前に立つ。自分の身の丈ほどもある刀身を振り上げ、
    「この一撃を喰らうっすよ!」
     刃を美佳子に叩きつける! 手ごたえは十分。きゃあ、美佳子の口から悲鳴があがる。
    「や、やってくれるじゃないっ……でも、格闘のできるメイドはもっと強いんだからっ」
     ギィは腹部に強い衝撃を感じた。美佳子が体勢を立て直し、殴ってきたのだ。威力は弱くはない。
    「めいどふくーってすごいんだぞー」
    「そうだそうだ」
     子供たちも喚きながら、ギィに迫ろうとする
     撫子が子供達とギィの間に、割って入った。
    「わたくしがお相手しましょう。……悪い子にはお仕置きです」
     舞うように足を動かす。流れる濡烏色の髪。槍を回転させ、旋風輪! 子供たちを払い、突き、斬る!
     子供たちは標的を撫子へと変えた。数人が一斉に撫子に殴りかかる。
     その子供たちの拳、二発分を聖のビハインドのソウル・ペテルが受け止めた。
    「ぺテッちゃん、ナイスアシスト♪」
     聖はペテルを褒めつつ、激しい音楽に合わせるように艶めかしく踊る。踊る体から光を放ち、ペテルの傷を癒す。

     小人数で美佳子を押さえ、子供たちを倒していくのが灼滅者たちの戦術。
     美佳子は手下が傷つくことに、眉を寄せて苛立ちを見せる。
    「メイド服パワー、見せてあげるんだからーっ!」
     掌から光線を放つ。光線は明日等の胴を撃ち抜いた。
     明日等は痛みを堪え、ライフルの銃口を美佳子のメイド服へ向けた。
    「いい一撃ね。でも――メイド服は格闘には向かないわよ」
     引き金に宛がった指を動かし、ビームを放つ。明日等の狙いは正確。メイド服を傷つける。
    「ん、もーっ!」
     怒り心頭の美佳子。慈雨は戦闘前よりも明るい口調で話しかける。
    「動いて翻るスカート姿がとても可憐です」
    「え? そうかな?」
     慈雨の称賛に、美佳子の顔がほころんだ。集中が途切れた。
     慈雨はその隙を逃さず、防護符を投げ明日等の体力を回復させる。
     一方で、ビハインドの晴と、明日等のライドキャリバーは、主を援護するべく、動いている。子供たちに、晴が霊障波を浴びせ、ライドキャリバーは機銃掃射。
     一瞬、怯む子供たち。理彩はすかさず『心壊』の先端を子供の一人に向け、
    「手加減はしないわ。……落ちなさい」
     暗き想念を弾丸に変えて撃つ! 弾丸を子供の額にぶつけた。理彩の想念の力が、子供を蝕む。
     その子供の背後を、シャルロッテが取った。
    「やっぱがきあいてにほんきは、おとなげねーしな」
     シャルロッテは子供の後頭部を巨大なマストで打つ。加減した打撃で意識を奪った。
     祇翠は子供の一人と向き合っていた。
     子供の拳が祇翠の腹に突き刺さるが、祇翠はほんの少しも怯まない。
    「子供でありながら、筋は決して悪くはない……だが、実戦経験はまだまだだ」
     炎を腕に宿し、正拳突き! 拳は直撃し、子供を吹き飛ばす!

    ●VSらぶりーメイド格闘伝説
     そして――灼滅者は首尾よく子供たちを倒すことに成功した。残りは、美佳子一人。
     前衛の者たちに囲まれてなお、美佳子はくじけていない。
    「メイド服最強伝説は始まったばかり、まだ終わらないんだからっ」
     美佳子の拳が祇翠の顔面を強打。
     足元がふらつくが、祇翠は踏みとどまった。
    「避けず、退かず、倒れない。……お前に敬意を払い、真っ向勝負で終わりにしてやるぜ」
     凛とした声。
     祇翠は左拳で美佳子の腹を打ち、さらに右拳で美佳子の顎を下から上に殴打。閃光百裂拳!
     慈雨はよろめく彼女に話しかける。
    「可愛くて強いメイドさんも素敵だと思いますけど……でも、戦わずに笑顔を浮かべているだけでも、とても素敵ですよ?」
    「戦わなくても素敵……そ、そうかな? いやでも、いま、戦ってる最中だしっ……って、きゃあ!?」
     慈雨の言葉に反応したタイミングで、晴が美佳子の背後に回り込む。霊撃を実行。
     さらに慈雨も結界で美佳子の動きを封じた。
     ギィが地面を蹴った。高く跳び上がる。『剝守割砕』の刀身に日光が当たる。
    「自分は、メイド服は機能的で戦闘にも有効、と思うっす。――でも、服に着られているあなたは、滑稽なだけっす!」
     着地と同時に、刃を相手の肩へ振り落とす!
     服の所々に傷を作りながら、怒りを目に浮かべる美佳子。
     理彩は、首を左右に振った。
    「何をどう間違ったら、こんなことになるのか……淫魔は眷属までデタラメね」
     漆黒の髪を揺らしつつ美佳子の懐に潜り込んだ。理彩は瞳を細め、拳を美佳子へ突き出した。ただの殴打ではなく、トラウナックル。美佳子を幻で襲う。額に汗を浮かべる美佳子。

