臨海学校～夏の海とスイカ割り

■リプレイ

●逃れ得ぬ運命なんて思いたくないから
「海だー！　六六六だー！　犯人探しだー！」
　裏方・クロエ（双塔のマギカ・d02109）の視界に煌めくのは、誰がどう見ても夏の海だった。
「海っていいッスよね！　広い海、水着の可愛い女の子……眼福眼福ッス」
　笑みを浮かべて力説した宮村・和巳（傷付けたくない殺人鬼・d03908）が眺める先には、実際に波打ち際で遊ぶ水着姿の少女達が居て。
「えっ」
「いや、俺、男ッスから……別に女の子に興味あるのは変じゃないッスよ……？」
「めいっぱい泳いで、めいっぱい遊んで、めいっぱい楽しんじゃいましょう」
　夏の海を楽しむ気漫々の仲間が訝しげな声に返した弁解をスルーし、古樽・茉莉（百花に咲く華・d02219）は控えめに頷いた。もちろん、その前に解決しなければ行けない事件があるのだけれど。
「……あ、その……HKT660のことも忘れてない、です、よ？」
（「……予想よりはマシかな……依頼で遊ぶ余裕すらないって思ってたし」）
　微妙に自信なさげな声を聞きつつ、八葉・文（夜の闇に潜む一撃・d12377）は賑やかなビーチの入り口で、海水浴客達の方へと目を向ける。
「……遊ぶ時間の為にも、しっかり依頼、こなさないと、ね」
　端から見ると暑くないかと心配されそうな黒いローブ姿のまま、足は太陽に熱された砂を噛んで。
「平和そのものなのにね」
　ポツリと呟く神夜・明日等（火撃のアスラ・d01914）も知っている、この海水浴場で事件が起こることを。
「だからこそ……」
　紳士としては今回の凶事見逃せないね、と心の中で続けながら、村瀬・一樹（超高校級の似非紳士・d04275）が視線を向けた先にいたのは、鳥井・和馬（小学生ファイアブラッド・dn0046）。
「そういえば、今回の面子……僕と、和馬と、和巳でトリプルカズだね」
「……あ、うん」
「それにしても和馬君、女の子用の可愛い水着ッスねぇ……」
　微妙に約一名の反応が弱かったのは、和巳のかけた声が物語る。
「それにしても和馬……今日の水着、よく似合ってるよ。流石武蔵坂の淑女方が真剣に考えてくれただけのことはあるね……」
　一樹の言はフォローになってるのか、いないのか。
「弄られるのは愛されているが故。ならばそれに応え、このスクール水着を……！」
　とか言いつつ冗談半分に水着を薦めてきた高倉・光（人の身体に羅刹の心・d11205）は男の娘なのだが、それはそれ。
「では、ここからは別行動ですね」
　手分けして事件を起こす男を捜す為、光達と携帯電話の番号を交換した龍海・光理（きんいろこねこ・d00500）は仲間達に背を向けてゆっくりと歩き出す。
（「とりあえず、最初の惨劇が起こる予定の海の家に行ってみましょう」）
　惨劇の開始場所である以上、男は必ず現れるのだから。

●張り込みます
「解決は、海の家周辺等の探索から始まります」
　ナレーションっぽい呟きを入れたクロエは、旅人の外套で姿を隠しながら実際に海の家からそれ程離れていない場所を歩いていた。
「……はむはむ。このゆで加減、絶妙です」
　視界の中には、砂漠迷彩柄のビキニを着てトウモロコシを囓っている茉莉がいる。
「こっちではなく向こうから来るのかも知れませんね」
　後方を振り返って、光理は海の家を右手側に置きつつ歩き出した。
「……連絡は無し、ね」
　少し視線を横にずらせば、相変わらずのローブ姿で時折携帯に目を落とす文。
「……俺が着てるのは男用ッスから。ほら、下ズボンでしょ？」
「え？　……じゃあそれは？」
「胸のコレは……なんかこう……心臓を護るための防具的なアレであって」
　文の向こう側には、見知らぬ一般人に話しかけられて何やら必死に女装じゃないアピールをする和巳の姿。