     灼滅者たちの攻撃は着実に、メイド服に傷を増やしていく。
     それでも抗い続ける美佳子。
    「……メイド服、もっと私に力を貸してっ」
     聖はそんな彼女を目を細めて見やる。
    「ほんとにメイド服が大事なのね……で、そんなメイド服を、今から破っちゃうワケだけど♪」
     弾んだ声で言うとしなやかに腕を振る。聖が手に持つサイキックソードが揺らめき、光の刃を放出。同じタイミングでペテルも霊障波を放った。
     はたして、聖の刃は服に大きな切れ目を入れる。
    「うう……傷だらけ……でも、メイド服の性能を引き出せば、大逆転もできるはずっ」
     喚きながら突進してくる美佳子。
     シャルロッテは拳を受けてしまう。吹き飛ばされ、地面に激突。が、シャルロッテはにやりと笑った。
    「おめーさめのえさ……はまずいんだっけか。ふくだけ、さめのえさな!」
     倒れたシャルロッテの影が変化する。影はサメの形になると、美佳子の服のスカート部分をかじる。
    「や、やめなさいよっ」
     シャルロッテの攻撃に、完全に気を取られた美佳子。
     彼女の前に、撫子が立つ。
    「一度破れたとしても……メイド服が好きなら、またいつでも着ることはできるでしょう」
     撫子の周囲には火の粉が花びらのように、ひらひら舞う。撫子の腕には炎。腕と槍を舞うように動かしながら――レ―ヴァンテイン。
     美佳子は炎上した。なお反撃するべく、美佳子は腕を伸ばすが。
     鈍い音がして美佳子は仰向けに倒れた。ライドキャリバーが突撃し、彼女に体当たりしたのだ。
     明日等がオーラを輝かせ――そして気の塊を美佳子に投げつける。
    「悲劇はここで食い止めさせてもらうわ」
     気が美佳子に命中し――メイド服を完全に破壊した。

    ●歩いていく彼女
     美佳子は意識を失っている。メイド服が破れ、肌の大部分が露わになっていた。
     聖は肌を見て、満足そうに頷いている。
    「いい光景ね♪ うん、本当にいい光景♪」
     理彩は聖を見て、こほんと咳払い。ギィに顔を向けた。
    「吸血捕食で記憶を曖昧にするんだったわね……お願いできるかしら?」
     理彩が真面目な口調で言うと、ギィは親指を立てる。
    「まかせてほしいっす!」
     美佳子の肌に口を近づけ、吸血。ギィは嬉しそうに力を使う。彼女の記憶を曖昧にしていく。
     血を吸われる美佳子を、撫子は戦闘時とは異なる柔らかい顔で見ていた。
    「これは全て夢幻。目覚めたら日常です。
     ――さあ、皆さん。意識を失っている間に、服を着替えさせましょう。着替えは……」
     仲間に着替えはないかと問う、撫子。
     シャルロッテが胸をぽんと叩く。
    「まかせろ! あたいのとっときの『おたから』もってきたし!」
     取り出したのは、紺色の――スクール水着。仲間の数人が固まった。
     数秒後、明日等はゆっくりと口を開いた。
    「……せめてこっちにしましょう」
     明日等が取り出したのはメイド服。
     灼滅者の女性陣は吸血され終わった美佳子をなんとか着替えさせ、意識を失った子供たちも安全な場所に運び終える。
     やがて美佳子は目を覚ます。記憶は曖昧になっているらしく、きょろきょろと辺りを見回した。
     祇翠は通りすがりを装って、声をかける。
    「さっきまで倒れていたようだが、大丈夫か? 歩けるか? 無理そうなら、手を貸すぜ」
     祇翠の声は優しい。美佳子は、大丈夫です、でも親切にありがとうございます。そういうと、立ちあがり、頭を深々と下げた。
     やがて、一人で歩きだす美佳子。
     慈雨は彼女の背中を見ながら、そっと呟いた。
    「メイド服を着たあなたは、本当にかわいいですよ……」
     そして、物思いにふけるような顔をする。
     他の者も、美佳子の背中を見る。自分達が守った彼女の背中を。背は彼女の自宅に向かい、徐々に小さくなっていく。

    作者:雪神あゆた 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年8月15日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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