「決して姉貴に『お金が無いから私のお古着てね！　着ないと……』って脅さ」
「あー、じゃあ普通のカップルだったのね」
「「え゛」」
　男の子を主張したせいで和馬と恋人同士とかとんでもない勘違いをされ、二人揃って固まっていたが、いくらばらけても最初の事件現場となる以上灼滅者達が集まってしまうのは仕方ない。嫌な瞬間を仲間に見られたことも、不幸な事故だったのだ。
「や、違うよ？　オイラ」
「そ、そうッスよ！　俺達はそんなんじゃないッス！」
　だから、クロエも和馬っちクオリティーな展開を気にしない。気にしていて凶行を防げなかったら本末転倒でもあるからこそ周辺に気を配り。
「ん？」
「これは」
（「予想通りというべきかやっぱり事件が起きてしまうみたいね……」）
　近くにいる仲間達が揃って携帯に目をやった時点で、明日等は確信した。おそらく誰かが問題の男を見つけたのだ。
「人も増えて来まし――」
　発見したのは、光が最初で次が一樹だった。ビーチボールを抱えた少女と並んで歩く少年のカップルと家族連れに挟まれる形で歩いていた光の目にバットを持った男が止まり。
「あれがそうか。紳士としては、ここにいる淑女は一人たりとも、傷つけさせやしない……！」
　連絡を受けた一樹が波打ち際で振り返り、光と問題の男の姿を認めて歩き出す。
「あん？」
「やあ。そこのイカした貴方。ちょっと個人的に話ししたいんだけどいいかな？　君からは、ちょっと特別な感じがするよ」
「おぅ、いいぜぇ？」
　一樹に声をかけられた男は、割とあっさり誘いに応じた。ラブフェロモンが効いていたのか、それともバットで殴り倒す手頃な獲物が自分からやって来たと思ったのかは解らない。
「ふむ……これだけの要素があれば迷探偵クロエならば即座に解決です」
「……力づく、したいです」
　姿を隠したまま、ノコノコおびき出された男の姿を見つめるのは、クロエと茉莉。
「上手くやってくれると良いッスけど……あ、この先、俺の友達が着替えてるから入っちゃ駄目ッス！」
　一人一般人除けに残った和巳は、人の気配に慌てて向き直ると仲間達の方へと向かおうとした水着姿のお姉さんにお引き取りを願いつつも、情報収集が気になっていた。
「お待たせ」
「あれ、もう終わったッスか？」
　だからこそ、仲間達があっさり戻ってきた事には驚いたのだが。
「めぼしい情報は得られませんでした。だからはるひさんも詳しく調べるのは戻ってからって言っていたのかもしれません」
「……『プラチナチケット』も使っては見たんだけど、ね」
　黒いローブを脱ぎつつ、文は頭を振ってみせる。
「暑さのあまり暴れたくなったのかしら？」
　と明日等は言ってみたものの、カードに操られての犯行であることは知っていて。
「ともあれ、こちらは一件落着ですね」
「後は海の家にでも行き倒れとして担ぎ込んでおきますかね」
　事件の方はこうして解決を見たのだった。

●運命
「一枚撮ってもいいですか？」
「えっ、俺ッスか？」
　光理がそう許可をとったのは、この場に赴く前から生け贄を運命づけられていた誰かではなく、和巳にだった。
「ふはははーーー和馬っちの写真はボクが撮ろうではないか」
「え゛」
　ちなみに、生け贄さんについては、高笑いしつつカメラを手にしたクロエの前で顔を引きつらせている。
「……何時も座本さんにお世話になってるし、一枚位撮られたら？」
「や、お世話にはなってるけどさ……」
　言い添える文の反応を見るに、折れるのは時間の問題だろう。
「……じゃあこっちに変える？　ここに普通の水着もあるし」
「え、普通のあるの？」
「……その姿が気に入ってるなら止めないよ」
「違うから、違うよ？　その水着――」
　文に出された助け船に食い付き、翻弄されているところを見ると、撮影は普通の水着姿になるかもしれなかったけれど。
「はるひさんに送るのは、これぐらいでいいですね」
「何カットも必要ですし保存用、布教用とベストショット……だいたいこれで半分です」
　この時点で撮影済みだったり何枚か取り終えていた仲間がいたことを和馬は知らなかった。
「じゃ、着替えてくるね」
　だからか、嫌なことはさっさと忘れてしまおうとばかりに着替えに行き。
「ただいま。ところでさ、オイラの水着どっちもサイズぴったりだったんだけど、これって……」
　素朴な疑問を口にした和馬から、光と文は示しをあわせたかの如く顔を逸らす。
「えーと、もしもーし？」
　なぜ持ってきててサイズも合うのかには答えない、答えなかった。
（「話を変えます？」）
（「……そうね」）
　二人の目と目が会話し。
「今年が特に暑いしかき氷でも食べたいわね」
「休憩か、良いですね」
「……いいかも」
「え、オイラまたスルー？！」
　渡りに船とばかりに明日等の言にのってみた二人にスルーされた少年が愕然とする。
「……一方で弄りたくなるのもまた人情、許せ」
　すっかり遊ばれている誰かを光は拝んでみるが。
「哀れ和馬君……運命からは逃れられないのであった……！」
　現実は割と非情なのだ。
「せっかく来たのだものね、泳いでくるのも悪くはないかな」
「そうですね、めいっぱい泳いで、めいっぱい遊んで――」
　一樹の言葉に頷いた茉莉は、砂漠迷彩柄のビキニに包み波打ち際へと歩き出す。どことなく既に一仕事終えた後のような顔だったのは、きっと気のせいだと思う。
「べ、別に泳げないわけじゃないんスからね！　海でべとべとになるのが嫌なだけなんスよ！」
　誰に向かってかツンデレっぽい弁解をしていた和巳は、海に向かう仲間達の背を見送り、その一人を呼び止める。
「和馬君は泳げるんスか？」
「え？　うん。っていうか、そっちにいてああいう風になると、ダメージ大きいし」
「あー」
　引きつった顔で和馬が示す方を見て、和巳がしきりに頷く。
「悪いけれど、友達と来てるの」
「あぁ、終わった……俺の、夏」
　二人の視線の先では、明日等に振られた一般人らしき青年ががっくりと項垂れて去っていくところだった。

●すいかばっしんぐ
「スイカ割り大会があるならば出ねばなるまい」
　ぐっと拳を握ったクロエの前には人の列があった。
「……参加したら熱くなってしまいそうですし、見て楽しむに止めようかと」
　そう言って光は列に並ばず受付の行列に加わった仲間達を少し遠巻きに眺める。
「一度やってみたかったんスよね……」
「西瓜割り、覚えてる限りではやった事無いから……楽しみ」
　和巳の後ろに並んだ緋織は、サマードレス姿でじっと順番を待ち。参加登録待ちの列はゆっくり動いて行く。
「お待たせしました。予選Ａ組。早く割れた選手から勝ち抜けです」
　登録完了から競技開始までにかかった時間は、一時間ほど。待ちわびた参加者を包むのは、波の音をかき消すかのように周囲から上がる歓声や笑い声とスピーカーから漏れ出すアナウンス。
「ビーチのお姉さん達！　俺のカッコいい様を見て！」
　太一の声に他人のフリをした灼滅者はきっと０じゃないと思われる。
「では、十回回ってからスイカを割って下さい、はじめッ」
　もっとも、スイカ割りが始まってもスルーしたままと言うことはなかったが。
「えーと、どっちだ？」
「ちょっとみ」
　指示を求める声に緋織が口を開きかければ。
「kneeldown！　Apologizetotheworld！」
「えっ」
　跪いて世界に向けてごめんなさいしてください、とか茉莉からとんでもない指示が飛び出して。
「ばっかおめー褒め過ぎだって！　が！　曖昧で分っかんねー！？　ライトオアレフト！？」
「み、右……だと、思う」
　まるでかみ合ってない会話に混乱して若干自信喪失しつつ緋織はナビゲート。
「おりゃっ！」
　振り下ろされたバッドは盛大に砂を叩き付け。
「では、予選Ｂ組」
「さぁ、ばっちこーい！」
「……お互い頑張ろう」
　和巳がバットを握りしめ叫ぶ両脇を文、クロエが挟み込む。
「ステイ、ライダウン」
　どこからかまるで犬にするような指示が聞こえてきたのは、きっと気のせいだろう。
「ひ、もう少し左……」
「……頼むから、間違えて僕のところに来るなよ？　来てその棒を振り下ろさないでくれよ？」
　そして、何故一樹が砂に埋まっているのか。スイカ割り大会には謎が多い。
「躾がなってねーな……」
「ていっ」
　すっぽ抜けて飛んでくる棒。
「ってちょ、危な！？」
「うわわっ」
　地面に突き刺さったそれを転がって避けた太一、驚いてつんのめる和巳。
「……え、え？　……あれ？」
　周りの声に事故を恐れて力を緩めてしまった文のスイカはいい音を鳴らしたものの割れるに至らず。
「……うわあ、来た、来た、来たあ！」
「い、痛い……スイカ割れてる……？」
　どこかで上がる悲鳴と顔面を果汁まみれにしつつむくりと起きあがる誰か。
「おおっと、これはハプニング続出だぁ！」
　一歩間違うと凄惨な犯行現場に、どよめく群衆。
「スイカ割りもいいけれど一緒に冷えたスイカを食べるのもいいわよね」
　明日等は切り分けられたスイカを手に、騒ぎの中心から目をそらし。
「さぁ、いよいよ決勝戦です」
　その後勝ち進んだ灼滅者が居たのは、偶然か、はたまた。
「止まって左へター……左へ曲がって。っ、ちょい前出すぎだ！」
　太一の声を頼りに緋織は進む。
「こっち？」
「もう少しさがって下さい」
　すかさず茉莉が太一の後を継ぎ。
「今だ！　バッ……野球用棒状道具を振りかぶれ！」
「誰もいませんね？　えいっ」
　一声かけてから緋織がバットを振り下ろす。
「「イエーイ！」」
　スイカが割れた直後、健闘を讃え合うようにぶつかった手が打ち鳴らされて。
「夕永はナイスだ！　残念さも微払拭！　古樽はいっぺんしっかりし」
　ハイタッチを終えて振り返ろうとした太一の肩に置かれた手は誰の物だったか。
「関節技……したいです」
　歓声とは違う絶叫が会場に響いたかもしれない。
「塩分補給は確かに大事だけど、この方が甘みが引き立つからね
　何時の間に砂から抜け出したのか謎な一樹が自分のスイカに塩をふる。
「さすが、夕永さんは相良さんと違ってすごいです」
「古樽さんはお疲れ様だし大きいのどうぞ」
　決勝戦が終われば、絶叫の主をスルーして、割ったスイカを処分する一時。
「普段から男らしさを気にかけてりゃ、女扱いも徐々に減ってくんじゃね？」
　興奮冷めやらぬスイカ割り会場の片隅で、光は結局女物の水着を着せられた少年へ声を投げる。
「男らしさかぁ」
　心にはきっと届いたのだろう。呟きを半ば歓声と波音にかき消された少年は頭を下げて。
「このちょっぴり甘い香りが、夏に合うと思うんだ」
　やって来た一樹に西瓜の香りがする麦茶を振る舞われながら、二人は会場の中央へと視線を戻す。
「次は入賞者の――」
　丁度、壇上に登る灼滅者の姿をクロエがカメラで追っている所だった。
　

作者：聖山葵	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2013年8月23日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 8
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